経済学研究論集 第4 0号 2 0 1 4 .2 男女別学の学校への通学と結婚行動 一結婚相手との出会いの場としての学校一 Commutingt oS i n g l e S e xS c h o o l sa n dM a r r i a g eB e h a v i o r : S c h o o la saP l a c eo fE n c o u n t e rw i t hM a r r i a g eP a r t n e r 博士前期課程経済学専攻 2 0 1 2年度入学 中 ナ キ 真理子 NAKAMURAM a r i k o [論文要旨} 本研究では結婚相手との出会いの場としての学校の機能に注目し,通学経験のある学校が男女 共学か別学かの違いが結婚タイミングに与える影響を検討する。学校が出会いの場として一定の 役割を担っているとすれば,男女別学の学校に通学している期間には学校での出会いを期待でき ないことになる。その結果,結婚相手との出会いのタイミングは学卒後に延期され,結婚が遅く 9 9 6年に日本労働研究機構(現在の労働政策・研修機構)によって笑 なることが予想される。 1 施された「女性の就業意識と就業行動に関する調査Jの個票データを使用し,女子校への通学経 験が女性の結婚タイミングに与える影響を分析した。分析手法は,イベント・ヒストリー分析の 一つである離散時間ロジット・モデルである。分析の結果,女子校への通学経験による有意な影 響は観察されなかったが,本研究の分析モデルでは考慮することができなかった要因による影響 が考えられる。お見合い結婚や職場での出会いをきっかけとした結婚が減少する中で,学校が結 婚相手との出会いの場として持つ役割が,今後相対的に拡大してゆく可能性があるだろう。 I キーワード】 結婚,未婚化・晩婚化,男女共学.女子校,イベント・ヒストリー分析 1 . はじめに 1 9 6 0年代から 1 9 8 0年代前半にかけて,多くの先進諸国では合計出生率 (TFR) の低下が進ん 0 0 7 )。日本の だ。その背景として,全ての固に共通して起きていたのが晩産化である(守泉 2 TFRは , 1 9 4 0年代後半の第 l次ベビーブーム直後より急激な低下が始まり, 1 9 7 0年代半ばに人 論文受付日 2 0 1 3年 9月 2 4H 大学院研究i論集安 n 会水辺、 I~ - 65- 2 0 1 3i ド1 1月 6~I ∞ 口置換水準以下となった。その後 1 9 9 3年には 1 . 5を割り .2 5年には 1 . 2 6にまで低下した。また, 子出生時の平均年齢は 1 9 8 0年代以降大きく上昇している。日本では, 女性の平均初婚年齢と,第 1 出生のほとんどが婚姻関係のある夫婦問で起きている。つまり わが国では未婚化・晩婚化の進 行が晩産化を引き起こし少子化に結びついている。 未婚化・晩婚化の要因を扱った研究は数多く行われてきた。それらの中でもよく指摘されてき たのは,女性の高学歴化による影響である。しかしこれらの研究では 最終学歴や教育年数の 違いが重視され,通学経験のある学校が男女共学であるか別学であるかの違いが結婚タイミング に与える影響にはあまり注目されてこなかった。 本研究では,結婚相手との出会いの場としての学校の機能に注目し,男女別学の学校への通学 経験が結婚タイミングに与える影響を分析する。国立社会保障・人口問題研究所によって実施さ れている「出生動向基本調査Jによれば 学校での出会いをきっかけとした結婚は全体の l割ほ どを占めており,学校は結婚相手との出会いの場としての一定の機能をもっていると考えられ る。ただし学校が出会いの場として機能し得るのは,学校で異性と出会う可能性がある場合の みである。言い換えるならば異性の学生が存在しない学校つまりは男女別学の学校に通学し ている場合には,結婚相手との出会いは発生しないことになる。そして,男女別学の学校への通 学期聞が長くなるほど結婚相手との出会いが先送りされ 男女共学の学校出身者よりも結婚タイ ミングが遅くなることが予想される。この仮説について 個票データを用いた分析によって検証 してゆく。 多くの社会調査では,調査対象者が最後に通学した学校,もしくは最終学歴を質問項目に含ん でいる。しかし通学経験のある学校が男女別学であったか共学で、あったかを聞いている調査は 9 9 6年に日本労働研究機構(現在の労働政策・研修機構)によって. 2 0 少ない。本研究では. 1 歳から 4 4歳の女性を対象として実施された「女性の就業意識と就業行動に関する調査」のデー タを使用する。この調査では最終学歴だけではなく,中学,高校,専修・専門学校,短大・高専, 四年制大学,大学院の各段階について女子校への通学経験の有無を質問している。さらに,結婚 時の年齢が質問項目に含まれているため,このデータを分析することによって,女子校への通学 経験が女性の結婚タイミングに影響するかどうかを検証することが可能になる。 以下では,はじめに女性の学歴と結婚行動の関係を扱った先行研究のレビ、ユーを行う。次に, 日本における女性の高学歴化の進展と労働市場の関係について述べる。そして,使用するデータ と分析手法に関する説明を行った上で,カプラン・マイヤー法と離散時間ロジット・モデルによ る分析の結果を提示し最後に考察を行う。 2 . 