和田 贄川 ・和田峠 塩尻峠・ 下諏訪 塩尻 洗馬 奈良井 ・鳥居峠 藪原 福島 上松 妻籠 馬籠 中津川 【中山道・木曽路】 宿がある。江戸と京都を結ぶ内陸路で、 江戸時代の五街道のひとつで、全長は約 533 キロ。 前半部は板橋、大宮、熊谷、安中を経て碓氷峠を越え、信濃に入る。 軽井沢、追分、和田峠を越えると諏訪湖のある下諏訪宿となる。 つまご まごめ 山間部を縫うようにして木曽路は続く。 塩尻峠、奈良井、鳥居峠、福島、妻籠、馬籠峠を経て街道は美濃に入る。 「お諏訪さん」と心のブルー。中山道・木曽路編。 い。その際には諏訪湖周辺を通る。昔は、 中央高速を使い信州を目指すこと が多 ているとスキー旅行や高原散策などで、 私はいつも気がつくと諏訪湖にいる。 昔 か ら そ う な の で あ る。 関 東 に 暮 ら し ど、なぜだか知らない間に、私は決まっ らの全行程をクルマで移動する場合な た。 こ の 連 載 の 取 材 の 際 に も、 東 京 か で、 あ り き た り の カ レ ー ラ イ ス を 食 っ つ く と 腹 を す か し、 ド ラ イ ブ イ ン な ど が ら 見 慣 れ ぬ 土 地 で 右 往 左 往 し、気 が 立 派 な 花 火 大 会 は あ る し、 あ の 豪 胆 な も な い。 も ち ろ ん、 贔 屓 目 に 見 れ ば、 や浜名湖ほどの地理的経済的な大きさ と し て は 若 干 弱 い。 か と い っ て 琵 琶 湖 富士五湖などに比べると、観光の基 点 いような気がする。洞爺湖や十和田湖、 私 の 思 い 過 ご し か も 知 れ な い が、 諏 訪湖は全国的にはそんなに有名じゃな 第三十回 長 野 道( 岡 谷 〜 松 本・ 安 曇 野 )が 開 通 て諏訪湖にいるのである。 た。 カ ー ナ ビ も な い 時 代、 地 図 を 見 な し て お ら ず、 信 州 の ど こ に 行 く に も 諏 われる式年祭)もある。 「 御 柱 祭 」( 諏 訪 大 社 で 寅 と 申 の 年 に 行 訪周辺をウロウロとせざるをえなかっ おおもりすずか 今回は、上諏訪にあ 大森鈴香さん る温泉施設「片倉館」に勤める美女。 で も、 正 直 言 う と、 知 人 に「 諏 訪 っ て い い の 」 と 尋 ね ら れ た と し て も、 「うー 本の御柱が奉納される。 片倉館は昭和初期に建設された浴場 む」と返事に窮してしまうのかもしれな つある宮の四隅にそれぞれ 16 (千人風呂)で、その貴重な建造物は い。 じ ゃ、 な ん で い つ も 私 が 諏 訪 に い る 真下)諏訪大社本宮の御柱。4 国の重要文化財に指定されている。 のか。私は本当はわかっている。それは、 い建物が保全されている。(写 生粋の諏訪っ子である彼女の趣味は 千人風呂があるからだ。 にある和田宿本陣は、現在も古 「 御 柱 祭 」。 壮 大 な 祭 り と し て 有 名 だ が、 「千人風呂」というまるで映画『テルマエ・ であった 大 事 な 地 元 の 仲 間 た ち と、 四 カ 所 の 神 社 現代の銭湯をタイムスリップする SF 喜劇) ロマエ』(阿部寛主演のローマ時代の浴場と に で も 出 て く る よ う な 浴 場 が あ る の は、 諏 訪湖湖岸にある片倉館である。片倉館は昭和 初 期 に 建 て ら れ た 施 設 で、 諏 訪 に 製 糸 業 を 起 こ し た 片 倉 財 閥 の 二 代 目、 片 倉 兼 太 郎 氏 和田峠の手前 れる信州の山容を描いた。中津川市 Squid Squid Photo 写真 69 諏訪湖・ からなる諏訪大社の様々な行事を ? 曽路の難所 が 1928 年に造った温泉リゾートである。 (写真上)木 「心の旅路館」パンフレットより 美濃 こなしていくだけで、楽しい時間が 取材協力・片倉館 http://www.katakurakan.or.jp 東山魁夷は、「東山ブルー」と呼ば 信濃 あっという間に過ぎてしまうという。 ここで旅の垢を落としてなんていうのん てきたことは一度もない。さらに言えば、 私 は こ の「 千 人 風 呂 」 に、 長 い 間 入 り に 来 て い た。 だ が、 正 直、 こ こ を 目 指 し されている。 洋館風の建物は現在、国の重要文化財に指定 の本社は諏訪にある。 在 で も、 セ イ コ ー エ プ ソ ン 称 さ れ た こ と も あ っ た。 現 ら れ、「 東 洋 の ス イ ス 」 と として知られてきた。時計、 日本の精密機械の集積基地 カ メ ラ、 レ ン ズ の 名 品 が 作 び り 気 分 を 感 じ た こ と も な い。 和 む と か 癒やされるなんていう今流行の言い方だ それともうひとつ忘れて はならないのが、 「お諏訪さ と ち ょ っ と 違 う。 