コミックマーケット87 いぬごや Take Free! 目次: What is “駅メモ”? 2 マスターオブ千葉を取ってゆるふわ勢になろう 4 #叢雲は人生の墓場 8 @mystia04 2014年12月28日 What is 駅メモ ? 柴犬・駅メモ・時々艦これ /* まえがき */ お初の方は初めまして。そうでない方はご無沙汰しております。mystia04です。 巷では みそいぬ とか呼ばれてたりしています。 夏コミでは評論島でうちわを売っておりました我がサークルですが、冬コミ落選したので 新刊は出さないつもりでした。しかし代表が某所属大学PC部誌原稿も落としてる手前、何 かしら出さないと忘れられるんじゃね…?とかいう焦燥感的な何かが働き、フリーペーパー を発行しようという流れとなりました(?) /* What is 駅メモ? */ さて、今回のフリーペーパーは@nkipsp氏「マスターオブ千葉のススメ」、@numpad0氏 「叢雲は人生の墓場」の二本立てとなっております。前者は「駅メモ」、後者は「艦これ」 の話題となっております。艦これは皆さんご存知だと思いますので、自分からはこの「駅メ モ」について軽くご紹介させて頂きます。 駅メモ(正式名称:ステーションメモリーズ!)は、株式会社モバイルファクトリーがコロプ ラ・フジテレビの両プラットフォームにて展開するゲームです。 簡単に言えば、様々な特殊能力を持った「でんこ」と呼ばれるキャラクターを駆使し、ス マートフォンの位置情報システムで最寄りの駅にリンクをするという非常に単純明快なゲー ムです。 "2 しかし、リンク時間や駅の人気度等に応じて加算される「リンクポイント」、各でんこが 持っている「特殊能力」、レーダー等のアイテムを駆使するなど、やりこみ要素が深くなっ ており、全国を飛び回り新しい駅にアクセスする人、家の近くの駅を守りスコアを稼ぐ人… 自分の環境等でそれぞれ様々な遊び方が出来るのがこのゲームの特徴となっています。 …うん?特徴がそれだけかって? …でんこかわいい…でんこかわいくない? /* でんこかわいい! */ まずここを見る。いいね? そしてリンクから駅メモをインストールする。…よし、入ったな? あとはでんこを愛でる!でんこかわいい…でんこかわいい!でんこ(ry -Fin- /* まとめ */ …という感じで駅メモはでんこを愛でつつ、駅を取ろうぜ!というゲームでございます。 でんこのかわいさについて詳しく書こうとしましたが、前日深夜というこの時間設定と (now AM 1:00)、まともな文章にならなかったので公式Webを引用しました。許してや… 拙い文をもりもり生産しておりますが今回はここまでです。夏コミでは 受かったら しっ かりとした新刊を用意する予定です。その際はよろしくお願い致します。 "3 マスターオブ千葉を取ってゆるふわ勢になろう @nkipsp 初めましての方は初めまして。普段ぶん殴ったりぶん殴られてる方はどうもです、えぬけぇ です。 11月28日より公開された駅メモ!(アプリ版)ですが、5日後の12月2日で無事(?)マスターオ ブ千葉を獲得しました。 というわけで、マスターオブ千葉の軽い考察と取り方講座をしていきたいと思います。 まず自分のマスターオブ千葉の取り方について軽く行程をまとめたいと思います。 1日目:15時頃にアプリ版駅メモが配信開始。みんてつスタンプラリーというQRコードを集 めるイベントのため芝山千代田、大多喜、上総牛久を車で回ろうと偶然遠征している途中 だったので、そのまま成田空港近辺、芝山鉄道、東金線、いすみ鉄道、小湊鉄道をコンプ。 途中でおろしてもらい、帰宅ついでに千葉都市モノレールを完乗。 2日目:この日は昼から都内に出る予定があったため総武緩行、快速線のみ乗車。隣を走る 京成千葉線、京成本線の回収も兼ねる。 3日目:午後スタートで千葉からレンタカーで銚子往復。 行きは東関東自動車道で成田線と鹿島線を回収。銚子電鉄を全て回収した後、帰りは東金 周りで総武本線を回収。その足でユーカリが丘線もついでに回収。 