偏微分と全微分

偏微分と全微分


x1
 x2 
 
x =  ..  ,
.
 
a1
 a2 
 
a =  .. 
.
an
xn
とする.また、f (x) = f (x1 , x2 , . . . , xn ) を n 個の変数 x1 , x2 , . . . , xn の関数とする.
定義 (偏微分) 1 つの変数 xi (i = 1, 2, . . . , n) に注目して他の n − 1 個の変数 xj , j ̸= i
に aj を代入して得られる 1 変数 xi の関数
f (a1 , . . . , ai−1 , xi , ai+1 , . . . , an )
が、点 xi = ai において微分可能のとき、f (x) は点 x = a において変数 xi に関して偏微
分可能 (partially differentiable) であるという.またその微分係数を、f (x) の点 x = a に
おける変数 xi に関する偏微分係数 (partial differential coefficient) といい、
∂f
(a),
∂xi
∂
f (a),
∂xi
∂xi f (a),
fxi (a)
などで表す.
f (x) が各点において変数 xi に関して偏微分可能であるとき、f (x) は変数 xi に関して
偏微分可能であるという.このとき、各点に対してその点における変数 xi に関する偏微
分係数を対応させることにより、新しい関数が得られる.この関数を f (x) の変数 xi に関
する偏導関数 (partial derivative) と呼び
∂f
(x),
∂xi
∂
f (x),
∂xi
∂xi f (x),
fxi (x)
などで表す.
例 2 変数 x, y の関数 f (x, y) = x3 + xy 2 は、x に関しても y に関しても偏微分可能で
∂f
(x, y) = 3x2 + y 2 ,
∂x
∂f
(x, y) = 2xy
∂y
変数 xi に関する偏導関数が、さらに変数 xj に関して偏微分可能であるとき、2 階偏導
関数 (2 次偏導関数ともいう) が考えられる.それを
∂ 2f
∂ ( ∂f )
(x) =
(x),
∂xj ∂xi
∂xj ∂xi
(fxi )xj (x) = fxi xj (x)
などで表す.特に、i = j のときは
∂2f
(x),
∂xi 2
fxi xi (x)
1
などと書く.一般に、k 階偏導関数を同様にして定義する.k 回偏微分可能で k 階偏導関数
(k 次偏導関数、k-th partial derivative) がすべて連続であるとき、C k -級の関数 (function
of class C k ) という.
変数 xi に関して偏微分して次に変数 xj に関して偏微分するのと、先に変数 xj に関し
て偏微分して次に変数 xi に関して偏微分するのとでは意味が違うが、実はつぎの定理が
成り立つ.
定理 f (x) が C 2 -級の関数ならば
∂ 2f
∂ 2f
(x) =
(x) for all i, j
∂xi ∂xj
∂xj ∂xi
この定理を繰り返し適用すると、f (x) が C k -級の関数であれば、f (x) を k 回偏微分す
るとき変数の順序にはよらず、どの変数に関して何回偏微分するかだけで k 階偏導関数が
定まることがわかる.
例 2 変数 x, y の関数 f (x, y) = x3 + xy 2 の 2 階および 3 階の偏導関数は次のように
なる.
∂2f
∂ 2f
∂ 2f
∂ 2f
=
6x,
=
=
2y,
= 2x,
∂x2
∂x∂y
∂y∂x
∂y 2
∂3f
∂3f
∂ 3f
∂ 3f
=
6,
=
0,
=
2,
=0
∂x3
∂x2 ∂y
∂x∂y 2
∂y 3
偏微分は 1 つの変数に注目して、他の変数をすべて定数とみなして 1 変数関数の微分
をするということであり、関数のグラフを超平面で切った切り口を見ているにすぎない.
関数の全体の様子を調べるためには、つぎの全微分の考え方が必要である.
定義 n 個の変数 x1 , x2 , . . . , xn の関数 h(x) が、 lim h(x) = 0 を満たすとき、点 a にお
x→a
いて無限小 (infinitesimal) であるという.さらに x ̸= a ならば h(x) ̸= 0 であるとき、
g(x)
=0
x→a h(x)
lim
を満たす関数 g(x) を、点 a で h(x) より高位の無限小 (higher order) であるといい、o(h(x))
で表す.ここでは、「x が a に近づくとき g(x) のほうが h(x) より速く 0 に近づく」とい
う性質が大切なのであって、関数 g(x) の具体的な形は問題ではない.o(h(x)) は特定の関
数を表す記号ではなく、x が a に近づくとき h(x) より速く 0 に近づく任意の関数を表す
記号、すなわち h(x) と比較したときの評価を表す記号である.なお、o(h(x)) と o(|h(x)|)
は同じ意味になることに注意する.
定義 (全微分) n 次横ベクトル c = (c1 , c2 , . . . , cn ) が存在して
f (x) − f (a) = c1 (x1 − a1 ) + c2 (x2 − a2 ) + · · · + cn (xn − an ) + o(|x − a|)
が成立するとき、f (x) は点 a において全微分可能である (totally differentiable) あるいは
∂f
(a) で表す.
簡単に微分可能である (differentiable) という.横ベクトル c を f ′ (a) または ∂x
2
o(|x − a|) は点 a で |x − a| より高位の無限小、すなわち x が a に近づくとき |x − a|
より速く 0 に近づくある関数を表す.したがって、f (x) が点 a において全微分可能であ
るとは
f (x) − f (a) − c1 (x1 − a1 ) − c2 (x2 − a2 ) − · · · − cn (xn − an )
=0
x→a
|x − a|
lim
が成立することと同じである.1 変数関数のときと同様に、全微分可能であるということ
は、点 a の近くでは f (x) が1次関数
