積雪地方における維持管理の軽減を目指した防護柵や雪

積雪地方における維持管理の軽減を目指した防護柵や雪崩予防柵等の改善
阿部孝幸*
1.はじめに
柵の設置基準・同解説・参考資料,耐雪型車両用防護柵の諸
近年の豪雪時には道路付属施設の雪害が多発しており中で
元例)には防護柵に作用する沈降荷重等のベクトルが不明な
も道路沿いの防護柵や雪崩予防柵等の破損が著しく,またこ
ことから,また沈降荷重の大きさは柵高さにより大きく変化
のような雪害は除雪作業員の心理的な重荷となり作業効率に
しており(阿部・1976)資料等を参考に確認してみた.図1(A)
も影響しているものと考えられ,雪害の要因を明瞭化し対策
は桁高さと沈降荷重の大きさを表しており,沈降荷重は積雪
を検討する必要がある.なおこれまでの防護柵の雪害関係に
層内部で下記状況の中で発生すものとしている.
関わる主な研究資料を確認すると(古川,1952:「枝折れ荷
重」の研究),(阿部,1981:防護柵の雪害対策),(柳
① 地熱融雪量として積雪層底面が約(3cm/3日間)程度の
速度で融雪し常時積雪層が沈下.
沢,1981:道路防護柵に作用する雪荷重に関する研究)等で報
② 降積った軟い降雪は密度0.3 程になるまで圧密沈下.
告されており,これらの資料は(建設省河川防災課,1981:
③ その他雪質の変化で沈下.
ガードレール等のみ災の災害復旧の採択) の参考資料になっ
この様な条件の中で図1(A)の様に積雪層内に高さの異なる
ている.その後に(建設省土木研究所,1982:積雪寒冷地に
横材①~④を固定しそれぞれの褶曲層の影響範囲を確認する
おける防護柵に関する研究報告書)等を経て(日本道路協会:
と,積雪層の高Hの1/3~1/4が最も大きい事が確認されてい
防護柵の設置基準の・同解説・一部改訂」)となり現在に至
る.また横材が低すぎても高すぎても沈降力は最大値にはな
っているものと推測される.なお小段を有する人工斜面の雪
らず,横材の真下は空洞化と成り,また沈降荷重は主に写真
崩対策等については(新編防雪工学ハンドブック,2010:小
(C)の様に上端パイプに作用し下段のパイプには大きな雪荷
段幅の取扱等)を参考に,更に(阿部他,2012:「雪庇」と
重が作用しないことが確認されており沈降荷重の算出方法は
「せり出し」対策の実規模野外観測)等により解明を図り,
下式により推測されている.
これらの資料を基に雪崩予防柵(吊柵)の雪害対策等を含め検
討してみたので報告する.
2
(h>h 2 ) P = 1.78( H-h ) σ +(h1 ・W・ σ)・・ ・ (1 )
2
(h=h 2 ) P =1/2 (4 ・h・ H+ H ) σ+(h1・ W・ σ)・・ (2)
2.防護柵等の雪害対策
(1)(2)式や図面等により上端パイプに作用する沈降荷重のベ
2.1 防護柵に作用する沈降荷重について
クトルが確認されることになり,現場の積雪深さや防護柵の
防護柵の設計資料としている(日本道路協会,2008:防護
図 1 沈降荷重の模式図と算出方法(阿部・1981・追加修正 )
* 神鋼建材工業株式会社(山形駐在)
高さ、及び支柱間隔に応じた上端パイプの断面を算出するこ
とが出来るようになっている.
④ 盛土勾配θ<50°程にして斜面積雪層の滑りを促進し平
図2 は融雪期におけるガード
地と斜面の積雪層を分離する工法 (法長L) >(2×積雪深 H)
レールの断面観測であり地熱
⑤ 除雪車により防護柵が見えるまで排雪する工法.
融雪等によりレール下が空洞
(危険が伴い除雪作業の効率も悪く防護柵の破損にも繋
化しレール上端部が歪曲して
がっている事から注意)
いる状況が確認される.なお
他には上端部の横パイプを電熱等により融雪する工法があ
積雪層内に埋もれたガードパ
イブには歩車道の区別に関わ
るが道路沿いの防護柵等に使用するのは危険なので除く.
