FPGA を活用した電気自動車およびハイブリッド電気

FPGA を活用した電気自動車および
ハイブリッド電気自動車向けパワー・
エレクトロニクスの制御
WP-01210-1.0
ホワイトペーパー
FPGA は、その性能、柔軟性、および統合されたデザイン・ツールによって高性能パ
ワー・エレクトロニクス・コントロール・システムに支持されています。このホワイ
トペーパーでは、可変電圧制御 (VVC) または双方向 DC-DC コンバータ、3 相インバー
タ、IPM (永久磁石内蔵型) モーターまたはジェネレータで構成されるハイブリッド電
気自動車 (ハイブリッド EV) または電気自動車 (EV) ドライブ・システムを FPGA で制
御する利点を紹介します。

ハイブリッド EV 向けに簡素化したパワー・コントロール・アーキテクチャ VVC コンバータと IPM モーター・インバータの両方のコントロール機能を 1 つ
の統合コントロール・ハードウェア用 FPGA に集積し、MCU (マイクロ・コント
ローラ・ユニット) での高速制御ループ演算負荷を軽減します。

高周波 VVC コンバータ - 低コストの小型受動部品や、普及しつつある高速ス
イッチング SiC (シリコン・カーバイド) MOSFET が使用可能になります。

DTFC-SVM による IPM モーター制御 - DTFC-SVM (Direct Torque and Flux Control
with Space Vector Modulation: 空間ベクトル変調によるトルクと磁束の直接制御) 機
能を持つ IPM モーター制御でのトルク・リップルを軽減します。
このホワイトペーパーでは、以下の VVC コンバータとモーター・インバータ制御の
実装についても解説します。

MathWorks シミュレーション環境での制御アルゴリズムの実装

アルテラ DSP Builder を使用した、FPGA 合成用デザインの自動化

FPGA の性能とリソース指標
はじめに
パワー・コンバータの性能および品質は、従来のアナログ制御からデジタル制御に変
わることにより大幅に向上しました。(1) 今日では、ほとんどのパワー・エレクトロニ
クスがマイクロコントローラ (以下 MCU) で制御されます。これは主に、これらのデ
バイスが低コストであること、およびアナログ-デジタル・コンバータなどの周辺機
能が高度に集積されているためです。多くの場合、MCU は C またはアセンブリ言語
でプログラムされますが、パワー・エレクトロニクス・エンジニアがこれらの言語を
専門知識として身に付けていない場合があります。MCU は、そのプロセッサの能力
を超えない速度で順次実行されるアルゴリズムに最適ですが、この従来の手法では、
それより高いサンプル・レートや複雑なアルゴリズムで課題が生じます。
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www.altera.com
2013 年 12 月
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ページ 2
アルテラ DSP Builder について
この課題は並列処理、特に FPGA を使用することによって解決することが可能です。
FPGA は、その並列アーキテクチャと、ハードウェアで多くの複雑なアルゴリズムを
同時処理することが可能なため、VVC やモーター制御などのハイブリッド EV および
EV ドライブ・システム・アプリケーションに最適です。FPGA はゲートを接続して
乗算器、レジスタ、加算器、FIFO、メモリ・マップド・レジスタ、およびその他の機
能を形成するようにプログラムします。これは、タスク専用リソースを配置して並列
動作できるようにする HDL (ハードウェア開発言語) を使用して行うことができま
す。
アルテラ DSP Builder について
HDL コーディングが複雑であることがパワー・エレクトロニクス・エンジニアにとっ
て障壁になる場合があります。アルテラの DSP Builder ツールは、MathWorks Simulink
デザイン・ブロックと、HDL コードの自動生成機能を提供します。これにより、シ
ステムをシミュレーションするのと同じモデルを FPGA に直接実装できるようにな
ります。さらに、設計者がテストベンチやシステム・シミュレーション・モデルを構
築するときにパワー・エレクトロニクス・コンポーネントの豊富なライブラリを利用
できるようになります。DSP Builder を Simulink 環境で使用すると、ハードウェアを
構築する前にデザインを理解するのに役立つ全体論的なシステム・モデルを提供でき
ます。
図 1. アルテラ DSP Builder 統合デザイン環境
この手法では、同じソースを使用する共通ツールフローにアルゴリズム開発、ハード
ウェア実装、およびイン・システム検証ステップが統合されます。システム検証中に
行われた変更は、シミュレーション・モデルで直ちに検証できます。
DSP Builder ツールフローを使用すると、設計者は MathWorks 環境内で作業できるよ