c1 (x1 − a1 ) + c2 (x2 − a2 ) + · · · + cn (xn − an ) + f (a)
で近似できることを意味する.
n 次横ベクトル f ′ (a) を 1 × n 行列、n 次ベクトル x − a を n × 1 行列として行列の積
f ′ (a)(x − a) を考えると、これは 1 × 1 行列で、その唯一つの成分は
c1 (x1 − a1 ) + c2 (x2 − a2 ) + · · · + cn (xn − an )
である.よって、1 × 1 行列 f ′ (a)(x − a) とその唯一つの成分とを同一視すれば、
f (x) − f (a) = f ′ (a)(x − a) + o(|x − a|)
と書くことができる.
f (x) が点 a において全微分可能ならば、x → a のとき f (x) → f (a) となるので、f (x)
は点 a で連続である.
点 a において全微分可能ならば、xi 以外の n − 1 個の変数 xj , j ̸= i に aj を代入すると
f (a1 , . . . , ai−1 , xi , ai+1 , . . . , an ) − f (a) = ci (xi − ai ) + o(|xi − ai |)
が得られる.これは xi の関数 f (a1 , . . . , ai−1 , xi , ai+1 , . . . , an ) が点 xi = ai において微分可
能で、微分係数が ci であることを意味する.よって次のことがわかった.
定理 f (x) が点 a において全微分可能ならば、f (x) は点 a において各変数 xi (i =
1, 2, . . . , n) に関して偏微分可能で、
f ′ (a) の第 i 成分 =
∂f
(a)
∂xi
要するに、全微分の定義において x → a とするとき、x が i 番目の座標に沿って a に
近づくという特別な場合を考えたものが変数 xi に関する偏微分である.逆に f (x) が点 a
において各変数 xi (i = 1, 2, . . . , n) に関して偏微分可能であっても、点 a において全微分
可能とは限らない.しかし、次のことは成り立つ.
定理 f (x) が C 1 -級ならば全微分可能である.
注意 偏微分および偏導関数は全微分より調べやすいので、この定理は有用である.な
お、実際に扱う関数は通常は必要な回数だけ微分可能である.
3
変数 xi の変化を ∆xi = xi − ai 、関数 y = f (x) の値の変化を
∆y = f (x) − f (a) = f (a + ∆x) − f (a)
とおく.ここで、∆x は ∆xi を第 i 成分とする n 次ベクトルである.f (x) が点 a において
全微分可能ならば f (x) − f (a) = f ′ (a)(x − a) + o(|x − a|) だから、
∆y =
∂f
∂f
(a)∆x1 + · · · +
(a)∆xn + o(|x − a|)
∂x1
∂xn
である.これは ∆y が ∆x1 , . . . , ∆xn の 1 次式
∂f
∂f
(a)∆x1 + · · · +
(a)∆xn
∂x1
∂xn
で近似されることを意味する.
∆x → 0 の極限として、
dy =
∂f
∂f
(a)dx1 + · · · +
(a)dxn
∂x1
∂xn
と書くことがある.a を省略すると
dy =
∂f
∂f
dx1 + · · · +
dxn
∂x1
∂xn
となる.dy を y = f (x) の全微分 (total differential) という.
xi が ai から ∆xi だけ変化すると、それに伴って f (x) の値も f (a) から変化するが、そ
∂f
のときの ∆xi の寄与の比率の xi → ai に関する極限が偏微分係数 ∂x
(a) である.
i
2 変数 x, y の関数 f (x, y) のグラフは、xyz 空間内の z = f (x, y) を満たす点 (x, y, z) 全
部の集合であり、一般に空間内の曲面になる.
z − f (a, b) =
∂f
∂f
(a, b)(x − a) +
(a, b)(y − b)
∂x
∂y
を満たす点 (x, y, z) 全部の集合は、z = f (x, y) で定まる曲面上の点 (a, b, f (a, b)) でこの曲
面と接する平面、すなわち接平面 (tangent plane) である.接平面を定める方程式
z=
∂f
∂f
(a, b)(x − a) +
(a, b)(y − b) + f (a, b)
∂x
∂y
の右辺は、点 (x, y) = (a, b) の近くで f (x, y) を近似する 1 次関数である.
曲面および接平面を、y = b で定まる平面で切った切り口、すなわち y = b を満たす
点 (x, y, z) 全部の集合との共通部分は、xz 平面上の曲線 z = f (x, b) およびその曲線の
x = a における接線である.また x = a で定まる平面で切った切り口は、yz 平面上の曲線
z = f (a, y) およびその曲線の y = b における接線となる.
n は任意の自然数であったが、特に n = 1 の場合は偏微分と全微分の区別はなく、上
記の議論はそのまま 1 変数関数の微分に関するものとなる.言い換えると、上記の議論は
1 変数関数の微分を自然に n 変数の関数に対して拡張したものである.
4
問題
1.
次の 2 変数 x, y の関数 f (x, y) の 2 階までの偏導関数
求めよ.(注意 どの f (x, y) についても
(1) x3 y 2
(4)
√
x2 + y 2
(7) log(x2 + y 2 )
∂2f
∂x∂y
=
∂2f
∂y∂x
2
2
∂f ∂f ∂ 2 f
, ,
, ∂f, ∂f
∂x ∂y ∂x2 ∂x∂y ∂y 2
が成り立つ.)
x−y
x+y
(2) x4 − xy + y 4
(3)
(5) e−(x
(6) sin xy
2 +y 2 )
(8) Arctan
y
x
をすべて
(9) (x2 − y 2 )e−(x
2 +y 2 )
2. 2 変数 x, y の関数 f (x, y) について、次のことを証明せよ.