図 2 空洞化現象
なお引張力(V1)の算出方法として下式が挙げられている.
らず上端パイプ 1本で大半の沈降荷重を受ける断面構造であ
ることから図 1(C) の様に上端パイプが主体に歪曲する雪害
(θ<50°) 引張力 V1=h1・μ・sin θ・・・・・・ ・・
支 柱 の 曲 げ 応 力 σ = V1 ・ h2 / Z ・ ・ (4)
が多発することに繋がっている.また図3・4 の様に盛土斜
面の路肩に設置した防護柵の支柱の傾斜や転倒は,これまで
(3)
μ・・積雪層の付着力
Z・・支柱の断面係数
は除雪作業車等による人為的な側圧が原因ではないかと考え
られてきたが,しかし現場での断面観測や野外実験等では主
に斜面積雪層が谷側移動(クリープやグライド現象)による引
張現象が主な要因として挙げられている.
図 3 防護柵支柱の傾斜 (斜面積雪層による引張現象)
図 4 谷側に倒壊した防護柵
2.3 防護柵の雪害対策
2.3.1 雪害対策の工法
図6(A)は積雪層内にガードパイプが埋もれた場合の標準的
な断面図の模式図を現しており,上端パイプには高さに応じ
沈降荷重P や引張力V が発生し横パイプが歪曲,更に防護
柵が点線の様に倒壊する現象を表現している.このような雪
害の対策方法として,これまでに経験した事例等を踏まえて
5つの 工法を挙げ説明する.
① 沈降荷重や引張力の要因となっている部分の防護柵上部
の積雪層 h1 を除雪車等により取除く工法.
図 6 防護柵の雪害対策の事例(阿部・1981・追加修正)
2.3.2
耐雪型防護柵の検討
冬期間の防護柵の維持管理については経済的面から察する
に前項の図6②空気圧縮機による切断等が一番に経済的と思
② 防護柵上部の積雪層 h1 の部分をコンプレッサー等によ
われるが,現実的には車道の除雪による排雪や吹雪等により
る圧縮空気で亀裂を発生させて積雪層の繋がりを分断す
溝が埋まることから更なる調査研究が必要とされる.またこ
る工法.
のような中で防護柵の上端部に作用する沈降荷重の取り扱い
③ 上端パイプのみを補強しまた支柱の転倒防止を図るため
路肩部を補強する耐雪型防護柵工法.
は歩行者自転車用柵と,車両用防護柵とは同一であるが,車
両用防護柵は「たわみ性防護柵」と「剛性防護柵」に区別し
ており本資料では「たわみ性防護柵」について検討してみた.
歩行者自転車用柵に作用する荷重は歩行者の転落荷重等(P
荷重・垂直 590 N/m・水平390 N/m)や群衆荷重等(SP荷重・垂
直 980 N/m・水平2,500 N/m)以上を想定し設計荷重は防護柵
の最上部に作用するものとしている.これに対して積雪層に
よる沈降荷重を算出すると積雪深さに応じ設計要領の転落荷
図9 耐雪型防護柵の改善 (阿部・1981・追加修正)
重を大きく上回る場合があり,現場の対応策として(新編防
から,基本的には橋梁高欄の横材の配置と同様に図 9(2)(3)
雪ハンドブック2010:pp34~39)等を含め確認する必要がある.
(4)の様に横材の表のパイプ面を揃え衝撃荷重により支柱上
① 柵高h=0.70 m
積雪深H=2.50 m 式(1)適用
2
(h>h 2) P = 1.78( H-h ) σ+(h1 ・W・ σ) =17,208 N/m
② 柵高h=1.10 m
積雪深H=2.50 m 式(1)適用
2
(h>h 2) P = 1.78( H-h ) σ+(h1 ・W・ σ) =10,456 N/m
(最大積雪深時の平均密度ρ≒0.3 と仮定)
部に荷重が集中することの無い様な断面構造が望まれる.