うになるため、HDL をコーディングする専門技術は必要なくなります。さらに、こ
のツールフローは、ハンド・コーディングされた HDL で得られるのと同じような fMAX
およびロジック使用率が最適化された FPGA 実装を生成します。また、このツールに
は、HDL 手法では一般に実行できない固定小数点と浮動小数点のいずれかを実装す
るオプションもあります。そのため、設計者はアルゴリズム設計段階で数値のオー
バーフロー、アンダーフロー、および飽和を心配する必要はありません。FPGA は選
択したメモリ・サイズの標準幅に制約されないため、複数の浮動小数点精度を利用で
きます。そのため、設計者は精度と FPGA ロジックやその他のリソースのバランスを
取ることができます。
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パワー・エレクトロニクスの制御
ハイブリッド EV 用に簡素化したパワー・コントロール・アーキテクチャ
ページ 3
表 1 にアルテラ DSP Builder の浮動小数点精度オプションを示します。
表 1. アルテラ DSP Builder の浮動小数点精度オプション
選択可能な
浮動小数点ワード幅
( ビット )
仮数部ワード幅 ( ビット )
単精度を基準とした
ロジック使用率
16 (「ハーフ」ワード )
26
10
0.3
17
0.6
32 ( 単精度 )
23
1.0
35
26
1.4
46
35
2.2
55
44
3.4
64 ( 倍精度 )
52
4.6
ハイブリッド EV 用に簡素化したパワー・コントロール・アーキ
テクチャ
図 2 に、DC リンクで電気的に接続した 2 つの独立したモーターまたはジェネレータ
(MG) を使用する一般的なハイブリッド EV アーキテクチャを示します。DC リンク
は、IGBT (絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ) ハーフ・ブリッジとブースト・
インダクタで構成された VVC または双方向 DC-DC コンバータを介して 250 V バッ
テリにも接続されています。(2)
図 2. 標準ハイブリッド EV パワーおよびコントロール・アーキテクチャ
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高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
各機能 (MG および VVC) には、現在は個別 MCU に実装される高度なコントロール回
路が必要です。FPGA を使うことによって、単一プロセッサによるボトルネックが発
生することなく、1 つのデバイス上で複数のコントロール機能を並列動作させること
ができるようになります。図 3 に、MG 機能と VVC (DC-DC) コントロール機能を 1
つの FPGA に統合する新しいアーキテクチャを示します。
図 3. 1 つの FPGA によって簡素化したハイブリッド EV パワー・コントロール・アーキテクチャ
この新しいアーキテクチャでは、部品点数の減少という利点に加えてハードウェアと
ファームウェアのインタフェース数が減少しています。そのため、既存のアーキテク
チャでは不可能であった完全なシステム・シミュレーションと自動コード生成も可能
となります。以下のセクションでは、これらのアルゴリズムの開発と実装について説
明します。
高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
高周波 VVC コンバータについて
VVC コンバータは、バッテリと MG インバータの間に双方向パワー・フローを提供
します。標準的なデザインには 200 μH のインダクタを付けた IGBT ハーフ・ブリッ
ジを使用し、バッテリからモーター・インバータへの電圧を「昇圧」させるように下
側のトランジスタをスイッチします。逆に、バッテリに充電するには、モーター・イ
ンバータからバッテリへの電圧に「降圧」させるように上側のトランジスタをスイッ
チします。「昇圧」モードは以下のように分析されます。
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高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
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バッテリは 250 V であり、VVC は 50 kW ピークで 650 V まで供給できます。図 4 に
示すように、バッテリには高周波コンデンサ Clv (400 μF) が並列に付き、VVC 昇圧出
力には別の高周波コンデンサ Chv (2,000 μF) が付いています。
図 4. VVC または双方向 DC-DC コンバータ
昇圧モードでは、下側のスイッチがデューティ・サイクル D で変調されて式 1 に示す
電圧ゲインが得られます。
式 1.