先行研究 未婚化・晩婚化をめぐっては,様々な要因が指摘されてきた。以下では,女性の学歴が結婚行 動に与える影響を扱った先行研究のレビューを行う。特に,女性の経済力,価値観,結婚相手と -6 6一 なり得る男性の人口規模という 3つの観点を中心に進める。最後に けを扱った研究をまとめ 配偶者との出会いのきっか 出会いの場として学校が果たす役割について言及する O 1 女性の高学歴化は女性の経済力の上昇をもたらした。このことが結婚行動に与える影響1 がどの ようなものであるかについて,これまで一定の結論が得られているとは言い難い。津谷 ( 2 0 0 5 ) はマクロデータを検討し結婚・出産の機会コストの上昇と未婚化の関係を分析している。 1 9 7 0 年代以降,急激な女性の高学歴化によって雇用労働力化が進み,女性の相対的経済力が上昇した。 このことが結婚・出産の機会コストを押し上げて,未婚化をすすめたのではないかとしている。 また,津谷 ( 2 0 0 9 ) は学歴と雇用が,結婚・同棲に与える影響について「結婚と家族に関する国 際比較調査j の個票データを用いた分析を行っている。その結果 高い学歴は正規雇用と所得に 影響し,女性の同棲経験確率や初婚確率を低下させるということが明らかにされた。つまりこれ らの研究では,高学歴化によって女性の経済力が上昇し,結婚によって女性が離職した場合の機 会費用が大きくなったことが 結婚行動を抑制する要因であるとしている。 メイトサーチ仮説」 これとは異なる見方もある。結婚行動を説明する代表的な仮説の一つに. I がある。 O ppenheimer ( 19 8 8 ) によれば,満足できる結婚は結婚市場 ( m a r r i a g em a r k e t ) にお m a t es e l e c t i o n ) の過程と結婚後の適応的社会化 ( a d a p t i v es o c i a l i z a t i o n ) ける配偶者の選択 ( によって形成される。適合的社会化とは 結婚前に知ることができなかったことについて調和を 取ることを示す。この適応的社会化にかかる費用を減少させるためには,自身と似ているか,補 完し合う特性を持つ者を配偶者として選択することが望ましい。しかし,望ましい配偶者を探す 期聞を延長するには費用がかかる。女性が高い経済力を持つ場合,女性は自らの経済力によって, 配偶者を探す期間を延長する費用を負担できることから 結婚タイミングが遅くなると考えられ る。また,結婚市場では結婚後の経済状況に影響する要因が重視される。性別役割分業の強い社 会の場合には,男性の稼得能力が結婚後の経済状況を決めるため,結婚市場では男性の社会経済 的地位が重視される。反対に性別役割分業の弱い社会であれば,結婚後の経済状況に女性の稼得 能力も関係するので,高い学歴や稼得能力をもっ女性は結婚しやすくなると考えることもでき る。この仮説に従えば,高い経済力のある女性は結婚タイミングを遅らせたとしても,結婚自体 を回避しているわけではないということになる。さらに 日本社会の性別役割分業が弱くなって いるとすれば,女性の高い経済力は結婚を促進する要因になっている可能性があることを意味す る 。 実際に日本のデータを用いた研究からは 近年,女性の経済力が結婚を促進する方向に働くよ うになりつつあるという結果が得られている。永瀬 のデータを用いて ( 2 0 0 2 )は 1 9 9 7年の「出生動向基本調査 J 1 9 9 0年代以降の若年層の非正規雇用化の影響を分析している。これによると, 学校卒業後に安定した仕事に移行した場合,女性の結婚確率は上昇する。また,福田 家計経済研究所が実施している「消費生活に関するパネル調査」のデータを ( 2 0 1 2 )は mいた分析から,近 年,女性の学歴や所得の上昇が結婚を促進する要因になりつつあることを指摘している。そして -6 7一 2 0 0 0年代以降,女性の高学歴化による稼得能力の上昇と若年男性の経済状況の悪化によって, k性の経済力を前提とした結婚形成が進んで、いる可能性があると述べている。 2 0 0 5 )は 2 0 ∞年と 2 0 0 1年に実施された「日本版総合的社会調査(JG S S )Jのデー しかし水落 ( タを分析し,女性の学卒直後の雇用状態は結婚タイミングに影響を与えないと結論付けている。 女性の経済力が結婚行動に与える影響については 慎重に検討する必要があるだろう。 女性の性別役割意識や価値観が結婚行動に与える影響も指摘されてきた。阿藤(19 9 7 ) は日本 における価値観の変化と少子化の進展の関係について,時系列データの検討から考察を行ってい る 。 1 9 7 0年代半ば以降,女性の高学歴化や労働力率,賃金水準の上昇が進んだ。これによって 1 9 8 0年代には家族や性に関わる価値観の変化が進み,未婚化に対して影響したのではないかと 述べている。しかし小林 ( 2 0 0 6 ) は「消費生活に関するパネル調査」の個票データを用いた分 析から,高い学歴は未婚女性の結婚意欲を上昇させる方向に働くことを示している。ただし,学 歴による結婚行動自体への有意な影響は見られていないことから,学歴自体が影響するのは結婚 意欲に対してのみであり 結婚行動に影響しているのは学歴と相関の高い賃金率であるとしてい る。