;""^^^、 NO.417 パーキンソン病の病因と治療 佐世保市立総合病院 神経内科藤本武士、演崎盲一 ワ^^ パーキンソン病は安静時振戦や筋固縮、無動 を注射した学生が、パーキンソン病を発症したこ 動作緩慢などの運動症状を特徴とし、自律神経障 害や精神症状など様々な全身症状も合併する進行 性の神経変性疾患です。中脳黒質のドパミン神経 細胞の減少により、これが投射する線条体におい とで知られるようになった物質です。 MPTPは 脳内(主にアストロサイトとセロトニン作動神 ホ動のミトコンドリアタ湖莫に存在するモノアミン 酸化酵素(MAO,主としてMAO-B)に代謝さ てドパミン不足と相対的なアセチルコリンの増加 れて MPP十となり、ドパミントランスポーター がおこり、機能がアンバランスとなることが原因 と老えられています。パーキンソン病の日本での 有病率は、人口 1,000人当たりに 1人程度と言わ によりドパミン神経に特異的に取り込まれてラジ れており、日本全体で12万人以上の患者さんが いると推定されています。発病の詳細メカニズム は未だ不明で根本的な治療法もまだ確立してぃま せんが、昨今の遺伝子研究・分子生物学の発展は パーキンソン病の原因に迫る研究も進んでおり、 根本治療の確立を根ざした努力がなされてぃます。 対症的療法は数十年にわたって研究・発展してお り、予後の改善や患者QOLの向上にもっながっ ています。パーキンソン病の発症様式には孤発性、 若年性、家族性がありますが、今回はその中で最 も多しq瓜発性パーキンソン病の病因に関する仮説 や治療について松庸兇したいと思います。 カルとして作用し、ミトコンドリア呼吸鎖阻害、 膜電位消失、各種酵素の活性化などによりドパミ ンニューロンの変性を引き起こすと考えられてぃ るものです。また遺イ云陛パーキンソン病のうち、 傷害ミトコンドリアを選択的に除去したり、機能 制御に必要な PINK1と P雛kin と呼ぱれるタンパ クの合成に関わる PINK1遺伝子ならびにParkin 遺伝子の異常によって家族性にパーキンソン病を 発症してくる事が知られるようになりました。孤 発性パーキンソン病でもこのようなシステムの破 綻が関与しているのではないかと考えられてぃま す。 酸化ストレス 好気的呼吸における電子伝達系の過程では>必 1.孤発性パーキンソン病の病因 孤発性パーキンソン病の発症要因につぃては現 在、多数の遺伝子と環境因子が組み合わさって起 こってくる多因子疾患だろうと推測されてぃます (図)。以下に説明する仮説もこれらの要因が積 然n勺にt舌、1生酉菱素手重(reactive oxygen species, ROS) やt舌、1生至素手重(reactive nitrogen spedes, RNS) が生成されますが、通常これらは生成されるとす ぐに生体内の抗酸化酵素・抗酸化物によって取り 除かれます。しかし何らかの理由で抗酸化作用が み重なることで発病に至るものと考えられてぃま 不十分になると、t舌陛酸素種は脂質過酸化を起こ す。 し、さらにタンパク・ DNA を酸化し細胞を傷害 してしまいます。これが酸化ストレスです。 ミトコンドリア機能障害 ドパミンがモノアミン酸化酵素で代謝される際 methy・phenyl・tetrahydopyridine (MPTP)な に過酸化水素が生じ、これは2価の鉄イオンと反 どのミトコンドリアに機能障害を起こす薬物に よってヒトや実'験動物においてバーキンソン病様 の病態が起こること、孤発性のパーキンソン病に おいてミトコンドリアの呼吸鎖の機能障害が観察 応して非常に反応性の高いROSの一種ヒドロキ されることなどから、パーキンソン病原因の 1つ の仮説としてミトコンドリアの機能障害が想定さ れるようになりました。 MPTP は 1970年代にア メリカでデザイナードラッグとして合成へロイン 54 シラジカルを生じます。