新たな収益認識基準 — 電力・ガス業

ey.com/IFRS
2014 年 9 月
IFRS
Developments
電力・ガス業
新たな収益認識基準
— 電力・ガス業
重要ポイント

新たな収益認識基準が適用されると、電力・ガス企業には従来よりも多くの事項についての判断が求
められることになる

電力・ガス企業にとって主要な論点は、履行義務の識別、変動対価の見積り、契約変更の会計処理に
関して、本基準をどのように適用するかを決定することである

電力・ガス企業は、本基準により求められる開示を行う際に必要となる情報を収集するため、プロセス
や情報システムを変更しなければならない可能性もある

IFRS第15号は、2017年1月1日以後開始する事業年度(3月決算の場合、2018年3月期)から適用さ
れ、早期適用も認められる
概要
国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)(以下、総称して「両審議会」という)は共
同で、新たな収益認識基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表した。当該基準の適用
により、電力・ガス企業は、収益認識に関する実務の一部を変更することが必要となる可能性がある。新た
な収益認識基準は、従来のIFRS及び米国基準の収益認識基準のほとんどすべてに代わることになる。また
IFRS第14号「規制繰延勘定」を適用する企業は、引き続き当該基準に従って収益を認識することになる。
IFRS第15号は顧客との契約から生じるすべての収益について規定しており、顧客に財又はサービスを提供
するための契約を締結するすべての企業に影響を及ぼすことになる(ただし、IAS第17号「リース」等、他の
IFRSの適用範囲に含まれる契約を除く)。また、IFRS第15号は有形固定資産、無形資産等、一定の非金融
資産の売却により生じる利得及び損失の認識・測定モデルについても定めている。
弊法人の刊行物「Applying IFRS新たな収益認識基準の概要」(近日中に公表予定)では、
当該基準について詳細な説明を行っている。1 本冊子では、IFRS第15号の適用による電
力・ガス企業に対する主な影響を要約している。
電力・ガス企業は、電力・ガス業における論点に関して、両審議会の収益認識に関する合
同移行リソースグループ(TRG)や、米国公認会計士協会(AICPA)によって設置されたタス
クフォースにおける議論の動向を知ることが望ましい。なお、TRGは、追加の適用指針やガ
イダンスが必要か否かの判断をサポートするための組織として両審議会によって設置され
たものであるが、両審議会に対して正式な勧告を行ったり、適用指針を直接公表すること
はしない。AICPAは、収益認識に関する新たな会計指針の策定及び業界の関係者による
基準の導入を支援するため、16業種を対象としたタスクフォースを設置したが、その一つに
電力・ガス業界向けのタスクフォースがある。なお、TRGが議論した内容やAICPAが作成し
たガイダンスに強制力はない。
本冊子における考察は、弊法人の最終的な見解でないことに留意されたい。当該新基準に
関する分析が進み、また企業が基準の導入を始めると新たな論点が特定され、その過程
において我々の見解も進展する可能性がある。
主な検討事項
IFRS第15号を適用しても、結果的に企業の報告数値に重要な変更が生じることはないか
もしれないが、多くの取引についての分析方法を変更することが求められる。
電力・ガス企業は、履行義務の識別、固定価格や段階的に価格設定される契約の分析、
及び契約変更についての会計処理を行う際に、かなりの判断が必要となる可能性がある。
履行義務の識別
今後、電力・ガス企業は一定の
要件を満たす場合には、実質
的に同一で、移転パターンが同
じである、連続して移転される
財・サービスをまとめて単一の
履行義務として扱うことになる。
電力・ガス企業は、締結している多くの契約(例えば、テイクオアペイ契約、長期電力売買
契約)について、引き渡される財又はサービスのそれぞれの単位が別個の履行義務となる
かどうかを慎重に検討する必要がある。例えば、ある決められたエネルギー単位(通常は
キロワット時(kWh))相当量の引渡しを契約で定める場合がある。新基準に従えば、連続し
て移転される一連の区別可能な財又はサービス(例えば、kWh)は、その区別可能な財又
はサービスが同一のものであり、かつ同一の進捗率を用いて一定期間にわたり認識される
場合には、単一の履行義務として扱われることになる。電気は提供されると同時に消費さ
れることが一般的であるため、電力契約は上記の要件を満たす可能性が高い。電力・ガス
企業は、他の財又はサービスを提供する契約についても、上記の要件を満たすかどうかを
慎重に検討する必要がある。
さらに、電力・ガス企業は、契約において他に区別できる財やサービスが存在するかどうか
についても評価しなければならない。例えば、エネルギー契約では、オンデマンドで顧客の
利用可能量を設定したり、通信サービスを提供したり、再生可能エネルギー排出権に関す
る取決めが含まれることがある。こうした契約における履行義務を正確に識別することは複
雑であるが、収益認識のパターンを決定する根拠となるため重要である。
