151 第30巻第1号2003年1月 ・三二堕ザ 再発卵巣癌に対するWeekly Paclitaxel療法の検討 川越 秀洋 河田 高伸 藤吉 啓造 西尾 真 石松順嗣 下村 卓也 綱脇 現* 〔Ipn/Cancer Chemother 30(1):151-154, lanuary,2003〕 要旨再発卵巣癌に対してpaclitaxel(TXL)のweekly投与を行い,その安全性と有効性について検討した。 投与方法はTXL 70 mg/m2を1時間点滴で,1週間ごとに投与し,20コースを目標とした。7症例で110コー スが行われた。grade 3以上の好中球減少は0.9%で,骨髄抑制,末梢L神経障害,関節・筋肉痛などは軽度であっ た。臨床効果は,評価可能病変を有する5症例で,PR 1例, NC 1例, PD 3例であった。 PDの1例に除痛効 果を認めたため治療を継続した。マーカー上昇のみの2症例は有効であった。 weekly TXL療法は,再発卵巣癌患者に対して安全でかつ有用であり,患者のQOLを重視した治療法であ ることが考慮された。 Weekly Paclitaxel lnfusion in Patients with Recurrent Ovarian Cancer-A Pilot Study:Hidehiro Kawagoe, 丁akanobu Kawata, Shin Nishio, Takuya Shimomura, Keizou Fujiyoshi, Junji lshimatsu and Akitsu Tsunawaki (Dept. of Obstetrics and Gynecology, Kumamoto City Hospital) Summary This prelimjnary study was performed to evaluate the safety and efficacy of weekly paclitaxel administration by 1-hour infusion. A total of 7 patients with recurrent ovarian cancer were treated with weekly paclitaxel (TXL) . TXL was given at a dose of 70 mg/m2 in 1-hour infusions every week for at least 20 consecutive weeks unless lesions became progressive. Premedication was administered 30 min before TXL infusion. The 7 patients received a total 110 cycles of therapy. Hypersensitivity reactions were not observed. Grade 3 or 4 neutropenia occurred in only O.90/o of the cycles. Neurotoxicity was commonly observed, but that of grade 3 0r greater severity was not recorded. No other severe non-hematologic toxicities were observed. Partial responses were seen in three of 7 patients. Weekly 1-hour TXL is considered to be safe and effective as a salvage therapy in patients with recurrent ovarian cancer. Key words: Paclitaxel, Weekly infusion, Second-line chemotherapy, Ovarian cancer 一噌h●Lゆ「6卜御Lψr●L-r崩r9レ0-r9・”燭Pr9一」帽P の結果に基づきプラチナ製剤とTXLの併用療法 はじめに が進行卵巣癌の初回化学療法の標準的レジメンと 上皮性卵巣癌の化学療法は,paclitaxe1(TXL) して推奨され,本邦でも臨床試験が進み,多くの の登場により変革した。TXLは再発卵巣癌,特に 施設で導入されている3)。しかしながら,生存期間 プラチナ耐性癌に高い有効性を示し脚光を浴び の延長効果は認められているものの,依然として た。現在,欧米での大規模な無作為化比較試験1・2) 多くの症例で再発することより,second-1ineの 連絡先:〒862-8505熊本市湖東1丁目1-60 *熊本市立熊本市民病院・産婦人科 川越 秀洋 0385-0684/03/¥500/論文/JCLS Presented by Medical*Online 癌と化誉療法 152 表1 (1)血液毒性(全110コース) lGrade 3 Grade“ (2)非血液毒性(全7症例) Grade“ F下肢を中心とした全身の浮腫および下肢静脈血栓症 化学療法が必要である。second-lineとしてプラ 4 3 O.9 0.9 3.6 0 4 00 *:日本癌治療学会薬物有害反応判定基準 ** * * 0 0 0 01 9臼4£Uワ46 末梢神経障害 関節痛 筋肉痛 悪心・嘔吐 浮腫 2 1 5310AU o o/o 血小板減少 110 0 3 0000 00000 白血球減少 89 19 好中球減少 95 12 ヘモグロビン減少 24 30 2 -■⊥40 1 19 ρ 59白0 o 0 Rustin6)のCA 125による基準に基づき判定した。 チナ製剤,taxane類, irinotecan hydrochloride 皿.結 果 などの薬剤を用いた治療が報告されているが,特 に薬剤耐性腫瘍では効果が得られたとしても短期 1.毒性(血液毒性,非血液毒性)(表1) 間にとどまり,さらには毒性の増加が問題である。 血液毒性はコース数ごとに,非血液毒性は症例 近年,TXLのweekly投与の検討が行われ,毒 数ごとに評価した。grade 4の血液毒性は認めら 性の軽減が報告されている4・5)。今回われわれは,再 れず,grade 3の発現頻度は,白血球減少0.9%, 発卵巣癌7症例に対してTXLのweekly投与を 好中球減少0.9%,ヘモグロビン減少3.6%,血小 行い,その安全性と有効性について検討を行った。 