56 肺炎球菌ワクチンの効果について 肺炎球菌ワクチンの公費負担が始まりました。次の点について教えて下さい。 1)ワクチンの効果、 特に高齢者の市中肺炎(または肺炎全体)をどれくらい減らせるか? 2)免疫効果の持続期間 (U生) 成人に対する肺炎球菌ワクチンは23 の重症度を下げ、死亡を有意に減らすという報告 価多糖体ワクチンである PPV(ニュー を多く認めます。日本でも三重大学の研究によれ モバックス NP®)と13価結合型ワク ば高齢者施設入所者で PPV 接種502人とプラセボ チンである PCV13(プレベナー 13® ) 504人を3年間追跡したところ肺炎球菌性肺炎を の2種類が使用可能です。高齢者肺炎の主要な原 63.8%低減させ、全肺炎も44.8%減少し、肺炎球 因菌である肺炎球菌は莢膜多糖体に覆われてお 菌性肺炎の死亡者を0%(プラセボ35.1%)にし り、その抗原性により90以上の血清型に分けられ た1)とされ医療介護関連肺炎にも肺炎球菌ワクチ ています。血清型特異抗体と補体が各血清型特異 ンは有効であることを示しています。インフルエ 的 に 感 染 防 御 を 担 う と さ れ て い ま す。PPV と ンザワクチンとあわせて接種することで効果が増 PCV13では対応する血清型に差があり、成人の 強することもわかっており2001年に報告されたワ 敗血症や市中肺炎を起こす血清型に対し PPV は クチン接種10万人と非接種16万人に対する調査 85~90%、 PCV13でも80%近くをカバーしています。 (11月から3月のインフルエンザ流行期)では両 PPV の接種対象者は高齢者、心・呼吸器の慢 者を接種した群では肺炎球菌による入院が36%減 性疾患、腎不全、糖尿病などの基礎疾患を持つ患 少、肺炎球菌性肺炎以外の原因を含む死亡率が 者などです。2014年10月より5才刻みと限定的で 57%減少したことが示され2)両者を推奨する根拠 すが高齢者に対し定期接種となりました。接種後 となりました。長崎県で行われた研究でも PPV の抗体上昇は高齢者や免疫低下者では反応が悪 とインフルエンザワクチンの併用が高齢者の肺炎 く、抗体価も時間ともに低下していきます。一方 球菌肺炎の肺炎罹患頻度を低下させ、肺炎全体で PCV13は2014年6月から成人に適応拡大されま みても75才以上、慢性肺疾患、歩行困難例のサブ した。接種対象は高齢者のみとなっており、今回 グループで有意に減少したとしています。さらに の定期接種の対象になっていません。PCV13は 接種後1年の総医療費が非併用群の14万円から約 莢膜多糖体にキャリアタンパクを結合させた結合 8万円も削減でき医療経済的にも有効だと結論づ 型ワクチンで、タンパク結合により T 細胞が反 けています3)。 応することで強い抗体産生とメモリー B 細胞誘 導による免疫記憶が得られるとされています。殺 2)PPV での抗体価は少なくても5年間維持さ 菌能力の指標であるオプソニン化貪食活性での比 れます。抗体価の低下速度は個人差が大きく10年 較ではPPVに劣らない優れた効果があります (表) 。 程度で接種前の状態まで低下する例もあるようで す。特に高齢者、免疫低下者などでは5~ 10年 1)肺炎球菌ワクチンの実際の効果ですが PPV で抗体価が急激に低下する例があるとされ、日本 の検討が多数報告されています。免疫不全のない 感染症学会から出されたガイドラインでは高齢 高齢者では肺炎球菌による敗血症や肺炎を予防す 者、脾機能低下者、血液疾患・ネフローゼ・免疫 るが肺炎全体の罹患率は減少させない。市中肺炎 低下者・臓器移植後では5年後以降の再接種を勧 新潟県医師会報 H26.12 № 777 57 表 PPV と PCV13の比較 PPV PCV13 種類 多糖体ワクチン 結合型ワクチン 対象血清型 23種 13種 1, 2, 3, 4, 5, 6B, 7F, 8, 9N, 9V, 1, 3, 4, 5, 6A, 6B, 7F, 9V, 14, 10A, 11A, 12F, 14, 15B, 17F, 18C, 19A, 19F, 23F 18C, 19A, 19F, 20, 22F, 23F, 33F 接種対象 高齢者、基礎疾患を持つ患者、 脾機能低下 高齢者、小児 接種方法 皮下注 筋注 公費補助 高齢者 5才刻み なし 価格 6,000 ~ 8,000円程度 公費補助で3,000 ~ 4,000円 11,000円程度 再接種 5年後以降可能 高齢者等で推奨 記載なし めています。上記の対象者は免疫状態を考慮しな 参考資料 がら5年後以降10年までに再接種を勧めることに 1)Christensen B, Lundburgh P, Hedlund J, et なります。PCV13についてはデータがありませ al: Effects of a large-scale intervention with んが理論上は PPV よりも効果は長期間続く可能 influenza and 23-valent pneumococcal 性があります。 vaccines in adults aged 65 years or older: a prospective study. Lancet 2001; 357: 1008- 2種のワクチンの使い分けですが定期接種対象 1011. 者や基礎疾患を持つ非高齢者は PPV を接種する 2)Maruyama T, Taguchi O, Niederman MS, ことが現実的です。またすでに PPV を接種され et al: Efficacy of 23-valent pneumococcal ている方は公費補助対象にならないことから vaccine in preventing pneumonia and PCV13を先に接種して、定期接種対象になった improving survival in nursing home とき PPV を追加接種することも選択肢になりま residents: double blind, randomised and す。長期間持続させ、かつ多くの血清型に免疫を placebo controlled trial. BMJ 2010; 340: 誘導させるためには免疫記憶を誘導させる c1004. PCV13を先に接種し対象血清型の多い PPV を追 3)Kawakami K, Ohkusa Y, Kuroki R, et al: 加免疫に用いる方法がよさそうです(PCV13開 E f f ect iveness o f pneu mococca l po l y - 発元ファイザー社ホームページより)。実際に米 saccharide vaccine against pneumonia and 国予防接種諮問委員会からは高齢者には PCV13 cost analysis for the elderly who receive 接種後6~ 12 ヶ月後に PPV を追加接種するよう seasonal influenza vaccine in Japan. Vaccine に勧告されました。ただし PCV13も将来は定期 2010; 28: 7063-7069. 接種化される可能性もあることや今後の大規模試 験を元にした新たな指針がでてきた際はそれらの 情報を元にスケジュールを再考していく必要があ ると思います。 ( 国立病院機構西新潟中央病院 桑原克弘 ) 新潟県医師会報 H26.12 № 777
© Copyright 2024