未臨界度監視のための核分裂生成希ガス測定方法の検討 (株)ナイス 臼田重和、内藤俶孝、中村正則 [緒言] 過酷事故を起こした福島第一原発(F1)では、”再臨界の監視として短半減期希ガス(135Xe)の発生の 有無を確認する”としている。廃炉作業などの際、大量の被ばくを避けるには、臨界の接近をより早い時期 に感知し、警報を発することが必須である。従来の監視方法は、臨界近傍で急速に増大する中性子束を監 視していたが、事故後の炉心は複雑な構造でバックグラウンドが高く、炉心由来の中性子測定が困難であ る。このような場合、核分裂生成希ガス核種の同位体相関を線スペクトル測定により求め、未臨界度を監 視する方法は、有効な手段である[1]。この手法を F1 事故炉心に適用できるか、検討した。 [監視方法] 表 1 に過酷事故時に検出される可能性のある放射性希ガス核種とその関連データ[2]を示す。 単純化して、例えば 235U の熱中性子誘導核分裂と 裂収率(Y)の比(135Xe/88Kr)に注目すると、この比は 244Cm 235U の自発核分裂で生じる について 1.86 に対し 135Xe 244Cm と 88Kr の累積核分 では約 17.6 となり、 一桁近く異なる。中性子実効増倍率(keff)と炉内の核分裂時における Xe 及び Kr 核種の生成量比 R0(Xe/Kr) には以下の関係がある[1]。下式より、R0(Xe/Kr)を測定して keff を求める。 Y ( Xe) R0 ( Xe / Kr ) YU ( Kr ) 1 keff U keff YCm ( Kr ) R0 ( Xe / Kr ) YCm ( Xe) 炉内での核分裂から放射性希ガス核種の測定までに時間遅れなどがあるために R0(Xe/Kr)を測定値から推 測する精度が重要となる。Y は核分裂収率で殆ど定数であり、希ガスの分離・精製及び線測定に当たって は、測定対象となる核種の半減期に見合う短時間の試料導入、分離・精製及び測定がポイントとなる。 [結論と課題] R0(Xe/Kr)を求める場合、燃料デブリ領域から格納容器を経由して測定装置までの移行率や 分離・精製時の回収率など誤差を含む要因が多数存在する。化学的・物理的挙動がほぼ等しい同位体相関 をとることにより、これらの要因はかなり解消できる。そのため、R0(Xe/Kr)の推定精度が向上し、燃料デ ブリの有効な未臨界度監視が期待できる。本法について実験的に検証し、プレカーサーの挙動に起因する 問題点などを整理し、keff が効果的に得られる条件を求める必要がある。さらに、 135Xe/88Kr 以外の希ガ ス核種の同位体相関の意義、235U や 244Cm 以外の核分裂性核種の寄与など検討し、本法の信頼性を高める。 表 1 過酷事故時に検出される可能性のある放射性希ガス核種とその関連データ[2] 核種 (半減期) 85mKr 87Kr 88Kr (4.48 h) プレカーサー 主な線[MeV] (半減期) (放出率[%]) Y(235U) Y(244Cm) (核分裂収率[%]) (自発核分裂収率[%]) Y(235U)/ Y(244Cm) 85Br (2.9 m) 0.305 (14) 1.400.11 0.2120.034 6.60 (76 min) 87Br (55.6 s) 0.403 (50) 2.600.05 0.3640.164 7.13 (2.84 h) 88Br (16.6 s) 2.392 (35) 3.510.08 0.4230.271 8.31 (8.04 d) 0.164 (1.9) 0.03180.009 0.03310.0101 0.962 0.233 (10) 0.1960.125 0.1750.111 1.12 0.081 (37) 6.694.28 5.663.62 1.18 0.527 (81) 1.220.12 1.760.54 0.694 0.250 (90) 6.520.05 7.470.30 0.873 0.258 (30) 6.290.09 6.531.04 0.964 131mXe (11.8 d) 133mXe (2.19 d) 133Xe (5.25 d) 135mXe 135Xe 138Xe (15.7 min) (9.10 h) (14.1 min) 131I 133I (20.9 h) 135I (6.61 h) 138I (6.5 s) [1] 内藤 他, 日本原子力学会「2013 年秋の大会」J48, 八戸工業大学, 2013 年 9 月 3-5 日. [2] K. Shibata, et al., "JENDL-4.0: A New Library for Nuclear Science and Engineering," J. Nucl. Sci. Technol. 48(1), 1-30 (2011).
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