板減少0%であった。症例1の4コース目でG- 1.対象および方法 CSFを予防的に投与した。 G-CSFの投与は全症 例において,この1症例の1コースのみであった。 2000年4月から2001年1月までにTXLの また,抗生剤の投与を必要とする症例はなかった。 weekly投与を行った再発卵巣癌7症例を対象と 末梢神経障害,関節痛,筋肉痛が高頻度に認め し,年齢は48~74歳(中央値55歳)であった。 投与方法は,TXL 70 mg/m2を1時間点滴で投 られたが,すべてgrade 1であった。悪心・嘔吐 与し,前処置としてTXLの投与30分前にdex- に下肢を中心とした全身浮腫および下肢静脈血栓 amethasone 10 mg, diphenhydramine 50 mg, ranitidine 50 mgを投与した。また,制吐剤の予防 症が出現し治療の延期が必要であった。症例3で は,15コース目に手指の爪の茶褐色化と肥厚を認 も認めず,制吐剤の投与は必要なかった。症例2 的投与は行っていない。これを毎週に投与し,臨 めた。指先の痺痛があり爪の変色が進んだが,痛 床効果を確認しながら,毒性の管理も可能であれ みが軽減したため治療は継続できた。 ば20コースを目安とした。毒性は日本癌治療学会 薬物有害反応判定基準により,臨床効果は癌治療 2.抗腫瘍効果(表2) 総:投与コース数は7~21コース(中央値15コー 学会の固形がん化学療法直接効果判定基準と ス)であった。発熱,肝機能障害,浮腫のために Presented by Medical*Online 153 第30巻第1号2003年1月 表2臨床背景および臨床効果 年齢 症例 組織型 (歳) 進行期 1 74 類内膜 Ilb 前化学療法レジメン Doxifluridine内服 再発 PS までの 再発部位 月数 Weekly paclitaxel コース 予後 臨床効果 (月) 数 3 17(10) 腹腔内 7+ PR NED (18.5) 2 48 漿液性 Hlc CEP/CPTITJ/MMC O 20 (7) PR* DOD (23.5) CEP/CPT o (17) 4 57 粘液性 IIIb CEP/CPT/TJ o 30 5 52 漿液性 Hlc TJ/CPT 3 49 類内膜 llla 15十 PR* AWD (20) 腹腔内 21 NC AWD (23) 0 5(3) 腹腔内 8 PD DOD (16.5) TJ 6 58 漿液性 mc o 1 腹腔内 19 PD DOD (13.5) 7 55 分類不能 IIIc CEP/CPT o 14 肝・直腸 20 PD DOD (7.5) PS:performance status, CEP:cisplatin十pirarubicin十cyclophosphamide, CPT:cisplatin十irinotecan, TJ: paclitaxel十carboplatin, MMC: irinotecan十mitomycin C, PR; partial response, NC: no change, PD: progres- sive disease, NED: no evidence of disease, AWD: alive with disease, DOD: death of disease 再発までの月数:初回化学療法終了後から再発までの期間,()はマーカー上昇までの期間 予後(月):weekly TXL療法の開始からの期間(2002年6月現在),“Rustinの基準によるCA125での判定 6コ口ス(4症例)で投与開始が遅延された。評価 り,現状では再発時のsecond-line治療の効果に 可能病変はすべて腹腔内で,臨床効果はPR 1例, は限界がある。再発卵巣癌で高い有効性が確認さ NC 1例, PD 3例であった。評価可能病変を有し ない症例2と3は,前治療がまったく無効であっ れたTXLが初回レジメンに組み込まれ,プラチ ナ製剤やTXLに耐性を示す再発卵巣癌への治療 たが本療法開始からCA 125の下降を認め, Rus- は,さらに困難を増している。実際に抗腫瘍効果 tinら6)の基準によってPR’と判定した。 3.臨床経過 は得られても長期予後の改善には貢献していな い。このように,再発卵巣癌治療は慢性疾患的な 症例1は不整脈のため初回術後の化学療法は施 管理が求められ,レジメンの決定に際して治療効 行できず,局所再発の9か月後に癌性腹膜炎によ 果とともに毒性や患者のQOLも考慮に入れる必 る腸閉塞を併発し,患者と家族の希望で本療法を 要があると考えられる。 行った。症例2は19コース後にCA 125の再上昇 を認め,後に癌性腹膜炎が出現した。症例4と6 dose densityを高めたweekly TXL(1時間点 滴)療法は,臨床効果を減弱させずに毒性のみを は3週間ごとのTXL+carboPlatin(TJ)療法の 軽減することが報告され4・5》,Anderssonら7)が再 毒性(末梢神経障害,血小板減少)のため本療法 発卵巣癌を対象にTXL 67 mg/m2の毎週投与と に変更した。症例7は本療法8コース目でPDと 判定されたが,豊里効果が認められたために20 較試験を行い,奏効率,生存期間は同等で,毒性 コースまで投与を継続した。 TXL 200 mg/m2の3週ごとの投与で無作為化比 (好中球減少,末梢神経障害,脱毛)において前者 で明らかに軽減されたことを報告した。われわれ m.考 察 卵巣癌患者は積極的な初回化学療法を受けてお は,副作用のために3週間ごとのTJ療法が継続 困難な症例や前治療で効果が認められずにQOL Presented by Medical*Online 癌と化学療法 154 を重視した治療を考慮する症例にTXLのweek・ ly投与を施行し,その安全性と有効性について検 文 献 1) McGuire WP, Hoskins WJ, Brady MF, et al: 討をした。投与量は,欧米では卵巣癌や乳癌の患 Cyclophosphamide and cisplatin compared 者で60~90mg/m2までは容認できると報告され with paclitaxel and cisplatin in patients with stage M and stage IV ovarian cancer. N Engl ている4・5・7)。今回の投与量は,これらの欧米での報 ノ ノlfed 334:1-6,1996. 