4日目:朝から行動して今日中にマスターオブ千葉を…と思ったら寝坊したので午後からの行 動に。千葉から外房線を経由して内房線木更津、そして久留里線久留里まで大回り。久留 里からレーダーで上総亀山まで回収した後はそのまま木更津へ。 木更津から内房線、京葉線経由で舞浜まで移動。舞浜でレーダーを使いディズニーリゾー トラインを回収。改札を一度出て再度京葉線、武蔵野線で南流山まで。途中つくばエクス プレスと流鉄をレーダーで回収したら、南流山でまた改札を一度出て武蔵野線、常磐線、 成田線(我孫子支線)経由で帰宅。その際に常磐線では天王台駅、成田支線からは北総鉄道を 回収。 "4 5日目:朝から総武本線で成田へ。成田から京成成田に乗り換えをして京成本線で京成津田 沼まで回収。途中勝田台、八千代台近辺で東葉高速鉄道を回収。京成津田沼からは新京成 で新鎌ヶ谷まで。新鎌ヶ谷から昨夜取りこぼした北総線の一部を回収するため往復乗車、 その後東武野田線を全区間往復回収(新鎌ヶ谷→野田市(残りはレーダー)→馬込沢(残りはレー ダー)→新鎌ヶ谷)したら新鎌ヶ谷から松戸方面に残りの新京成を回収、最後に北総鉄道矢切 駅を回収してマスターオブ千葉獲得となりました。 さて、文で一気に説明しましたが、ここからは各路線の取り方について考察していきたい と思います。 総武線(緩行、快速):総武快速線で千葉-東京往復で回収可能です。特に苦労する点はないと 思います。 京成本線:京成本線は京成津田沼までは総武線と並走しているのでついでにチェックインし てしまいましょう。京成八幡、京成中山、京成西船は駅が隣接していてチェックインが難 しいので注意です。 京成津田沼から先は乗って回収しましょう。途中で東葉高速鉄道、ユーカリが丘線のレー ダー使用ポイントがありますのでバンバン使っていきましょう。 京成千葉線:全駅総武線と内房線から回収できます。落ち着いて駅間の合間でチェックイン しましょう。 成田線(千葉-佐原-銚子):後述の理由で車がオススメですが、電車で行く場合は松岸での乗り 換えによる大回りを上手く活用しましょう。途中香取駅近辺でレーダーを用い、十二橋駅 の回収をお忘れなく。 鹿島線:十二橋駅のみが千葉県内の駅となっていますので、レーダーで回収しましょう。 総武本線:特に難しい点はないかと思います。 銚子電鉄:この路線が大回り経路で攻める場合鬼門となるので注意です。松岸からでは全駅 レーダー回収は不可能ですし、銚子まで行ってしまうと大回りが無効となってしまいます ので何人かと共にレンタカーで回収するのが一番安上がりだと思います。帰りに乗らなかっ たおわびにぬれ煎餅でも買ってきましょう。 "5 東金線:総武本線成東駅周辺、または外房線大網駅周辺からレーダーで回収可能です。もち ろん乗車しても構いませんが、大回り経路にいれてしまうと微妙にどちらかの路線に取り こぼしが発生するので後々面倒だと思います。 成田空港線(空港第2ビル、成田空港):乗りましょう。地下駅ですのでもしかしたら位置ずれ するかもしれませんが、慌てずレーダーで回収するか地上に出ましょう。駅から出る際に は身分証明書の提示が必須ですのでお忘れなく。 芝山鉄道:空港線からレーダーでいいでしょう。 外房線:乗るのが一番です。無理して車で回収しようとするとエラい目にあうと思います。 勝浦から先は謎の区域でGPSや位置情報が荒ぶる時がありますが、落ち着いて再度チェック インし直しましょう。 内房線:同じく乗車しましょう。リゾートあわトレインの運転日などとあわせて行って、美 味しい地元の食事とビールでも呑みながらのんびり回収すると楽しいです。 久留里線:レンタカーでも回収可能だとは思いますが、どうせなら列車に揺られて回収しま しょう。久留里から上総亀山の末端区間は極端に本数が減るので、時間がない方は久留里 でレーダーを使用するのがいいでしょう。 千葉都市モノレール:乗って回収が一番ですが、1号線に関してはレーダーで途中分岐部分を 回収してしまったほうが楽だと思います。都賀駅で降りて少し桜木方面へ歩くと千城台ま でレーダーが届きますので、できるだけモノレールに乗らないで安上がりな回収をしたい という方はそちらもオススメです。