 xy
(x, y) ̸= (0, 0)
(1) f (x, y) = x2 + y 2
0
(x, y) = (0, 0)
で定義される関数 f (x, y) は、任意の点において x および y に関して偏微分可能であ
るが、点 (0, 0) において f (x, y) は連続ではないので点 (0, 0) では全微分可能でない.

xy sin √ 1
x2 + y 2
(2) f (x, y) =

0
(x, y) ̸= (0, 0)
(x, y) = (0, 0)
で定義される関数 f (x, y) は、任意の点において x および y に関して偏微分可能であ
るが、点 (0, 0) では偏導関数 ∂f
, ∂f はどちらも連続関数ではない.しかし、点 (0, 0)
∂x ∂y
で f (x, y) は全微分可能で、f ′ (0, 0) = (0, 0) である.
 3
 xy
(3) f (x, y) = x2 + y 2

0
(x, y) ̸= (0, 0)
(x, y) = (0, 0)
で定義される関数 f (x, y) は、任意の点において x および y に関して偏微分可能で、
偏導関数はそれぞれ

2
4
 3x y − 2x y
(x, y) ̸= (0, 0)
∂f
(x, y) = x2 + y 2 (x2 + y 2 )2

∂x
0
(x, y) = (0, 0)

3
2x3 y 2
 x
−
(x, y) ̸= (0, 0)
∂f
(x, y) = x2 + y 2 (x2 + y 2 )2

∂y
0
(x, y) = (0, 0)
である.点 (0, 0) における
に関する偏微分係数は
∂f
∂x
∂2f
(0, 0) = 0 で、 ∂f
∂y∂x
∂y
∂2f
∂2f
=
̸
である.
∂y∂x
∂x∂y
の y に関する偏微分係数は
∂2f
(0, 0)
∂x∂y
= 1 である.特に
5
のx
解答とヒント
∂f
∂x
= 3x2 y 2 ,
(2)
∂f
∂x
= 4x3 − y,
(3)
∂f
2y
= (x+y)
2,
∂x
2
∂ f
4x
= (x+y)
3.
∂y 2
(4)
∂f
= x(x2 + y 2 )−1/2 , ∂f
= y(x2
∂x
∂y
∂2f
∂2f
= ∂y∂x
= −xy(x2 + y 2 )−3/2 ,
∂x∂y
(5)
(6)
∂f
∂y
∂2f
∂x2
1. (1)
= 2x3 y,
∂f
∂y
∂f
∂y
∂2f
∂x2
= −x + 4y 3 ,
∂2f
∂x2
2x
= − (x+y)
2,
∂2f
∂x∂y
= 12x2 ,
4y
= − (x+y)
3,
+ y 2 )−1/2 ,
∂2f
∂y 2
∂2f
∂y∂x
=
∂2f
∂x∂y
∂2f
∂x∂y
∂2f
∂x2
2
∂f
= y cos xy,
∂x
2
∂2f
∂ f
= ∂y∂x
=
∂x∂y
∂f
∂y
∂2f
∂x2
= x cos xy,
=
=
∂2f
∂y∂x
∂2f
∂y∂x
∂f
= x22x
, ∂f
∂x
+y 2
∂y
2(x2 −y 2 )
∂2f
= (x2 +y2 )2 .
∂y 2
(8)
∂f
y
∂f
= − x2 +y
2,
∂x
∂y
∂2f
2xy
= − (x2 +y2 )2 .
∂y 2
=
2y
,
x2 +y 2
=
x
,
x2 +y 2
∂2f
∂x2
=
∂2f
∂x2
∂2f
∂y 2
= −1,
=
= 12y 2 .
2(x−y)
,
(x+y)3
= y 2 (x2 + y 2 )−3/2 ,
= x2 (x + y 2 )−3/2 .
1)e−(x
2 +y 2 )
,
= −x2 sin xy.
2(y 2 −x2 )
,
(x2 +y 2 )2
=
= 2x3 .
= −y 2 sin xy,
∂2f
