表面平滑性に着目したVaRTM成形プロセスの CFRP強度特性に与える影響 Effect of Surface Smoothness on Mechanical Properties of VaRTM CFRP ○ 平野 義鎭(JAXA/IAT), 原 栄一(JAST), 青木雄一郎, 永尾陽典, 八田博志(JAXA/IAT) Yoshiyasu Hirano, JAXA/IAT, Eichi Hara, JAST, Yuichiro Aoki, Yosuke Nagao, Hiroshi Hatta, JAXA/IAT 1. 緒 言 近年民間航空産業においての適用が急速に拡 大しつつあるCFRPは,従来の金属材料と比較し Resin inlet Caul plate Vacuum vent Media Vacuum bag Peal cloth Dry preform Sealant Tool て優れた機械的特性を持つ反面,製造コストは 図1 VaRTM成形概要 高く,コスト低減が主要な課題のひとつである. 表1 複合材の低コスト成形技術として,近年脱オ ートクレーブ成形による製造コスト低減が可能 なVaRTM成形法(Vacuum assisted Resin Transf er Molding)が着目され,航空宇宙機構造への適 用が検討されている.VaRTM成形では,製造コ 試験名 NHT NHC#1 NHC#2 OHC CAI 試験方法 試験規格 SACMA SRM 4R-94 NAL II法 NAL II法 NAL III法 SACMA SRM 2R-94 試験片種類 QI2s QI2s QI4s QI3s QI3s スト削減が期待される反面,低圧力環境(大気 圧)下で成形を行うため,成形プロセスの差異が 成形品質に大きく影響を与える.航空宇宙機構 造では安定した機械的特性が要求されるが,Va RTM成形では,その成形品質によって得られる 強度特性が大きく変化することが報告されてお り (1) ,成型品質の機械的特性に与える影響の定 量的な把握が要求される.本研究では特にVaR TM成形品の成形プロセスによって変化するバ ッグサイドの表面平滑性に着目し,機械的特性 に与える影響の実験的評価を実施した. 積層板の異なる表面平滑性を実現するために, バッグサイド表面へのSUS製パンチングメタル のCaul Plate(以下CP)挿入の有無による表面平 滑性制御を行った. 2.2. 強度試験 各試験に適用する試験規格および使用試験片 の概略を表1にまとめる.表中NHTは無孔引張, NHCは無孔圧縮, OHCは有孔圧縮, CAIは衝撃 後圧縮試験を表す.強度試験はCP挿入によるバ ッグサイド平滑性を改善したもの(以下CP)と, バッグサイド平滑性改善を実施しないもの(以 2. 実験方法 2.1 試験片 強度試験用試験片をVaRTM成形によって作 成する.ドライプリフォームの作成にはSAERT EX社製のUD基材V96069-00210を使用した.繊 下 CP無し)の2種類の試験片についてそれぞれ 実施した. 表1中の試験片種類QI2s, QI3s, QI4 sはそれぞれ積層構成 [45/0/-45/90] 2 s, [45/0/-45/9 0]3s, [45/0/-45/90]4 sの擬似等方性積層板を表す. 維には東レ社製T800SCを用い,ポリアミド製バ 3. 実験結果と考察 インダーを用いて繊維の配列を保持している. 3.1 表面平滑性さ測定 樹脂はナガセケムテックス社製エポキシ樹脂X NH6809を使用した.VaRTM成形の概要を図1に 示す.硬化条件は,大気圧環境炉内にて80℃-2 h,120℃-2hとした.試験片は全てVaRTM成形 で作成された板厚変化部を持つ600mm×1500m m積層板から切り出すことによって作成した. CP挿入の有無によって制御した積層板の表 面平滑性を,3次元形状計測装置(KEYENCE L K-080)によって評価した.測定結果を表2に示 す.CPを適用した場合は,CP無しの場合と比較 して標準偏差,変動係数ともに非常に小さくな っており,CPの適用が表面平滑性向上に大きく 寄与していることがわかる.