つまり,高い学歴は結婚意欲を上昇させる要因であると同時に,経済力を上昇させて結婚を 抑制する要因になっているという指摘である。高学歴化によって 女性の価値観や意識が結婚を 選択しない方向に変化したと結論付けるのは早計であるだろう。 ここまでに示した先行研究は,女性個人の結婚行動の変化を分析したものである。しかし,女 性の高学歴化は女性自身の結婚行動を変化させただけではなく,結婚市場における結婚可能な男 性の人口規模にも影響を与えた。 伝統的なジェンダ一規範の社会では,女性が稼ぎ手となる結婚が回避されるとともに,妻が夫 よりも高学歴という結婚も避けられる傾向がある。この傾向は自体は弱体化しているが,近代社 会においても継続している ( B l o s s f e l d 2 0 0 9 ) ため,高い学歴の女性が増加すると,結婚相手と して望ましい学歴の男性が相対的に不足すると考えられる。実際に, Q i a nandP r e s t o n( 1 9 9 3 ) は,結婚市場における教育水準と年齢分布の変化がアメリカの未婚化に与えた影響の検討を行っ ている。これによると,アメリカの場合には, 1 9 7 2年から 1 9 8 7年の結婚率の減少に対する結婚 市場の変化による影響は限定的なもので 結婚傾向の変化による影響のほうが大きい。これに対 し鈴木 ( 2 0 0 2 ) は男女の学歴分布の変化が結婚に与えた影響を分析し日本の場合には男女の 学歴の平等化が急激な未婚化を引き起こしたと指摘する。また, Raymo a n d Iwasawa ( 2 0 0 5 ) は出生動向基本調査のデータを用いて,結婚市場における学歴別の人口分布の変化が,短大卒, 大卒女性の初婚率低下の 3分の lから 4分の lを説明する要因であることを明らかにした。日本 では女性の高学歴化が進展したにも関わらず,女性が上方婚を選好する傾向は変わらなかった。 このことが高学歴の女性の未婚化を招いたと指摘している。 最後に,結婚市場において結婚相手と知り合うきっかけという観点から,学校の役割を検討す る 。 K a l m i j na n dHenk ( 2 0 01)は 1 9 9 5年のオランダのカップルを対象とした調査のデータを使 -6 8一 用し,出会いのきっかけと配偶者選択の傾向の関係を分析している。これによると,全てのカッ プルのうち約 15%が同じ学校で出会っている。そして,学校での出会いをきっかけとして形成 されたカップルは年齢,教育水準,社会階層などの面で同類鮒 (homogamy)である傾向が強い。 日本の場合にも,学校は結婚相手との出会いの場として一定の機能を持っている。「出生動向 基本調査Jでは,調査対象となっている夫婦の出会いのきっかけを質問している。これによると 1 9 8 2年に実施された第 8回調査では全体の約 6 % .2 0 1 0年に実施された第 1 4回調査では全体の 約 10%が「学校で j 出会ったと回答している。そして,岩津・三田 ( 2 0 0 5 ) によると. 1 9 7 0年 代以降の未婚化の進展はお見合い結婚 仕事を通じた出会いの減少によるもので,学校での出会 いをきっかけとした結婚の発生確率はほとんど変わっていない。 ここまでの先行研究からわかるのは,高学歴化の影響による結婚行動の変化が 2つの側面から 進んで、きたということである。高学歴化は 第一に経済力や価値観といった女性自身の属性に対 して影響し,結婚行動を変化させた。第二に,結婚相手となり得る男性の分布を変化させ,結婚 相手の不足を招いた。これに対し.学校がもっ出会いの場としての機能は,変わらずに維持され てきたと考えられる。 3節では女性の高学歴化の進展と特徴について説明しその後,本研究で 検討する仮説を提示する。 3 . 高等教育の拡大 2節では,高学歴化が結婚行動に与えた影響について先行研究のレビ、ユーをおこなった。本節 では,初めに日本における女性の高学歴化の進展とその特徴について説明し,その後,日本の労 働市場の特徴,女性の学歴と就業の関係について述べる。 戦後,日本社会全体の教育水準の上昇に伴い,女性の教育機会も拡大してきた。 までは高校進学率,高等教育進学率ともに明確な男女差が存在したものの. の進学率. 1 9 6 0年代頃 1 9 7 0年代には高校 1 9 8 0年代には四年制大学と短期大学を合わせた進学率で女子が男子を超えた。さら 9 9 6年には女子の四年制大学への進学率が短大への進学率を上回っており,進学率を比較す に1 る限り,教育機会の男女間格差は解消されつつある(木村 2 0 0 5 )。 しかし性別によって,進学先の教育機関と高等教育における教育内容にはいくつかの違いが 存在する。第一に,高等教育に進学する男子のほとんどが四年制大学に進学するのに対し,女子 0 0 8 )。第二に,四年制大学への進学者に限った の多くは短期大学に進学する傾向がある(平尾 2 場合でも,女子は女子のみが進学することのできる教育機関である女子大学に進学するという選 択肢が存在する。つまり,短期大学と女子大学への進学者が女子の高等教育進学率の下支えに なっていると考えられる。第三に,特定の専攻分野に女子が集中する傾向がある。まず,女子向 けの高等教育機関という傾向が強い短期大学では,教員養成や教義教育を l:j~心としたカリキュラ ムが組まれている(長尾 2 0 0 5 )。