帰りはJRで帰りましょう。 京成ちはら線:外房線や内房線からレーダーを飛ばして回収するのが楽だと思います。もち ろん乗車してもいいですが、自分はあまり京成に乗らないのでJRからいつも回収しています。 京葉線:湾岸道で回収してもいいですが、本数があるので乗車していいと思います。舞浜ま で行ってリゾートラインの回収もお忘れなく。 ディズニーリゾートライン:ディズニーランド内のモノレールですが、営業線ですので駅メ モにももちろん登録されています。舞浜から4駅レーダーで回収可能ですが、ぼっちで行っ て全区間乗りきるぜというマゾな方は一周してきましょう。 地下鉄東西線:わざわざ乗るまでもないので、総武線と京葉線からレーダーを飛ばして回収 しましょう。残すと後々面倒になります。 "6 武蔵野線:乗りましょう。新松戸と南流山で流鉄とつくばエクスプレスが回収可能なので レーダーで回収しましょう。 つくばエクスプレス:全区間乗りたい方はさておき、マスターオブ千葉のためだけならレー ダー回収でいいと思います。 流鉄流山線:近頃某アニメで話題になりましたが、乗らずにレーダーで全区間回収できま す。 常磐線:大回りの途中経路に組み込んで、乗らなかった駅はレーダーで回収というスタイル もアリだと思います。自分は京葉→武蔵野→常磐をよくやるので、馬橋と北松戸だけよく 残ります。 成田支線:レーダーで天王台駅と北総鉄道(千葉ニュータウン中央-印旛日本医大)、そして成 田湯川もついでに回収しておきましょう。我孫子で唐揚げ食べるのもありですし、成田で おりて鰻もいいかもしれません(何が) いすみ鉄道:車で回収するのもちと面倒ですが、おそらく南房総回収とは別日程にしないと 時間的に大変だと思います。 小湊鉄道:同じく車での回収はオススメできません。小湊鉄道五井駅→いすみ鉄道大原駅ま で途中下車可、逆行不可の片道乗車きっぷが安いので、列車で回収する場合は上手く活用 しましょう。 新京成線:通しで乗ってもそこまで高くないので乗車回収でいいと思います。京成本線と絡 めて一気に回収するのがオススメ。 東武野田線アーバンパークライン:乗るしかありません。 北総線:西白井-小室間はレーダーがどこからも届かないので乗るしかありません。それ以外 はレーダーで回収可。 都営新宿線:本八幡1駅なので総武緩行回収の段階で既に千葉県内分は攻略済だと思います。 ユーカリが丘線:女子大好き欲しい…欲しくない?(レーダー安定) 東葉高速鉄道:高いし地下区間もあるので近隣路線からレーダー回収しましょう。 以上となります。 このポイントを押さえれば3日でマスターオブ千葉攻略も不可能ではないでしょう。 ゆるふわな称号の一つ、マスターオブ千葉を皆さんも取得しましょう! "7 #叢雲は人生の墓場 @numpad0 北方探検編 ― 体験版 「どこ」 保温効果のある化学繊維の布と、金属を蒸着した断熱シートとに体を包まれ、その複合材の切れ間 から車の窓越しの空だけを見て過ごした僕は、外から見れば虫の蛹のようだろうと頭の中で想像して いた。イメージの中の殻は左右対称の紡錘形で、寝転がっているから少しだけ折れている。実際は助 手席にできた燕の巣か、春になった後冬物が積み上がったゴミの処分場みたいになっていて、蛹ほど にも素敵なものではなかったらしい。 これほど判断材料もなく過ごしていても、しばらく車が止まったままだということはわかった。今 度の停車は随分長いな、と思い、しばらく待ってから、どうも雰囲気が違うな、と思ったのだった。 運転席の気配がないし、エンジンから洩れる熱が冷えてきている。エンジンブロックが凍りついてし まうと、燃料が凍り切っていなくても再始動が手間なはずで、かけるつもりがあるなら、早めに知ら せたほうがいいかなとも思った。 「どこ」 首の無線機に話しかける。考えてみればその時まで長く喉を使っていなくて、声は出ていなかった のだけど、意思は伝わった気がした。どのみち複雑な意思を伝える必要はなかったから、それでも気 にはならなかった。 