Report #12 WISC-IVの解釈と報告で使う心理統計用語

日本版
テクニカルレポート
#12
WISC-IV の解釈と報告で使う心理統計用語
刊行委員会 松田修
2015.1
WISC-IV ユーザーにはさまざまな知識や技能が求められる。その 1 つが、検査結果の解釈や報
告の際に使用する心理統計用語の理解である。今回のテクニカルレポートでは、記録用紙にある
数値を解釈し、報告するうえで必要な心理統計用語を簡単に解説する。本レポートが、ユーザー
の方々にとって、検査結果を説明する際のヒントになれば幸いである。
1 合成得点(Composite Score)
合成得点とは、複数の得点を合成して算出した得点である。日本版 WISC-IV の合成得点は、2010
年 12 月の刊行時には、全検査 IQ(FSIQ)、言語理解指標(VCI)、知覚推理指標(PRI)、ワーキン
グメモリー指標(WMI)
、処理速度指標(PSI)の 5 つであった。
しかし、2014 年 11 月の『WISC-IV 補助マニュアル』の登場によって、これらの 5 つの合成得点
に加えて、必要に応じて、一般知的能力指標(GAI)と認知熟達度指標(CPI)という 2 つの合成
得点が新たに算出可能となった。その結果、現在では 7 つの合成得点を使用することができる。
2 標準得点(Standard Score)
標準得点とは、平均および標準偏差がそれぞれ特定の値に等しくなるように変換された得点の
ことをいい、この変換の手続きを標準化という(芝・南風原、1990)
。なお、標準偏差とはデータ
の散らばりの程度を表す数値である。WISC-IV には 2 つの標準得点がある。1 つは先述の合成得点
であり、もう 1 つは評価点(Scaled Score)である。
合成得点は、平均を 100、標準偏差を 15 とする標準得点である。一方、評価点は、平均を 10、
標準偏差を 3 とする標準得点である。保護者向けの報告書に記載することが推奨されている合成
得点は、複数の評価点を組み合わせて算出した標準得点といえる。
なお、合成得点は正規分布を仮定しており、中央値付近に多くの子どもが集まり、平均から離
れるほど人数が減るように得点が分布する。
3 パーセンタイル順位(Percentile Rank)
パーセンタイル順位とは、ある得点の下に何%の子どもが位置するかを表す数値で、同年齢集
団における子どもの位置を表している。パーセンタイル順位は、他の子どもとの比較の中でその
子どもの結果を説明するのに役立つ。例えば、パーセンタイル順位が 20%の場合は、同年齢集団
の中には、その子どもよりも得点の高い子どもが 80%程度存在することを意味する。
しかし、
『WISC-IV 理論・解釈マニュアル』に記載のとおり、パーセンタイル順位は等間隔では
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ない。正規分布を仮定している合成得点のパーセンタイル順位は、中央値付近に同点の子どもが
多く存在するために、粗点が数点変わるだけでパーセンタイル順位が大きく変化する。反対に、
両極端に位置する得点をとる子どもの場合には、粗点が数点変化しても、パーセンタイル順位に
は大きな変化は生じない。
4 信頼区間(Confidence Interval)
検査によって得られた得点は測定値と呼ばれる。測定値は、真の値と誤差を反映した値である。
一度の検査から得られた得点は、さまざまな要因による誤差を含んでいる可能性がある。したが
って、私たち刊行委員会は、検査結果を解釈および報告する際には、
「点」ではなく、一定の幅、
すなわち「区間」を用いることを推奨している。この区間が信頼区間である。
信頼区間とは、あらかじめ定められた確率で母数(母集団における値)を含むと推定される区
間である。あらかじめ定められた確率は信頼水準または信頼係数と呼ばれる(南風原、2002)。日
本版 WISC-IV には、信頼水準が 95%の場合の信頼区間と、90%の場合の信頼区間が用意されてい
る。95%信頼区間は、90%信頼区間よりも幅が広く、子どもの得点の解釈が難しくなることから、
通常は 90%信頼区間を使用することが推奨されている。
就学指導委員会や校内委員会などにおける専門家による判断の場においても、信頼区間を加味
した判断が行われることが望ましい。
5 記述分類(Descriptive Classification)
記述分類は、同年齢集団と比較した合成得点に基づいて、子どもの検査結果の水準を表してい
