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米国標準原価計算理論発達史序説
岡本, 清
一橋大学研究年報. 商学研究, 6: 95-180
1962-03-31
Departmental Bulletin Paper
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/9806
Right
Hitotsubashi University Repository
米国標準原価計算理論発達史序説
序
本
清
︾つo
米国標準原 価 計 算 理 論 発 達 史 序 説
九五
もその源を何処に発しているのであろうか。われわれはまず何よりも、標準原価計算理論の濫膓を尋ねることにしよ
今世紀の初頭に誕生した標準原価計算は、近年ますます驚異的な発展を遂げつつあるが、この計算理論は、そもそ
第一章 標準原価計算理論の起源
数の先駆者達の知的努力の歴史を記述しようとするものである。
努力によって築き上げられてきた。この小論は、この国における標準原価計算理論をはじめて工夫し発展させた、少
ローマは一日にして成らずと諺にあるように、米国における標準原価計算理論もまた、幾多の歳月と多数の人々の
岡
一橋大学研究年報 商学研究
問題の発端
③ 配賦︵が正確に行なわれるかどうか︶は、せいぜい運まかせの仕事である。
ω 製造間接費に算入されるべき適当な費目について見解が一致しない。
﹁これを要するに実際原価の欠陥は、
た人 に T ・ ラ ン グ 教 授 が あ る 。 教 授 は 結 論 と し て 、
九六
実際原価計算の欠陥は多くの人々によって指摘されてきたが、個条書きに、きわめて明瞭な形でその欠陥を列挙し
明しよう。
係が、案外わかったようでわからぬのが実情であるように思われてならないのである。いま例をあげて、この点を説
った。その結果、実際原価計算について指摘された幾つかの欠陥と、それを契機として発生した標準原価計算との関
こで問題になっている﹁実際原価計算の欠陥﹂について、従来の文献は、必ずしも明確な形でこれを把握していなか
際原価計算の欠陥を指摘し、次いで標準原価計算の、これらにたいする長所を述べるのが普通である。ところが、こ
欠陥﹂であった。この点については、疑いの余地はない。標準原価計算に関する多くの文献も、まず冒頭において実
すめるのが、本質的な接近方法であろう。標準原価計算が発生する直接の契機を作り出したのは、﹁実際原価計算の
標準原価計算理論の起源を探るためには、﹁この計算がなぜ必要とされるにいたったか。﹂という角度から考察をす
6
③ 実際原価の変動は、 能率の変動を示さない。
㈲ 実際原価によれば、 生産量の低い時は単価が高くなり、生産量の高い時は単価が低くなる。
⑥ 実際原価によれば、 毎月末、重大な管理上の問題が生ずる。
という点にある。﹂
︵ 1 ︶
と述べておられる。しかしながら、およそあるものの欠陥を指摘する揚合は、そのもののみに内在し、したがってそ
れのみが責めを負うべき性質のものでなければならない。この意味で右に指摘された第一項と第二頂は、実際原価計
︵2﹄︶
算の欠陥からは除外されるべきである。この点は、すでに他の機会に述べた。問題はこれから始るのである。
さて、前述の第三、第四、第五項は、たしかに実際原価計算に内在する欠陥である。問題は、これら三者がどうい
う関係にあるのだろうか、ということである。つまりこれらの欠陥は、たんに羅列されているにすぎない。もしわれ
われが実際原価計算の欠陥を、はっきりと掴もうとするならば、たんに思いつくままにその欠陥を列挙することをや
めて、実際原価の本質にまで遡り、これを確定し、それから必然的に派生する欠陥という立体的な構造において把握
九七
すぺきである。このように考えてくると、実際原価計算の欠陥と言われるものは、いずれも実際原価の本質と、これ
を計算する実際原価計算の特質の双方に根ざしているように思われる。
二 実際原価の本質と実際原価計算の特質
米国標準原価計算理論発達史序説
一橋大学研究年報 商学研究
それでは、実際原価の本質は何か。
九八
ノヴァークは、実際原価計算の特色について、 次のように述べている。
﹁実際原価計算の特質は、この計算によって把握された財貨費消量が、原価計算にはじめて計上された金額でもっ
ている。
次に、この偶然的原価を計算する実際原価計算の特質は何か。ノヴァークは、この点について、次のように記述し
その時々のあらゆる条件に左右されて偶然に発生した原価であり、かかる原価は事後的にのみ確定され、歴史的記録
︵5︶
としての意味しかもたないために、歴史的原価︵匡90旨巴8器︶とも呼ばれる。
︵4︶
をすぺて反映した偶然的原価︵89留旨a8ω岳︶なのである。これが実際原価の本質である。したがってそれは、
右の叙述から知られるように、実際原価計算で計算される実際原価は、その時々の、変動する価格、能率、操業度
る。﹂と。
︵3︶
色である。こうして実際原価計算は、できるだけ実際の経営過程の信頼できるありのままの姿を示そうとするのであ
てその消費量が変化するが、そういった偶発現象︵N鼠亀器誘。富ぎ巷磯︶、をすぺて表示するのも、実際原価計算の特
消費額︺を把握するのみならず、材料の品質、労働能率の変化、不注意、それから不適当な経営の意志決定によっ
﹁もちろん、製品を製造するうえにおいて、当該製品の特性からどうしても必要であった財貨費消額︹つまり標準
:P 6
て、そのすぺての計算段階を通じ、一貫して計算される点にある。したがって実際原価計算は、厳密にそのすぺての
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ
長所と短所とをもちながら︵第五編第一章第五節を参照︶、原価通算の原理︵qミ義旨器“ミ因農§亀ミ。専零ぎ§ε︶な
、、、、、、、、、、 ︵6︶
いしは原価転嫁の原理︵qミ昌勢ミ碗&ミ因。象§§§這褻ミ鳶︶に従う。﹂と。
つまり見積原価計算や標準原価計算にあっては、計算過程のどこかの点で、実際原価を見積原価もしくは標準原価
におきかえ、それ以後の段階では見積原価もしくは標準原価によって計算を行なっていくのにたいし、実際原価計算
では、原則として最初に計上された実際原価でもって最後まで計算されていくのである。
かくしてわれわれは、実際原価計算の欠陥を考える揚合、常に二重構造的に、つまり実際原価の本質に由来する欠
陥と、実際原価計算の特質に由来する欠陥の結合としてみなければならない。
三 実際原価計算の欠陥
ここでとりあげる実際原価計算の欠陥は、標準原価計算理論の起源を探るというわれわれの目的上、標準原価計算
が誕生した当時において問題とされた欠陥であって、一般的にこの問題をとりあげているのではない点に注意する必
要がある。
① 価 格 計 算 お よ ぴ 損 益 計 算 上 の 欠 陥
実際原価は偶然的原価であるから、まったく同一の製品を製造する揚合であっても、これを製造するさいの偶然的
米国標準原価計算理論発達史序説 九九
一橋大学研究年報 商学研究 6 一〇〇
条件によって、その原価はたえず変化せざるをえない。とくに操業度の変動によって、製品の実際単価は、いちじる
しく変動する。この事実は、製品の売価決定にたいして実際原価は無力であることを意味する。ラング教授は、この
点を実に軽妙な筆致で次のように述べている。
﹁しかし実際原価について、もっとも重大かつ決定的告発は、今述べたことから容易に引出される。つまり、高生
産の時は単位原価が低く、低生産の時は単位原価が高くなるから、実際原価は有効な価格政策の指針とはなりえない、
どいうことである。例えば次のような事態を考えてみ給え。小売の大きな販路︵例えばメイル・オーダi、五セント
や一〇セントストァー、あるいは大きな百貨店のチェーン︶を代表するバイヤーが、ある製造業者のところへやって
きたとしよう。彼の注文は、この業者の生産量の相当部分を占めるものでありーただ価格が問題であった。たまた
ま景気はやや悪く、したがってこの業者は、商売に活気をつけたくて、バイヤーにたいし、その工揚を維持するに足
る原価で、問題の製品を提供しましょうと申し入れた。そこで宜しいということになり、製造業者は電話で原価計算
主任を呼び出し、もっとも最近の原価数字を入手した。ところが、買ってくれる見込のありそうなこのバイヤーに、
原価数字を手渡したところ、彼は帽子とコートをとってさっさと出ていった。彼はこれに興味がなかったのであ
るア一とができないのである。業者はそのことを知っているべきであり、したがって自らを抑制すべきだと、あるいは
際原価は高く、これを価格設定の基礎として使用するならば、不況から彼を救ってくれる唯一の追加注文を、獲得す
る。それは何故か。さて、この製造業者のディレンマは明白である。景気が悪いので、生産量は低い。したがって実
ア一
人は反論するかもしれない。もしその結果彼が実際原価数値を無視して、 引受価格を定めるならば、一体全体、なん
︵ 7 ︶
のために原価計算係に給料を払っているのだろうか。﹂と。
製品の売価は、けっして実際原価のみによって定められるものではないと言う者があるが、実際原価はその重要な
一つの基準であることは疑いの余地がない。右の例から知られるように、肝心の時に実際原価は価格決定の基礎とな
りえないのである。またそれと同時に、これが期間利益に与える影響も見逃すことはできない。通常経営者は、毎期
安定した利益を確保したいと願うものである。ところが不況のさいは生産量が低く、したがって製品の実際単価は高
くなり、これを売価決定の基礎とすると、ますますこの製品は売れなくなり、販売益は減少の一途を辿らざるをえな
い。これにたいして好況のさいは生産量が高く、したがってその実際単価は低くなり、これを売価決定の基礎とする
と、ますますこの製品は売れ、販売益は増加の一途を辿ることになる。かくして期間利益は、経営者の願いに反して、
景気の波により必要以上にいちじるしく変動する。こうして実際原価は、価格政策、したがって利益計画に不適当な
原価と言わざるをえな い 。
他面において、実際原価の偶然性は、当該製品を製造する者の側からのみでなく、これを購入する者の側からも、
問題にされた。すなわち実際原価によって売価が決定されると、それはたえず変動することになる。すると購入者と
しては、まったく同一の経済的価値をもつ同一の製品を、たえず異なる価格で購入せざるをえなくなる。安定した価
格を希望する購入者側からも、かくして、かかる現象が生ずるのは、むしろ計算の仕方に欠陥があるのではないか、
米国標準原価計算理論発達史序説 一〇一
一橋大学研究年報 商学研究 6 . . 、 一〇二
という疑念が抱かれるにいたった。
さらに実際原価によって期間損益を計算すると、その結果は、経営者の当該期間における業績を必ずしも満足のゆ
くように示さない、という点が痛感された。これはとくに、不況期の製造間接費計算において、配賦洩れ、とくに不
働生産設備費をいかに処理すぺきか、という形で問題にされた。けだし生産設備への投資は、けっして一ヶ月ないし
は一年で回収することは考えず、長期間で回収することを経営者は考えている。しかるに実際製造間接費計算は、月
々の製造間接費の、実際に発生した全額を当該期間の製品ヘチャージする方法をとるため、とくに不況の揚合、巨額
となる不働生産設備費の影響を受けて、計算された営業利益は、経営者の意図に反した金額となってしまうからであ
る。
際原価計算の特質によって、いっそう強められることになる。すでに確定したように、実際原価計算は原価通算の原
以上述べた欠陥は、偶然的原価という実際原価の本質から必然的に派生する欠陥である。ところがこの欠陥は、実
理に基づいて行なわれる。その結果、計算は非常に遅れるのみならず、多大の費用と労力とを必要とする。正確性が
要求される外部報告目的の損益計算にとっては、計算の遅れはさして問題にならぬが、経営管理に役立てる月次損益
計算や価格政策にとっては、璽大な障害となる。またいかなる計算目的にとっても、計算それ自身のために多大の費
用と労力のかかる点は、実務上ゆゆしい欠陥と言わざるをえない。
ω 原価管理上の欠陥
原価計算目的の重点が、価格計算から原価管理へ移行するにつれて、実際原価はここでもまた不適当であることが
次第に明らかとなった。実際原価計算における原価管理の方式は、製品別もしくは部門別に、当期の実際原価を前期
もしくはそれ以前の実際原価、あるいは過去の実際原価の平均値と、期間的に比較する方法である。この揚合、比較
する原価も比較される原価も、前述したように偶然的原価なのである。なるほどこの期間比較によってわれわれは、
実際原価を構成する費目相互間で原価の増減が相殺されていないかぎり、原価が高くなったか、あるいは低くなった
か、という事実を知ることができる。しかしその変化の原因については、実際原価の本質上、さまざまの影響要素が
混在しているために、これらを分析することが困難である。したがって原価の変動は、そのまま能率の変動を示さな
いから、原価責任を追及することができない。さらに、除去しうる無駄の箇所や原因が不明であるから、そのための
改善措置を講ずることができないのである。この点に関連して、実際原価は、これを原価管理に使用しようとする経
営者の意欲を減退させる点をも指摘しておかなければならない。なぜならば、せっかく苦心して原価計算係の集めた
彪大な実際原価の資料は、実際原価を変動させた原因の分析が困難であるため、経営者が問題とすぺき箇所と、問題
としなくともよい箇所とを分離して、経営者の注意を引きつけるように作成されていないからである。この点は、次
に述べる原価報告書を提出する時期とも密接な関係をもっている。
実際原価計算は原価通算の原理に基づいて行なわれるため、その計算が遅れ、計算のために多大の費用と労力とを
一〇三
必要とすることはすでに述ぺた。この事は、原価管理上、致命的な欠陥となる。G・C・ハリスンは、皮肉まじりに
その情景を描いている。
米国標準原価計算理論発達史序説
一橋大学研究年報 商学研究 6 一〇四
﹁ある作業の労務費が、以前、例えば、二ヶ月前に行なわれた時よりも高くなる揚合が起りがちである。するとそ
の職長は、自分の部門へ一束の書類をもった原価計算係がやってきて、次のように言うのを聞いたとき、どんなに愉
快だったことだろう。﹃やあハリー、部品番号××番にやった作業番号x×番の件だが、君が五週間前にやったのが
八週間前にやったのより、五〇セント原価が高いので、ボスがその理由を知りたいって云うんだ。﹄これでは、多くの
︵8︶
職長が、原価計算係や原価計算にたいして偏見をもつのも、あまり不思議ではないのではあるまいか。﹂
原価計算係が行なう実際原価分析もあまりはかばかしくないので、経営者は遂にこれにたいする興味を失ない、そ
の結果実際原価計算は、歴史的記録だけの計算になり下ってしまうのであった。原価計算係があれほどの苦心を払い、
多大の費用と労力とをかけて、営々として集計した結果が、これなのである。ハリスンは、この検死的会計Goωマ
海o旨Φ目88偉馨ぎの︶のことを考えると、いっでも次の東洋の諺を思い出すという。
レ
﹁大山鳴動して、ねずみ一匹﹂
四 正常原価と見積原価計算との結合
① 知的結合努力としての起源
前項までで、実際原価計算の欠陥を、実際原価の本質に由来する欠陥と実際原価計算の特質に由来する欠陥との
﹁結合﹂として、二重構造的に把握した。実際原価計算の欠陥が標準原価計算を生み出す契機をなしたとすれば、右
の考察は、標準原価計算理論の起源を尋ねるための、きわめて貴重な足掛りとなる。次にその理由を明らかにしよう。
な標準原価計算方法の直接の祖先は、見積原価計算法であったように思われる。﹂という。また標準原価計算がよう
NA︵C︶Aの﹁標準原価の再検討﹂︵︾因o自釜旨ぼ暮一目9聾き鼠↓自08錺︶という報告書によれば、﹁近代的
︵10︶
やく世に認められ、次第に発展しつつあρたとき、A・ラザルスは次のように述べている。
﹁標準原価は、しばしば革命的だとか、驚くほど新しいものと云われることが多い。しかしながら実際は、ア︶のよ
うな原価は、初期の原価計算への後退であり、しかも有益な後退︵落ま浮巨お零Φ魯︶なのである。製造業者がコス
ティング、つまり見積原価計算で満足していたのは、そう昔のことではなかった。﹂と。
︵11︶
このように、標準原価計算理論の起源を、まず見積原価計算の理論に求める考え方は、かなり一般的である。その
揚合たいてい、見積原価計算と標準原価計算との類似点や相違点が問題にされる。しかしながら、見積原価計算と標
準原価計算とが相互にきわめて類似しているからといって、標準原価計算理論の起源を見積原価計算の理論に求める
考え方は、誤りとはいえないが、正確ではない。それはけっして本質的な把握の仕方ではない。なぜならば、ここで
問題になっている見積原価計算は、実際原価計算が生成する以前の、実際原価へ向う前駆的見積原価計算︵実際原価
