vol. 5 木の素材を! の創業40周年企画として始まった「賃貸住 宅未来研究所」 。今回は木の魅力を最大限 に生かした家具と空間をつくり続ける渡邊 photo_Takeshi Shinto text_Satoko Suzuki illustration_Yoshifumi Takeda editor_Akio Mitomi 〈スタンダードトレード〉代表 渡邊謙一郎 テナンス・修繕という面から考え ると、木はなかなか手強いんです。 の面白さと難しさを目の当たりに ﹁賃貸住宅未来研究所﹂ 。 渡邊 大学を卒業してから通った 職業訓練学校の木工技術科で、木 げるのはどうですか? 渡邊 次の入居者が気にならない 場所、例えば天井などを木で仕上 所長 なるほどそれは可能性があ りますね。黒々と艶光りする木の 所長 われわれが手がけている賃 貸住宅の大半がツーバイフォーで いでしょうか。生活するのに大げ 内装材に機能を持たせることは、 ます。漆喰や珪藻土もそうですが、 を取り除くという機能を持ってい 渡邊 僕は団地育ちで、自分の家 を建てたくて、大学は建築学科に す。木の魅力は大いに同意するの 客さんでも、玄関建具だけとか床 さである必要はない。僕たちのお でもありました。 分にとって、挑戦しがいのある木 進んだのですが、まわりのアカデ 石膏ボードといった建材で木を覆 ですが、防火などの関係で内装は をもらって⋮⋮これで本当にいい は、木を前面に出していくことも っているのが現状です。でも今後 入れたい方は多いです。そうやっ だけとか、部分的にでも木を取り 空間全体の質は上がります。 て部分的に手を加えるだけでも、 ル、手触り、色、使い勝手…。さまざ しっかり考えていきたいのです。 点を持つ渡邊さんのお話は、とても興 ま手にした雑誌に、家具づくりを 味深いものでした。さらにはディテー すべてを木で考えなくても、 部分で魅力は十分生きる。 建築側から見た家具や空間とは逆の視 している人を紹介した記事があっ その考え方は活用できそうです。 所長 われわれが管理している全 国の集合住宅を改修するときにも、 所長の研究ノート たんです。そのときに面白そうと 所長 ただ難しいのが、賃貸は自 Laboratory Notebook のかと考えていたときに、たまた は建築関係に行き、すんなり内定 賃貸でもメリットになるのではな ごくて︵笑︶ 。それでも就職活動 かけだったのですか。 所長 渡邊さんが木工職人を目指 したのは、どういったことがきっ も持つ木材の秘めたる力について、 渡邊 ナラは堅くて強度もあって、 梁などもいいかもしれません。 渡邊 それに木は見た目のよさだ 渡邊さんと一緒に考えてみました。 僕のやっている指し物の世界に合 う木なんです。 歳で独立した自 けでなく、湿気を吸収したり臭い 住宅や店舗の内装も手がけている。 所長 渡邊さんは、数ある樹種の なかでもナラに特化しています。 見た目だけでなくさまざまな機能 第5回のゲストは、 ︿スタンダー ドトレード﹀代表の渡邊謙一郎さ まらなく興味を持ったんです。 しました。そして木の奥深さにた 他人のつけた傷は気になる。メン 分がつけた傷は気にならなくても、 GUEST した家具づくりを行うと同時に、 所長 では最初から職人志向とい うわけではなかったのですね。 賃貸住宅の未来を模索しようと、大東建託 ん。ナラという木材の魅力を生か 創造すべく発足した 貸住宅の新たな価値を Presented by Daito Kentaku ミックな雰囲気とのギャップがす 2 右/木工所の2階には開発中のサンプル家具や修復を待つ家具たちが整然と並んでいる。上部には、渡邊さんが復刻と修 復を手がける〈自由学園明日館〉の椅子も。左/木工所で談笑する渡邊さん(右)と所長。 そう肝に銘じています。 もらうためには、しっかりつくる。 渡邊 生活のなかで、家具ってや っぱり大切なもの。愛着を持って グンと上がりそうです。 と呼ぶと、受け入れてくれる率は 所長 それはいい! シートを蓋 式にして、ソファと言わずに収納 長めのベンチを造り付けたら。 はたどり着かないんです。ならば ルが圧倒的に多くて、ソファまで んでいる人のオーダーは、テーブ 渡邊 あ、ソファはどうですか? 僕たちのお客さんでも、賃貸に住 もいますし、なかなか難しい。 もすでにテーブルを持っている人 宅をつくったことがあります。で 所長 実は以前、小さな折り畳み 式のテーブルを造り付けた集合住 とも、またその逆もある。 家具の配置によって広く感じるこ す。実際の部屋の広さではなく、 サイズも自ずと決まってくるんで 切で、それによって家具の配置や 例えば窓の位置って実はとても大 空間と家具の関係の密接さです。 りしている僕が実感しているのは、 渡邊 建築という大きな面と、家 具という小さな面を行ったり来た ます。賃貸の大きな強みですね。 せば一棟丸ごとのなかで実現でき 所長 おっしゃる通りで、分譲と 違ってオーナーがゴーサインを出 だいろいろあるのではないですか。 す。賃貸住宅の可能性ってまだま とも考えられる。空き室が減りま の階や隣の部屋とつなげちゃうこ 歯抜けになっている団地なら、下 渡邊 改修っていろいろできるの ではないかと思います。入居者が まつおかとおる 所内での 研究の傍ら、積極的にフィ ールドワークに出かけるア クティブ派。さまざまなジ ャンルの達人と意見を交わ すことで、賃貸住宅の新た な可能性を実感している。 所長 その精神を賃貸住宅でもぜ ひチャレンジしていきたいです。 JANUARY 2015 q 182 ● 問合せ/大東建託 賃貸住宅未来研究所 http://mirai-ken.com 183 q JANUARY 2015 賃 渡邊謙一郎さんが考える賃貸住宅のインテリア。 賃貸住宅未来研究所 所長 松岡 透 方法を、熟考したいと思います。 未来研究所 思ったのがきっかけでした。 て全体でなくとも部分から変えていく 謙一郎さんを訪ねました。 26 渡邊さんが手がけた内装の実例より。部屋 と家具を切り離すことなく、両者のバラン スに配慮して生まれた空間。住む人に愛着 を持ってもらいたいからこそ、そのバラン スが大切なのだという。photo_Hiromi Asai HOST 横浜市内にある〈スタンダードトレード〉の木工所。美しい家具をつくり出す工房は、空間そのものも非常に清潔で美しい。1 職人の多くは30代。家 具づくりに真剣に取り組み、いい家具を使ってもらうにはどうすればいいか、それを常に考えている。2 出番を待つナラの板材。3 キャビネットの背 面を丁寧に仕上げる職人。表と同じように無垢材を使わないと、使ううちに狂いが生じてしまう。4 木工所の設計は渡邊さん自ら行った。 要なことだと改めて感じました。そし 3 4 設計・製作する上でも、やはり一番重 わたなべけんいちろう %9 72年生まれ。神奈川大学工 学部建築学科卒業後、家具 づくりを学び、家具職人と して独立。ナラ材のみを使 い、自社工場で製作。住宅 や店舗の内装も手がける。 まに思いを巡らせる渡邊さんの姿勢は、 集合住宅にもっと 1 賃貸住宅 木を生かした家具・空間を手がける、 建築を設計・施工する上でも、家具を
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