2 酸化膜中における水素の構造解析

<トライアルユース制度トピックス>
ジルカロイ-2 酸化膜中における水素の構造解析
日本核燃料開発株式会社 松永純治,樋口徹,坂本寛,栄藤良則
沸騰水型軽水炉で使用されている燃料被覆管
はジルカロイ-2(Zry-2)製で、使用中に冷却水に
より酸化され水素を吸収します。Zry-2 は苛酷な
環境下で良好な性能を発揮していますが、燃料
の健全性向上を図るため、さらに優れた材料の
開発を進めています。特に水素吸収は材料を脆
化させる可能性があるため、水素吸収の抑制は
重要な課題の一つです。Zry-2 の水素吸収は表面
に形成された酸化膜を経由して生じますが、
Zry-2 酸化膜中の水素挙動に関する情報はほと
んど得られていないため、中性子回折による酸
化膜の構造解析により、酸化膜中の水素に関す
る情報を得ることを目的に本研究を行いました。
Zry-2 を高温重水蒸気中で酸化させた ZrO2 粉
末試料、および Zry-2 板材表面に様々な条件で
酸化膜を形成させた試料の中性子回折実験を行
いました。粉末の実験には JRR-3 の高分解能粉
末中性子回折装置(HRPD)を、板材の実験には中
性子小角散乱装置(SANS-J)を使用しました。
HRPD による粉末の中性子回折実験では、単
斜晶および正方晶 ZrO2 と正方晶 ZrD2 の 3 相が
検出されましたが、酸化物中の重水素濃度が低
いため、酸化物中の重水素に関する情報は得ら
れませんでした。その後、iMATERIA を利用し
た中性子回折実験に挑戦中です。
小角散乱実験では、酸化膜無し、大気中酸化、
水蒸気中酸化、および重水蒸気中酸化させた試
験片を比較しましたが、小角散乱プロファイル
に有意差はなく、今回の条件では酸化膜中の水
素の構造解析は難しいことが分かりました。そ
の代わり、Zry-2 中の金属間化合物(析出物)、Zr
水素化物及び LiOH 水溶液中酸化による ZrO2 結
晶粒サイズの評価に成功し、小角散乱法は Zr 合
金及び酸化膜の構造解析に有効な手法であるこ
とが分かりました。図 1 に Zry-2 と、大気中酸
化および LiOH 水溶液中酸化させた Zry-2 の小
角散乱プロファイルを示します。LiOH 水溶液中
酸化により高 q 側の散乱強度が高くなっていま
すが、これは、図 2 に示した Zry-2 酸化膜/金属
界面近傍の FE-TEM 観察像に見られるような、
LiOH 水溶液中酸化で生成した酸化膜の粒界劣
化を捉えていると推定されます。表 1 に小角散
乱法で得られた Zry-2 中の析出物や ZrO2 結晶粒
径の評価結果を示しますが、これらの値は電子
顕微鏡で測定された値とほぼ一致しています。
本研究は(財)放射線利用振興協会が運営する文
部科学省「中性子利用技術移転推進プログラム」
制度の下で実施し、茨城大学の石垣徹教授、星
川晃範准教授、JAEA の井川直樹氏、NIMS の
大沼正人氏の技術支援をいただきました。この
場を借りて感謝申し上げます。
表1 小角散乱法によるサイズ評価結果
対象物
金属中水素化物(低水素濃度)
金属中水素化物(高水素濃度)
金属中析出物
LiOH酸化によるZrO2結晶粒(酸化膜厚:1μm)
LiOH酸化によるZrO2結晶粒(酸化膜厚:10μm)
形状 サイズ(nm)
円盤 411(直径)
円盤 413(直径)
球
81
球
13
球
13
図 1 LiOH 水溶液中腐食材の小角散乱プロファイル
図 2 Zry-2 酸化膜/金属界面近傍の FE-TEM 観察