V hv
1 -------- = -----------V lv
1–D
以下の動作条件が与えられたとします。
POUT = 50 kW
Vlv = 250 V
Vhv = 500 V
fswitch = 10 kHz
これにより、以下が得られます。
V hv
-------- = 2
V lv
および D = 0.5
式 2 はインダクタ内の平均電流を表します。
式 2.
P OUT
kW- = 200 A
I Lave = ------------= 50
--------------V lv
250 V
式 3 はインダクタのリップル電流 (ピーク・ツー・ピーク) を表します。
式 3.
VL D
250 V
I Δp – p = ------ --------------- = ------------------- 50 μs = 62.5 A
200 μH
L f switch
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高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
式 4 は出力電圧のリップルを表します。
式 4.
I hv D
100 A
ΔV OUT = --------- --------------- = --------------------- 50 μs = 2.5 V
C hv f switch
2000 μh
高周波デザインの提案
パワー・エレクトロニクス業界のトレンドの 1 つとしてスイッチングの高速化があり
ます。高速化すると、インダクタンスとキャパシタンスの値が低くても等価な電圧と
電流のリップルを得ることができます。スイッチング速度を上げる上での障壁の 1 つ
は、トランジスタのスイッチング損失が増えることです。これらの損失は、スイッチ
ング損失の低下に最適化した IGBT、または MOSFET を適用すれば軽減できますが、
一般にトランジスタの損失はいくらか増加します。この障壁は、スイッチング損失を
大幅に軽減する SiC MOSFET が利用可能になるにつれてなくなると考えられます。
SiC は価格がいまだに課題ですが、コスト削減トレンドが継続し、いずれは SiC デバ
イスが標準シリコンデバイスと競合するまでに至ると予想されます。
スイッチング速度を上げる上でのもう 1 つの障壁は、適切な電流制御を行うのにさら
に高い処理速度が必要になることです。この処理速度の高速化は、MCU によるソ
リューション、特に複数の機能を 1 つのプロセッサに実装する場合に課題となりま
す。FPGA で電流制御すると、複数の制御機能を 1 つのデバイスに実装した場合でも
このアプリケーションに必要な処理速度を容易に得ることができます。本章で提案す
るのは、fswitch = 50 kHz のスイッチング速度 (5 倍に増加) です。そのため、同じリップ
ル電流と電圧を得るためのインダクタンスとキャパシタンスの値は比例的に減少し
ます。このコンポーネント値が減少するだけでなく、サイズとコストも同様に減少し
ます。現在の値と提案する値を表 2 に示します。
表 2. VVC 10 kHz および 50 kHz デザインの比較
fswitch =
10 kHz
fswitch =
50 kHz
サイズ削減
予想される
コスト削減額
200 μH
40 μH
5X
$200-> $100
Chv
2,000 μF
400 μF
5X
$300->$100
Clv
400 μF
80 μF
5X
$100->$50
Ipp
62.5 A
62.5 A
-
Vpp
2.5 V
2.5 V
-
IGBT での損失
500 W
1,100 W
-
-
Si MOSFET での損失
600 W
750 W
-
-
SiC MOSFET での損失
150 W
250 W
2X
高コスト、
ただし低減中
コンポーネント
L
トランジスタの損失
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高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
ページ 7
図 5 には Simulink での 10 kHz および 50 kHz VVC デザインのシミュレーションを、図
6 にはその波形をそれぞれ示します。ここでは、500 V 電圧コマンドへの応答をシミュ
レーションしています。波形は、2 つのデザインと等価な電流および電圧リップルを
示します。受動部品値の減少という利点に加えて、50 kHz スイッチング・デザインで
は出力電圧のレスポンスがはるかに速いことも明らかです。
図 5. VVC Simulink シミュレーション
図 6. 10 kHz および 50 kHz スイッチングでの VVC
10 kHz
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50 kHz
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高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
図 7 に、内部電流ループと外部電圧ループを使用したコントローラのデザインを示し
ます。
図 7. VVC 電流および電圧コントローラ (Simulink モデル )
大きな 200 μH のインダクタを持つ 10 kHz デザインでの電流ループの処理速度は、
fRW = 1 kHz に過ぎません。小さな 40 μH のインダクタを持つ 50 kHz デザインで電流
を適切に制御するにはさらに高い処理速度が必要なため、電流ループ処理速度には
fRW = 5 kHz を選択しました。優れた安定性を維持するための最大コントロール遅延
Tdelay を得るための経験則は 式 5 で与えられます。
式 5.
