第8回 ○仕事とエネルギー 力 F の作用を受けながら運動する質点が,図の軌道に沿って A 点から B 点まで移動したとする。 軌道上を運動する質点の運動方程式: m dv =F dt (1) の両辺それぞれと速度ベクトル v ( ≡ dr dt ) との内積を, A 点を通過する時間から B 点を通過する時間 まで積分すると,次式が得られる。 B K(B) − K(A) = ∫ F ⋅ dr (2) A ここで K(A) と K(B) は,それぞれ A 点と B 点における質点の運動エネルギーであり,右辺に含まれる F ⋅ dr = Fx dx + Fy dy + Fz dz (3) は質点が軌道上の r の位置から dr の微小変位をする間に力 F が質点にする仕事である。 ここで, ∂U ∂U ∂U i+ j+ k= −Fx i − Fy j − Fz k = −F (4) ∂y ∂z ∂x と表せる関数 U(x, y, z) (ポテンシャルまたはポテンシャル関数と呼ぶ)が存在するとき,この力は保存 力であるという。保存力に対しては ∫ B ⎛ ∂U B ∂U ∂U ⎞ F ⋅ dr = − ∫ ⎜ dx + dy + dz ⎟ = − ∫ dU = U(A) − U(B) A A ⎝ ∂x A ∂y ∂z ⎠ B (5) となり,質点が A 点から B 点まで移動する間に力がした仕事は, A 点におけるポテンシャルと B 点に おけるポテンシャルの差に等しくなる。 このとき,(2)式と(5)式から,次式が成り立つことがわかる。 K(A) + U(A) = K(B) + U(B) (6) 上式からわかるように, A 点と B 点において,運動エネルギーとポテンシャル(エネルギー)の和 が等しい。この和を力学的エネルギーと呼ぶ。 (6)式の関係は, B 点の代わりに軌道上の任意の点 C を選んでも,同じように成り立つから,質点 が軌道に沿って運動している間ずっと力学的エネルギーが一定値をとる(力学的エネルギーが保存され る)ことがわかる。すなわち,力学的エネルギーの一定値を E とすると K +U = E (7) である。また, A 点と B 点を通る閉じた経路を質点が一周する間に力がする仕事は !∫ F ⋅ dr = ∫ B A (1) F ⋅ dr + ∫ A B (2) F ⋅ dr = ∫ B A (1) F ⋅ dr − ∫ B A (2) F ⋅ dr = 0 (8) のようにゼロとなる。したがって,保存力のもとで軌道を一周すると質点の運動エネルギーとポテンシ ャルエネルギーのそれぞれの値が元にもどることがわかる。 ○ ポテンシャルの勾配 (4)式の左辺が表すベクトルを, ∇U または gradU で表し, U の「勾配」と呼ぶ。すなわち, gradU ≡ ∇U ≡ ∂U ∂U ∂U i+ j+ k ∂x ∂y ∂z (9) また,(10)式の演算子を一つのベクトルのように扱い「ナブラ」と呼ぶ。 ∇≡ ∂ ∂ ∂ i+ j+ k ∂x ∂y ∂z (10) 勾配は,秋学期に学習する電磁気学でも重要な役割を担う(ほかに「発散」と「回転」が登場する)。 ○ 保存力とポテンシャルの例 【 演 習 】 以下の保存力のとポテンシャル(関数)を求めなさい (2) ばねの弾性力( U = (1) 一様重力( U = mgz ) 1 2 mM k x ) (3)万有引力 ( U = −G ) 2 r ○エネルギー積分 単振動の解法2のように,(7) 式のエネルギー保存の関係を利用して運動の解を求めることができる。 直線運動の場合には, 2 m ⎛ dx ⎞ + U(x) = E 2 ⎜⎝ dt ⎟⎠ (7’) から,次式を計算すればよいことがわかる。 m x dx = ±t ∫ 2 x0 E -U(x) (11) 【 演 習 】 単振子の周期をエネルギー積分の方法を用い,次の手順で求 θ0 めなさい。 (1) 位置を表す変数として振り子のふれ角 θ を用いて一様重力のポテ ンシャルを表しなさい。ただし,簡単のため,最大ふれ角 θ 0 の位 l θ 置でポテンシャルがゼロとなるように定めなさい( E = 0 )。 U(θ ) = mgl (cos θ 0 − cos θ ) (12) (2) 質点の速さ v = ℓ(dθ dt) と(12)式を用いてエネルギー保存の式を表 m しなさい。 2 m l 2 ⎛ dθ ⎞ + mgl (cos θ 0 − cos θ ) = 0 2 ⎜⎝ dt ⎟⎠ (13) (3) (13)式を変形して(11)式に対応する式を求め, sin(θ 2) = k sin ϕ (ただし, k = sin(θ 0 2) )の関係が ある新たな変数 ϕ を用いて表しなさい。 t= ℓ g ∫ dϕ ϕ 1− k 2 sin 2 ϕ 0 (楕円積分) (14) (4) (14)式を利用して単振子の周期 T を表しなさい。 T =4 ℓ g ∫ π 2 0 dϕ 1− k 2 sin 2 ϕ (完全楕円積分) (15) (5) (15)式右辺の被積分関数を級数に展開して計算し,単振子の周期 T を表す近似式を求めなさい。最 大ふれ角 θ 0 として適当な大きさを与えて,微小振幅周期からのずれを計算しなさい。 T = 2π ℓ g ⎞ ⎛ k2 1+ +"⎟ ⎜⎝ 4 ⎠ (16) たとえば θ 0 = 10° のとき,約 0.2% 周期が長くなる。1 日につき約 2 分 40 秒の遅れに相当する。
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