そして,四年制大学においても人文科学系を中心に,家政学 部や教育学部,薬学部などに女子が集中している(天野 - 69- 1 9 8 6 ) 0 女子の高等教育進学:率がりJ子 に近い水準となった 1 9 9 0年代以降においても,この傾向に大きな変化は見られない(河野 2 0 0 9 )。 次に,日本の労働市場の特徴についてみてゆく。日本の労働市場は,男女間格差が大きいとい う指摘がなされてきた。 B r i n t o n( 1 9 9 3 )は 1 9 8 0年時点の日米の労働市場を比較している。これ によると,日本はアメリカよりも,高い職業地位に就く女性が少ない。さらに,エステベスーア ベ ( 2 0 1 1 ) によれば. 1 9 8 6年の男女雇用機会均等法の成功後. 2 0 0 0年代になっても日本では高 い賃金を獲得できる職種や職場が男性に占められている。 それでは,女性の学歴は就業においてどのような意味を持ってきたのであろうか。尾嶋 ( 2 0 0 3 ) は学歴別に,職業構成と賃金の男女差を比較している。その結果,学歴が高くなるほど男女の職 業機会の格差は縮小し女性の賃金が男性に近くなっていることが明らかになった。つまり,女 性にとって高い学歴を得るということは 職業機会を拡大させ,男性との賃金格差を縮小させる 効果を持つ。 一方で,女性の学歴が女性の就業パターンに与える影響は限定的なものにすぎない。日本女性 の就労パターンは,結婚や出産によって就業を中断するという断続的な働き方が優勢である(白 波瀬 2 0 0 5 ) 01 9 8 6年の男女雇用機会均等法の施行以降,女性の就業支援についてはさまざまな 政策が展開されてきたが,出産後も継続して就労する女性は現在でも少数派のままである(武石 2 0 0 9 )。近年になるにつれて 2 0代. 3 0代女性の労働力率は上昇してきているものの,これは未 婚女性の割合増加によるものにすぎない(武石 会が増加し 2 0 0 7 )。また. 1 9 6 0年代にパートタイム就業機 1 9 7 0年代以降有配偶女性の雇用労働力化が進展してはいるが,女性労働者の多く が短時間労働者である(白羽瀬 2 0 0 4 )。要するに,既婚女性のパートタイムという形で女性の 労働力化は進んだが,結婚 出産後も就業継続する女性は増加してこなかった。多くの女性が最 初に就職した企業を退職し 再就業時には非正規雇用となる傾向は,女性の学歴によってそう大 きくは変わらず(盛山 1 9 9 9 ).戦後の女性の高学歴化は結婚,出産後にも就業継続する女性を 増加させるものではなかった。 もちろん,高学歴女性ほど労働市場への参加を継続する傾向が高いことを示す研究結果もあ る。平尾 ( 1 9 9 9 )は 1 9 9 5年の名古屋市のデータを使用し,就職後 4年目頃までは学歴が高い女 性ほど労働市場を退出する確率が高いが,それ以降は学歴が高い女性であるほど労働市場に残る 確率が高くなることを明らかにしている。しかし労働市場に留まり続けた女性の多くが教職関 係や公務員であることを挙げ,学歴による離職率抑制の効果は職業的な属性によるものである可 能性を指摘している。同様に,田中 ( 1 9 9 7 )は 1 9 8 5年と 1 9 9 5年に実施された「社会階層と社会 移動 (SSM)J 調査のデータを分析し大卒女性の就業継続率が高いのは,教員という就業継続 しやすい職業と,大学卒という学歴が結びついていることによる疑似的な相関にすぎないと述べ ている。 以上をまとめると,女性の高学歴化は男女聞の職業機会や賃金の格差を縮小させたが,結婚や -70- 出産の後も就業継続をする女性を増加させたわけではなかった。高学歴の女性であるほど就業継 続をする傾向にあるという指摘もあるが,それは直接の学歴効果というよりも,職業の属性によ る影響であることが明らかにされてきた。以上を踏まえて 4節では本研究で扱う仮説を提示する。 4 . 仮説 本研究の目的は,出会いの場としての学校の機能を明らかにすることである。これまでの結婚 研究では,最終学歴や教育年数の違いによる影響は重視されてきたものの,通学経験のある学校 が共学であったか,男女別学であったかという点は注目されてこなかった。もし学校が結婚相手 との出会いの場として一定の機能を持つのであるとすれば 通学した学校が共学か別学かによっ て結婚行動に差が表れる可能性がある。つまり,配偶者との出会いの機会が多い学校に通学した 場合と少ない学校に通学した場合とでは 結婚タイミングに差が生じると考えられる。 以上のような関心から,男女別学の高校,専門・専修学校,高専・短大,大学への通学経験が, 女性の結婚タイミングに与える影響を分析する。女性が男女別学の学校 つまりは女子校に通学 している場合,学校で配偶者と出会う可能性は大きく制限される。その結果,女子校への通学期 聞が終わるまで配偶者との出会いのタイミングは先送りされ,若い年齢での結婚が発生しにくく なるだろう。先行研究では,結婚タイミングに対して地域の若年人口密度や性比が影響する可能 0 1 0 ) ものの,学卒前の環境による影響はほとんど扱われて 性は指摘されてきた(朝井・水落 2 こなかった。個票データを用いた分析を行うことによって,仮説の検証を試みる。 5 . 分析 本研究の目的は,女子校への通学経験が女性の結婚タイミングに与える影響を明らかにするこ とである。