抗酸化作用が不十分にな ると、これらのROSがドパミン作重力性細胞の変 性を起こし、さらにドパミンの酸化による中間代 謝産物そのものが、酸化ストレスの原因となりえ ます。抗酉剣ヒ作用をもつ DJ・1 タンパクをコード する D/・1遺伝子の変異が家力美性パーキン病の原 因(P加K7)となることからも酸化ストレスが 長崎県医師会机第820号平成26年5月 餓麺添3 NO.417 パーキンソン病の原因になるというものです。 召SrZが感受性を持つことが分かっています。 ユビキチンープロテオソーム障害 また稀な遺伝疾患であるゴーシェ病のユダヤ人 家系では有意にパーキンソン病患者が多いことか 細胞内で不要なタンパク質が分解・除去される ら、さまざまな国でゴーシェ病の原因遺伝子 際にはユビキチンがまずその蛋白に結合すること G召A変異を調べたところ、孤発性パーキンソン で、即座にプロテアゾームシステムが機能し、ア 病患者で有意にGBA保因者が多いことが分かり ミノ酸まで分解されます。細胞内にはユビキチン ました(図)。 を回収し、再利用するようなシステムがあり、脳 神経細胞でこれを司っているのがUCH・LI (図) 遺伝りスクとパーキンソン病 (ubiquit血 Carboxy・terln山alhydrolase LD とよ ばれる加水分解酵素です。 UCH・L1の機能が低下 すると、細胞内のユビキチンプール唄宇蔵)が減 少してしまい、次第に不要なタンパク質が細胞内 に蓄積され、異常な凝集体を形成し細胞傷害を起 こすと考えられています。 UCH・L1遺伝子の異常 が遺イ云性パーキンソン病を引き起こすことも知ら SNPS (single nucleotide po】ymorphisms) 遺伝子 α・synucleⅢ ODDS比 1.37 LRRK2 1.39 Rale mⅧ肌[ Bstl Park}6 GBA 1.24 1.30 28.0 環境りスクとパーキンソン病 環境要因 農薬曝露 井戸水 金属曝露 ODDS比 1.94 5.37 ].26 10.9 1.88 10.9 れています。 Ⅱ.治療 薬物療法、運動療法、手術療法があります。20Ⅱ αシヌクレイン パーキンソン病の病理では肉眼的には黒質 ニキニ 年に日本神経学会が発表した治療ガイドラインを 斑核の色素脱失がみられ、組織学的には、黒質や 青斑、迷走神経背側核、視床下部、交感神経節な どの神経細胞脱落が生じていて、典型的には残存 神経細胞やその突起の一部にレビー小体(Lewy 参考に述べていきたいと思います。 body)という特徴的な封入体が認められます。 経変陛疾患、の中で薬剤が最も豊富にあり、専門医 レビー小体には、りン酸化したαーシヌクレイン でさえしぱしばその選択に迷います。効果、副作 と呼ばれる異常な蛋白が凝集体を作り蓄積してい 用だけでなく、薬価も考慮する必要があります。 ることがわかってきました。最近の研究ではこの 以下に主な抗パーキンソン病薬(以下、抗パ薬) を取り上げたいと思います。薬剤名は商品名で記 薬物療法 パーキンソン病治療の中心となるものです。神 リン酸化αーシヌクレイン(可溶性オリゴマー) に神経毒性があり細胞膜障害や細胞内G01即輸送 を障害すること、細胞間輸送され病理学的な伝播 に拘ってぃる可能性があることが推定されていま 載していることをお断りしておきます。 Lードパー般的には単剤よりも末キ肖性ドパ脱 す。 パストン、マドパー、ネオドパゾールなど)が使 感受性遺伝子 一般にある疾患にかかるりスクを高める遺伝因 子を疾,患感受性遺伝子と呼びます。パーキンソン 病患者と非患者(対1粉のゲノムワイド関連解析 (多数の遺伝子の一塩基多型を比較することで感 受性の高い遺伝子を選び出す解ネ月によって、α・ Sy加d認'πおよび三RRκ2が白人と日本人に共通 な感受陛遺伝子として発見され、さらには新たな 遺伝子PARK16 住隹定責任遺伝子ⅣびCKsb、 炭酸酵素阻害薬との配合薬(メネシット、ネオド 用されます。