Ⅶ-1:ここまでわかる! 有機組成分析

●[特集]TRCポスターセッション2013 Ⅶ-1:ここまでわかる!有機組成分析
[特集]TRCポスターセッション2013
Ⅶ-1:ここまでわかる!
有機組成分析
東京営業第2部 土田 達雄、酒井 朋子
関西営業部 松田 幸久、矢野 尚子
2.2 組成分析のフロー
一般的な化学製品の組成分析フローを図1に示す。大きく
分けて、前処理、分離、スペクトル測定の3つのプロセスに
分けられる。前処理は、様々な形状の試料から有機物分析
を実施出来る形態で回収するために必須のプロセスで、粉
砕や遠心分離、
溶媒分離といった処理を行う。
溶媒分離では、
極性の大小によって、メタノール、クロロホルムなど適切
な溶媒を選び、溶媒可溶分、不溶分に分離する。複数の未
1.はじめに
知材料が混合されている場合、可能な限り単一成分へ分離
することが重要であり、溶媒分離やその次の段階のクロマ
我々の身の回りではプラスチックをはじめ、様々な有
ト分離の技術が組成分析の鍵を握る。前処理、分離は数多
機化学製品が利用されている。科学の進歩に伴って、そ
くの手法から適切な手法を選択する必要があり、試行錯誤
の種類は極めて多くなっており、更にこれらの製品は単
により最適化しなければならないこともある。適切な手法
一成分で構成されることは稀で、添加剤等を含めると非
を選ぶためには、多くの経験と幅広い知識が必要である。
常に複雑な混合物であることも多い。試料を構成する各
こうしてクロマト分離で得られた各フラクション成分
成分の内容を明らかにし、組成比を求める分析を組成分
について、スペクトル測定・解析を行うことで、製品の
析と言うが、特に多様な構造を持つ有機物の組成を知る
全容を明らかにすることができる。弊社では、各手法に
ための分析が、製品開発或いはトラブル解決を行う上
よって得られた結果を用いて、高度な解析力と豊富な経
で、多くのメーカーにおいて望まれている。しかしなが
験を駆使して、未知成分の構造を明らかにしている。
ら、全ての構成成分を知ることは容易ではない。従って、
組成分析を行うためには、高分子材料から各種添加剤ま
で様々な構成材料の特性を十分把握し的確な前処理、分
離分取方法の選択が重要である。
本稿では、有機組成分析の手順および注意点につい
A
て、事例を用いて紹介する。
2.有機組成分析の手順
2.1 事前に必要な情報
測定対象物はUV硬化接着剤やめっき液、塗料等様々な製
図1 組成分析のフロー
品である。これらについて、分析に用いることができる試料
量、溶媒に対する溶解性によって、表1に示す通り実施でき
る分析手法が異なる。例えば、実装材として使われている
接着剤硬化物の場合は、試料量が少なく且つ溶媒に対して
3.分析事例
難溶である場合が多いので、
適用できる分析手法も限られる。
ここでは代表的な例として、
導電性接着剤(未硬化物)
表1 試料特性と分析方法
多い : ~g
易
溶
難
溶
抽出や分離(GPC,HPLC)操作を
含めた様々な手法(IR,NMR,MS)
の組成分析について紹介する。
導電性接着剤はフィラーをはじめ、バインダー、溶剤、
試料量
少ない : ~mg(μg)
微量試料対応のスペク トル
測定・解析,最適な濃縮方法
による構造決定が可能
(顕微IR,NMR,μ-MS,EPMA)
IR,熱分解GC/MS,固体NMR,
化学分解分析
微量試料対応のスペク トル
測定・解析(顕微IR,ラマン,
熱分解GC/MS,EPMA)
硬化剤といった複数の成分から構成されていることが予想
できる。各構成成分の持つ性質を考慮し、図2に示すように
2段階の溶媒分離を行う分析フローを考案し分析を進めた。
図3のGPCクロマトグラムでは、1段目の溶媒分離で分
子量の違いによって分離された複数の成分(Fraction 1
~7)が検出されている。
従って、溶媒に対して易溶であるか難溶であるか、更
それぞれの分取物についてIR及びNMR測定を行った
にはどの様な溶媒に溶けるかといった情報、分析に供す
が、本報では一例として、この中で最も量が多いFr.4の
る試料量はどの程度かといった情報が、分析フローを組
1
み立てる上で、事前に必要である。
GPC分離せずにスペクトル測定を行うとスペクトルが
H-NMR測定結果を図4に示す。
複雑になり解析できない成分であっても、単離すること
・19
東レリサーチセンター The TRC News No.118(Mar.2014)
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表2 組成分析結果
(構成成分)
SEM/XMA
フィラー
ニッケル粉(金メッキ処理)(25%)
シリカ(5%)
溶剤
ブタノール(1%以下)
MIBK(1%以下)
シランカップリング剤
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(1%)
エポキシ
ビスフェノール F 型エポキシ(10%)
ビスフェノール A 型エポキシ(9%)
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(35%)
トリグリシジル-p-アミノフェノール(8%)
硬化剤
ジクロロフェニルジメチルウレア(7%)
GC/MS
GPC
GPC
IR
IR
NMR
NMR
IR
図2 導電性接着剤の組成分析フロー
F r.4
4.おわりに
未知の化学物質が複数混合している試料の全容を解明
する有機組成分析は、前処理から始めて化学物質の構造
F r.5
決定まで長いプロセスを要する分析である。最も重要な
ことは前処理技術や分離手法、同定手法のいずれにおい
F r.3
ても、様々な有機分析手法を目的に応じて総合的に活用
Fr.7
Fr.1
することである。
弊社は、接着剤や水溶性インク、めっき液など様々な
保持 時間
高分子量 ⇔ 低分子量
製品分析における豊富な経験に基づき、分析方法の最適
図3 抽出物(溶媒分離1)のGPCクロマトグラム
f
化を行い、短期間で詳細な結果を提供している。
また、化学分析以外のほかにも、検出された成分につ
a
e
いて、国内外の規制状況や生産量、メーカー等の調査も
d
受託可能であるので、是非ご用命いただきたい。
c
■土田 達雄(つちだ たつお)
b
東京営業第2部 営業第1課 課長
趣味:投げ釣り
■酒井 朋子(さかい ともこ)
東京営業第2部 営業第1課 課長代理
1
図4 Fr.4の H-NMRスペクトル
趣味:旅行
で、情報量の多いスペクトルが得られ、図5の通り化合
物を同定することができた。
O
CH 2 CHCH 2
CH 2 CHCH 2
O
N
d
f
c
e
CH 2
N
CH 2 CH
O
b
CH 2 CH
CH 2
a
O
CH 2
■松田 幸久(まつだ ゆきひさ)
関西営業部 営業第2課 課長
趣味:バラの栽培
図5 Fr.4の推定構造式
全組成分析を行った結果を表2に示す。この様に無機
■矢野 尚子(やの なおこ)
物フィラーから溶剤、
ポリマー、
硬化剤まで約1%以上(低
関西営業部 営業第2課 課長代理
分子添加剤等では0.1%以上)含まれる化合物の構造と
含有量を明らかにすることができた。
20・東レリサーチセンター The TRC News No.118(Mar.2014)
趣味:山登り