仮説に従えば,女子校への通学経験がある, もしくは女子校への通学経験が多い女性 ほど結婚タイミングは遅くなる。以下では 個票データを使用してイベント・ヒストリー分析を 行い,仮説の検証を行う。 5・ 1.データ 9 9 6年に日本労働研究機構(現在の労働政策・研修機構)によって実施された「女 本研究では. 1 性の就業意識と就業行動に関する調査」の個票データを使用する。 3節で指摘したように,日本 では女子の高学歴化が進んだ、が結婚 出産時の就業継続割合は増加していない。さらには,高 学歴女性であるほど労働市場にとどまりやすいという傾向も明確ではない。この調査は,女性の 就業パターンを決める要因や一度離職した後の再就業の傾向を明らかにすることを目的として計 画された。 調査は. 1 9 9 6年 3月に質問紙留置調査法によって実施された。対象となったのは首都倒 3 0 k m 圏,福島市,広島市の住民基本台帳から二段階無作為抽出した 2 0歳から 4 4歳の女性 1 5 0 0人で, -71- そのうち 1 0 2 6人が集計対象となった。調査事項は就業意識や就業経歴に関するものが中心では あるが,調査対象者の年齢,学歴,出生年のほか,配偶関係や結婚年齢についても質問がなされ ている。また,最終学歴だけではなく,中学校,高校,短期大学・高専,専修・専門学校,四年 制大学,大学院の各学校ついて,女子校への通学経験が質問されている。 データの制約上,分析と解釈において注意すべき点がある。この調査では,調査対象の女性に 結婚年齢を聞いているが その時の結婚が初婚か再婚かを聞いていない。そのため,この調査で 回答されている結婚年齢には 2度目以の結婚時の年齢が含まれている可能性がある。本研究では, 回答されている結婚年齢を全て初婚年齢とみなして分析を行うが,回答されている結婚年齢が高 くなるにつれ,再婚時の年齢が回答されている可能性が高くなることが考えられる。そのため, 4歳以下のケースのみを分析対象としている。 以下では結婚年齢が 3 5・ 2 . 分析手法 本研究の目的は,女子校への通学経験が結婚発生の時期に与える影響を明らかにすることであ る。言い換えると,結婚という事象 ( e v e n t ) が発生するまでの時間の長さと発生確率を分析対 象としている。結婚の発生確率に影響する要因の分析を行う場合 を行うことが考えられる。しかし 多重ロジスティック回帰分析 この手法では結婚が発生するまでの時間の長さを考慮するこ とができない上,結婚を経験していない対象者の情報を分析に使用できない。これに対し,イベ ント・ヒストリー分析は イベントが発生するまでの時間と発生の有無を解析の対象とする。さ らに,調査時点で結婚を経験していない対象者の情報も分析に使用することができるようになる (森賓 2 0 0 4 )。 イベント・ヒストリー分析に用いるデータには,分析対象となるイベントが発生し得る期間の 開始時間と終了時聞が記録されていなければならない。本研究で使用するデータには,調査時点 の年齢と配偶状態,既婚者については結婚時の年齢の情報が含まれている。これらの情報をもと 8歳,既婚者は結婚年齢を,未婚者は調査時点の年齢 に,結婚が発生し得る期間の開始年齢を 1 を終了時間の情報として処理し イベントヒストリーデータを作成した。 なお,以下のカプラン・マイヤー法と離散時間ロジット・モデルによる推定では,結婚年齢が 無回答のケースを使用していなしミ。これは,イベント・ヒストリー分析に用いるデータに不可欠 な情報を欠いているためである。また,最終学歴が中学校と回答しているケースと大学院卒業者 4 7ケースを使用し, 1 8歳から 3 4歳で発生し のケースは分析の対象外とした。最終的に残った 9 た結婚を対象に推定を行っている。なお,付表 lでは以下の分析で使用したデータの度数分布を 示している。 分析では,カプラン・マイヤー法による記述的な推定と,イベント・ヒストリー分析の手法の 一つである離散時間ロジット・モテ号ルを用いた多変量解析を行った。カプラン・マイヤ一法とは, 属性ごとの生存時間や生存率の特徴を記述し比較する方法である。具体的には,イベントが発生 -72- し得る期間の開始から終了までの時間の長さの順にケースを並べ,経過時間ごとにイベントが発 生しない確率,つまりは生存率の算出を行う。そして,その生存率の値を掛け合わせることで, 経過時間ごとの生存率を求めることが可能になる(森官 2 0 0 4 )。 イベント・ヒストリー分析に用いるデータには,イベントが発生し得る期間の開始時間と終了 時間の情報が必要であることは先に示した。離散時間ロジット・モデルは,この時間の測定単位 が離散的である場合に利用される方法である。パラメーターの推定式は 以下のように定式化さ れる。 /p ( t )¥ l o g (一一一一 ) = α( t )+b1X X2(t)…+んあ(t) 1+b 2 ¥1 P ( t )/ P( t ) は t時点でのハザード率 ( h a z a r dr a t e ),a ( t ) は時間変数,んは回帰係数を意味する。 ここでいうハザード率とは時間 tまでにイベントが発生していないという条件の下で, t時点に イベントが発生する確率のことを指す。