固定価格及び段階的に価格設定される契約
電力・ガス企業は、固定価格契約及び段階的に価格設定される契約について、複数の財
又はサービス間の相互関連性を評価し、履行義務の独立販売価格を見積るに際し、相当
な判断が求められる。この種の契約では、単一種類の財又はサービス(例えば、エネルギ
ー単位、ガス販売量、廃棄サービス)を一定の期間にわたり、様々な単位で販売することが
通例である。この種の契約を締結している企業は、履行義務を特定して取引価格を履行義
務に配分する方法を決定する際に、契約条件を慎重に検討して価格変動の原因を評価す
る必要がある。この種の契約は変動対価を含むことが一般的であり、さらに詳細な検討が
必要となる可能性がある。
1
2
Applying IFRS: A closer look at the new revenue recognition standard(2014年6月)を参照のこと。日本語版に
ついては、近日中に公表予定。
新たな収益認識基準 — 電力・ガス業
新基準では、一定のケースにお
いて、企業が請求権を有する金
額で収益を認識することが認め
られている。
電力供給契約とは異なる、コモディティを引き渡す契約では、一定期間にわたり認識される
という条件が満たされない可能性がある。そのため、財又はサービスを一括して単一の履
行義務とする条件を満たさない場合がある。例えば、企業は、法人顧客との間で、即時に
消費するのではなく後で使用するために備蓄することを目的とした天然ガス販売契約を締
結することがある。このような状況では、企業は複数の(例えば、熱量単位別に)履行義務
を識別する可能性がある。IFRS第15号では、コモディティの単位ごとに別個の履行義務が
存在する契約に関して、それぞれの販売価格を決定することが求められる。ただし、そのよ
うな販売価格の決定方法に関する具体的な適用指針は示されていない。企業は現在の市
場価格を用いる必要があるのか、それとも契約開始日時点で入手可能なその他の価格、
例えば、先物価格や計算上の評価額を使用できるかについては明確ではない。そのため、
この分野についてはさらなる対応が求められる可能性が高い。
新基準では一定のケースにおいて、企業が請求権を有する金額が、顧客に移転する価値
に対応する場合に、その単位によって収益を認識することが認められている。この実務上
の簡便法の要件を満たす電力・ガス企業は、従来からの会計処理と同じ方法(すなわち、
請求額)で収益を認識できる可能性がある。
価格の調整と期間延長を伴う契約変更
電力・ガス業界では契約変更が一般的に行われている。契約変更は多くの場合で、契約期
間の延長と、全体的な価格算定方式の変更を伴うものである。例えば、電力・ガス企業は
契約の延長に同意し、延長された期間にわたり提供されることになる電力・ガスに対して
は、調整された価格を適用することがある。現行のIFRSでは、電力・ガス企業はいまだ提供
されていない電力・ガスに対し変更後の契約に基づき調整された料率を使用し、将来に渡
って調整された価格と期間延長を伴う契約変更の会計処理を行うことになる。
IFRS第15号では、電力・ガス企業は通常、価格の調整と期間延長を伴う契約変更に関し
て、将来に向けて会計処理する。これは変更後に提供される財又はサービスは、契約にお
いて変更前のものと区別できるためである。電力・ガス企業は、変更後の財又はサービス
が独立販売価格と異なる金額で計算される場合に限り、残りの財及びサービスに対して調
整された料率を用いる。これは当初の契約と変更後の契約との間に経済的な関連性があ
ることを示すものである。電力・ガス企業が、変更後の財又はサービスの価格が契約変更
時の独立販売価格(特定の契約状況、例えば、合理的な割引率等を反映させるための修
正を含む)であると判断した場合は、変更後の契約は別個の契約として扱われ、現行の実
務とは異なるパターンで収益を認識しなければならない可能性がある。電力・ガス企業は
業務プロセスを見直して、上記のような調整した価格と契約延長を伴う契約変更を分析で
きるようにする必要がある。
新たな収益認識基準 – 電力・ガス業
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次のステップ
電力・ガス企業は、結果的に会計処理がほとんど、あるいはまったく変更されないとし
ても、IFRS第15号を評価し、本基準を適用するために必要な情報を収集する業務プ
ロセスやシステムを構築しておく必要がある。
電力・ガス企業は、両審議会やTRG、AICPAの電力・ガス業向けタスクフォース等の
議論をモニタリングすることにより、IFRS第15号の規定を電力・ガス業界における
取引にあてはめた場合の解釈や適用に関する方向性とその影響を検討することが望
ましい。
また電力・ガス企業は、投資家やその他の関係者へのコミュニケーションプランにつ
いても検討する必要がある。これには、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更
及び誤謬」で求められる、公表済みであるが未発効のIFRS第15号による影響に関す
る開示についての立案も含まれる。
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