そんなに日本が嫌いなら、国ごと地球から出て行ってやる! 椎名ほわほわ タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト http://pdfnovels.net/ 注意事項 このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。 この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範 囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。 ︻小説タイトル︼ そんなに日本が嫌いなら、国ごと地球から出て行ってやる! ︻Nコード︼ N4791BP ︻作者名︼ 椎名ほわほわ ︻あらすじ︼ 今から2000年以上先のifのお話。 もし日本がこうなってしまっていたら!? そんな妄想です。 この作品はフィクションであり、国の名前などが出てきますが、 現実の世界の国とは一切関係がございません。 当然、特定の個人、団体または国家を批判・中傷等を目的とした ものではありませんことを重ねて申し上げます。 1 それから、日本の軍隊や兵器が異世界で無双する話ではありませ ん。 そういった戦闘を希望されている人がおられますが趣旨が違 います。 2 2月13日︵前書き︶ もう1つ新作をやってみます、こっちも更新は遅いかと。 3 2月13日 時は西暦4027年。 日本首相官邸。 その首相専用ルーム。 今日は2月13日で時間は午後11時半を回った所。 ﹁ふざけんな、本当にふざけるな!﹂ 1人の男の絶叫が響く。 彼は藤堂 光。 第1894代目の日 本首相である、年は43歳。 首相としては若すぎる年齢だが、こ れには訳がある。 2000年程の昔とは違って、一番日本で着きたくない仕事のト ップに位置するのがこの﹃日本の首相﹄なのであったりする。 要 は誰もやりたがらず、しぶしぶ若造にもかかわらず手を上げたのが 新米議員の光であったというだけの事である。 とんでもない話な のだが、それがまかり通っている訳は⋮⋮。 ﹁また金の請求かよ! こっちは技術提供かい! 日本人の汗と血 と涙と魂で必死に作り上げた物を湯水のように扱いやがって!﹂ 現時点での日本の立場は、﹃世界の奴隷﹄なのである。 侵略さ れない代わりに、ありとあらゆる物、金、技術を非常に安い値段で 提供させられている。 日本が反論すれば、日本が全く関与してい ない事件や、明らかに日本の責任ではない歴史の嘘を持ち出し、お 前達は、こう言う過去の償いをせねばならないのだと﹃世界﹄から 責められる。 この理不尽に対し、天皇陛下もお心を砕かれ、ありとあらゆる場 所に出向き、改めてくれるよう行動なさって下さったが、それも虚 4 しく功を為さず、歴代の陛下も悲しみにくれるばかり。 更に腹立たしいのが、提供したお金や技術を使い、植林をしたり、 学校を建てたり、畑を生み出したりしても、数年で世界は平然とだ めにするのだ。 具体的には、植林をした場所は木が育ったら伐採 して薪にしていまい、学校を建てても暫くすると解体し、その学校 製作に使われていた材料を横流ししたり、畑を作ってもその管理を 怠りだめにする。 そしてこれらの結果を﹃日本がしっかりしない からだ﹄と責任を押し付けてくるのである。 ﹁てめえらが無駄にしてきたものが、どれだけ日本の国民が必死に なって、作り上げたものだと思ってやがる⋮⋮! くそったれめ!﹂ 国連においても日本は空気に限りなく近い。 発言権もほぼ無く、 勝手に日本の負担が決められていくのだ。 ちなみに国連運営費用 の75%が日本一国の負担である。 ﹁いっその事、日本の国土と国民だけ持ち出して、異世界でも宇宙 の果てにでもいければな⋮⋮﹂ そんなメルヘンな呟きが漏れる。 これはここ1000年日本の 首相が無意識に呟く独り言のトップであったりする、それぐらい日 本は苦しめられている。 しかし、そんな状況でも日本人は耐えた。 物を生み出し、食料 を作り、仕事の後に飲む一杯を糧に翌日も頑張るのだ。 その汗と 血と涙と魂は磨かれ、日本がこんな無茶苦茶な状況にさせられてい るのになお、日本と言う城を支え続けている。 日本人の笑顔は、 まだそこから失われてはいない。 5 ﹁国民だって頑張っているんだ、俺がここでめげちゃ笑われちまう な﹂ そう、気を取り直して、各国から届く無茶な要求を少しでも抑え る方法を思案するために書類に目を移す。 そしてまた仕事を始め る⋮⋮ハズだった。 ﹁その願い、聞き届けましょう!﹂ 誰も来ないはずの首相官邸の首相専用ルームに女性の声が響く。 光は当然身構える。 都合が悪い首相を暗殺しに来る連中なんて いうものは山ほどいる。 現に日本歴代首相で﹃世界﹄の横暴な要 求に徹底抗戦を取った首相は、全員暗殺されているのである。 世 界が敵なのだから暗殺者やスパイなんて防ぎようが無いのだ。 ﹁誰だ! とうとう俺も暗殺対象になっちまったか⋮⋮な?﹂ その目の前には白を基調として、ところどころに赤いラインが入 ったローブを来た女性が1人。 ﹁暗殺なんてしませんよ?﹂ 殺意が無いその声に光も警戒を解く、と言うより毒気を抜かれた。 ﹁ずいぶんと綺麗なお嬢様だが。 何の用かな?﹂ その声に彼女は答えた。 ﹁私はフルーレと申します、貴方から見れば異世界人ですね。 貴 方の願い、異世界へと、この国と国民を連れて逃げるお手伝いをい 6 たします﹂ その言葉に光は胡散臭げな目を向ける。 ﹁おいおい、そんなこと出来る訳が無いだろう。 それが叶うのな らぜひやって欲しいがね。 それにそれが万が一できるとして、報 酬は何を要求するんだい?﹂ 行動があるなら、報酬の要求は当然あるだろう。 移ることが万 が一出来たとしても、その先でまた奴隷であっては何の意味もない のだから。 ﹁私達の要求はこの国が誇る、とても高い技術力。 あ、もちろん その技術に対する報酬は当然支払いますし、この国が今受けている 不当すぎる報酬の様な卑怯な真似も致しません。 それともう1つ は、血が欲しいのです﹂ 技術はまあ分かるが、血の要求? 随分物騒だが⋮⋮? ﹁血と言いましても、遺伝子の方です。 貴方達の言葉で言えば遺 伝子に不具合がある状態が、私達の世界にいる人間全体に広まって しまっている状況なのです﹂ この言葉を受けて光は考える。 ﹁ふむ、此方でいう近親による血の濃度の上昇で子孫を残すことが 困難になっているということか?﹂ その返答にフルーレは頷く。 7 ﹁そう考えて下されば結構です。 此方の魔術⋮⋮貴方達では研究 者ですか、その研究により、後数世代で此方の子孫を残すことが出 来なくなる⋮⋮と言う研究結果が上がってきています﹂ なるほど、お互い崖っぷちということか。 そう光は頭の中で考 える。 ﹁ですので、私達の世界に新しい血を入れてくれる人達を探してお りました。 もちろん1人2人ではだめです、それこそ1千万以上 の人が必要です﹂ ちなみに4027年における日本人の人口は、約7500万人で ある。 ﹁そして色々な場所を渡り歩き、私達と交わって子孫を残すことが 出来る人類を探し回りました。 その適合者が、貴方達日本人です ! 他の国の人ではダメです、日本人の方とだけ子孫が残せると研 究結果が出ているのです﹂ 光はここまで大人しく聞いていたが﹁なるほど﹂と声を出す。 ﹁此方からそちらの世界に移るにしても、色々問題があると思われ るんだが、そういった転移に対しての問題はどうなっているのかね ?﹂ フルーレはすぐに返答する。 ﹁基本的な魔方陣の構築は許可さえいただければ、今すぐに展開で きます。 また、魔方陣を展開することにより、暴力行為を防ぐこ とが出来るという効果も出ます。 なので、暗殺などの心配も消え 8 ます﹂ 暗殺の恐怖から開放されるのは大きいな、と光はつい考えてしま う。 暗殺の恐怖は常に強いストレスを産むからだ。 ﹁また、そちらに移ったあと、我々はどういう扱いになる? また 奴隷ではかなわんぞ?﹂ この質問にもフルーレは素早く回答する。 ﹁はい、それについては、第4の皇国扱いとなります。 また、島 国であるという事も維持されますし、四季が無事訪れるような場所 の選定も終わっております﹂ ││荒唐無稽かもしれぬ。 が、今のままでは間違いなく日本人 は世界に使いつぶされる。 ならいっその事⋮⋮。 ﹁すまないが、事が重大ゆえ、俺だけでは決められん。 話をお伺 いせねばならぬ方がいる﹂ そうフルーレに告げ、電話とをる。 ﹁⋮⋮藤堂 光だが? ああ、そうだ、首相のだ。 今陛下はどう なさっておられる? ⋮⋮そうか、緊急に陛下のお耳に入れなけれ ばならぬ出来事が発生してしまった。 済まないが、謁見させてい ただける時間を用意願いたい﹂ 無理やりなアポを取りフルーレに告げる。 ﹁今の話を、この国の象徴とされる、天皇陛下の前で語っていただ 9 けるだろうか?﹂ フルーレは笑みを浮かべ⋮⋮。 ﹁はい、包み隠さずお話させていただきますわ﹂ そう、言った。 そして天皇陛下の前にて、深夜の謁見、ならび にこの話に乗るかどうかが話し合われた。 そして、話が纏まった ときには東の空が明るくなってきていたのである。 ││││││││││││││││││││││││ 時間は流れて翌日の、2月14日の午前8時。 会社へ出社する 人達、学校に通学する人達などでごった返す日常。 その日常で突 然、全てのテレビ、およびラジオ、等と言ったメディアに首相の言 葉が流れ出した。 ﹃えー、どうも。 第1894代目の首相である、藤堂 光です。 今日は国民の皆様にお知らせがございます。 今年の12月31 日午後11時59分59秒に、我々日本人と日本の国土は、異世界 に出発することが決定したことをお知らせいたします!﹄ 先ほどまで色々な音が騒がしかった朝の日常がとたんに静まり返 る。 その後⋮⋮ ﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁ええええええええええええええ! ?﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂ と言う国民の戸惑いが日本全土を揺らした。 10 ﹃そして、その証拠の1つとして、日本はこれから特殊なエネルギ ーにて包まれます。 これはドッキリでも妄想でもございません。 事実であります﹄ 光の声が響いたかと思うと、薄いながらも間違いなく視認できる 薄い青い色の膜が空を覆っていくのを誰もが見た。 当然国民は全 員あっけに取られている。 ﹃国民の皆様は今までどおりに生活なさっていただければ問題ござ いません。 もう我々は十分世界に尽くしました。 理不尽な要求 にも祖先の代から耐えに耐えました。 もういいでしょう。 これ からはちゃんとこの国を正当に評価する世界に行くだけです﹄ 光の声はその後細かいスケジュールを国民に説明していく。 ﹃これらの情報は首相専用HPでも確認できますのでご安心を、そ して、海外に出張している日本人の皆様、すぐに帰国して下さい。 この特殊な膜は日本人なら問題なく通過できます﹄ そして、最後になりますが⋮⋮と光は前置きをしてから⋮⋮。 ﹃全世界の連中! そんなに日本が嫌いなら、国ごと地球から出て 行ってやる!﹄ と宣言して首相の言葉とは思えない終わり方で終了し、国民を大 混乱に陥れた。 この宣言が、第三次世界大戦を引き起こす引き金 となるのだが⋮⋮それを予想したのはこの時点ではごく一部だった。 11 2月14日︵前書き︶ なんというか、まあ、やけになって書いたのに 1話目でえらい評価が高いのが怖い! 応援してくれた方々へのお礼を兼ねて緊急更新します。 12 2月14日 2月14日、首相官邸の中。 ﹁なんとか、スパイや工作員の妨害工作が動く前に宣言が出来たな﹂ そういって光はフルーレの前で一息つく。 今はもう日本のどこ に盗聴器あるのか、盗聴している人間が居るかが分からない上に、 複数の国か連合して、日本に対しスパイやら工作員やら暗殺者やら を山ほど送り込ませている。 そいつらに対し、日本の警察は手を 出すことが一切許されていない、手を出したら国際法違反などと言 うことにされて、逮捕されて国際裁判送りにされてしまうのだ。 ﹁しかし、この国の歴史を知れば知るほど悲しくなりますね、良く ぞここまで耐える事が出来たものですね⋮⋮﹂ フルーレは光によって渡された日本の歴史が書かれた紙を見なが ら、悲しげに声を漏らす。 1500年ほど前から、日本を取り巻 く環境は徐々におかしくなり始め、ここまでの搾取が本格的にスタ ートしたのは1000年ほど前である。 ありとあらゆる世界の国 々は、存在しない罪状を国際連合の場ででっち上げ、嘘の証拠を次 々と並べ立てた。 そして、台湾、トルコなどの一部の国を除き、 これは間違いなく日本の悪事であると多数決で決定してしまい、そ のまま日本は数の暴力で押し切られてしまったのだ。 その罪状とは⋮⋮﹃日本による世界征服﹄である。 その当時の日本人はこう思っただろう、﹃こんな世界、征服する 価値なんかどこにも無い﹄と。 だが、当時の国際連合常任理事国、 13 非常任理事国全部が日本の企みは真実であると述べた上に、日本 に一切の反論をする時間すら与えてはくれなかった。 その影響で、自衛隊も殆どの武器、装備を国際連合主導で取り上 げられ、持つことが許されたのはスタン・ロッドや、麻酔銃などの せいぜい対人に使える武器ばかり。 戦車、戦闘機などは全て取り 上げられてしまったのだ。 これにより、武力による徹底抗戦も封 じられた。 いや、武器があったとしても、全世界VS1国では戦 う前より結果が見えている。 ﹁だが、そこで国民が自棄にならずに済んだのはまさしく天皇陛下 のお陰であった⋮⋮﹂ 当時の天皇陛下も当然お怒りになられた。 しかし、このまま無 謀に世界へ特攻させ、日本国民を絶やす訳には行かないとお考えに なられた。 そして、この言葉が陛下の御口により再び日本に流れ たのである。 ﹃耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び⋮⋮未来に託すために、堪 えて欲しい﹄と。 日本の国民は皆、泣いた。 我々はそんな馬鹿げた真似などして いないのに。 我々は必死で新しい物を造り、世界に貢献してきた と言うのに。 その答えがこれなのか。 我々はこんな事をされな ければならぬのか。 この日の記録は今の日本人でも、涙無しでは 見ることが出来ない。 ﹁我が世界の3国も王は象徴であると言う政治体型を取っておりま すが⋮⋮ここまで国民に慕われる方だったとは⋮⋮昨日、面会させ て頂けた事は非常に幸運だったのですね﹂ 14 フルーレはそう言って、体を震わせている。 ﹁そして、その陛下が仰られた日が⋮⋮ついに来た。 我々日本人 の忍耐は無駄ではなかったと拳を上に振り上げるときがついに来た ! HPの方にも国民からの喜びの声に溢れている﹂ 光は気がついていない。 自分が無意識に握り拳を作っていた事 に。 涙を流している事に。 フルーレはそんな光の状態をあえて 見ない事にした。 男ではなく、漢がそこで泣いていると気が付い たから。 ﹁だが、世界からは批判ばかりだ。 夢を見るのはジャパニメーシ ョンの中だけでやれと。 そして世界を混乱させた責任として、今 後10年間は無料で最新の技術提供をしろとまで言って来ている﹂ フルーレの表情もとたんに険しくなる。 ﹁恐らく連中は、世界に出て働かされている日本人を拘束し、人質 として使うだろう。 空港も封鎖しているかもしれない。 フルー レ、すまないが貴女の力を借りたい﹂ フルーレは即座に手を上げる。 ﹁その展開は想定内です、各番隊長、いますね!﹂ フルーレの声が上がると共に、部屋の中に15人ほどの人間が次 々と現れた。 ﹁はっ、1番より15番まで、日本皇国転移における責任部隊隊長、 15 全員揃っております。 将軍のご指示通り、既にこの日本皇国の外 にいる日本人の救出、それから日本人を拘束、ならびに殺傷行為を 行おうとした者達の排除も滞りなく進行中です!﹂ 先頭にいた1人の女性が情勢を読み上げる。 ﹁よろしい。 この日本皇国を汚し続けた者達に容赦も情けも必要 ありません。 物言わぬ骸にして構わないと全ての隊員に改めて通 達しなさい! ここで助けた者達が、将来貴方達の伴侶となるやも 知れません、誰一人として置き去りにすることの無いように!﹂ フルーレの指示に、各部隊隊長達は右手で敬礼し、左手を心臓に 当てている。 おそらくはあれが向こうの最敬礼の形なのだろうと 光はあたりをつけた。 ﹁日本国首相としてもお願いする。 これ以上我らの国民を苦しめ たくは無い。 一刻も早く救い出し、わが国へと連れて来てあげて 欲しい﹂ 光は頭を深く、深く下げる。 戦闘力をもぎ取られ、僅かな希望 のために耐えてきた今の日本人にとって、変に高いプライドなど一 切無い。 同胞を助けてもらえると言うのであれば、こんなことな どなんでも無かった。 この光の行動に全部隊の隊長達は再び最敬礼を取った後、すぐさ ま姿を消した。 2000年ほど前に存在していた、日本国民でもないというのに、 税金をむさぼり、納税義務も免除され、特権階級で鳴らしていた連 中は、日本の立場が苦しくなるにつれ、我が祖国とやらに逃げ帰り、 16 そこで受け入れられずに死滅した。 国際結婚も最後に行われたのは1100年ほど前だ。 日本が悪 とされるようになってからは、国際結婚は一切行なわれていない。 奴隷などと一緒にいられるか! そう罵られた事もあると記録に もある。 だからこそ、今の日本人は純粋な日本人だけであり、約7500 万人はまさしく家族でもあった。 故に団結が可能で、皮肉なこと に、世界一治安が良い国が奴隷の国日本と言う結果にもなっていた。 その家族が、ついに新天地に渡れる、最初で最後のチャンスが巡 って来たのだ。 誰一人置いていくわけには行かない。 苦しみ、 涙し、血をはき、魂を汚され、それでも耐えてきた祖先が残した血 なのだ、家族なのだ、誰一人として置いてけぼりにすることは許さ れない。 ﹁光様。 我が部下はとても優秀です。 どうか信じて下さいませ﹂ 俯きながら、両手を組み合わせ、その組み合わせている部分から 血が流れ出している様子を見かね、フルーレはそう告げる、あまり にも痛々しく、見ていられなかった。 そして、紙の上ではなく、 目の前の漢がここまで耐えてきた事を悟り、この作戦の失敗は絶対 に許されないと、心の中の剣をもう一度深く握りなおした。 17 2月14日︵後書き︶ 説明をかねた2話目でしたがいかがでしたでしょうか。 異世界に渡ってからが本番ではなく、渡るまでがまず大変です。 願わくば、こんな未来はこの小説の中だけであって欲しいですね。 18 2月15日︵前書き︶ 他国の情勢の一部です。 19 2月15日 とある某国。 その大統領執務室。 この国は2000年ほど昔 はただの小国だったのだが、1200年前より徐々に軍備を拡張し、 今では軍事大国の筆頭などと世界各国から呼ばれている。 ﹁失礼します、閣下! 報告があります!﹂ そこに居たこの国の大統領に、生真面目そうな人物が1人執務室 に入り、敬礼の体制を取る。 その敬礼には、一種の芸術とも取れ るような妙な美しさがあった。 ﹁ふむ、聞こう、続けたまえ﹂ 大統領は2つの指示を自分の部下達に下していた。 二日前の日 本の総理大臣の発言。 そして日本を包み込んだ現時点では正体不 明の防衛兵器と思われる存在。 これらの情報確認と詳しい情報の 収集が1つ。 それからもう1つは、この国に技術者兼労働奴隷兼 人質である日本人の完全な拘束、激しく抵抗するなら射殺、それが もう1つの指示だった。 ﹁一つ目の日本の総理大臣の発言ですが、やはり他の敵国の偽装工 作などではなく、間違いなく日本の総理大臣が発言した事である、 との情報は間違い無い事実である事がはっきりしました﹂ 大統領は立派に蓄えた髭をなでながらその報告を聞いていた。 ﹁今回の日本の総理大臣における任期は⋮⋮3年目ぐらいだったか な? そこそこ壊れるまでの時間は持った方か。 その持った分、 20 ずいぶんとファンタジーな壊れ方をしたものだ﹂ 大統領はそういって笑う。 ジャパニメーションに逃げ込むよう ではあの総理大臣も終わったなと。 ﹁それからあの、日本を包んだ新型防衛兵器ですが⋮⋮現時点では ほとんどの事が解明できておりません⋮⋮﹂ この報告を聞いた大統領は思わず立ち上がった。 ﹁ほとんど分からないだと!? 我々の兵器や解析技術を持ってし てもか!?﹂ 報告を続けている部下の顔色は急激に悪化し、冷や汗も流れてい る。 この国は兵器に関しての技術などは世界でもトップクラスで あると自負していただけに、この報告を受けて大統領は、心穏やか ではいられなかったのだ。 ﹁唯一分かった事は⋮⋮我々の通過を一切許さないという事だけで す⋮⋮﹂ 大統領は大声を荒げた分やや落ち着いたのか椅子に座りなおす。 ﹁むう。 進入を禁ずる兵器とは、また日本も変わった兵器を生み 出したものだ。 変な意味であの国は未来に生きているな﹂ そう発言した後、髭をなでながら顔をしかめる。 ﹁ただいま解析チーム総員であの膜の様な防壁を突破、もしくは破 壊する手段を全力で調べさせています﹂ 21 報告を続ける部下はそう締めくくった。 ﹁出来るだけ急がせろよ、ゲームの発生はそう遠くないぞ﹂ この大統領の声にはっ! と声を上げて敬礼をする部下。 そこ に慌てた様子で1人の男が飛び込んできた。 ﹁だ、大統領閣下! 緊急でお知らせせねばならぬことが発生致し ました!﹂ もう1人の部下が息を切らせながら、慌しく大統領執務室内で報 告を始めようとした。 ﹁騒々しいな、一体何事だ!﹂ その部下を叱るように声を出す大統領。 しかし、次の部下の報 告に大統領は再び声を荒げる事になる。 ﹁に、日本人の奴隷達が脱走しました!﹂ ││││││││││││││││││││││││ 場所は変わってこの国の労働施設のプラント、そこに大統領自ら が直接訪れていた。 このプラントに拘束し、働かせていた日本人 は1万人を超えていた。 さらにここで働いていた日本人の家族は 別の場所で軟禁しており、簡単に口裏を合わせてここから脱出する ことは、ほぼ不可能であるはずだった。 また日本人家族の軟禁場 所はちょくちょく変更しており、ここで働いている日本人たちがそ の場所を知るはずが無い。 だというのに。 22 ﹁││逃げられた⋮⋮だと!? ここの包囲網を突破された上に、 数日前に移転させたばかりの日本人家族の軟禁場所まで全部探し当 てられてか!?﹂ そのプラントを包囲していた武装メカや、多数の兵士はバラバラ の物言わぬ死体を晒していた。 そして妙な事に武装メカは複数の 箇所が熔解しており、兵士達の体は灰になっていた、灰になってい ない部分は手足の先のほうだけである。 風が吹くたびに元人間の 兵士であったであろう灰は、どんどん風に飛ばされていく。 ﹁い、1時間前まではいつもどおりでした⋮⋮そして、30分ほど 前にこの場に私が戻ってくると、すでにこの状況になっておりまし た⋮⋮急いで日本人の家族を軟禁している施設にも連絡を取ったの ですが⋮⋮﹂ 返答はありませんでした、なので、他の者を向かわせたところ⋮ ⋮施設は破壊され、武装メカや、兵士達はここと同じ状態であった そうです⋮⋮。 と、足をがくがく震わせながら大統領に報告を終 える。 ﹁空港などは当然、もう閉鎖したんだろうな!﹂ 大統領の大声が響く。 ﹁は、はっ、空港、ならびに国境を、既に全て封鎖済みであります ! 逃げることは出来ないと思われます!﹂ 部下の一人が大急ぎで大統領に返答する。 23 ﹁全軍に伝えろ、日本人狩りだ! 見つけ次第射殺を許可する! むごたらしく殺して、その写真を日本に送りつけてやれ!﹂ 激昂する大統領に向かって大慌てで敬礼をした後に走り出す部下 達。 数分後には日本人を殺すためだけに、大掛かりなこの国の国 軍の部隊が一斉に動き出している事だろう。 ﹁日本人め、優しくしておれば付け上がりおって! 貴様らのよう な大悪党は、大人しく我等に奉仕することが義務であると言うのに ! これから流れる血は貴様らにとっては当然の裁きだ!﹂ そういって地団駄を踏む大統領。 だが、当然この大統領の裁き とやらは成功しなかった。 フルーレの部下達は、日本人が囚われている場所を探し当てたら 即座にテレポートにより現場へ移動し、上空からファイアーボール などの魔法で一瞬にて障害を無力化。 音は風を操ることで消音。 それから奴隷扱いされていた日本人労働者達と、その家族達を救 助した後に、再びテレポートの魔法により、とっくにこの国を立ち 去っていたのだから。 フルーレの部下達はこの方法で、次々と各国に労働奴隷として扱 われていた日本人達を救い出していった。 その手際の良さにどの 国も対応する事を一切許しては貰えなかった。 ちなみに、数少な い親日国の人達は、フルーレの部下が現れたとたん敬礼で出迎え、 既に集まってもらっていた日本人をすぐに日本に送らせやすいよう に協力した。 フルーレの魔法部隊の活躍により、全ての海外に囚われていた日 本人達は、数日で生きて故郷の土を再び踏むことが出来たのである。 24 2月15日︵後書き︶ ﹃ゲーム﹄についての内容は次回。 25 2月24日 ││日本時間では、2月24日、AM0時00分、国際連合本部 会議場。 ﹁報告は以上であります! 日本は間違いなく、再び世界征服のた めの行動を開始したことは間違いなしと、世界の皆様に報告させて 頂きます!﹂ ここ、国連本部にて、︽日本を除く︾加入国全てが召喚され、会 議が行なわれていた。 会議の内容は﹃日本による世界征服計画の 断固阻止、ならびに日本への懲罰内容﹄である。 ﹁わが国からも報告します、彼らは善意で我が国に協力していた日 本人を拉致し、わが国の一般市民を大量に虐殺しております! 彼 らへは何の慈悲も必要ありません!﹂ 念のため申し上げておくが、フルーレの部下達は、一般市民には 一切攻撃を仕掛けておらず、殺したのは必要最小限の兵士のみであ る。 また、善意で協力等とこの国は言っているが、それはあくま で見栄えをよくするだけの建前であり、実際は酷使して生産業を行 なわせており、そこから上がる利益を奪い取っていただけである。 明らかに日本に対して、一方的な酷い言いがかりなのだが、都合 が良いためそれを指摘する国は居ない。 ﹁とはいえ、日本国民は、現日本首相のヒカル・トウドウに扇動さ れただけであると予想される故に、日本首相であるヒカル・トウド ウの首を落とせば自然におさまる可能性も否定できない﹂ 26 ﹁その可能性は十分に考えられる。 あの日本のことだ、あの放送 に催眠電波などを仕込み、国民を操っている可能性も否定が出来な い﹂ などと、荒唐無稽な言いがかりを、現日本首相の光が実際に犯し ている罪状であるかのように、濡れ衣を次々と重ね着させるかのよ うに上乗せしていく。 生かさず殺さずでやっていても、せいぜい 持って100年程度で潰れるだろうと思われていた、当初の世界の 予想を大きく裏切り、日本は1000年耐えてきた。 そこには不気味な力か何かがあの国には存在していると内心で、 世界の各国は有りもしない物に対して、無意識に脅えているのであ る。 そして脅えるが故に、その処罰は苛烈な物になっていくのだ。 それらの発表がいくつか出された後、議長を務める男が纏め始め る。 ﹁今までの発表、ならびに危険性の指摘は、十分に日本が再び暴走 を始めたと判断するに足りるだろう。 よって、日本の首相に対し てのみ、粛清を実行する事を許可する! 粛清開始許可は、これよ り発動⋮⋮﹂ させる、と議長の男が言う前に声を割り込ませた国があった。 ﹁失礼ながら、これからの発言をする事に対しての許可を頂きたい !﹂ この声に議長はしかめっ面をしていたが、発言した国が軍事大国 の国であり、常任理事国の一国であるが故に﹁発言を許可する!﹂ と発言した。 なお、現時点では2000年前と違い常任理事国は 27 5枠から8枠へと拡張されている。 ﹁ここまでの大きい仕掛けは、日本の首相だけでは不可能である。 また、あの放送をする前日、ヒカル・トウドウがテンノウの前へ 訪れている事が判明している! つまり、テンノウも共犯であり、 今回の粛清許可は、ヒカル・トウドウだけでなく、日本の皇帝であ るテンノウも粛清せねばならないと進言する!﹂ この発言により、国連の会議場は一気に騒ぎが発生した。 その 通りだ! とどなる声もあれば、そこまでやると日本人が自棄を起 こして、今後使い物にならなくなる! などの反論も飛び交ってい る。 2分ほど後に、議長が木の槌をダン、ダン!と打ち鳴らす。 ﹁静粛に! ││今の発言は非常に重要なものであると考えられる ! よって多数決により、日本の皇帝である﹃テンノウ﹄にも粛清 対象として扱うかどうか、多数決を取ろうと思うがよろしいか?﹂ この議長の提案に全ての国が多数決による決定を行なうべきであ る、との意見で一致した。 ﹁では、多数決を取る。 ﹃テンノウ﹄の粛清を行うべきか否か! 手元にあるスイッチにてそれぞれの国の意思を表していただく﹂ 一斉に静まり返った国連の会議場で、スイッチが押される音だけ が響く。 しかしそこには一種の狂ったような熱気が溢れかえって いた⋮⋮そして、結果が発表される。 ﹁静粛に。 では、これより結果を発表する﹂ そして前面の巨大スクリーンに結果が発表される。 ﹃テンノウ﹄ 28 の粛清を行なうか否か。 YESが172国、NOが21国と結果 が映し出され、圧倒的多数で﹃テンノウ﹄への粛清許可を出すべき との結果が出た。 ﹁見ていただいたように、﹃テンノウ﹄への粛清許可を求める票が 圧倒的多数なのを確認し、今回の粛清必須対象は、日本国首相のヒ カル・トウドウと、テンノウの2人になった!﹂ 議長の発言を受けて、満足そうに進言をした某国の代表は頷いて いる。 多くのざわめきがしばらく続いたが、更に某国の代表は、 ざわめきが収まってきたところで言葉を続けた。 ﹁粛清の順番ですが、まずはヒカル・トウドウを先に消しましょう。 それで今回の粛清が終わった、と油断したところでテンノウを狙 うのです。 そうしたほうがより日本は世界にとてつもない無礼を 働いたと、日本国民にも理解させる事ができるでしょう!