言い換えるならば,離散ロジット・モデルとはイベント p e r s o n p e r i o dd a t a ) に対して,イベントが発生するか否 が発生し得る期間の人刷期間データ ( かのダミー変数を従属変数としたロジット分析を行う方法である(福田 以下でははじめにカプラン・マイヤ一法によって 2 0 0 9 )。 学歴別に結婚の発生確率と発生までの時間 の長さの傾向を把握する。そして離散時間ロジット・モデルによる推定を行い,記述的な統計か らは把握できない独立変数の影響を明らかにしてゆく。 5・ 3 . カプラン・マイヤ一法 図 lは,最終学歴別に年齢毎の未婚継続率を示したグラフである。言い換えるならば,全員が 未婚の 1 7歳時点から,年齢を重ねるとともに未婚者が減っていく過程を示したグラフである。 学歴が高くなるほど結婚年齢が遅くなる傾向は見られるが, 3 0歳時点での未婚継続率にそれほ ど大きな差は無くなる。 図 2は,最後に卒業した学校が共学か女子校かの違いを区別した,未婚継続率のグラフである。 なお,専門・専修学校と短期大学・高専は lつのカテゴリーに統合している。この図から,最後 に卒業した学校が女子校であるか否かが結婚タイミングに与える影響は,最終学歴によって異な ることが明らかになった。まず,最終学歴が高校の場合.明確な差があるとは言い難いものの, 女子校よりも共学の高校出身者の結婚タイミングが早い。次に,専門・専修学校,短大・高専卒 の場合には, 2 3歳以降において女子校出身者の結婚が早く,同様に四年制大学卒業者では,若 干女子大学出身者のほうが結婚タイミングは早い。 図 2の結果を見る限りでは,専.門・短大卒や大学卒の女性の場合,共学よりも女子校出身者の 結婚タイミングが早い傾向がある。しかし カプラン・マイヤ一法のような記述的な分析だけで は,見せかけの関係である可能性を排除できない。また.最後に卒業した学校のみが出会いの場 としての機能を持つわけではないため,通学経験のある学校全てについて,女子校であるか否か -73- 0. 9 0. 8 0. 7 未 0 . 6 婚 . 5 継 0 続 率 0 . 4 0. 3 0 . 2 0. 1 O 1 7 1 8 1 9 2 0 2 1 22 23 24 25 26 27 28 29 30 3 1 32 33 34 年齢 ー ←高 校 圃・田専 門 ・ 専 修 図1 .....短大・ 高 専 ー・ー大学 f t終学歴別の来婚継続率 0. 9 0. 8 0. 7 来 0 . 6 0 冒 継 0 . 5 続 率 0 . 4 0. 3 0. 2 0. 1 o 1 7 1 8 1 9 2 0 2 1 2 2 2 3 2 4 2 5 2 6 2 7 28 2 9 3 0 3 1 3 2 3 3 3 4 年齢 ー 』高校(共学)圃・ー高校(女子校)四炉短大・ 専門( 共学)ー ← 短 大 ・ 専門 ( 女子校)ー←大学( 共学)ー・聞大学 ( 女子校) 図 2 最終学歴別 ( 男女共学・女子校別)の宋婚継続率 を考慮する必要がある。仮説に従うと 中学卒業から最後の学校を卒業する までの期間全てを女 子校で過ごすと,学校での配偶者との出会いの可能性は最も小さくなる。反対に,通学期間全て を共学校で過ごした場合には ,学校での出会いの可能性は最も大きくなると考えられる 。女子校 - 74 への通学経験を測定する変数を検討する必要があるだろう。次節では多変量解析を行い,女子校 への通学経験が結婚タイミングに与える影響をより細かく見ていく。 5 4 . 離散時間口ジット・モデルによる推定 カプラン・マイヤー法で用いた 9 4 7ケースから,結婚が発生し始める年齢を 1 8歳,既婚者は 結婚年齢まで,未婚者は調査時点の年齢までの人ー期間別データ ( p e r s o n p e r i o dd a t a )を作成し, 離散時間ロジット・モデルによる分析を行った。なお,結婚年齢, もしくは調査時点の年齢が 3 5歳以上の場合には. 3 4歳までの人ー期間別データを分析に用いた。 分析モデルに投入した独立変数は,年齢,出生コーホート,最終学歴,初職の職種,そして女 子校への通学経験である。はじめに モデルに投入した独立変数の内容について整理する。年齢 は 1 1 8 1 9歳 j,1 2 0 2 1歳 j,1 2 2 2 3歳 j,1 2 4 2 5歳 j,1 2 6 2 9歳 j,1 3 0 3 4歳」という 6つのカテ 2 2 2 3歳」を基準カテゴリーとしている。 ゴリーに変換した。モデルに投入する際には 1 次に,出生コーホートは 1 1 9 6 4年以前生まれJを 0 ,1 1 9 6 5年以降生まれ」を lとするダミー 変数を作成し分析に使用した。最終学歴は高校卒業者を「高校j,専修・専門学校卒者と短期 大学・高専卒業者を「専門・短大 j,四年制大学卒業者を「大学」として扱い, 1 高校j を基準カ テゴリーとして設定した。 初職の職種は,経営・管理職と事務職を「事務・経営j,看護職,教育職,専門・技術職を「専 門j,営業・販売職,保安・サービス職,製造の職業・技能職を「サービス・製造j ,その他の職 業と就業経験なしの場合を「無職・その他」として変換した。なお 初職の職種は学卒前の段階 では決定していない変数であると考えられる。