質量 M,半径 R の一様で薄い球殻が,その中心から距離 l の位置 にある質量 m の質点に及ぼす万有引力を次の2つの場合について 求めよ. (1)質点が球殻の外部にある場合 (2)質点が球殻の内部にある場合 Q の位置にある単位質量(=1)の微小部分から,P にある質量 m の質点に働く万有引力は, G m r2 この力のうち OP に垂直な成分は,Q の反対側にある Q’ からの万有引力の OP に垂直な成分に相殺され るので,実際に考えるべき力は,万有引力の OP 方向成分である Gm l − R cos θ r r2 のみ.まず,Q と Q’ を通る微小な幅の円環帯(グレーの部分)から受ける万有引力を考える.薄い球殻では 厚みを無視できるので,球殻の単位面積あたりの質量は から,円環帯の質量は M ,円環帯の面積は 2πR sin θ × Rdθ である 4πR 2 M sin θdθ となり,円環帯から受ける万有引力は, 2 Gm l − R cos θ M sin θdθ GMm sin θ (l − R cos θ ) dθ × = r 2 r2 2r 3 となる.球殻全体からの引力はこれを θ = 0 → π まで積分(足し合わせる)すればよいから, F= π GMm sin θ (l − R cos θ ) 0 2r 3 ∫ dθ ・・・① 余弦定理より, r 2 = R 2 + l 2 − 2 Rl cos θ であるから, F= GMm 2 ∫ sin θ (l − R cos θ ) π 0 (R 2 + l − 2 Rl cos θ 2 ここで, x = l − R cos θ とおくと, sin θ = 1 dx R dθ ) 3 2 dθ ・・・② dx = R sin θ であり, dθ および R cos θ = l − x を②に代入して F= GMm 2R ∫ l+R l−R x (R 2 − l + 2lx 2 ) 3 2 dx ・・・③ ③は部分積分を用いることによって計算できる.すなわち, ∫ ( l+R l−R x R − l + 2lx 2 2 ) − 3 2 1 dx = x − R 2 − l 2 + 2lx l ( x = − R 2 − l 2 + 2lx l ( 第1項 = − 第2項 = l+R l (l + R )2 l 2 1 (l + R )2 − + l−R l (l − R )2 l 2 = 1 (l − R )2 ) − ) − 1 2 1 2 l+R l+R 1 2 2 − ∫l − R − R − l + 2lx l l − R l+R ( ) − 1 2 dx l+R 1 1 2 2 2 ④ 2 + − + R l lx l 2 l − R l −R ( ) 1 1 l−R =− + l l l−R l+R l−R − 2 l2 l l ≥ R のとき,つまり質点 m が球殻の外部にあるとき, l−R =l−R ゆえ, ④ = 2R となり,③より, l2 F= GMm 2 R Mm =G 2 2 2R l l となる.つまり,球殻外部の点に作用する万有引力は,球殻中心に全質量が集まった場合と等しい. 一方, l < R のとき,つまり質点 m が球殻の内部にあるときは, l − R = R−l ゆえ,④=0 となり, F =0 となる.つまり,球殻内部の点には引力は作用しない. 独力で解けなくても気にする必要はありません(粘ればできそうな感じがしませんか?).しかし,大きさをもった 物体の重力を考える際に,質量が中心に集中していると考えてよいのは,このような数学的裏づけがあるため であることは知っておく必要があります. 3.地球内部にある物体の運動について考える. (1)中心から距離 r での万有引力は,半径 r の球内の質量が中心に集中している場合と同様である(半径 r の 球の外側に分布する質量からの寄与は実質ゼロとなる).地球内部の密度が一様である仮定して,万有引 力による加速度を求めよ.必要ならば,地球の半径,地表での重力加速度をそれぞれ R,g とせよ. (2)地表の2点を結ぶ滑らかな直線状のトンネルの一端から静かに滑り始めた物体が他端に達するまでの時 間を求めよ. (1)半径 r の位置では,半径 r の球内部の質量がすべて中心に集中していると考えればよいので, m mg (r ) = G 2 r 3 r M R 3 GM r r GM r g (r ) = 2 = 2 = g R R R r R (2)図のように x 軸をとって考える.物体の質量を m とすると,運動方程式は mx = −mg (r ) cos θ my = N − mg (r ) sin θ = 0 θ x 0 r mg(r) ところで, cos θ = y x r ゆえ, mx = −mg (r ) cos θ = −mg (r ) x r また,(1)の結果を用いると, mx = −m mg r x x g =− R R r したがって, x = − g x ここで, ω = R g とおくと, R x = −ω 2 x これは,一般に x(t ) = A sin (ωt + φ ) の形の解をもつ.一端から滑り始めて,他端に到達するのに要する時間は2分の1周期であるから, R 1 π T = =π g 2 ω ※問題では,トンネルが地球中心を通るとはいっていないので,中心を通る特殊な場合だけを考えてはいけな い.上のように考えれば,一般的に扱える.
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