1
T delay ≤ 0.1 × --------f BW
これによると、10 kHz デザインでは Tdelay ≤ 100 μs しか必要ありませんが、50 kHz デ
ザインでは Tdelay ≤ 20 μs が必要となり、これは MCU によるデザイン、特に多くの機
能を制御する場合に問題になる可能性があります。
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高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
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アルテラ DSP Builder での FPGA の実装
図 8 に、アルテラ DSP Builder で実装した VVC コンバータのデジタル・コントローラ
を示します。
図 8. VVC DSP Builder コントロール
図 9 に電流および電圧比例積分 (PI) レギュレータを示します。
図 9. DSP Builder 電流および電圧 PI コントローラ
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高周波 VVC (DC-DC) コンバータ
この DSP Builder デザインでは、パルス幅変調 (PWM) のパルス・ジェネレータに
100 MHz のクロックを、PI コントローラに 10 MHz のクロックをそれぞれ使用しま
す。このデザインには 10 MHz クロック領域に 3 種類の制御遅延があり、それらの合
計は Tdelay = 0.3 μs になりますが、これは 図 10 に示すように制御レスポンスには影響
しません。図 11 は、シミュレーションした 20 μs の MCU 遅延による不安定なレスポ
ンスを示します。
図 10. VVC コントロール DSP Builder
図 11. シミュレーションした 20 μs の MCU 遅延
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
ページ 11
FPGA の実装リソース
VVC のデザインには、低コストで提供するオートモーティブ・グレードのアルテラ
Cyclone® IV FPGA を使用します。デザイン・リソースを 表 3 に示します。
表 3. VVC FPGA のリソース
VVC FPGA コントローラ
26 ビットの固定小数点ワード
LE ( ロジック・エレメント )
2,344
レジスタ
970
乗算器 (18 x 18)
34
DTFC-SVM による IPM モーター制御
DTFC-SVM によるモーター制御について
IPM は、その耐久性と優れたトルク性能により、電気自動車とハイブリッド電気自動
車のいずれにも一般的に使用されています。(2) しかし、IPM の課題として、性能と信
頼性を損なう可能性がある特有のトルク・リップルがあります。(3)(4) アルテラは、
Infolytica 社が作成した IPM モーター・モデルを FPGA上でリアルタイム実行して、ト
ルク・エスティメータとして活用しました。DTFC-SVM を開発して、標準のフィー
ルド指向 制御 (FOC) または直接直交 (DQ) 制御と比較しました。DSP Builder で実装し
た DTFC-SVM と IPM モデルのトルク・エスティメータを使用することにより、トル
ク・リップルの抑制を可能としました。本章では、MCU 実装と比較した FPGA の制
御性能も説明します。
IPM モーター・モデル
本 IPM モーター・モデルは、ハイブリッド電気自動車の一般的な IPM モデルとして
開発され、有限要素解析 (FEA) と応答曲面モデリング (RSM) を用いることにより、
MathWorks の MATLAB または Simulink ソフトウェア上で使用可能です。このモデル
は IPM のトルク・リップルを正確に予測します。これをモーター制御システムで
フィードバックとして使用することにより、トルク・リップルの軽減が可能です。
図 12 は、Simulink で「MotorSolve」プラグインとして使用可能な IPM モデルを示し
ます。これは、FPGA に実装したり、ツールの HDL インポート 機能を使用してアル
テラ DSP Builder ソフトウェアにインポートしたりできる VHDL ファイルとしても利
用できます。
図 12. IPM モーター・モデル
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
FOC 制御
図 13 は、標準 FOC (または DQ) コントロール (9) によって Simulink で IPM モーター・
モデルをシミュレーションしてトルク応答とリップルを評価した方法を示します。ト
ルクを発生させるには、電流リファレンスを DQ 電流コントローラの直交 (Iq) 入力に
印加します。
図 13. FOC でコントロールする IPM モーター
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
ページ 13
図 14 は、それぞれ 50 Nm と 200 Nm のトルクを発生させる 89 A ~ 356 A のベクトル
電流リファレンス・ステップを示します。また、ΔTp-p = 30 Nm のトルク・リップルを