つまり,最終学歴が「高校Jであれば, 1 8歳時 点で初職の職種が決まっているとみなすことができるが, 1 専門・短大」では 2 0歳 , 1 大学」で 2歳になるまでは確定していない。そのため,本研究では「専門・短大Jの場合には 1 9歳ま は2 で , 1 大学j では 2 1歳までを「無職・その他」とし,それぞれ 2 0歳 2 2歳以降に初職の職種の カテゴリーを当てはめるという操作化を行った。なお, 1 無職・その他j を基準カテゴリーとし てモデルに投入した。 女子校への通学経験については 3つの変数を作成した。 lつめは,最後に卒業した学校が女子 校である場合には 1 ,共学である場合には Oとしたダミー変数である。 2つめもダミー変数では あるが,中学校卒業以降,共学の学校に通学した経験がある場合には1,ない場合には Oを割り 当てている。これは,高校入学から最後の学校を卒業するまで女子校で過ごした場合には 1 ,共 学校への通学経験があれば Oという値を取る変数であると言い換えられる。 3つめは,中学卒業 以降の教育年数に占める,女子校への通学年数の割合である。具体的には,最終学歴が「高校」 , の場合には 3年 1 短大・専門 Jには 5年 , 1 大学」には 7年として教育年数を割り当てる。そし て,高校での女子校への通学経験があれば 3年.短大・専門ならば 2年 大学ならば 4年として 女子校への通学年数の合計を計算する。最後に,女子校への通学年数を教育年数で割り,算出し -75- た値をそのまま変数として分析に使用した。 以上の独立変数を作成する過程で,無回答の項目があるケースを欠損値として処理した。その 結果, 7 3 8 2のケースが分析の対象として残った。なお,人ー期間別データの作成には統計パッケー ジの S t a t aを,実際の推定には SPSSを使用している。また,付表 2には,離散時間ロジット・ モデルで使用した変数と 人ー期間別データの記述統計が示しである。 表 lは離散時間ロジット・モデルによって結婚のハザード確率を推定した結果である。表中の 値はオッズ比で, 1より大きいほど結婚する確率が高く, 1より小さいほど結婚する確率が低く なることを意味する。年齢 出生コーホート,学歴 初戦の職種を統制した上で,女子校への通 学経験による結婚タイミングへの影響があるか否かを明らかにするために, 3つのモデルを作成 した。女子校への通学経験に関する変数として,モデル lでは最終学校が女子校であるか否かの ダミー変数を,モデル 2では中学卒業以降共学の学校への通学経験があるか否かのダミー変数を, モデル 3では中学卒業後の教育年数に占める女子校通学期間の割合を投入している。表 lの結果 に表れているように,年齢,コーホート,最終学歴,初職の職種を統制した場合,女子校への通 表 1 離散時間口ジッ卜・モデルによる結婚のハザード確率 モデル l E x p( B ) 年齢 •••••• モデル 2 E x p( B ) 0 . 0 6 5 0 . 3 4 3 2 . 0 5 3 2 . 2 4 9 1 .0 9 6 •••••• 2 . 0 5 5 2 . 2 4 6 1 .0 9 1 1 9 6 5年以降 0 . 5 1 8 ホ * 市 0 . 5 1 6 高校(基準カテゴリー) 専門・短大 大学 1 0 . 5 8 1 0 . 46 7 * 市 申 * * ~相 0 . 5 8 8 0 . 46 5 •• 1 .5 4 3 ホ * 2 . 0 1 . 4 7 1 * l コーホ}ト 0 . 0 6 5 0 . 3 4 3 ••• 1 8 1 9歳 2 0 2 1歳 2 2 2 3歳(基準カテゴリー) 2 4 2 5歳 2 6却 歳 3 0 3 4歳 l 学歴 職の職種 専門職 事務・経営 サービス・製造 無職その他(基準カテゴリー) 女子校への通学経験 最終学校が女子校 共学への通学経験なし 女子校への通学期間割合 定数 1 .5 5 4 2 . 0 0 6 1 . 4 6 1 l 幹 当 * ホ 材 旅 l 本 * 申 . . ホ 様 車 市 モデル 3 E x p( B ) 0 . 0 6 5 0 . 3 4 3 l ••• 2 . 0 5 4 2 . 2 4 7 1 .0 9 1 * ホ ホ ホ . . ••• 0 . 5 1 7 * ホ ホ 機 構 市 . . ホ 0 . 5 8 7 0 . 46 6 . . ホ l l 1 .5 4 7 2 . 0 0 2 1 . 4 6 8 減許可幹事 判 陣 織 * ド 川 市 ド調 . . 市 l 1 . 0 7 0 . 9 9 9 1 . 0 2 5 ••• . 市 0 . 13 7 0 . 13 6 0 . 13 3 . 7 3 8 2 7 3 8 2 7 3 8 2 6 6 9 . 4 5 7( 1 2 ) ••• 6 6 8 . 8 7 1( 1 2 ) ••• 6 6 8 . 9 3 1( 12 )傘 . ホ..有意確率 0 . 0 1以 下 本 有 意 確 率 0 . 0 5以下有意確率 0 . 1 以 下 解 可 .. N( p e r s o n p e r i o d ) カ イ 2乗値(自由度) -76- 学経験に関する変数は全て有意にはならなかった。カプラン・マイヤー法による推定結果も踏ま えた上で,この結果に対する考察を行う。 6 . 結果と考察 本研究では,女子校への通学経験が女性の結婚タイミングに与える影響に注目してきた。