な ん だ か 不 思 議 な 気 分 でいつもこの風呂に浸かっていた。 の拠点としての役割である。 ん」と呼ばれる「諏訪信仰」 すぐ目の前は諏訪湖だ。その日も私はそ こ に い た。 快 晴 の 日 の 諏 訪 湖 の 湖 面 の よ 少しカジュアルな言い方 をすれば、日本には数多く ま っ た 古 代 信 仰 の 伝 統 が、 諏 訪 に 集 約 的 に残っている。 いのか』島田裕巳著、幻冬舎新書) ぜ日本では八幡神 社が日本でいちばん多 神とされ続けたのである。 (参考資料『な た。諏訪では諏訪大社が 最も権威のある 時の諏訪の首長は、それを受け入れなかっ 位 の 神 と す る 新 た な 信 仰 を 広 め た が、 当 いという。もちろん、厳然とした祭りの行 ん 過 ぎ て い く し、 そ れ だ け で 十 分 に 楽 し て い く だ け で、 仕 事 以 外 の 時 間 は ど ん ど 行われる数多ある行事を順繰りにこなし ど っ ぷ り と つ か っ て い る。 幾 年 か に 一 度 り」を中心とする地域のコミュニティに 片 倉 館 で 会 っ た 美 女 に 話 し を 聞 い た。 彼女はこの地の生まれ育ちで、諏訪の「祭 武田信玄』武光誠著、青春出版社) 画 面 を 覆 う の は「 東 山 ブ ル ー」 と 呼 ば 地を訪れ、信州の雄大な山容を描いた。 山 魁 夷 は、 学 生 時 代 か ら た び た び こ の 木 曽 路 の 旅 は、 信 州 の 山 脈 の 合 間 を 縫 う よ う に 進 む。 著 名 な 日 本 画 家・ 東 な観光資源となっている。 往時の雰囲気や建造物が残り、貴重 良 井 宿、 妻 籠 宿、 馬 籠 宿 な ど に は、 下諏訪宿で甲州街道と合流した中 山道は木曽路へと向かう。沿道の奈 早朝の諏訪大社本宮。 凛とした空気に信仰 の厳かさを知る。 うに薄青く見える千人風呂をぼんやりと眺 めながら、私は改めて、この地の持つちょっ の信仰「ブランドチェーン」 の形態は様々だ。 天神、熊野、住吉など、そ が 存 在 す る。 稲 荷、 八 幡、 と変わった魅力について考えていた。 軽井沢での取材(前回)を終え、中山 道の次の道程に移った。追分宿、和田峠 な か で も 諏 訪 信 仰 は、 他 の 信 仰 の よ う に、 全 国 に ご 利 益 を 広 め る タ イ プ の を越え、諏訪湖に辿り着いた。諏訪湖は、 江戸・日本橋から遠く京へと 向かう、長 こ の 地 で は、 神 と 氏 子 の 関 係 も 特 徴 的だ。 「諏訪の氏子はみんな、御柱祭 を 事 そ の も の だ け で は な く、 そ れ に 伴 う 仲 れ る 一 面 の 青。 諏 訪 か ら 始 ま っ た 今 回 古 代 よ り 諏 訪 の 首 長 は、 で き る 限 り 朝 廷から自立していこうとする立場を とっ 中 心 に 物 事 を 考 え る。 役 員 の わ り 当 て 間との顔合わせや宴会なども大きな楽し の 旅。 諏 訪 の お 湯 に 浸 か り、 木 曽 路 を 守 っ て き た。 個 性 豊 か な「 御 柱 祭 」 で 展 開 を せ ず、 古 い 様 式 を 残 し た 信 仰 を 分の の道程を経たあた い中山道の約 りにある。 は、御柱祭の年を基準に決まり、役 員 み の ひ と つ な の で あ ろ う。 だ が、 正 直、 巡 る と、 私 た ち に も、 そ ん な 情 熱 の 種 た。 朝 廷 は、 飛 鳥 時 代 に 天 照 大 神 を 最 上 に な っ た 者 は 祭 礼 の や り 方 を 教 わ り、 話 だ け で は 彼 女 の 心 情 は わ か ら な い。 あ 火 の よ う な「 心 の ブ ル ー」 が 感 じ ら れ 知 ら れ る よ う に、 中 央 で は 失 わ れ て し 次の世代に伝えていく」(『諏訪大 社と れ だ け 大 き な 祭 り へ の「 情 熱 の 種 火 」 は る気がしてくる。 (写真上)江戸時代には「奈良 井千軒」とうたわれたほどの賑 わいをみせた奈良井宿の景観 (写真中)妻籠は、鉄道や国道 などから離れていたおかげで明 治以降急速に寂れたが、旧態を 町ぐるみで復元し、長い間、人 気の観光エリアの地位を保って いる。(写真下)馬籠は、文豪 島崎藤村の生まれ故郷としても 有名だ。坂道を降りる途中に藤 村記念館がある。 い っ た い ど ん な も の な の か。 諏 訪 を 後 に 諏訪はその水の豊かさと気候の良さで 1 しながらしばし考え込んだ。 3
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