「到着地。着いたの。車を降りる」 「そう」 返答を受けたので、考える作業に入る。長い旅をしていて、目的地は北の方だった。何度か寝起き して、何度か食べた。顔の前にドリンクチューブがあって、まずい流動食を飲んだ。いま何度か食べ たといったけど、口にしたのは固形物じゃないから飲んだうちに入るのかな。車を降りるならあの チューブも置いていくのかな。そうか、旅が終わったのか。 動いたほうがいいのかな。いいな。考えがまとまったので、答えた。 「着いたの」 「着いた。三時間前にも言ったでしょう。ここで回収を待つわ。まだそこに丸まっててもいいけど、 気が向いたら出てきて頂戴」 "8 まあ、出た方がいいんだろうな。太陽は天頂に近い。この車に乗りこんだ頃はわからなかったけど、 いつしか太陽が動いているのがわかるようになっていた。じっと見ていると、曇で暗い雲越しでも陽 の照り方が少しずつ変わる。夜になれば星も見える。見えるどころか、天球が動いているのが見えた。 僕たちは右に回転していて、星の光が空を埋め、その反射が見えるところが地上で、真っ暗な部分が 車内。星が見えない時は曇り、それより暗い時は雪。叢雲は運転にヘッドライトを使わなかったから、 近くのものは見えない。それで、一人でそういう区分けをして過ごした。 もぞもぞと動いてみる。全身から少しずつ信号が帰ってくる。まだちゃんとくっついている、みた いな。 「出るの?出るの。待って、凍りついてる。ノコで切るわよ」 叢雲が飛びついて動いている気配がして、小さな電動ノコが吹き上がり、轟音とともに末端が激し く振動する。熱が押し寄せてきて、氷を開く。あるところで急に熱が引いて、冷気が流れ込み始める。 手足が強く刺激された。何度か繰り返して、抜け出せるまでになる。叢雲がドリンクチューブを繋い でくれて、浄水剤と薬が混ざった薄い塩水を飲み、身体が落ち着いて動かせるようにしばらく待つ。 蛹、殻、ゴミの山、どう呼ぶにしても、結局そこから出られるまでさらに三時間が過ぎた。外は晴 れて、降雪はなかった。禿げた岩山を思わせる氷の起伏があり、彼方には本当に山に見える盛り上が りも見える。氷のブロックが下から突き出したりそこかしこで割れたりして、茶色で塗ってあげれば 岩山の風景と言っても信じられるだろう。ただし草木はなくて、すべて反射率の高い白の濃淡で塗ら れている。出発した時は緑と黒の軍用カラーだったトラックも白く塗られた上に雪氷を纏い、元々付 いていたものから二倍以上に大きく膨らんだちょっとコミカルなタイヤをはいていた。その前には荷 物の包が埋まっているらしき雪のこぶがあり、雪山から救急キットや食料の小さな包みがこぼれだし ている。物見台よろしく高くなった助手席跡から降りることはできず、運転席にも後席にも使えるも のは見当たらない。意を決して転がり落ちる。転がり落ちると今度は布が引っかかるし筋肉が働かず 立てないので、残った能力でカラフルな物資と、その前に立っている叢雲に向けて這いずっていく。 叢雲は這いよる芋虫を見てあからさまに不機嫌な顔になって、ちょっと待ちなさい、と制止した。 パッケージの色がちょっと見れば流れる血にも似た物資の山へ彼女の手が入ると、雪塊はぱらぱらと こぼれ、周囲と同じ白い防寒着が出てきた。防寒着はオレンジ色のワンポイントが入っている以外は 白色、よく見れば銀色のようだったけども、周囲の氷の光を浴びると溶け込んで白色になるように設 計されている。僕が身にまとっていた布の塊は、もはや布の服というより枯れ草と泥の塊と言われて も疑問のないものになっていて、着ているというより何かで練って貼り付けたと言われたほうが納得 できた。剥がすと一気に乾いていくけど、そこだけ風が当たって痺れが走り、一気に十年分の垢が落 "9 ちたように清々しい。出てきた手首が勝手に上下に動くので不思議だった。寒さに震える機能を回復 して震えているということだったらしい。なんだか嬉しくて、それだけでも笑顔になれた。唇がひき つれるのを笑顔だとして。 「髪もねっとりしてるよ。粘土みたいだ」 叢雲に報告する。雪球をお母さんに見せる子供の気分だ。