なお何れの工法も耐雪型防護柵について確認すると,従来
の車両の衝撃緩和に優れた「たわみ性防護柵」の特長が減少
し,剛性防護柵との中間点に位置することに成り最良の工法
とは言い難い.だが大雪毎に雪害の復旧工事を図り通行者に
この様なことから歩車道の耐雪型防護柵の断面構造として
不便を掛け,または冬期間の車のスリップ事故等が多発して
は横材の本数に関わらず図7タイプの様に上端パイプの断面
いることから逆に積雪地方においては衝撃力に対する補強が
構造の増大や支柱間隔を狭めて対応する工法が提案されてお
必要との考えも有り,ある程度「たわみ性防護柵」の機能低
りそれぞれの現場に適合した形状を選択する必要がある.
下も止むを得ないものと思われる.図10は「剛性防護柵」と
「たわみ性防護柵」の区分をしてみたもので耐雪防護柵は中
ほどの位置となり特別な問題は無いものと考えられる.
図 10 剛性防護柵とたわみ性防護柵の区分(阿部・1981・修正)
2.3.3
「せり出し」による防護柵等の雪害状況
山側の防護柵や標識柱等が図 11 の様に転倒する等の雪害
が多発している.主な要因としては斜面積雪層が平地におけ
図7
耐雪型防護柵の事例(当時の図面に追加修正)
る沈降荷重が発生する現象と同様に,斜面上の積雪層底面の
地熱融雪や積雪層の圧密沈下により常時(20cm/日)程、目視
なおガードレールの場合にも同様に沈降荷重が作用し図 8
により確認できない程の速度で道路面に流下している「せり
の様に支柱の沈下や横材のレール本体の上部が歪曲する.し
出し」現象が挙げられている.また図 12 の様に車道に「せ
かしレールの場合には支柱間を狭め,又は支柱との取付け部
り出し」た積雪層を除雪するとバランスを崩し斜面全体の積
の補強だけでは対応困難であり,図9(1)の様にレール上端部
雪層が雪崩と成って崩落する.なお雨や気温が高い日には
の断面係数の増大を図ることも含め検討する必要がある.ま
斜面積雪層のグライド速度(スベリ等)が大きくなることから
た「たわみ性防護柵」は車両の衝撃緩和を特長としている事
特に夜間の管理は厳しいので留意する必要がある.
図 8 ガードレールの雪害状況
図 11 「せり出し」による防護柵等の雪害
この様なことから図14の様に(阿部他2011・2012)は小段を
有する人工斜面の雪崩対策や除雪作業の効率化を目的にした
雪崩予防柵の野外実験を実施している.これまでは人工斜面
の除雪作業の効率化を図るために法面に排雪する場合には図
15の様に小段に雪崩予防柵等を設置することが提案されてい
る.(新編防雪工学ハンドブック・2010,P301~).しかし現
図 12 「せり出し」による道路の片側の通行制限
場においては雪崩防護柵の谷側の小段上に空洞が形成され
「雪庇」や「巻きだれ」が発生し,また小段の有効活用が出
来ず以前よりも悪化し危険が増大する結果と成り,除去作業
等が必要となり維持管理費の増大に繋がる状態になっている.