志向的見積原価計算︶であって、見積原価計算をそのままほっておけば、実際原価計算になってしまいこそすれ、け
っして標準原価計算にはならないからである。
︵E︶
米国標準原価計算理論発達史序説 一〇五
一橋大学研究年報 商学研究 6 一〇六
同様に、標準原価計算理論の起源を、科学的管理法にのみ求める考え方も、誤りではないが正確とはいい難い。科
学的管理法との関連を無視して標準原価計算を語ることはできないが、科学的管理法そのままでは、あくまでも科学
的管理法にとどまり、標準原価計算理論は生れてこない。つまり、ここで確認しておきたいことは、きわめて当然の
ことながら、標準原価計算理論の起源は、見積原価計算や科学的管理法そのものではなく、実際原価計算の欠陥を痛
切に意識し、これらに処する対策要素を結合させて、新な原価計算を作り出そうとする﹁知的結合の努力﹂だったと
いうことである。かかる知的結合は、まさしく一種の革新であった。それでは一体、いかなる要素を結合させれば、
標準原価計算の理論が生れるであろうか。
ω 平均原価としての正常原価と規範原価としての正常原価
われわれはすでに、実際原価計算が価格計算および損益計算において、また原価管理においても、重大な欠陥をも
つ理由の一は、実際原価が偶然的原価であるというこの原価の本質によることを明らかにした。そこでこの欠陥に対
処するためには、偶然的なその時々の条件によって左右されない原価、すなわち正常原価を、原価計算に導入するこ
とが必 要 と な る 。
しかしながら、一口に正常原価と云っても、その内容は種々様々である。例えば価格について正常化を行なうのか、
消費量について正常化を行なうのか、あるいは操業度について正常化を行なうのか、というように、正常化を行なう
対象の差によって、さまざまな正常原価がえられよう。しかしここで問題になるのは、まず第一に、実際原価の価格
計算およぴ損益計算上の欠陥に対処するためには、いかなる性質の正常原価を導入すぺきか、ということである。こ
の目的のためには、経営の基本構造に重大な変化の生じないことを前提として、﹁実際原価の平均としての正常原価﹂
を使用するのが、もっとも適当である。すなわち当該経営について相当長期間の観察を行ない、その原価に関する異
常現象は取除き、偶然現象は平均化することによって、偶然的原価がその辺を上下するような一定の平均原価をうる
ことができる。経営者は、かかる平均原価に基づき予測しうる将来の条件変化を考慮に入れながら計画を立て、これ
を実行に移すから、価格政策およぴ損益計算にとって、平均原価としての正常原価がその目的に適っている。
ここで注意すべきは、平均原価を決定する時期によって、事前平均原価と事後平均原価との区別が生ずることであ
る。前者は製品一単位についてあらかじめその平均原価を予定するのであり、後者は事後的に確定した実際原価の中
から異常額を分離もしくは平均化することによって、事後的に正常額だけを把握するのである。短期の価格政策は別
として、長期の価格政策にとっては相当長期の、しかも事前に決定された平均原価が役に立つ。けだし経営者として
は、長期間に生産された全製品へ等しく、生産設備費を負担させようと考えており、また問題の性質上、事前原価を
必要とするからである。他方、外部報告目的の損益計算にとっては、検証されうる必要から、過去原価でなければな
らず、また利益の尺度性を重視すれば、経営者の計画を反映した平均原価が適当である。そこで実際原価の本質に由
来する欠陥を取除くため、等しく正常原価を導入するにしても、もしその正常原価が事後に確定された平均原価であ
り、さらに原価通算の原理に基づいてその計算を実施するならぱ、それは古い殻を脱捨てた新しい実際原価計算であ
る と 言うことができる。
いま一つ注意すべきは、かかる正常原価の導入によって、偶然的原価が不必要となるわけではない、ということで
米国標準原価計算理論発達史序説 一〇七
一橋大学研究年報 商学研究 6 一〇八
ある。なぜならば、その時汝に発生した偶然的原価は、たえず新な正常原価の計算に参加しつつ、正常額と異常額と
に分離されるからである。
次に、実際原価の原価管理上の欠陥に対処するためには、いかなる性質の正常原価を導入すべきであろうか。この
点で注目されたのは、当時一世を風靡しつつあった科学的管理運動である。これは、F・W・テイラーによってまず
課業管理として始められ、例外管理のための物量標準の設定という形をとっていた。そこでこの原理を原価管理に応
用することが考案され、物量標準に基づいて原価標準が設定されるにいたった。この原価標準の設定は、労務費計算
の領域のみならず、材料費や製造間接費計算の領域にまで、次第に拡大されるようになる。これを要するに人々は、
原価管理のために実際原価に代えて、努力目標であるところの﹁規範原価としての正常原価﹂を使用し始めたのであ
る。
.︸の種の正常原価は、偶然性、不規則性および不能率が平均化され混在するところの﹁実際原価の平均としての正
常原価﹂とは異なり、原価を積極的に形成する見地から、生産過程を正規の過程どおりに経済的に遂行するさいに、
通常発生する財貨費消額のみを科学的に計算した原価である。この原価もまた、これを決定する時期によって、事前
規範原価と事後規範原価とに分れる。前者は、原価形成の目標となるのにたいし、後者は業績判定の尺度となる。し
かしながら後述するように、標準原価計算の初期においては、事前規範原価のみが注目され、業績判定にさいしても、
これが事後規範原価に代用されていたのであった。
規範原価としての正常原価を原価計算に導入する揚合も、それによって偶然的原価が不必要となるわけではない。
なぜならば、管理の対象は偶然的原価であって規範原価ではなく、規範原価は管理の手段であり、それのみでは目標
を指定する意味をもつけれども両原価の比較によってはじめて業績を判定しうるからである。
㈲ 見積原価計算の再登揚
実際原価計算の特質から生ずる欠陥についてはいかなる対策がとられたであろうか。すでに繰返し述べたように、
実際原価計算は原価通算の原理に基づいて行なわれるので、計算が遅れ、多大の費用と労力とを必要とする。この欠
陥は、とくに第一次大戦後の不況期に痛感され、原価計算自身の簡略化︵旨○詳。5︶を望む声が高くなった。この
対策として考えられたのは、見積原価計算への復帰であった。
原価計算の初期においては、企業家はそれぞれの事業における経験にもとづいて、勘による原価見積︵8獣o段−
旨暮①︶をもっていた。これは、注文の引受価格を定めるために必要であったのみならず、いわゆる商業簿記的工業
会計によって当該企業の期間損益を計算するために、棚卸資産を評価するさいにぜひ必要だったのである。しかしか
かる原価見積は、きわめて大ざっぱな勘によって作られていたので、競争が烈しくなると、見積間違いのために破産
する企業が続出してきた。そこで企業家達は、なんとかして、自己の原価見積が正確であるかどうかを知る工夫はな
いだろうかと、苦慮し始めた。
原価見積の正確性を検証する方法には、二つの方法が考えられた。その一は、事前に当該製品の原価を見積ってお
き、事後に当該製品の実際原価をいちいち計算して、両者を突合わせる方法である。この方法は、実際原価計算によ
る見積の検証にほかならず、各製品、ことにいちいちその見積原価と実際原価とが照合されるから、非常に正確でばあ
米国標準原価計算理論発達史序説 一〇九
一橋大学研究年報 商学研究 6 一一〇
るが、かなりの費用と労力とを必要とする。そこで考案されたのが、いま一つの方法、すなわち見積原価計算である。
この方法によれば、あらかじめ製品一単位当りの見積原価、すなわち原価見積が計算され、製品が完成するや、これ
に直ちに原価見積を適用し、見積原価を計算する。したがって販売と同時に見積原価による売上利益が計算され、期
末まで待つことなく、それまでの売上総利益が計算されるわけである。期末になって、見積原価と実際原価とが総額
で比較され、原価見積の正確性を検証する。したがってこの方法では、見積原価と実際原価とが製品別にではなく、
期間的に総額で比較されるのみであるから、計算のための費用と労力とがいちじるしく節約される。かくしてこの方
法は、原価計算の迅速化と簡略化のためには、きわめてすぐれた方法であった。しかしながら見積原価計算には、い
くつかの欠陥が内包されていた。すなわち、原価見積の検証は期末にならねば不可能なので、万一原価見積が非常に
不正確であったときは、期末に巨額の見積原価差額が発生し、それは当該企業にとって致命的となる危険がある。つ
まりこの計算方法が成功するか失敗するかは、一にかかって、使用する原価見積の正確性にかかっていたわけである。
また原価見積の正確性を精密に検証しようとすればするほど、計算のために費用と労力とを必要とし、見積原価計算
の長所を相殺する結果となる。さらにこの方法は、原価管理を目的として工夫されたものでないために、原価計算目
的の重点が、価格計算から原価管理へ移行するにつれ、見積原価計算は次第に放棄され、実際原価計算がこれに代っ
て普及していったのであった。
このような歴史をもつ見積原価計算が、いまふたたぴ、原価通算の原理から生ずる欠陥に処する対策として、見直
されるにいたったのである。
㈲ 新たに発生した二種の標準原価計算
米国標準原価計算理論発達史序説 一一一
それでは次に、いつ、誰によって、このような結合が行なわれ、その結果、いかなる標準原価計算の理論が誕生し
や標準原価計算の本質を把握するために、右に述べた区別は必要である。
によっては、平均原価としての事前正常原価にきわめて接近する。しかしながらそれでも、標準原価計算の生成事情
意味で達成目標としての規範性をもつことが可能であり、他方規範原価としての事前正常原価も、能率水準のいかん
れの型に帰属させるべきかについて、迷うことが多い。さらにまた、実際原価の平均としての事前正常原価は、ある
かれ、実際原価の本質から生ずる二つの欠陥を、双方とも意識していたので、彼等の考案した標準原価計算を、いず
価計算が発生すると考えられる。しかし実際の史料にあたってみると、かかる知的結合を努力した人々は、多かれ少
するかによって、見積原価計算へ組入れるべき正常原価の性質が異なり、その結果、論理的には二種の異なる標準原
もちろん右の区別は、言わば理想型にすぎない。実際原価の本質から生ずる二つの欠陥のうち、いずれを強く意識
原価計算であり、後者から発生したのが原価管理型標準原価計算である。
原価としての事前正常原価を見積原価計算に組入れる形態である。前者から発生したのが価格計算.損益計算型標準
予測しうる将来の変化をも考慮した︶実際原価の平均としての事前正常原価を見積原価計算に組入れる形態と、規範
たことにならない。したがってこれら対策の結合形態は、まず次の二種が考えられる。すなわち、過去の︵あるいは
で、それぞれの欠陥に処する対策もまた﹁結合﹂されなければ、二重構造をもつ実際原価計算の欠陥を完全に克服し
さて、実際原価の本質から生ずる欠陥と、実際原価計算の特質から生ずる欠陥とは、たえず結合されて存在するの
隔
一橋大学研究年報 商学研究 6 一一二
ていったか、を考察す る こ と に し よ う 。
︵−︶冒一・鯨↓‘hδ8。①讐のo隔Ooωρ評馨帥旨b虜。暮、、︵冒ω〇一〇巨o昼P。ρのδ巨一。ωぼOoω§斡■。区9”ω蓄Φ3鼠
竃費萎<oFい呂4¢総︶b’ooN’
︵2︶ 拙稿﹁真実の原価をめぐる、実際原価と標準原価との抗争﹂会計八○巻三号、’昭和三六年九月号、一八一頁。
︵3︶z。語F℃‘丙o。。け。目①。巨§鵯。。遂言馨冒q震H昌倉ω鼠ρ≦。。。践窪響一・R<毘鐸囚9昌β昌Ob匿。p一頴♪の■・。
中岡本・板垣訳﹁原価計算入門 ドイツにおける原価計算制度﹂ダイヤモンド社、昭和三四年、八四頁。
︵4︶ ラング教授も、実際原価の欠陥を指摘したのち、﹁そこで残念ながら、実際原価はまったく偶然的な原価︵89号暮巴
8の鼠︶であり;:﹂と述ぺている。い碧茜、H獣“やooド
︵5︶多∈・①びいい名こOo誓︾。8琶菖躍︸即冒。一覧窃臼且勺雷&8︵o獣。詣9空。げ騨三u−H暑β冒P呂。P一。轟M︶
,やωOP
︵6︶ Zo≦讐置鋭卑○‘ψ旨■岡本・板垣訳﹁前掲書﹂八六頁。
︵7︶ ピ農堕H獣ρづ℃■oo一ーooN●
一鵠O︶bやOl一〇ー
︵8︶︸H畦霧・pρρの5匿騨こ○。器︾冒ω酔巴一塾β○℃Φ寡喜p昌q器︵z零<e犀阿醤Φ切8巴山即婁o。ヨ℃塁ど
︵9︶国aユ。。opH葺α‘℃﹄o■
︵10︶Z︾︵O︶語︾幻①自蓉ヨぎ暮一90出の3且魯&Ooの房︼2︾︵O︶︾ゆ巳一〇ロP<o一■NP20■一一,︵8鷺一暮&ドβのo一〇ヨ8即
P。Pωけ且一①の冒○。駐夷い・区§”の壽。貫猛欝簑①一一︾u包,闇まNも﹄い。。︶
︵11︶■欝鴛島、>,㌦.の9ロ鼠昆Ooω冨、、︾6げΦ︸o貫壁一〇㌦>08一一旨きoざ︾鷺一一一8ω︸く〇一乙怠20■♪やb。≒。
︵12︶ 前駆的見積原価計算については、拙稿﹁米国における前駆的見積原価計算1その生成.発展およぴ衰退﹂ ビジネス レ
ビュi九巻二号、ダイヤモンド社、昭和三六年一〇月を参照されたい。
第二章 価格計算・損益計算型標準原価計算の発生
原価管理に役立つ理想的な原価計算は何かと間われれば、必ず標準原価計算をわれわれは思いうかべるであろう。
このように標準原価計算は常に原価管理と結びつけて考えられがちであるが、その反面、実際原価よりもむしろ標準
原価こそ真実の原価だという意識が、標準原価計算に影のようにつきまとっていることも事実である。この事実を説
ジョ
ン ホイットモアi
明するためには、われわれは原価管理型標準原価計算の揚合とは異なる起源を考えなければならない。
標準原価の思考に到達した、
① 不働費の原価性否認から標準原価へ
実際原価計算の欠陥に処する対策を苦慮するうちに、標準原価の思考にいち早く到達した人々について語るとき、
われわれはまず、ジョン・ホイソトモアi︵甘げ旨≦匡け日03︶の名をあげなければならない。
パ ロ
ホイソトモアーは一九〇六年にニューヨーク大学で、機械工揚の原価計算について講義を行なった。彼はこれを製
造原価計算の概論として講義したのであるが、その二年後の一九〇八年二月一九日、彼は同じニューヨーク大学の商
ロ
業、会計、金融部門で、﹁靴製造工揚の原価計算﹂︵留8霊90qooのδ︾。8琶$︶と題する講義を行なった。
米国標準原価計算理論発達史序説 一一三
一橋大学研究年報 商学研究 6 一一四
彼がなぜ機械工揚の原価計算を最初にとりあげたかについては、彼自身次のように説明している。すなわち、機械
製造業が近代的製造業において、第一の地位を占めているのみならず、その加工材料が簡単で、加工時間が相当長い
ために、原価計算の説明上、大変便利であると。つまりこの種の工揚では、一般に原材料を製造指図書に取得原価で
直接にチャージしうるし、労務費と製造聞接費についても、各工員の加工時間が長いので、加工の開始時間と終了時
間とを記録するのが容易である。また仕事の大部分は出来高給で支払われる。したがってこのような事情から、この
種の原価計算は単純となり、かなり製品別に直接計算をすることが可能になるという。そこで単純な方法、簡単な考
え方から、さらに複雑な方法や考え方に論をすすめ、これら双方の関連を追及するため、機械工揚の次の題目として
︵3︶
靴製造工揚の原価計算をとりあげたというのである。
彼の意図は右のようなものであったとしても、われわれの観点からすれば、次の点が問題になる。すなわち、ソロ
モンズによると、ホイットモアーは一九〇八年の講義において、靴製造工蜴における標準原価の使用につき、きわめ
て明快な説朋を行なっているが、一九〇六年の講義では標準原価計算につき一言もふれていない。したがってホイソ
トモアーは、この期間中に標準原価を考え出したのか、あるいはもっとありそうなことだが、彼はこの期間中に、標
︵4︶
準原価計算を実施している工揚を見て、これを書くつもりになったらしいとしている。
しかしながら、ホイットモアーが標準原価計算を実施している工揚を見たか見なかったかは、ここではさして重要
ではない。そのことよりもむしろ、チャーチが補充率によって追加配賦していた不働費の処理に彼が腐心し、一九〇
六年においてはその態度を決しかねていたが、一九〇八年にいたってこの問題にたいするきっぱりとした態度をとる
米国標準原価 計 算 理 論 発 達 史 序 説
一一五
する必要があるのではなかろうか。ホイットモァーのこのような思考過程は、次の記述のなかに窺われるのである。
で真実の原価と考えられてきたが、このように考えてくると、これをさらに正しい原価と正しからざる原価とに区分
成しないとするならば、実際に発生したコストのうち、さらに除外されるべき項目はないだろうか。実際原価は今ま
際に発生したコストは、すべて当該製品の原価を構成するものとされてきたが、もし不働費が製品の真実の原価を構
ホイットモァーはこの点に注目した。不働費は本当に製品原価の一部をなすのだろうか。今まで、製品の製造上、実
