© NSCA JAPAN Volume 15, Number 1, pages 40-43 f r o m W e b S i t e / NSCA’s Performance Training Journal Football フットボールのオフシーズンプログラム へのアジリティトレーニングの採用 Incorporating Agility into an Off-Season Football Program Michael Barnes, MEd, CSCS,*D, NSCA-CPT,*D はじめに アジリティとは、効果的かつ効率的 トレーニング(以下、AT)を導入する ことが望ましい。AT を実施する際は、 することが望ましい。 以下のスポーツ科学の分野がAT の に方向転換を行う能力である。しかし 競技の状況を可能な限り忠実に再現し 基礎になっている。 スポーツの世界では、アジリティはさ た環境で行うようにする。本稿の目的 ・生理学 らに重要な意味を持つ。例えば、競技 は、AT の科学的基礎を構築し、アメ ・バイオメカニクス に特有の課題(ディフェンダーをかわ リカンフットボールのトレーニング法 ・運動学習 す、ボールを運ぶなど)を調整する能 を改善するための実践的なアドバイス 力、複数のスキルを同時にこなす能力 を行うことである。 生理学とアジリティトレーニング のほか、初めて遭遇する状況を正確に 分析する能力もアジリティの定義に加 代謝系のコンディショニングとAT を 科学とアジリティトレーニング 切り離して考えることはできない。適 えることができる。競技特異的なスキ アジリティスキルを習得するメカニ 切なAT ドリルは動作スキルを再現する ルは別として、アジリティは競技での ズムについて、ある程度理解しておく ことができる。これらのスキルは、そ 成功を予測する最も基本的な特性の 1 ことが重要である。ドリルの目的をき れぞれに独自に代謝系を動員する。ま つと考えられる。 ちんと理解しないまま、安易にチーム た、強度、時間、および休憩によって 練習に導入されてしまうケースもみら 試合の状況をシミュレーションするこ 著しく改善することはあり得ないと考 れる。よくある間違いを避けるために ともできる。 えるコーチや選手は多い。アジリティ は、アジリティの科学的な側面を理解 アジリティが大きな影響を受けたり、 を改善させることは難しいが、筋力、 表1 柔軟性、および持久力を向上させるこ とが可能なように、トレーニングで向 上させることは可能である。 失敗の確率を最小限に抑えて成功の 40 動作の評価 観察する部位、動作など 重心 基底面 基準 コントロールされた状態で、低いほど望ましい 基底面上に重心が位置している。 次の動作を行うのに適した姿勢である 確率を最大限に上げるために、オフシ 上半身の動作 両肘が屈曲している。または適切な位置にある ーズンのストレングス&コンディショ 下半身の動作 足裏全体が地面についている。細かいステップ ニング(S&C)プログラムにアジリティ 課題達成基準 すべて成功した場合のみ評価する January/February 2008•Strength & Conditioning バイオメカニクスと 習する際、以下の3つの学習段階を経 的な関連も認められる。従って、より アジリティトレーニング る。 高度なアジリティドリルを採用する前 に、直線スピードのドリルを利用する 人間のあらゆる動作は、関節を中心 として回転する骨に加わる筋力が元と ・認識‐言語段階:動作に慣れておら なる。人体は非常に複雑なシステムの ず、ドリルを実行する際に相当な注 連続であり、それによって人間の活動 意を必要とする における多種多様な動作を可能にして ・運動段階:動作の重要な部分をある いる(1) 。AT を行ったり競技に参加す 程度理解しているが、依然として注 るときは、動作のバイオメカニクス的 意を必要とする 要素が非常に重要であり、結果に重大 な影響をもたらす。 バイオメカニクスとAT に関して、以 ・自律段階:動作を理解し、ドリルを 実行する際にほとんど注意を必要と 1.位置(Where) :フィールド上で選 手がいるべき位置はどこか かの案を以下に紹介する。 ・3点支持スタート(注:片手を地面 につけた姿勢からのスタート) ・3点支持スタートからストップ ・3点支持スタートからストップ。す ぐに加速 しない 初級ドリル 下の2つの要件を考慮することが望ま しい。 ことは有効と考えられる(2) 。いくつ ドリル クロスオーバーステップ(写真1): S&C の実践者が、講習会で実演され アスレティックポジション(注:足 たドリルや、市場優先の器具を用いた 関節、膝、股関節を屈曲して重心を低 ドリルを利用することは珍しいことで くした姿勢。前後左右どちらにも動き はない。このような状況は問題を含ん やすい)で立ち、各方向にクロスオー でいる場合が多く、選手が取り返しの バーステップを行う。進行方向を指示 つかない失敗を犯したり、種目自体に してもらえば、難度を高めることがで ほとんど、あるいは全く役に立たない きる。フットボールでクロスオーバー 「位置」に関するシミュレーションは ドリルを採用している可能性もある。こ ステップを使うことはほとんどないが、 比較的単純である。試合中の移動距離 のような事態に陥ってしまうと、最大 このドリルによって姿勢と爆発的な動 を反映したドリルを計画すればよい。例 限の効果を引き出すことが困難になる。 作を指導できる。 を挙げると、ディフェンシブバックの 従ってドリルを開発する際は、以下に 場合、10 ヤード後退して身体の向きを 示すような事項を考慮することが望ま 変え、同じ方向に10 ヤード走ってから、 しい。 2.姿勢(How) :どのような姿勢が最 も効率的に動作できるか 位置(Where) ・直線的なドリルから多方向のドリル 選手の動作を判別するのはやや難し い。動作の評価は、頭の位置、足の置 き方、重心の位置、上半身の動きなど 何らかの基準に基づいて行う。