示す、縮尺を拡大したトルクも示します。このトルク・リップルは装置固有のもので
あり、制御による影響 (DTC ヒステリシス・コントロール (8) など) ではないことに注
意してください。
図 14. FOC 電流コントロールによる電流とトルク
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
DTFC-SVM 制御
近年 DTFC-SVM によってトルク出力とレスポンスが向上することが示されました。
SVM は高調波とスイッチング損失が低いなどの利点を持つため、標準的な PWM よ
り多く使用されています。本章で実装したのは、ヒステリシス・コントロールによる
高周波トルクと磁束のリップルを取り除く「改良型」DTFC-SVM (5)(6)(7) です。
ステータ磁束リンケージ・ベクトル ϕs とロータ (磁石) 磁束リンケージ・ベクトル ϕf
は、図 15 に示すロータ磁束 (dq)、ステータ磁束 (xy)、および固定 (αβ) リファレンス・
フレームで描画できます。ステータ磁束リンケージとロータ磁束リンケージの間の角
度 δ は負荷角度です。
図 15. さまざまなリファレンス・フレームのステータ磁束リンケージとロータ磁束リン
ケージ
突極特性 (Ld ≠ Lq) を持つ IPM に対してよく知られた機械方程式を (5) 式 6 に示しま
す。
式 6.
ϕd = Ldid + ϕf
ϕq = Lqiq
vd = Rsid + pϕd – ωrϕq
vq = Rsiq + pϕq – ωrϕd
T = 3/2(p(ϕd iq – ϕq id))
ここで、Ld と Lq は直接および直交インダクタンス、ωr は電気的ロータ速度、p は対
になる極の数、T は電磁トルクです。さらに、xy リファレンス・フレーム内の IPM の
トルク T が 式 7 で与えられます。
式 7.
3
T = --- p ϕ s i y
2
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
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ϕy = 0 でのステータ磁束 (xy) リファレンス・フレーム内の電圧は 式
8 で表されます。
式 8.
dϕ
v x = R s i x + ---------s
dt
vy = Rs iy + ωr ϕs
これは、ステータ磁束ベクトルの大きさをステータ電圧の x 成分で制御でき、トルク
をステータ電圧の y 成分で間接的に制御できることを示します。
式 9 は、ステータ磁束リンケージとトルクが固定 (αβ) フレームで推定されることを
示します。
式 9.
ϕα =
 ( vα – Rs iα ) dt + ϕα0
ϕβ =
 ( vβ – Rs iβ ) dt + ϕβ0
ϕs =
2
2
ϕα + ϕb
–1 ϕ
β
θ s = tan  ------
 ϕ α
3
T = --- p ( ϕ α i β – ϕ α i β )
2
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
SVM の説明
SVM は PWM とは異なり、モジュレータを各位相に持っていません。SVM は、リファ
レンス電圧ベクトルを使用してアクティブおよびゼロ・ベクトルの変調時間を計算し
ます。図 16 は、転流と電流リップルを最小化するために選択するベクトル・シーケ
ンス順序を示します。
図 16. 空間ベクトル変調
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DTFC-SVM シミュレーション
図 17 は、アルテラが Simulink 内の IPM モデルで DTFC-SVM 制御をシミュレーショ
ンした方法を示します。Simulink モデルには、トルクと磁束を別々にコントロールす
る PI コントローラがあります。トルクおよび磁束エスティメータは上述した数式を
実装します。座標変換および SVM 機能は Simulink の標準機能を使用しました。DTFC
制御には、トルク・エスティメータまたは IPM モデルからのトルク出力のいずれかを
使用できます。ここでは、トルク・リップルを正確にモデル化する IPM モデルのトル
クを使用します。
図 17. DTFC-SVM 制御を備えた IPM モーター
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
図 18 は、50 Nm ~ 200 Nm で変化するトルク・コマンド (赤) に応じた電流とトルク
(青) を示します。拡大されたトルクは、トルク・リップルが 1/6 に減少したリップル
ΔTp-p = 5 Nm を示します。このトルク・リップルの減少は、正確な IPM モデルと、次
の章で説明する高速制御ループを実装したことの両方によるものです。
図 18. DTFC-SVM 制御に対する電流とトルク応答
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アルテラ DSP Builder での DTFC-SVM の実装
図 19 に、アルテラ DSP Builder で実装した DTFC-SVM コントローラを示します。IPM
モーター・モデルは Simulink ブロックまたは VHDL ファイルとして利用できます。図