彼女は頭の"耳"を立てて、どこかと通信 している。仕方がないので、服まで這いずって潜り込む。ヒーターが入っていて身体が保護される。 構ってもらえないのは残念だけど、暇がないことすら新鮮でもある。ジッパーを気長に上げ、震える 足を振り回して動かないところで固定し、生まれたての子鹿ごっこを楽しむ。生まれたての子鹿はよ ろよろと歩くものだと思っていた。実際は転んで立てないところに子鹿っぽさがあって、立てないの に走って逃げられないと死んでしまうところにスリルがある。子鹿にとってはスリルではなくて生命 の危機なんだけど、生まれたての子鹿なんていう言い方をする方にしてみればスリルだ。 「回収が来るわ。氷に寄りかかってなさい」 その一声で歩き回るのをやめて、その場に座る。もう一人前の人間のように座る。お尻がまだ無意 識から帰ってきてないせいで、座布団の代わりになる鈍い感触。でも、後でお尻の肉が傷んで痛そう なので横になった。大きくあくびをする。どすんと突き上げる衝撃があった。しばらく経験していな い短い衝撃だったから、僕の座ったのが響いてきたのかと思った。そうでもなさそうだったけど。し ばらくしてもう一度。今度は僕が動いていないから、たぶん違うだろう、と結論づけた。叢雲はまた どこかと話している。彼女は軽装だ。鎮守府にいた時と同じ制服。汚れは払えば落ちてしまう。髪が 傷んでも望めば銀に戻る。耳だけの艤装は鋼にペンキ塗りの軍艦色と緑の燐光を取り戻し、氷原を映 し出す。どこと話しているんだろう。救援隊か。航空機がここに来るのだろうか。目立たないかな。 長いこと何かから逃げてきたけど、観念したのだろうか。まさかとは思うけど、彼女の表情も今は心 ここにあらずでたいがい平板なのでよくわからない。時折風で飛んでくる氷を、顔から素手で払って いた。己の耳に意識を保ったまま、彼女の視線が少し離れたところに定まる。追った先では氷が盛り 上がっていて、真っ黒いこぶが突き出してきた。氷の割れる音は聞こえるけど、動きはぬーっと安定 してゆっくりしている。太陽の白と空の青と地の灰に続く、新しい色だ。この氷と雪と大気の反射材 ばっかりでできた世界では、暖かみすら感じる。 「すごい」 地下基地みたいだ、と思った。きっとそうだろう。地面より上に出しておくと、周りの山や僕らの 車みたいに氷漬けになるから、仕舞ってあるのかもしれない。必要な時は油圧か何かで持ち上げて、 また引っ込むのかな。建物が出てきたなら、鎮守府への帰宅は先になるから、ちょっと残念だな、と いう思いがあって、今ひとつ興奮できなかった。あの場所から鎮守府までトンネルは繋がっていない だろう。黒い塊は頭をちょっと出したところで止まった。高さは長さの三分の一もない。あるいは人 工物じゃなくて、鯨が地面から頭を出したのかな、とも考えた。でも、叢雲は何も言わないし、動き "10 も滑らかだった。野生動物が地面からいきなり飛び出てきたというのとはちょっと違った意味がある と信じられた。 「あそこへ行くの、あの建物へ」 通信機はまだ生きていた。胸の上で僕の意思を伝えていると主張する。熟練によって身体の延長と して通信機が発する信号を受け取れた。代弁させた意思が叢雲に伝わるかどうかは知らない。黒い塊 から人が出てくる。叢雲は黙って拳銃を握り、人影を見たまま右手を挙げて空を撃つ。何かの合図な のだろう。乾いた銃声が二度響いた。防寒着で膨れた人影が、歩き方も見た目もペンギンのように動 きまわる。数人が僕の防寒着に付いているのと同じ、鮮やかなオレンジのゴムボートを膨らませて、 滑ってきた。 「あれは艦よ。ヤンキー級弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦、K―420。大日本帝国海軍制式九三 式二十四インチ酸素魚雷は積み込んできてるかしら。たぶん、ないでしょうね」 "11 Copylight © 2014 いぬごや All Rights Reserved.
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