なって、もしこれを追加配賦すれば、製品の実際単価はおそろしく高くなり、価格計算や損益計算に役立たなくなる。
ぐ羽目となる。配賦差額の主要部分を占めるのは、通常不働費︵置ざ。8富︶であったから、不況のさいこれが巨額と
充率によって追加配賦するならば、結局は実際原価となってしまい、実際原価の本質から生ずるすべての欠陥を受継
際ないし歴史的原価主義の要求を満足させるという三つの目的を、一挙に果そうとした。しかしながら配賦差額を補
るという操業政策上の目的と、さらに@配賦差額を補充率により追加配賦することによって、当時支配的であった実
期間比較を可能ならしめるという原価管理上の目的と、㈲補充率の額によって工揚における生産設備の利用状態を知
A・ハ、・・ルトン・チャーチは、彼の正常配賦率と補充率の理論によって、ω製品別に配賦された実際製造間接費の
た不働費に関する考察が実を結んだことが、われわれにとって重要なのである。
標準原価計算を実施している工揚を見たとしても、これをそのまま、受け売りしたのではなく、多年彼が苦慮してい
にいたったこと、そしてその事を通じて彼が標準原価思考に辿りついたことが重要なのである。つまり、たとえ彼が
、
一橋大学研究年報 商学研究 6 一一六
﹁原価の定義について云えば、真実の原価もしくは正しい原価︵ヨδ98旨①98警︶は、必ずしも製品の製造過
程で発生したあらゆる費用を含むものではないと私は云いたい。偶然の事故が生じたり、あるいは大失策をおかした
りする。するとそのコストは、ある揚合には不働費が丁度そうなのであるが、非常に巨額になる。これを当該製品の
原価の一部とするのは、途方もなく馬鹿げているであろう。もしこのことが承認されるならば、正しくない製造間接
費と、正しくかつ必然的に発生する製造間接費︵巳巷鳶蓼昌ユ鑛Φ巷①霧Φ¢鷺89灯§匹濡8ω確曙冒。葺おq︶と
︵5︶
を区別し、これらを別個の見出しのもとに表示するという原理が確立される。﹂
と。さらにこの原理について、次のように云う。
ブロパロコスト イソブロパロコスト
﹁正しい原価と正しくない原価とを区分するこの原理を、次のように適用することが可能である。すなわち、正し
い原価を算定し、原価計算をして、実際原価とこの計算された原価との差異を示させるために、この原価を使用する
カルキユレイテノド コスト
のである。そのためには、材料の品質と作業の能率とに関して、完全な標準を設定することが必要である。またかか
る標準は、なんらかの不正確な方法、つまりたえず実際原価と計算された原価とを相互に検証するという方法は別で
︵6︶
あるが、それ以外のでたらめな方法によって得られた予想原価の見積額と混同されるべきではない。﹂
とo
右に述べた彼の考え方は、その用語である﹁正しい原価﹂︵質ε98馨︶あるいは﹁計算された原価﹂︵。包。巳暮&
8雪︶を﹁標準原価﹂という言葉に置き換えさえすれば、今日においても標準原価計算に関する基本的説明として、
立派に通用するものである。こうして彼は、多くの人々に先駆けて、標準原価の思考に到達したのであった。
われわれはこうした彼の業績を高く評価するものである。しかしながら他方において、彼は泥沼のような果しない
論争を生み出すきっかけを作ってしまった事実も、ここで指摘しておかねばならない。すなわちその論争とは、﹁実際
原価と標準原価とのうち、いずれが真実の原価なりや﹂という論争である。実際に発生したコストのうち、正しから
ざる原価として除外する費目は何であるか。また除外すべき費目のうち、どの程度の額を除外すべきであろうか。.︼
れらの点を、ホイットモアーは深く追求しなかった。もレ彼がこのような問題を深く掘り下げてみたならば、発生し
た実際原価の中から選び出された正しい原価は、そのまますぐに標準原価にはならぬ点に気がついたかもしれない。
︵7︶
しかし当時としては、これを彼に望むのは無理であった。
ω 靴製造工揚の原価計算
ホイットモアーは、前述した標準原価計算の原理を、靴製造工揚の原価計算の中で生かそうと努力した。彼はこれ
について、ほぽ一一頁を費して説明しているが、その中約九頁は材料費計算についてであって、労務費計算について
は一頁半、製造間接費の計算については、たった半頁しか費していない。ことに製造間接費計算については、まだこ
の原理を実際に適用するにはいたっていないと告白し、その適用の可能性を論じているにすぎないのである。この点
はまったく不可解である。なぜならば、彼はこの原理を不働費の問題、つまり製造間接費計算の問題から考えついた
米国標準原価計算理論発達史序説 一一七
一橋大学研究年報 商学研究 6 一一八
のであって、この領域こそ、他のいずれの計算領域よりも早く、この原理が適用されるべきであろう。このように考
えてくると、先に述べたソ・モンズの推定が有力になってくる。この問題はともかくとして、ここではもっぱら彼の
材料費計算をとりあげることにしよう。
まず、靴の材料は、ω甲革︵O電零■臼跨臼︶、②底革︵の。一ΦU雷昌魯︶、⑥裏地︵=巳昌αqω︶、㈲付属品︵ピ一−
の。Φ身器o農竃費富ユ巴ωぎ。ざ象夷毒げ暮魯お。巴一&国且旨鵯︶からなっている。そこで原価計算的には、少なくとも
ω甲革倉庫、@底革倉庫、の付属品を含むその他の材料倉庫とに区別しなければならない。困の倉庫における検収出
庫手続だけが、機械工揚における倉庫の検収出庫手続と同様である。つまり内の倉庫では、材料を原価で仕入れ、原
価で出庫するからである。
これにたいし、前二者の倉庫では、原材料を収納したのちに、これを加工しなければならない。甲革倉庫では、購
入した甲革を等級別に選別し、ア一れら江ついてそれぞれの原価を計算しなければならない。また底革倉庫では、購入
した革を外部用底革、内部用底革、さらにかかと︵踵︶革に切断しなければならない。これらの倉庫では、こうして
加工された材料が倉出しされるので、その計算は、機械工場における倉庫の揚合より、いっそう複雑になるのである。
そこで次に、間題をさらに具体的に検討するため、彼の甲革倉庫における計算をみてみよう。
この倉庫では、選別された各等級別の革の原価を計算しなければならない。そのためにはまず、各等級間の比率を
定める。例え濾一級品を一〇〇、二級品を九〇、三級品を七五とする。この比率が定まると、次に現実の市揚価格に
応ずる値段を定める。例えば一級品は二五セント、二級品はその一〇%、三級品はその二五%差引いた値段となる。
ここで注意しなければならぬのは、これらは仕入れた革の原価から計算されたものではなく、市価から計算された一
種の予定価格であるということである。
他方実際に選別された革については、選別報告書︵の9叶ぎ閃因60旨︶に次の内容を記録する。すなわちこの報告書
の借方には、選別される革の量と仕入原価、選別工の賃金、選別の行なわれる倉庫の一般費︵これは当該部門の年間
経費額と、一年間に扱う革のダース数から計算する︶を記入する。報告書の貸方には、すでに定めた等級別の標準価
格に、選別した等級別の数量を乗じた額を記入する。したがってここには通常計算損益︵ゲインかロス︶が生ずる。
そこでもし等級別の各種皮革に関する相対的比率の計算に誤りがなければ、右の差額の生ずる原因には二つあると
彼は云う。
﹁その一は、使用している価格水準が市価と一致していないということ、すなわち高すぎるか低すぎるかという原
因である。もしこれが差額の生ずる原因であれば、選別報告書にたえずゲインかロスが示されるので、すぐ判明する
のはもちろんである。それは価格水準を高めるか低めるかしなければならぬことを示す。第二の原因は、特定の革の
ロットが異常に良質であったか、あるいは異常に粗悪であったかである。まったく均質の皮のロットはありえないと
一一九
そしてたえず粗悪な革を納入する業者もあれば、 逆にたえず良質の革を納入する業者もあるので、この事実をか
︵8︶
云えよ う 。 ﹂
と。
米国標準原価計算理論発達史序説
一橋大学研究年報 商学研究 6
︵9︶
かる方法で知ることが、購入する者にとってもっとも重要だと述べている。
一二〇
しかしながら他の箇所では、この計算損益は、標準︵予定︶価格自体を修正して、 できるだけ無くすように述べて
いる。すなわち、
﹁甲革倉庫における純貸方差額ないし純借方差額は、毎週明らかにされなければならない。そして選別された皮革
につけられた価格や、これを出庫するさいに使用する価格を、実際原価と大体一致させておくために、もし必要があ
ると思われたときはいつでも、この標準価格を上下させるべきである。この差額は、若干の貸方差額を残しておくよ
うに修正しなければならない。この分は、会計期末に生ずるかもしれない棚卸減耗費のために必要となりがちだから
である。﹂
︵10︶
と。彼は底革倉庫における計算法も説明しているが、これは甲革倉庫における計算法と、原理的にはまったく同様で
あり、裁断された中間製品のそれぞれに相応した予定価格を定めて計算し、この予定価格は、できるだけ実際原価と
一致させようとしていた。したがって、選別された甲革や裁断された底革の計算方法は、見積原価計算の色彩が濃厚
︵11︶
であった。しかしながらこれらの中間製品を出庫したのちの計算は、次に述べるように予定価格を使用するけれども、
︵皿︶
これに実際消費量を乗じて計算しているので、それはいまだ実際原価計算の領域に属していると云わざるをえない。
ホイットモァーは出庫価格の計算にさいし、先入先出法に反対し、平均法によって計算してもよいがそれよりも.
次の方法によるべきであるとする。すなわち、
﹁この問題を処理する別のやり方で、私のもっとも良いと信じている方法は、倉庫にある甲革の選別品も、また出
庫するものも、︵選別にさいして︶使用した標準価格で評価し、選別報告書からえた貸方差額は、これを別の勘定に転
︵13︶
記する。同じく借方差額は、貸方差額を転記した勘定の借方、あるいはそれとは別個の勘定の借方に転記する方法で
その理由はといえば、この方法によると、市価に変動がないかぎり、革の原価は一定価格で計算されているから、
ある。﹂
とQ
﹁このような事情のもとでは、使用された特定の甲革・ットが手際よく選別されたかどうか、あるいは底革の特定
のロットが上手に切断されたかどうかによって左右される個々の原価よりも、この原価︵標準価格の.一と・⋮−岡本︶を
︵n︶
使用するほうが、いっそう簡単であり、かつ安全だからである︵昌唇一段導qω9R︶﹂と述べている。つまり彼の計
算する材料原価は、作業能率が反映されては困るのであった。能率の測定よりも、むしろ計算を簡単にし、価格計算
に適当な原価を得ることに、計算の主眼があったのである。
以上述べてきたように、ホイットモァーは不働費の原価性問題に苦心するうち、実際原価を真実の原価ないし標準
原価と、しからざる原価とに分離すぺきであるという考えに到達したが、この原理を実際に適用する段になると、予
米国標準原価計算理論発達史序説 一二一
一橋大学研究年報 商学研究 6 一二二
定価格を計算過程に導入するのみで終ってしまったのである。今日のわれわれの目からすれば、なるほど一部分見積
原価計算が導入されてはいるが、全体としてはなお実際原価計算にほかならない。しかし彼にとっては、その計算は
もはや純然たる実際原価計算︵歴史的原価計算︶ではなく、一種の標準が導入された新しい標準原価計算だったので
あったQ
二 見積原価計算に正常︵平均︶原価を導入したフランク・E・ウエブナー
ホイットモァーの線にそって、価格計算・損益計算型標準原価計算を生み出すべく努力した人に、フランク・E・
ウエブナi︵牢§犀眞≦Φ巨9︶がある。彼はその著﹁工揚原価﹂︵一九二年︶の中で、原価計算法︵8累旨象渥
︵面︶
筥き︶を次のように分類している。
ω見積・検証法︵騨け巨暮。き幽臼、①の什国程︶
ないし工程別原価計算法︵い馨も段8暮夷Φ霞写08霧醍導︶
右のように三つに大別された計算方法のうち、最後のリスト・パーセンテージ法が、これから検討する計算方法で
あるQ
ω リスト・パーセンテ;ジ法の概要
まずわれわれは、この特殊な名称の由来から理解していこう。 彼は次のように説明している。
﹁リスト・バーセンテージ法という名称は、各部門にたいする各原価要素賦課額がー事前に決定されて1任意
リストプライス ︵16︶
の価格表記載価格の比率として表わされる、という特徴的な事実に由来するものである。﹂
と。例えば、価格表に記載されているある製品の価格、すなわちリスト・プライスが一二.五ドルであったとする。
この価格を一〇〇%とし、その要素別、部門別原価構成比率を次の表に示すようにあらかじめ定めておく。次に例え
ばA部門で作業が完了し、B部門へこの中間製品を振替える時は、︵郵摯.、マ×N訳×渦繋瞬煕瞬︶によって次工程へ
振替えるべき材料費を計算する。この例から知られるように、リスト・パーセンテージ法にあっては、各工程の原価
要素別勘定の借方にはその実際原価を集計し、貸方にはリスト・パーセンテージを使用して、実際生産量の標準原価
を記入し、両者を対比させるのである。
③ リスト・パーセンテージとリスト・プライス
一二三
それでは、具体的には、リスト・パーセンテージやリスト・プライスは、どのように設定するのだろうか。ウエブ
ナーは次のように記している。
米国標準原価計算理論発達史序説
L部門別製造原価構成比率表
部 門D
部 門C
8 3 5 0
α
5&λ
3 1
費費費費
前材労間
部 門B
材料費4.7
労務費2.9 前工程費22,5
間接費2.4
望務接
材料費3.6
労務費2.6
間接費2.1
製晶原価43,8
材料費18.2
労務費13.7
間接費11。9
橋大学研究年報 商学研究
材料費2。9
労務費5.2
間接費4,9
6
材料費1L7
労務費5.9
材料費7。0 材料費7.0 間接費4.9
労務費3.O 労務費3.0
間接費2,5 間接費2.5
部 門A
前工程費12.5
割 引
2,リスト・プライス構成比率表
20.0
・ス
スラ0
ー
ト
ィ%
0
営業費
リプ
27.7
価
売吻
8
純
利 益
8.5
間接費
11.9
製造原価
労務費
13.7
素 価
材料費
31.9%
18.2
43。8%
総原価
52.3% 、
四
﹁各部門の原価構成比率は、まず第一に過去の原価記録からえられる。そしてそれは大体正確であろう。しかし時
おり、まず第一に見積った比率の正確性を証明するために、そしてそれが証明されたのちには確定した比率からの原
価差額の有無を示すために、テストを行なうのである。毎原価計算期末には、部門別記録の示す比率原価の総額は、
各部門の実際材料出庫額、実際労務費、実際間接費と一致しなければならないのは、もちろんである。
一度、原価構成比率が適切に決定されると、それから、正常な状態における公正な平均原価︵蟄貯冒奨①審鴨9
。8富葺己霞昌零日亀8旨α裟o塁︶がえられる。すでに述べたように、それ以後時おり特定の指図書番号別の原価の
検証が行なわれるが、それはこの平均からの隔りを示すであろう。もし差異が発見されれば、その原因が追求される。
そしてもしそれが、ともかくもその原価を永続的に変化させる条件に基づいているのであれば、それに応じて原価比
率を変更する。しかしながらもし、例えば偶然に購入材料の組成が変り、したがって多少とも加工しなければならぬ
︵∬︶
ことから生ずる一時的な差異については、原価構成比率を変更しない。﹂
とQ
他方、リスト・プライスについていえば、それは価格表に記載された売価である揚合が多いけれど、まったく恣意
︵18︶
的な価格であってもよいという。後者の揚合は、実際の原価数値を信用のおける少数の従業員を除き、その他の者に
秘密に し て お く た め の 手 段 な の で あ る 。
このように考察してくると、この原価計算法の適用範囲は、標準製品を大量に生産する経営に限られてくる。そこ
米国標準原価計算理論発達史序説 一二五
一橋大学研究年報 商学研究 6
︵19︶
でマスプ・セスの生産経営に適用されるために、 プロセスプランとも称されるのである。
⑥ 事前に決定された正常︵平均︶原価
さて、ウエブナーは、
一二六
﹁リスト・パーセンテージ法におけるリスト・プライスならぴにリスト・パーセンテージは、標準化された原価
︵暮螢ロα鴛象器自08参︶であるQ﹂
︵20︶
と述ぺ、さらにその説明として、標準原価︵ω鼠&貧α8ω錺︶は、企業という船の云わばコンパスであるというエマ
ースンの言葉を引用し、標準原価にたいする非難は、当該期間の実際費用と一致しないという点にあるが、これは、
恒星年と太陽暦の一年との不一致がとるに足りないのと同様である云々といったエマースンの文章︵本稿の一五四頁参
照︶を引用して、標準原価の使用を弁護している。このようにリスト・パーセンテージ法において計算される原価を、
ウエブナーは標準原価と解しているが、この点は妥当であろうか。もし妥当であるとすれば、それはいかなる意味に
おいてであろうか。
ここで計算された原価は、実際原価概念をいかに広義に解するとも、それはもはや実際原価ではありえない。それ