﹂ そこからはルールを練り、まずは今回の首相であるヒカル・トウ ドウを粛清し、その証拠を国連に提出する。 写真等では証拠とし て弱いため、首と片手の腕を粛清後に持ち帰り、眼球や指紋等から 本人である事を証明する。 その証明が行われた後にテンノウを粛 清する事と決まった。 粛清成功報酬は、よほどの事でない限り、次回の議題に対しての 発言権の強化がなされ、その国の意見が通りやすくする事に決めら れた。 ルールが完全に確定した直後、殆どの国の代表は、付き添いで同 行していた部下達に国に対して、母国への素早い報告を命じた。 報告する言葉はこれだけである、﹁エル・ドラド﹂。 遠い過去の 29 日本が、黄金の国と呼ばれていた事は有名だが、この時代で言う黄 金は、次回の母国発言権強化による、莫大な富を得るチャンスの事 である。 こうして、日本に防衛と称して日本に無理やり駐屯していた多く の国の工作員やコマンダーたちが、光と天皇陛下を粛清と言う名の 暗殺をするための行動を開始したのである。 30 2月24日︵後書き︶ 次回からはまた光&フルーレに戻ります。 31 2月25日 ﹁なんだと!? 天皇陛下まで暗殺の標的にされただと!?﹂ 池田総務大臣︵62歳︶が慌てて報告してきた話によると、親日 国であるいくつかの国による暗号による情報で、現総理大臣である 光を暗殺した後に、天皇陛下まで暗殺する手はずになっているとい う情報に光はやや取り乱した。 ﹁どこぞの国のネズミが、あの時のフルーレ殿と一緒に陛下の御前 で話をした首相の事を本国に流したのでしょうな﹂ 池田総務大臣も苦い顔が半分、怒り顔が半分の表情を浮かべてい る。 ﹁くそっ、だがスパイでも、日本が捕まえれば国際犯罪扱いだ、あ の時は放置するしかなかったからな⋮⋮﹂ 光も歯噛みするが、何時までもこうしているわけには行かない⋮ ⋮その時、光はふと思った。 ﹁その暗号の情報からだと、必ず俺を先に殺すことが暗殺の絶対条 件なんだな?﹂ 念押しで確認を取る。 ﹁はい、間違いなく総理が先ですな⋮⋮とはいえ、あの無法な連中 ががどこまでそれを守りますか﹂ 32 池田総務大臣にとっては、今の世界の国々は無法地帯に限りなく 近いと考えている。 ﹁ならば、こちらに来た新しい戦力で防衛に当たらせましょう⋮⋮ 16番隊隊長!﹂ フルーレの声に、すぐさま音も無く現れる一人の男性。 ﹁聞いていましたね? すぐさま取り掛かりなさい﹂ 敬礼をしてすぐに消える男性。 ちなみにこうほいほい出入りさ れる事自体、本来なら大騒ぎすることなのだが、今はもう非常時と 言うか異常事態なため、そこに突っ込む人はいない。 ﹁それと同時に、俺に出来ることもしよう⋮⋮俺が生きていると分 かっている時点で、天皇陛下に表面上は暗殺に向えないはずだから な⋮⋮﹂ そういいながら光は立ち上がる。 ﹁﹁出来る事ですか?﹂﹂ 池田総務大臣とフルーレの声がハモる。 ﹁池田総務大臣、ハリボテでいいので、外見だけは立派な椅子を、 部下に命じて用意して欲しい。 それからフルーレ、土の魔法が得 意な部隊に頼んで、小高い山を首相官邸の庭に作って欲しい﹂ ﹁﹁?﹂﹂ 33 池田総務大臣とフルーレは訳がわからずお互いに顔を見合わせる が、光が﹁申し訳ないが頼む﹂と、もう一度頼むととりあえず、と 言う感じで用意に向かいだす。 二人が出て行ったことを確認した 後、光はふと机に乗ったままになっていた、フルーレに読ませた日 本と世界の歴史が記された書類を手に取った。 ││││││││││││││││││││││││ 西暦2400年ごろ。 宇宙への進出はもはや当たり前のことに なっていた。 地球では枯渇してしまった鉱石類を始めとし、あら ゆる資源の獲得、宇宙ステーションの建設、それに伴う宇宙観光業 などあらゆる分野が宇宙で活躍を始めた。 その宇宙へ進出した国 の中には、当然日本の名前もあった。 そのときの世界の人々は、 このまま大宇宙航海時代が花開くと予想していた。 時は過ぎ、西暦2700年ごろ。 宇宙進出における産業は絶頂 を向かえ、宇宙ステーションだけではなく、コロニーも作り出され 始め、第二の故郷を作ろうという勢いであった。 月にも都市が作 られ、人々は更なる未来に希望と夢を見ていた。 しかし、ここか ら人類は緩やかに転落を始めた。 技術の格差が酷いと表現するの も生易しいほど、当時の世界各国の中で技術力の差がつき始めてい たのだが、その当時、1番の技術力を誇っていたのが日本だった。 日本は西暦2500年辺りから、技術の提供を諸外国からかなり 強引な方法で迫られるようになっていた。 技術の提供条件は明ら かに不当な条件ばかり提示されたのだが、その当時の日本政府は争 いを大きくしないためと言う理由で、その不当な条件を飲んでしま った。 そんな前例を生み出してしまったが為に、ここから日本が 技術を作っても、その技術は格安で買うことができるという状況を 生み出してしまい、世界に利用され始めてしまう。 34 そうして日本から流出に近い方法で技術が流れ、宇宙における技 術競争がより激しくなった。 そしてその絶頂を世界的に見れば、 迎えたのが西暦2700年ごろと言う訳である。 だが、200年 もたてば、流石に日本も世界から重要な技術を秘匿する方法を嫌で も身につけている。 海外に渡すのはもう必要がない、日本にとっ ては古い技術のみを流すようになっていた。 そうして秘匿している技術を元に、日本は世界に対して従順なフ リをして、宇宙におけるさまざまな産業のトップを密かに走ってい たのだが⋮⋮この秘匿情報の存在が西暦2930年ごろに世界に気 が付かれた。 世界は西暦2700年をピークに、徐々に徐々に新 しい技術の獲得状況が鈍化して行っているのに、日本だけはその気 配が薄いとスパイなどを通じてさまざまな国が知っていた。 そし て西暦2950年ごろ、世界は日本がブラックボックスのようなも のの中に、最先端の技術を隠していることを突き止めてしまった。 世界は日本を糾弾した、日本は技術を提供するのが決まりではな いかと。 日本は言い返した、技術を生み出すのがどれだけ大変か と。 ましてやその最先端の技術を生み出す苦労は並大抵の事では ない。 それをただに近い金で技術を渡せと言うのは、そちら側の 一歩的な暴力だと。 それに我々は今までに情報、技術を世界に数 多く発信してきた、その事実を忘れてこちらを糾弾するの話が通ら ないと訴えた。 この話は国際裁判に持ち込まれ、裁判の勝者は日本であった。 今までの日本による技術提供は、間違いなく今日の発展に大きく貢 献しており、また最新技術を格安で渡せというのは、日本の言うと おり暴力である事、むしろ今までの日本に対する不当な条約の破棄、 ならびに賠償をすべしと国際裁判所で決定された。 35 けい 賠償額は兆どころか京の単位にまで上り、[ちなみに京とは、1 0の16乗で兆の上]日本限定での好景気が訪れた。 しかし、他 国の金を裁判の結果で、今まで支払われていなかった技術料を取り 返しただけとはいえ得てしまったわけで、一気に他国の景気を悪化 させた。 もちろん日本側も、今までの技術料を一斉に支払わせて、破産に 追い込む様な愚かな行動は取らなかったが、日本の技術を用いて物 を作っていた世界の国々の産業がことごとく停止に追い込まれてい った。 日本の技術を使って物を作れば、当然その分の技術料を日 本に納めねばならず、そのお金を支払う能力は、景気の悪化によっ て支払える余裕がなかった。 そのため、戦争以外で日本を貶めるにはどうすればよいかの一点 で世界中の首脳が連絡を取り合い、口裏を合わせあい、生まれた結 果が﹃日本による世界征服をでっち上げる﹄事だった。 あまりに もアホな話なのではあるが、この話が多数の国の共謀で通ってしま った。 通ったとたん、世界各国は日本に押し寄せ、あらゆる技術 を盗み出して行った。 お題は全て﹃日本の世界征服を証明する証 拠﹄の一言で済むのだから。 そしてブラックボックスの中身すらも持ち出して、新しく研究を し始める世界各国。 だが、世界も肝心な事を忘れていた。 その 最先端を生かす事ができるのは、既に日本人だけになっていた事に。 日本から来た技術を流用して物を作る。 それを200年も繰り 返していれば、自分たちが新しい物を作るという知性はかなり消え てしまっていた事実に。 ここに、妙な関係が生まれる。 日本人を完全に消してしまった 36 りすると、自分達も今ある技術が使いこなせなくなり、いずれは共 倒れになる。 かといって日本人を自由にしてしまうと、ますます 世界との技術格差が開き、本当の意味で日本人に地球を征服されか ねない。 日本による1人勝ちを阻止し、日本人側から折れて世界に頭を下 げさせる為に、更なる嘘の事件を多数でっちあげて、世界は日本の 行動力をあらゆる方面から押さえつけた。 日本の技術を使った労 働を日本人に行なわせる、まさに奴隷の様に扱う正当性、日本人を 押さえつけていい理由を持つ為に。 そして、最終目標として日本 の事を時間を掛けてゆっくりと潰す所までが、その計画に盛り込ま れていた。 そんな歪な世界が形成されれば、どんなに日本人が馬車馬のよう に世界で働いても、世界全体から見れば緩やかに技術などは落ち込 んでいく。 なにせ、日本人に働かせれば自分たちは食糧生産など の一部を除いて、ほとんど働かなくて良いような情勢を作り上げて しまったのだから。 西暦3300年ごろになれば、もう大半の宇 宙ステーションや月の都市は、運営が困難になり放置され、コロニ ーの建設も白紙に戻り、歴史が逆行を始める。 これらが止まった のは単純な話で、人手が足りないからである。 AIの開発なども、世界が日本人に対して研究を禁止した事で完 全に凍結され、それに応じたロボットも製作されなかった。 日本 人の反乱を恐れて、である。 数少ない日本人が必死に努力をする事で、辛うじて地球の経済状 態は回っていたが、宇宙の方まで手が回るはずもなく、宇宙開発も 自然にひっそりと幕を閉じていく。 僅かに残ったのは、無人機に よる資源調達のみであった。 37 そこから更に300年後の西暦3600年後になれば、新しい物 を作れるのは、世界から見れば一握りの日本人だけと言う異常事態 になっていく。 日本人を奴隷の様に働かせる事と、軍隊の維持に ばかり世界各国は気を使う様になっており、そこに物を創造すると 言う思考は、ものの見事に抜け落ちていた。 物を作るのは日本人 の役目、そんな考えが普通の考えにになっていたからだ。 日本人 が反抗したら押さえつけるために、どこの国でも軍隊だけは充実し ていたが。 なお、武器に日本人が爆弾などを仕掛けないように、 細かいチェックは常に入っている。 そんな世界も日本人にとっては、今を生きるために、いつか立ち 上がるその日が来た時の為に、今あるバトンを子孫に残すために、 そのためだけに物を作り続けた。 自分の時代は報われないと思っ ていても、もしかしたら自分の子供には、孫には、何らかの助けが 来ると、希望があると愚直に信じ続けた。 諦めないない、投げ出 さない、へこたれない。 その魂の意地を日本人はこう言い続けた ⋮⋮﹃大和魂﹄と。 ││││││││││││││││││││││││ 光はその歴史が記されている書類一式を机に置く。 ﹁そして西暦も4000年台に入り⋮⋮ついにその日が来た、祖先 から受け取ったバトンを今ゴールに届けるために! ここからは日 本の反撃だ! 大和魂は健在なり、耐えて我らは明日を掴む!﹂ 38 2月25日︵後書き︶ こんな歴史、書いておいてなんですけど嫌だ。 39 2月28日 ﹁総理、言われたとおりの椅子を用意いたしました﹂ ﹁こちらもお願いされた小山を作りましたが⋮⋮﹂ 池田総務大臣とフルーレは共に困惑気味の声で報告する。 ﹁ありがとう、2人とも。 では、その椅子を小山の上まで運ばね ばな﹂ 光のこの言葉に池田総務大臣はハッとなる。 ﹁総理、まさかフルーレ殿に作らせた小山の上でその椅子にお座り になるつもりですか!? 確かにこの上ない生存報告にはなるでし ょうが、ビーム・スナイパーライフルの的になるだけですぞ!?﹂ 小高い場所に何の障害物もなく椅子に座っている人間を狙撃する なんて、スナイパーからすれば実に退屈な仕事であろう。 ﹁ああ、そうだろうな、だがあえてやらねばならない。 国民は立 ち上がった。 人質に限りなく近い形で海外で働かされていた国民 は、フルーレ達のお陰で生還できた。 後はこの国の首相である自 分が、今の世界に屈さない姿を国民に見せねばならない﹂ 池田総務大臣はそれでも﹁しかし、総理!﹂と食い下がる。 明 らかに光のやろうとしていることは無謀の二文字でしかないからだ。 そんな池田総務大臣に対し、光は言った。 40 ﹁将が前に出ずして、どうして兵に戦えと言える! もはや国民は この最後の機会に、皆で立ち上がっている! ここで首相が前に出 て旗頭にならなければ士気が上がらん! もうこれは既に戦争なの だ!﹂ 池田総務大臣はこの言葉に気圧されて一歩二歩、本人が自覚して いないうちに下がる。 ﹁フルーレ、貴女が以前言っていた、﹃この魔法陣の中では暗殺等 の心配がない﹄の言葉を信じる証として、この身とこの魂を全てを 賭けよう。﹂ フルーレは黙って頷く。 ﹁1つ、追加の頼みがある。 自分に対して悪意や殺意を向けられ た方向を感知できる魔法、と言うものは無いのか?﹂ ││││││││││││││││││││││││ 同時刻、首相官邸から50kmほど離れたとある場所。 この場 所からは首相官邸が丸見えである。 そこから狙撃して光を暗殺し ようとしているとある国の3人組チームがあった。 スナイパー、 スポッター、サポーターである。 ﹁日本の考えは良くわからんな、あんな小山を立てたところで最新 のスナイパーライフル、﹁ブリューナク﹂のレーザーからは逃れら れんぞ?﹂ スポッターがそう呟く。 41 ﹁もうやっちまおうぜ? あんまりとろとろやってると他国に先を 越される。 こんな最高のポイントから狙撃なんてイージーすぎて 目をつぶっていても当たるぜ﹂ スナイパー役は、さっさと終わらせて旨いメシでも食いに行きた いようだ。 ﹁周りからの妨害もない。 今日は行動に移っていいだろう、さっ さとターゲットを消してしまえばいい﹂ サポーター役もスナイパー役に賛同のようだ。 ﹁なんだ? 小山の上に椅子が置かれたぞ? ⋮⋮あれはターゲッ トのヒカル・トウドウではないか!? あんな障害物が回りに無い ところで椅子に座るとは⋮⋮さっさと死にたいのか?﹂ スポッター役は困惑する。 この時代の銃器はビーム系が主流と なっていて、実弾は一部のロマンを求める者たちの趣味として存在 しているぐらいである。 当初は銃身などが大型だったもの、研究 が進むにつれ、実弾の物よりも小型で持ち運びも容易くなっていっ た。 またビームと言う事で着弾も早く、回避が困難であり狙撃に はもってこいの兵器である。 ビーム兵器も、最初は宇宙空間での固い岩盤などを掘削するため に、削岩機の代わりとして開発されて来た物であったのだが⋮⋮使 えるものは兵器に転用されてしまうのは悲しい事実である。 結局 のところ、技術は進歩しても、人間そのものは西暦4000年を数 えても大して進歩していなかったのだ。 ﹁いいじゃあねえか。 お膳立てしてくれたんだ、さっさと撃って 42 お終いにしちまおうぜ。 リフレクト・ミラーなども日本が持つ事 は許されてねえ﹂ このビームに対する防御策は反射するか、もしくは拡散させて散 らすことで威力を消すかであった。 前者の反射をさせるのはリフ レクト・ミラーと呼ばれ、普段はマジックミラーのようになってい るが、ビームが命中するとそのビームを反射するまさに鏡である。 そして後者の拡散させて散らす物はミラージュ・フィールドと呼 ばれている。 ﹁こちらも確認した、リフレクト・ミラーは無い。 まあ、最新の ブリューナクの前では意味が無いがな﹂ 防御策のリフレクト・ミラーも、ミラージュ・フィールドも問題 が無いわけではない。 リフレクト・ミラーは跳ね返しきらないと 直撃を貰うし、耐久力はミラージュに大きく劣る。 一方ミラージ ュ・フィールドも拡散するとはいえ、フィールド限界量を突き破ら れれば、人一人殺すには十分な熱や威力を帯びた光が防御者を焼き 尽くす。 耐久力に劣る代わりに、リフレクト・ミラーで反射でき れば、反射された攻撃側が一瞬で焼き殺されるのだが。 攻める防 御がリフレクトであり、耐える防御がミラージュである。 そういった防御兵器も無いことを確認し、狙撃の最終準備に取り 掛かり、いざスナイパー役が得物を構えて撃とうとした時である。 ﹁あの野郎!? こっちに向かって笑った挙句手招きしてやがる! !﹂ 冷静で居なければいけないスナイパー役が突然声を荒げた。 何 事かとスポッター役が確認をすると、ターゲットのヒカル・トウド 43 ウが右の肘を手すりに乗せて頬杖を突きながらニヤニヤと笑ってお り、左手でこちらに向かって手招きをしている姿が確認できた。 ヒカル・トウドウは明らかにこちらの方向をはっきりと見ている様 子だ。 ﹁何故この場所が⋮⋮!?﹂ 念入りに場所を選んで最良の場所を選んだハズなのに⋮⋮バレた のか!? だ、だが何度確認しても、リフレクトもミラージュもな い。 それなのに何故あのような笑い顔を浮かべ、手招きが出来る !? 不気味だ、不気味過ぎる! ﹁中止するか?﹂ サポーター役が提案する。 この提案は正直かなり魅力的だった が⋮⋮。 ﹁だめだ、ここで中止しましたなんて上にばれたら、その上それで 他の国にターゲット討伐を出し抜かれたら、俺たちは全員死刑だぞ﹂ そうスポッター役は言い、この狙撃は中止は出来ない事を二人に 改めて通達する。 ﹁撃てば終わるんだ、問題ないさ、落ち着いた⋮⋮行けるから安心 しろ﹂ スナイパー役からの声で、2人も不気味な日本の首相への狙撃行 為の開始に同意する。 スナイパー役は冷酷に心臓に狙いを定める。 頭を狙わないのは暗殺成功の証として提出するためである。 タ ーゲットを撃ち抜けば、後は仲間のコマンダー達がターゲットの首 44 を持ち去るために突撃する手筈になっている。 ﹁死ね、悪魔め﹂ そう呟き、スナイパー役はトリガーを引き絞り、スナイパーライ フルは強力なビームを吐き出す。 その直後、彼ら三人はその撃っ たビームその物に体を貫かれていた⋮⋮。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁││今、俺は撃たれた筈だよな⋮⋮﹂ ビーム特有の音が耳に届いたような気がする、それは間違いがな いだろう。 なのに自分はこうして生きている⋮⋮これがフルーレ の言っていた魔法陣による防衛能力なのだろうか。 ﹁││まあ、今はそれらを難しく考える必要はない、か。 それに 次の客が待っているようだし、しっかりと手招きしてやらないとな ⋮⋮ネタ晴らしは後で聞かないとならないが﹂ そうして再び光は、殺意を向けられていると教えてくれる魔法の 導きの方向を向いて、頬杖を突き手招きをする。 この行動はこの あと一ヶ月ほど続き、100国以上の暗殺チームが地球から永久に 退場した。 45 2月28日︵後書き︶ もう日本人に対しての暗殺はできません。 それが首相であっても、一般市民であっても。 46 3月30日 小山の上に座って政務を行い、狙撃の気配を察知したら手招きす る日々を光が送り始めて、一月ほどが経過した。 徐々に狙撃の気 配は数をへらし、今となっては一切の殺気すら感じられない。 も ちろん中には直接接近し、ビームガンを乱れうちして迫ってきた部 隊もあったが、そのビームガンは全て撃った本人たちに跳ね返り、 屍を晒し、その死体はどこかへとかき消された。 日本の数少ない特殊部隊が行動を起こし状況を確かめたところ、 各国の領事館から完全に人が消えており、国内のどこにも狙撃を行 なってきたと予想される国の人間は居なくなっているとの事だった。 ﹁フルーレ、そろそろ、この魔法陣を詳しく説明してもらえないだ ろうか?﹂ 久々に官邸の中に戻り、椅子と小山を処理し、一月振りの首相政 務室にもどった光がフルーレに告げる。 何故狙撃されても襲撃さ れても自分は死なずに済んでいるのか。 そして襲撃を仕掛けてき た国の人間が跡形も無く消えているのか。 ﹁そうですね、そろそろ教えても良いでしょう。 この魔法陣は、 ﹃カルマ・リフレクション﹄と名前がついております。 我々にあ る三カ国の首都にも全く同じものが張られております。﹂ ここでいったん言葉を切って深呼吸するフルーレ。 ﹁具体的に申し上げれば、善き行いはゆっくりと返りますが、極端 な悪意には即座にその悪意を返すと言う魔法陣です。 なので、極 47 端に他者を傷つけたり、殺そうとすればその悪意を他者にぶつけよ うとした本人にすべてが跳ね返るのです。 そしてその傷をつけよ うとしたものが他国の意思の元に行なわれている場合、その国の人 間を強制的に外に追放します﹂ 強制的に追放。 それはつまり⋮⋮ ﹁じゃあ、日本から他国の人間が一気に減ったのは⋮⋮﹂ 光のこの声にフルーレは事実を返答する。 ﹁ええ、魔法陣によって追放されたのでしょうね、どこに追放する かは完全に不明なので、海に落ちたかもしれませんし、火山の火口 に飛ばされたかもしれませんし、宇宙空間で破裂したかもしれませ ん﹂ 光の背中に一瞬で冷や汗が滲み出す。 確かに世界に対して怒り や恨みを抱いていたのは事実だ。 しかし、こうもあっさりとこの 国内を歩き回っていた連中を追い払ってしまったと言う、魔法の力 に恐ろしいものを感じていたのだ。 ﹁││よかった、魔法は恐ろしいものとお考えになられているよう ですね。 そうです、魔法は恐ろしいものなのです。 故にこの力 を得たとたん嬉々として、破壊や殺戮に使う人たちには伝えるわけ にはいかないのです﹂ 光がつい浮かべてしまった恐怖の表情に内心安堵するフルーレ。 いくら祖国のためだとしても、魔法の存在を知った途端に暴走し、 魔法を利用して殺しを嬉々として始めるような人間達ならば、将軍 であるフルーレが直々に殺さねばならない。 そうならずに済んだ 48 事でフルーレは、ひとまずではあるが安心できたのである。 ﹁結局、どこの世界でも力は力と言う事か⋮⋮魔法にも善悪など無 く、それを振るう人間こそが善悪を持ちうるという事になるのか﹂ 光の呟きにフルーレが反応する。 ﹁我々も魔法による戦争を長く続けていた時代で、世界を崩壊寸前 まで破壊しました。 その過ちを我々の世代で繰り返すわけには参 りませんので﹂ その後に沈黙が訪れる。 つまりこの魔法陣の中では、全ての人 間が悪意を持って他者を攻撃すれば不差別にその攻撃を仕掛けた本 人に返す。 しかしそうなると、悪口などはどうなるのだろうか? 物理的な攻撃ではないから⋮⋮。 ﹁フルーレ、この魔法陣は﹃物理的な﹄攻撃のみに反応するのか? たとえば悪口によって相手を精神的に攻撃した場合はどうなる?﹂ それは言っていませんでしたね、とフルーレが返答を始める。 ﹁度を越した悪口、たとえばその人に対し、自殺を決意させるよう な言葉や、故意に長い時間悪口を特定の人物に仕掛け続けた場合、 怒らせることで暴力的な行動を引き出そうとした場合などですが。 軽度の場合は、最初は度が過ぎる悪意を他人に放ったと警告を受 けて一日ほど五感が失われます﹂ 念のためにだが、五感は、見ること、聞くこと、触ること、味わ うこと、匂いを嗅ぐことの5つである。 49 ﹁そしてその警告を受けたのにも拘らず、同じような悪口を続ける と再警告として、強い警告を受けた後に五感を7日失います。 悪 口の内容によっては、突然この五感を7日失う罰が下される事もあ りえます、これほど重いのは、我らの過去にこれ位やらないと更正 をしようと考えないものが多数居た為です﹂ ここでフルーレは少し時間を置いてから、続きを話し出す。 ﹁そして、3回目や他者に自殺に追い込む度が過ぎた悪口⋮⋮とい うよりも精神的な攻撃に対しては⋮⋮今までの罪が本人に降りかか り、存在が抹消されます、死亡ではなく抹消です。 我々は他者を 罵る行為は何よりの恥であるとされておりますので、抹消されたも のは文字通り髪の毛一本残りません﹂ 光はもう冷や汗を隠せなかった。 過去と違って今の日本人は仲 間であり、家族ゆえに喧嘩は有るが殺し合いや極端な悪口の応酬は まず無い。 が、決して0と言うわけでもないのだ。 ﹁これは国民に通達せねばならない! 何故教えてくれなかったの だ!?﹂ 光はつい感情的にフルーレに問う。 しかし、フルーレも苦い顔 をしていた。 ﹁我々にとっても、1つの国を丸々呼び寄せるというのは、そちら の言葉を借りれば世界の一大プロジェクトなのです。 なので、安 易に暴力的な行為を行なったり、他者を平然と罵る人間まで受け入 れる事は出来ません、こちらとしても苦渋の決断です。 また、今 まで話したカルマ・リフレクションの効果は私達ももちろん対象で す。 我々が貴方達を罵れば、話したとおりのペナルティを受ける 50 事になります﹂ 言われてみればもっともである。 日本は昔から長い間基本的に 移民を許さなかった、なぜか。 移民はその国への愛情も何も無く、 ただ都合が良いから、金が稼げるから、等の理由で来るのだ。 そ して自分の国じゃないからと、すぐに犯罪に走ったり、元から住ん でいた人達のルールを無視したりと、とにかく問題を起こしやすい。 もちろん、全ての移民がそういった行為に走るわけではないのだ が、残念ながら、一部でもそういった犯罪行為を始める者達が居れ ば、全体がそういう目で見られるのだ。 同じ世界の国同士でも現にそういう問題が頻発するのだ。 まし てや今回はひとつの国を丸ごと転移させる訳であり、やり直しも効 かないのだ。 故に向こう側がこちらを試したとしても、止むを得 ないのかもしれない。 いくら全滅の危機に陥っているとはいえ、 滅亡への時を早める理由など無いのだから。 ﹁││そちらの心情も理解した。 だが発表する事は許可願いたい。 一月もあれば無自覚の悪意をばら撒く愚か者は自然と粛清された はずだろう⋮⋮﹂ 光は声を絞り出す。 今更自覚したのだ、自分達が試されるのは 当然の事だと言う事に。 彼女たちは共に歩ける隣人を欲している のであって、あくまで日本人はその隣人の理想に1番近いだけであ ると言う事に。 遺伝子的な問題だけなら、それこそそういう部分 だけを持って帰れば良いだけ⋮⋮。 ﹁嫌われても仕方がありません。 ですがこちらも崖っぷちでは有 りますが、そのがけに飛び込むまでの猶予時間を自ら削るつもりは 51 無いのです﹂ きっぱりと言い切るフルーレ、そこにははっきりとした覚悟があ る。 自分の命を賭けている者の輝きがある。 その輝きを前に、 光は何も言えなかった。 ││││││││││││││││││││││││ 後日、日本に張られている魔法陣の詳細が公表された。 一時小 さな混乱はあったが、用は他者を無用に傷つけるなという事なので、 それが理解されれば自然に収まっていった。 日本人にしてみれば、 今までと対してなんら生活などが変わるわけでもなんでもなかった のだ。 その一方で大混乱に陥っている場所もあった⋮⋮国際連合の本部 である。 52 3月30日︵後書き︶ 一ヶ月進みました。 53 4月3日︵前書き︶ 更新滞っててすいません。 54 4月3日 国際連合本部 ﹁││と、各国から寄せられた情報を基にした結果、今回の制裁は 全て失敗、この結論で日本は新しい新兵器を条約に背いて建造し、 使用したとの結論に達しました﹂ 日本以外が出席している国連本部の会議場にて、議長がそう宣言 する。 ﹁それにしても、日本も恐ろしい兵器を作り上げましたな⋮⋮﹂ ﹁よもや、これを足がかりに世界征服を再び実行に移すのかもしれ ませぬな﹂ ﹁あの者達は反省と言う言葉を知らないのでしょうか﹂ 各国の代表が日本に向けて思い思いの呪詛をはく。 だが呪詛を 吐いたところで日本が展開したと思われるあの障壁が消えるわけで もない、その為話はすぐにあの障壁への対策に移っていく。 だが 今までの情報により⋮⋮。 1.武器攻撃は無意味どころか、理屈は不明ながら跳ね返される。 2.日本人以外は結界を通過できない。 3.中に居た日本人以外を完全に追放することが出来る能力がある。 55 などの情報は既に得ており、具体的な侵攻方法、破壊方法をどの 国も提示できない状態である。 旧世代の核使用による放射能攻撃 も検討されたが、日本に近い国への被害が強く懸念されるため却下 された。 毒ガスなどによる攻撃も環境を考慮されて却下された、 表向きは。 そしてそのときである。 ﹁向こうから出てこさせれば良いでしょう。 このままその障壁を 展開し、世界全てに攻撃の脅威を与え続けるというのであれば、我 々は日本に対し、戦争ではなく、殲滅戦を仕掛ける用意があると。 かの障壁は確かに強固ではありますが、日本の周りの空と海を押 さえて脅せばよいかと。 障壁ではなく、中にいる人間の心を砕け ば良いでしょうな﹂ この提案があがったのは。 それは妙案であると話し合いが行な われ、最終的に﹃日本の首相は次回の国連会議に出席する事、出席 しなかった場合は、国連軍の総力を持って日本を包囲する﹄事を中 心に据えた宣言が製作され、全ての国にそれは伝わる事になる。 ││││││││││││││││││││││││ その頃の日本首相官邸 ﹁報告を聞こう﹂ ﹁はっ﹂ シノビ 光は特殊部隊隊長、沢渡大佐に命じていた調査の報告を受けると ころだった。 日本特殊部隊、コードネームは︿忍﹀。 何でこん な名前なのかと言うと、武器を使わず、目立たず首相の目と耳にな ると言う前提で作られているため。 そしてコードネームも、海外 56 にも有名になってしまった﹃ニンジャ﹄の意味を示す忍びからとっ ている。 木を隠すなら森の中の理屈である。 結局求められることが歴史上に居たスッパとかラッパとか言われ ていた彼らと、原点回帰してしまったと言うのも皮肉な話で、実は 少数ではあるが、あまりにも害悪な海外の人間を消した事もある。 当然首相もそのときは海外から調べられるが、証拠不十分で開放 される。 それだけの技術を特殊部隊︿忍﹀は所持しているとお考 え戴こう。 それから余計な話でではあるが、﹃すっぱ抜く﹄の語 源はこの忍者の呼ばれ方からきている。 ﹁ふむ⋮⋮ある程度の不満や私に対するある程度の悪口では発動し ていないか、これならば恐怖政治に陥ることは無くて済みそうだ﹂ ﹁はっ、私を含め部下達も確認しております﹂ 光が︿忍﹀に命じていたのは、魔法陣﹃カルマ・リフレクション﹄ による発動、ならびに発動を受けた人間の調査である。 報告書に は細かく書いてあるのだが、大雑把に報告を書き直すと⋮⋮。 未発動 国や首相への愚痴や悪口︵酒の場などでの﹁首相はいっぺん死ん で来い﹂等︶ 喧嘩などによるお互いが怒った状態での罵りあい。 気心が知れた相手への軽い冗談とはっきり分かる範囲。 57 などである。 要するに酔っ払いに、日常などで起こりうる喧嘩、 軽い軽口などでは引っかからない様子である。 ﹁ふむ、これならばまず普通にすごしていれば引っかかるまい﹂ 報告書を捲りながら光は細かく確認を取っていく。 そしていよ いよ発動したとされる報告書の確認に入る。 発動 数人がかりで1人を暴行するイジメを1週間以上継続した者。 悪意を持って他者を自殺に追い込み、自分に益をもたらそうとし た者。 泥棒行為を行い、放火をしようとした者。 人種、等の本人の責任が無い部分で激しい罵倒を行った者。 発動者にはそのような人間が対象になったと報告書には上がって いた。 ﹁加えまして、人種差別や、イジメ、そういった行動を行っていた 阿呆達は、日本から消える前にいた海外の者が大半であったと加え て報告させていただきます﹂ 光への暗殺行為によってほぼいなくなった海外の尖兵達だが、そ れ以外にも裁きを受けていたらしい。 190国以上あるにも拘ら ず、狙撃等の攻撃回数が100回少々だったのは、一足お先にそう 58 いう場所で裁かれていたからと言うことのようだ。 ﹁そうか。 ││本当にごく一部の国を除いて、義も仁も無くなっ てしまったな。 2000年前から嘆かれていたが⋮⋮今はそれが より悪化している、か﹂ そういって光は目を瞑る、せめてもの救いは、日本人同士の義と 仁は強くなっている事だろうか。 支えあい、育てあい、共に歩く。 みんな並んで一等賞ではなく、競い合いつつもいざと言う時には 手を差し伸べる、そんな人同士の熱さがある。 ﹁はっ、無念ではありますが⋮⋮﹂ 沢渡大佐も同意の声を上げる。 ﹁故に、今回の話は逃すわけには行かない、これから転移するまで も、転移した後も苦労を︿忍﹀にはかけるが、すまん、頼むぞ﹂ 光は本心を沢渡大佐に告げる。 世界が熾烈な攻撃を行うのはこ れからであると予想できるだけに、目と耳の︿忍﹀特殊チームは大 事な存在になる。 ﹁はっ、では、失礼いたします﹂ そういうと、沢渡大佐は姿を消す。 ︿忍﹀は独立部隊でもあり、 首相でも使われている技術を知ることは厳しく禁止されている、そ うしないと情報が漏れやすくなるからだ。 沢渡大佐がいなくなっ た首相専用の個室で重いため息をつく。 ﹁さて、世界よ。 次はどんな下種な手段で来るつもりだ⋮⋮?﹂ 59 4月3日︵後書き︶ もっと早めに更新しようとは思っていたのですが おっさんの方とか、リアルとか、色々ありまして遅くなっておりま す。 本当にすみません。 60 4月12日 日本国会。 この日の国会は今後の日本としての展望、ならびに税率の設定、 それらに加えて自衛隊の再編成なども含めたやり取りが展開してい た。 このころには、フルーレを初めとした異世界からの訪問者の 情報なども、徐々に国民へある程度知れ渡る様になってきている。 それに並行して、魔法と言う存在も徐々に世間から認められつつ ある、そんな微妙な時期でもある。 国会のほうは、長い時間が経過はしたものの、何とかある程度形 になり、本日の国会は終了となる間際に手を上げた者がいた、藤堂 光である。 ﹁総理大臣、藤堂 光君、発言を許可する﹂ 議長の発言を受けて、光は発言の場に立ち、こう発言した。 ﹁それでは、簡潔に申し上げます。 次の総理大臣候補を立てるこ とを許可願いたい﹂ 国会はその一言で異様な空気に包まれる、議長はすぐさま﹁静粛 に!﹂と声をかける。 ﹁理由を申し上げさせて頂きます。 皆様のお耳にももう入ってい ると思われますが、次回の国連会議に、日本の首相を出席させろと、 させない場合は国連軍を持って日本を包囲するとあります﹂ 61 国会全体がこの一言で静まり返る、その静まり返った中、光の発 言は続く。 ﹁私はこれに出席するつもりであります、そして、正直に申し上げ ます。 ││恐らく私は生きてここに帰ってくることは出来ないで しょう﹂ 緊張が全ての議員の中に走る。 ﹁ですが、ここで私が出向かずに、国連軍に包囲された場合、国民 の心が疲弊する恐れが非常に高いと判断いたしました。 故に、私 が出向く事で、そうなるまでの時間を僅かでも稼ぐ所存であります﹂ 即座に﹁総理に質問があります!﹂と挙手をする議員。 ﹁河内君﹂ ﹁はい﹂ 一呼吸置いて質問が行なわれる。 ﹁河内と申します。 総理が今おっしゃられた事ですが、生きて返 れないとは個人的な予測でしょうか?﹂ ﹁藤堂君﹂ ﹁ただいまの質問ですが、特殊部隊の調査により、会議場で射殺が 20%、行きで10% 帰りで69%の可能性で暗殺が仕掛けられ ると調査結果を受け取っております、ほぼ間違いなく、私は日本に 帰ってこれません﹂ 62 冷酷な予想数字に再び静まり返る。 その数字は、大体この場に いる議員の予想と同じだったのもあって、なおさら真実味を増した。 ﹁武田君﹂ ﹁はい﹂ 次の質問である。 ﹁武田と申します、それだけの暗殺される可能性があるのならば、 できるだけ多くのSPを連れ立って、少しでも暗殺される可能性を 下げるべきではないでしょうか?﹂ ﹁藤堂君﹂ ﹁ただいまの質問に対する返答ですが、私は逆に今回はSPを誰1 人として連れて行くつもりはございません。 1人でも多くの日本 人をあちらの世界に送り出すためにも、今回死ぬのは私1人で結構 です﹂ この発言で流石にざわめきが大きくなる、あちこちで﹁首相は特 攻なさるおつもりか!?﹂﹁自棄を起こしたのか!?﹂との声が上 がっている。 かぶ ﹁皆様に後を託さなければならない卑怯者となりますが、その代わ り国連総本部にて、大きく傾いてくることでお許し願いたい﹂ 再び静まり返る国会。 そして議員のすべてが悟った、首相は1 人で神風特攻をして散る覚悟を既に固めているのだと。 63 ﹁そのためにも、明日からの国会の議題として、例外的処置で次の 総理を決めさせて頂きたいのです。 派手に傾くためにも、日本人 の1人としての意地を見せ付けるためにも、どうかお願い致します﹂ 一人の議員が突然直立したかと思うと、敬礼をした。 それはす ぐさま全ての議員に伝播し、全ての議員が国会にて総理に対し直立 して敬礼をするという異様な光景が出来上がった。 ﹁皆様のご理解に感謝いたします。﹂ 光は深く深く、敬礼をとった国会議員全員に対して頭を下げた。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁光様、正気ですか!?﹂ 国会終了後、首相邸宅において、光はフルーレに責められていた。 ﹁明らかな悪意しかないと言うのに、それでも向こうへ出向くと言 うのですか!? しかも護衛すら無しで!﹂ かたくな だが、光は頑として意見を変えない。 ﹁確かに愚かに見えるかもしれない、無意味に限りなく近いかもし れない。 だがな、ここで引くことは出来ん! 幸い自分には妻子 も両親もいない、特攻役にも適任なのだよ﹂ だがフルーレも食い下がる。 64 ﹁ですが、では何故私達の護衛まで拒否するのですか!?﹂ それでも光の考えは変わらない。 ﹁貴方達を巻き込むわけには行かない。 貴方達の役割は我々日本 人を1人でも多く無事に向こうの世界へ送る事だろう? 人質扱い されていた事への救助はそれに当たるが、今回のことは自ら突っ込 む行為なのだから、除外されるはずだ、違うか?﹂ フルーレは押し黙る。 ﹁そして何より、これが最後の国連会議への出席となるだろう、な らば最後は派手に傾くのも悪くはない、その後は転送されるまでこ の国が皆と一緒に一丸となって耐えればよい、そのためにも時間を 稼がねばならぬ、一分でも一秒でもいい、時間を、命の時間を稼が なければ﹂ 包囲と言う方法は実に上手い、包囲されているという事実だけで かなりの重圧感があり、疲弊させられる。 例えミサイルなどを撃 ってこなくても、だ。 だが向こう側も苦しいはずだ、特に飲料水 の問題がそろそろ上がってきているだろうと光は踏んでいる。 海水などを真水にろ過できるシートや機材の運用も、こまめにメ ンテナンスをしなければ劣化が早く進む。 日本のように真水に恵 まれている国なんて本当に極僅かなのだ。 いくら技術が進んでも そういった自然を人間に都合よく改造するところまでは行かなかっ た。 だからこそ日本の技術による飲料水の確保は重要だったのだ が⋮⋮。 ﹁どうしても⋮⋮行くおつもりですか?﹂ 65 ﹁ああ、もう決めてある、後は⋮⋮後任者と共に、この国を⋮⋮日 本を頼む⋮⋮!﹂ フルーレは静かに敬礼をした後に、無言で部屋を出て行った。 次回の国連会議は5月11日か、一刻も早く俺を始末するために早 めたんだろうなと光は想像した。 ﹁││日本の行く末を⋮⋮天命尽きるまで見届けたかったが。 俺 の天命はここまでか⋮⋮だからこそ見せ付けてやる。 世界よ、日 本を侮ってくれるな⋮⋮﹂ たった一人の神風特攻隊か⋮⋮気がついたときは右手で握りこぶ しを作っていた⋮⋮﹃負けてなるか﹄の意志を示すかのように。 66 4月12日︵後書き︶ 何とか頑張ってもう一話更新です。 たまに転移まだーって意見がありますけど、転移前がプロローグと いう作品ではありませんと言うことを改めて申し上げます。 67 5月8日 ﹁では、日本のこれからを⋮⋮頼む﹂ 光はTV、ラジオなどの媒体を通じ、全ての官僚、国民、異世界 人に日本の今後を託す放送を流した。 次期総理大臣は池田法務大 臣が勤めることが確定し、光が死亡したことが確定した瞬間、藤堂 内閣から池田内閣へと変更される事になる。 そして、今日5月8日、光は日本総理大臣として、飛行機にて国 際連合本部に向けて出発する。 実は飛行機で移動するのは日本だ けで、他の各国の代表は海上にレールが製作されたジェットマグレ ブと呼ばれる、リニアモーターカーのより進化した移動手段を用い て非常に短時間で移動する。 ちなみに作ったのは当然日本人であ り、その作った日本人だけがジェットマグレブの使用を禁じられて いる。 飛び立っていった飛行機を見送ったフルーレは、全ての隊の隊長 に集合を呼びかけていた。 ﹁これからの活動を発表します、基本的にこのまま日本の防衛行動 が中心になることは変わりません。 念のために、天皇陛下を初め とした方々の護衛も怠らぬよう。 そして、1番隊、2番隊、3番 隊には特殊任務を命じます。 任務内容は⋮⋮﹃散歩﹄になります﹂ 一瞬静まり返る部隊員、が、2番隊隊長がすぐに理解を示した。 ﹁なるほど、﹃散歩﹄ですか。 じゃあ、﹃散歩﹄の先に、﹃たま たま﹄光殿がいらっしゃって﹃偶然﹄ピンチから救われるような﹃ 68 散歩﹄ってことですかい?﹂ フルーレはこの答えにうなずく。 ﹁はい、防衛でもなく、護衛でもなく、﹃散歩﹄です。 これなら ば、光様の指示にも引っかかりませんし、困っているところに﹃た またま﹄私たちが駆けつけるのも﹃散歩﹄ですから問題はないでし ょう、当然私も﹃散歩﹄に出向きます﹂ フルーレのこの台詞に﹁ずいぶんと偶然が必然と発生する﹃散歩﹄ ですなぁ﹂と笑いが漏れる。 ﹁あの方を死なせるつもりは初めからありません﹂ その時だった。 ﹁││我らとて始めからそのつもりだ﹂ フルーレの背後から突然数名の男達が現れる。 ﹁我らは日本の特殊部隊の︿忍﹀という。 藤堂殿の支援に出向く ﹃散歩﹄とやらに我々も同行する、﹃偶然﹄を装って我らが主を守 る手段は多数心得ている。 そちらの技術である魔法とやらを組み 合わせれば、よりあの方をお守りできる、故に我々は姿を現した﹂ フルーレと、︿忍び﹀沢渡大佐の無言のにらみ合いは30秒ほど 続いたが、どちら側からとも鳴く険しい表情を崩す。 ﹁結局私たちは﹂ 69 ﹁あのお方を失いたくない、と言うことだな﹂ そこからは、双方の歩み寄りはとても早かった。 実は光の乗っ ている飛行機の中には︿忍﹀達が自己判断で光に対する護衛行動に 当たっていた。 そのことを当人である光は一切知らない。 光の 決死の姿を見て、自らの意志で︿忍﹀は行動していた。 これらの行動は軍として見るのならば褒められた行為ではない、 しかし特殊部隊と言うあやふやな部分を生かして既に独自行動をし ていたのである。 彼らの行動理由はたった1つだけ、愛すべきバ カと言うべき特攻を仕掛ける主を死なせたくない、これだけである。 いざとなれば自らの命を盾にしても。 ││││││││││││││││││││││││ そんなフルーレ&︿忍﹀連合が独自行動しているとは露知らず、 光は国連会議場にて発言する事の内容を考えていた。 正直どれだ け言っても世界に対しては言い足りないし、そもそもの発言権をこ ちらに与えられるのかすら分からない。 それでも、それなりの覚 悟を決めて日本を出てきたのだから、一太刀でも浴びせてから後は 笑って死んでやる。 こんな世界など征服したところで日本にとっ ては損しかないのだと笑ってやる。 実際、日本が世界征服を成し遂げても日本にとって、うまみは全 くないのだ。 新しい技術なんて物には始めから期待できないし、 資源の獲得なんかした所で結局その資源から製品を作るのは自分達 なのだから、今までやってきたことと何も変わらない、むしろ資源 獲得のための労働力が余計にかかる。 世界の人間を奴隷にしたと しても、作業ではその作業をこなすだけの知識がないので使えない。 じゃあ皆殺しにするのか? そんなの時間と手間と道具の無駄使 70 いにしかならない。 結局、日本はそっとして置いてもらうのが一番の得だったのだ。 世界が勝手に思い込み、勝手に脅えて、その思い込みと脅えにつ け込んだ存在が都合のいい嘘を吐き、その嘘を真実として世界が日 本に言いがかりをつけてきたに過ぎない。 だがその嘘のせいで1 000年も日本の祖先は苦しんできた。 だが、それももう終わる ⋮⋮祖先に向けて、その報告がやっとできる。 ﹁桶狭間に関が原、大阪夏の陣、そして日清日露に太平洋⋮⋮最後 の戦は国際連合会議室か。 それもまた良しだ⋮⋮﹂ 呟きがつい漏れる、だか心は妙に穏やかだ、死の恐怖も何もない。 ただただやるだけやってやるの覚悟だけがより固まっていくだけ ⋮⋮。 そうして数日後の5月11日、いよいよ国連本部にて、日 本にとっては最後の国連会議が幕を開ける。 71 5月8日︵後書き︶ 短いですが更新。 そして光の知らないところで独自行動を行なっている方々がいます。 72 番外話、藤堂 光の国民への・・・︵前書き︶ リクエストがあったので緊急更新します。 73 番外話、藤堂 光の国民への・・・ それは、お昼の12時。 突然TVやラジオから首相官邸からの 直接放送が流れ始めた。 ﹁どうも、国民の皆様、1894代目の日本国首相の藤堂 光です、 お忙しい中ではありますが、ほんの少し、皆様のお時間を拝借させ て頂きます﹂ ここで光は一区切りおいてから、話を続ける。 ﹁さて、国民の皆様もすでにご存知な方も多いと思われますが、先 日国際連合より、﹃日本国首相は次回の国際連合に出席せよ、出席 しない場合は日本を包囲する﹄との通達が日本に突き付けられてお ります。 このため、私は現日本国総理大臣として、日本時間の5 月11日に行なわれる国際連合会議に出席いたします﹂ 既にラジオやTVの前では殆どの国民が放送を聞いている。 ﹁そして⋮⋮多彩な方面から状況を確認し、予測を立てた結果、私 は99%の確率で日本を出国した後に暗殺行為を受け、日本に生き て帰ることは⋮⋮絶望的との予測が立っております﹂ 国民の多くが息を飲んだ。 ﹁ですが、ここで私が国連の会議に出席せず、世界各国に日本を包 囲されれば、国民の皆様を不安に陥れる事になり、精神的に多大な 苦痛を強いてしまう事になります、それは国を預かる総理として許 される判断ではございません﹂ 74 光の話は続く。 ﹁故に! 私が出向き、例え暗殺をされてしまったとしても! 皆 様が向こうの世界に少しでも無事に向かえる様にする為に、私が今 出来る事をさせて頂く所存であります。 それから、今は緊急事態 でございますので、私の死亡が確認され次第、次の総理大臣が決ま る事も確定しております﹂ TVやラジオはただただ放送を冷酷に伝えるのみである。 ﹁皆様の未来の為に、祖先の願いの為に、私が盾になれると言うの であれば、本望であります! そして、こたびの話を立ち上げた当 人であるというのに、ここでほぼ離脱する事になってしまったこの 卑怯者である私は、全ての国民の皆様にここで詫びねばなりません。 真に申し訳ない! ││本来ならば、向こうの世界に向かった後 に、あらゆる面倒事を片付けるまでは総理を勤め上げる覚悟であり ましたが⋮⋮それもほぼ叶わなくなり、真に無念としか言いようが ございません⋮⋮﹂ そして最後の言葉。 ﹁最後に国民の皆様にお願いがございます! どうか、向こうの世 界に渡り、日本人の魂を存分に発揮して、大いに栄えていただきた い! そうなれば、ようやく長い祖先からの苦悩が報われるのです、 それらを国民の皆様ひとりひとりに今託す事をお許し願いたい! やり遂げて下さい! それをきっと私は⋮⋮それでは、日本のこれ からを⋮⋮頼む﹂ そうして放送が終了した。 75 番外話、藤堂 光の国民への・・・︵後書き︶ リクエスト下さった方、これでよろしいでしょうか。 76 5月11日 国際連合本部大会議室 ﹁えー、と言うことでありまして、つまり日本は明らかに侵略の意 思を見せており⋮⋮﹂ 光ははもう殆ど次々と発言をしている各国代代表の話を聞いてい ない。 眠いのではない、やる気がないのではない、怒り狂ってい るのだ。 でたらめな理由、でっち上げの証拠、そういったものを目の前で 積み上げていくだけでも腹立たしいのに、発言をする代表は明らか に一瞬こちらを見たかと思うと﹃これならどうしようもあるまい?﹄ とばかりにわざわざニヤリと醜く笑うのだ。 こんなブタ共に我らの祖先は、そして我々は苦しめられてきたと いうのか。 言いがかりでゆすり、たかってこちらの技術を寄生虫 のように吸う事で栄えてきた連中。 技術提供の名の下に日本人を 酷使し、過労死させてきた者達。 ││だが、もうそれは二度と戻 らぬ日々だという事をこの会議にて教えてくれるわ⋮⋮! ││││││││││││││││││││││││ そんな怒り狂う光の心情など全く察せず、次から次へと﹃日本に とって一方的に不利な、虚実のみで作られたまがい物の物事﹄とや らを更に積み上げていく各国代表。 彼らは疑っていなかった、日 本がこれらの条件に屈し、再び自国の為の奴隷として日本人をこき 使うことが出来るサイクルが戻ると信じきっていた。 77 流石に食料こそある程度は自国でも生産していたが、その他のあ らゆる物に対しては、ほぼ日本人に作らせることで解決してきた。 実質、各国の武器に使われているパーツの80%は日本製であり、 フルーレが率いる部隊の活躍で世界各国が日本人を失ってからは、 武器の製造を始めとして、あらゆる生産系統がゆっくりと麻痺し始 めている。 特に1番影響が出ているのは水だ。 2000年前より日本が作 り続けていた海水をろ過するシートの供給が止まってしまったため、 世界のあちこちで非常にゆっくりとではあるが水資源の減少が進ん でいる状態である。 それが深刻な事態にまで発展するのに、時間 はそうは掛からないだろう。 水を取り戻すため、生産ラインを再稼動させるためにも、﹃世界﹄ 側も日本を屈服させて再び日本人をこき使う状態へと戻さなければ ならない必要に駆られていたのだ⋮⋮日本人にばかり物つくりを強 いてきた反動で、今の生活水準を維持するために必要な物資を作れ るのは日本人しかいなくなっていたからだ。 そのため﹃世界﹄各国は、裏で協力し合って日本が悪党であると いう三味線を、でかでかと弾くハメになったのだ。 既にもう手遅 れでしかないという事にはまだ一切気がついていないのだが。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁では、日本国首相、ヒカル・トウドウ、何か発言することはある か?﹂ 議長が﹁形式上やむなく言うが、お前は黙っていろ﹂との意味を 78 こめるかのように威圧と声を光へと飛ばす。 だがその威圧は光に とっては何の意味も持っていないに等しい。 なぜなら既に光は怒 気を通り越して殺気を放ち始めていたのだから。 殺気の前には威 圧などないに等しい。 光はゆっくりと立ち上がる。 ﹁││では、1番前の壇上にて発言することをお許し願いたい﹂ 爆発しそうな感情を抑えてそう発言し、前に進み出る。 議長は 渋い顔をしたが、光はそんなもの知った事ではないとばかりに前に 出る。 そして壇上に進み、世界各国の代表を一瞥した後、光は口 を開いた。 ﹁自惚れるな貴様ら。 この世界など征服する価値は、1セントコ イン一枚の価値すらない!﹂ ダン! と拳を振り下ろしながら光は吠えた。 ﹁散々日本が世界征服に向けて動き出したなどと、色々と下らん理 由を上げていたが、そもそも、今の日本にとって世界征服をするメ リットは何だ! 答えてみろ!﹂ 各国の代表は予想外の展開にざわつき始めた。 ﹁そして先にこちらから答えを言ってやろう! 無い! 一切無い ! それが答えだ!﹂ この光の発言に流石に反論が上がり始める。 ﹁我らの国に価値が無いというのか!﹂ 79 ﹁我々はお前達よりはるかに豊かだ! そんな我が祖国に価値が無 いだと!?﹂ 怒気が込められた反論が飛び交う、だが光は平然とした態度で反 論する。 ﹁下らん。 その豊かさは我々を食い物にし続けたからこそ存在し ているのだ! 我々の祖先に嘘の罪をなすりつけ、酷使し、殺し、 奪い取ってきたからこそその豊かさがあるのだ! 我々が消えてし まえば、それはもう砂上の楼閣のごとく崩れ去るだけだ! 後10 年も持たぬだろうな!﹂ 事実である。 今の4027年の地球にとってはそれは紛れもな い事実である。 ﹁今のお前達に1から物が作れるのか? 細かい道具、部品、安全 管理、安定した生産、お前達にできるのか!? 出来ないだろう、 我々日本人にそういう労働部分をほぼ全て押し付けてきたからな!﹂ この言葉に先ほどまで怒気に溢れていた会議場が一瞬で静まり返 る。 ﹁故に、今更世界征服などしたところで何になる。 正直に言えば 貨幣なんて日本にとっては既に紙くずにしか過ぎん。 壊す事と奪 うことしか出来なくなったお前達と、生み出すことをひたすらに磨 いてきた我々とは、もう既に立っている場所が、世界そのものが違 うのだ!﹂ 世界に自分と祖先の怒りを叩きつけると覚悟して臨んだこの会議。 世界は日本を相変わらず暴力でどうにかできると思い込んでいた。 80 だが、フルーレ達の助けがある今なら、もうこの呪われた鎖を引 きちぎって飛ぶことが出来るのだ。 ﹁悔しいか? 憎いか? 思い通りに行かず腹立たしいか? 教え てやる、今のお前等の心境なんてかわいい物だ、お前達の祖先が我 々の祖先に対してやってきた嘘とありもしなかった物事に対する攻 撃に比べればな!﹂ 謝罪する事すらできぬくせに。 国際的な場では、過去の物事に 対してこのような事を繰り返さないというのが限界の癖に、自分達 に出来ない謝罪やら賠償やらを日本に要求してるんじゃない。 ﹁き、き、貴様あ!﹂ 激昂したある国の代表が立ち上がり、隠し持っていたビームガン を光に向ける。 携帯する事を黙認されていたのか、ビームガンを 向けた代表を会議場の警備員が止めに入る様子が無い。 ﹁し、死にたくはあるまい!? あのバリアも無いのだからここで 俺が引き金を引けば﹁引いてみろ!!﹂﹂ わめきだした男の声に光は声を被せた。 ﹁この場所へは始めから死ぬつもりで乗り込んだ! それに今俺が 死んでももう代わりは用意してきた! 死ぬことはすでに怖くなど 無い! 忘れたのか? 俺は日本人だ、﹃神風特攻﹄をした祖先を 持つ日本人だ! 貴様のような奴とは、気合も、命の熱さも、魂に 背負った重さも何から何まで違うのだ!﹂ 光が吠え、ビームガンを持った男を両目で睨み付ける。 ビーム 81 ガンを持った男は圧倒的優位に立っているはずなのに、脂汗と冷や 汗が入り混じった汗を流し、指をカタカタと震わせるばかり。 今 まで数え切れぬほど引いてきたはずの軽いビームガンのトリガーが、 まるで鉛になってしまったかのように重く、引くことが出来なかっ た。 他にも数人ビームガンを持ち込んでいた代表はいたのだが⋮⋮そ の者達も光の威圧に完全に飲まれており、震え上がっているだけで あった。 彼らにとって、戦争とは遊びであり、絶対的優位な場所 から見下ろすだけ。 そのために本当の威圧に対しての耐性が全く 無かったのだ。 ﹁交渉は決裂だ、お前達の要求、ならびに日本の世界征服を認める 行為、全てにNOと言わせて貰おう! もう二度とここへ日本がく ることは無い、故に正式に国際連合を日本は脱退する! 運営資金 の大半を出していたのはどこの国であったか、思い出してみるんだ な!﹂ こうして、国連本部で行なわれた日本最後の会議は終わった。 運営資金捻出の大半を失い、資金繰りが出来なくなった事に比例し て、行動も次々と取れなくなっていく国連は、自然と力を失ってい った⋮⋮。 82 5月11日︵後書き︶ そんなに∼は、深く考えなくても話が浮かんできます。 時間の9割が文章をこうして書くことのみに使われています。 83 5月12日 ︵光や︶ ﹁││じいちゃん?﹂ ︵光や。 お前は昔わしにこう聞いたな? ﹃何で日本はこんなに 苦しまなきゃならないの?﹄とな︶ ﹁うん、確かに聞いたよ﹂ ︵そして、今のお前はもう分かったのだろう? 全ては世界の一方 的な都合だったと︶ ﹁⋮⋮﹂ ︵そしてお前は⋮⋮今は総理大臣になって⋮⋮日本の未来を牽引す るとはのう︶ ﹁じいちゃん⋮⋮﹂ ︵じゃかな、光や。 牽引を始めたのなら、最後までやり遂げる、 それが大事じゃぞ︶ ﹁でも、もう自分は日本には⋮⋮﹂ ︵光! 最後まであがくのじゃ! 格好なんぞどうでもいいわ、生 きて、生き延びてわしらの無念を繰り返すような日本の歴史に終止 符をお前がうつのじゃ!︶ 84 ﹁じい⋮⋮ちゃん⋮⋮?﹂ ︵こちらに来るのはずっと後で良いのじゃからの︶ ││││││││││││││││││││││││ ﹁じいちゃん!?﹂ 光は起き上がって、左右を見渡す。 そこはとあるホテルの最上 階のスィートルーム。 寝ているうちに暗殺されるのだろうから、 最後ぐらいと奮発して泊まったのだが。 ﹁││今のは夢? そして俺はまだ生きて⋮⋮いる? 何故⋮⋮各 国は暗殺に来ないのだ?﹂ 実際は30人ほど光の寝込みを襲う暗殺者達は来ていた。 が、 忍とフルーレ隊連合のお散歩部隊によってことごとく始末されてい た。 ﹁死ぬより、生きて仕事を完遂しろってことか⋮⋮じいちゃん﹂ 昨日の演説を終え、国際連合を脱退し、やるべきことはやり終わ ったと考えて二度と目が開かないであろう、永遠の睡眠をとるつも りで眠りについたのに⋮⋮手が動く、足も動く、体はとても調子が いい。 そして何より、心が熱かった。 昨日で心にある熱を使い 果たしたつもりが、よりいっそう燃え滾っているような感覚すら覚 える。 ︵行くか! そして日本へ帰ろう! まだ俺は戦い続けなければい 85 けない!︶ 立ち上がり、気力を取り戻した光は、日本に帰還するべく一歩を 踏み出した。 ││││││││││││││││││││││││ 泊まっていたホテルをチェックアウトし、空港を目指す。 ここ から歩いて30分ぐらいで到着するぐらいの距離であり、遠くは無 いのだが⋮⋮。 ﹁何故どのタクシーも乗せてくれないのだ?﹂ あらゆる交通手段が光を乗せる事を拒んだ。 この理由は、光が 国際指名手配された事によるためで、そんな犯罪者を乗せれば共犯 者となるため拒否されたのだ。 日本国首相ではあるが、実際は一 旅行者と対して変わらない今の状態にある光にとって、その情報を 手に入れることが出来ていなかった。 埒が明かないと判断し、徒歩で人ごみに紛れて空港まで行くこと にした光は、目的地に向かって歩き出した。 そうして、人ごみに 紛れようと向きを変えて進みだした時に⋮⋮ふと左腕に違和感を感 じた。 ︵なんだ?︶ そう思って確認をすると⋮⋮スーツの袖が切り裂かれており、切 り裂いたと思われるナイフをぎらつかせる人間が1人いた。 ︿ヒカル・トウドウだな? こちらの誘導に従ってもらおうか﹀ 86 くぐもった声で性別の判断ががしにくい声をこちらに向けたかと 思うと背中に冷たい物を押し付けてくる。 下手に動いても好転し ないと理解できてしまった光には相手の誘導に従うほか無かった。 誘導された先は、明らかに人通りが少なくなってゆくのが分かる。 ︵││くそっ、こいつらの行動理由は分からんが、結局俺が迎える 結末は変わらんのか!︶ 文句の一つも言ってやりたくなってくるが、言ったところで反応 を返す相手とも思えず、結果としてだんまりを決め込むしかない光。 誘導された先は、高い塀に囲まれた人気の無い場所であった。 ︿そのまま前進しろ、進まないなら⋮⋮﹀ そういって、また背中に冷たい物を押し付けてくる。 光はやむ なく前進する。 ︿そこの立っている棒の前で止まれ﹀ 止まった光を棒に縄でくくりつける覆面をした男達、くくりつけ 終わったとたんに、周りに多くの薪を置いていく⋮⋮これは。 ﹁魔女の火あぶりか⋮⋮俺は男なんだがな﹂ そうぽろっと漏らした光に、仮面の男たちは一斉に銃口を向けて ⋮⋮ ︿黙れ、ジャップ・レッサー・デーモン! 悪いジャップはこうし て焼かれて浄化せねばならない! そうしなければ世界が滅ぶ! 87 これは神の意思だ﹀ 神の意思ね。 なす ﹁下らん、自分達の行動理由すら神に擦り付けるのか。 自分達の 行動する理由を、責任を、神に受け持たせるんじゃない!﹂ ││ヒュイィィン⋮⋮ 光が声を荒げた途端、覆面の男の1人が光に向かってビームガン を撃った、そのビームは光の太ももを貫いた。 ﹁ぐ⋮⋮っ﹂ 襲ってきた猛烈な痛みに光は叫びたくなるが、ここはぐっと堪え る。 ︿黙れ。 