モリブデン触媒によるラクトン類の開環重合

安孫子 淳
ラクチド カプロラクトン ランダム 共重合体の合成
モリブデン触媒によるラクトン類の開環重合
-
准教授
■キーワード
ジオキソモリブデン(VI)錯体 ポリカプロラクトン ラクチド-カプロラクトンランダム共重合体
触媒 開環重合
■研究の概要
ジオキソモリブデン
(VI)
錯体が、
ラクトン類の開環重合において、
優れた触媒活性を示すことを見出しました。
本触媒を用
いたε-カプロラクトンの開環重合では、0.0005mol%(19ppm)の触媒量でも反応は130℃3時間で終了し、TOF=67,000mol
また、
ラクチドとε-カプロラクトンの共重合においては、反応は0.05mol%の触媒量で110℃21時間で
・h-1を達成しました。
終了しました。
得られた共重合体はNMR解析から、
理想ランダム共重合体である事がわかりました。
■研究・技術のプロセス/研究事例
O
MoO2(Salad)2 (cat)
O
ジオキソモリブデン(VI)のサリチルアルデヒド錯体は、
O
cyclododecanol (1 mol%)
mesitylene , 110 oC
サリチルアルデヒド誘導体とモリブデン酸アンモニウム
H
O
RO
n
を含水メタノール中塩酸で中和し
(室温、4時間)、生じた
沈殿を濾過することで、黄色∼オレンジの安定な錯体と
TABLE 1. Progress of the polymerization Mn, PDI vs timea
して合成できます。中でもMoO2[(5-OMe)salad]2は高活
Time (min)
Convn. (%)
性で、ε-カプロラクトンの開環重合では、メシチレン中
7
20
Mn (NMR)
Mn (GPC)
2200
PDI
5000
1.17
8
50
5700
10300
1.22
9
71
8000
16000
1.29
30分(130°
C)∼1時間以内(110°
C)で反応が終了しまし
10
90
10300
21100
1.56
た。
さらに、0.0005 mol% (19ppm)を用いた場合では、
30
99
11300
21200
2.07
0.05mol%で110℃30min、0.005mol%用いた場合でも、
130°
Cで3時間、110°
Cでも7時間以内で反応は終了しま
aConditions; [-CL]:[I]:[cat]=100:1:0.05, 110 °C in mesitylene
した。反応はリビング的に進行し、重合物の分子量は開
始剤の量で制御可能です(PDI=1.47 1.89)。また、重合
TABLE 2. Synthesis of polycaprolactone with defined Mna
[M]/[I]
反応は無溶媒でも円滑に進行します。
Mn (theory)
Yield (%)
Mn (GPC)
PDI
25
3100
75.2
7200
1.47
一方、
ラクチドとカプロラクトンのランダム共重合体は、
50
5900
87.1
13200
1.67
75
8800
90.8
18100
1.89
それぞれの単独ポリマーの中間的性質を持つ材料とし
100
11600
90.6
23500
1.80
て期待されていますが、共重合において両モノマーの反
aConditions; [-CL]:[I]:[cat]=100:x:0.05, 110 °C in mesitylene for 10 min.
応速度に大きな差があるために、
ブロックまたはグラジ
エント型共重合体が生成するのが通例でした。
O
O
O
O
ポリ乳酸
・生体内での分解吸収が速い
・土中での生分解性が低い
・親水性
O
O
+
Mo(VI) (0.05 mol%)
O
O
O
O
O
O
cyclododecanol (1 mol%)
o
O
O
mesitylene , 110 C
O
n
O
ラ クチ ド
ランダム共重合体
・脂溶性成分の浸透性低い
・分子内にモノマーが均等に分布
ポリカプロラクトン
O
O
・それぞれの単独ポリマーの中間的性質
・生体内での分解吸収が遅い
H
MeO
O
・土中での生分解性が高い
・疎水性
・脂溶性成分の浸透性高い
ジオキソモリブデン(VI)錯体を用いた、
ラクチド-カプ
2
N
N
O
Mo
O
カプロラクトン
O
MeO
O
MoO2[(5-OMe)salad]2 1
Mo
O O
Mo(acac)2 3
O
(NH4)8[Mo10O34] 4
MeO
cis-MoO2[(3-OMe)DiMeSaltn] 2
ロラクトンの共重合は円滑に進行し、
ランダム共重合体
が得られました。共重合体のランダム性は高く、NMRより、
L LA=1.58、 r LA=0.91、
L CL=1.81、反応性比 平均連鎖長 また、エステル交換が全く見
r CL=0.93と求められました。
TABLE 3. Co-polymerization of -CL and lactones
catalyst
1
られないことから、安定した物性のランダム共重合体が
合成可能です。
「ラクチド−ラクトン共重合体の製造方法」
安孫子 淳、圓田 安美 特願2013-84129
PDIc
r LAd
r CLd
L LAe L CLe
15000
1.44
0.89
0.56
3.09
1.22
20.4
19700
1.74
0.91
0.93
1.58
1.81
-19.5
-CL /LA
Time
Convna
-CL /LA
Mnc
(feed)
(h)
(%)
(found)b
(GPC)
0/100
36
14
-/100
-
25/75
23
92
22/78
50/50
20
96
50/50
75/25
4
96
77/23
32600
1.25
1.63
0.92
0.90
3.52
-47.2
2
50/50
21
97
50/50
11900
1.43
1.07
1.02
1.66
1.75
-30.0
3
50/50
30
91
50/50
13100
1.44
0.97
0.96
1.63
1.75
-17.0
4
50/50
30
92
50/50
9900
1.29
0.95
0.85
1.67
1.73
-26.0
a. Conversion measured by 1H NMR of the crude reaction mixture.
b. Unit ratio found in the isolated copolymer.
c. Mn and PDI measured by GPC with polystyrene as a standard.
d. Calculated based on the 1H NMR. e. Calculated based on the 13C NMR.
f. Tg measured by DSC.
■セールスポイント
無(低)毒性モリブデン錯体を用いて、ポリカプロラクトンが実用的に合成できます。
生分解性、生体適合性があるラクチド-カプロラクトンランダム共重合体が、安全・安価な
触媒で、容易に合成できます。
Tgf