動作評 価の基本的なガイドラインを表1に示 す。 真っ直ぐ走り、約 45 ° の角度で左ま たは右にV カットを行う。カットの角 45 ° の方向に突進する。 姿勢(How) V カット(写真2): 度を変えてもよい。 へと漸進させる ・単純なドリルから複雑なドリルへと 漸進させる ・遅いドリルから速いドリルへと漸進 させる ・一般的なドリルから特異的なドリル 中級ドリル 中級ドリルでは、直線的または多方 向への方向転換を行う。ここに示した ドリルは「クローズド」スキルであり、 進行方向があらかじめ決まっている。 へと漸進させる アウトテン・バックファイブ(写真3): 直線スプリントとAT を比較した最 3点支持の姿勢から全速力で 10 ヤ 運動学習とは、比較的不変なパフォ 近の調査によると、直線のスピードと ードスプリントを行い、停止して5ヤ ーマンス向上に結びつく練習または経 AT はそれぞれ目的が異なり、相互的 ード後退し、また前に向かって全速力 験に関連する、様々な体内プロセスの な効果は限られるという結果が示され で走る。同じ距離を繰り返すことで、 総体である(1) 。選手がアジリティを学 ている(2) 。しかし、ある程度の特徴 難度を高めることができる(例:10 ヤ 運動学習とアジリティトレーニング January/February 2008•Strength & Conditioning 41 ード前進5ヤード後退、また 10 ヤー ド前進5ヤード後退、さらに 10 ヤー ド前進) 。 Z パターンラン(写真4): 4つのコーンを Z 字型に配置する。 コーンの間隔は5∼ 15 ヤードとする。 Z の文字が完成するまで、コーンから コーンへスプリントを行う。 8の字シャッフル(写真5): 2つのコーンを約3ヤードの間隔で 地面に置く。8の字を描くようにサイ ドシャッフルを行う。逆方向でも行う 写真 1 クロスオーバーステップ こと。 上級ドリル 上級ドリルは、フットボールという 種目だけでなくポジションにも特化し たものである。これらのドリルは「オ ープン」 、つまり反応の要素を加えるこ とができる。シャッフル、ドロップス テップ、バックペダル、またはボール キャッチなど、ポジションに特異的な スキルを取り入れることが望ましい。実 戦と同程度のスピードで行うことが重 要である。それにより競技中と同じ力 写真 2 V カット を受けることができる。 Finish シャッフルto ラン: Back 5 パートナーと向かい合い、指示され た方向にシャッフルを行う。パートナ Back 5 ーの合図で、スタート位置に走って戻 Out 10 る。カットの角度は、パートナーの指 示によって異なる。 サイドシャッフル(写真6): 約5ヤードの間隔で並べたコーンま Out 10 たはローバッグの間をシャッフルする。 コーンの間を進みながら、パートナー Start とメディシンボールでキャッチボール を行う。メディシンボールを使うと、 42 Out 10 写真 3 アウトテン・バックファイブ January/February 2008•Strength & Conditioning Start Finish 写真 4 Z パターンラン 写真 5 8 の字シャッフル Finish 課題 著者紹介 AT を導入するための論理的で綿密な 計画立案は、極めて単純である。アジ リティの計画を導入する際、トレーニ ングの科学的基礎と原理を忘れてはな らない。以下にいくつかの課題を示す。 ・動作のクオリティを高める ・徐々に難度を高める―単純から複雑 Michael Barnes : Auburn University で人間行動学 の修士号を取得。CSCS と NSCA-CPT の特別認定を 持ち、現在、NSCA の教育ディレクターを務める。 これまでにディビジョンⅠの S&C コーチ、USA Rugby の S&C コーチのほか、7年間にわたって San Francisco Forty-Niners のストレングス・ディベロッ プメントコーディネーターを務めた経験を持つ。 S&C に関する講演者として全国的に知られ、数多く の著作がある。 注:1ヤード= 0.9144m へ Start 写真 6 サイドシャッフル ・特異的な運動/動作パターンをトレ ーニングする ・必要に応じて反応刺激を採用する ・動作をマスターしたら、必要に応じ シャッフルしながら手と目を協調させ て休息時間と強度を調節して代謝系 る必要があるため、難度を高めること コンディショニングを導入する ができる。 ・動作をマスターしたら、100 %の強 度で行う。◆ その他のドリル レシーバーは自由に走る。このポジ ションには、あらかじめ決められたル ートを走り、必要に応じてボールをキ ャッチすることが求められる。特定の パターンを見つけたら、ドリルにボー ルキャッチを加えてもよい。 References 1. Schmidt, R. Motor Learning and Performance, From Principals to Practice, 1991. Human Kinetics Books, Champaign, IL. 2. Young, W., McDowell, H and Scarlett, B, Specificity of sprint and agility training methods. Journal of Strength and Conditioning Research. 15:315-319. 2001. From NSCA’s Performance Training Journal Volume 5, Number 4, pages 10-14 January/February 2008•Strength & Conditioning 43
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