貴様のような穢れた悪魔が神の使途である我々を侮辱す るな﹀ ︿動揺を狙ったのか、さすがは悪魔だ。 皆、こんな奴の言葉に乗 せられるなよ!﹀ 覆面たちはそう言葉を交わすと、薪をさらに積み上げてゆく。 そうして、十分に薪が積み上げられたところで覆面を被った男たち は、天に向かって何やら祈り始めた。 ︿我らが偉大なる神よ、今、貴方よりもたらされた聖なる業火にて、 この悪魔を浄化致します。 どうか、この悪魔に正義の鉄槌が下さ れるところを天よりご覧くださいませ﹀ 88 そう祈ってから、松明に火をつけ、覆面をつけている男たちの中 から、5人が松明の火を持ちながら光を取り囲む。 ︿これより、悪魔浄化を執り行う。 ジャップ・レッサー・デーモ ンよ、聖なる浄化の業火にとって、永遠にこの世界から消え去るが いい!﹀ そう宣言し、覆面の男たちは積まれた薪に火をつけようとしたの だが、その瞬間⋮⋮。 ﹁消え去るのはお前達の方だ﹂ ﹁神の名を借りる愚か者、お前達こそ燃やされなさい!﹂ 松明を持っていた覆面の男たちは不意打ちを仕掛けた沢渡大佐の 手で首を飛ばされる。 首が落ち、力なく体のほうも倒れていく。 後ろに控えていた覆面の男たちはフルーレの火魔法によって一瞬 のうちに燃やしつくされた。 ﹁││お前達! なぜここに居る!﹂ 光は痛みを忘れて沢渡大佐とフルーレをしかりつける。 ﹁我々は散歩に来ただけです﹂ ﹁そうしたら、散歩している先で﹃偶然﹄光様を見つけたので尾行 し、﹃偶然﹄危害を加えられていたのでお助けしただけでございま す。 ︽水よ、かの者を癒せ︾、はい、これで足も大丈夫でしょう﹂ 89 足がもう、綺麗に治っていた。 直っていないのは穴が開いたス ーツだけだ。 ﹁この大ばか者どもが⋮⋮すまない、ありがとう⋮⋮﹂ すぐに光は解放され、開放された後に出た第一声がこれであった。 ちなみにフルーレと沢渡大佐は登場するタイミングを計っていた のではなく、この覆面達のバックアップをしていた連中を先に始末 していたために遅くなったのだ。 ﹁光様、貴方は死に急いではいけません!﹂ ﹁光殿、貴方のような人間こそ、今の日本に必要なのです、どうか 早まらないで頂きたい﹂ フルーレ、沢渡大佐が懇願を光に伝える。 光の国連会議場にて 吠えた内容は既に日本中に伝わっていたりする。 当然伝えるのに 一役買ったのはフルーレの部隊である。 ﹁││不甲斐無い所も多くある総理だが、それを承知で⋮⋮これか らも頼む。 転移を成功させるぞ!﹂ 光は二人の懇願に答え、その意思を伝えた。 ﹁隊長、大雑把ではありますが、あの情けない仮面の連中の仲間は 大体潰してきやした。 総理も救出できた以上、さっさと散歩を終 わらせて帰りましょうや﹂ 二番隊の隊長がフルーレに告げる。 90 ﹁そうですね、光様、そういうことで宜しいでしょうか?﹂ 光は頷き、撤収を指示する。 その数秒後、光とお散歩部隊はそ の場から完全に姿を消していた。 91 5月12日︵後書き︶ と言うわけで、光の日本帰国です。 92 5月18日 光が九死に一生を得たあの日から数日が経過した。 国民に生き て帰ってきた事の報告、国際連合から正式に脱退したとの報告、今 後の総理としての振舞い方などを告げることから始まり、臨時国会 を開き、今後の日本国としての行動の道筋、転移した後の対策など、 たまっていた仕事をやっつけてようやく一息ついた、そんな状況で ある。 ﹁光様に二つ、申し上げることがございます。 大事な話ですので お聞き下さい﹂ 何時になく厳しい表情と口調でフルーレが話を切り出した。 ﹁一つめは光様に魔法を覚えていただきます、二つ目はこちらの国 の代表が光様との直接会談を臨んでおりますので、光様に都合をつ けて頂きたい、この二点です﹂ 一瞬その内容を聞いてあっけに取られた光だが、すぐに落ち着き を取り戻した。 ﹁二つ目の直接会談は、五日後以降なら引き受けよう、スケジュー ルも空けられる。 だが、魔法を覚えると言われても、俺に才があ るかも分からぬし、そもそもこちらには﹃魔力﹄に値する物が全く と言っていいほど無いとおもうのだが?﹂ 光の言葉を聞いたフルーレが、頷いた後に静かに説明を開始した。 ﹁会談のほうは五日後と言うことにさせていただきますね、時間な 93 どの細かい調整は後ほど行ないましょう。 では、魔法について簡 単に説明させていただきます。 まず最初に﹃魔力﹄ですが、この 魔法陣を展開してから、日本皇国に限り魔力が多少私達の世界より 流れてきておりますので問題ございません﹂ 光は首を傾げる。 ﹁そんなことをして問題はないのか?﹂ フルーレは光の質問に答えつつ話を続けた。 ﹁はい、と言うより今後のために必須であるといえます。 そもそ も、転移にここまでの時間を掛けるのにそれなりの理由がございま す。 その最大理由は﹃こちらの世界の人達をゆっくりと魔力に慣 れさせる事﹄でございます。 こちらの世界のように魔力がほぼな い世界から私達の世界にいきなり転移させますと、大きな問題が発 生してしまうのです。 私達はそれを﹃魔力濃度障害﹄と呼んでお ります。 そちらの皆様が分かりやすいように申し上げますと、1 番近いのは高山病が該当するでしょうか﹂ 高山病とは、普段平地で生活している人が高い山などに登ること によって発生する﹃病気のような物﹄である。 軽いめまい、体調 不良に始まり、それを無視して無理やり上ると倒れることはもちろ ん、最悪死亡する。 理由は酸素濃度の低下であり、体がその薄い 空気に慣れていないために異常を引き起こすのだ。 一番の治療法 は下山する事である、下山してしまえばケロッと治る。 高山病を 発動せずに登山するには、無理をせず、ゆっくりと登る事で体を慣 れさせる事である。 それでも発病してしまう人はいるのだが⋮⋮。 ﹁高山病はすぐに下山すれば問題になりませんが、日本皇国が私達 94 の世界に転移してしまった後では、すぐに再転移する様な方法は使 えません。 数人ならば魔力から隔離する家を作ることも出来ます が、数千万人ではそれも物理的に不可能です。 故に日本人の皆様 に、ゆっくりと魔力に慣らすことでそれらの病状を出さないように しております、慣れてしまえば全く問題はありませんので。 魔力 は毒と言うわけではありませんから﹂ ふうむ、と光は顎に手を当ててしばし考え、思考を巡らせた。 ﹁なるほど、では今この瞬間にも目には見えないが魔力は確かに存 在しているというわけか。 しかし何故急に魔法を俺に教えようと する? そちらにとっても魔法の力に溺れないで欲しいと前に言わ なかったか?﹂ 記憶の糸を辿りつつ、光は言葉をつむいだ。 ﹁はい、その通りです、ですがこの前のように、あのような無茶を する人にはそうも言っておられません。 貴方に今倒れられるのは 私達にとっても大きな損害である、そう結論が出ておりますので﹂ 当然、ここの無茶とはこの前の国際連合相手に光が起こした行動 全般である。 ﹁││そうか、分かった⋮⋮魔法の事を教えて欲しい。 真摯に魔 法についての勉強を行う事と、ならびにその危険性に正面からきち んと向き合う事も約束しよう﹂ フルーレはこの光の決定にほっと一息をついていた。 が、光の 言葉はまだ終わっていなかった。 95 ﹁それから、一つそちら側から融通してほしいものがある⋮⋮ゴー レムを扱うことが出来る部隊員が居るのなら、しばらくこちらに貸 し出して欲しいのだ﹂ この光からの申し出に、フルーレは考え込んだ後に疑問に思った 部分を質問する。 ﹁ええ、ゴーレム部隊はおりますが、あんなゴーレムをどう使うと 言うのでしょうか? ゴーレムは動きは鈍く、行動も単調な事しか 指示出来ず、あまり役に立つ物と言うわけではありませんが⋮⋮せ いぜい重い荷物の運搬ぐらいにしか使えない⋮⋮そう考えられてい るのです﹂ この返答を受けて、光はついニヤリと笑ってしまう。 マギサイエンス ﹁だが頑丈だろう? そして二足歩行も可能⋮⋮その技術が欲しい のだ。 言わば、﹃魔法科学﹄の第一弾として使いたい素材だ⋮⋮ それに転移するまでに、絶対に世界側がやってくる行動の阻止にも 使えるはずだからな⋮⋮﹂ 浪漫と実益を兼ね備える物を作るためにも、ゴーレムの技術が欲 しかった。 あんな物をどう使うのでしょうか? と首をひねり続 けるフルーレを横目に光は電話をかける、電話の先は⋮⋮とある工 場であり、首相として視察に向かう事の確認である。 電話を受け た工場長は、まさか首相本人が直接電話をかけてくるとは予想して いなかったようで慌てていたが。 96 5月18日︵後書き︶ この時点でもう分かる人には分かっちゃうかな⋮⋮。 97 5月20日 二日後。 光の前に一枚の蝶の形をした紙がまるで生きているか のようにひらひらとゆっくり舞っていた。 一見光は遊んでいるよ うに見えるが、これはれっきとした魔法の修行方法である。 ﹁魔法も一日にして成るものではありません。 そして、最初の一 ヶ月が特に一番大事なのです﹂ フルーレはこう光に告げて魔法の手ほどきを始めた。 細かい話 が多数あったのだが、話を大雑把に纏めると大体こうだ。 1、魔法は魔法回路と呼ばれる回路を開通し、その回路に自分の意 思で魔力を流し意思を載せる事で発動させることができる。 回路 の開通は、すでに魔法を使える者が特定の資格を取り習得すること で開通させることが出来る能力を獲る。 ︵光はフルーレによって 魔法回路を開通させてもらった︶ 2、回路の強さ、太さなどは開通してから一ヶ月の間に、少しでも 多くの魔力を回路に通わせることができるかどうかで決まる。 そ の後どんなに努力をしても強化されることも弱体化されることもな いため、その一ヶ月は忍耐の一月といわれる。 3、回路が細かったり弱かったりすると、それに比例して魔法も弱 かったり使えなかったり、最悪暴走させてしまい自爆することすら ある。 逆にしっかりと最初の一ヶ月で回路を強靭に鍛えれば強力 な魔法を使いこなすことが可能になる。 という事であった。 そのため、フルーレたちの世界でも魔法を 98 習うのは最初の一ヶ月に耐えることが可能な心身を得る、こちらで 言う高校生あたりで始めるらしい。 先生が生徒の魔法回路を開き、 生徒はそれから一ヶ月ありとあらゆる状態において魔法を流し続け るのだ。 もちろん大変だし、うっすらと汗も滲んでくる。 しか しそこでサボると将来魔法がまともに使う事が出来ない、という現 実が容赦なく待ち受けているので、よっぽどのことがない限りサボ る人は居ないそうだ。 例外として病弱な者、大怪我を負っている者などは回路を開かな いこともある。 回路を開くのはいつでも良いのでそういった者達 も、体が回復すれば回路を開く者もいる。 そして魔法回路に魔力が流れ魔法が流れていることの確認として 最もお手軽なのが、今光もやっている蝶の形をした紙を落とさずに 微弱な風魔法で浮かべ続けるという物だ。 これならば周りに危害 を加えることもなく、一番安全な訓練方法であるとされている。 光の周りを飛ぶ蝶型の紙を見た魔法部隊の隊員は、訓練がんばって 下さいと光に声をかけることも多かった。 ﹁今日は視察に向かう。 フルーレ、ゴーレムを運用できる人数は これで全員だな?﹂ ﹁はい、私たちに同行したメンバーではこの10人で全員です﹂ ﹁よし、では早速今日の目的地に向かう、光陵重化学の工場へ向か ってくれ﹂ 光、フルーレ、ゴーレムを運用できる魔法部隊10名は一路光陵 重化学工業のとある工場を目指す⋮⋮そこに光が今後日本防衛に必 要であると踏んでいる、ある物がひそかに作られていることを忍の 99 沢渡大佐からの情報で掴んでいたのだ。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁これはこれは、総理直々の視察、ようこそいらっしゃいました、 光陵重化学07番工場を預かっている如月と申します﹂ 60になるかならないか位の男が握手を求めてくる、この如月と いう男に会うことが光の目的の一つだった。 ﹁いやいや、お仕事中申し訳ありませんな﹂ そう言いながら、光は如月工場長と握手を交わす。 だが和やか な空気はここまでだった。 ﹁して、わざわざ総理が直々に視察にいらっしゃった理由をそろそ ろ伺ってもよろしいでしょうか?﹂ 如月工場長の仕掛けてきた会話の切り出しに、光は速攻でのカウ ンターをかけた。 ﹁そうですな、RS│001│KAMUI、直接拝見させていただ きたいですな﹂ 如月工場長が一瞬で凍りついた。 RS│001│KAMUIと は、光陵重化学工業が今までの長い日本の奴隷として苦しんだ歴史 を破壊するための秘策である2速歩行が可能で、多種多様な武器を 運用し動き回ることが出来るという人型の機械仕掛けのバトルウォ ーリア、その試作品である。 100 戦闘機は補給が困難であること、船では陸上での運用が出来ない こと、戦車などは地形による行動が左右されること︵特にキャタピ ラが枷になる︶、そうした理由もあり、人型で五本指を持ち武器を 運用できるというアニメーションさながらの戦闘機体を作るという 結論が下されたのが実に300年ほど前。 それから試行試作を重ね、機密での専用OSの作成、ならびにア ップデート。 機体の製作、問題点の洗い出し、あらゆる状況から 生還する装甲に機動力、これらの条件を満たすための材料の確保な ど、多くの人間の血と屍を吸いながらも難題を乗り越え、ようやく 形になったのがRS│001│KAMUIなのである。 ﹁││総理は⋮⋮どうやって存在を⋮⋮いや、あの我々の血を奪う おつもり⋮⋮なのですかな?﹂ 如月工場長は絶望の二文字が自分の目の前に立ちふさがっていく ような錯覚を覚えた。 300年の成果がここで消えてしまうので はないだろうか? しかし、光の言葉は如月工場長の予想とは違う 方向に向かいだした。 ﹁いいえ、むしろ、もっと強化して欲しい。 そして、私専用の機 体の製作、ならびに量産を推し進めて欲しいために、今日私はこの 場所を訪れたのです﹂ 光は予想していた。 今日本を覆って保護してくれている魔方陣 だが、おそらくAIを搭載した機械には無力であろうと。 AIな らば幾らでも嘘をつけるからだ⋮⋮AI達の意思とは無関係に。 例えばだ、AI達に日本人が疫病で苦しんでいる為に救助に向か えという指示を下し、薬を持たせた場合は? 救助のため悪意に反 101 応せず、その体は機械ゆえに魔方陣の人間の拒絶に反応しない。 そして薬の中身が実は麻薬であったり度を越えた栄養剤だった場合 は? 麻薬も麻酔手術に必要となるため必要な面があるし、栄養剤 も毒ではないため悪意にはならないだろう。 だが、そんな物を大 量に体に一度に注入された場合はどうなる? 格言にこういう言葉がある。﹃人が一番頭を使う事とは、他者の 殺し方の研究をする事である﹄と。 故にいろんな人の殺す方法が 世の中には存在しているのだ。 苦痛が少ない、多い両方を含めて。 これらの考えを光はフルーレ達魔法部隊、如月工場長に語った。 ﹁││今の世界は、こちらを攻撃できるのならどんな手段でも使え るだろう。 そのとき、フルーレ達ばかりに頼っていては、物量で 押されかねない。 ならば質で立ち向かうしかないのだ。 それ故 に、RS│001│KAMUIを母体とした強力な⋮⋮あえて言お うか、スーパーロボットの戦士が必要なのだ﹂ 沈黙がしばらく場を支配したが、口を開いたのは如月工場長だっ た。 マギサイエンス ﹁││分かりました、魔法科学に挑戦させていただきましょう! その代わり、もう我々がここで機体を作っていることは⋮⋮﹂ 光も答える。 ﹁責はすべて私が負う。 時間は少ない、やってくれ。 魔法部隊 の皆も、ゴーレムの優秀な部分を提供し、より強い戦士を生み出し てくれ﹂ 102 すかさず敬礼する10名のゴーレムを扱える魔法部隊の面々。 ここに新しい日本の戦力となる搭乗する機械仕掛けの戦士が生み出 され始めた。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁光様、本当にそんな恐ろしい未来が来るのでしょうか?﹂ フルーレとの帰る道すがら、フルーレは不安そうな表情で光に問い かけてきた。 彼女の思考からかなり逸脱する話になってきていた からである。 ﹁残念ながら現実にそうなってしまう可能性はかなり高いといわざ るを得ない。 今の世界は生産能力は全体的に見ると低いが、それ でも唯一高い部分があった、それが軍事関連だ。 そして予想でき ることは現実になる可能性があるという事だ。 おそらく、今年の 年末、転移する少々前に戦力を整えて仕掛けてくるだろうと予想し ている。 願わくばそれまでに⋮⋮機械仕掛けの戦士が完成してい てくれれば⋮⋮﹂ 世界の方は日本の予想外の反撃によってかなりの混乱に陥ってい る。 それを纏めるには日本をもう一度悪党にして撃てばよい。 静かに送ってくれる優しい世界ではないことを嫌と言うほど分かっ ている。 時間は後どれぐらい残っているのか⋮⋮浮かんでいる蝶 型の紙が不安定な動きを見せるのが、まさに今の世界情勢に見えて 来る光であった。 103 5月20日︵後書き︶ 話が進まない⋮⋮でも何とか一話更新です。 104 5月23日︵前半︶ ﹁今日は貴方達の世界の3国の象徴である方々が此方にいらっしゃ る日だったな、フルーレ﹂ ﹁はい、本日の此方の時間で言えば午前11時に到着いたします﹂ 朝の会議にてのやり取りである。 ﹁しかし、貴方達の国の象徴が此方に出向いてもよいのか? 問題 が多数あるはずだが﹂ ﹁問題はありません、此方側の魔力の濃度も一定を満たしつつあり ますし、向こうの強い要望でもあります﹂ そう、日本が今後行く予定になっている世界の各国の象徴⋮⋮日 本で言えば天皇陛下に当たる存在がこちらの世界に遊びに来る事に なっている、その当日が今日である。 ﹁しかし、本当に来るとは⋮⋮﹂ 話は少々さかのぼる。 ││││││││││││││││││││││││ 二日前 ﹁光様、お話しておきたいことがございます﹂ 105 会議の最中、フルーレにそう言われ、内容を確認すると光は驚い た。 ﹁フルーレ、これは本当か!? てっきり自分は各国の代表の一人 と御付の人がくると思っていたのだが、各国の﹃象徴﹄を担ってい る方々が直接来られるというのか!?﹂ 冷静に考えてみて欲しい。 ある日突然天皇陛下が脈絡もなく他 国に訪問に行きますなんて放送を流されたら混乱するだろう、まし てやその先が良くわからない場所だったりしたら。 ﹁周りの方々はお引きとめにならなかったのか⋮⋮?﹂ ﹁それが、力ずくで決定されてしまったようで⋮⋮ご本人に﹂ ナニソレ。 光は頭を抱える⋮⋮今の日本は観光地ではないと言 うのに。 ﹁ではせめて、何故直接そのような身分の方々が力ずくで来るよう になったのか、その理由だけでも予想できないか⋮⋮?﹂ 精神的に痛む頭を抱えつつ光はフルーレに問う。 が、フルーレ は何故か目を泳がせる。 ﹁フルーレ⋮⋮何を隠している?﹂ ﹁えーっとですね⋮⋮そのですね⋮⋮﹂ どうにも歯切れが悪い。 こんな彼女を見るのは珍しいが、来る お客人がとんでもない存在なので聞き出さないわけにも行かない。 106 そう考えを纏めた光に笑い声が聞こえてきた。 ﹁光の旦那、あっしから報告します。 何故うちらの大将自らがこ っちに来るつもりになったのか。 その理由は我々が送った日本の 食事が理由なんでさあ﹂ そう言い出す二番隊長の男性が話した内容を大雑把に纏めると、 フルーレ達が見本として送った日本の料理を向こうの国家の象徴三 名が皆気に入り、ぜひもっと食べたいと言う要求を出していた。 だが日本の転移はまだまだ先ゆえに当分は我慢をしなければ、そう 考えて我慢をしていたらしい。 ところが、だ。 国家の代表を一 度日本に送り、視察をしておこうと言う考えが持ち上がり、各国の 代表者とお供、各3名を選出し、視察に向かわせる事を決定した。 それを聞きつけた各国の﹃象徴﹄の方々は⋮⋮。 ﹁向こうにいければご飯が食べられる。 だから我々が出向こう、 大義名分はでっち上げよう﹂ と言う共通の食欲が原動力となった無駄にすごい行動力を発揮し てすぐさま合意。 行動に乗り出し、文字通りの﹃力ずく﹄にてこ ちらに来る事になったのだそうだ。 ﹁それで良いのか⋮⋮? そんな理由で⋮⋮﹂ ﹁そんな理由などと言わないでください!﹂ 突然会議に出席していた部隊隊長、特に女性隊長が次々と立ち上 がる。 ﹁こんなおいしいものがたくさん有る世界は誘惑に満ちています!﹂ 107 ﹁あんな甘くておいしいもの、食べたくなって当然です!﹂ そうすると次は男性の部隊隊長達も立ち上がる。 ﹁一枚の肉を焼く、そのことにアレだけ技術をつぎ込めるのはすご い!﹂ ﹁丼物と言うものも食べてみましたが、アレは美味い! しかも種 類も多い!﹂ ﹁寿司こそ最強だ! 生で食する魚があれほどまでに美味いとは!﹂ 今会議中だよな⋮⋮? そんなやや呆然としかかっている光を置 き去りにして部隊隊長たちの言い争いはさらにヒートアップする。 ﹁オムライスは素晴らしいわ! あの組み合わせはもはや奇跡よ!﹂ ﹁甘い! エビフライにタルタルソースの組み合わせこそが最高だ !﹂ ﹁判ってないわね、てんぷらの揚げたてを熱いうちに食べる、アレ こそが最高の一品よ﹂ ﹁ふふん、そこにセイシュが抜けているぞ! キュッとやると言う 言葉の意味が分かって来たわい!﹂ やいのやいのと食べ物談義をする部隊隊長たち。 ようやく立ち 直った光も理解してきた⋮⋮あらゆる料理を取り込み、自分達の流 派にしてしまうことを繰り返して来た日本。 それに日本が守って 108 きた味を組み合わせてさらに新しい料理としてきた歴史による成果 が、予想以上に向こうの世界の人たちに受けているらしい。 おい しいご飯は文化交流としてもやりやすい。 美味ければ認めてしま うのが人だからだ。 ﹁分かった! よーく分かった! ならば、此方にいらっしゃった 時のメニューは﹃カレーライス﹄で行こうと思うがどうか!﹂ この光の発言に、言い合っていた部隊隊長たちが一瞬沈黙した後 に、一斉に拍手をした。 これにより、あちらの﹃象徴﹄である3 名がいらっしゃった時のお昼ご飯はカレーライスで行く事が決定し た。 ちなみに何故カレーライスを光が選んだのかと言うと、明治 と呼ばれる過去には、こういった来賓に対して出すもてなしの料理 の中にカレーライスが存在していた事、スプーンで食べる為食べに くいと言う事がまずないだろうと言う事、形式ばった料理は食べ飽 きているだろうとの3つの理由があったからである。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁あんな会議で決まった事だから、正直に言えばものすごく不安な のだが﹂ 正直に言えばあんな会議で今回のような来賓を迎える準備を決定 したくはなかった。 しかし、既に会議は下流に差し向かってきて いる空気であり、今更上流どころか中流にすら戻ることはできなか った⋮⋮。 ﹁問題ありません、﹃非常に楽しみにしている、お代わりはたくさ ん用意しておいて貰えると嬉しい﹄との言伝も受け取っております ので﹂ 109 フルーレは返答する。 ﹁頬が緩みまくっているぞ﹂ 突っ込む光。 異世界の方々は食いしん坊である。 こんな形で 異世界の人との壁が壊れるきっかけが出来るとは、全くもって思っ ていなかった光であった。 そうして午前11時を向かえ、各自所定について異世界の賓客を お出迎えする。 魔法陣が描かれたかと思うと、その中から9人が 姿を現した。 ﹁﹁﹁此度の急な訪問を許可していただき、心よりの感謝を﹂﹂﹂ そう同時に3人が見事にハモって感謝を述べる。 ﹁日本国へようこそ、私が日本国現首相、藤堂 光と申します﹂ 光が出迎える。 今日、この日が新しい日本の第一歩になる⋮⋮。 ﹁││はい、おつかれー﹂ ﹁おつかれー﹂ ﹁おつかれー﹂ ﹁﹁﹁﹁﹁﹁いきなりだらけないでください!﹂﹂﹂﹂﹂﹂ 110 いきなりダレた声を上げる中央の男性に、耳の長い女性、色気が 漂うウサギ耳の女性が﹁おつかれー﹂と返答を返し、御付と思われ る6名がその3人に向かって怒っている。 ﹁いや、だってよ、正式な場は向こうでだろ? かたっ苦しいやり 取りは今はなしなしでいいだろうが﹂ ﹁陛下! だからといって突然砕けた話し方をするのは、出迎えて 下さった日本国の皆様に無礼になります!﹂ 中央の男性は、かなりの大柄の体躯を誇っている。 武闘家とい われても納得してしまいそうだ。 ﹁正直、今日が楽しみすぎて昨日からご飯があまり喉を通らなくて おなかペコペコなのよ∼﹂ ﹁ですから軽い物だけでも口に入れてくださいと申し上げたではあ りませんか!﹂ 光から見て右側の女性は長い耳⋮⋮エルフ耳といえばイメージし てもらえるだろうか? 長い耳を伸ばし、美しい銀髪をロングヘア ーにしている。 ﹁いやいや、分かるぞ分かるぞ。 此方の食事は楽しみだからのう﹂ ﹁だからといって、礼儀はキチンとなさって下さい!﹂ 光から見て左側の女性はウサギ耳をピコピコ動かしながら御付の 人とやり取りをしている。 だがウサギ耳だからといってかわいい と言う表現は全くにあわない。 むしろ、雌豹と表現したほうがし 111 っくり来る。 眼光も鋭い。 ﹁ひ、光様、申し訳ありません。 ですがこんなのでも、各国の象 徴でございます⋮⋮﹂ フルーレが申し訳なさそうに事実を伝えてくる。 事実は残酷で ある、どう残酷であるかは状況によるが。 ﹁こんなのとはねえだろう、フルーレ。 正式な場であればきちん とやるぜ﹂ ﹁正式な場です! しゃんとして下さい父上! いえ陛下!﹂ なんだかとんでもない言葉がぽろっと転げ落ちたようだ、と光は 半分現実逃避をしながら思った。 ﹁まあ、今はお忍び扱いと言うことで頼む。 ああ、名乗っていな かったな、俺はガリウス・ド・マルファーレンス27世だ、気軽に ガリウスと呼んでくれればいい﹂ ﹁そして私は、フルーレ・ド・マルファーレンスです。 こんな情 けない父親の一応は娘の一人になります﹂ そして明かされたフルーレのフルネーム。 ﹁光様、ですが私は娘の中では1番若い存在で、権力もございませ んので今までどおりのお付き合いをお願い致します﹂ そして重なる無茶なお願い。 王族相手に色々そういう訳には行 かないだろうに、と光は一人、頭を悩ませる。 112 ﹁次は私が。 フェルミア・リィン・フォースハイムと申します。 フェルミア、と気軽にお呼びください﹂ そういってエルフ耳の女性は頭を下げる。 ﹁気軽に、と申されましても⋮⋮﹂ 気力を振り絞って、何とか光はそれだけを口にする。 ﹁いえ、むしろ特別扱いされすぎる事の方が私は怖いです。 そん なことを良しとしてしまえばいつか孤立してしまいます。 そんな 寂しい人生では、生きる価値がございませんので﹂ と反論されてしまう。 御付の人も﹁ぜひ呼んであげてください﹂ ロン と言って来るので光は再び頭を悩ませる。 こんなに軽くていいの だろうか? 大事なコンタクトではないのか? サヤ ﹁出遅れるわけには行かぬな。 わらわが最後じゃな、沙耶・龍・ フリージスティと言う。 サヤと呼んでもらいたい﹂ 最後のウサギ耳の女性はそう名乗った。 後ろの御付の人のウサ ギ耳もぴくぴく揺れている。 ﹁まあ大体予想がついたかもしれないが、俺の国の名がマルファー レンス帝国﹂ ﹁私の国の名前がフォースハイム連合国﹂ ﹁わらわの国がフリージスティ王国と言うのじゃ﹂ 113 そこにフルーレが入る。 ﹁そして、そこに第4の国として、日本皇国が入ることになります﹂ 114 5月23日︵前半︶︵後書き︶ ようやく出せた向こうの各国。 各国家の国民の特徴は大体象徴である3人と同じです。 戦士のような強靭な肉体を持つマルファーレンス。 高い智を持ち、魔法の祖国とされるフォースハイム。 しなやかさと柔軟さのフリージスティとなっています。 115 5月23日︵後半︶ ﹁とりあえず、後は食事をした後に話し合う事といたしましょう﹂ 三国の象徴である皆様の腹の虫が早く食べさせろと催促してくる ので、テーブルに座っていただき、カレーライスを用意させる。 事前に食べられない物についての質問は済ませてあるため問題もな い。 特にそういった戒律などは存在せず、あえて言うなら食べ物 を粗末にしない、残さない、無駄にしない、そういった方面を重視 していると聞いている。 ﹁わが国でも人気の食事、カレーライスと申します。 白いライス と、ルーをスプーンにとり、口に運んでいただければ結構です﹂ 光の説明が終わるや否や、スプーンを取りライスとルーの境界線 に素早く入れて口に運ぶ象徴の三名様。 ﹁これは⋮⋮ううむ﹂ ﹁ぴりっときますね﹂ ﹁むう、こちらではあまりなじみがない感触じゃな﹂ 一言ずつ最初の感想を各自が話し合ったかと思うと、二回、三回 と口に運んで慎重に食べている。 ││しかし、その様子が徐々に 変わってきた。 ﹁美味いな、これ﹂ 116 ﹁そうですね、最初はびっくりしましたけど、これは美味しいです﹂ ﹁これはぜひ持ち帰りたいのう!﹂ そうなると勢いよく食べ始める御三方。 まるで子供が食べるか のようにスプーンを動かし、口にする。 他の人達はその様子にあ っけに取られ、いまだにカレーを一口も食べていない。 ﹁き、気に入っていただけたようで何よりです、では我々も頂きま しょう﹂ その光の声に他の人も我を取り戻し、スプーンを取り、食べ始め る。 ﹁﹁﹁おかわり︵だ、です、じゃ!︶﹂﹂﹂ 先に食べていた象徴の三名様はすでに二杯目に突入していた⋮⋮。 ││││││││││││││││││││││││ それから1時間後。 ﹁あー食った食った! 満足だ!﹂ ﹁はしたないとは思いましたが、スプーンを止める事が出来ません でした﹂ ﹁うむむ、しかしよく出来ている料理じゃの⋮⋮﹂ お代わりにお代わりを重ね、食べまくっていた象徴の三名様が漸 117 くスプーンをおいた。 特にガリウスは10回ほどお代わりをして いた⋮⋮。 まあそれはともかく、満足している様子。 ﹁それは何よりです﹂ ちなみに光はお代わりは一回。 フルーレは四回、男性部隊長は 平均六回、女性部隊長は平均三回お代わりしていたりする。 ﹁これだけの料理⋮⋮最高の材料で、最高のシェフが腕を振るった のでしょうね⋮⋮﹂ エルフ耳をぴくぴく動かしながら、フェルミアがそう感想を漏ら す。 そうするとフルーレと数人の部隊長がその声にピクッと反応 した。 ﹁今反応したものたちは、どうやらこの料理を作った作ったシェフ を知っておるようだの。 毒殺を封じるためにシェフの監視をして おったようじゃな﹂ この、沙耶の予想は当たっていた。 反応した部隊長数名は、こ のカレーライスを作るところの一部始終を知っているのだから。 ﹁こんな美味いメシを作ってくれたシェフには感謝しないといけね え! ぜひ呼んでくれ!﹂ ガリウスがこう言った時、立ち上がったのは光だった。 ﹁そこまで気に入っていただけたのであれば、作った人間としても うれしいですね﹂ 118 そうして光は象徴の三名様に向かって軽く頭を下げた。 ││││││││││││││││││││││││ 言うまでもないことだが、よほど色々とこだわらなければ、カレ ーライスは十分一般家庭でも製作できる、制作方法を記すまでもな く。 基本的に、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、豚肉か牛肉、あ とは好みで各家庭のトッピング、あとはカレールーを入れるだけで ある。 その製作の手軽さもあって4000年代の日本でも人気の あるメニューであった。 光は一般家庭でも、無理な出費などせず にすむ材料でこのカレーライスを作った。 その心は﹃一般家庭でも、これだけの物を気軽に食せる技術がこ ちらにはある﹄、そういうことを実際に味わってもらうためだ。 せっかく向こうから来た客人で、なおかつこれから長い付き合いと なるのだから、日本としてはこういう方向でそちらに貢献が出来る 事を物理的に証明するために。 そしてその行動によって生まれた 効果は絶大であったようだ。 ﹁そ、それは本当ですか、光殿!﹂ ガリウスは目を白黒させている。 ﹁これが⋮⋮このレベルがこの国では一般の方が口にしている食事 なのですか!?﹂ フェルミアも穏やかな表情が崩れている。 ﹁むう⋮⋮﹃技術﹄で貢献する予定だと、フルーレ将軍から聞いて いたが⋮⋮これほど分かりやすい証明方法はないのう⋮⋮﹂ 119 沙耶は腕組みを始めながら、空になったカレー皿を眺めている。 ﹁まだ終わりではございませんよ、デザートがありますので﹂ そういって光が運ばせたのは杏仁豆腐。 これは一般的に売られ ているパック詰めにされている商品を器に空けただけのものだ。 具もシンプルに杏仁を模した白いブロック、ミカン、パイナップル だけである。 その運ばれてきたデザートに目を輝かせているのは 女性の部隊隊長の皆さん。 ﹁これは甘いデザートですので、辛くなった口に合うと思いますよ﹂ 女性の部隊長の皆さんは素早く用意されていた小さなスプーンを 手に取り、杏仁豆腐を掬う。 ﹁これ、こちらに来てからの私の好物の一つなのよね∼﹂ そんな声も聞こえてくる。 それに対して、象徴の御三方はどう したことか一向に口をつけない。 ﹁甘い物はお嫌いでしたか?﹂ 少々の焦りを含む声が光の口からこぼれ出る。 ﹁いや、甘い物と聞くとな⋮⋮﹂ ﹁砂糖たっぷりのくどい甘みばかりが記憶に浮かびまして⋮⋮﹂ ﹁しかし、口をつけてみねば分からぬし⋮⋮はむ﹂ 120 沙耶が杏仁豆腐を恐る恐る一口食べてみる。 すると沙耶の表情 が、見る見るうちに変わってきた。 ﹁おお!? この甘み、くどくないぞえ!?﹂ 言うが早いか、一口一口ゆっくりと杏仁豆腐を味わって食べてい る。 ﹁おいおい、本当かよ沙耶﹂ ﹁くどくない甘みは、フルーツぐらいだと思うのですが⋮⋮﹂ そう言いつつ、ガリウス、フェルミアも杏仁豆腐を口にする。 口にしたとたん、ゆっくりとではあるが手を止めずにきれいに食べ きった。 この様子を見てほっとしたのは光を始めとした日本側。 どうやら、最初の技術﹃日本の料理﹄は向こうにも十分に受け入 れられると確証を得ることが出来た。 ﹁最後の最後にまた見せ付けられたな﹂ ﹁このお昼だけで何度も驚かされておりますね﹂ ﹁うむ、これは日本皇国がこちらに来る日が楽しみじゃな﹂ こうして、良好な滑り出しに成功した光を始めとする日本側。 ここからは日本が向こうの世界に移ってからどう動くべきかの会議 になる。 さすがに会議に移れば真剣なやり取りが行なわれる。 しかしお昼の料理による影響で、技術の提供という面では疑いの声 がかかることは一切なかった。 こうして会談の一日目は終始真剣 121 ではあるものの、穏やかな雰囲気の中成功を収めることになる。 ちなみに、晩ご飯は各自の部隊長にボディーガードをかねて案内 させたところ、ガリウスは居酒屋に、フェルミアは洋食屋に、沙耶 は回転寿司に向かい、舌鼓を打ったらしい。 いくばくかのお酒も 口に入ったとの事で、翌日に向こうに帰るときにお酒をお土産とし て持ち帰りたいと、要望を受けてしまうことになる光であった。 122 5月23日︵後半︶︵後書き︶ 前半後半が料理話になってしまいました。 でもシリアスばかりも疲れるので一旦一息です。 123 5月27日︵前書き︶ 更新遅くて申し訳ない、今日は時間が取れました。 124 5月27日 あれから数日が経過し、今日で向こうから来ていた御三方とその お付の方が向こうの世界に帰る日がやってきた。この数日御三方は それぞれ色々な場所に出向き、日本を見て周ったと護衛のために忍 ばせていた﹃忍﹄から報告を受けている。 ﹁色々と世話になったな、光総理!﹂ がっはっはっはと豪快に笑うガリウス。 ちなみに彼は肉料理を 中心に食べ歩き、刀剣類を始めとした武器をよく見ていたらしい。 ﹁本当に、此度は急な来訪にもかかわらず、ありがとうございまし た﹂ 頭を下げるフェルミア。彼女は野菜料理を中心に食べ、公園など の場所をよく訪れていたと報告を受けている。 ﹁次、会うのはあちらでじゃな、色々と準備を整えて待っておるぞ﹂ 最後に沙耶がそう締めくくる。彼女は魚料理を特に食べることが 多かったそうだ。また、妙に総理をよく見ていたと報告にある。 ﹁後もうしばらくしたら、我々もそちらへと向かいます。そのとき は宜しくお願い致します﹂ 光の返答を受けた後に、ガリウス、フェルミア、沙耶、そしてお 供の人達が魔法光に包まれた後に、大量のお土産と共に消え去った。 125 ﹁光様、象徴の皆様による急な来訪にも寛大なる対応をしてくださ り、ありがとうございました﹂ フルーレが頭を下げ、各部隊長も皆いっせいに頭を光に下げる。 ﹁ああ、問題はないから気にしないで頂きたい。だがフルーレ、貴 女のお父上はなかなかに役者だな﹂ 頭を下げた異世界組に対し、光はそう告げる。 ﹁役者、ですか?﹂ イマイチ判っていないという感じでフルーレが首をかしげ、その 動作にフルーレの長い金色のロングヘアが僅かに揺れる。 ﹁ああ、あの姿はおそらく演技だ。 こちらを知るための⋮⋮な﹂ あの言動、あの行動はおそらくあちらのお三方の本来の姿ではあ るまい。光はそう予想していた。 ﹁そうでしょうか⋮⋮﹂ あまり納得できないフルーレ。自分の父はいつもあんな感じなの だが⋮⋮と首を再び傾げるフルーレ。そんなフルーレを光は僅かに 笑って見ていた。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁無事帰ってこれたな﹂ 126 ﹁ですね﹂ ﹁そうじゃな﹂ ﹁﹁﹁﹁お帰りなさいませ﹂﹂﹂﹂ 自分たちの世界に帰還したガリウス、フェルミア、沙耶。帰って きた自分たちの象徴を出迎える各国の代表たち。 実は、今回の急な各国の象徴による地球への外遊行為はきちんと 計画をされた上で実行に移された。したがって、﹃急に各国の象徴 の三人が無理やり自分達が出向くようにわがままを通した﹄と言う こと自体が嘘である。こちらの世界にも﹃敵を欺くには味方から﹄ と言う感じの言葉は存在し、地球に出向いている出向部隊にも今回 の外遊計画に対する事実は一切伝えずにいたのである。 また、各国の象徴ではあるのだが、﹃居なくなっても国が極端に 傾かない﹄人達であると言うシビアな面も存在し、最悪地球で殺さ れても問題は少ないという部分まで考えられておりここが日本の天 皇陛下とはちょっと違うところである。 ﹁ガリウス様、向こうの日本皇国の様子はどうでしたか?﹂ そして、帰りしだいすぐさま三国共同会議が開催される。 内容 は﹃日本皇国との付き合いの距離をどうするか﹄。まったく新しい 国が訪れるとあってその距離感をどう保つか⋮⋮この会議のため、 三国の象徴は自ら地球に出向いたのだ。 ﹁うむ⋮⋮我としては、深く付き合っても問題がないと考えている﹂ 127 地球に居たときの豪快な格闘家と言う空気はまったくなく、そこ には一国の王と言って差し支えない威厳を持つガリウスが居た。 ﹁技術は戦うためにも用いられている部分があったのは事実だが、 いくさ かの国は技術を楽しむことにも十分に振り分けておることも確認し た。技術を鼻にかけ、戦を吹っかける愚か者でもないと我は見た﹂ 静かにゆっくりと、だがこの会議に出席している者すべてに十分 聞こえる重い声が会議室全体に響いた。 ﹁お付として行動を供にした我々の報告ですが、我々をしっかりも てなすと言う心を感じました。どの店に入っても﹁いらっしゃいま せ﹂と挨拶をくれます。我々だけの特別扱いではなく、店を訪れる すべての者に言っている光景から、我々が居るときだけの取り繕っ た姿ではない、と見ます﹂ ガリウスに付き従っていた二名は店の店員の反応を例えに、喜ば しい人々である、との報告書を上げる。この報告書に会議場に居る 人々の顔には、ほんの少しだが笑顔がこぼれる。 ﹁なるほど、人格的に争い事を好む人達という線は薄いですね。も ちろん魔法で始めに確認はしておりますが、やはり直に触れた様子 の方がよりはっきりとするのは言うまでもありません﹂ この会議の議長役を務める男がそうまとめる。 ﹁次は私が報告します﹂ フェルミアがそう声を上げる。回りは邪魔にならぬよう口をつぐ み、自然と静かになったところでフェルミアが口を再び開く。 128 ﹁あちらの色々な場所を共の者と歩き回り、人の心を感じ、水晶に まとめ、占いを行ないました﹂ これはフェルミアの得意技で、その国の人をランダムに選び水晶 にその国に住む人達の心根を動物などに例えて見ることが出来ると いう魔法である。 フェルミアは、他の人達にも見えるように動物 が写っている水晶球を机の中央に置いた、そして置かれたその水晶 には一見亀の様に見える生物が映し出されていた。 ﹁答えはこの姿になりました⋮⋮タートルドラゴンです﹂ タートルドラゴンとはこちらに生息している龍の一種であり、温 厚かつ争いをあまり好まない亀を大きくしたようなドラゴンの一種 である。 襲われると手足を引っ込め、耐えることでしのぐことを 選択することが多いのだが、あまりにしつこく攻撃したり子供に対 して暴力を振るおうとすると怒り出し、強烈な水のブレスで攻撃者 を一気に排除する恐ろしい一面を持つ。 会議場は少し騒がしくなった。﹁ドラゴンですか⋮⋮﹂などの声 も小さくではあるがフェルミアの耳にも入る。 ﹁皆様が見たとおり、かの国の人々はまずは我慢をする性質があり ます。ですが、その性質に甘え私達が度を過ぎた行動をすれば死に 物狂いで反撃してくるでしょうね、まさしく、タートルドラゴンで す﹂ そうフェルミアが告げると再び会議室は静まり返る。 ﹁私達の付き合い方も、タートルドラゴンに習いましょう。 そう 129 すれば争いの火種を生むことは少ないはずです﹂ フェルミアの結論でまた会議室は小さく話し合う人々が増える。 ﹁今のところ、報告される内容は実に喜ばしいのでは﹂﹁そうです な、無闇に血を見ることもありますまい﹂などと和やかなムードが 漂い始めた。 ﹁もうほぼ言いたいことはないのじゃが、一応わらわも、な﹂ 沙耶の言葉にまた静まり返る会議場。 ﹁とはいえ、人格や国のあり方などは、ガリウス殿、フェルミア殿 が仰られた通り、好ましい物であると考えておる。 出向した部隊 たちも向こうの生活を楽しんでいる様子も伺えておる。引退直前で あったガリウス殿の部隊長の一人もあちらにまだ残ると言っておっ た、いい食事といい酒があると言っておったわ﹂ ちなみに、この引退直前の部隊長とは清酒を好むおじいさんの部 隊長を指している。 ﹁そして、あの国のソウリと呼ばれていた光 藤堂じゃが。 そう じゃな、わらわの婿に迎えたくなった﹂ この発言で一気に騒がしくなった会議場。﹁沙耶様、それは真で すか!?﹂と質問も飛び交っている。 ﹁うむ、見ていたのは数日だけじゃが、なかなかの胆力の持ち主よ。 それにわらわが率先して結婚し、子をたくさん成せば皆の希望にも なるし、明るい交流の第一歩にもなる﹂ 130 と沙耶はなんでもないように言っているが、ほほが僅かに普段よ り赤くウサギの耳はひくひくと落ち着きなく動き、普段の鋭い目が ずいぶんと緩んでいることにガリウス、フェルミア他数名はしっか りと気が付いていた。 ﹁ふむ。ヒカル殿は我が娘のフルーレと一緒になってもらおうと思 っていたのだが﹂ そう口を開くのはガリウス。 ﹁結婚のお話は、またいずれ。ですが慎重なあなたがそんなことを 言うとは思いませんでした、沙耶殿﹂ とフェルミア。 ﹁今までの話から、日本皇国とは三国とも親密なお付き合いをする、 ということで宜しいでしょうか?﹂ 会議場の議長役からの問いかけにこれといった大きな反対意見は 出なかった。 そしてこの会議の結果を受けて、日本皇国を出迎え るためのパレード開催が決定される運びとなり、お祭りムードが漂 い始めたのである。 131 5月27日︵後書き︶ 午前と午後一回更新は結構きつい︵苦笑︶。 132 6月4日・5日 異世界からの訪問者である各国の象徴の三人がお帰りになってか ら数日後。 休憩時間中でも魔法訓練を続けている光の下に一つの 直接通信が入った。 ﹁誰からだ?﹂ 魔法訓練用である紙の蝶を宙に浮かべながら回線を開く。 ﹁光総理、突然申し訳ありません、光陵重化学の如月です﹂ 通知を送ってきたのはKAMUIの製作を行なっている光陵重化 学の07工場の工場長、如月であった。 ﹁いや、時間はあるから問題はないぞ。 わざわざ直接こうやって 通知を送ってきたからには大きな報告があるのだろう?﹂ 報告など一つしかあるまい、KAMUIに関連することだけだ。 あくまで世界からの﹃総攻撃﹄が予想されるのは年末であるが、 その前にどこかの国が代表と名乗って日本に攻撃を仕掛けてこない と言う保証は何処にもないために、光の内心としては一刻も早くK AMUIの完成を待ち望んでいた。 ﹁そうですな、結論から申し上げます。 KAMUIですが機体本 体がロールアウトしました。今後、量産機となるKAMUI・弐式 くろがね と共通するオプション装備を作っていくことになります⋮⋮それか ら、KAMUIのデータを元に光総理専用機体﹃鉄﹄の製作にも入 ります、その為光総理のマスター登録やKAMUIの詳しい説明の 133 ためにも、できるだけ早急にこちらに一度直接出向いて頂きたいの です﹂ 光は無意識に右手を握り締めていた。フルーレ達に頼りきらない 防衛力が形になったと心の中ではガッツポーズをとっていた。 ﹁短期間で良くぞ仕上げてくれた! 明日の午前にそちらに向かお う!﹂ ﹁それはありがたいですが⋮⋮総理、宜しいのですか?﹂ 如月工場長はやや困惑していた。こんなに簡単にスケジュールが 開くわけがない、それが総理という役職にいる人間のはずなのだが と疑問に思ったのだ。当然それを表情には出さないが。 ﹁その点は問題ない。海外の連中と手を切ったお陰で十分睡眠を取 る事ができているぐらいだ、それに明日はもともと空いている時間 が多いから都合が良かったのだ﹂ 光は如月工場長に理由を述べる。このごろはフルーレたちが来る 前の激務が嘘のようになくなり、落ち着いて政務にあたる時間が取 れる様になってきていた。 その理由は体を張り続ける総理のため に我々も戦おう、と大臣や官僚が一致団結して総理の負担をを少し でも軽減しようと動いており、見えない場所で総理の仕事を減らし ている事が理由である。 ﹁それに、今後の展開でKAMUIはまさに日本の切り札の一つと なることは間違いない、その切り札をしっかり見ておくことは重要 なことだ﹂ 134 いざ振るったらぽきっと折れる剣のような物では困る。 肝心な ときにそんなこと引き起こさないためにも、直に自分の目で実物を 見ておく必要があった。 ﹁そういうことでしたらお待ちしております﹂ そうして回線は切れる。 ︵ようやく鋼の戦士が生まれたか。 戦艦も空母もなく、戦闘機す らない今の日本の防衛能力は、フルーレ達が展開してくれた魔方陣 のみ。これに頼りきりではいざと言うときにとんでもない大失態を 引き起こす可能性がある。そのためにも数より質、まさに一騎当千 が可能な鋼の戦士が必要だった。それも、光陵重化学が8割以上時 間をかけて密かに土台を作っていてくれなければ叶わなかったが。 状況は常に綱渡り、そしてゴールはまだはるか先にあり全く見え てこない。 だが、それでも現日本総理として、国民を皆ゴールま でたどり着かせるのが義務なのだ、世界に負けるわけにはいかない︶ 光はそう考えをまとめ、明日のスケジュール調整を行ない始める。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁ようこそいらっしゃいました、総理﹂ ﹁KAMUIは大事な切り札になるのだ、来ることを優先するのは 当然だ﹂ 空けて翌日、光は午前9時に光陵重化学07工場、KAMUI製 作のドッグを訪れていた。 そして挨拶をしている如月工場長と光 の奥にロールアウトされたKAMUIが静かに直立していた。 一 135 対の目となる赤いメインカメラアイが怒りに燃える人の顔を連想さ せる。 ﹁とりあえず、まずはスペックをご覧ください﹂ そういって一枚の紙を光に渡す如月工場長。 RS−001.1−KAMUI 20.7t 重力コントロール発動にて12.9t 11.5m ︻本体重量︼ オプションパーツ未完成により提示不可 ︻頭頂高︼ ︻全備重量︼ メイン2,330kW サブ1.420 12,150m 90,200kg 重力コントロール機能 ︻ジェネレーター出力︼ KW ︻スラスター総推力︼ 搭載 ︻センサー有効半径︼ マギ・ゴーレムメタル装甲、内部重力コントロール 頭部バルカン、神威の太刀一式、弐式、マギ・マシンガ ︻装甲材質︼ フレーム ︻武装︼ 1 単騎による強襲、破壊行動 ン、マギ・グレネイド、シールド、マギ・ショルダーカノン ︻運用︼ ︻乗員人数︼ オプション装着による底上げでまだ伸びるということか、と光は マギサイエンス 考える。 マギ、と付いている武装が多いがこれが日本と向こう側 の技術の融合、魔法科学による武器だろうということは予想が付く。 ﹁工場長、内部重力コントロールフレーム、重力コントロール機能 とあるが⋮⋮?﹂ 136 この点だけは聞いておかねばなるまい。 ﹁はい、向こうの魔法の一つに重力をコントロールできる魔法があ ると教えていただきまして、それをゴーレムに組み込むことは可能 なのか? というところから研究が始まりました。 皆が寝食を忘 れるように没頭した結果、機体へ組み込むことが可能であると判断 されたため、KAMUIに組み込まれました。 それからメイン装 甲のマギ・ゴーレムメタル装甲はパージも可能でして、内部の重力 コントロールフレームがむき出しになりますがその分重量が軽減さ れるため、機動力を一気に跳ね上げることが可能です﹂ 如月工場長の説明は続く。 ﹁内部の重力コントロールフレームですが、これ自体も十分な強度 を誇っておりますのでパージした後も機体とパイロットが極端に撃 墜される危機に晒される事はありません。 ですが単騎による戦闘 が想定されている以上、予定された機動力を十分に維持した上で装 甲を厚く保つことは生存のために必須であると考えているため、マ ギ・ゴーレムメタルがメイン装甲として使われています﹂ なるほど、と光は言葉を漏らした。 ﹁重力をコントロールできるということは⋮⋮﹂ 如月工場長が言葉をつなぐ。 ﹁はい、ある程度の時間、空中戦闘が可能です。 さすがに2時間 以上もずっと飛行行動を続けるとメインジェネレーターがオーバー ヒート寸前まで行きますが、十分な空中戦能力を得ることが出来て 137 いると思います。また、総理の専用機体として設計されている﹃鉄﹄ はKAMUIよりも大型かつ重装甲になりますが、この重力コント ロール技術により、空中戦闘が可能である点は変わりません。はっ きり申し上げれば、完成しだいこちらから攻め込んで一方的な蹂躙 も可能かもしれません﹂ だが、光は僅かに首を左右に振る。 ﹁我々は守るためだけにこの力を使うべきだ。 愚か者の真似をし て愚か者に転落する必要はないだろう﹂ 如月工場長もこの言葉に同意した。 ﹁そうですな、以前ならば攻めねばなりませんでしたが、今ならば 防衛して年末まで耐えればそれでよいのですからな﹂ どのみち、いつかは向こうから攻撃を仕掛けて来るのだろう⋮⋮。 そういう考えが二人の思考の根底にはある。 ﹁それから総理、もう一つ大事なことがございます。総理のあらゆ る生態データを鉄の機動キーといたしますので、登録のために同行 願えますでしょうか?﹂ ﹁そうだったな、それも済ませてしまおうか﹂ そうして二人は、実戦を静かに待つKAMUIの前から離れてい く。KAMUIはだた静かに出陣するときを待ち続けるだけである ⋮⋮。 ││││││││││││││││││││││││ 138 ﹁総理、こちらのVRコックピットに乗り込んでください。 この コックピットは製作中の﹃鉄﹄と同じように作られている光総理専 用のVRシステムです。 この中で総理がVRにて﹃鉄﹄を体験し ていただくとマスター登録が完成するようになっています﹂ 如月工場長の説明を受けて光はVRのコックピットに乗り込む。 ﹁VRではありますが、精密に作られているためにシートの固定バ ンドは必ず使用してください﹂ 如月工場長の注意が飛ぶ。 光はその注意をうけて、素直に固定 バンドを使用して体をがっちりと固定した。 ﹁それでは、VRを起動します、がんばってください!﹂ グウウウウウウーー⋮⋮⋮ンン⋮⋮と起動音が鳴り響き、VRが 起動していく。 ﹁それでは、VRシステムによる訓練、ならびにマスター登録を行 ないます。 ││藤堂 光様と確認しました。これより当機が大破 するまで機体のマスターは藤堂 光様に固定されました。 私は﹃ 鉄﹄サポートAI、﹃ノワール﹄と申します、これから宜しくお願 いします﹂ 光と共に戦い抜くことになる鉄とそのサポートAI、ノワールは こうして光と初めて出合った。 139 6月4日・5日︵後書き︶ KAMUIがとうとう完成しています。武装オプションはあとから 増えます。 ちなみに、KAMUIと鉄は人の目のように一対のツインアイ、 今後出てくる量産型KAMUI・弐式はバイザー系とメインカメラが 異なる予定です。 140 6月6日 総理官邸の総理専用執務室にて、次回国会における準備を進めて いる光。そこにフルーレがカツカツと足音を立てながらやってきた。 ﹁光様、少々お時間宜しいでしょうか?﹂ ﹁ああ、構わないぞ、何か問題が発生したか?﹂ 真剣な表情を浮かべて部屋に入ってきた後、こちらへと話しかけ てきたフルーレに対し、光も心の奥底で何を言われても良い様にと 身構える。 ﹁光様の指示で向かわせたゴーレム技術者から詳しい報告を受けま した。 人が乗り込み戦うことが出来る鋼の巨人という、私達の想 像をはるかに超えるすさまじい技術を見せていただきました⋮⋮し かし、なぜです? あれだけの力をなぜ光様は欲したのです?﹂ 光は静かに立ち上がり窓の外を見る。そしてこう切り出した。 ﹁その質問に答える前に⋮⋮フルーレ、貴方達の部隊はどれぐらい の期間戦闘や技術の訓練をしているか聞いても良いか?﹂ この光の質問にフルーレは少々考えながら⋮⋮ ﹁そうですね⋮⋮最短60年、平均70年、上位軍人を目指す者な らば100年以上も珍しくありません﹂ と、フルーレは当たり前のように答えた。 141 ﹁その時間、そうだな、貴方達にとって軍人を目指す者が訓練をす るという100年間、それだけの時間があればこちらの人間は生ま れて、育ち、生きて、死ぬには十分な時間なのだ﹂ この光の返答にフルーレが固まる。 ﹁こちらの寿命までは調べなかったのかな? それともだれも君に 教えなかったのかな? ともかく、あと50年もすればフルーレは 美しいまま、いやもっと美しくなるのかもしれないが、私はもう生 きてはいまい⋮⋮寿命でね﹂ 光は窓の外を見ながら静かに話を続ける。 ﹁君達の戦いは魔法があるから強いんじゃあない。 魔法はあくま で下地であり、長いしっかりとした訓練があってこその強さだと予 想していた。 まさか100年間も訓練をしていることもあるとい う事にはさすがに驚いたがね﹂ 軽くコーヒーを飲みつつ椅子に座りなおす光。 ﹁そんな君達の横に我々が並ぶには時間が明らかに足りない。 だ が、技術ならば別だ。 2000年以上この国の血と魂として受け 継がれてきた技術力ならば、君達の横に並ぶことが可能だ。 鋼の 巨人のような力を求めた理由の一つは、君達と対等に横に並び立つ ためだった﹂ フルーレが硬直から開放されたのか、バン! と大きな音を立て て両手を机に叩きつける。 142 ﹁我々は貴方達を見下すような真似はしていませんよ!﹂ だが、光はそんなフルーレの意見をさらっと受け流す。 ﹁君達はそうかもしれない。 だが、横に並ぶ、つまりお互いが対 等である為には楽しいときは共に笑顔で語らい、苦しいとき、戦わ ねばならぬときは共に同じ戦場に立ち共に戦ってこそ対等と言える のだ。 貴方達の後ろで守っていてもらうだけでは永遠に対等には なれない。そしてその対等でないことで生まれる溝は静かに、だが 確実に大きくなって行き、いつしか大きくひびが入る事になって、 それをきっかけに我々と貴方達の間に無用な争いを生んでしまう事 になるだろう﹂ 光は軽く深呼吸をしてから、話を続ける。 ﹁繰り返すが、こちらでは時間も寿命も、君達と比較してしまうと 何もかもが足りない。 そんな脆弱な我々が君達と共に力を合わせ て戦う為には、技術を駆使して生み出した鋼の巨人に乗り込み、君 達とは違う方法で戦いの場に立つしかなかった。 フルーレ、我々 は君達と対等でありたい。庇護を受け続ける対象ではいけないのだ よ﹂ フルーレは黙ったままだ。 そんなフルーレを確認した後、光は 話を更に続けた、聞いてもらわねばならないとばかりに。 ﹁そして本来であれば。 各国に奴隷扱いを受けていた日本人の救 出、国土の強力な防衛方法の構築、これらは⋮⋮本来ならこちらの 人間、つまり日本人が自らの力でやらなければならない事だった。 ところが、それをこちらに来てくれたフルーレ達にやらせてしま った上に、日本人救出の際にフルーレ達の手を血で汚させた。 だ 143 からこそいい加減にここから先は、こちらの世界に生まれ、生きて きた我々がやらなければならない事であるという理由もある、我々 日本人は今はまだ﹃地球人﹄なのだから﹂ 自分のケツは自分で拭く事が出来るのであれば、自分で拭くのが 一番いい解決方法に決まっていると光は話をまとめた。 これ以上 フルーレ達に頼りすぎてはいけない、それは無意識の依存につなが り、向こうに旅立った後の国家存亡に後々響いてくる可能性がある 事を否定できなかった。 ﹁││お話は理解できました。 ですが、光様が専用の機体を作ら せ最前線に立とうとしていると聞いています﹂ やはりそれを言ってきたか⋮⋮そんなフルーレを見つめながら光 は言う。 ﹁国家存亡の危機だからこそ、将でもある自分が前に出る必要があ るのだ。 前にも言ったが、﹃将が前に出なくてどうして兵に戦え といえる﹄という事だな。 ましてや最初で最後の機会であるこの 流れを止めないためにも、国民全体の士気を高く保つためにも、総 理である自分が恐怖に脅えず前に出て、その姿を皆の前に晒さなけ ればならない﹂ フルーレは﹁ですが!﹂と食い下がるが。 ﹁そして、何より今まで苦しめてきた連中をいい加減直接ぶん殴っ てやりたいと言う個人的な心情もある。 白旗なんて許さん⋮⋮今 まで散々我々を苦しめた対価をしっかりと払ってもらわねばな﹂ そういいながらゴキゴキと指を鳴らす光。ため息をつくフルーレ。 144 ﹁どうしても⋮⋮考えは変わらない様ですね⋮⋮﹂ ﹁そうだ。君達とこれから先も、常に対等であるために避けて通る ことは出来ない道だ﹂ フルーレは軽く息を吐くと、真剣な表情を見せて言葉を綴る。 ﹁ならば、異世界の誇り高き戦士、藤堂 光よ! 我々と共に歩も う!﹂ そうして光に差し出されるフルーレの手。 ﹁ああ、楽しいことも苦しいことも分かち合い、共に進もう!﹂ 光もフルーレに手を差し出す。 そうしてお互いに差し出された手同士がしっかりと握手を交わす。 この時点でフルーレを頭とする異世界から来ていた部隊にとって、 日本は自分達の世界に招く為の護衛対象から、共に戦う同盟者へと 変化した。 後の歴史学者はこの話し合いが存在したお陰で、異世 界転移を行なった後に色眼鏡で見られることなく、日本皇国が4番 目の国家として素直に認められることになったと記している。 145 6月6日︵後書き︶ メカを出した最大の理由は戦闘方法の違いを出したかったからです。 異世界組↓魔法を駆使し、剣なども使うファンタジー戦法 日本人組↓人型兵器に乗り込み、銃やミサイルで戦う近未来系 対等の捉え方は多々あるでしょうが、私の話ではこうすると言う事 です。 あくまで個人意見ですのであしからず。 146 6月14日︵前書き︶ こっちの更新がはかどらない⋮⋮。 147 6月14日 本日は臨時国会が開催されている、が、基本的に国際社会から断 絶している今の日本では転移までの物事の確認と、今までの行動に よる問題を洗い出して、先につなげるぐらいしかやることはなく、 野党与党のある程度のやり取りこそあれ基本的にスムーズに進む。 なお、この国会は国民にも放送されている。 そして国会も終盤になったときに総理への質問が発生した。 ﹁首相、この防衛費が10%に増加している理由をお答え願いたい﹂ いくつかの言い方の違いこそあれ、言っていることに違いはない ので一纏めにさせてもらった。 今までの防衛費が0.1%以下だ った訳で、あまりに大幅な増大に多くの議員が眉をひそめている。 ﹁光君﹂ 国会議長の声に光は立ち上がり理由を述べ始める。 ﹁それでは多くの方から質問が上がりました防衛費の理由を申し上 げます。 これは今回限りのことです。 理由ですが、これから1 2月31日に予定されている転移までに、世界が大人しく我々を送 ってくれる可能性が0.1%未満だからです!﹂ 騒がしくなる国会だが、光が手で押さえてくれるように頼むと静 かになる。今までの行動で国連の場でも傾き、戦う宣言をしている 光に対する国民の支持は非常に高く、国会議員の中にも、ようやく 世界に一矢報いた痛快さに光を内心支持している人は多い。 148 ﹁その戦いが予想される中、我々は異世界から来てくださった方々 の庇護の下に居続けていいのでしょうか! 自らの国を守るという のに、他人任せで自分達が立ち上がらなくて良いのでしょうか!? 良い訳がありません! この防衛費は、日本の技術と、異世界か ら来てくださった方々の魔法能力を融合した防衛兵器の製造のため に必要なのです!﹂ 静まり返る国会。 フルーレを始めとした異世界魔法部隊の強力 な魔法があれば安泰だ、などと考えている議員も多かったため反論 が出来ない。 ﹁私は、異世界から来てくださった皆様方と同等でありたい! そ のためには楽しいときは共に笑い、悲しいときはその悲しみを分か ち合い、そして! 苦しいときには後ろに下がって庇護を受けるの ではなく、横に立ち、共に戦う! そうしなければ同等とはいえな いのです!﹂ バン! と光はつい力が入り机にこぶしを叩きつけてしまう。 ﹁その為に、異世界から来てくれた彼らの横に並び、戦える防衛兵 器をすでに私の命と責任によって製造を行い、そのプロトタイプは 完成しています!﹂ この光の突然の発表を受けて再び騒がしさを増す国会。 ﹁その騒がしいままで結構! 見ていただきましょう!﹂ そうして国会議員だけではなく、国民全員にKAMUIの存在が 正式に発表されたのである。 149 ﹁人型兵器であり、本当に戦えるのかという疑問がお有りでしょう が、この機体は特別なオプションパーツなどを装着せずともどの様 なな環境であっても戦闘が行なえる機体です! 異世界の方々の高 い能力差を我々が埋めるためには汎用兵器であるこの機体のような 人型兵器が有用なのです!﹂ 大まかなデータと共に発表されたKAMUIの姿にざわつく国会。 ﹁この一機で世界と戦うのですか?﹂ との質問が聞こえてきた。 ﹁いいえ、この機体をベースに、専用機1機、量産機30機の生産 が予定されています、10%に膨れ上がっている防衛費は基本的に 量産される30機のために使われます﹂ 光の返答に、相談を始める各議員。 ﹁パイロットはどうするのですか?﹂ 次の質問に光はこう答える。 ﹁すでにこのKAMUI、そしてもう一機の専用機﹃鉄﹄はパイロ ットが決まっております、量産機は苦しみに耐えてきた自衛隊の中 から適正の高い人を80人選抜し、VRと実機を交えて訓練させま す﹂ KAMUIのパイロットは、光陵重化学からすでにトレーニング を積んでいる人間を出すと連絡を受けている。 150 ﹁そ、それでは、専用機に乗るのはどなたなのです?﹂ 最後の質問に光は答えた。 ﹁当然私です。 私も前に出て戦い、国民の皆様に振り下ろされそ うになっている凶刃を絶対に届かせません!﹂ ││││││││││││││││││││││││ 当然国会放送が終わった後、国民の話は総理の発言が中心になっ た。 あの総理ならやりかねない、本当に総理は40代の人間なの か? など色々な言われ方をしながらも、CGなどではなく、れっ きとした映像で発表されたKAMUIに注目が集まっている。 ﹁本当にロボットを作っちまったのか!?﹂ ﹁ネタじゃないの!? え、ガチ!?﹂ ﹁てか、日本のトップが最前線で戦う宣言⋮⋮いいのかよ!?﹂ などと、その日の夜のあらゆる場所で討論が行なわれていた。 ﹁がっはっはっは! この国の総理は面白いのう!﹂ そういいつつ酒を飲む異世界からきている魔法部隊のおじいちゃ ん隊長。 ﹁この国へは助けに来たつもりだったのですが、この展開とは⋮⋮ 151 ですが、私はこの心意気を高く評価しますね﹂ 他の部隊隊長の一人は光を評価している。 ﹁しかし、私達と一緒になんて⋮⋮本当に戦えるのかしら? 戦え るというのであれば素晴らしいのだけれど⋮⋮﹂ こちらの女性隊長は共に戦えるとはあまり思っていないらしい。 ﹁どの道良いじゃねえか! ただ後ろにいて﹃助けろ助けろ﹄とい う奴らよりよっぽど助け甲斐があるじゃねえか﹂ そう二番隊の隊長が言うと、﹁それは違いない﹂と、一つの纏ま りを見せた。 二番部隊隊長は更に話を続ける。 ﹁それに、この総理が言っていたことは間違いがねえよ。 本当に 色々キナ臭い状況になってきている訳だし、俺達だけじゃちっとま ずいかも知れねえって話も上がってたからな、戦ってくれるならそ れは良い事だろ?﹂ 魔法部隊の隊長たちは一斉に頷く事で返答する。 ﹁だからこそ、俺はこうやって戦うことを言い切った総理を評価す るぜ。 どんな道具を使っても﹃同等﹄であるために戦うって宣言 はかなり勇気がいることだぜ、そこんとこも分かるだろ?﹂ ましてや今国の総理は自分達魔法部隊の力を一番近くで見てきて いる、その上で同等と言った⋮⋮。 ﹁そういえば、ゴーレムを使える人達が総理のお願いを受けて借り 152 出されていったけど、それはこの為だったのね﹂ その女性隊長の一言に他の部隊長たちも反応した。 ﹁そうか、俺達のそういった部分の技術もコイツに混ぜているのか﹂ ﹁そうなれば、私達と一緒に戦える能力があるかもしれませんね﹂ ﹁なるほどね⋮⋮日本皇国の技術者達もなかなかやるじゃない、面 白いわ﹂ そして魔法部隊の隊長達がKAMUIの能力を知るのは、そう遠 いことではなかった。KAMUIの戦いの場はしばらく後に世界か ら用意されることになる。 153 6月14日︵後書き︶ 筆の進みが遅いのが改善しない︵汗︶。 154 6月22日︵前書き︶ ようやく一話更新。 155 6月22日 ﹁あ、総理、此方にいらっしゃっていましたか﹂ ﹁ああ、今日は時間も取れているからな、﹃鉄﹄の戦闘訓練を積ん でおかなくてはならん﹂ 光はある程度の時間が取れた時には光陵重化学に出向き、VRに て自分の専用機﹃鉄﹄を用いての戦闘訓練を行なっている。 ちな みに鉄本体の完成率は現時点では9%と言ったところか。KAMU Iの量産機体、KAMUI弐式は基本ベースが70%ほど完成し、 細かい積めの作業を残すのみとなっている。 ﹁そうそう、総理、申し訳ありませんが少々お時間を頂きたいので す﹂ ﹁ん? 如月工場長、何か問題でも起こっているのか?﹂ 普段なら﹃訓練頑張ってください﹄と言ってすぐに作業に戻る工 場長が光を呼び止めた。 ﹁いえ、伝えておく事があるのと、KAMUIの専用パイロットの 紹介をさせていただきたいのです﹂ ﹁そういうことなら構わない。 そのパイロットは何処に居る?﹂ 左右を見渡すが、それらしき人物は見えない。 ﹁申し訳ありません、そろそろ⋮⋮おい、西村! 早く来い!﹂ 156 ﹁うっせー! 作業が終わんなかったんだよ!﹂ ﹁バカモン! いいから早く来い!﹂ 工場長の声に半ば焼けくそ気味に返答した声。 年のころは17 歳ぐらいだろうか? と光の目には映った。その少年と青年の境目 に居る男は走ってこちらに近寄ってきた。 ﹁西村 光一! 呼び出しに応じて参上しました! おや⋮⋮いえ 司令、呼び出された理由はなんでしょうか!?﹂ ツラ ﹁少しは落ち着け。 今回はKAMUIに乗り込むお前があってお かねばならん方にお前の面を通しておく為に来て貰ったのだ﹂ おやっさん、と恐らく言いかけたのであろう少年は、光を見ると うろたえ出した。 ﹁それが此方のか⋮⋮そ、総理!? 日本の総理である藤堂様がど うしてここに!?﹂ どうやら工場長の用事の一つはこの男の面通しを、光にしておき たかったと言うことのようだ。 ﹁西村君か。 歳はいくつだね?﹂ ﹁は、はい! 今年で18になります!﹂ 緊張した面持ちで光に返答する光一。 まあ突然総理大臣の目の 前に呼び出されれば無理もない話であろうが。その上光は今まで色 157 々と目立つ事をやってきている総理の為、顔がしっかりと国民にも 広まっていた。 ﹁ご両親は?﹂ ﹁││外で過密労働の末⋮⋮去りました﹂ そうか、と光も顔を曇らせた。 外国の度が過ぎた労働で過労に なり、死なせてしまった日本人の数は非常に多い⋮⋮ただのパーツ としか見られてない所も多く、無念にも力尽きていった人数は⋮⋮ 光はその人数を思い出し、こぶしを握り締めた。 ﹁すまない。 我らの無力ゆえに⋮⋮お前のような前途ある若者の 親を奪った﹂ 光がそう言い、頭を下げると光一は慌てた。 ﹁とんでもない、頭を上げてください総理! 総理の責任じゃあり ません! むしろ総理は今こうやって自分に戦える力をくれたんで す! あの憎たらしい外の連中に対して、俺の意思で戦える力を!﹂ そういって光一はKAMUIを見る。 その横から見える表情に は、怒りや憎しみという色に染まっていた。 ﹁そうか。 あいつ等が憎いか﹂ ﹁当然です! 親を奪い、歴史を曲げて、日本を苦しめているあい つらは憎くてしょうがないです!﹂ まだ18の子供にこんな表情をさせてしまっている。 表情にこ 158 そ出さないが、光も内心では悔しかった。だが、ここはあえて冷静 に取り繕う。 表面上だけなのだが。 ﹁その気持ちは私にも良く分かる。 だがな、その気持ちはこの地 球に置いて行け。 暴れるチャンス、直接断罪するチャンスは必ず お前に与えよう。 だからこそ、その怒り、憎しみはこっちに置い て行くんだ。その感情に引きずられすぎると、いつしかお前という 存在が怒りと憎しみに喰われて、ただの化け物となるからだ﹂ ﹁しかし⋮⋮﹂ 光にも分かっている、それはとても難しいことだと言う事を。だ が⋮⋮。 ﹁今はまだ分からなくてもいい。だが、向こうにその憎しみを持ち 込んでもお前がお前を不幸にしてしまうだけだ。文句を言いたくな ったら私の方にメールでも飛ばせ。聞くだけならいくらでも聞いて やるからな﹂ 光は両手を光一の両肩に置き、そう説得する。 ﹁それに、私もあいつらに怒りを覚えている。 だからこそ専用機 持ちの俺達二人が大いに暴れてあいつらを叩きのめして、そしてそ の後はその怒り、憎しみをここに置いて行こう⋮⋮未来を喰われな い様に、先に進む為にな﹂ 光一は何も言わず、ただ無言で敬礼だけをしていた。如月工場長 はそんな光一に﹁もういい、通常の訓練に戻ってよし﹂とだけ告げ る。 その言葉を受けて頭を下げ、走り去る光一。 だがその途中 で一度だけ振り向き、再び光に敬礼を行なった。 159 ﹁総理、ありがとうございます。 あの西村 光一は特攻を考えて いる節がありましたから⋮⋮﹂ 言葉を濁す工場長。 ﹁それは違う。 そこまで追い込んでしまった我々が悪なのだ。そ れに自分も憎しみに喰われかかったからな⋮⋮放っては置けない﹂ 光の両親が他界した理由も外国に行ってそこでの過労死である。 少なくない憎しみを抱えた経験があるからこそ、それと同じような 道を歩いて欲しくはなかった。先に生まれたものには責任がある。 あとから生まれたものを導くという大事な仕事が。﹃先生﹄と呼ば れることを望むわけではないが、一人の大人として少しでも何かし らの力になりたかった。 ﹁もうひとつ、伝えておきたい事があると言っていなかったかな?﹂ 工場長に光が伝えると、工場長もそうでした、と話し始める。 ﹁今日から鉄のVRに武装が追加されています。 肩から伸びる追 加巨大アームで、右側の先端には爪が、左側の先端にはパイルが仕 込まれています。 そのアームの大きさで、右側で引っかくことに てずたずたにし、露出したもろい場所にパイルを打ち込むという運 用を基本とします。 もう一つはスレイブ・ボムズという自立兵器 です。KAMUIに比べるとどうしてもその巨体である為に細かい 攻撃がやや苦手な鉄をサポートする為に開発、製作されている新兵 器です。 重力コントロールにより重量がどれだけあっても、浮か せる事が出来るという点に着目し、射出することにより鉄のAIノ ワールのサポートの元、敵対者の近辺まで飛行し、ボムを射出しま 160 す。 ボムは一つのスレイブに付き3発を携帯させ、敵対者の近辺 に到達後に色々な方向、角度から打ち込みます﹂ 新兵器か、パワーとテクニカル系が一つずつ増えている訳か。 ﹁質問が一つあるが⋮⋮射出したスレイブは、ボムを打ち切ったら そのまま放棄するのか? それとも特攻させるのか?﹂ ﹁いいえ、全てを射出したスレイブは、新しく生み出すことに成功 したリターンテレポートにより瞬時に鉄に帰還し、再リロードが行 われます﹂ どうやら使い捨てではないらしい⋮⋮しかし。 ﹁すさまじい兵器だが⋮⋮私に使いこなせるのかね、工場長﹂ その一点が不安である。 どんな優秀な兵器でも扱えなければ鉄 くずである。 ﹁問題はない、と鉄のAIであるノワールが言っております。 む しろこの兵器はノワールからの注文でもありまして⋮⋮﹂ ノワールから? と光は首を傾げるが⋮⋮。 ﹁そういう事なら、ノワールの方に此方から直接聞いてみよう、そ れで良いか?﹂ ﹁ええ、そうしていただけると助かります、申し訳ありません総理﹂ 後の細かい話をいくつか行った後に工場長と別れて、VRシステ 161 ムにやってきた光。 ﹁ノワール、聞いたぞ。 何でもお前が新しい兵器の設計、装備を 意見したと﹂ こういうことは素早く聞いておくに限る。 ﹁はい、藤堂様なら扱えると私が判断いたしました、早速ですが、 追加装備の訓練をVRにて体験していただきます﹂ VRが起動すると、確かに両肩より伸びている追加のアーム2本、 足と背中に羽根のような物がいくつか確認できた。 ﹁この羽根みたいな物が、スレイブ・ボムズか?﹂ ﹁はい、その認識で正しいです。 まずは使ってみましょう﹂ そうは言われたが⋮⋮。 ﹁ロックオンはどうすればいいのだ?﹂ そう、それを扱う専用のコントロール・システムが確認できない。 追加されたサブアームの方は、メインコントローラーに追加され ていたが。 ﹁出てくる的を敵と認識して見つめてください。 それを私が判断 し、藤堂様の意思を確認することで射出します﹂ 昔の新しい人類みたいだな、と光は苦笑した。 鉄はああいうす らっとした機体ではなく、重量級の四角っぽい機体であるが。 162 ﹁とりあえずはやってみよう。 ⋮⋮こうか?﹂ 目の前に見えている6つの的を認識し、行け! と光は念じてみ た。 ﹁攻撃意思を認証﹂ ノワールとは違う声が流れ、スレイブ・ボムズが起動し次々と飛 んでいく。 的は飛び交うスレイブ・バグズにボム部分を撃ちこま れてあっという間に爆発四散して行く。 ﹁お見事です、その感覚で問題ありません。 後は繰り返し使うこ とで更なる安定をデータとして出す事が出来るでしょう﹂ ノワールの声が聞こえてくる。 ﹁なるほどな、コレは便利だ﹂ ﹁はい、ですので追加武装として申請いたしました﹂ 光は素直に感心した。 こういう使いやすく、強力な兵器を考え てくれるノワールはありがたい相棒だ。 ﹁これからも気がついた事は遠慮せずに言って欲しい﹂ ﹁ありがたいお言葉です、ご期待にこたえられるよう此方も努力い たします﹂ 追加アームの方もすぐに使い方を覚え、いくつかの擬似ミッショ 163 ンを行なってこの日の訓練は終わった。 それから、今回の事がが きっかけで鉄には初期時には想定されてない兵器がいくつか増える ことになっていくのだが⋮⋮それはもう少し先の話。 164 6月22日︵後書き︶ 遅くなった理由は魔法使いのウェハースを書いた影響です。 あ、ごめん、悪かったから物を投げないで!? 165 6月25日 色々で歩いていた為に溜まっていた政務を行なう光の所に、静か に一人の男がやってきた。 ﹁沢渡大佐、来てくれたか。 では報告を聞こう﹂ ﹃忍﹄に光は一つの任務を与えていた。それは二月から今までの 国民の状況調査。これから先を考える為にきちんと調査をしておく 事が必要だった。当然光は自らも動いてはいたが、総理大臣という 肩書きが邪魔して本音をさすることは難しかった。 ﹁はい、では報告をさせていただきます﹂ 沢渡は自分と部下を使い、日本全国を走り回り話術を駆使してあ らゆる場所に居る日本国民に本音を喋べらせていた。もちろんそこ には強制や脅しなどはなく、普段の談笑のように話を調節しながら、 その中にいくつかの本音をぽろぽろっと洩らさせるやり方だ。 ﹁まず、巨大ロボットのKAMUIに対しては半信半疑という感じ のようです﹂ 技術者、マニアなどにはものすごく受けているが、その半面本当 に使い物になるのかどうかという点はまだ実際に戦闘などを行なっ ていない為、否定的な意見も数多くあった。 ﹁それは仕方が無いだろうな、だがその力を国民の目に見せる時は そう遠くないが、な﹂ 166 如月工場長からも量産型KAMUIの生産は好調であり、オプシ ョンも幾つか試作が出来上がっていると報告を受けた。此方は近い 内にその性能を実践で発表することになるだろう⋮⋮と光は考える。 ﹁まだ動かぬ物ゆえ、KAMUI関連は疑いの目を持たれる事は現 時点ではやむを得ぬ事﹂ 沢渡の持って来たKAMUI関連の報告をそう光は纏める。 ﹁それでは次です。 異世界から訪れた未来の同胞、特に耳が大き いフォースハイム連合国、獣耳を持つフリージスティ王国の人々を 見た反応ですが⋮⋮こちらは大きな問題はない、と見て宜しいでし ょう﹂ 実際エルフに近いフォースハイムの耳はファンタジーの題材とし た使われてきたこともあり、問題なく受け入れられた。 それから 獣耳のフリージスティは特に男性からの支持が非常に大きかった。 異世界から来た人達の目的の一つに結婚し子供を作る事があると広 まるや否や、﹁猫耳猫耳!﹂﹁きつねきつね!﹂﹁うさうさだろ!﹂ ﹁最近は狸も捨てがたい!﹂などと論議されていることも多く、拒 絶するようなムードは少ない。 ﹁そこは日本人の特徴も上手く動いているな。我々は昔から、良い ものは良いと認め、自分達の文化や考えに取り入れていく風潮があ った。 それゆえ、世界の神すらもわが国にやってきて多少姿を変 えつつも定着したからな﹂ 一番良い例が七福神であろう。七福神の中に本来の日本の神様は なんと一人しか居ないのだ。その一人は誰か? 興味がでたら調べ てみると面白いかもしれない。 167 ﹁それに、姿形が多少違えど、これから長く長く付き合ってゆく大 事な同胞となる。その第一歩が自然に近い形で上手く行っているの はとても良いことだ﹂ ちなみにこの流れの裏には、フルーレ達の尽力もある。 魔法部 隊員は空き時間を利用して日本人と遊んだり談笑をしたりといった 地道な努力を重ね、自分達は良き隣人であるという信用を少しつづ 確立していたのだ。 もっとも、食に魅せられた為に、半ば頼まな くても動いていた隊員が多かったのも事実ではあるが。 ﹁今では我々も協力して任務に当たることもあります﹂ 沢渡はそう光に報告する。 完全な事後承諾なのだが⋮⋮ ﹁彼らとならば問題はない、口の堅さも信用が置けるからな﹂ 光はそれを認めた。 ﹃忍﹄は隠密部隊ゆえ、その辺の付き合い 方にミスはないだろうという信用込みである。その見込みが違った のなら自分のミスだと光は考えている。 ﹁経済は完全に全ての外国人を排除できた為に、安心して商売や取 引が出来るようになり、確実に改善してきております﹂ 治外法権に半ばなっていた状況からようやく開放され、商売に精 を出す人も増えていた。万引きなどは当たり前で、その上外国人と いうだけで日本の警察に逮捕する権利はなかったのだ。 さすがに 傷害や放火、殺人ともなれば別だったが、軽犯罪を取り締まる事が ほぼ出来なかった為に、ひどく荒れている地域も多かった。 あま りに度が過ぎた犯罪を繰り返す外国人は﹃忍﹄の手に掛かっていた 168 りするが。 ﹁日本人は奴隷、半ば植民地なのだから物を多少奪っても問題ない という認識を持つ輩が非常に多かったからな⋮⋮ようやく日本に巣 食う癌細胞を掃除できたか﹂ 結界が張られた当時は、もちろん外国人が多数日本にいた。 だ が結界を張られた後にもそれ以前のように盗みなどの日本人に対し ての妨害、攻撃行為を働いた者達は現時点で殆ど生存していない。 大半が海に飛ばされたからだ⋮⋮陸地三割海七割なのだからそうな るのが自然である。何処に隠れていようが、日本人に対し悪意を持 った行動をすればはじき出されるのだから対策が取れず消え去った。 ﹁私もこの腕を押さえるのに苦労しましたからな⋮⋮殺してやりた いという心境に陥ったことなど数え切れません﹂ 正直な心境を沢渡も吐露する。 耐えかねる振る舞いをするもの は多かった。 即刻首を撥ねてやりたいとこぶしを握り手から出血 したことも多い。 ﹁念のために我々も念入りに調査を繰り返しましたが、間違いなく 現時点では外国人は日本から一人も残さず消え去っております﹂ 各国の大使館と言う名の日本にあった監視塔は、今は既に全て取 り壊されている。 開いた更地の有効移用する為の案は幾つかが検 討されている。記念の塔なんかを作るよりも、そこに生きる人のた めに役に立つものを、ということで小型の食料生産プラントが作ら れることもある。大部分を地下に作れば良いので、地上の面積はそ こそこあればいいからだ。 169 ﹁それからこれはやや余計なことかもしれませんが、一つだけ多く の人が残念がっている事と言えば、彗星ラバーズの訪れを最後に見 る事が出来ない事でしょうか﹂ 彗星ラバーズとは、700年ほど昔から地球のそばに来るように なった彗星であり、今年の終わり頃に地球の近くへ訪れると予想さ れていたのだが、それからしばらく後に来年の2日未明ごろに地球 に近づくと予想が修正されていた。 ﹁そうか、あの彗星の見納めが出来なくなってしまったが⋮⋮それ ばかりは不運であったと考えてもらうしかないな⋮⋮さすがに彗星 相手にはなにもできん﹂ 沢渡も苦笑いを浮かべている。 まあこれはどうしようもない部 分なので沢渡も深くは考えていなかった。 ﹁彗星の件はどうしようもないから除外するが、全体を総合すると、 国民のみんなは現時点では極端な不満は特に無く、各々の仕事に汗 を流しているということで良いのか?﹂ ﹁はい。 少なくとも今までの苦渋に満ちた状況を改善することに 成功し、脅える状態から脱した今は皆の表情は明るい物になった、 と言って宜しいでしょう﹂ 沢渡の報告に光は頷き、沢渡に下がってよしと告げる。 沢渡は 会釈をした後に静かに消え去った。 それを確認してから、机にに 山済みとなっている書類と格闘を再会した。 ︵4ヶ月でこれだけ状況が動いたか。 切っ掛けこそ自らの力では ないが、そこから立ち上ってきた人の意思は、間違いなく日本人そ 170 のものから出ている。残りは6ヶ月、それまでに影の支援をしてく れた六か国に特殊なシールドシステムを送り、後は日本に攻撃を性 懲りもなく仕掛けてくる気配を見せる世界相手に、今まで濡れ衣で 日本が負ってきた傷の痛み、苦しみを思い知らせる︶ 手は書類作業を行ないながら更に思考を続ける光。 ︵十二月に日本が消えれば、今世界を動かしているシステムの八割 がゆっくりと停止し、残り二割もその後に動かなくなる。だが、そ んなことは知ったことか⋮⋮自らのやってきた罪は支払ってもらわ なければならない。死ななくていい人を殺し、喰らい、その屍の上 に築いた栄華。 その恨みは深いぞ︶ 青く燃え上がる怒りの炎を心の奥底に煌々と燃やしながら、今後 の対策を練る光であった。 171 6月25日︵後書き︶ アンケート多数により更新をお届けしました。 もっと早く書ければよいのですが、申し訳ないです。 172 7月6日︵前書き︶ 今回はいつもよりエグい部分があります、注意を。 173 7月6日 ﹁総理、総理、大変です、一大事です!﹂ その日の昼にそんな大声を上げながら、総理官邸に1人の男が息 を切らせつつ飛び込んできた。 仕事をしていた人たちは一体何事 かと顔を曇らせた。 ﹁何事だ、報告を聞こう!﹂ 総理、一大事ですと言う言葉が直接聞こえる距離に、たまたま近 くにいた光がやってきた男にそう告げた。 ﹁太平洋に空母三隻! 護衛のシールド艦10隻! その傍に付随 している駆逐艦多数! 間違いなく日本に航路を向けております!﹂ この報告に一気に慌しくなる総理官邸。 今の世界で船の需要は たった一つ、軍の戦力としてのみ必要とされている。戦闘機を運搬 することや、巨大なレーザーキャノン、シールド代わりの巨大なミ ラージュ・フィールドを発生させるシールド専用艦などなど⋮⋮移 動する事が出来る基地としての使い道として、船は使われていた。 周りが騒がしくなる中、光は内心時が来たと考えていた。KAM UIの初陣相手がやってきたからである。あの西村青年との約束も ある。 ﹁慌てる必要はない! 即時殲滅する手段は既にある、皆は普段ど おりの仕事をしていればよい﹂ 174 その光の声に報告を聞いていた人達は落ち着きをやや取り戻す。 ﹁今日一日だけ緘口令を敷く! 今日一日だけ、外の者に洩らすな !﹂ 落ち着きをやや取り戻した周囲の人達に光の声が届く。 今まで の行動で信頼を寄せられている光の言葉に周りの職員達は頭を下げ た。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁如月司令、聞こえているな? そして情報も掴んでいるな?﹂ 自分の専用執務室に戻った光は、即座に如月司令に連絡を取った。 ﹁当然です、のこのことバカがやってきたようですな﹂ 全て察しておりますとばかりに、如月司令は光に返答する。 ﹁ならばKAMUIの初陣だ! 派手にやれ!﹂ ﹁はっ、既に出撃準備は整っております﹂ こうなるだろうと見越して、既に如月司令はそこまでの準備を進 めていた。 ﹁更に軍事衛星も50分ほどハッキングを掛けて、KAMUIの能 力を今は諸外国に見せないように処置いたします﹂ 光も同意した。まだKAMUIの存在を見せ付ける時期ではない。 175 見せ付けるのはもう少し先でいいのだから。 ﹁西村君と少しだけ話せないか?﹂ ﹁大丈夫です、繋ぎましょう﹂ 光の要請に如月司令は答え、既にKAMUIに乗り込んでいた西 村と対話できるようにした。 ﹁西村君、聞こえているかな?﹂ 出撃命令を下され、闘志を燃やしていた西村 光一は一瞬あっけ に取られた。 慌てて敬礼をする。 ﹁こ、これは総理!﹂ その姿を見て光は微笑ましい物だとつい笑いそうになるが、伝え ねばならぬ事があるために気を引き締めなおしてから、西村に向か って口を開いた。 ﹁もうそちらも把握しているだろうが、日本に向けて明らかに攻撃 の意思を持つ連中がやってきている⋮⋮﹂ 西村は光の声に頷く。その西村が頷いた事を確認した後に、光は 命令を下す。 ﹁司令からもすでに言われているかもしれないが、総理である自分 が命令を下す。 敵兵を1人も生かして帰すな。完膚なきまでに全 てを破壊せよ。 KAMUIの情報を現時点では敵国に与えてはな らない。君のご両親を奪ったあいつらに情けは無用だ、責任は全て 176 私が取る、君が気に病む必要はない﹂ だが、この命令に対して西村は左右に首を振った。 ﹁総理、私めに対しての気遣いは無用です。自らの手を血で汚す覚 悟はできています。自らの業として背負っていく覚悟もできていま す。 ││ですが、ありがとうございます。必ずあいつらを完全に 殲滅して参ります﹂ その西村の返答に光は頷いた。 ﹁では出撃せよ! 武運を祈る!﹂ ﹁はい!﹂ カタパルトが起動し、KAMUIを出撃させる準備を取る⋮⋮つ いにKAMUIの初陣となる太平洋上戦闘が開始された。 KAM UIに搭載されている重力コントロール能力で、カムイは重力方向 を変化させる事により前に落下すると言う状況を作り上げつつブー ストを噴かす。 あっという間に光陵重化学からKAMUIの姿は 視認できなくなった。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁提督、現時点では異常ありません!﹂ ﹁うむ、常にレーダーの様子には注意しろ、念のためにな⋮⋮﹂ 連合国の船団を預かる彼はそう部下に告げる。 各国の技術者が あの日本が開発した防壁を突破するべく数々の予想を立て、幾つか 177 の兵器を生み出した。その兵器を試し撃ちすること、もしその兵器 が有効に働いてあのバリアを砕く事が出来たのならば、そのまま日 本を占拠しろと命令を受けている。その際好きなだけ日本人を殺し ても構わない、と言う指示も下されていた。皆殺しにしなければい い⋮⋮と。 ﹁提督、まだ日本は先です。この距離じゃどんな武器や兵器も届き ませんよ。 それにあの立てこもるしか能がない連中が殆どなあの 弱虫日本ですよ? 最初はあのバリアに面食らいましたが、今回は もう、新兵器でつついてやればあの国は簡単に倒れるでしょうよ﹂ そういって参謀は笑う。 確かにそうかもしれない⋮⋮日本人を どうやって各国のプラントから不当に連れ去ったのかの方法はいま だ不明だが、あんな小国、武器を大慌てで生産しても限界がある。 我々の船団は新兵器も多数搭載しているし、一網打尽に握りつぶ せばいいだろう⋮⋮。 もし航空部隊なんかをある程度作れていたとしても此方のレーダ ーをごまかす真似はできないだろうし、もし近寄ってきても新型ホ ーミングミサイルであるゲイ・ボルグの餌食になる。 神話の時代 を思わせる、撃ったら回避方法はないミサイルで日本の航空兵器な ど簡単に全滅させられる。 そう考えて無意識にニヤリと提督であるその男は笑った⋮⋮のが この世の最後の姿となった。船のブリッジに直接何かが打ち込まれ、 ブリッジにいた人間は全てが一瞬で塵と化したからである。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁ニヤニヤと笑っているそのツラ、もうこれで永久にできねえだろ 178 う﹂ 連合船団の頭でもある提督のブリッジに弾を打ち込んだのは当然 ながらKAMUIに搭乗している西村だった。 重力コントロール により、僅かに上に落ち続けるという状態にしており、遠くから武 装の一つ、マギ・ショルダーカノンでぶち抜いたのだ。 ﹁てめぇらは皆殺しだ。 