歴史のある薬ですが、現在でもその 効果は抗パ薬の中で最も強力と言われています。 しかし、 5年、 10年と服用していると、薬効時 間の短縮(ウェアリングォフ)、不随意運動(ジ スキネジア)などの運動合併症を来しゃすくなり ます。神経毒性が懸念されたこともありましたが、 臨床用量では問題ないと言われています。運動合 併症の予防には、線条体ドパミン受容体を間欠的 にではなく持続的に刺激することが重要であると 考えられてきており、徐放製剤や、十二指腸に 長崎県医師会級第820号平成26年5月 55 餓姦溺 NO.417 チユーブを挿入してしードパ含有製剤をポンプで 害薬(SSRD、セロトニン・ノルアドレナリン再 持続注入する治療法の開発が行われてぃます。 ドパミンアゴニスト麦角系と非麦角系に大別 されます。前者にぺルマックス、カバサール、後 取り込み阻害薬(SNRD との併用は、セロト 者にピ・シフロール、レキップ、ニュープロパッ 他にも、トレリーフ、ノウリアストなどの新薬 がありますが、残念ながら、現時点での薬物療法 はまだ対症療法にすぎません。神経細胞死を抑え、 病気の進行を抑制する薬にっいては、その可能性 が示唆されているものもありますが、明言できる ものはありません。しかし、 L ードパ登場後、寿 命は5、 6年延びたと言われており、現在、パー キンソン病患者の生命予後は一般の平均寿命とほ ぼ変わりありません。対症療法とはいっても、そ チ、アポカイン皮下注などがあります。前述のよ うに、線条体ドパミン受容体を持続的に刺激する 目的で、ビ・シフロール、レキップには徐放製剤 があります(それぞれミラペックス LA、レキッ プCR)。ニュープロパッチは抗パ薬で初めての 貼付薬であり、 1日安定した薬剤の血中濃度を維 持することができます。貼付部位に接触性皮膚炎 を起こすことがあり、保湿剤などで皮膚をケアす る必要があります。ドパミンアゴニストの副作用 としては、幻覚、妄想といった精神症状の他、突 発性睡眠、日中過眠、衝動制御障害があります。 突発性睡眠、日中過眠のため、自動車の運転、機 械の操作、高所作業などの危険を伴う作業に従事 する方には推奨されません。特に非麦角系の添付 文書では警告としてこの点が強調されてぃます。 衝動制御障害とは精神症状のーつであり、抗パ薬 の乱用、ギャンブル依存、買いあさり、性欲亢進 などを指し、ドバミンアゴニスト服用者の 1割に みられるとも言われています。また、麦角系の副 作用として心臓弁膜症、心肺後腹膜線維症があり、 同薬は原則としてドパミンアゴニストの第一選択 にはなりません。 ユニークなドパミンアゴニストとして、アポカ イン皮下注があります。これはインスリンのよう な自己注射製剤であり、動きが悪くなる「オフ症 状J の時に頓用で使用されるものです。効果は注 射後10 20分で発現し、約1時間持続します。 家族などの介護者に打ってもらケ必要があります。 モノアミン酸化酵素B (MAOB)阻害薬本 邦では工フピーのみです。脳内に存在する MAOB ン症候群を誘発する可能性があるため、禁忌と なっています。 の間の生活の質を改善することが可能です。 薬物療法の開始は、本疾患、により生活や仕事.に 支障がある場合に考慮されます。では、どの薬か ら始めたらよいでしょうか。ガイドラインでは、 治療開始薬としてしードパとドパミンアゴニスト が挙げられています。70 75歳以上の高齢、認 知機能障害・精神症状の合併、当面の症状改善を 優先させる特別な事情がある場合には前者で、そ れ以外の場合には後者で開始するように推奨され ています。米国では、 MAOB 阻害薬も軽症例の 開始薬として推奨されています。 