図 13 「せり出し」予防の排雪作業と除雪作業の効率化
このような中で図 13 の様に斜面全体の積雪層を排雪する方
法が実施されている現場も見られる.しかし他方では図 13
の除雪作業の様に夜が明けない暗い時間帯でライトを頼りの
除雪作業であり厳しい環境の中であり安全性と効率化を図る
ためには道路斜面に排雪せざるをえない状況となっている。
図 15 雪崩予防柵の谷側が空洞化「巻きだれが」発生
この様な中で図14(D)の様な野外実験により(A)~(C)タイプ
2.3.4 「せり出し」「雪庇」現象の確認と対策
の様に雪圧観測(ロードセル)を実施,また①~③斜面タイプ
近年における除雪費用等については冬期交通量の増大も重
の様に断面観測を図り,これらの資料により斜面積雪層の安
なり車道の除雪よりも,雪崩等の要因と成っている斜面積雪
定度を確認した.なお小段を有する①タイプでは小段幅に関
層の「せり出し」や「雪庇」対策に要する除雪費用,及び防
わらず「雪庇」等が発生するが,②タイプの様にグライド抑
護柵や標識柱等の雪害復旧費用が増大傾向になり道路維持管
止柵工等を斜面に配置すると積雪層は安定する.しかし自然
理の関係者の苦労が耐えない。
斜面等の様に小段の無い長大斜面においては③タイプの様に
図 14 斜面雪圧の確認と「せり出し」「雪庇」対策
上部斜面は④の様にグライドやクリープ現象が下部斜面を基
に準じ増幅することに繋がり,小段を有する人工斜面よりも
全層雪崩や表層雪崩が発生しやすい斜面状況となり,更に法
尻には斜面積雪層が大きく変形した状態で堆積し「せり出
し」が発生する要因と成っている.このような「せり出し」
要因となっている斜面雪圧について(A)(B)(C)斜面のグライド
柵で確認,及び(D)斜面の断面観測により確認し①②③斜面
図 16
吊柵の全景と吊柵の崩壊
の模式図を作成した.このことにより①や③断面の積雪層の
足元を除雪するとバランスを崩し図12の様な「せり出し」部の
全層雪崩に繋がり,法尻の積雪層を除雪することは危険が伴
うことが確認された.なお道路の堆雪幅の抵抗力P2 と斜面積
雪層の「せり出し」力P1の釣り合い状況について認識を深め
図―19 アンカーの破断と支柱の浮上り現象
る必要があり,これまでの雪圧の観測資料より下式の様な安
全確認の算出方法が考えられる.
図 17 吊柵の転倒や崩落
P=P2 -P1
=W2(sinθ-cosθ・μ)-W1(sinθ-cosθ・μ)・(5)
至っていないことから要因を追究し改善策を検討してみた.
3.2 アンカーボルト(SS400・M12)による破断実験
W2=A2・ρ W1=A1・ρ ρ・・密度
μ・・摩擦係数
A2・・堆雪幅W×積雪深
A1・・斜面積雪層断面積
造は図 16 の拡大図の様に,座金下に吊ロープを固定してい
3.雪崩予防柵(吊柵)の雪害対策について
ることから座金と地盤面とは 2cm 程の隙間Hが発生すること
3.1 吊柵の雪害状況
になる.このことがアンカーボルトの破断の要因と考え,図
図 16 は吊柵全景と吊柵が崩壊した状況写真で,図―17 は
現況の吊柵用の吊ロープをアンカーで固定している断面構
18・19 の様に3タイプのアンカーボルトの破断試験を試みた.
吊ロープを固定するアンカーの破断,及び支柱基礎工が浮上
がり変形し吊柵本体が不安定な状態となり倒壊や崩落した現
タイプ①・・ナットと台座に隙間Hを形成したタイプ
場が多く見られる.しかし法面の安全点検等では維持管理や
タイプ②・・隙間Hの無いタイプ
復旧方法等の話題が多いが今のところ具体的な対策までには
タイプ③・・角型座金をナットにより締付けたタイプ
図 18 ボルトの破断実験状況
図 19 破断実験資料(SS400.M12.ネジ切り有り)(阿部・2012)
なおこのような吊柵等のアンカーボルトの破断対策に関連
いる.地表面が軟岩等のような弱層で構成されている現場で
した実験(森北他・2009:アンカーボルトの埋込長とせん断
はアンカーボルトの破断位置が地表面下である事から,模式
耐荷力の関係)により解明され報告されているが,座金と地
図においては弱層を想定して薄色で応力分布を表示してい
盤面の隙間Hを対象とした実験資料ではなかったことから以
る.なお実験においては鋼性の厚板で構成していることから
下に隙間Hを考慮した破断実験によりとりまとめてみた.