俺の両親を食い物にしやがった連中と同 じ国に生まれた事を後悔しろ⋮⋮死ぬ順番が早いか遅いか、それだ けだ﹂ 今回のオプションパーツである、マイクロ・グラヴィティーボム を打ち出し、小さいながらも相手を握りつぶすと言う表現が適切と いう、命中した相手の中央に超重力を集中させてぐちゃっと潰して しまうミサイルを、遠慮なく連合の船団相手に対して大量にばら撒 いた。 スクランブルで飛び立ったが故に真っ先にそのミサイルを 受ける名誉を得てしまった戦闘機は、一瞬で丸い鉄のスクラップに された後に爆発して四散した。 その戦闘機だけではなく、ミサイ ルが命中したあちこちの場所で醜いオブジェがいくつも生み出され ていた。 ﹁この程度じゃすまさねえ⋮⋮﹂ すかさず西村は、メインウェポンのマギ・マシンガンにて攻撃を 続行する。 慌てて船団のシールド担当船は巨大なミラージュ・フ ィールドを展開し、後ろの船団を守ろうとした。 だが、数発のマ ギ・マシンガンから撃ち出された弾を受けたミラージュフィールド はあっけなく過負荷に陥って消失し、消失した所を容赦なくマギ・ グレネイドを投げられ、船も船の乗務員も一瞬で地球から消滅する 運命を共にした。 179 当然連合船団のほうも西村が動かしているKAMUIに対して攻 撃をしているが、戦闘機とは違い、左右にも動き後退も可能、なお かつシールドを持つKAMUIに有効な一撃を与える事が出来ない。 一方のKAMUIはマギ・マシンガンの弾を船団に対しばら撒け ば、小さめの駆逐艦辺りに相当する船はあっけなく沈み、生命反応 レーダーから数が減っていくと言う状況である。 既に船団の方は たった一機の機体の前に恐怖していた。 そんな時にオープン回線 で西村に連合船団の方から声が届く。 ﹁お、お前は何なんだ!? 我々が何をした!!﹂ 誰の声かは分からないが、西村はその声に対してボソッと呟いた。 ﹁自分が何をやっているのか、それすらも分からないのか。こんな 奴らに⋮⋮俺の両親は⋮⋮みんなの親は⋮⋮日本は⋮⋮ッ!!!﹂ マギ・マシンガンを後ろへと戻し、神威の太刀一式、二式を腰か ら抜く。 ﹁銃でぶち抜くのはもう止めだ⋮⋮残りは⋮⋮残りは全員直接ぶっ た切ってやる!!﹂ 蹂躙が始まった。KAMUIが振るう巨大な太刀の前に連合船団 の船も、人も、兵器もすべてが等しく切り裂かれていく。いつしか 太刀は紅のまだら色に染まり始め、その輝きはまがまがしい色にな ってゆく。だが西村は最後の1人を切り捨てるまで止まる事はなか った。 こうして、連合船団はあっさりと壊滅し生存者も0と言う記録を 180 残すことになった。 世界側はこの被害により、日本攻略の為の準 備が遅れに遅れる事になる。 その上文字通りの全滅した理由も日 本側が仕掛けたハッキングにより把握することに失敗し、あらゆる 記録媒体も破壊されていた為KAMUIの存在、戦闘能力をこの時 点では全く知る事が出来なかった。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁総理、確認しました。 敵戦力完全消滅。生存者ゼロ。ミッショ ンコンプリートです﹂ 如月司令との通話で、光も確認をした。 ﹁西村君に伝えておいてくれ、これからも頼むぞ、と﹂ 通話を終えて、光は空を見上げる。 これで時間が稼げる、世界 は警戒し日本への攻撃を一から組み立てなおす事になるだろう。 だがその代わり、あんな20にもなっていない一人の男にあれだけ 手を汚させた。 ││報いなければならない。あんな事をさせたの だからそれ以上の幸せを与えなければならない。 それがこの時代 の総理大臣の椅子に座る自らの役割だ。 ︵あと数ヶ月の辛抱だ。 今後も負けられない戦いが続くが、絶対 に負けない、負けてなるものか!!︶ 181 7月6日︵後書き︶ 今回はあまり時間を明けずに投稿できました。 182 7月8日︵前書き︶ 異世界組みの様子です。 183 7月8日 ﹁これほどとは﹂ フルーレが真剣な表情を浮かべつつある映像を見ている。 映像 の内容はきのう発生したKAMUIの戦闘シーンである。今後共に 戦うことになる日本国の主力と言うことで、フルーレ達にも一度は 見て欲しいと光から手渡されていた映像データだ。 ﹁でたらめ⋮⋮と言っても良いかも知れませんね。まさかあの運搬 ぐらいにしか使えないと我々が考えていたゴーレムと言う存在を⋮ ⋮自らの技術を組み合わせてここまで別のものに仕立て上げるとは﹂ KAMUIはフルーレ達が来る前に大本が出来上がっていたので、 厳密にはゴーレム技術が使われている部分は今後完成してくる鉄や KAMUI弐式よりも遙かに少ないのだが、このような形になると 言う意味では十分参考になるだろう。 ﹁確かに予想を遙かに超えてきたな。 まさかここまでの戦闘能力 を持たせることが出来るとはな⋮⋮しかも、俺達にとっては基本で しかないと思っていた簡易の重力操作だが、ここまで破壊能力と言 う指向性を持たせる事が出来るとは恐れ入ったぜ。この空を飛んで いるやつが丸く潰れてるのは重力魔法の応用で押しつぶしたんだろ ?﹂ 映像を見ている部隊長たちは予想を上回る能力を持ったKAMU Iに興味津々である。映像では容赦なくKAMUIが刀を振るい容 赦なく切断しているシーンに入ってきている。いろいろなものが吹 き飛んでいるが、それから目を背ける者は一人も居ない。戦いでは 184 そんな光景は当たり前である。 ﹁こうやって大きい体をしているのに、これだけの近接戦闘も可能 ですものね⋮⋮きっかけを得たこの国は本当に変わってゆきますね﹂ 最初の虐げられていた状態から僅か数ヶ月しか立っていないと言 うのに、今はこうやって十二分過ぎるほどの戦いをするようになっ ている。 どう少なく見積もっても、同胞として頼りに出来るレベ ルには間違いなく達している。 ﹁しかしこのデカブツ、戦いの時以外に使い道はあるのか?﹂ 最もな疑問である。 各国専用の防衛能力を持つのは当然であり、 それに文句を言うつもりは全く無いとは言え、これだけの存在を武 器としか扱えないのは惜しい。そう考えるのが普通である。 ﹁それについては光総理から追加情報を貰っています。﹃争いがあ る状態ではこういった戦いに用いるが、争いが無い平時では武具の 携帯は最小限に抑え、工事や緊急時の人命救助、物資の運搬などの 平和的な使い道をする﹄そうです﹂ フルーレがある部隊長が出した疑問に対して光の代わりに返答し た。 そもそもそういった平和的な使い道の方が日本人に取っては ありがたい方向である。 戦闘がしたいならVRを用いた模擬戦闘 をすれば事足りる。いくら海外に今までの恨みが蓄積していようが、 必要以上の流血を望んでいないのはやはり日本人特有の思考なのだ ろうか? 打って出るのは今回のように攻撃の意思を確認できた時 だけに留めるつもりだ。 それから少々話が脱線するが、KAMUI弐式専用のVRをほぼ 185 完成し、開発者たちが模擬戦を繰り返しつつ、詰めの作業に入って いた。パイロット候補が発表される日は近い。 ﹁今後のことも色々考えているわけか⋮⋮これで口だけじゃなく行 動でも我々の部隊と、緊急時には守ってもらうのではなく共に戦う と言う意思をこの国の総理はここに証明したわけだ﹂ そのある部隊長の声に、フルーレを含む全員が頷く。 ﹁これで各国の代表に、﹃日本皇国は護衛対象から我々の同胞に代 わった﹄と報告するべきであると私は考えています。こうして共に 戦う能力を身に着けた今、皆様も納得すると思われますが、どうで しょうか?﹂ このフルーレの問いかけは全部隊長の賛成で一致を見た。 ││││││││││││││││││││││││ フルーレの直接の通信により、地球から見て異世界側の三国に対 し報告が送られた。 現時点では細かい情報を渡すことは出来ない が、日本皇国が自分達と肩を並べて戦う意思を示したこと。そして そのための新しい﹃力﹄を生み出し、現に自分達の目に見える形で 見せた事。 そして最後のその力におぼれず、あくまで防衛の為に のみ扱うと言う考えを持つ様子である事、これらの三点の情報を伝 えたうえで、﹃今後日本皇国は庇護を与える護衛対象ではなく、同 胞として地球出向部隊は扱いたい﹄と一文を添えて報告を送った。 ││││││││││││││││││││││││ ││マルファーレンス帝国 186 ﹁おい、この報告を見てみな﹂ マルファーレンスの代表でもあるガリウスが側近を呼び寄せる。 ﹁何か問題が発生いたしましたか?﹂ 側近は地球へ増員希望の報告が来たのかと考えた。今までの報告 であちらの世界に居る日本皇国がかなり苦しい立場にあると言う事 は理解出来ており、三国連合の会議では追加の魔法部隊を地球に送 り、日本皇国の防衛力をより高めた方がいいのではないか、と言う 意見もよく出ているからだ。 ﹁問題じゃない。 むしろ喜ばしい展開だぞ?﹂ そう言って、ガリウスは報告書を側近にも見せる。 ﹁これは⋮⋮!? 予想外ですな。 ですが確かに喜ばしい事です。 少々気になる部分がありますが、これならばこちらに来た後でも彼 らは生きて行けるでしょう﹂ いつまで経っても庇護を求める者はいつの時代にもいるものだ。 だが日本皇国は既に自らの足で立ち上がって行動を始めたらしい。 これならばいつまで庇護を与えねばならないのだと言う問題は発生 しなくて済む。それだけでも彼らはこの世界に来た後も冷たい視線 に晒されることなく我々と共に肩を並べて生きて行けるはずだ。 側近であった彼も、この展開には大きく期待を持つことになる。 ││フォースハイム連合国 187 ﹁なるほど、そうなりましたか。 彼らはついに守るだけから攻め を交えた守りに転じましたか⋮⋮﹂ フォースハイムの長でもあるフェルミアはそう感じた。 自己の 占いで発現した結果である日本人の本質であると表されたタートル ドラゴン。 そのタートルドラゴンがいよいよ甲羅から足を出し、 手を出し、尻尾と頭を出し、襲い来る相手に向かって戦いの咆哮を 上げて襲い掛かったと見た。 ﹁あの温厚なドラゴンは怒った時には一切の容赦がありません⋮⋮ いよいよその牙を敵対者に対して向けますか⋮⋮﹂ 言い換えれば牙を向ける覚悟をしたとも言えるので、無意識の内 に表情がこわばってゆくフェルミア。 ﹁血が⋮⋮たくさん流れる事になるでしょうね⋮⋮﹂ ││フリージスティ王国 ﹁そうかそうか。流石は婿殿。︵予定︶ 我々の庇護に甘えること なく立ち上がる道を選んだか、実に良いぞ!﹂ 報告を見た沙耶は、小躍りしそうな勢いである。 ﹁あの方々が自ら立ち上がりましたか⋮⋮﹂ 側近は沙耶をなだめつつ感想を漏らす。 この側近は、沙耶と一 緒に日本を訪れていた一人である。 188 ﹁出来るだけ日本皇国に死者が出ないと宜しいのですが⋮⋮﹂ 良くしてくれた思い出が多い日本に対し、側近はそう願う。 あ んな暖かい人たちは出来る限り戦なんかで死なないで欲しいと。 ﹁戦となればそれは難しかろう⋮⋮じゃが、そうじゃな。 せめて 武運がある事を我々だけでもここから祈ろうではないか⋮⋮﹂ まだ国民に知らせる時期ではない為、自分や側近だけではあるが、 沙耶は日本皇国の為と、ついでに個人的に好意を抱く光のために⋮ ⋮この日より武運よ日本皇国にあれと祈るようになってゆく。 189 7月8日︵後書き︶ 異世界の代表三名は久々の登場。 まあほんの少しですけど⋮⋮。 190 7月10日︵前書き︶ やっと一話かけたので更新します。 191 7月10日 ﹁くそっ、この大事な作戦がまさかこんな結末を迎えるとは⋮⋮﹂ 物に当り散らしている某国の大統領。 新しい兵器の効果などを データにとり、有効であればそのまま破壊して日本の総理にテンノ ウを殺害して、再び今までのような労働力として扱おうと計画を繰 り広げていたのだが⋮⋮結果は連合してまで生み出した兵器、出し 合った艦船など、全てが何の成果も結果も出すことなく水の底へ沈 んだ。 ﹁完全に予定外だ、一体あの場所で何があったのだ! 完全殲滅さ れた上にあらゆる通信がその時だけ死んでいただと!? おまけに 映像はハッキングされていて殲滅を受けた時のデータも一切回収で きなかった上に、全てのブラックボックスまで破壊されていた⋮⋮ !! 何所の国がやりやがった!!﹂ 怒りが収まらない大統領ではあるが、いつまでこうやって居ても 何も改善しないと言う事は分かっていた。 机を叩きつつも椅子に 座る。表情だけは怒りを抑えられていないが。 ﹁今回はヨーロッパ系列の妨害ではないでしょう。腰抜けの日本が 打って出たとも考えにくいです。そもそもあの国に兵器がある訳が ありませんが。あれだけの防衛兵器を、我々に感知されぬように工 夫しながら製作していたとなると攻撃の為の兵器までは手が回ると は思えません。そうなりますと、ハッキングが得意で自らこそが世 界の王であるとふんぞり返っているあの国が今回の容疑者と予想さ れる筆頭格ですね﹂ 192 ﹁ふん、あいつらか⋮⋮確かに今までの行動から考えれば、あいつ らなら平然とやりかねんな。ふざけた理由で他の国に侵略行為をす るのはお手の物だからな﹂ ﹁しかし、今回は残念ながら一切の証拠がありません、あいつらの ように捏造するにも、真実をいくらかは混ぜなければ信憑性を持た せることが出来ませんので⋮⋮﹂ ﹁ハッキングをされた、ということは言えないからな⋮⋮侮られる だけだ﹂ もちろん連合艦隊が海の藻屑になったのはKAMUIに乗ってい た西村の逆鱗に触れたからなのだが、この時点では他の国はKAM UIの情報を一切手にしていない。故に事実からかけ離れていくこ とになった。 ﹁どういう方法を使ったのかが現時点では分かりませんが、サルベ ージすら今回は不可能に近いです、せめてある程度引き上げる事が 出来れば⋮⋮おまけにブラックボックスまで全てが完全にロストし ている事が痛いですね﹂ ﹁忌々しい、他は他で新兵器を作っているのだろうが⋮⋮今は世界 で争っている場合ではなかろう、さっさとあのクソジャップを外に 引きずり出して世界への贖罪をより厳しく行なわせねばならん時期 だろうが⋮⋮!﹂ 自分達の国とて新兵器を作っていた事を棚に上げてそう舌打ちを する大統領。 贖罪云々は別にして、問題はもうはっきりと表面化 してきている。 兵器以外の生産力が目に見えて落ちてきているの だ。貯蓄を考えてもタイムリミットが後数年とはっきり宣言されて 193 おり、そのタイムリミットを越えた後には衣・食・住全てが大幅に 悪化する。 歪みに歪んだ歴史を持つ故に、一本の柱が折れると全 てがドミノ倒しの様に瓦解する。まるで耐震設計を考えずに作った 家が、軽い地震を受けた途端に柱も壁も崩れ落ちて潰れて行くかの ように。 更に加えて言えば、その兵器すら原料を生産する工場が これまた日本人が消えた為に止まってしまったので、近く武器の生 産そのものが出来なくなってしまう事が判明している。 時間が無いのだ。 プラントによる一斉大量生産という方法を取 らせてきた形で国民の衣食住を満たしてきた為、昔ながらの大地に 種をまき、食料を作るという方法ではとてもではないが増えた人口 を維持できない。 そうなれば当然奪い合いになり、無法地帯が増 え、国家が内部から自然崩壊する。 現時点ではプラントの生産方 法はオートになっており自動生産をしてくれてはいるが⋮⋮メンテ ナンスの方法も、燃料の供給方法も分からない状態であり、近く日 本人が管理していた全ての食料生産プラントは燃料切れなどの理由 により停止する。 ごく一部の国が管理していた生産プラントの技 術者を出向させて日本人が管理していたプラントを見せたのだが⋮ ⋮。 ﹃申し訳ありません大統領⋮⋮日本人達は”外見だけは同じ”だが、 ”中身は別物”という機械の作り方をしていたようです⋮⋮!! くそったれ、こんな手段までなりふり構わず⋮⋮!﹄ ”その時”が来るまで、耐えに耐え、確実な一撃を我々に打ち込 むためにそのような真似をしていたのでしょう、と技術者は報告し てきた。停止した後の再稼動方法を探らせてはいるが、うかつに今、 分解などをすればプラントの全体作業が止まってしまい、即座に物 資の供給不足が発生してしまうために詳しい内部の調査も今は殆ど 出来ない。 見えないように、気が付かれない様に⋮⋮そしていざ 194 という時がきた場合には確実に引き裂ける様に、ずっとずっと日本 人達は前から用意を積み重ねていたのだ⋮⋮。 ︵くそ、あのジャップモンキーめ、こういったくだらないことには 本当に上手くやりやがる! ここまで人間にたて突くとどうなるか 近い内に必ず思い知らせてくれる!!︶ 日本人から言わせて貰えば、﹃嘘と脅しでやってきた愚か者達に、 心からの貢献などするわけが無かろうが、この馬鹿共が﹄といった 所であるが⋮⋮日本人を長い間ただの奴隷と見続けた彼らには悪態 をつくことしか考え付かないようだ。 ﹁大統領、申し訳ないのですが更に悪い知らせです﹂ ﹁なんだ、まだあるのか!?﹂ ﹁今回の作戦に使われる予定だった兵器の改良案が上がってきたの ですが⋮⋮これを生産しますと、我々の温存している金属関連の在 庫がほぼゼロになってしまいます。しかも、今から作り始めなけれ ば、彼ら日本人が何かをすると宣言している12月31日に間に合 わなくなります!﹂ ﹁なんだと!?﹂ この時期でもう最後の賭けに出る事を強要される始末だと言うの か⋮⋮! だが”実験”が全く出来なかった以上、少しでもあのモ ンキー達を引きずり出す為に兵器強化をしておきたいのは言うまで も無く⋮⋮。 ﹁││分かった、大統領の命令として作らせろ。 ただし絶対にク 195 リスマス・イヴには間に合わせろ! サンタクロースのプレゼント を取り戻さないといけないからな!﹂ ”クリスマス・プレゼント奪回作戦”などと、日本人から言わせ れば寝言を言うなとばかりに逆撫でするであろう計画がここに持ち 上がることになる。 もちろん兵器による強襲も計画にはあるが、 一番の目的はその兵器によって恐怖を煽らせる事で、”死ぬよりは 生きたほうがマシだろう?”と言わんばかりのプレッシャーを掛け ることで、日本人を自発的にバリアの外に出して捕縛、奴隷として 再利用する。 この計画のプレゼントとは、日本人を再び労働力奴 隷として扱うようにし、国が潤うようにするという意味である。 だが、彼らは忘れていた。WW2で彼ら世界各国が日本に取った 行動を。輸入を差し止め、対話を求めた日本の声を無視し、とどめ に”ハルノート”を突きつけた事を。奴隷になるよりは、戦って死 のうと覚悟を決め勝てない戦いと十分理解しながらも戦いにに身を 投じた日本人の事を。 そして彼らは知らなかった。日本はもう世界を相手に戦える力を 身に着けつつある事を。彼らに助太刀をする”強き同胞”が居る事 を。 なにより、本気でブチキレた日本人がどういう行為に走るのか。 バンザイアタックなどと世界に言われた﹃特攻魂﹄は、既に日本人 の中で復活していた。抜き身の刀のごとく静かに、しかしはっきり とした戦意を日本国の国民は皆、持ち始めていた。 それに加えて、 残虐な部分だけ最小限の修正を掛けたKAMUIの戦闘、戦果を総 理である光は国民に正式発表し、戦える力を我々は今こうして持つ 事が出来たと演説も振るった。日本人の士気は今、とてつもなく高 まっていた。 196 そんな事を一切知らない各国は、12月に日本へ向けて攻め入る ことになるのである。 197 7月15日︵前書き︶ 更新遅いよ、なにやってんの! の声にお答えし、頑張ってみました。 198 7月15日 ﹁総理到着、全員敬礼!!!﹂ ここはとある自衛隊駐屯地。武器や兵器を取り上げられ、国軍と しての力を失っていた現自衛隊ではあったが、いざと言う時の災害 の発生時には体を張って救助に向かう猛者がその程度の苦難で消え たわけではなかった。むしろいろいろなものを取り上げられた分、 僅かな機材で如何に救うか、守るかと言う技術をより伸ばしていた。 その姿はまるで踏まれても刈り取られても再び起き上がり、生えて くる雑草のごとく。 ﹁楽にして欲しい﹂ 壇上に登場した光の言葉に全員が敬礼を終えて、胸を張って休め の体勢をとる。乱れも無く整然と胸を張る自衛隊員。 たとえ武器 や兵器がなかったとしても彼らは国を守る為に徴兵されるのではな く、自ら志願してこの場に立っているのだ。そんな彼らだから、当 然入っている気合が違う。 ﹁先日、KAMUIの戦闘シーンをグロテスクな部分のみ修正をい れたものを全国に開放した、その映像を見たものは挙手をして欲し い﹂ 大半がすぐさま挙手する。 大体九割は見てくれていたか、と光 は確認をすると、手を下ろして欲しいと指示をした。すぐさま綺麗 に手が下ろされ、再び休めの体勢になる自衛隊員。 ﹁そして本日ここに私が来た理由だが。 あのKAMUIの量産機 199 に乗るメンバーを自衛隊の中から選出する事になるために出向いた﹂ 一般市民ならざわめきそうな一言ではあるが、自衛隊員は全員体 勢も崩さす、無駄口も叩かない。 ﹁言うまでもないが、搭乗し戦う機動兵器であるKAMUIだけに 特殊な訓練を積んでもらうことになる、訓練はVRで行なうことに なる。 そしてその訓練の中で成績が優秀な自衛隊員を八十名選出、 その八十名をKAMUIとローマ字表記していた事を改め、神威と 今後は漢字で表記することになった初代神威、その神威の量産型で ある弐式に搭乗してもらうことになる。当初三十機が量産の予定に なっていたが、向こうの世界より追加で来た協力者の尽力もあり、 さらに十機が追加されることになり、合計四十機となる事が確定し た。人数要望が機体の倍である理由だが、一つの機体につきメイン パイロットと、サブパイロットを各一名ずつ選出、疲労状況などに より交代しながら運用してもらう為だ﹂ 一旦話を区切り、整列をしている自衛隊員を光は見渡す。 ﹁なお、全国に居る全ての自衛隊員にこの話は現在進行形で伝わっ ている。そして選出方法も立候補に絞る、推薦は要らない。例えあ の強力無比な起動兵器に乗るとはいえ⋮⋮敵の真っ只中に突っ込む ことも考慮されている為、命の保障は何所にもない。そのような戦 場に出向いてもらうことになる為に、立候補のみに絞らせてもらう。 その覚悟を持った上で、遺言書を書いてもらった後に訓練を行なっ てもらうことになる、私のように﹂ 最後の﹃私のように﹄で一瞬だが空気が変わった。 そして自衛 隊員の中から一本だけ手があがった。 200 ﹁須藤と申します、大変失礼ですが総理に対し、質問をする許可を 頂きたいのですが﹂ 須藤と名乗りを上げた一人の自衛隊員に対し、光は許可する、た だし質問は一つだけにとどめていただくと声を発した。 ﹁ありがとうございます。 遺言状を総理も書かれたとの事ですが ⋮⋮まさか、総理も自ら戦いの場へ赴かれるのですか!?﹂ 須藤伍長の質問に、光はゆっくりと頷いた。 ﹁専用機を用いると言う違いはあるが、その代わりに一番前へと私 は立つ予定だ。皆だけを戦わせるような真似はしない。一国の総理 としては本来なら許されない行動なのかも知れないが、今は非常時 ! 故にやらなければならない。今回のような機会を逃せば、もう 二度と我々日本人は立ち上がる事は出来なくなるやも知れぬのだ。 故に! 私が先頭に立ち! 日本に住む全ての国民を引っ張る! 皆は私に続いて立ち上がり、共に戦って頂きたい。 対話ではな くミサイルで、脅しで、殺戮で我々の祖先を苦しめてきた今の世界 に生きている人間達がこのまま我々を静かに行かせてくれる事は無 いだろう⋮⋮非常に残念だがな。 当然私とて殺生を好むわけでは ない、暴力ももちろん好んではいない。だがな、攻めて来る相手に すら非暴力であっては国民を、この国を守る事が出来ないのが今の 時代だ﹂ 須藤は総理である光の声に圧倒されていた。完全に総理は戦いに おける覚悟を固めていると。様々なメディアから伝わってくる情報 などではなく、直接何も隔てない総理から伝わってくる熱気によっ て、心で、魂で総理の覚悟を直に理解できたのだ。 その瞬間、須 藤の全身は駆け巡る血が3度ほど急激に上がったような感覚に包ま 201 れる。その熱気に押された須藤は、いつの間にか両手に堅い握りこ ぶしを作っていた。 いや、須藤だけではない。気がつけば周りに いた自衛隊隊員全員が、まるでオーラを発するかのように闘志を高 めていた。 ﹁立候補はこれから半月の間受け付け、そこからVRの結果などを かんがみて最終的な八十人を選出する流れになっている。 それか らもう一つ、民間からも搭乗者を募っている。民間が乗るのは神威・ 零と表記することになる機体だ。 自衛隊員が乗る神威弐式は量産 機ではあるが激戦地区に向かう事になる為、一つ一つのパーツ選定 が厳しく行なわれている。 その選定に漏れはしたが十分に使用に 耐えうるパーツを集めて作るのが神威・零だ。零の方は後方支援、 弾薬や燃料補給の戦闘補助などを担当することになっている。 民 間といえど、適正が高い人間が動かすのならば十分戦力になる、そ れに﹂ ここで一息置いてから、光は言葉を続ける。 ﹁民間からも共に戦いたい、神威に乗って国を守りたい。神威に乗 って国を守れるのならば、命を国に捧げる覚悟は出来ていると、嘆 願に近い要望書がひっきりなしにこちらへと届いているのだ。その 数はもう既に二百万を越えている。故に、その熱意に此方も応える 事とし、民間からも共に戦うことになる戦士を選出する予定だ﹂ だが、と光は厳しい雰囲気を纏わせながら話を聞いている自衛隊 員達に告げる。 ﹁それでもやはり民間人、激戦地区には送れない。 遠距離からの ライフル攻撃などは良いだろうが、近接攻撃などを望むのは少々酷 かも知れん。だからこそ覚悟ができている自衛隊員には、その覚悟 202 に見合う強力な機体を用意している。 もう一度言うが、条件は立 候補のみだ! それ以外に細かい決まりは無い! 階級も年齢も一 切関係ない! 死地に共に向かう覚悟がある人間であればそれで良 い! 共に戦ってくれる者が居てくれる事を信じている﹂ 全自衛隊員が総理に向かって敬礼をする。 光はその敬礼を受け て駐屯地を去った。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁須藤、お前は⋮⋮やっぱり立候補するのか﹂ 総理に質問をした須藤に同僚が声をかける。 ﹁適正が俺にあるかどうかは分からん、分からんが⋮⋮今日俺は、 あの人になら命を掛けてもいいと思った。例え自分が明日を見れな かったとしても、どんなに苦しい目にあっても、あの人と共に同じ 戦場に立ちたいと思った。そしてそうやって戦えば、先に死んでし まった妻に⋮⋮胸を張れると思う﹂ 須藤の妻は海外の過剰労働を強いられて過労死している。須藤が 自衛隊に志願したのはその後だ。 ﹁やはりそうか、だが俺も立候補する。理由は言うまでもないだろ う﹂ 立候補を宣言する同僚に須藤は無言で握手を交わす。 このよう な流れで、最終締め切り時にはなんと自衛隊の九割が立候補した。 残り一割は後方支援のエキスパートたちだったので、そちらで戦 いに向けて貢献する事を考えていた為に、立候補しなかっただけで 203 ある。 民間からは総人口七千五百万人中、千二百万の人が立候補した。 理由は様々であったが国を守りたいの一点は共通していた。徴兵な ど一切掛けずに、戦う意思を持つ人間が膨れ上がり、それに呼応す るかのように異世界から日本に来ていた魔法部隊の隊員達の士気も 上がってゆく。 その熱気はまるで、一匹の龍が天に向かい、戦い の意思を世界に対して宣言するかのように咆哮を上げたかのようで あった⋮⋮。 204 7月15日︵後書き︶ そんなに∼を書いていると、自分の体温も実は上がっていたりしま す。 おっさんの戦闘シーンを書く時よりも熱血してるかもしれません。 205 7月17日︵前書き︶ 今回は会話多めです。 206 7月17日 ﹁光様、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?﹂ ﹁構わないぞ、っと、どうしたフルーレ⋮⋮顔が随分と怖いが⋮⋮﹂ 政務の中の一休みの時間を取っている光に、フルーレが訪れてき た。美人なフルーレが怖い顔⋮⋮フルーレからしてみれば悩んでい るが故の表情なのだが、なまじ美人ゆえに怖い様に見えてしまって いるのかもしれない。 ﹁私の顔の事は一旦おいておくといたしまして、どうしても一つ、 質問させていただきたい事がございますので、失礼ですがこうして 直接押しかけさせてもらいました﹂ ﹁ふむ、今は休憩中だから問題はないぞ、何か肝心な事をそちらに 通達し忘れたか⋮⋮?﹂ フルーレの行動に、光も何か肝心な事を伝え忘れていたか? と 記憶の日記をめくるが⋮⋮思い当たるような物事が見つからない。 とりあえず話を聞いてみてからだな、そう考える光。 ﹁それではお伺いいたします。光様は恐怖と言う感情を持っていら っしゃらないのですか!?﹂ ﹁││は?﹂ フルーレの質問は予想外であり、間抜けな声をつい上げてしまっ た光。そして、しばし気まずい沈黙が訪れる。 207 ﹁ええとな、ちょっと待ってくれよフルーレ。 ││うむ、ええと、 もう一度すまないが質問を繰り返してもらえないか?﹂ 混乱した頭をなんとか落ち着かせて、もう一度質問を聞くことに した光。恐怖と言う感情を持っていないとはどういう事か?? ﹁そ、そうですね、分かりにくすぎましたね⋮⋮。 聞きたい事で すが、今まで光様はこの国の指導者としては逸脱した行動ばかりを 取っておられます。いくら我々の保護があるとはいえ、敵の攻撃の 前にその身を晒し、私達も貴方達独自の護衛もつけずに一人で敵地 に乗り込んだり⋮⋮さらには新しいゴーレムを用い、最前線にて自 ら敵と戦うと宣言までなさっています。ここまで自らの体を敵前に 晒し続けるのは恐怖以外の何者でもないはずです。にもかかわらず こうやって平然としていらっしゃるのですから、光様には恐怖心と 言うものが無いのではないかと⋮⋮﹂ 恐怖を知るからこそ、対策を取れる。恐怖を知らずに戦い続ける のは無謀以外の何物でもない。だからこそフルーレは不安になった のだ⋮⋮死に急いでいるようにも見える光の行動が。 ﹁そういうことか⋮⋮ああ、先に答えを言っておこうか。当然なが ら私にも恐怖心はあるぞ。今だって恐ろしいと思うことは山ほどあ る。世界は今突然に不意打ちで攻めて来たりしないだろうか? 自 分の選択は多くの人に流血を、死を強要しているのではないか? それ以外にも怖いものなんて山ほどあるぞ﹂ そこで一旦休んでコーヒーを飲む光。