1-15 圧力容器内燃料デブリの状態推定

福島第一原子力発電所事故の対処に係る研究開発
1- 15 圧力容器内燃料デブリの状態推定
-熱力学平衡計算に基づき燃料デブリの化学形を評価する-
酸素分圧上昇により
• Zr,Fe,UO2の順に酸化
炉心温度上昇により
• UO 2中にZr,Feが固溶
炉心部中央
圧力容器
0
(U,Zr,Fe)
O2,
(Zr,U)
O2, Liq
(O-rich)
U4O9, U3O8,
ZrO2, FeOx.
酸 素 分 圧の対 数 値
(U,Zr,Fe)
O2,
ZrO2, FeOx.
-10
Liq
(O-rich)
,
O2,
(U,Zr,Fe)
O2(Zr,U)
Liq
(Fe-rich)
気水分離器
(U,Zr)
O2,
(Zr,U)
O2, Fe
上部格子板
UO2, ZrO2, Fe
Zr
(O)
,
Liq
(O-poor)
log10P
(O2(atm)
)
,
O2,
(U,Zr)
O2(Zr,U)
, Zr
(O)
Fe(Zr,U)
2
-40
Zr-U alloy,
FeaUbZrc,
Liq
(O-poor)
-50
800
1000
1200
1400
1600
1800
2000
2200
金属
酸化物
金属と酸化物の
質量内訳
-20
-30
・Zr(O)
・(U,Zr)
O2
(立方晶)
・(Zr,U)O2
(正方晶)
蒸気乾燥器
支持板直上
Liq
(O-poor)
低酸素分圧では
• ZrによりUが還元
• Fe-Zr-U合金形成
2400
2600
2800
3000
・Zr(O)
・Fe(Zr,U)
2
・Fe3UZr2
・(U,Zr)
O2
(立方晶)
炉心支持板
下部プレナム
(軽微な破損)
酸化物
金属
炉心部の色表示
3200
温度(K)
−計算条件−
• 材料組成 UO2:Zr:Fe = 65:27:8wt%
• 熱力学計算ソフトFactSage6.2
(http://www.factsage.com/)
• 熱力学データベース TDnucl
(http://www.crct.polymtl.ca/fact/documentation/)
Zr多
Zr少
溶融・崩落後の圧力容器内の様子
(炉心部は Zr の組成が多いほど
赤みを増す表示としている)
金属と酸化物の
質量内訳
−平衡計算結果−
各領域での金属/酸化物の内訳と
燃料デブリの化学形
図 1-32 UO2-Zr-Fe 系における温度−酸素分圧状態図
BWR 炉心が溶融した場合、温度と酸素分圧に応じて燃料デブリ
の化学形は変化します。一般に、事故直後は酸素分圧が低く、事
故進展とともに酸素分圧と温度が徐々に上昇していくと考えられ
ます。
図 1-33 溶融・崩落後の圧力容器内での燃料デブリの生成状況
1F2 を対象とした既出の事故進展解析結果(左側)を整理し
て溶融・崩落後の材料組成と温度を算出し、これを入力条件
として各領域での相状態を計算しました
(右側)。
東京電力福島第一原子力発電所(1F)の炉内からの
燃料デブリの取出しにおいては、燃料デブリの物性がど
のようなものかを把握し、最適な工法及び工具を選択す
る必要があります。材料の物性は、その酸化状態(酸
化物か金属か)
、あるいはその組成によって異なるため、
燃料デブリの化学形を推定することが重要です。
しかし、
1F の炉内に関する情報はこれまで十分には得られてい
ません。本研究では、過酷事故時に想定される環境条件
(温度,酸素分圧及び材料組成)を様々に設定して熱力
学平衡計算を行うことにより、取出し時に遭遇すること
が予想される燃料デブリの化学形を推定しました。
はじめに簡易評価として、圧力容器内炉心部の主要材
料(UO2 , Zr, Fe)の組成を用いて、事故時に炉内環境
(温度と酸素分圧)が変化したときに燃料デブリの化学
形がどう変化するかを推定しました
(図 1-32)
。その結
果、酸素分圧の低い条件では金属のジルコニウム(Zr)
が UO2 や 鉄
(Fe)と反応し、酸素分圧が高くなると
Zr,Fe,UO2 の順に酸化が進むことが分かりました。
Zr が全量酸化されずに部分的に金属になっている場合、
それらは Zr(O) や Fe2(Zr,U) のような合金相を形成す
る可能性が高いと考えられます。また、温度の上昇と
ともに Zr 及び Fe が UO2 中に溶け込み、
(U,Zr)O2 や
(U,Zr,Fe)O2 のような酸化物の固溶体になりやすいと考
えられます。
次に、炉心の溶融・崩落により圧力容器内の材料組成
に空間的な偏りが生じた場合に、燃料デブリの化学形が
どう変わるかについても検討しました。石川らが報告し
た 1F2 号機(1F2)の事故進展解析結果(日本原子力
学会 2012 年秋の大会)に基づいて溶融・崩落後の圧力
容器内の材料組成を求め、これを入力条件として熱力学
平衡計算を実施しました。図 1-33 は、1F2 を対象に、
圧力容器内の各部位における燃料デブリの化学形を推定
した一例です。その結果、炉心中央では主に (U,Zr)O2
のような酸化物が生成すること、炉心支持板付近では金
属成分の割合が大きく Zr(O) や Fe2(Zr,U) に代表され
る合金相が生成しやすくなることが示唆され、簡易評価
と同様の傾向が得られることが分かりました。ただし、
圧力容器の損傷が激しい場合は格納容器床面のコンク
リートとの反応も考慮する必要があります。
従来取得してきた酸化物の物性データのほかに、今後
は合金相についても硬さや破壊靱性等のデータを取得
し、燃料デブリ取出しにおける工法・工具選定に資する
データを整備していく予定です。
●参考文献
Ikeuchi, H. et al., Suggestion of Typical Phases of In-Vessel Fuel-Debris by Thermodynamic Calculation for Decommissioning
Technology of Fukushima-Daiichi Nuclear Power Station, Proceedings of International Nuclear Fuel Cycle Conference (GLOBAL
2013), Salt Lake City, Utah, USA, 2013, paper 8174, p.1349-1356., in CD-ROM.
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原子力機構の研究開発成果 2014