Document 673233

層状構造を持つマンガン酸化物の熱電特性評価
豊田丈紫*
佐々木直哉*
嶋田一裕*
奥 部 真 樹 **
佐 々 木 聡 **
緒言
近年,低環境負荷社会の実現のため,産業分野から発生する廃熱回収技術が求められている。筆者らは,耐
熱・耐環境性に優れるセラミックス熱電材料の合成手法およびセラミックス製熱電変換モジュールによる発電
と廃熱回収への応用の検討を行ってきた。一方で,熱電発電システムを普及するためには周辺技術の高度化と
と も に 熱 電 材 料 の さ ら な る 高 性 能 化 が 必 要 不 可 欠 で あ り ,p型 と 同 等 性 能 の 発 電 効 率 10%超 を 達 成 す る n型 材 料 開
発 が 必 要 と な っ て い る 。そ こ で ,本 研 究 で は 新 規 n型 熱 電 酸 化 物 の 開 発 を 目 的 に 自 然 超 格 子 構 造 を 有 す る 層 状 マ
ンガン酸化物の合成とその熱電特性の評価を行った。
熱電性能と層状マンガン酸化物の構造
Perovskite layer
Ca
熱 電 材 料 の 性 能 は 無 次 元 性 能 指 数 (ZT)と 呼 ば れ る 指 標 に よ っ て 決
定 さ れ る 。 ZTは , 材 料 の 持 つ ゼ ー ベ ッ ク 係 数 (S), 電 気 伝 導 率 (σ),
Rock-salt layer
(CaO)
熱 伝 導 率 (κ)な ら び に 絶 対 温 度 (T)を 用 い て 以 下 の よ う に 表 さ れ る 。
ZT =
S σ
Mn
Perovskite layer
(CaMnO3)2
2
κ
T
(1)
O
Rock-salt layer
セ ラ ミ ッ ク ス 系 材 料 で は Na x CoO 2 が 変 換 効 率 で 約 10%に 相 当 す る
ZT=1 を 達 成 し , 高 い p 型 熱 電 性 能 を 示 す こ と が 知 ら れ て い る 。
c
Perovskite layer
Na x CoO 2 は 結 晶 中 に 複 数 の ブ ロ ッ ク 構 造 を 持 つ 自 然 超 格 子 構 造 の 層
状コバルト酸化物であり,高い導電性と層間の界面効果による低熱
伝 導 性 を 両 立 す る こ と で 優 れ た 熱 電 性 能 を 示 す 。し か し な が ら p型 と
a
図1
CaO(CaMnO3)2の 結 晶 構 造
n型 の 2種 類 の 材 料 で 構 成 す る 熱 電 素 子 を 形 成 し た 場 合 ,n型 酸 化 物 の
性能が乏しく素子の発電性能が低くなる課題がある。熱電材料の高
La2-2xCa1+2xMn2O7
性能化を達成するためには,高いゼーベック係数と電気伝導率とと
x=0.75
も に , 低 い 熱 伝 導 率 を 併 せ 持 つ n型 材 料 の 開 発 が 必 要 で あ る 。
x=0.8
n型 を 構 成 す る Mn化 合 物 は ペ ロ ブ ス カ イ ト 構 造 を 基 本 と し た 複 数
特 性 に 優 れ た 候 補 が 存 在 す る 可 能 性 が あ る 。ペ ロ ブ ス カ イ ト 構 造 は ,
CaO(CaMnO 3 ) n (n=1,2,・・・)で 表 さ れ る Ruddlesden-Popperホ モ ロ ガ ス 相
x=0.85
Intensity
の層状化合物を有することが知られており,これらの構造から熱電
x=0.9
(RP相 )が 存 在 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 n=1で は CaO層 と CaMnO 3 層
x=0.95
が 交 互 に 積 層 し , n=2で は 図 1の よ う な 層 状 構 造 を と り , CaOブ ロ ッ
ク 層 と (CaMnO 3 ) 2 ブ ロ ッ ク 層 の 2層 が 交 互 に 積 層 し て い る 。 こ れ は 熱
x=1.0
力学的に安定な超格子構造と捉えられ,量子サイズの界面効果によ
り層界面においてフォノンが散乱され熱伝導率が低下することが期
待 さ れ る 。そ こ で ,CaO(CaMnO 3 ) n (n=2)の 材 料 合 成 を 行 う と と も に 結
晶 内 の Mn イ オ ン の 価 数 制 御 を 目 的 と し た Laド ー プ に よ る 熱 電 特 性
の評価を行った。
*
化学食品部
**
10
20
30
40 50
2θ / °
60
図 2 La2-2xCa1+2xMn 2O7の
X線 回 折 パ タ ー ン
東京工業大学応用セラミックス研究所
-1-
70
80
試料合成
本 研 究 で は ,ソ フ ト 溶 液 プ ロ セ ス の 一 つ で あ る 液 相 沈 殿 法
La2-2xCa1+2xMn2O7
10
で 構 成 金 属 元 素 の 原 子 レ ベ ル で の 混 合 が 可 能 で あ り ,La添 加
量を精密に制御することが要求される複合酸化物系熱電材
料 の 合 成 に 適 し て い る 。 出 発 原 料 と し て Ca(NO 3 ) 2 ・ 4H 2 O ,