20 に DTFC PI コントロール・ブロックを示します。図 21 にトルクおよび磁束エス
ティメータ・ブロックを示します。ここでは、サイン、コサイン、ベクトル・アーク
タンジェント、ベクトルの大きさといった DSP Builder の演算関数を利用しました。
図 19. アルテラ DSP Builder で実装した DTFC-SVM
図 20. アルテラ DSP Builder で実装した DTFC PI コントローラ
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
図 21. アルテラ DSP Builder で実装した DTFC トルクおよび磁束エスティメータ
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図 22 は、トルク・レスポンスとリップルが図 17 にて示した Simulink モデルと等価で
あることを示します。実装された VHDL からのコントロール応答の遅延合計は <5 μs
で、これには DTFC、SVM、トルクおよび磁束エスティメータ、ならびに IPM モデル
の VHDL 実装が含まれます。この遅延 (200 kHz のコントロール更新レートに相当) に
よって制御・ループに追加される位相遅れは無視できるほど小さいため、安定性には
影響しません。
図 22. アルテラ DSP Builder DTFC 制御
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DTFC-SVM による IPM モーター制御
MCU ベースの DTFC-SVM 実装との比較
IPM モデルを含む DTFC-SVM アルゴリズムを MCU に実装したときに 1 つの制御計
算を実行する遅延は約 70 μs の位相遅延 (DTFC-SVM が 30 μs、IPM モーター・モデル
が 40 μs) と推定されます。この遅延の影響を推定するために、図 23 に示すように
DTFC-SVM 制御ループにトランスポート遅延を追加します。図 24 に、追加した制御
遅延によってトルク・リップル量が増加したことを明らかに表すシミュレーション結
果を示します。この性能は、MCU にこのアルゴリズムを実装するのに多くの制御機
能が必要な場合はさらに厳しい制約条件になると考えられます。
図 23. MCU をシミュレーションするために追加した制御遅延
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図 24. 制御の安定性に対する MCU 制御遅延の影響
FPGA の実装リソース
DTFC-SVM のデザインには、低コストで提供するオートモーティブ・グレードの
Cyclone IV FPGA を使用します。デザイン・リソースを 表 4 に示します。
表 4. DTC-SVM コントローラの FPGA リソース
DTFC-SVM FPGA コントローラ
単精度浮動小数点
LE
19,560
レジスタ
59
乗算器 (18x18)
27
FPGA を活用した電気自動車およびハイブリッド電気自動車向け
パワー・エレクトロニクスの制御
2013 年 12 月 Altera Corporation
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FOC ジェネレータ・コントローラ
FOC ジェネレータ・コントローラ
ジェネレータ・コントローラ・デザインには、DSP Builder に付属する FOC デザイン
例を使用します。このデザインは極めて標準的な FOC アルゴリズムであるため、こ
のホワイトペーパーでは詳しい説明を省きます。デザイン・リソースを 表 5 に示しま
す。
表 5. FOC ジェネレータ・コントローラの FPGA リソース
FOC ジェネレータの FPGA コントローラ
単精度浮動小数点
LE
7,976
レジスタ
20
乗算器 (18x18)
27
簡素化したハイブリッド EV パワー・コントロールの FPGA リ
ソース
完全なデザイン (VVC、DTFC-SVM IPM モーター制御、および標準 FOC ジェネレー
タ制御を含む) には、低コストで提供するオートモーティブ・グレードの Cyclone IV
FPGA (EP4CE40) を使用します。デザイン・リソースを 表 6 に示します。
表 6. 完全なハイブリッド EV パワー・コントロールの FPGA リソース
VVC
コントローラ
DTFC-SVM
IPM モーター・
コントローラ
FOC
ジェネレータ・
コントローラ
完全な
デザイン
Cyclone IV
FPGA のリソース
2,344
19,560
7,976
29,880
39,600
乗算器
(18 x 18)
34
59
20
113
116
M9K メモリ
—
27
17
44
126
fMAX
—
101 MHz
98.4 MHz
98.4 MHz
—
LE
結論
このホワイトペーパーでは、車載パワー・エレクトロニクスを FPGA で制御する利点
について紹介しました。アルテラは、多くのモーター制御機能と VVC DC-DC コン
バータ・コントロールを複数の MCU ではなく 1 つの FPGA に実装する、簡素化した
コントロール・アーキテクチャを開発しています。
また、磁気回路とコンデンサをできる限り小型化する高周波 VVC DC-DC コンバータ
用コントローラも開発しました。さらに、高性能 DTFC-SVM モーター・コントロー