濃色で表示している.タイプ①ではタイプ②と比較すると破
実験の目的は何れもアンカーボルトの破断の主な要因を確
断力Pが小さ過ぎることから,従来のせん断応力 σ1 に曲げ
認することであり,座金底面に隙間Hが発生し片持梁による
モーメントによる応力 σ2 を加算し合力により推測した.タ
曲げモーメント等が増大し破断したものと想定し,座金と地
イプ②では隙間Hがゼロであることから従来通りの算出方法
盤面の隙間Hを調整可能な台座を造り,ボルトの破断力Pを
として,せん断応力のみとし σ1 とした.タイプ③では角型
確認し比較した.この結果,図 19 に表した結果となり各タ
座金をナットにより締付けたことで破断力Pに対し摩擦抵抗
イプのボルトの破断力Pに無秩序なバラツキがみられた.
力が発生したものと想定し,せん断抵抗力 σ3で調整した.
タイプ①の様に隙間Hを確保したアンカーの破断力Pは,
タイプ②の隙間Hをゼロとした破断力Pと比較すると想定以
上に破断力Pが小さく,また座金をナットで締付けたタイプ
③の様に角形座金(ワッシャ―)を台座にして隙間Hをゼロと
したタイプは逆に破壊力が増大している様な結果となった.
このように当初想定したアンカーボルトの破断力Pに無秩序
な違いが生じたことから,まとめるのに時間を要している.
3.3 アンカーボルトに作用した破断応力の算出
これまでの片持ち梁からなるアンカーボルトの断面計算は
「微小な隙間H」の場合には「せん断力のみ」で対応し,特
に隙間Hの範囲については定めがなく注視してこなかった様
に考えられる.この様な中で吊柵等のボルトの破断が多発し
ている事から実験を試みたところ,微小な隙間Hにより破断
力Pが大きく変化し,及び座金等をナットで締付けると破断
図 20 合成応力分布の模式図
力Pが増大する事が判明した.この様な現象を図 19・20 の
様な模式図に表し合成応力が発生したものとして下式の算出
方法を導いてみた.
これまで吊柵等のアンカーボルト破断の主な要因は座金と
地盤面に隙間H が形成し,またロープの引張力Pに対し,
タイプ① σ = σ1+σ2
=(P/A)+(M/Z)・・・・
3.4 アンカーボルトの断面構造の改善
(6・1)
せん断応力 σ1 のみの考えで設計してきたことが挙げられる.
改善方法としては隙間H による曲げモーメントM が発生し
タイプ② σ = σ1
=(P/A)・・・・・・・・・・
(6・2)
タイプ③ σ = σ1-σ3
=(P/A)-(Po・τ/A)・・・
ない様な断面構造が望まれる.このようなことからナットの
締付けにより座金が地盤面に圧着可能にするためには図 21
(6・3)
Σσ = σ1+σ2-σ3
=(P/A)+(M/Z)-(Po・τ/A)・・ (6・4)
σ:アンカーに作用する応力
P:荷重, A:ボルトの断面積 Po:アンカーの引張力
M:曲げモーメント(H・P)
Z:断面係数,
τ:座金と地盤の摩擦係数
H:座金と地盤の隙間,
σ1:Pによるせん断応力(P / A)
σ2:曲げモーメント(M = H・P )による応力
σ3:座金と地盤面に作用する摩擦抵抗応力(Po ・τ/ A)
図 20 はボルトの根入長Lを垂直な地盤面(斜面勾配θ=
90°で地表面が軟弱地盤)に設置した状況を想定し図化して
図 21 従来の断面構造.
図 22 改善した断面構造.
の様な従来の断面構造を図 22 の様に座金の上面に吊ロープ
を取付け,また座金底面に収縮材を設置して削孔内の硬化し
たモルタル柱の上部と分離する様な断面構造が必要とされる.
なお図 23 の様にアンカーは周囲の土砂と一体と成り抜け落
ちている現場も見られることから図 24 の様に地盤の安全性
を含め一体として考る必要がある.これまでは吊柵用の座金
を地盤に圧着することは考えずアンカー引張力 Po は無かっ
たが、今後はアンカー工法による法面の安全性を含めナット
図 25 柵工の浮上り現象.