女子 校に通学している期間には,学校での配偶者との出会いの可能性は大きく制限される。その結果. 結婚相手との出会いが女子校を卒業するまで先送りされ,結婚タイミングが遅くなると考えられ る。この仮説を検証するために 「女性の就業意識と就業行動に関する調査」の個票データを使 用し,カプラン・マイヤ一法と離散時間ロジット・モデルによる推定を行った。カプラン・マイ ヤ一法による推定の結果は 最後に卒業した学校が女子校であるか,共学であるかの違いによっ て結婚タイミングに差が表れる可能性が示唆されるものであった。これに対し,離散時間ロジッ ト・モデルによる分析結果からは,女子校への通学経験が結婚タイミングに与える有意な影響は 観察されなかった。このような結果になった理由について, 3つの観点から考察を行う。 第一に,分析モデル自体の問題が考えられる。本研究では,交互作用項を用いたモデルの推定 を行っておらず,主効果のみを推定したモデルとなっている。そのため 女子校への通学経 験と a 年齢,出生コーホートとの交互作用による影響を検討することができていなし言。モデルは今後さ らに検討してゆく必要がある。 第二に考えられるのは,卒業した学校,特に高校が公立であるか,私立であるか,という違い を統制できていないことによる影響である。吉原 ( 1 9 9 8 )は 1 9 9 4年に首都圏の大学生を対象と して実施された調査のデータを用いて,女子高校に進学した者は,無試験で女子大学,短期大学 に進学できる機会が大きいということを明らかにした。これは,私立の女子高校を卒業した女子 が,系列校への優先入学制度や推薦制度を利用し最終的に男女別学の高等教育に進学するとい うルートが存在しているということを意味する。 この研究結果を踏まえ,本研究で使用した女子校への通学経,験の変数を再検討してみる。する と本研究の仮説に従えば,私立の女子高校から系列校の短期大学や女子大学に進学した場合と いうのは,学校での出会いの可能性が最も制限されている進学パターンであるとみなされること になる。これに対し共学の高校から共学の高等教育に進学した場合は,学校での出会いの可能 性が最も高いということを意味する。つまり本研究の分析モデルでは,女子校への通学期聞が結 婚タイミングに与える影響というよりも,私立学校への通学期間が結婚タイミングに与える影響 を推定している可能性がある。 第三に予想されるのは,調査対象者の出身階層や,出身家庭の!;:~特ーを統制で、きなかったことに よる影響である。 3節で指摘したように,短期大学,女子大学は,男性と競合しない高等教育機 関である。男女別学の高等教育機関に進学する者と,共学の高等教育機関に進学する者とでは. 進学以前の段階から何らかの違いがある可能性がある。言い換えるならば,短期大学や女子大学 -7 7一 への進学を選択するという時点で,ジェンダ一意識や社会階層,出身家庭などに何らかの特徴が あるということも考えられる。本研究で使用した調査では,出身階層や出身家庭に関する質問は ほとんど行われておらず,データの制約上,影響を統制することができなかった。今後の検討課 題である。 岩津 ( 2 0 1 0 ) によれば.1970年代以降の初婚率の低下は,お見合い結婚や職場での出会いをきっ 2 0 1 1 )は親族,地域社会,会社といっ かけとする結婚の減少とともに進展してきた。また,加藤 ( た共同体が行う配偶者選択の支援の弱体化が,日本における未婚化を促進した要因であると指摘 している。学校での出会いをきっかけとした結婚は全体の 10%程度でしかない。しかし,今後 も共同体による配偶者選択の支援が弱い状態が継続するならば,学校がもっ出会いの場としての 機能が相対的に大きくなってゆく可能性があるだろう。本研究では仮説を支持する分析結果が得 られなかったが,先に挙げた本研究での課題を踏まえ,今後更なる検討を行ってゆく必要がある。 謝辞 二次分析にあたり,東京大学社会科学研究所付属社会調査・データアーカイブ研究センター 5 5 ]データアーカイブから「女性の就業意識と就業行動に関する調査 J(労働政策研究・研修機 構労働政策研究所研究調査部)の個票データの提供を受けた。また 本研究にあたっては国立社 会保障・人口問題研究所の岩淳美帆氏には研究の開始段階から助言とアドバイスをいただ、いた。 参考文献 朝井由紀子・水落正明 ( 2 0 1 0 )i 結婚タイミングを決める要因は何か J .r 結婚の壁.1.勤草書房:1 4 4 1 5 8ページ。 阿藤誠 ( 1 9 9 7 )i 日本の超少産化現象と価値観変動仮説 J .r 人口問題研究.1.第 5 3巻. 1号. 3 2 0ページ。 天野正子 ( 1 9 8 6 )r 女子高等教育の座標1 垣内出版。 安戒伸治 ( 2 0 0 8 )i 女性の生き方と家族形成 J .r 人口学ライブラリー 7 人口減少時代の社会保障.1.原由房:1 8 5 2 2 5ページ。 岩淳美帆 ( 2 0 1 0 )i 職縁結婚の盛衰からみる良縁追求の陸路上『結婚の墜.1.動草脅:房:3 7 ・ 5 3ページ。 畢美帆・三田房美 ( 2 0 0 5 )i 職縁結婚の盛衰と未婚化の進展 J .r 日本労働研究雑誌.1. 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