また、パーキンソン病では、幻覚、妄想、うっ などの精神症状や認知機能障害がみられることが あります。抗バ薬の副作用である場合もあります が、認知症を伴うパーキンソン病の可能性もあり ます。認知症を伴うパーキンソン病は、最近メディ アでもよく取り上げられるレビー小体型認知症と ほぼ同じ病態と考えられています。両疾患におい て、アルツハイマー型認知症の薬であるアリセプ ト、りバスタッチ、イクセロンが認矢畍幾能だけで なく精神症状にも有効と言われていますが、本文 執筆時点ではまだ保険適用外です。 はドパミン、セロトニンを分解します。 MAOB 阻害薬はその作用を抑制することにより、脳内の 運動療法 ドパミン濃度を 40 50%上げることができると 論文のメタ解析によって身体機能、健康関連 QOL、筋力、バランス、歩行速度の改善に有効 であることが示されています。「パーキンソン病 体操」といったものも考案されてぃます。 も言われています。 Lードパ含有製剤との併用が 保険適応となっています。平成23年9月、単独 使用も保険審査上認めるという公知申請がなされ ましたが、現在、単独使用での治.験が進行中です。 三環系抗うっ薬、選択的セロトニン再取り込み阻 56 長崎県医師会報第820号平成26年5月 餓廷蓬3 NO.417 手術療法 脳深部刺激療法が代表的な治療法です。一円玉 くらいの穴を頭蓋骨に開けて直径lmmの電極を 脳の特定の部位に挿入し、皮下に埋め込んだ刺激 装置にっないで、その部位を刺激します。刺激に よってその部位の機能が抑制されると言われてい ます。振戦を軽減させる、オフ症状の時間を短縮 するなどの効果が得られます。しかし、これもあ くまで対症療法であり、精神症状などの合併症も あり得ます。非常に専門性の高い治療法であり、 本県では長崎川棚医療センターでのみ行われてい ます。実施前に神経内科、脳神経外科の合同チー ムによりその適応が慎重に検討されます。 今年2月下旬、京都大学が炉S細胞を使った パーキンソン病治療の臨床研究を始めるとの報道 がありました。早けれぱ来年にも開始されるそう です。日本はこれまでもパーキンソン病の病態解 明、診断、治療について世界に多大な貢献をして きました。これからもこの日本からエビデンスレ ベルの高い臨床試'験が発信されることを期待して、 この文を締めくくりたいと思います。 訟 ^ ノ毛 三 ▲三 ず P司 く渉ス'y虜までご勿入nでだγメまず.リ 所得補償保険は、病気やケガによる就業不能時の所得を補償する保険です0 お支払いする保険金 就業不能のとき、 1回の就業不能に対する補償期間は、免責期間(7日間)を超える就業不能期 間で、かっ、最長1年問を限度に補償します。なお、ご希望で入院時のみ免貝期問を0日にするこ とも可能です。 また、ケガで180日以内に死亡され、後遺障害を被った時は、傷害特約附帯の場合、傷害特約保 険金が支払われます。 お支払の伊」・・・・月額50万円コースの場合(傷害特約附帯の場合) 田病気やケガで休業の時(所得補償保険金) 病気で動けなくなった日=4月24日 冶癒日= 11月15日 保険金支払対象期問・・・5月1日 Ⅱ月15日(6 ケ月と 15日) お支払いする保険金は 15日 30日 50万円X6ケ月+50万円X^日 325 万円 ②傷害で死亡の時(傷害死亡保険金) 傷害特約の保険金額が支払われます→支払保険金2,500万円 ■詳しい資料をご希望の方は、次へこ連絡下さい。 有長崎県医師損保代理店 〒852-8532長崎市茂里町3番27号長崎県医師会内 TEL 095 (814) 8144 (代) FAX 095-844-1110 長崎県医師会穀第820号平成26年5月 57
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