告やOtaら8)の報告から検討し70 mg/m2に設定 した。 本症例での毒性は他の報告と比較し軽微であっ た。また,本邦の3週ごとのTXL(210 mg/m2:3 時間点滴)投与と比較しても,毒性は明らかに軽 度であり,grade 3以上の好中球減少はわずか 2) Ozols RE Bundy BN, Fowler J, et al:Ran- domized phase M study of cisplatin (CIS)/ paclitaxel (PAC) versus carboplatin (CARBO) /PAC in optimal stage III epithelial ovarian cancer (OC):A Gynecologic On- cology Group Trial (GOG 158). Proc ASCO 18: 356 a, 1999. 3) Sugiyama T, Yakushiji M, Aoki Y, et al: 0.9%であり,Otaら8)の報告と同様であった。本 Paclitaxel-cisplatin combination in advanced 療法ではG-CSFの投与はほとんど必要ないと考 ovarian cancer:a phase II study. lnt J Clin えられた。非血液毒性ではgrade 1の末梢神経障 Oncol 5:85-88,2000. 4) Fennelly D, Aghaj anian C, Shapiro F, et al: 害が高頻度に出現したが,3週ごとのTXL療法 Phase I and pharmacologic study of pa- と比較すると軽微であった。 clitaxel administreed weekly in patients with また,本投与法に特異な毒性として可逆的な爪 の変化が報告されている9)。われわれも1例に認 relapsed ovarian cancer. 1 Clin Oncol 15: 187-192, 1997. 5) Klaassen U, Wilke H, Strumberg D, Eberhar- めたが,治療の中止には至らず,治療を継続でき dt W, et al: Phase 1 study with a weekly 1 h た。他には,浮腫と下肢静脈血栓症を1例に認め infusion of paclitaxel in heavily pretreated patients with metastatic breast and ovarian た。本療法との関連性は不明であるが,否定もで cancer. Eur J Cancer 2A:547-549, 1996. きず,前処置のステロイド投与による可能性も考 えられた。われわれは,Bookmamら10)の報告に 基づきTXLの投与30分前に前投薬を行い,ステ 6) Rustin GJS, van der Burg ME and Berek JS: Advanced ovariancancer. Tumor markers. Ann Oncol 4: 71-77, 1993. 7) Andersson H, Boman K and Ridderheim M: A updated analysis of a randomized study of ロイドの投与量は減量している。 画像診断およびCA 125での臨床的評価では,7 例中3例に奏効が確認され,有効性も示唆された。 single agent paclitaxel (P) given weekly vs every 3 weeks to patients (Pts) with ovarian cancer (OC) treated with prior platinum Markmanら11}は,3週ごとのTXL十platinum療 法抵抗性卵巣癌38例のうち,8例(21%)に本療 法の奏効を報告しているが,本研究ではTJ療法 therpy. Proc A SCO 19: 380 a, 2000. 後の3例において奏効は得られなかった。 」な)n/ Clin Oncol 31 (8):395-398,2001. 症例数が少なく,今後さらなる検討の余地があ 8) Ota S, Sugiyama T, Komai K, et al: Weekly 1-hour paclitaxel infusion in patients with recurrent gynecologic tumors: A pilot study. 9) Andersson H, Horvath G, Mellqvist L, et al: ると推察できるが,G-CSFの投与や制吐剤の使 Taxol given weekly in advanced previously treated ovarian carcinomas-a pilot study. 用が必要でないこと,入院費が削減でき,さらに Int J Gynecol Cancer 7:262-266, 1997. は外来化学療法も可能であることより,cost ben- 10) Bookmann MA, Kloth DD and Kover PE: Short course intravenous prophylaxis for efitの面からもcomplianceの高い,患者のQOL を重視した治療法であると考えられる。また, tumor dormancyの概念からも本療法は有用な治 療法の可能性があるのではないかと思われた。以 上,weekly TXL療法(70 mg/m2,1時間投与) は,外来でのsecond-lineの治療や長期の継続投 paclitaxel related hypersensivity reactions. Ann Oncol 8:611-614, 1997. 11) Markman M, Baker ME, Hall JB, et al: Phase II trial of weekly single agent pa- clitaxel (P) in platinum (PLAT) and paclitax- el-refractory ovarian cancer (OC). Proc ASCO 19 (abstr):396 a, 2000. 与が可能なレジメンと考えられた。 Presented by Medical*Online
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