る。すなわち、得点を一定のルールでカテゴリーに分類し、この分類によって子どもの同年齢集
団における水準を表すために報告されるものである。
日本版 WISC-IV では、伝統的に 2/3SD(標準偏差)を基準とする記述分類が採用されている。
この記述分類では、合成得点が 7 つのカテゴリーに分類される。記述分類はあくまでも同年齢集
団の平均との比較による水準を表しており、そこにはかつてのように特定の診断的意味を含むか
のような用語は使われていない。保護者への説明の際にも、この点には留意してほしい。
なお、合成得点に対する記述分類は、上述の 7 つの分類法以外の方法も提案されている。詳し
くは『エッセンシャルズ WISC-IV による心理アセスメント』をご覧いただきたい。
6 有意水準(Significant Level)
日本版 WISC-IV では、指標得点間の差、評価点間の差、評価点と評価点平均の間の差、および
プロセス得点間の差が、統計的に見て有意といえるかどうかを判断するために、実際の得点差と
判定値を比較し、判定値以上の差が生じていたら、その差は統計的に有意な差であると考える。
統計的に有意な差があるというのは、
「2 つの得点に差がない」という仮説(帰無仮説)のもとで、
そうした事象が生じるのは“まれ”だと判断されたことを意味している。このとき、どの程度の
確率ならば“まれ”と判断するかを決める値が有意水準である。すなわち、有意水準が 5%という
のは、2 つの得点に差がない確率が 5%と“まれ”なので、この場合には統計的に見て差があると
考えることができる。
WISC-IV には有意水準が 15%の場合の判定値と、5%の場合の判定値の 2 つが用意されている。
心理統計学を用いた研究では、この確率が 5%未満のときに統計的に見て有意であると判断するの
が通例であるが、私たち刊行委員会は、子どものニーズをできるだけ見逃さないようにするため
に、臨床実践における判断は 15%の有意水準による判定値を使用することを推奨している。
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7 標準出現率(Base Rate)
標準出現率とは、指標得点間、評価点間、評価点と評価点平均の間、プロセス得点、およびプ
ロセス得点間の差が、統計的に見て有意であった場合、同じ差の大きさが見られた子どもが標準
化サンプルの中にどの程度の割合でいたのかを表す数値である。つまり、得点の差の大きさがど
の程度“まれ”であるかを表す数値である。
標準出現率の値は小さければ小さいほど、その差は“まれ”な差だったと考えることができる。
『WISC-IV 理論・解釈マニュアル』にあるように、Sattler(2001)は、標準化サンプルの 10%か
ら 15%以下の出現頻度の得点を“まれ”とすることを提案している。私たち刊行委員会も、この
提案に基づいて判断することを推奨している。
<引用文献>
Flanagan, D. P., Kaufman, A. S. (2009). Essentials of WISC-IV Assessment (Second Edition). New York: John
Wiley & Sons. 上野一彦監訳(2014)
.エッセンシャルズ WISC-IV による心理アセスメント.日本文
化科学社.
Sattler, J. M. (2001). Assessment of Children: Cognitive applications (4th ed.). San Diego, CA: Author.
Wechsler, D. 著,日本版 WISC-IV 刊行委員会訳編(2010).日本版 WISC-IV 理論・解釈マニュアル.日
本文化科学社.
Wechsler D. 著,日本版 WISC-IV 刊行委員会編(2014).日本版 WISC-IV 補助マニュアル.日本文化科
学社.
芝祐順・南風原朝和(1990).行動科学における統計解析法.東京大学出版会.
南風原朝和(2002).心理統計学の基礎-統合的理解のために.有斐閣.
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発
行
日:2015 年 1 月 14 日
発
行
者:
(株)日本文化科学社
編集責任者:上野一彦(日本版 WISC-IV 刊行委員会)
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