また,標準偏差は 表3 強度試験結果[MPa] (Vf60%換算) 表2 表面平滑度測定結果 without with Caul Defference Caul Plate Plate % 平均板厚 標準偏差 変動係数 (mm) (×10-3mm) QI2s 3.27 80.70 2.46 4.89 101.05 2.07 CP無し QI3s QI4s 6.42 102.14 1.59 QI2s 3.37 10.48 0.31 CP有り QI3s 4.96 14.19 0.29 QI4s 6.66 13.16 0.20 NHT NHC(QI2s) NHC(QI4s) OHC CAI 959.70 479.22 481.01 272.71 294.90 1007.90 570.93 547.55 289.91 283.19 5.02 19.14 13.83 6.31 -3.97 板厚の変化に関わらず,ある一定の範囲に収ま っているのに対し,変動係数は板厚の上昇とと もに減少する様子が確認された.これは,積層 板の板厚に関わらず,バッグサイド表面の凹凸 状態が主にCPの有無という成形プロセスの違 いに依存していることを示すと考えられる. 3.2 強度試験 NHT,NHC,OHC,CAIの強度試験結果をそ れぞれ表3に示す.強度試験はCP適用と,CP無 しの両者について,それぞれの試験項目につき6 体ずつ実施した.表3の結果は各項目の平均値を 表し,得られた強度は繊維体積含有率(以降Vf) 60%換算値として評価している.Vf測定に際し て,バッグサイド表面の凹凸状態の影響を除く 目的で,体積測定には水置換法(ASTM D791準 拠)を適用,また,繊維の内部うねりが予想され るCP無しの試験片については炭素繊維重量測 定に酸溶解法(ASTM D3171準拠)を適用した.V f測定の結果,CP無しの平均値はVf=56.5%, CP 有りの平均値はVf=54.0%であり,CP適用によっ て得られるVfは2.5%程度減少している.これは, 表2に示した平均板厚測定の結果とも整合して おり,CP適用という成形プロセスの変更がバッ グサイド表面平滑性のみならず,Vfにも影響を 与えたことが明らかとなった. 表3の結果より,NHT, NHC(QI2s), (QI4s), O HCの強度特性に関して,試験片の表面平滑度向 上が強度向上に寄与することが確かめられる. 特にNHC(QI2s)に関しては約2割と著しい強度 向上が認められた.これは,表面平滑性向上に 伴って,バッグサイド表面および局所的な板厚 減少部での応力集中が低減したこと,また表面 平滑化に伴う積層板内部繊維うねりの減少(図2 参照)に起因すると考えられる.一方で,CAI強 度は表面平滑化向上に伴い若干の強度低下を示 した.これはVf低下に伴う板厚方向の引張強度 低下に起因し,衝撃試験によって挿入された層 a) CP無し b) CP有り 図2 積層板内部の繊維うねり(×100倍) 間はく離の圧縮荷重による進展が容易になった ことによるものと考えられる.同様にNHC強度 に関して,CP無しでは2種類の板厚(QI2s, QI4s) に関して強度の有意差が認められないのに対し, CP適用試験片では板厚の増加に伴う圧縮強度 の低下が認められた.これはVf低下に伴う板厚 方向の圧縮強度の低下によって,板厚の増加と 共に破壊モードが純粋な圧縮破壊から面外引張 強度の影響を受けるBlooming要素を含んだ破 壊モードに移行したためと考えられる. 4. まとめと今後の予定 Caul Plateの適用によりVaRTM成形複合材の バッグサイド表面平滑性を制御可能である.表 面平滑性の改善により種々の機械的特性のうち 面内強度に支配される機械的特性は向上する. 一方で,Caul Plate適用は表面平滑性以外の成形 品質にも影響を与え,面内特性のみが支配的で はない機械的特性が低下する可能性が示された. 特に成形プロセスと板厚方向の引張強度の関係 および,板厚方向の引張強度が種々の圧縮強度 特性に与える影響に関しては更なる検討が必要 と考えられる. 謝辞 VaRTM成形に際し多大なご協力を賜りました(有)カ ドマリンの魚田氏および同社の皆様に紙面をお借り して謝意を表します. 参考文献 1) 原栄一, 岩堀豊,永尾陽典,石川隆司,魚田直希, 第47回構造強度に関する講演論文集, 180-182
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