ラを開発して IPM モーター固有のトルク・リップルを軽減しました。VVC および
DTFC-SVM コントローラのいずれも、FPGA 制御の速度と並列機能によって実現され
る高速制御を利用しています。
VVC および DTFC-SVM コントローラはアルテラ DSP Builder を使用して、Simulink お
よび DSP Builder と統合されたシミュレーション環境、コントローラのデザインを簡
素化する複数の浮動小数点機能の使用、コードの自動生成といった利点を利用しま
す。
2013 年 12 月
Altera Corporation
FPGA を活用した電気自動車およびハイブリッド電気自動車向け
パワー・エレクトロニクスの制御
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参考文献
参考文献
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イスおよび IC に関する IEEE 国際シンポジウム” 北九州、日本、pp.13-22、2004
年 5 月。
2. M. Olszewki、“Evaluation of the 2007 Camry Hybrid Synergy Drive System,” Oak Ridge
National Laboratory、2008 年。
3. H. Goto 他、“Simulation of IPM Motor by Nonlinear Magnetic Circuit Model for
Comparing Direct Torque Control with Current Vector Control,” 2008 第 13 回国際パ
ワー・エレクトロニクスおよびモーション・コントロール会議 (EPE-PEMC
2008)。
4. R. Cao 他、“Quantitative Comparison of Flux-Switching Permanent-Magnet Motors with
Interior Permanent Magnet Motor for EV, HEV, and PHEV Applications,” IEEE
TRANSACTIONS ON MAGNETICS、第 48 巻、第 8 号、2012 年 8 月。
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IPM Synchronous Motors,” Conf. Rec.IEEE-PESC、2008 年 6 月、pp. 50-56。
6. A. Daghigh 他、“A Modifid Direct Torque Control of IPM Synchronous Machine Drive
with Constant Switching Frequency and Low Ripple in Torque,” Proceedings of ICEE
2010、2010 年 5 月 11 ~ 13 日。
7. G. D. Andreescu 他、“Combined Flux Observer with Signal Injection Enhancement for
Wide Speed Range Sensorless Direct Torque Control of IPMSM Drives,” IEEE
Transactions on Energy Conversion、第 23 巻、第 2 号、2008 年 6月。
8. L. Tang 他、“An Investigation of a Modified Direct Torque Control Strategy for Flux and
Torque Ripple Reduction for Induction Machine Drive System with Fixed Frequency,”
IEEE Proceedings、2002 年。
9. D. Novotny、T. Lipo、“Vector Control and Dynamics of AC Drives,” Clarendon Press オックスフォード、1997 年。
謝辞

Jason Katcha, President, All Digital Power, LLC

Michael Parker, Sr. Manager, Altera DSP Product Planning

Daisuke Yoshida, Strategic Marketing Manager, Altera Automotive Business Unit

Ben Jeppesen, Motor Control Specialist, System Solutions Engineering, Altera Industrial
and Automotive Business Unit

Clive Davies, Automotive System Architect, Altera Automotive Business Unit
文書改訂履歴
表 7 に、本資料の改訂履歴を示します。
表 7. 文書改訂履歴
日付
2013 年 12 月
バージョン
1.0
変更内容
初版
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パワー・エレクトロニクスの制御
2013 年 12 月 Altera Corporation