は事実である。けだし、この計算法にあっては、製品一単位について、リスト・プライスとリスト・パーセンテージ
が予定されている。したがって、ここでは平均価格︵価格表記載売価を採用した揚合︶あるいは固定価格︵恣意的な
価格を採用した揚合︶にたいし、実際消費量を乗ずることなく、﹁事前に決定された正常︵平均︶消費量﹂を乗じて、
製品一単位当りの予定原価が計算されることになる。かかる意味で、この原価はもはや実際原価や見積原価ではなく、
一種の標準原価であるといえよう。この標準原価は、実際原価の価椿計算・損益計算上の欠陥から考案されたもので
あるが、実は後述する原価管理型標準原価と接触する面ももっている。なぜならば、もしリスト・パーセンテージで
計算された各部門別要素別の原価を厳守することに成功すれば、予想利益を確保しうることになる。したがって不完
全ながらも、これをコントロール・スタンダードとして使用できないわけでもない。事実ウエブナーは、﹁原価変動を
︵皿︶
明瞭に示しうるような比較基準﹂として彼の標準原価を原価管理に利用する考えをもっていた。しかしながら彼の重
点はむしろ、原価構成比率の正確性を時々検証することによって、たえず実際原価に一致させようと努力し、それに
よって価格計算や損益計算に役立てる点にあったのである。
@ 実際原価と標準原価との比較
この計算法にあっては、各部門ごとに原価要素別勘定を設け、第二工程以下の部門でば、前工程費勘定を設定する。
原価要素別勘定の借方には、原始証愚にもとづいて実際原価が記入され、貸方には、リスト・パーセンテージに基づ
いて計上される。前工程費勘定だけは、リスト・バーセンテージによって計算した前工程の各原価要素合計額がこの
勘定の借方に記入され、その貸方には同額が記入されて、いわゆる通過勘定となる。いまB部門からC部門へ、その
︵羽ノ
完成品を振替える仕訳を示せば、次のとおりである。
ヨH繭躍ー○善謡⋮ : ・ ⋮ − 雲 ︸ 9 U ● 。 。
普H繭躍−国嶺謡・⋮⋮⋮・・ 粉甜一誤。OO
米国標準原価計算理論発達史序説 一二七
一橋大学研究年報 商学研究 6 一二八
鉢暢ヤ羅ー国瑛認:・⋮・⋮・・ ど一胡,OO
糠麟躍−閃誉謡::⋮:⋮ 認軌■OO
藍賠羅−困妻謡⋮:⋮・⋮ ひOO■OO
輪“ひb。軌、OO 齢μ9900
したがって各部門における原価要素別勘定では、借方の実際発生額と、貸方のリスト・パーセンテージで計算され
た標準とが対比され、通常原価差額が発生することになる。この揚合、二種以上の製品を大量に生産している企業で
は、右のように算出された原価差額は、製品別に判明しない。また貸借が仮に一致し、原価差額が発生しない揚合で
も、製品別の原価差額が互に相殺しあった結果であるかもしれない。そこであらかじめ定めた各製品種類別の原価構
︵23︶
成比率は、しばく臨時計算によって検証するのである。
⑥ 原価差額の処理
最後に、原価要素別勘定に発生する原価差額の処理法をみておきたい。原価差額は、期末における仕掛品を評価す
ることによって、はじめて判明する。けだし、各原価要素別勘定の借方には実際発生額が記入され、貸方にはリス
ト.パーセンテージで計算された標準原価が計上されている。そこで貸借の差額は、もしそれがノーマルな状態であ
り、期首仕掛品がなければ、期末仕掛品をリスト・パーセンテージで計算した額と一致する。しかしながら実際には、
ノーマルな状態から若干の隔りがあるのが通常であるので、その分だけ原価差額が生ずるのである。かかる差額の発
見されたときは、事情に応じて、棚卸差損引当金勘定︵お器笥Φ88仁暮協9<遭宣鉱自9薯Φ蒔窪のき自目o器弩窃︶
あるいは作業屑・仕損品引当金勘定︵器。。零ぎ器。自酵隔曾○く8曽o詳呂α∪騨旨夷①︶の借方もしくは貸方に記入
する。他方この種の正常発生額は、あらかじめ予想して、製造間接費の一項目として計上されているので、引当,額
︵正常発生額︶と実際発生額とは相殺される。もし右の引当金勘定において、異常な原価差額が生じたときは、これ
を危険費勘定︵寄989の縁Φぐ︾8窪ロけ︶に移すが、ここでもまたその正常額︵仕掛品勘定にチャージされた総額
︵鍛︶
の2%に相当する金額︶が製造間接費として毎期吸収されていくのである。
これを要するにウエブナーの考えによれば、標準原価差額はすべて立派なプ・ダクト・コスト性をもっている。換
言すれば、標準原価ではなくて実際原価が真実の原価なのであった。しかしながら、一原価計算期間に発生した実際
原価︵歴史的原価︶を全額当該期聞の製品ヘチャージするのは、論理的に云って公平ではない。つまり発生した実際
原価はすべてプ・ダクト・コストとなりうるのであるが、製品へ負担させるさいはその正常︵平均︶額に限るべきで
あって、発生した実際原価に含まれる異常額は、長期間にわたって徐々に吸収されるぺきであると考えたのであった。
したがって製品原価は、事後的に確定された正常︵平均︶原価で計算されるぺきである。しかしウエブナ;は、計算
を迅速かつ簡単にするために、事前に予定した正常︵平均︶原価を使用するリスト・パーセンテージ法を採用したの
である。そこでコストテストによって製品種類別の実際原価が、部門別原価要素別に判明したときは、標準原価自体
を適当に修正すると述べている。
︵25︶
原価の正常化を行なうためには、二つの方法が考えられる。その一は、異常費を原価外として切捨てる方法であり、
ホイソト甲一、アーは不働費の原価性否認という形でこれを行なった。いま一つの方法は、異常費を長期間にわたって均
米国標準原価計算理論発達史序説 一二九
一橋大学研究年報 商学研究 6 一三〇
分する方法である。ウエブナーは後者の方法によって、実際原価計算の価格計算・損益計算上の欠陥に対処したので
あった。
︵−︶一。巨≦耳巨。淋ρ.萄88弓気ぎ8琶け一躍器巷嘗a8冒跨巨岩ωげ。℃。。、”屋Φ︸。霞冨一。隔︾。8琶一§馨く。一員
<〇一H目、乞ρど︾仁磯●一8ひ−冒ロ,一8M。
︵2︶一〇巨≦ぼけヨoβ..ωげ8寄go姶08け︾。8鐸昌諺.、一弓幕︸o彗彗一〇胤︾80琶寅昌。ざく〇一■≦,20●ど目哉一8。。、
︵3︶≦耳馨8・.ωげ8田。葺矯⋮、.ら覧旨占伊
︵4︶の。一。馨βP、.譲Φ囲の叶鼠。巴u。く①ξヨΦ暮。8。。・け一凝、.︵ぼの。一。馨昼aもけ&諒ぎo。の§。Q一巨。&呂”の幕g
帥昌山冒節図≦o戸U巳●︾G旨︶や8。
︵5︶巧臣け菖oβH謡山‘や罫
︵6︶いoρ9け●
︵7︶ この論争にっいては、拙稿﹁真実の原価をめぐる、実際原価と標準原価との抗争﹂会計八○巻三号、四号、昭和三六年九
月号・十月号を参照されたい。
一QOー
︵1 1 ︶
︵1 0 ︶
甲革もしくは底革倉庫の実際原価を確定したのち、等価比率を使用して、これをそれぐの中間製品へ分割する、いわ
輯窪葺6↓ρHげ 答 ‘ や 器 ひ
名げ一酢ヨo鴎ρHげ箆‘℃。卜⊃ω。
︵9︶ 名ぽ一けヨo腕ρHげ箆‘やN一.
け昌
ρ ○目
Φ 一︾
山 ︵譲
8げ
︶一 鳩H 一 ‘ や
︵12︶
ゆる 等 級別
擢 、それは実際原価計算の領域に属する。しかしホィットモァーはかかる方法をとらず、
計
算
法
に
よ
っ
て
い
る
な
ら 等価係数を使用するが、市価を基準とした各中間製品一単位の予定価格を定め、これに実際生産高を適用してそれぐの中間
≦匡け目o器u一び5‘℃マ一〇18●
)
≦①ぎ8H画ρ唇﹄o。OIb。OO’
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壌。﹃g劉卸田喜oqO。器︵2睾ぎ詩“↓富閃o壁匡諄Φ器OO日饗起這旨︶や
一 〇︸
≦げ詳ヨO吋O H げ 一 山 ℃ ’ N 9
) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) ) 巧oげロoびHσ置‘弓やN81さo℃い . ,
米国標準原価計算理論発達史序説
O令P
一.
一、
製品の原価を計算している。しかも右の予定価格はなるぺく実際原価に近いように見積るのであるから、見積原価計算の領域
25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13
に属している。
ハ 一橋大学研究年報 商学研究
■=一三
軽蔑していた。これにたいし原価計算係達は、能率技師達の設定した物量標準に基づく原価を、恣意的な原価である
史的記録に終ってしまうのが常であった。それゆえ能率技師達は原価計算を無用の長物ときめつけ、原価計算係達を
が、この方法は実際原価の本質や実際原価計算の特質上、きわめて不完全であり、したがって原価記録はたんなる歴
すでに述べたように、原価計算係は実際原価を記録し、原価管理に役立たせるためには、実際原価を期間比較した
法の実施を推進する能率技師と、原価計算係との反目である。
が、この手法を原価計算のあらゆる領域にとり入れるためには、かなりの障害があった。その障害とは、科学的管理
づいて信賞必罰するという管理方法であった。科学的管理法と原価計算とは、労務費計算の領域で結ぴついてはいた
の作業能率を管理するため、作業について標準を設定し、これと実績とを突合せ、差異分析を行ない、その結果に基
十九世紀の末期から今世紀の初頭にかけて発生し、次第に普及しつつあった科学的管理法は、現揚における作業者
科学的管理法に求めることができる。
規範原価としての正常原価の基礎は、物量標準にあり、かかる標準によって例外管理を行なう手法は、その源泉を
ることによって発生した、原価管理型標準原価計算の生成過程を跡づけてみよう。
によって克服されなければならない。そこで次に、いま一つの正常原価すなわち規範原価としての正常原価を導入す
実際原価の本質は偶然的原価という点にある。したがってこれから生ずる欠陥は、いずれにしても正常原価の導入
第三章 原価管理型標準原価計算の発生
6
として、会計機構にのせることには、断乎として反対であった。このような対立は、標準原価計算の発生をいちじる
しく妨げていた。ただ労務費計算の領域では、単純出来高給制をとる揚合のみ、実際直接労務費と標準直接労務費と
は一致するので、辛うじて科学的管理法と原価計算とは互の手を結んでいたが、それでも原価計算係達の意識からす
れば、これも実際原価の計算に他ならなかった。
さて、原価管理型標準原価計算を作り出した功績は、このような障害を克服して、原価計算係ないし原価計算専門
家の側から原価計算へ科学的管理法の原理をとり入れた人々と、逆に能率技師の側から科学的管理法の原理を原価計
算へ適用した人麦とに帰せしむることができる。ここでは前者の例としてフレデリック.L.スモール︵浮&①.8
炉ω旨巴一︶を、後者の例としてハリントン・エマースン︵頃畦臣夷8昌国目o議自︶をとりあげ、彼等が標準原価の思
考に到達した動機や、その所説を検討することにしよう。
フレデリック・L・スモールー原価計算専門家の側からする貢献
.フレデリック・L・スモールは、スモール・ニコルズ・アンド・カンパニi︵ω目巴ど28ぎ討騨Ooヨbき冤︶のパ
ートナーであった。彼は経営コンサルタントの業務に携わるかたわら、その豊富な実務上の経験から、一九一〇年
﹁靴製造工揚の組織化﹂︵9撃巳試お騨曽8寄90曙︶を、さらに一九一四年、﹁靴製造業およぴその他の業種に適
用される包括的な会計方法に関する論文﹂︵の器碧ぎ800旨鷲魯魯の貯o卜8窪昏ぼ㎎目o跨o宏わ山即営aεのぽ8
︵1︶
目き蔦8葺ユ夷ぎ自○爵霞目&雲臣①の︶を著した。ここでは後者によってその所説を検討する.一とにしよう。
米国標準原価計算理論発達史序説 一三三
一橋大学研究年報 商学研究 6 一三四
ω 科学的管理法の批判から出発
後述するようにエマースンは科学的管理法の効果を最大限に発揮するという観点から出発したが、逆にスモールは、
科学的管理法批判から出発して、標準原価計算へ辿りついている。
彼によれば、最近の一〇年間に、いわゆる﹁科学的管理法﹂について、多くの著書論文が発表されたが、そのため
に、まるで新しく発見されたかのようなこの管理方法の代表者が、企業の苦しんでいる諸間題を解決する万能薬でも
発見したかのように、世人に思われている。しかしながら科学的管理法には、大きな限界があるとして、次のように
述べている。
﹁多くの企業では、科学的管理法はなるほど明らかに大いなる貢献をした。しかしその貢献と云えば、大部分の揚
合、労働者をして以前より多くの課業を果させるようにしたが、その結果は比較的少額の利益しか上らなかった。
しかし一足の靴における労務費は、もっとも重要な費目ではない。あらゆる靴の原価を平均するならば、材料費一
もしわれくが、靴製造業に同じやり方を応用するとすれば、なるほど労務費はかなり節約されるかもしれない。
︵2︶
○%の節約は、ほぼ労務費の二五%節約に相当する。﹂
とo
他方、科学的管理法の主張者達は、能率測定の尺度を欠くために原価計算を無用の長物ときめつけ、原価計算係や
会社の組織設定業務を請負うシステマタイザーを嫌悪するが、これは本当の原価計算︵魯お巴8筥昌砕o目︶を知ら
ぬために生ずる誤解だと、彼は云う。それでは、どのような原価計算が真の原価計算であるか。この点について彼は、
﹁実際問題として、いわゆる科学的管理法の基礎と、真の原価計算の基礎とは同じである。ただ違いといえば、真
の原価計算は、科学的管理法のもつ特徴を備えるばかりか、それ以上のもの︵讐霧Bロ畠隔畦島雪︶なのである。い
わゆる科学的管理法は、まず最初標準を設定し、次いで標準に一致させるよう努力する。靴製造業に適用される原価
︵3︶
計算も、かくすべきである。﹂
と述ぺている。つまり彼の云わんとするところは、真の原価計算は、科学的管理法におけると同様、 目標と実績の比
︵4︶
較計算であるぺきである。しかし科学的管理法の対象は労務費にすぎないので、
﹁企業全体として達成した能率の度合を知るために、標準を設定し、企業全体がこれらの標準のどれほど近くに操
︵5︶
業したかを示す記録をつけることがまず第一に必要である。﹂
一三五
ということなのであった。こうして彼は、科学的管理法批判という形で問題を発展させ、 複式簿記機構と結合させた
標準原価計算を記述している。以下われくは、その内容を検討してみよう。
米国標準原価計算理論発達史序説
一橋大学研究年報 商学研究 6 一三六
㈲ 靴製造業と標準原価計算
スモールの所説を詳しく検討する前に、彼がとりあげた靴製造業と標準原価計算との関係をみておく必要がある。
米国における標準原価計算の発生史を研究した者は誰でもすぐ気のつくことであるが、初期の史料のうち、なんら
かの業種によって標準原価計算を記述している揚合、圧倒的に多いのは、靴製造業の標準原価計算である。これはた
んなる偶然であろうか。それともこの業界の特質が、標準原価計算を導入しやすくしているのであろうか。
靴製造業の歴史は古い。植民地時代における靴は、一足一〇ないし二〇時間かけて、手作業で作られていた。した
がって非常に高価なものであり、入手し難かったから、人々は非常に寒い時、あるいは儀式の時しか履かず、その他
教
会
の
戸
口
で
履
い
た
と
云
わ
︵れ
6る
︶。ところが一八四六年に、
の 時 は 裸 足 で あ っ た 。 教 会 へ 行 く と き は 靴 を 持 っ て い き、
れはまた同時に、靴製造業界に革命を起した。けだしこれを転機としてこの業界は、手工業生産から機械生産の段階
イライアス.ハウ︵田一塁国o≦①︶が、・・シンの発明に成功した。これは女性にとって大いなる恩恵であった。しかしそ
︵7︶
へ入ったからである。さらにこの発明は、南北戦争による需要の増大と相侯って、原価計算を採用しうるほどの規模
へ、この業界を発展させるきっかけを作ったとも云えよう。・
さて、この業界はどういう特質をもっているのだろうか。スモールは次のように記している。
ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ち
﹁銘記すべきは、靴製造業者は請負師︵傍点はイタリック⋮岡本注︶だということである。彼は一連のサンプルを作
り、製品販売のため、顧客への引渡期日よりも数ケ月前に、セールスマンを派遣する。そして彼の見本およぴ注文帳
には、一定製品を一定価格で引渡すことに同意した契約条件が、詳細に記されている。そこで靴製造業者が、もしそ
の営業状態を知ろうとするならば、彼の見積数字はセールスマンが出発するはるか以前に、すべて用意されていなけ
︵8︶
ればならず、その会計は、これら見積の正確性を立証しなけれぱならない。﹂
と。つまりこの業界は、サンプルをまず作り、これによって注文をとって歩くのであるから、あらかじめ原価見積を
用意しなけれぱならず、原価見積が正確であるかどうかは、この企業の死活問題となる。したがって見積原価計算が
早くからこの業界では行なわれていたのであった。
さらに、スモールと同様、靴製造業における標準原価計算を論じたF・R・フレソチャーも、この業界における、
原価見積、売価、予想利益の関係を、次のように述べている。すなわち、あらかじめサンプルを作り、それによって
