●第 51 回日本人工臓器学会大会 Presidential Award 受賞レポート Follow-up report on the BIOTUBE of 6-year after implantation ─ Evaluation of the patency and morphological change by ultrasonography ─ * 1 京都府立医科大学心臓血管外科,* 2 国立循環器病研究センター研究所医工学材料研究室 渡辺 太治* 1, 2,山南 将志* 1, 2,水野 壮司* 2,神田 圭一* 1,夜久 均* 1, 中山 泰秀* 2 Taiji WATANABE, Masashi YAMANAMI, Takeshi MIZUNO, Keiichi KANDA, Hitoshi YAKU, Yasuhide NAKAYAMA 1. ために超音波検査も行った。超音波装置は Vivid E9(GE ヘ 目 的 ルスケア・ジャパン株式会社)を用いた。 人工物を生体内に埋入すると,生体防衛機構の働きによ り周囲を取り囲むようにカプセル状の組織が形成されるこ 3. とは古くから知られている 1),2) 。我々はこの現象を制御し, 結 果 ビーグル犬頸動脈への自家移植実験では,通常の血管外 患者が自分自身のための移植臓器を体内で作製する「生体 科手術手技を用いた吻合操作が可能であり,動脈グラフト 内組織形成技術(in body tissue architecture technology)」 として実際に移植可能であった(図 3A) 。移植後 5 年目の の開発を進めてきた。シリコン製の円柱基材を動物の皮下 血管造影写真では,バイオチューブの狭窄や瘤化は認めら に埋入することにより,自己組織のみから構成される結合 れず,良好な開存が認められた(図 3B)。6 年目に行った血 組織管が形成される(図 1)。これをバイオチューブと名付 管超音波検査(図 4)では,ドップラーにより血流測定を行 け,代用血管としての応用の可能性を追求してきた。 い狭窄の有無を確認したが,開存は良好で加速流速は認め これまでに直径 3 ∼ 5 mm のバイオチューブを作製し, られなかった。また壁性状の評価では,著明な内膜の肥厚 ウサギやイヌの頸動脈に自家移植を行った。ウサギにおい や不整・瘤化は認めなかった。超音波検査により,閉塞や ては,移植後 3ヵ月で生体動脈に近い階層組織構造(図 2) 瘤化の有無のみならず,狭窄の程度や壁性状の変化を非侵 が形成され,2 年を超えても維持されていた 3) 。今回ビー 襲的にかつ経時的に追跡できることが確認できた。 グル犬頸動脈への長期自家移植モデルにおけるバイオ チューブの評価を行った。 2. 4. まとめ バイオチューブは移植後 6 年経過しても狭窄や瘤化など 方 法 形態的な変性を認めなかった。移植後数ヶ月以内に生体動 ビーグル犬の皮下に直径 5 mm の円柱状シリコン基材を 脈に酷似した階層状の組織再生が誘導され,長期開存と耐 埋入し,1 ∼ 2ヶ月後に結合組織で被覆された基材を摘出し 久性が期待できる実践的な動脈再建用小口径代用血管とし た。シリコン基材を抜去してバイオチューブを得,頸動脈 て応用可能であることが確認された。 へ自家移植した。移植後 5 年目および 6 年目に,血管造影 で直接開存性を確認した他,壁性状の評価を合わせて行う 5. 独創性 本研究は自己の体内をバイオリアクターとして活用し, 代用血管を作製するものであり,莫大な費用と時間を要す ■著者連絡先 京都府立医科大学心臓血管外科 (〒 602-8566 京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶 井町 465) E-mail. [email protected] る複雑な細胞操作や細胞培養施設を用いることなく様々な 形やサイズのグラフトを容易・安全・経済的に作製するこ とを可能とした。バイオチューブは自家組織のみから構成 人工臓器 43 巻 1 号 2014 年 39 図 1 バイオチューブの作製 (A)結合組織で被覆された基材を摘出。 (B)周辺組織との癒着はほとんどなく摘出は容易。 図 2 ウサギ頸動脈へのバイオチューブ自家移植後 12 週目の階 層構造 (A)コラーゲンは生体血管と同様に,円周状の配向を示す。 (B)内皮細胞下の中膜に相当する層には紡錘状の SMA 陽性細胞が円周方向に 配列。 (C)内腔は紡錘状の細胞で完全に覆われ血流方向に配列。 (D)エラスチンの出現。 EVG, elastica van Gieson; SEM, scanning electron microscope; SMA, smooth muscle actin. 図 4 バイオチューブ移植後 6 年目の超音波検査所見 図 3 バイオチューブのビーグル犬への自家移植 バイオチューブ壁に著明な内膜の肥厚や不整は認められず,グラフト吻合部 前後での異常な流速の加速は認めない。 (A)移植直後の術中写真。 (B)移植後 5 年目の血管造影所見(黄色矢印は吻合部)。 されるため,拒絶反応がなく,組織適合性がよく,今後応 用の拡大が期待できる。生体の自然治癒力を最大限引き出 すことにより,早期治癒・迅速な内皮化による強力な抗血 栓性,さらに感染に対する強い抵抗性を持つ小口径代用血 管を高い再現性で形成する技術として,現在の代用血管が 抱える様々な問題点を克服するためのブレイクスルーとな 文 献 1) Sparks CH: Autogenous grafts made to order. Ann Thorac Surg 8: 104-13, 1969 2) PEIRCE EC 2nd: Autologous tissue tubes for aortic grafts in dogs. Surgery 33: 648-57, 1953 3) Watanabe T, Kanda K, Ishibashi-Ueda H, et al: Development of biotube vascular grafts incorporating cuf fs for easy implantation. J Artif Organs 10: 10-5, 2007 ることが期待できる。 本稿のすべての著者には規定された COI はない。 40 人工臓器 43 巻 1 号 2014 年
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