∂y 2
cos xy − xy sin xy,
∂2f
∂y 2
= 6x2 y,
2
2
2
2
2
∂f
= −2xe−(x +y ) , ∂f
= −2ye−(x +y ) , ∂∂xf2 = 2(2x2 −
∂x
∂y
2
2
2
2
2
∂2f
∂2f
= ∂y∂x
= 4xye−(x +y ) , ∂∂yf2 = 2(2y 2 − 1)e−(x +y ) .
∂x∂y
(7)
(9)
= 6xy 2 ,
2xy
,
(x2 +y 2 )2
∂2f
∂x∂y
∂2f
∂y∂x
=
∂2f
∂x∂y
2
2
∂f
= 2x(1 − x2 + y 2 )e−(x +y ) , ∂f
= 2y(−1 − x2
∂x
∂y
(
)
2
2
∂2f
= 2 (1 − 2x2 )(1 − x2 + y 2 ) − 2x2 e−(x +y ) ,
∂x2
2
2
∂2f
∂2f
= ∂y∂x
= 4xy(x2 − y 2 )e−(x +y ) ,
∂x∂y
(
)
2
2
∂2f
= 2 (1 − 2y 2 )(−1 − x2 + y 2 ) + 2y 2 e−(x +y ) .
∂y 2
=
= − (x24xy
,
+y 2 )2
∂2f
∂y∂x
=
+ y 2 )e−(x
y 2 −x2
,
(x2 +y 2 )2
2 +y 2 )
,
(a,b)
(a,b)
と f (a,b+h)−f
は h → 0 のときどちらも
2. (1) 点 (a, b) をひとつ定める. f (a+h,b)−f
h
h
収束することが f (x, y) の定義からわかるので、f (x, y) は点 (a, b) において x および y に
関して偏微分可能である.偏導関数は
{ 3 2
y −x y
(x, y) ̸= (0, 0)
∂f
(x2 +y 2 )2
(x, y) =
∂x
0
(x, y) = (0, 0)
{ 3 2
x −xy
(x, y) ̸= (0, 0)
∂f
2
2 2
(x, y) = (x +y )
∂y
0
(x, y) = (0, 0)
である.x ̸= 0 ならば f (x, x) = 12 であり、これは x → 0 のとき f (0, 0) = 0 に収束しない
ので、f (x, y) は点 (0, 0) で連続ではない.なお、y ̸= 0 ならば ∂f
(0, y) = y1 であり、これ
∂x
は y → 0 のとき収束しないので、 ∂f
は点 (0, 0) で連続ではない.同様に、 ∂f
も点 (0, 0) で
∂x
∂y
連続ではない.
(2) (x, y) ̸= (0, 0) を極座標を用いて x = r cos θ, y = r sin θ (r > 0) と表すと、
1
f (x, y)
√
= r cos θ sin θ sin
2
2
r
x +y
6
となる.r → 0 のときこの右辺は 0 に収束するので、f (x, y) は点 (0, 0) において全微分可
能で f ′ (0, 0) = (0, 0) である.f (x, y) の x に関する偏導関数は
∂f
(x, y) =
∂x
{
y sin √
1
x2 +y 2
− √ x2
2y
(
x +y 2 )3
cos √
1
x2 +y 2
0
(x, y) ̸= (0, 0)
(x, y) = (0, 0)
である.(x, y) ̸= (0, 0) のとき、この右辺に x = r cos θ, y = r sin θ を代入すると
r sin θ sin
1
1
− cos2 θ sin θ cos
r
r
となるが、これは r → 0 のとき収束しない.よって、点 (0, 0) において偏導関数
続ではない.y に関する偏導関数についても同様である.
(3) 偏微分の定義にしたがって確かめることができる.
7
∂f
∂x
は連