注文をとるのであるから、
﹁このような条件のもとでは、売価は事前に決定された見積に基づかねばならず、この見積は標準から算定され、
それは製造原価のあらゆる要素を含むものでなければならない。見積原価と売価との差額からなる予想利益は、もし
一三七
したがって売価を見積るさいに使用した原価見積は、 もしこれを厳守すれば予想利益が達成されるために、 標準
︵9︶
その標準が維持され、かつ靴が見本の仕様書にしたがって販売されているかぎり、実現されるであろう。﹂
と。
米国標準原価計算理論発達史序説
一橋大学研究年報 商学研究 6 ご二八
ともなりえたのである。以上述べた理由から、この業界では早くから見積原価計算が行なわれ、しかもそれは容易に
標準原価計算へ移行しうる性質をもっていたのであった。
⑥ 靴製造工揚の原価計算
−価格計算・損益計算型標準原価計算と原価管理型標準原価計算との間
真の原価計算は、科学的管理法におけると同様に、目標と実績との比較計算であるべきだとスモールは云う。そこ
で彼の説く靴製造工揚の原価計算において、この考え方がどのように生かされているのであろうか。
不思議なことに彼は、標準原価という一言葉を使用していない。それどころか、まず︵原価︶見積︵。牲ヨ暮8︶を行
ない、その正確性を検証する計算法を述べている。それでは一体、彼の説く靴製造工揚の原価計算は、たんなる見積
原価計算にすぎないのであろうか。以下われくは、詳細に彼の原価計算を検討してみよう。
まずスモールは、具体的な数値を使用してその方法を説明している。この数値は彼によると、特定の企業における
原価数値をそのままとったものではないが、彼の経験から苦心して割り出したものであって、業者はこれらを比較基
準として使用できるであろう乏櫨べていゐ。鮨
︵10︶
さて彼はまず原価見積を行なうが、そのために、次の条件を仮定している。すなわち、当工揚の六ケ月間における
最大生産量は、四二五、OOO足であるが、原価見積のさいに最大生産量を基準に使用しないほうが賢明である。し
たがって次期の予定生産量は、四〇〇、OOO足とする。この靴の一足当り平均売価は、二・五ドル、したがって予
定売上高は、一、OOO、OOOドルとなる。製品はセールスマンや広告を通じすぺて小売商へ販売される。この会社
の資本は六〇〇、○○○ドル、半年間の目標利益は売上高の六%︵このうち一%はアローワンス︶、したがって年間の
資本利益率は二〇%である。以上の条件にもとづき、この会社の標準製品について原価見積を行なう。その方法には
二法ある。
第一の方法は、云わば積上げ方式とも云うべき方法で、適当に物量標準を用意したのちに、直接材料費は材料の種
2nd 、利 益@6・00%=・150
米3rd’
理費“.20%=,005
罧4th販売費〃・L・・%一班
準5th工揚経費“4、00%=、110
審6th瀟償鰻〃乞・・%一伽
董8th間接労獺〃Z27%一価8
計7th 特許料“2。30%=,0575
諜 直接労瀕および直接材順
説
一三九
のできる利点があり、また売価から先に必要利益と、短期的には経営
さしく原価見積の名に値する。しかしこの方法は、す早く見積ること
この表から知られるように、除去法は非常に粗雑な方法であり、ま
うに計算する。
︵11︶
法﹂︵..即08拐9田一目首暮δp、、︶だと述べているが、これは上のよ
は、逆算方式とも云うべき方法で、スモールはこれを一種の﹁除去
票を見積︵原価︶票︵国の該B暮①の富9︶と名づけている。第二の方法
積というより、原価標準である。しかしスモールは、これを集計する
方法により計算している。われわれの考え方によれば、これは原価見
皮編上半長靴︵ζ窪.ω國寅9罵匹琴げR.国巴.︶を例にとって、この
o , 類別に、直接労務費は直接作業の種類別に、製造間接費は費目別に、
5
それぐを予定し合計して求める方法である。彼は、紳士用ボックス
除去法
1st 靴の売価・…・……………・………………$2『
論 総固定費(Total Fixed Charge) .6943
史 のために残された額 $1・8057
序 9th 直接労務費総額 .4932
10t11 直接材料の使用に残された額 $1。3125
一橋大学研究年報 商学研究 6 一四〇
者のいかんともすることのできぬ固定費を除去することによって、経営者の管理可能な直接費の、最大許容額を知る
という利点がある。したがってこの方法によって計算された直接費は、原価見積ではあるが、一種の標準的性格をも
っているのである。
さて、このように計算した原価見積につき、スモールはその正確性を検証する三方法を述べている。これらは、ど
9月30日(月) 11月2日(土) 5週間 1
1912年
11月3日 11月30日 4 2
12月 1日 12月28日 4 3
12月30日 2月 1日 5 4
1913年
2月 3日 3月 1日 4 5
3月 3日 3月29日 4 6
計 26週間
されるのであろう。
その貸方に完成品の見積原価が記入されて、実際原価と見積原価との差額が計算
としている。この記述は正確でないが、仕掛品勘定の借方に実際原価が記入され、
価︵oω菖目暮霧器山8幹︶との差額は、製造損益︵Ob醇9﹃凶Qaけ餌且Uo器︶
︵12︶
もしくは販売損益︵U一巽ユゴ菖おO&ロ程qピ8の︶に借記もしくは貸記される。﹂
した靴は﹃完成靴﹄︵.、臣巳。。﹃a欝8ω、、︶にチャージされる。見積原価と実際原
﹁各会計期末に、製造原価のあらゆる費目は﹃仕掛品﹄にチャージされ、完成
この方法は勘定的には、
準を、もっとも詳細に検証する第一法を詳しく検討しよう。
の程度詳細に検証するかによる区別である。そこでわれわれとしては、前述の積上げ方式によって計算された原価標
生産開始日 終了日 週数 期間番号
︵B︶
まず彼は、半年間の生産計画を前頁のように立てる。
彼が半年間をこのように区分するのは、期間比較の見地から一年間を四週間一三ヶ月制にすると、毎期末が暦の月
末と一致しなくなるという欠点があるので、この点を改め、一年を一二期とし、四週間の期間を八期、五週間の期間
を四期としたのである。
さて、右の二六週は一八二日︵誤笛×N︶であり、その中休日が三日、日曜日が二六日あるのでこれらを差引くと、
実際に可能な労働日数は一五三日である。その中、半日︵土曜日︶が二六日で、あとの一二七日がまる一日の作業可
能日であるから、これを半日単位に換算すると、二八O半日︵一ミ×N+ま︶となる。そこで半日あたり一、四二八・
五足が平均予定生産量となる︵おPooo湘十詣皐皿︶。
次に右の生産計画に基づき、半年間の製造経費、間接労務費ならびに販売費予算を作り、費目別半年間総額を四週
と五週のそれぞれの予算額に区分して計算する。例えぱ賃借料の半年間︵二六週︶の予算は、四、五〇〇ドルである
ので、四週の期の予算は六九二・三一ドル、五週の期の予算は八六五・三九ドルとなる。スモールは、このように作
成した間接費予算表と、見積原価票とを使って、原価差額を計算している。
まず直接材料費計算を理解するために、甲革︵d竈曾冒警R芭︶の計算をみてみよう。甲革の裁断に関する第四期
︵H︶
の報告書は、次頁のとおりである。
この表から知られるように、裁断量の見積原価と実際原価とは毎日比較され、この表に毎日記入される。それでは
ここで計算された利益︵○註霧︶もしくは損失︵Uo誘霧︶は、どのような意味をもっているのであろうか。
米国標準原価計算理論発達史序説 一四一
第4期 自1912年12月30日 至1913年2月1日
77
裁 断
数
見 積
価
原
利
益
87980翫
3,249
$2,238.94 $2,229.58
$ 9.36
3,254
2,228,17 2,225ユ0
3、07
3,246
2,246.93 2,231.80
15.13
3242
2,234.20 2,227.69
6.51
3.255
2,240.45 2,24L73
研
究
省略
6
105
3,251
2,236,67
2,229.35
106
1,630
1.121.97
1.114.84
7,32
7,13
$191.46 $27.01
$61,575.65
89,793 S61,740.10
27.01
61.575.65
$ 164、45
$164,45
純益
損失
商
$1・28 学
7
一
一
計
一橋大学研究年報
作業日
$1,274,34
購買およぴ選別
総益
$1,43∈∼.79
一四二
なめし皮を購入すると、そ
れは﹁なめし皮およぴ裁断工
記録﹂︵需魯げ霞魯け山O暮什R、の
口g8“男g旨客o﹄︶に記録
される。したがってこれは材
料元帳である。出庫する時は、
出底票である﹁甲革裁断票﹂
︵O密︶90暮菖ロ磯醒6︶によ
る。裁断の結果はこの票に記
入され、さらにこれを集計し
て﹁なめし皮および裁断工記
録﹂に記入する。レポート
恥1はこの記録から作成され
たものである。
さて、この揚合生ずる裁断損益にたいしては、裁断工は原則として責任を負わない。なぜならぱ、次の例から明ら
かである。
レポートNo.1
甲革材料
r﹃
102.32
付属品取付
1,107.82
1,094,12
13.70
靴型合せ
4503.45
4,593,02
底付け
19,368.89
19,123。97
3,259.92
37077.28 182.64
2.476、05
2.598.37
断製
154.68
裁縫
191.89
$537.50
$537.50
益
$89,57
8,365.66
仕 上
包装出荷
43,875。86
純
244。92
$ 5,043.44
8,520.34
7
$191,89
$729.39
$43,895.86
$44,413.36
計
$133.45
$5,176.89
失
損
利 益
原 価
見 積
部
米国標準原価計算理論発達史序説
第4期 自1912年12月30日 至1913年2月1日
一四三
は云うまでもない。
ん作業時間の遅速、製品の品質の良否からも判断されていたこと
費量を定める方式︵讐&鑑亀o≦跨8。。誘$ヨ︶をとり、裁断の
けロ
良否にもとづく数量差異を現場で計算していたのである。もちろ
した靴の真の標準消費量は、製品種類別にそれぐ別個に標準消
作業能率の管理は、物量管理に頼っていた。すなわち実際に裁断
したがって原価管理とは関係がないのである。彼の揚合作業者の
際に裁断した製品の実際消費量との数量差異額も含まれている。
ート恥1に記入された損益はこのように標準品の標準消費量と実
るとすれば、五〇セントの裁断損失が発生したことになる。レポ
余分に消費したことになる。いまこの皮の原価は二五セントであ
消費量を守ったにもかかわらず、標準品の消費量よりニフィート
り、実際消費量も三八フィートであったとすれぱ、裁断工は標準
よリサイズが大きくて、その真の標準消費量は三八フィートであ
仮に見積票に、一ダースの靴を裁断するに﹁三六フィート﹂と、なめし皮の消費量が指定されていたとする。ア︸の
おレ
消費量は、すでに明らかにしたように、標準製品についての標準消費量である。しかし実際に裁断した靴は、標準品
レポートNo.6
直接労務費
レポートNo.8
製造経費,特許料およぴ減価償却費
第4期 自1912年12月30日 至1913年2月1日
目
見
積
実
際
減
増
賃 借 料
$865.39
$865.39
税 金
384.61
384.61
保 険 料
288.46
27985
利 子
76923
731.15
38,08
動力費,燃料費
384,61
372.00
12.61
運 賃
1,153.85
1,12782
192.31
185.10
機械修繕費
設備修繕費
769.23
715.90
192.31
209.80
見 本 費
事務用消耗品費
384.61
354.60
576,92
544.25
32.67
雑 費
靴損失引当金
384.61
317.31
67.30
1.346.15
956,28
水道電気電話料
など
$7,692,29
$7,044,06
7。044.06
橋大学研究年報 商学研究
費
$8,61
26.03
7.21
53.33
$17.49
30.01
389.87
$665.72
$17.49
17,49
純減少額 $648,23
$648.23
実際生産量90,038足
1足当り配賦率10セント$9,003.80$9,003.80
当期の純益 $1,959.74
(以下省略)
一四四
それでは裁断損益は、何のため
に計算されていたのであろうか。
上述したことから知られるように、
その目的は標準品に関する甲皮の
原価見積の正確性を検証するとと
もに、利益管理に役立てることで
あった。計算した損益が相殺され
てゼロになるか、あるいはマイナ
スにならぬかぎり、標準品の甲皮
の原価見積はほぽ正確であり、し
たがって甲皮に関する限り予想利
益は確保されることになる。した
がって同様な報告書が、甲皮のみ
ならず底革や付属品について、ま
た直接労務費についても作成され
ている。
︵17︶
一四三頁の表は、直接労務費の報告書である。最後にわれわれは、製造間接費計算を検討しよう。一四四頁に掲げ
るレポート画8は、製造経費、特許料および減価償却費の報告書である。この報告書の下部に、特許料と減価償却費
︵18︶
に関する計算があるが、ここでは、省略し、われわれはもっぱら製造経費の部分を検討することにしよう。
上に示したレポート8の最下部で以下省略と記した部分の中に、次のような注がついている。
﹁注。生産量は予定量七六、九二〇足より九〇、〇三八足へと増加したが、見積原価は実際には六四八・二三ドル
だけ節約された。これは一、三一丁八○ドルプラス六四八・二三ドル、すなわち、一、九六〇・〇三ドルの利益に相当
する。二九セントの差額は、すぺての数字を少数以下三位まで計算しなかったために生じたものである。
︵憩︶
見積原価は二つに分解された。すなわち生産量の増加と原価の節約である︵日08窪6暮§qざ霧8曾と。
彼の注は、きわめて、簡単明瞭である。今日のわれわれの言葉をもってするならば、彼は製造経費の配賦差額を、
固定予算における操業度差異と予算差異とに分析していたと云えよう。なぜならぱ、試みに次頁の図を画いて計算し
てみれば明らかである。
このような分析は、すでにワイルドマンがチャーチの補充率を改良して、第一補充率と第二補充率に分解して追加
︵20︶
配賦するさいに行なっているので、とりたてて云うほどの新しい方法ではない。フレッチャーも後年、﹁靴製造業に
︵別︶
おける標準使用の略述﹂において、同様の分析を行なっていることからしても、この種の分析は、かなり行なわれて
米国標準原価計算理論発達史序説 一四五
︵回陪申塒︶
誘O器O
召
一四六
器聾輩一[㌘畿
コマ
メO斜溌O①︵珊讃羅隣繭環︶
︵渦鰯陪酔陣︶
。Obω。。
︵團郵盆︶
88’oo
匹マ
一橋大学研究年報 商学研究
◎6噂
︵蜘碍肝離脚︶
揖08
いたのであろう。しかしながらこの分析は、どの程度効果をもっていたのであろうか。
まず予算差異は、実際製造間接費と、実際生産量が予定生産量に到達したさいに配賦されるはずであった予定製造
間接費との差額である。したがって計算された差額は、実際操業度の原価に及ぼす影響がこの計算において考慮され
ていないため、能率の尺度たる意味をもたない。実際生産量と予定生産量とがあまり喰違わない業種であるか、ある
いは偶然にほぼ両者が等しくなった期間においてのみ、役に立つのであって、スモールの揚合のように、予定生産量
と実際生産量とが、いちじるしく離れる揚合は、あまり意味がないと云わねばならない。
次に操業度差異についてであるが、この差異を正しく計算するためには、予定配賦率が実際的生産設備能力︵鷲甲
&8一9短9な︶に基づいて計算されていなければならぬことは、云うまでもない。しかし予定配賦率の基準操業度
、
…「
が、仮に実際的生産設備能力であったとしても、操業度差異の算出に予定配賦率の全額を使用せざるをえないために、
操業度差異の計算が不完全にならざるをえない。なぜならば、不働費は固定費のみに関係しているからである。
︵詔
それゆえに、この種の分析は、製造間接費の配賦差額にかんする気休め的な説明の域を出なかったのではあるまい
米国標準原価計算理論発達史序説 一四七
へ組入れていた。他方、その製造間接費計算は、今日の固定予算を使用した標準原価差額分析の方法とまったく同じ
算は、標準品の原価標準を算定しながらも、これを原価管理に使用せず、一種の利益管理標準として、見積原価計算
以上われわれは、スモールの靴製造業における原価計算を詳しく考察した。すでに確定したように、その直接費計
まったく等しくなる。したがってスモールの配賦製造間接費は、まさしく標準製造間接費であった。
︵23︶
は、配賦基準を作業時間に求め、作業時間当りの予定配賦額に、実際生産量にたいする標準作業時間を乗じた額と、
であった。彼はこの配賦率に実際生産量を乗じて予定配賦額を計算しているため、ここで計算された配賦製造間接費
である。これにたいしてスモールは、配賦基準を作業時間ではなく生産量に求め、その配賦率は靴一足当りの配賦額