の締付け(トルク管理)を含めた(7)式による対応が望まれる.
図 23 アンカーの引抜け
Po=(PA+PB)/μ
図 24 アンカー工法
図 26
吊ロープに作用する沈降荷重
・・・・・・・・・・( 7 )
Po・・アンカー必要引張力 PA・・土圧 PB・・ローブ引張力
β=90° μ・・摩擦係数
3.6 吊柵の浮上り現象による倒壊対策
図 25 は吊柵本体の浮上り現象であり浮上り量D≒30cm~
50cm が確認され,また積雪深の多い現場では図 26 の様に山側
に大きく傾斜,又は転倒した現場が見られる.このような現象
の主な要因としては上段の吊ロープには前項の図 1 模式図の
様な積雪層による沈降荷重が作用し,吊ロープが歪曲して
「放物線の理論」により固定したアンカーボルトと柵工支柱
図 27 柵工の転倒.
ふ
間に引張力が発生し,地盤に固定されていない柵工本体が引
張られ浮上ったものと推測された.現場においては図 26 で確
認される様に上段の吊ロープが歪曲し柵工本体が浮き上がり
不安定な状況が確認されており,この様な現象が毎年の様に
繰返され,年月が経過すると図 27 の様に柵工の変形が累積
し転倒するに至った現場が見られることから改善が必要とさ
図 28 電柱の控線に作用する沈降荷重と電柱の破断.
れている.なお図 28 は電柱の控線(太さφ≒1cm)に作用して
象を現している.このような現象が冬期毎に繰り返され部材
いる沈降荷重(斜面積雪層の褶曲層を確認)の状況であり,こ
の変形が徐々に増大して図 27 の様に柵の転倒やアンカーの
の沈降荷重が主体となって電柱が破断した状況を現している.
破断,支柱下部の補強材の破損等に繋がり,柵工本体の耐用
この場合にはアンカーンカーボルトと電柱の両方が固定され
年数が短命になっていると考えられ改善が必要とされている.
ていることから電柱の控線に作用する沈降荷重が大きい場合
改善方法としては図 30 の様に上部吊ロープの代替えとし
には,何れか弱い断面の構造物が破損することになり電柱が
て沈降荷重に対応可能な鋼材を使用しながらも吊柵の吊ロー
破断した状況写真である.
プの長所を保持しながら改善を図った断面構造が挙げられる.
また図 31 は地盤が弱く表土滑り等が心配される場合には自
4.3 雪崩予防柵(吊柵)の改善等
図 29 は従来の吊柵の断面構造で吊ロープに沈降荷重が作
用すると谷側の柵工背面の雪面が日照や気温の上昇により融
雪し,この融雪量分だけ吊ロープの歪曲が助長され柵工本体
が支柱の補強材底板の山側を回転軸として山側に転倒する現
重の重いコンクリート基礎工ではなく,アンカー工法により
雪崩予防柵の軽量化を図り法面の負担を軽減した断面構造図
としいる.なお柵工背後に吊ロープではなく沈降荷重に耐え
る剛性の鋼材等を使用した場合には,支柱の転倒や浮上り現
象が発生することは無く,沈降荷重はL型土留擁壁等の断面
5.まとめ
構造に類似し,逆に谷側に支柱を設置し柵工を支える工法よ
積雪地方における道路維持管理は冬期間における道路除雪
りも安全側に作用することになる.図 32 は改良した実験柵
作業のみではなく夏期における付属施設の点検や補修など年
で 3 冬期の最大積雪深は 224cm であったが現場実験経過にお
間を通した多様な業務範囲と成っており雪害に強い経済的な
いては安定した状況が確認されている.
道路施設が必要とされている.
このような状況の中で防護柵や雪崩関係に携わる関係者よ
り多様なご意見や助言を頂き感謝申し上げると共に,本資料
がこれからの道路付属施設等の安全性の向上や雪害の軽減に
つながれば幸いである.
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東北の雪と生活, 第 29 号,pp43-47.
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