La(NO 3 ) 3 ・6H 2 O,Mn(NO 3 ) 2 ・6H 2 Oを 用 い て ,そ れ ぞ れ 0.1mol/L
lnσT / S・K・cm-1
を 採 用 し た 。本 手 法 は 出 発 原 料 を 溶 液 ベ ー ス で 混 合 す る こ と
x = 0.8
x = 0.85
x = 0.75
8
x = 0.9
x = 0.95
6
の 溶 液 を 作 成 し た 。こ の 溶 液 を La 2- 2x Ca 1+ 2 x Mn 2 O 7 (x= 0.75, 0.8,
x = 0.975
0.85, 0.9, 0.95, 0.975, 1.0)と な る よ う に ビ ー カ ー に 秤 量 し た 。
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
T-1 / 10-3 K-1
次 に 金 属 イ オ ン を 安 定 化 さ せ る た め , 金 属 イ オ ン 量 の 3倍 の
キ レ ー ト 剤 (ク エ ン 酸 一 水 和 物 )を 加 え て 混 合 溶 液 を 作 成 し
図3
抵抗率測定結果
た 。こ の 溶 液 を 200℃ で 8時 間 乾 燥 さ せ ,400℃ で 4時 間 保 持 し
0
を得た。焼成体を乳鉢で粉砕して再びペレットに成型し,
1250 ℃ で 24時 間 焼 成 後 に 急 冷 処 理 す る こ と で 目 的 の 複 合 酸
化物を合成した。
特性評価
得 ら れ た 試 料 は , X 線 回 折 装 置 (BrukerAXS( 株 ) 製
D8
Seebeck Coefficient / μV / K
て 熱 分 解 処 理 し た 後 ,600℃ で 1時 間 仮 焼 成 さ せ て 金 属 酸 化 物
x = 0.75
x = 0.8
x = 0.85
x = 0.9
x = 0.95
x = 0.975
x = 0.995
x = 1.0
-100
-200
-300
-400
ADVANCE) に て X 線 回 折 パ タ ー ン を 測 定 し 結 晶 構 造 の 同 定
La2-2xCa1+2xMn2O7
400
600
を 行 っ た 。さ ら に リ ー ト ベ ル ト 解 析 を 行 い 結 晶 構 造 パ ラ メ ー
図4
タ の 精 密 化 と La原 子 の 席 占 有 率 を 求 め た 。そ の 結 果 ,得 ら れ
800
1000
Temperature / K
1200
ゼーベック係数測定結果
たすべての試料が層状構造を持つ単一組成であることが分
2.5
か っ た (図 2)。 ま た , 得 ら れ た 試 料 の 電 気 抵 抗 率 (図 3), ゼ ー
RZ2001i)で 評 価 す る と と も に , x=0.9と 1.0に お け る 熱 伝 導 率
( 図 5) を レ ー ザ ー フ ラ ッ シ ュ 法 ( ア ル バ ッ ク 理 工 ( 株 ) 製
TC-9000) に て 測 定 し た と こ ろ 800K ま で 1(W・ m - 1 ・ K - 1 ) 以 下 を
示 し た 。 こ れ は , ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 の 熱 電 材 料 (CaMnO 3 )と
比 較 し て 低 い 値 で あ り ,ヴ ィ ー デ マ ン - フ ラ ン ツ 則 か ら こ の
La2-2xCa1+2xMn2O7
Termal Conductivity / Wm-1K-1
ベ ッ ク 係 数 ( 図 4) を 熱 電 特 性 評 価 装 置 ( オ ザ ワ 科 学 ( 株 ) 製
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
熱伝導率の低下は結晶構造に由来するものであることが分
x = 0.9
x = 1.0
400
600
800
1000
1200
Temperature /K
か っ た 。 無 次 元 性 能 指 数 ZTは , x=0.975で 最 も 高 い 値 が 得 ら
れ た (図 6)。
図5
熱伝導率測定結果
RP相 を 持 つ 層 状 マ ン ガ ン 酸 化 物 の 精 密 合 成 に つ い て 検 討
し ,液 相 沈 殿 法 を 用 い る こ と で 層 状 構 造 の 単 一 組 成 が 得 ら れ
た 。 熱 電 特 性 の 評 価 か ら n型 の 熱 電 特 性 と 低 い 熱 伝 導 率 を 示
し た 。 結 晶 中 の キ ャ リ ア ー の 最 適 化 を 行 う こ と で ZTの 上 昇
が 見 込 め る た め , 新 た な 高 温 用 の n型 酸 化 物 熱 電 材 料 と し て
利用できる。
Dimensionless figure of merit (ZT)
0.02
結言
0.01
0.00
200
論文投稿
図6
Jpn. J. Appl. Phys. 2011, vol.50, p. 041101.
-2-
x=1.0
La2-2xCa1+2xMn2O7
x=0.995
x=0.975
x=0.95
x=0.9
x=0.85
x=0.8
x=0.75
400
600
800
Temperature / K
1000
1200
無次元性能指数の組成依存性