費量要素が実際数値であるために、ここで計算された配賦額は、今日のわれわれの考え方からすれば実際製造間接費
械作業時間を乗じて、当該製品にたいする配賦額を計算していた。なるほど機械率は予定であるが、これに乗ずる消
接費の点では、天と地の隔りが両者にあったことである。というのは、ワイルドマンは、予定率︵機械率︶に実際機
なるほどスモールもワイルドマンも同じ方法をとっていたが、プ・ダクト・コストとして製品へ予定配賦した製造間
しかしながら、ここでわれわれが見逃してはならぬ点が一つある。それは、製造間接費の配賦差額の分析において、
力
一橋大学研究年報 商学研究 6 一 一四八
方法をとっていた。したがって現揚において物量標準による能率管理を行なってはいたけれど、スモールの原価計算
の計算内容としては、原価管理的色彩はなく、むしろ価格計算・損益計算型標準原価計算の色彩が濃厚であった。し
たがって、この点からすれば、スモールの原価計算は、原価管理型標準原価計算の項に分類すべきではなく、価格計
算・損益計算型標準原価計算の方に分類されるぺきであろう。
しかしそれにもかかわらず、彼の原価計算をあえて原価管理型標準原価計算の項に分類した理由は、彼の意図が
﹁真の原価計算﹂という形で科学的管理法の原理を原価計算へとり入れようとした事、さらに見積原価計算へ組入れ
たのは、たんなる過去の実際原価の平均のみならず、物量標準に基づき科学的に決定された原価標準もあった事であ
る。これはもはや、ウエブナーの標準原価計算とは質的に異なるものである。この性格をいっそう押し進めたのは、
ハリントン・エマースンであった。
ニ ハリントン エマースンー能率技師の側からする貢献
ハリントン・エマースンは、科学的管理法を普及せしめるべく努力した先駆者の一人である。彼は当時のアメリカ
企業の中に、数多くの不能率がみられる事実を痛感し、これを除去しなければ、世界の列強に伍してアメリカを発展
︵盟︶
させることは不可能であると考えていた。一九一一年、彼は﹁工学雑誌﹂に掲載した論文をまとめ公刊した。われわ
れは以下この著書によってその所説を考察しよう。
ω 不能率を除去するために、スタッフ機能を重視
エマースンは、アメリカ企業にみられる不能率の原因を追求した結果、それは例外なく、企業の管理組織に求めら
れると考えた。すなわち、当時の企業が採用していた管理組織は、数世紀前に生れた軍隊組織︵目⋮蜜qO茜曽巳堅−
ぎ昌︶とほとんど変らぬ直系組織︵一冒①o茜暫巳養菖8︶にすぎなかった。そこで彼は次のようにその対策を述べてい
る。
﹁不能率を減少せしめるには、軍隊組織を減らすことではなく、補助的なスタッフを増やすこと、これが絶対に必
要であった。﹂
のであり、このスタッフの職務とは、
﹁作業を行なうことではなく、ラインがいっそう能率的に仕事ができるよう、標準や目標を設定するア︺とである。﹂
と。彼はさらにスタッフの必要性を力説して、
﹁アメリカの修繕工揚や製造工揚を改善し、これを強化しようとするうちに、必要なのは英国人の忍耐、フランス
人の革新的論理、ドイツ人の厳密性、日本人の虚心担懐、アメリカ人の順応性をとり入れることであり、さらに←、ふず
米国標準原価計算理論発達史序説 一四九
一橋大学研究年報 商学研究 6
︵26︶
一五〇
スタッフを使用して標準を設定し、次いでその標準の達成を容易ならしめることこそ、 必要であるとわかったのであ
る。﹂
と述ぺている。
③ 会計機構へ標準を組込む必要性
さて、不能率を除去するために導入されたスタッフの花形は、能率技師︵①融9魯曙窪讐諾曾︶であった。しかし
ながら能率技師が設定したコストの標準、すなわち予定原価と、会計係あるいはコントローラーが記録した実際原価
とを突合わせなけれぱ、能率技師はその真の機能を発揮できないことが、彼の実務上の経験から判明したのである。
この間の事情を次のように語っている。
﹁能率技師達は、残念ながら次の事実に気がつかざるをえなかった。すなわち、もし予定原価が、コント・iラー
によって記録されたその期の原価の中に組込まれなければ、彼等の報告書の正確性を期することは不可能であり、さ
らにまた経営管理者の支持が不可欠なのであるが、その経営者達に、使用されている諸方法が実際に所期の成果を生
︵27︶
み出していることを納得させるための証拠がないということであった。﹂
と。そこで共にスタッフなのであるが、不能率を排除するのが能率技師の役割であり、能率技師の努力の結果を記録
するように、勘定記録をつけるのが、会計係の職務だと考えたのである。
⑥ 新しい原価計算と旧い原価計算
このようにエマースンは、能率技師が科学的管理法という武器を駆使して最大限の効果を発揮するためには、会計
係や原価計算係を毛嫌いし軽蔑してはならぬのであって、むしろ彼等と協力し、自分達の設定した標準を彼等の原価
計算に組入れねばならぬことを悟ったのである。したがって標準の組込まれた原価計算は、従来の方法とは違った、
まったく新しい原価計算となった。かくしてエマースンは、旧い原価計算方法と新しい原価計算方法とを、明確に区
別するにいたったのである。
﹁原価算定の方法には、根本的に異なった二つの方法がある。すなわち第一の方法は、仕事が完了したのちに原価
を算定する方法であり、第二の方法は、仕事に着手する以前に原価を算定する方法である。最初の方法は旧い方法で
あって、いぜんとして大部分の製造会社や修繕会社において使用されている。第二の方法は新しい方法であって、い
くつかの大工揚で使用され始め、そこにおいては、この方法が実際に可能であり、また実際に価値のあることが、す
でに証明されているのである。﹂
︵28︶
右のエマースンの記述は、新旧方法をかくも明瞭に区別したものとして、後世の史家からしばしば引用されるとこ
ろである。またホイットモァーが一九〇六年から一九〇八年の間に標準原価計算を実施している工揚を見た可能性が
米国標準原価計算理論発達史序説 一五一
一橋大学研究年報 商学研究 6 一五二
︵29︶
あり、ハリスンが標準原価計算を実際に指導し始めたのがほぼ一九一一年ごろのことであること、そして右のエマー
スンの記述を思いあわせると、アメリカにおいて標準原価計算は、一九一〇年前後から次第に採用され始めたと云え
るであろう。
それでは、新法と旧法とは、どのような長短をもっているのであろうか。彼はこの問題をとりあげ、次のように比
較している。
﹁旧法にたいする反対は、この方法ではインフォメーションの提供が遅れ、提供されたときにはあまり価値がない
ということである。しかし反対論の根拠はそればかりではない。この方法は、原価と、それからこれとまったく直接
関係のない偶発事件︵ぎ。崔窪錺︶とを混同してしまい、決定的に不正確だからである。その結果、例えば機関車の走
︵30︶
行一マイルあたりの維持費の例にみられるように、原価報告書を分析しても、無駄を排除する手掛りがえられない。﹂
と。右の引用文中にある例とは、次のような内容のものである。
ある鉄道会社の副社長は、その会社で東部と西部とでは、別個の型の機関車を使用している砒で、これを同じ型の
機関車に統一したく思い、それを注文するために記録を調ぺた。すると、西部の機関車は走行距離一マイル当り○・
一四ドルの維持費がかかり、東部の機関車は走行距離一マイル当りO・一〇ドルの維持費がかかることがわかった。
そこで維持費の安い東部の型の機関車を注文しようと思ったが、実は西部の車庫と修繕工揚は五〇%の操業であった
のにたいし、束部のそれは八O%の操業であった。したがってこの点を考慮に入れると、西部の型の機関車は一マイ
ル当り○・〇七ドル、東部の型の機関車は一マイル当り○・○八ドルの維持費を.要することになり、この揚合いわゆる
︵31︶
実際原価によれば、非常に高価な誤りをおかせられることになろうというのである。
次に新法の長所については、
﹁原価が仕事の着手される以前に算定されなければならぬ点が、第二法の.長所である。しかしこの方法の長所はそ
れぱかりでなく、最終的に記録された原価は、真実の原価であって、その原価が単一の要素からなろうと、あるいは
また百万の別個の要素の集合からなろうと、各︵製品︶単位ごとに、ω標準費用︵曾き壁旨臼℃窪器︶とω避けられ
︵32︶
る損失︵零9号冨一8の︶とに分割される点もまた、この方法の長所である。﹂
と述ぺている。右の引用文中で注意すべき点は、エマースンは標準原価自体を真実の原価と考えず、さらに避けられ
る損失も含めていた点である。これについては後述する。それはともかくとして、標準原価計算を主張するエマース
ンの論拠の中には、たんに原価管理目的のみならず、価格計算や損益計算目的も含まれていたことを、見逃してはな
らない。ただ彼が原価管理目的により重点を置いていたために、原価管理型標準原価計算の範晴に帰属させたわけで
ある。
米国標準原価計算理論発達史序説 一五三
一橋大学研究年報 商学研究
次に新法で使用される予定原価は、
の些細な欠点をもっていると彼は云う。すなわち、
一五四
それでは、エマースンはいかなる内容の標準原価を考えていたのであろうか。また標準原価と実際原価との関係を、
↑D エマースンの標準原価と、予定原価差額の処理
示すものである。
いるのは矛盾である。これは彼が、なお伝統的な実際原価︵歴史的原価︶の考えから完全に脱却しえなかったことを
と。エマースンが、予定原価をある箇所では真実の原価と考え、右の引用文ではむしろ実際原価を真実の原価として
注︶存在しないことを考慮すれば、これらの不一致が重要でないのと同様である。﹂
いやそれぱかりか、地軸そのものさえ動揺しているのであるから、真実の北が常に︵地球上の一定の地に動かずに⋮岡本
を除く︶、鉄道の標準時間と地方時間との不一致、磁極の北と真実の北極との不一致、北極星と真実の北との不一致、
いのは、恒星年︵三六五日六時間九分余︶と太陽暦の一年との不一致︵ただし一年のうちの異なる時点における揚合
8ω富︶が同一期間の実際費用と一致しない点である。しかしながら御記憶願いたいのは、この不一致がとるにたりな
に、旧学派の信奉者達は、新法にたいし偏見をもっている。その欠点というのは、予定総原価︵胃&9R目ぎa8鼠一
陥をもっている。これは実際上の短所というよりも理論上の欠点なのであるが、それにもかかわらず、この点のため
﹁予定原価︵嘆a卑RBぼ&8降ω︶は、非常に多くの実際上の価値をもっているが、ただ一つのとるにたりない欠
唯6
どのように考えていたのであろうか。彼は標準原価に関する説明の中で、次のように述べている。
ヤ ヤ ヤ
ヘ ヤ ヤ ち ヤ ヤ
﹁近代的な能率原価計算や経費報告書では、主としてコントローラーに関係する総費用︵ε言N§驚謹跨︶と、能率
技師のみに関係する標準ないし能率原価︵象§Rミ“9陣軸藷蓉健S邑と、さらにコント・ーラーと能率技師の両者
に関係する当期浪費額︵§ミ色鳶ミ題§︶とを、それぞれ区別して考えるのである。﹂
、 、 、 、 、 ︵製︶
と。さらにそれぞれについて次のように説明している。
︵35︶
﹁能率原価は予定原価である。既存の標準を使用し、あるいは一連の分析をすることによって標準原価を設定する
のは、能率技師の職責の一部分である。﹂
︵36︶
﹁当期浪費額は、当期にも前期と大体同じ比率で浪費が発生すると仮定して予定される。﹂
右の期間は、一週間、一ケ月、四半期、一年、もしくはさらに長期のいずれかであるという。また、
︵37︶
﹁総原価︵8寅一。8$︶は、標準原価と当期浪費比率という二つの予定費目にもとづいている。﹂
米国標準原価計算理論発達史序説 一五五
一橋大学研究年報 商学研究 6 一五六
と。以上の説明では、原価と費用の用語を厳密に使い分けていないし、総費用もしくは総原価が予定であるのか実際
コスト イクスペソス
であるのか、必ずしも明瞭でない。したがってわれわれは、さらに彼のあげる具体例を検討してみよう。
さる大鉄道会社で、機関車の一修繕部品の最近における実際原価は、一個当り約一〇セントであった。一九〇四年
六月からこのコスト引下を計画し、会計記録によって次の事実を確かめた。すなわち、
1、前年度の実際原価総額⋮⋮四八七、一七一ドル
2、単位当り実際原価 ⋮⋮O、一〇三一ドル
これにたいして能率技師は、次のような調査報告をした。
−、単位当り標準原価は、O、〇六ドル以内であるべきである。
2、単位当り当期浪費額は、O、〇四ドル以内であるべきである。
3、実際総原価は、前期と同一の生産量で、二八七、000ドルに引下げるべきである。
4、年間実際節約額は、二〇〇、○OOドルとなるべきである。
そこで問題は、㈲総費用︵≦ぎ一〇賃需塁霧︶の四〇%に達する不能率原価を除去することであり、回予定原価と実
際原価とを調整することであるという。さて、一九〇四年から開始された原価引下計画の実施状況は、次表の示すと
おりである。
︵38︶
右の表によると、予定単位浪費額は次第に引下げられ、それにつれて標準原価自体も低く改訂されている。このこ
とから判断すれば、彼の標準原価は理想標準原価︵置の巴警壁鼠呂8器︶ではなく、達成可能標準原価︵舞審ぎ呂冨
予定原価と実際原価およぴ両者の調整
米国標準原 価 計 算 理 論 発 達 史 序 説
(年 度)
総 生 産 量
1903−4 1904−5 1905−6 1906−6
4,725,000 4,785,400 5,776,000 6,462,800
標準予定単価
Predetermined
Unit Standard Cost
$0,06
$0.06
$0.06
SO.05
予定単位浪費額
Predetermined
Unit Wastes
予定単位総原価
Predetermine(l
Total Unit Costs
実 際 単 価
Actual Unit Cost
魁
$0.10
O,1031
蟄
$0.10
遮
$0.07
0,1017 0.065
$0.05
0.049
標準予定原価
Predetermined
Standard Cost
$283,500 $287,124 $346,560 $323ン140
予定浪費額
Predetermined
XVastes
189,000 191,416
57,760
予定総原価
Predetermined
Total Costs
社長の年次報告書
よりえた実際原価
能率勘定の貸方へ
能率勘定の借方へ
$472,500 $478,540 $404,320 $323,140
487ア171 486ン620 376,106 315,844
S287214 $7,296
$14,671
$8,080
前年度より繰越
(貸方)
前年度より繰越
(借方)
$5,463
$14,671 $22,751
次年度へ繰越
(貸方)
次年度へ繰越
(借方)
$5,463 $12,759
$14,671 $22,751
五七
一橋大学研究年報 商学研究 6 一五八
ω箪ロ壁置8ω富︶であったと考えられる。そしてこの標準原価に当期予定単位浪費額を加えると、今日の期待実際標
準原価にほぼ等しくなったのではあるまいか。しかしながら他の箇所で、標準は﹁たえず実際より前にあって捕捉し
難い﹂と述ぺ、標準時間は実際ではなく理想的条件を仮定して設定されるとしているため、ソ・モンズは、エマース
︵39︶
ンの標準原価概念は明らかでなく、理想標準と達成可能標準との間を、行きつ戻りつしていたらしいと述べている。
標準原価概念の不明確であったことは、一つの欠点であった。
最後に、予定原価と実際原価との差額調整について考察しておこう。彼は借方差額の処理について次のように説明
している。
﹁これら両者の金額の差額は、会計期末に損益へ振り替える︵げ。。8畦&︶か、あるいは能率の見地からすれば、
むしろ本会計年度、一九〇三∼四年の報告書における﹃受取勘定﹄︵..︾8窪箕ω因①8一話匡Φ.、︶ないし﹃未完成仕事
にたいする前渡金﹄︵..︾号磐8ω自巧○蒔ロ9鴇9田露9目①﹃、︶勘定、あるいは他の適当な名称の勘定に転記す
るのがよい。次年度の期首には、この金額は、当該修繕維持費勘定に、直ちに、あるいは月次に割りふってチャージ
される。﹂
︵40︶
と。また貸方差額の揚合は、これを﹁支払勘定﹂︵、.卜。8琶錺評旨三。、、︶ないし﹁完成品にたいする未払金﹂︵..Uま
︵狙︶
び↓≦o許卜冒雷身∪自免、︶勘定のもとに表示するとしている。
こうした会計処理は、一見不可解のようであるが、これは手工業時代の間屋制における会計思考に基づいているの
か、あるいは実際に請負賃金制をとっていたのであろう。すなわち会社側は従業員にたいして仕事を請負わせたと考
え、借方差額はその仕事にたいする前渡金と考えるか、あるいは借方差額は従業員のなした浪費額であり、従業員は
将来それだけ節約すべき義務があると考え、それゆえに会社側はそれだけ従業員から受取りうると考えるのであろう。
しかしすでに検討した修繕部品に関する原価差額は、いずれも能率勘定︵国旨9窪2>88旨︶に振り替えられている。
OO馨
差額∪窪忠窪8︵能率勘定へ︶
真実の原価
、=.
↓○げ卑一d昌一けOOのけ
予定単価総原価 邑Φけー一し騨誰諜鱒Φ山①けΦ唖B一昌Φq
予定単位浪費額牢&g實巨ぎa
以上の考察からわれわれは、エマースンの実際原価と標準原価との関係を、製品の単位原価についてみれば、次の
戸︸目F一け 巧餌のけ①
[
ようになることを知るのである。
実際単位原価︾。菖巴d巳け
米国標準原価計算理論発達史序説 一五九
知られる製品原価計算用の標準原価であった
あ る 。 エマースンは、まさしく二段式の標準原価を使用していた
こ
と
で った。こ、で興味深いのは、彼の標準予定 単 位 原 価 が 原 価 管 理 用 の 標 準 原 価で
あ
り
、
予定単位総原価が後世において
差額の二種に分析し、これによってたえず前
上 昇 し た か 、 あるいは下降したかを検討していたのであ
期
よ
り
も
能
率
が と
標
準
原
価
と
の
差
額 この悩から知られるように、彼は実際原価
を 、 ω予定浪費額と、㈲実際原価と予定総原価との
一橋大学研究年報 商学研究 6 一六〇
のであった。それはともかく、能率の良否を知るためには、実はこの原価差額について、いっそう詳細な分析をする
必要のあることを、彼は知らなかったのである。
︵−︶の暴一一ンr︾8。臨げ凝冨ぎ駐︵鵬。ω8旨”則欝¢勺昌け凝og濤一、ざ一畳︶●
︵2︶ω日巴一﹂匡師‘マ一ド
︵3︶ぎρ鼻●
︵4︶ スモールは次のように記している。﹁ハリントン・エマースンは、実績︵ミぎ妹号︶と標準︵鋸詳§ミ矯勲ε縛︶との相関
関係とレ︵能率を定義した。この定義はなかなか宜しい。それは著者の信ずる原価計算の示すぺき内容とぴったりしている。﹂
と。の目巴一弘玄Pb﹂oー
︵5︶の目巴一㍉三戸つ一ド
︵6︶く崖①β劃∪旨鈴§。ピき護。目。暮昌H注臣π冤︵↓○与。”冒騨旨国窪OPいa甲レ8ρ竃畦自目︾路口国山三8︶℃■
い
︵7︶霊巳ざ8国、q︸︾ヨ。号き国83昌。匡ω8q︵乞男<o詩”国帥6。目昏野o浮。房評げ冴げ震の”酵げ■℃ユ暮ぼ堕
一〇誠︶やN凝,
︵8︶ ωヨ巴一︸H三PやNoo■
一鴇。
︵9︶固oけ9。斜多因;、.>pO暮一ぎ①oh昌①qω①o団ω言一一身aのぎ浮o。冒き忌p。9二轟︵2︾O︾<。跨切ooF一8N︶や
︵10︶ ω目鉱押Hσ箆4や一〇〇’
︵13︶
︵12︶
ω日亀どHげ箆こや認●
の巨毘どHσ箆こやいN●
ω目巴ごH三q■︸b■Noo・
ω壁FH露畠4やい一●
︿14︶
いわゆる積上げ方式によって原価を見積るさいは、標準製品について詳細に物量標準を設定しているゆしたがってこの方
︵11︶
︵15︶
り
て
予
定
さ 見積消費量ではない。スモールは、かかる消費量にもとづいて計算した原価を、見積原価
法によ
れ た 消 費 量 は、
暮 ︵①ω 菖ヨ
霧 ︶ と称しているが、その内容は、標準製品の標準原価である、ただこの原価を、標準品以外の製品についても使
︵16︶
の旨aどH玄Pや≒‘勺や一$1一鶏・レポートNo・1に記入された見積原価は、フォームNo・1の見積原価票︵四二∼
た
め
に
、 彼はこれを標準原価とは云わずに、見積原価と称したのであろう。
用する
︵17︶
ω目巴どHび箆こや這。
の目巴どH玄自‘や刈N■
︶ にもとづいて計算されていない。
四三頁
︵18︶
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︵19︶
︵20︶
配賦差額の処理の点でも、ワイルドマンとスモールはいちじるしく異なった方法をとっている。ワイルドマンは、配賦差
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米国標準原価計算理論発達史序説 一六一
﹂橋大学研究年報 商学研究 6
益勘定へ振替えていた。
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一800ー目彗昌G8︶に掲載された論文を収録したものである。
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第四章 原価管理型標準原価計算における標準原価差額分析の展開
ーネッペルの標準原価差額分析論
原価管理型標準原価計算において、もし標準原価差額分析を行なわないとすれば、それは画竜点晴を欠くものとい
わなければならない。けだし、標準原価差額分析によってはじめて、原価管理者の原価責任を明らかにする手掛りが
えられるからである。かかる意味において、エマースンは、せっがく原価管理型標準原価計算論を展開させたにもか
かわらず、その仕上部分を欠く憾があったPこの点をいっそう発展させたのは、F・﹂・ネッペル︵囚8Φ窓9︶で
ある。彼は一九一八年に、ジャーナル・オブ・アカウンタンシー誌上に﹁工業能率会計の基礎﹂︵男自鼠目窪鼠﹃9
︵1︶
︾8窪暮ぼ鮫8㎏臼民霧霞巨薯器5︶という論文を書いたゆわれわれはこれによって、その所説を検討することにし
よう。
ω 実際原価・真実原価・標準原価
まずネソペルによれば、工業会計ではいかなる作業ないしいかなる成果についても、次の三種の比較可能な原価が
計算されるという。すなわちそれらは、
米国標準原価計算理論発達史序説 f六三
一橋大学研究年報 商学研究 6
イ、見せかけの原価︵︾℃冒お暮08け︶
ロ、真実原価︵6暑oOo曾︶
ハ、標準原価︵ω5ロ盆aOO警︶
である。
それでは、見せかけの原価とは何か。この点に関する彼の説明は、 次のとおりである。
一六四
﹁見せかけの原価とは、われわれが大変良く知っている原価であるゆすなわちそれは、従来からわれわれが好んで
実際原価︵99亀8馨︶と呼んできた原価である。この原価にたいしてわれわれは、従来からあまりにも無益な注意
を払いすぎてきた。そしてわれわれは、産業を安定させ取引を確保するために、この原価に基づいて売価を決定しよ
うと努めてきた。しかしながらこの原価は、三種の比較可能な原価のうち、もっとも信頼できない原価である。それ
がもつ唯一の価値は、標準原価や真実原価と比較したさいに、実際原価のうちに含まれるところの、排除しうる無駄
を測定することである。
この原価がなぜ見せかけの原価と称せられるかと云えば、それが通常会計の報告書や諸記録に原価として記載され、
︵2︶
支配人は一般にそれを︵見たところでは本当の︶原価として承認するからである。﹂
さて、この見せかけの原価は、その性質上まったく相反する二つの要素から構成されていると彼は云う。それは、
イ・潜在的収益力の価値︵↓冨奉置Φ9堕2富旨一巴o貧巳口凶旨≦R︶すなわちプ・ダクト.コストの価値
尺完全な損失額︵↓富奉一垢9暫留&一〇ωω︶すなわちあらかじめ除去しうる無駄︵冥のく。p鼠匡①≦曽。。梓。︶
である。これらの二要素は、互にまったく共通点をもっておらず、前者は世界に点隣田をもたらすにたいし、後者は貧困
をもたらすのである。それならばなぜ、二つのまったく相反する価値を一緒に加算し、その総額を製造原価と称する
ハ ロ
のであろうか。彼はこのように批判する。
そこでこのような考え方から、ネッペルは原価管理のために真実原価と標準原価とを使用して、実際原価の内容を
分析しようと試みたのであった。
③ 工業会計の基本的思考を示す四命題
彼は実際の分析に入る前に、予備的作業を行なっている。彼によれば、工業会計の基本的思考を表わす、次の四つ
パ ロ
の命題︵島88目︶があるという。
第一命題。一定の設備、動力、労働力、材料をもった工揚が存在し、その製品には正常的な市揚が存在するならぱ、
当該工揚の年間の正常的生産活動を表わすところの、一定の直接作業時間もしくは機械作業時間が合理的に決定
されうるであろう。
第二命題。能率的な作業員、監督さらに経営者からなる一定の組織が存在するならば、各作業員もしくは機械の作
業時間は、一定の成果を産出し、それは他の同種の作業員もしくは機械が産出する成果に等しく、かつそれは、
一時間当りの生産活動の正常的な成果を表わす。
米国標準原価計算理論発達史序説 一六五
一橋大学研究年報 商学研究 6 一六六
第三命題、一定のなすべき仕事が与えられた揚合、これを実際に行なった成果は、人間と機械との双方のエネルギ
ーを消費した結果であり、それはエネルギー︵h98︶と時間とによって測定することができ、時間当り原価と、
所要時間とで表わすことができる。
第四命題。一定量の製品が与えられれば、その製造にはまさに一定量の材料を必要とし、これは製品単位ごとに測
定することができ、製品単位当り材料費として示すことができる。
⑥ 原価管理の見地からする原価要素の再分類
見地から再分類した。
ネソペルは、その標準原価差額分析論を展開するにあたり、いま一つの予備的作業として、原価要素を原価管理の
通説では原価は、材料費、労務費、経費の三要素に分類されている。この分類は、初歩的な原価計算の研究には若
干の価値が認められるが、工業会計の支配原理としては望ましくない、と彼は云う。すなわち前項で確定した第三命
題と第四命題から、いかなる製品の原価も、まったく別個の二要素ーすなわちエネルギーと材料1からなると主
張する。材料は、生産に使用される他の要素とは明らかに異なった要素である。これにたいし、その他の要素はすべ
て材料を加工するために使用される。したがって製造原価は、
イ、材料費︵竃暮霞芭Oo露︶
・、加工費︵08け8目帥昌慈8寓3︶
︵5︶
の二要素に分類されるべきであると。
一体彼のこのような原価要素二分説は、通常の三分説にとって代るほどの意味があるのだろうか。通説との差は、
たんに労務費と経費とを加えて加工費としたにすぎず、二分説でなければならぬ理由は、どこにあるのであろうか。
彼は通説を間違いではないが、望ましくないと、あえて述べた理由は、次の二つの理由からであった。すなわちそ
の一つの理由は、通説が原価要素を三分するために、それらの機能や相互関係を見誤って、それぞれを独立した別個
の要素と誤解することから生ずる弊害である。この弊害を積極的に裏づける証拠として、彼は経営者がたえず、労務
費にたいする製造間接費の割合を減少させようと努力していた事実をあげている。つまり原価計算の知識をもたぬ当
時の経営者達にとって、直接費は必要なコストであるが、製造間接費は不必要な損失だと考えられていた。たまたま
当時においては、製造間接費は直接賃金を配賦基準として配賦される揚合が多かったので、経営者達は、製造間接費
の節約程度を判断する指標として、直接賃金にたいする製造間接費の比率を選んだのであった。その結果、職長のう
ちには設備を修繕せず、熟練工のみを使用して、この比率を低くする者も現われた。E・A・エヴァンスもこの点を
︵6︶
痛切に批判している。ネソペルもこの弊害に気づき、原価要素間の相対的増減よりは総原価の増減が重要だと主張し
ている。
︵7︶
しかし通説に反対する彼の理由は、それだけではない。否、むしろ第二の理由がより重要である。彼によれば、
﹁製造原価を材料費と加工費とに区分することは重要である。 けだし工揚の能率は、加工費に現われ、材料費に現
一六七
われないからである。加工費は弾力的、つまり変動的であるが、 材料費は比較的固定している。加工費は時間の経過
米国標準原価計算理論発達史序説
一橋大学研究年報 商学研究 6
︵8︶
を通じて発生するが、材料費は永久に、無生物的存在にとどまっている。﹂
一六八
と。これを要するに、彼は原価要素を管理の対象とすべき原価要素と、しからざる原価要素とにあらかじめ分けてお
くことによって、原価を有効に管理しようとしているのである。これが、彼の二分説をとる有力な根拠であった。
しかしわれわれは、直ちに次の疑問を抱くであろう。すなわち材料費も不能率によって、コストが増加するではな
いかと。彼はこうした反論を予期して、材料につき正当な減損仁縄庄旨暮Φ≦器3︶と不当な減損︵崖調註目暮①期午
ω8︶とを区別すぺきであるとして、次のように述べている。
﹁正当な減損は、常に材料費の必要かつ既知の部分として、材料費に含めなければならない。不能率な取扱いから
生じた材料の不当な減損は、それを生ぜしめたものに賦課されるべきである。すなわち、それを生ぜしめたのは、材
料を加工するために使用されたエネルギーであり、したがって加工費である。このように考えるならば、明らかに、
工揚の能率関係で浪費された材料費は、加工費にチャージされなけれぱならず、その結果、不能率は材料費に示され
ず、加工費の中に現われる。そこで加工費こそ、不能率あるいは除去しうる無駄に関する、すぺての事実を物語るわ
︵9︶
けである。﹂
と。こうしてネッペルは、管理の対象とする原価要素を加工費に限定したのち、さらに加工費中に含まれる除去しう
る無駄を、経営体︵8撃巳墨菖窪︶の見地から検討を加える。除去しうる無駄はすべて経営体によって惹起された過
失であり、経営体は彼によれば、工揚と工揚以外の経営とからなっているので、工業会計上、除去しうる無駄は、
ω 工揚にとって管理可能な過失
回 工場にとって管理不能な過失
からなっているわけである。
㈲基礎標準
以上のようにネッペルは予備的作業を行なったのちに、いよいよ標準の設定とそれによる分析を展開する。
まず前述の四つの基本的命題から、彼は四つの基礎標準︵富馨の鼠け号a︶を導き出している。
ω 年間の標準︵正常︶直接作業時間もしくは標準︵正常︶機械作業時間を、原価計算期間に平均的に割り当て
た標準︵正常︶作業時間。
回 製品単位当り標準︵正常︶直接作業時間もしくは標準︵正常︶機械作業時間。
⑲ 直接作業時間もしくは機械作業時間当りの標準︵正常︶加工費
⑭ 製品単位当り標準︵正常︶材料費
⑥実績
次に標準と比較する実績は、次のように示さねばならない。すなわち、
㈲実際作業時間
米国標準原価計算理論発達史序説 工ハ九
一橋大学研究年報 商学研究 6 一七〇
回 実際生産量
囚実際加工費
目 実際材料費
㈲測定標準
実績と比較するために、前述の基礎標準から次の測定標準︵ヨ①舘畦Φ巨o暮。。鼠昌鼠巳︶を導き出す。
− ﹁標準時間︵警彗α毅qぎ畦ω︶1これは製品単位当り基礎標準直接作業時間もしくは基礎標準機械作業時
間に、実際生産量を乗じて計算する。﹂と。これはわれわれの言葉をもってすれば、実際生産量に見合う標
準作業時間のことである。
2 ﹁標準生産量︵ω雷p塗a鷲o段9︶ーこれは実際作業時間を、製品単位当り基礎標準直接作業時間もしく
は基礎標準機械作業時間で除すことによって計算する。﹂と。したがってその内容は、実際作業時間に許容
された標準生産量である。
3.﹁標準加工費︵幹き鼠鼠8誓8aき琉簿9賃⑦︶1これは、標準時間︵この測定標準のーで算出した︶に、
直接作業時間ないし機械作業時間当りの標準加工費を乗じて計算する。﹂と。したがってその内容は、実際
生産量に見合う標準加工費である。
、3a ﹁真実加工費︵零奮。8け8ヨ程鼠8ひ畦。︶ーこれは、直接作業時間ないし機械作業時間当り基礎標準
加工費に、実際作業時間を乗じ、これに材料の不当な減損費︵8警9崖縄三目暮。睡鎚一9芭≦器3︶を加
えて計算する。﹂と。
4 ﹁標準ならびに真実材料費︵のけき号aきα零まヨ暮①ユ巴8邑1これは、製品単位当り基礎標準材料費
に、実際生産量を乗じて計算する。﹂と。
かくして測定標準が設定されたので、彼は次のような原価分析を行なっている。
ω標準と実績の比較
ω第一比較︵国誘げOo旨蜜旨曾︶
ここでは、実際生産量を生産するに要した実際作業時間と、実際生産量を生産するに要すべき標準時間とが比較さ
れる。彼は、
︵m︶
﹁標準作業時間を実際作業時間で除すと、能率の程度が判明する。賊
と述ぺている。例えばある部門において、その実際作業時間は五〇〇時間であり、標準作業時間は四〇〇時間である
とすれば、当該部門の能率は八・%︵蕪雫。。︶で萱不能率は一募であると云うことができる.
㈲第二比較︵の。8且Oo旨饗ユω8︶
ここでは、実際生産量と、実際作業時間に見合う標準生産量とが比較される。したがって、実際生産量が標準生産
量に達しなければ、それだけ不能率が明らかにされる。また規格製品を製造している揚合、実際生産量の標準生産量
米国標準原価計算理論発達史序説 一七一
一橋大学研究年報 商学研究 6 一七二
にたいする不足量に、製品一個当りの総マージンを乗ずれば、第一比較によって明らかにされた不能率に基づく利潤
の喪失額が示される。ただしこの不足量は、部門別ではなくて、工揚全体の製造記録から計算しなければならない。
の 第三比較︵↓匡aOoB℃畦誌op︶
ここでは、実際加工費と、標準加工費と、さらに真実加工費の三者が互に比較される。
まず彼は、見せかけの原価が標準原価ならぴに真実原価より大きけれぱ、不能率が示されると前置きして、次のよ
うに説明する。
﹁標準加工費より実際加工費のほうが大きければ、その超過額は、工揚にとって管理可能な原因と、工揚にとって
管理不能な原因との双方の原因に基づく不能率の総原価額を示す。実際原価は、原価計算で通常理解され処理されて
いるごとき、部門別製造間接費配賦表から入手する。工揚にとって管理可能な原因に基づく不能率原価︵8ω幹ohぼ−
①臨989霧含Φ8爵Φ跨o唱o茜費巳堅隊8︶と工揚にとって管理不能な原因に基づく不能率原価︵08け9旨①臼90亭
9霧伍S8爵Φ9苧跨80お節巳鋸試8︶とを分離するために、実際加工費から真実加工費を引き、さらに真実
︵11︶
︵加工︶費から標準加工費を引くのである。﹂
と。右の説明は、用語が特殊なので難解である。 そこで彼のあげる計算例によって理解してみよう。彼の計算例を整
理して示せば次のようになる。
︹冷 季︺
山OO器藍
・80無藍
渦鰯黒匪︵霧9亀げ○畦︶:⋮⋮
60鳶V7
癒構尋藍︵暮き富昌げo畦︶・
賄横團舅蚤︵の富民跨αげ○畦雷8︶,:
山O●OOデ.、マ
;N8●OOでマ︵OびO×80︶
・⋮山8。OOτマ︵O、αO×軌OO十8︶
ω軌ObO︸.ヤ
母単3引峠錯銘厳︵崖。管首暮Φ旨碑&巴≦器ε︶・
函畔誉¢0菰自︵愚冨冨98。。け︶−◎・
● O
蛇﹂い0矯単π脚F海渦菰自︸蓮餐轟へ員引譲機鼠自嘩理鞍叫商
泌渦嗣自︵け旨Φ8ω慮︶⋮・⋮
憩構癩盲︵器且帥匡8のけ︶⋮⋮
引⑳邸蚤嗣自︵8馨ohぎΦ臣9窪o一Φω︶
一七三
・⋮ら一ρOOでマ︵呂OIN8︶
・:℃900マ︵いいOI§O︶
H警∩伊o^囎蝋甥ゆ麗引譲樹癒自︵旨①88﹃旨8。お蟄巳N鋒自︶−
⋮8。OOマ︵呂OI呂O︶
H騙π伊o^略彪国誌鋤引譲蚤勇嘗︵Uロ08G。げ80謎費巳醤菖o”︶・
謬醸潅︵8蜜一賃8のωooωけ︶・⋮⋮
ネッペルは右の計算例について、さらに次のような説明を加えている。
米国標準原価計算理論発達史序説
︷橋大学研究年報 商学研究 6 ,, 一七四
も ヤ
﹁実際時間が短縮され、ある期について正常とされた標準時間︵その期の実際生産量に見合う標準時間ではない
昌9芸①雲き壁&ぎ彗の出9爵。8葺a建6ロけα畦冒の卑需臣&︶以下に減少する揚合は、それは工揚の責任では
ない。それは、販売の減少、石炭、原材料の欠乏、全般的な工揚閉鎖などの原因によるものであろう。かかる原因に
︵珍︶
基づく損失は、実際原価と真実原価との差額である。﹂
と。したがって右の説明によれば、実際原価と真実原価との差額、すなわち工揚にとって管理不能な不能率原価の内
容を、操業度差異と考えていたようである。しかしここで真実原価と称するのは、今日のわれわれの言葉をもってす
れば、配賦加工費に材料の不当な減損を加えた額である。いま材料の不当な減損を考慮外とすれば、実際原価と真実
原価との差額は、加工費の配賦差額であり、それはさらに固定予算における操業度差異と予算差異とに分解される。
これらの差異は、すでにスモールの配賦差額分析のさいに述ぺたように、きわめて不完全な分析であり、操業度差異
はもちろんのこと、予算差異にしても、実際操業度の原価に及ぼす影響がその計算上考慮されていないために、両差
異とも管理不能費と云いうるであろう。ただネッペルが実際原価と真実原価との差額中に、予算差異の存在すること
を気がついていたかどうかは明らかでない。むしろ彼は、その差額の主内容をアイドル・コストと考え、実際原価か
ら損失であるアイドル・コストを差引けば、真実原価が計算されると考えていたようである。
次に標準原価と真実原価との差額について次のように説明している。
﹁実際の生産が、定められた標準時間以上を要する揚合は、それはとりも直さず、工揚の責任である。その原因は、
作業手順の誤り、鋳物の硬度、のろまな工員、切断工具の不良、検査の不良など、すべて工場にとって管理可能な原
︵B︶
因であろう。かかる原因に基づく損失は、標準原価と真実原価との差額によって表わされる。﹂
と。したがって彼は、標準原価と真実原価との差額を、管理可能費と考えていた。この点は正しい。なぜならば、右
の差額は、加工費の能率差異と、材料の不当な減損からなっている。後者は後に述べるように、材料費の数量差異で
あるから、すべてこれらの差異は、管理可能費である。
⑭ 第四比較︵司窪旨げOo日冨法自︶
ここでは、実際材料費と、標準ならぴに真実材料費とが比較される。すでに述べたように、標準ならぴに真実材料
費は、製品単位当り標準材料費に、実際生産量を乗じて計算される。他方これと比較される実際材料費には、材料の
不当な減損は含められていない。けだしそれは、加工費に算入されているからである。したがって両者を比較すれぱ、
材料の価絡差異が計算される。この点について彼は次のように述べている。
﹁材料の仕損が発生すると、それは当該責任部門にチャージされ、材料勘定に貸記される。したがって標準材料費
と実際材料費とは一致するはずである。﹂
﹁そこで実際材料費と標準材料費との差額は、材料に支払った価格の変動を示し、これはもちろん、工揚の不能率
米国標準原価計算理論発達史序説 一七五
一橋大学研究年報
︵U︶
に起因するものではない。﹂
商学研究 6
一七六
と。次に彼は、材料の不当な減損につき、簡単な計算法を説明している。これによれば、標準材料費︵警程鼠a
B緯段壁一89︶を材料倉出額︵養誉Φ9日暮臼芭お2一の崔自︶から差引けぱ、得られるという。また同じ箇所で、
︵15︶
材料倉出額之材料費消額︵目緯。ユ鋒霧&く巴琶︶との差額は、材料の価格変動を示すと。
これらの説明によれば、彼の用語の内容は次のようになる。
︵一︶ の冨昌烏註ヨg臼巨8警旺茸重麺暴糠自×茸輩鼎備韮躍脚
︵εく亀琴o協目9Φ↓巨おρ巳降一g”母輩顛搭糠自×茸重藩鰯慧爆陣
︵三︶目魯R巨墓&︿巴きー激単藩購稼自×茸季將鰯隷羅脚
したがって、右に示したωと㈹の差は、材料の数量差異であり、彼の云う材料の不当な減損である。㈹と㈹との差
は、材料の価格差異を示す。
困 第五比較︵崔隔跨Oo目冨ユ8け︶
﹁作業時間当りの標準原価が不正確であると、これを使用しても実際の状態が正確に示されないので、それは経営
︵お︶
管理者にとって役に立たぬ用具となる。したがって標準配賦率の吟味を行なわなければならない。﹂
ネッペルは右のように述べて、第五比較の目的を明らかにし、次に以下の方法によってその目的を果そうとする。
﹁はじめに標準配賦率算定の基礎となった期間につき、正常と定められた標準作業時間から実際作業時間を差引く
ことによρて、不働時間︵蒼。興琶霧aぎ葺の︶が算出される。かかる不働時間に、標準配賦率︵作業時間当り
労務費は除外しておく︶を乗ずると、工揚にとって管理不能な不能率原価の最大額︵甚o巨貰置に目忘塗露。8韓9
︵17︶
冒①魯且魯曙仙器8爵09ロー昏68撃巳鋸江自︶が算出される。﹂
前述の彼の方法は、圃定予算を使用する揚合の操業度差異算出方法として、正しい方法である。彼はなぜこの方法
を、第三此較で使用しなかったのであろうか。それはともかく、彼は操業度差異を算出したのちに、次のように云う。
﹁もし実際加工費と、真実加工費に不当な減損を加えた額との差額が、工揚にとって管理不能な不能率原価の最大
額を超過する癒らば、それは標準配賦率があまりに低く設定されすぎたのであるか、あるいは思いもよらぬ要素とか、
まだ説明のつかぬ要素が、加工費に混在したことを示す証拠である。﹂
︵18︶
と。右の真実加工費に関する記述は不正確である。なぜならば、彼はすでに真実加工費には、材料の不当な減損が含
められているものとして、定義しているからである。しかしこの点は考慮外として、彼の第五比較は、実際加工費と
真実加工費との差額、すなわち加工費の配賦差額と、操業度差異とを比較して、標準配賦率の正否を検証しようとし
米国標準原価計算理論発達史序説 一七七
一橋大学研究年報 商学研究 6 一七八
てbるのである。加工費の配賦差額な、すでに述べたように予算差異と操業度差異からなっているため、■第五比較で
算出述れ喝差額低、,予算差異の額である。それではいかにして、第五比較は、標準配賦率の正否を検証しうるのであ
ろうがり残念なガらこの点は、明ら︾でない。しか七推察するにネッペルは、不足操業の揚合、固定予算における予
算差異は、通常貸方差額であると考え、もし正常操業度における年間の固定予算に見積間違いがなければ、配賦洩れ
は、、借方差額である操業度差異と貸方差額である予算差異との和であり、したがって操業度差異よりも少くなると考
ので倣あ届まいか。したがってもし配賦洩れが操業度差異より大となうたときは、年間の予算を少く見積りすぎ
れの考え方からすれば、右の標準間接費は製品へ配賦された実際間接費にすぎず、またその分析も、はなはだ不完全
額﹂すなわち配賦差額を、固定予算における操業度差異と予算差異とに分析する者が多かった。しかし今日のわれわ
時間を乗じて計算した製造間接費の配賦額を標準間接費と考え、実際製造間接費とかかる意味での標準間接費との差
に製造間接費配賦差額の分析上、従来の諸説よりも飛躍的進歩を遂げるにいたった。当時は、正常配賦率に実際作業
跨山︶と標準原価︵警磐留艮8諄︶との区別に対応するものである。彼はこの区別をすることができたために、とく
︵19︶
にあたり、基礎標準と測定標準とを区別した。これは松本雅男教授の指摘するように、今日の原価標準︵8暮馨き山−
差額を分析した者はなかった。βその意味で、彼の功績は高く評価されなけれぱならない。彼はその分析論を展開する
以上われわれは、。ネッペルの標準原価差額分析論を詳しく検討した。彼以前にお炉て、これほど体系的に標準原価
ためであゆ、標準配賦率を低く設定もすぎた王考えたのであろう。
陶え
なものであった。ネソペルはこれにたいして、基礎標準に基づき、実際生産量に見合う標準時間という測定標準を、
その分析論に導入したために、従来の原価差額分析ではまったく不可能であった﹁能率差異﹂の摘出に成功したので
あった。製造間接費配賦差額分析はヤここにおいてはじめて、原価管理の見地から貴重な差額を分離できだのである。
ただ、このような標準と実績との比較が、会計機構との関連において説明しなかったことは、ネソペルの限界であっ
た。
︵−︶浮・①唱9男ン、.曽且弩畳巴の。隔>。。つぎけ凝胤飢二且舅旨一諄の貫、、↓富︸。匡旨亀。h︾8。巷琶。ざく。一・N⑨
囚昌○Φ℃℃ΦどHげ箆.︸や象一●
29潮冒帥網一〇一〇〇・
︵6︶
︵5︶
︵4︶
囚βoΦ唱bΦどHげ箆‘やω留。
国奉昼円︾40。ωけ囚Φ①喩昌破器αの。一8ま。ピp壁鴨巨。暮︵≧。○β辛田=ωoo犀Oo‘一。一一︶電・8ー℃。・
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米国標準原価計算理論発達史序説 一︸七九
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一橋大学研究年報 商学研究
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松本雅男﹁前掲書﹂六一頁。
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あとがき
一八O
ー一九六二・九・七1
後の発展については、他日を期したい。
りであったが、思いのほか筆がすすまず、予定の三分の一しか述べることができなかった。標準原価計算理論のその
中から標準原価計算理論は、次第に一定の方向を辿って進むことになる。この序説では、最初ここまで記述するつも
価計算に関する研究がしきりに行なわれ、甲論乙駁してその定るところを知らずという有様であったが、その混乱の
アメリカの経済社会が第一次大戦後の不況期に入り、また一九一九年にNA︵C︶Aが設立されるや、この新しい原
米国における標準原価計算理論は、ほぽ一九一〇年前後に発生したが、あまり世人の注目を惹かなかった軌その後、
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