フルーレにも薦めて飲んで もらう。コーヒーを入れるのは光のもつ趣味の一つであったりする。 コーヒーを飲む小休憩を挟んで、光は続きを話し始めた。 208 ﹁だがな、未来を先読みに先読みを重ねて考えればありとあらゆる 物が怖くなってしまうんだ。そうなってしまうと身動きが何一つ取 れなくなってしまう。国の指導者がそんなことではそれこそ最悪だ ろう。 それに自分の行動に脅えて震え上がっている人間に自分の 命を、将来を託す人間なんていない。実際自分もそんないちいち物 事に脅えている司令官なんてとてもじゃないが信用できない﹂ 貴方達だってそうだろう? と光はフルーレに問う。その場その 場で最善だと思われる行動を選択し、実行することしか今を生きて いる人間には出来ないのだ。 愚かだの何だの後世の歴史家は言う こともあるが、その現場にいなかった人間が、必死になって最善だ と思われる行動を取った当時の人を貶すことは本来は許されない。 ﹁だから今の日本にとっての最悪を回避する為に今の自分は動いて いるのだよ。 恐怖心が無いわけではない。だが、胸を張れる事を やっていると自分を信じられる行動を取っているから覚悟も自然と 出来るし、恐怖心に押しつぶされずに今を戦えている、それだけな のだよ、フルーレ﹂ コーヒーのお代わりをフルーレのカップに注ぐ光。フルーレはそ れを受け取りゆっくりと飲む。はぁ、とフルーレの吐息が僅かに漏 れた。 ﹁では、光様の仰る最悪とは何を指すのでしょうか﹂ フルーレのこの質問に光は即答した。 ﹁日本の敗北。二度と立て直せない程の日本人を支えてきた物事の 全ての崩壊。今回の戦いに負けてしまえば、それらは間違いなく現 209 実になってしまう。そうなれば日本人の命は世界に徐々に食われて ゆき⋮⋮いつしか完全に消え去るだろう﹂ その日本消滅に繋がる未来を拒絶する。その未来を回避するため なら自分とて駒の一つに過ぎない⋮⋮だからこそ、自分が率先して 前に出る。明日を見せる。絶望を吹き飛ばす。戦いに負けるのは物 資がなくなるか、心が折れるかだ。 幸い物資はフルーレ達の好意 もあり、異世界産の金属関連を此方の世界に持ち込めており、その おかげで神威の配備数を増やすことが出来ている。その対価として 此方の料理のレトルトなどを向こうに送る事を許可しているのだが。 物資があるのなら、心を世界の脅しで折られるような事があっては いけない。むしろ士気を高め、未来を見せ、世界の脅しを国民の活 力で食いちぎる。心身が満ち足りていれば負けはまず無い。 ﹁世界に食われる⋮⋮ですか﹂ ﹁そうだ。国の否定に始まり、ありとあらゆる事を歪めて批判し、 最終的に人格を否定する。批判された日本人達は一人、また一人と 疲れ果ててボロボロになって行き⋮⋮心身が力尽きた所を世界が捕 まえて都合のいい奴隷にする。世界は常に冷酷だ。その上歴史を経 れば経るほど残虐にもなってゆく。それらが合わさった結果、いつ しか日本人はこの地球から居場所を失うだろう﹂ 後は奴隷として死ぬまでこき使うだけだろう。そして使い古され て日本人と言う人種は消える。遺伝子的には血が残っていたとして も、日本人と言う考えは消えてしまえばそれはもう日本人ではない ⋮⋮そんな未来はくそっくらえだ。 だが、あのままではそんな未 来を迎える結末はそう遠いことではなかったのだが、フルーレがあ の日自分の元を訪れてくれたおかげで⋮⋮そんな悲惨な未来を叩き 潰す千載一遇の機会がめぐってきたのだ。 210 ﹁そんな未来を否定できるのなら、何でもやるさ。そんな未来を否 定できるのならば、戦場の最前線に立って戦う事は恐怖に陥るどこ ろか、光栄ですらある。その日本滅亡の未来を迎えてしまう恐怖に 比べれば、他の恐怖なんて今の自分にとっては塵芥に過ぎない﹂ だから自分はこうして動けるのだよと話を締めくくり、つい話に 熱が入ってしまい、やや冷めた自分の分として用意していたコーヒ ーを飲む光。 ﹁お時間をいただき、ありがとうございました﹂ ゆっくりと席を立つフルーレ。 ﹁魔法部隊の皆様にもかなりの仕事をやらせてしまっている事は真 に申し訳ない﹂ 部屋を出て行こうとするフルーレにそう光は言うが⋮⋮。 ﹁お気になさらず。 誇り高き人々と共に戦えるのは私達にとって も光栄なことですから﹂ そういい残してフルーレは部屋を退出し、光は政務に戻る。フル ーレは官邸をでた後、各部隊魔法部隊に指令を送る。 ﹁光様への護衛を、それからこの世界での情勢を探る者を両方更に 増やしなさい。本国に掛け合って、護衛特化と諜報特化の人員を更 にこちらの世界に送って貰ってください。この国の人々が居れば、 我々が数百年苦しめられてきたあれにも対抗できるかもしれません。 そのためにも、光様を始めとした要の人物が死ぬことの無いように 211 影から護衛しなさい﹂ 212 7月17日︵後書き︶ 筆が進まない。うーぬー。 213 7月20日︵前書き︶ リアルに比べて遅れまくっております⋮⋮。 おっさんと比べても遅筆なのが治りません。 214 7月20日 ブンブンッ⋮⋮ガガガガガガガッ⋮⋮ピピピピピピ⋮⋮ドドドド ドドッ⋮⋮。 今光は、VRにて﹃鉄﹄に乗り込んで行なう戦闘方法の訓練を行 なっている。メインウェポンの一つとなる胸部ガトリングガンとも う一つのメインウェポン、手持ちのマギ・カノンガンを二丁。背部 には、折りたためるが展開して放てば長距離射撃が可能なマギ・ラ ンチャーが2つの砲門をワンセットとして搭載されている。 更に 肩部分、バックブースター部分、足部分に仕込まれている思念兵器 スレイブ・ボムズ。シミュレーションでの鉄の射撃武装は以上であ かげまさ る。近接では肩部分より伸びている補助腕に仕込まれているクロー とパイルに加え、大太刀・影柾を一振り所持している。 因みに、鉄に搭載される予定のどの武装も全て現実世界でも完成 しており、夏の終わり頃には鉄も本格的に起動する予定になってい る。その半月ほど後に神威・弐式が。十月頭には調整を入れた神威・ 零も正式に起動を始める。そこまでこぎつければ、数字の上ではあ るが防衛戦闘ができる所までようやくたどり着ける。後はオプショ ン装備の充実とパイロットの練度を上げるだけだ。 鉄の完成時におけるスペックも、専用パイロットである光には公 開されている。 32.4t 重力コントロール通常設定値発動にて 16.8m RS−002−鉄 ︻頭頂高︼ ︻本体重量︼ 215 18.9t ︻全備重量︼ 準拠 メイン6,140kW サブ4.420 現時点にて追加オプションは存在せず、本体重量に ︻ジェネレーター出力︼ 142,700kg 重力コントロール改 KW バックアップ2.500KW ︻スラスター総推力︼ 機能搭載 17,550m ネオマギ・ゴーレムメタル装甲、内部重力コントロ ︻センサー有効半径︼ ︻装甲材質︼ 背部収納型長距射程マギ・ランチャー1セット、胸部ガ ールアーマー ︻武装︼ トリングガン2×2︵交互発射による熱対策︶、マギ・カノンガン 二丁、思念兵器スレイブ・ボムズ、近接攻撃用補助腕ワンセット︵ 左にクロー、右にパイルを内臓︶、鉄専用大太刀影柾、防御専用フ アイアンブラッド ィールドマギ・ガーディアン展開可能、専用AIノワールによる特 殊行動システム、﹁鉄の血﹂搭載、鉄の血開放中限定最終武装、﹁ 1 ︵AIによるバックアップサポート有︶ 多数の相手に対する迎撃 ラスト・カノン﹂ 以上 ︻運用︼ ︻乗員人数︼ やってくる相手を待ち構え、弾幕とスレイブ・ボムズで蹴散らす 動く要塞でもある。 相手が掛かってこないのなら、胸部ガトリン グガンをメインにして敵軍の中に突っ込みガトリングガンの弾をば ら撒きまくる戦法も可能だ。防御は堅い装甲と新型防御フィールド であるマギ・ガーディアンで耐える。もしくはその鋼鉄の塊とフィ ールドを生かして敵に対して高速タックルを仕掛けてもいい。 しかし、そんな強力な数々の兵装も”扱いきれなければ意味がな い”為、光はVRを生かした衝撃もGも感覚として感じる中、ノワ ール式スパルタ訓練を受けていた。仮想敵として用意されていたの 216 も最初は各国のデータで分かっている範囲の戦闘機やそれに付随し た空母などだったのだが、鉄の性能が高すぎて圧倒してしまう為、 今の仮想敵は劣化﹃鉄﹄。ただし同時に襲ってくる設定の数が10 0機以上であるが⋮⋮。 ﹁ぐおっ、被弾したか!?﹂ ﹁マスター、フィールドを過信してはいけません、できる限り回避 してください﹂ そもそも耐えるタイプである高装甲機体で回避力を高めろと言う のはかなり厳しい注文なのだが、常にそれぐらいの考えでいた方が 間違いない、そうノワールは考えていた。AIである彼女は、マス ターこと光の死は自分の死よりも恐ろしい物であると考えている節 がある。そのため死ぬ確率を出来るだけ下げる為にも高い回避能力 を維持しつつ敵を攻撃して殲滅すると言う要望を光に出し続けた。 特殊システムはバックアップジェネレーターをフル稼働して発動さ せる奥の手なので、無闇に光がそれに頼るような事にならないよう にVRの訓練では一切発動させていない。 そんな厳しい内容で行なわれていた1時間の訓練が終わり、VR から開放された光は流石に数分ほど座ったままぐったりとしていた。 ﹁マスター、かなりの回避技術の向上が認められます。大変でしょ うが貴方は死んではいけない存在なのです⋮⋮どうか訓練にご理解 を﹂ ノワールの声に﹁大丈夫だ、理解している。また次の訓練でな﹂ と光は告げる。﹁はい、またいらして下さい﹂とノワールも返答し、 VRが終了する。VRが起動していないときは、ノワールは本体で 217 ある鉄内部にて様々なデータを処理している。 ﹁訓練お疲れ様でした、総理﹂ 如月司令が光に声をかけてくる。 ﹁ああ、いざと言う時に戦えないでは話にならないからな。きつい 訓練だが、これぐらいは耐えられる。専用機体も貰っていることだ しな﹂ 光はそう如月司令に返す。もはや如月も工場長とは呼ばれずに司 令と呼ばれる事が圧倒的に増えた。それから如月の行動に同調した 5、6番工場が神威・零の組み立てなどをバックアップする事が決 まっている。これにより7番工場は鉄や神威・弐式に専念できるよ うになり、生産効率は大きく向上している。 ﹁うちの部下にも、﹃総理だって戦いに行くんだ、お前らも腑抜け てるんじゃない!﹄と檄を飛ばしていますよ。実に分かりやすい旗 頭に総理がなってくださったお陰で、士気は全く落ちておりません。 貴方のような方がこの時期に総理になっていた事を天に感謝せねば なりませんな﹂ 俺が前に出る! だからお前達は後から付いて来い! と言う光 の行動は理屈を捏ね回すよりも遙かに分かりやすかった為に、様々 な場所で働く人達を奮い立たせるのに十分だった。新天地に行ける と言うだけではなく、異世界の人々に頼りっぱなしではなく同胞と して並び立てると言う事実は、色々と後ろめたい気持ちを払拭する には非常に効果的だった。 異世界から来た人たちのお陰で助かる と言う事実は変わらなくとも、異世界の人達におんぶにだっこでは なく、自分達の力で一緒に戦えると言う事は自信に繋がる。日本が 218 異世界に行くと言う総理の発表から半年も経過していないのだが、 日本国民は失っていた誇りを取り戻し、知らず知らずのうちに砕け 散っていた自信を再び己の心の中に蘇らせた。今日を、明日をより 頑張って生きようとする活力に満ち溢れているのだ。 ﹁こういう長丁場での士気を維持する事は非常に大事だからな。負 けられぬ戦いが年末まで続く以上、総理である今の自分に出来るこ となら⋮⋮全てをやる義務があるし⋮⋮全てをやれる権利を同時に 持つ立場でもあるからな。日本の将来のためにも、これからも協力 を願うぞ? 如月司令殿﹂ 光と如月は握手を交わし、光は官邸へ、如月は世界情勢から今後 の作戦を弾き出す為にお互いの戦場へと戻ってゆく。一度の敗北で 全てが終わる危険な一本道を歩いている今の日本⋮⋮最後までその 一本道を歩ききる為に彼らは今日もそれぞれの戦場へ向かってゆく。 219 7月20日︵後書き︶ 鉄の出陣もそう遠くありません。 220 7月25日 ﹁総理、少々お耳に入れたいことがございます﹂ 今日も朝の政務をこなす為に行動を始めようとした光を、大臣の 一人が呼び止めた。 ﹁どうした? 何か重大な問題が発生したか? 報告があるなら聞 こう﹂ ﹁それが⋮⋮あちこちの神社仏閣にて、幽霊を目撃したとの情報が 多数ありまして⋮⋮﹂ ﹁幽霊? それが本当か見間違いかどうかはともかくとしてだ、そ れを対処しろと言われても困るぞ?﹂ 大臣から聞かされた話は、荒唐無稽と切り捨てる事もできそうな 内容であったのだが⋮⋮大臣は話を続けた。 ﹁いえ、その幽霊らしき存在が見た人に対して危害を加えたという 事では無いのですが⋮⋮その、幽霊? がはっきりと写真に写って おりますゆえ⋮⋮﹂ ﹁一応見て欲しい、という事か?﹂ 光の質問に対して、頷く事で肯定の意志を表す大臣。それにして も幽霊か⋮⋮確かにありえないとされてきた魔法という存在が現実 に存在するようになったのだから、これも一切見ずに一笑に付すの は危険だな⋮⋮幸い今は時間が多少あるから、時間をここで使って 221 も問題はない⋮⋮そう考えた光は、提出された写真を一枚一枚丁寧 にめくるが⋮⋮。 ﹁ふうむ? 私の知識が正しければ⋮⋮数千年前に存在していた、 かの大日本帝国時代の軍服を着ている者が多いか?﹂ ﹁はい、それに加えて女性の幽霊らしき存在も、大体その時代の服 を着ております。もちろんそれ以外の者も居るようですが﹂ ﹁そして、そんな彼らは神社仏閣に現れるようになった、か⋮⋮何 かの始まりか?﹂ ﹁私達もそう考えましたので⋮⋮異世界から来たあの方々にも意見 を求めようと思っているのですが、いかがでしょうか?﹂ 確かにこれは、話を聞いておくほうが良いかも知れん。昔から幽 霊などの話はあるが、ここまではっきりと浮かび上がってくるとな ると、何らかの魔法要素が働いているとしてもおかしくはない。餅 は餅屋。ここで我々が難しい顔をして意見を交わしても、何の解決 にもならないのは火を見るより明らかだ。 ﹁そうだな、そちらでも聞いてみて欲しい。こちらでも彼らに出会 ったら聞いてみることにしよう﹂ ﹁はっ、ではそのように。お時間を取らせて申し訳ありません﹂ ﹁いや、こんな時だからこそほうれんそうは密に取らねばなるまい。 今後も何か明らかに妙な事が起こった時は報告を頼む﹂ そう大臣に指示を残してから光は執務室に向かう。神威の生産や 222 配備などを考え、年末に向けての準備に向けて確認しなければなら ない書類が山積みである。結局海外からの無茶な要求が消えても、 それ以外の仕事が一気に増えたために光の仕事量は対して変わって いなかった。 そのままお昼まで書類と格闘する仕事を続けた光。ようやく仕事 をひと段落させて、食事を取るために外に出た。今日の食事はうど んでものんびり食べようかなどと光は考えている。食事の時間が終 わればまた書類との格闘が再開するのだ。その前に一息ついておき たい心境である。 ﹁おお、総理もこれからお昼の食事ですかい?﹂ 山盛り牛丼にお味噌汁のセットを頼んだと思われる異世界からや ってきた魔法部隊2番隊の隊長が、嬉しそうに笑顔を浮かべつつ先 に食事を取っていた。 ﹁ああ、その通りだが⋮⋮そちらは随分と大盛りを頼んだものだな﹂ ﹁いやあ、以前も言いましたがね⋮⋮本当にこっちの飯は旨くてし ょうがない味でさ。ついつい大盛りを頼んじまう⋮⋮恥ずかしい話 ですがね﹂ そう言ってにかっと笑う2番隊の隊長。 ﹁そうだ、時間があるのなら少し聞いておきたいことがあるんだが な⋮⋮﹂ そこで光は、今朝聞いた幽霊の話をしてみる事にした。そちらの 世界では、死んだ人間が魂のみでうろつく事があるのだろうか? 223 という質問をぶつけてみると⋮⋮。 ﹁あー、そうですな⋮⋮あらゆる事を含めれば”ある”と言って良 いでしょうなぁ。ですがよほどの未練って奴を持っているか、どう しても、どのような姿になってももう一度戻ってきて、捨石になっ てもかまわねえぐらいの強い意思を持っていないとまず起こりえな い事柄でしょうなあ﹂ ﹁だが、全くありえない話ではない、という事か⋮⋮﹂ お互いにうどんを食べながら、牛丼を食べながらではあるが、大 事な事を聞き出す光。そうか、捨石になっても構わない強い意志か ⋮⋮だから、あの時代の人が蘇ってきたのか? 魔法、いや、魔力 という存在と特攻すら行った意志がかみ合って? 情報が足りない が、可能性がゼロでないと言うのであれば⋮⋮それは十分にありう る事へと話が変わる。 ﹁この国にも魔力がそこそこ回るようになってきやしたからね⋮⋮ そういう現象が発生し始めてもおかしくはないでしょうな。ただ、 そういう存在の大半は人の姿を見かけるとススッと隠れちまう物な んですがね。そういう質問が来たという事は、もしかして総理はご 覧になったんですかい?﹂ ﹁私ではないが、見たという者が結構いるようでな⋮⋮魔法、魔力 という物にはまだまだ無知なところが多い我々だから、一度確認す るために聞いておきたかったのだよ﹂ ﹁そうですかい⋮⋮それだけの意思を持った人物は、この国の歴史 を知ればたくさん居てもおかしくはありやせん。あっしらの世界だ ったら、とっくに戦争でさぁ⋮⋮耐え忍ぶという力は、間違いなく 224 この国の人々は超一流のレベルで身につけておりやす﹂ わた ││それは、今を生きている人に限るまい。1000年以上に亘 る奴隷生活でも、未来のために子孫のためにの一心で我慢して耐え 忍んで、このような可能性にたどり着いたのだから、過去の人々が そんな形で蘇ってきても⋮⋮魔力という物が現実になった今ならば そのような現象が多数起きてもおかしくないのかも知れない。 ﹁あっし個人としてもこの国は好きになりやしたし、いざ他の国の 連中を相手取っての戦いとなれば全力で戦わせていただきやす﹂ ﹁飯も旨いからか?﹂ ﹁それもありやす! ここのメシが二度と食えないなんて嫌でさあ !﹂ お互いはっはっはっはとひとしきり笑った後、牛丼を食べ終えた 2番隊長は任務に戻ると告げて立ち去っていった。やや冷め始めて いたうどんを光もささっと完食し、職務へと戻る。この幽霊? の ような存在は、この日から数日後に見られなくなって行く。だが、 彼らは単純に消え去ったわけではなかったのだ⋮⋮。 225 7月28日︵前書き︶ 久々にのんびり? やっとですが光が魔法を日本人で初めて習得します。 226 7月28日 ﹁光様、いよいよ魔法の伝授を行ないます﹂ 忍耐の一月を超え、光の体内で走る魔力の定着と安定を確認した フルーレはいよいよそう光に告げた。そのため前もって火などを使 ってもいい訓練場に移動しており、更にフルーレの結界で一定範囲 を保護すると言う風に念を入れている。 ﹁そうか、いよいよか⋮⋮﹂ 光も内心楽しみな所があった。新しい技術に触れられると言うの は良い物だ。新しい打開策を考え付く良いきっかけになる事も多い からだ。ましてやこんな状況下、使えるカードは増えるほど良いに 決まっている。 ﹁それから先に申し上げておきますが⋮⋮光様の魔力を検査した所、 得意なのは回復、結界系統と出ております。攻撃系統もある程度は 使えますが、極端な火力は持つことが出来ないと申し上げておきま す﹂ ふむ、と光は少々唸った。 ﹁参考までに、どの程度まで使えると予想されているのかな? 私 の魔力の質からすると﹂ ﹁そうですね、光様の魔力ですと⋮⋮爆発する火球、此方の世界で もおなじみの”ファイアーボール”を同時に二つ展開するのが限界 でしょうか﹂ 227 それは個人が持てる火力としては十分すぎるのではないか? そ うフルーレに返答する光だが⋮⋮。 ﹁いえ、上級者では此方で言う小規模の核爆発に近いものを放つ事 が可能なのです⋮⋮そういったものと比べますとやはり火力は低い と申し上げるしかありません﹂ あっさりとそんな事を光に告げるフルーレ、だが。 ﹁それから、此方の世界の空想で書かれている”メテオ”なる魔法 だけは私達の魔法の中には存在しておりません﹂ 最後にこう付け足すフルーレ。何か理由があるのだろうか⋮⋮。 ﹁とりあえず、基礎からお教えします。大丈夫です、忍耐の一月を 乗り越えたものにとっては非常にたやすいことですから﹂ ││││││││││││││││││││││││ そうして1時間後。一番簡単とされる魔法、ファイアパウダーと いう炎の粉を生み出す魔法の発動に成功する光。 ﹁できましたね、これが一回でも発動できれば魔法を発動する感覚 はもう掴めているのです。ここから先はしっかりとしたイメージが 大切になってきます。ファイアアローやファイアボールなどはその 形までをしっかりとイメージして一定の呪文を唱える必要がありま す。剣を振りながら小さな声でしっかりと詠唱を紡ぐには修練が必 要ですけどね﹂ 228 復習として数回ファイアパウダーを発生させ、魔力の流れを文字 通りの体で覚えてゆく光。体の中を一つのエネルギーが走ってゆく 感覚が今ははっきりと分かる。少々気持ち悪さを感じるが、それも じきに慣れてゆくことだろう。 ﹁なるほど、一回発動できれば軽く念じつつ詠唱を呟けば簡単に発 動できるな。この感覚を今のうちにより確かなものにしてみようか﹂ 訓練所の的を狙って右手に魔力を流す光。そして⋮⋮”ファイア ボール”と呪文を紡ぐ。体の魔力はその声に答え、光の右手の前に 一つのバレーボールぐらいの大きさをした燃え盛る球体が生まれて いた。 ﹁後はこれを⋮⋮行け﹂ 的目がけて飛んで行けとファイアボールに念じると、ファイアー ボールは光の右手から飛んで行き、見事に的に直撃して爆発、炎上 した。 ﹁飲み込みが早いですね、イメージをする事が日本人の方は得意な のかもしれませんね⋮⋮﹂ フルーレはそう光に言ってくるが、大体漫画でもアニメでも映画 でもそういう感じで扱われている事が多いこちらの世界にある空想 の産物である魔法と、偶然扱い方が一致したからすぐに扱い方の感 覚が分かっただけである。もっと長い呪文を唱え、独特のパフォー マンスをしないとなるとこんなにすぐには扱えなかったはずである。 そういえば、フルーレは魔法はイメージといっているが⋮⋮。 ︵そうなると、昔に存在していたライトノベルの方法がこちらでも 229 通じるか?︶ 光のストレス解消の一つであり、かなり昔に存在していた小説で、 ライトノベルと呼ばれ気楽に読む事が出来る娯楽小説があった。 それを見つけ出して僅かな時間を利用して読む事を光は楽しみとし ていた⋮⋮今はライトノベルを書く作者も居ないし、その古さから 取り扱っている所も少ない。殆ど過去の作品をサルベージしている 状態だ。 とにかく、ライトノベルの世界では魔法を主人公達が科 学の知識を用いて強化すると言う話が幾つかあったはずだ。実際に 神威や鉄で魔法と科学は両立できる事がここでも判明している以上、 それを試す価値はある。 ︵ガスバーナーのように完全燃焼させた青い炎は一千℃を超えてい たはずだ。これを魔法で真似するとなると、体の魔力と外の魔力を ⋮⋮︶ 体の魔力を燃料と火元、外の魔力を空気扱いと考え、完全燃焼を イメージしながらもう一度ファイアボールを展開すると⋮⋮黄色い 色がかかった白い炎で出来たファイアボールが現われた。 ︵白か。青には程遠いがとりあえずは間違ってはいないようだ。フ ァイアボール系統が自分の発動できる限界であるかもしれないが、 その発展性までは限界ではない、か︶ その黄色い色がかかった白いファイアーボールを的に当たると、 最初のファイアーボールよりも派手に爆炎と熱風を撒き散らした。 はっきり言って人に当てるだけならオーバーキルもいいところであ る。こんな感じかと光がフルーレの方向に振り向くと、フルーレは あんぐりと口をあけていた。 230 ﹁││日本人の皆様はもしかして、すぐにこんな風に魔法の改造を する事が出来るのでしょうか⋮⋮﹂ そんな声がフルーレの口から漏れてくる。なかなかに今の光景は ショックだったらしい。 ﹁知識も力⋮⋮だからな﹂ 硬直気味のフルーレを見て、苦笑いする光。軽い気持ちで試して みたらあっさり成功してしまったので、フルーレに掛ける言葉を見 出せないのだ。 エクスプロージョン ﹁た、確かに知恵は力を生み出すものですが、程があります! 先 ほどのファイアーボールは二ランク上の爆裂魔法と比べても見劣り しませんよ!?﹂ 掴み掛かりそうな勢いで光に対して詰め寄るフルーレ。 ﹁そういう知識や技術を磨かなければ、我々は生きてこれなかった のだ。悪く思わんでくれ。 だが、この魔法はうかつに使えんな⋮ ⋮自分の魔力の消費などの問題以前に、被害の規模があまりに大き くなり過ぎそうだ﹂ 極端な例えだが、今回の光が撃った黄色い色がかかった白いファ イアーボールはネズミを殺すのにナパームを撃つようなものだ。そ んな事をしたら周りまでが全部が焼けてしまうので、実に間抜けと しか言いようが無い状況になる。 ﹁暴漢などを抑えるのなら、火よりも氷系統の魔法で凍結させる方 がまだ被害が少ないか﹂ 231 そこからはアイスボールの練習に移る光。そうしてフルーレの指 示の元、火、氷、風の攻撃魔法を光は習得した。 ﹁攻撃魔法はこれぐらい使えれば十分だろうか⋮⋮﹂ ﹁そうですね、これ以上は軍人の領域に足を突っ込みますよ﹂ そうしてこの日の魔法訓練は終わった。 回復、結界魔法などは 後日に回された。 232 7月28日︵後書き︶ なお、白い炎は赤い炎に比べるとかなりの高温です。 より温度が上がると青みがかかった白になります。 でもそこまで行くと非常に危険ですが。 233 8月2日︵前書き︶ お待たせしております、おっさんの方でも執筆が遅くなっており、 申し訳ございません。 234 8月2日 ﹁││これで結界、ならびに治癒の魔法は一通りとなりますね﹂ ﹁改めて思ったが⋮⋮魔法とはつくづくとんでもない力だな⋮⋮貴 女達が当初教えるつもりがなかったのが良くわかると言うものだ⋮ ⋮﹂ 攻撃魔法に続いて、後日に防御の為の結界魔法、治癒魔法の初歩 を学んだ光。だが初歩でありながら、高威力のビームガンの一撃を 余裕で弾き、ほぼ枯れ果てている様に見える植物がみずみずしい命 を吹き返す。もちろん完全に枯れてしまっている植物の命を戻す事 は不可能だったが、それでもすさまじい治癒能力だ。 ﹁初歩の治癒魔法でも、骨折などに対応する事が可能です。中級以 上の治癒魔法を学ぶものは大半が病院、軍医などの医者への道を選 ぶ人達ですね﹂ 今までの医療現場が変貌してしまうな、光はそう分析した。だが こちら側の外科手術を始めとした医療技術が失われることも無いだ ろうが⋮⋮。なぜなら。 ﹁だが万能ではない、そうだろう?﹂ 魔法だから何でもできる⋮⋮というわけが無い。何でもできると 言うのなら、わざわざ地球にまで子孫繁栄のための遺伝子を、世界 の壁を越えてまで探しに来る訳が無い。 ﹁はい⋮⋮ウィルス系、免疫低下系などの病気には対処が出来ませ 235 ん、なぜならばウィルスにまで治癒の力が働き悪化させてしまうか らです。毒を抜くといった事は出来るのですが﹂ 風邪にかかっている人に治癒魔法をかけると余計悪化させる側面 があるということか⋮⋮、やはり大きな力だが万能ではない。大き な建物には大きな影が出来るように、大きな力にはそれなりの不便 なものも付いて回るのだ。そう、核の様に⋮⋮。 ﹁実はあと一人だけ、魔法を教えて差し上げてほしい方がいるのだ が⋮⋮﹂ 光は天皇陛下にも魔法を習得してもらおうと考えていた。攻撃系 を一切覚えないにしても、結界系や治癒系の魔法を覚えていてもら えば⋮⋮だが、フルーレは首を横に振る。 ﹁魔力濃度が十分高まっているのは、まだ光様だけです。私達と多 く密接に関わってきた為に魔力濃度の高まりが早かったのでしょう。 他の方々はまだ魔法の初期訓練すら無理な状態です⋮⋮申し訳あり ませんがお断りさせて頂く他ありません﹂ このフルーレの返答に、光も今は諦めざるを得なかった。フルー レ達の世界に転移した後に改めて頼むしかないか、そう考えを纏め て今の所は記憶の戸棚にしまっておくことにした。 ﹁光様、くどいようですがもう一度。今の光様もお分かりのように、 魔法の力は非常に強大です。過去に一人の天才魔法使いが大暴れを して⋮⋮多くの命が奪われた歴史が我々の世界にもあるのです⋮⋮ どうか、心の手綱を決してお放しにならないでください﹂ ﹁││よく覚えておく。忠告感謝する﹂ 236 フルーレからのくどい忠告も分かろうというものだ⋮⋮何も持っ ていない手から爆殺も凍結も惨殺も⋮⋮そして逆にボロボロになっ た命を治癒するという真似まで今の私には可能な事。はっきりとい って良い、知らない人間からみたら私は⋮⋮藤堂 光という人間は 一種の化け物になったのだ、と⋮⋮。だからこそ心を強くもたねば ならぬ、一時の欲に負けるような事があれば⋮⋮殺されるのも止む 無し⋮⋮この力を振るって暴走すれば、それこそいくつの命を奪う ことになるか分かったものではない。 藤堂 光よ、これから先は寿命を迎えるか戦いで散ることになる かは分からないが決して忘れてはいけない。お前は”護る”為の力 を欲したのだ、今の海外の連中のような”奪う”為の力ではない⋮ ⋮そう自分で自分に言い聞かせる光。いつの世も真の敵は己の中に いる、歴史が教える先人と同じ徹を決して踏んではならない。過去 を振り返ってそこから過ちを学び、そして前を向いて明日を求めね ばならない。その”明日”にこれから先の日本の将来がかかってい るのだ⋮⋮我欲に溺れる暇など無い。 ﹁今のお気持ちをお忘れになりませんよう。私達も貴方を殺すよう な結末は望んでおりません﹂ 逆に言えば、必要となれば容赦せず⋮⋮である。光は静かに頷い た。そんな││静かな時間は突如破られた。 ﹁総理、光総理! すぐに官邸にお戻りを! 幾つかの国に属して いる船に妙な動きがあります! 緊急会議を開きたいのでどうかお 戻りを!﹂ 顔を見合わせる光とフルーレ。ともかく急いで戻ろうということ 237 であわただしく官邸に戻ってゆくことになった。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁一体何事だ!﹂ ﹁総理、おもどりになられましたか!﹂ 明らかにほっとした表情を浮かべる大臣たち。一体何があった? と光は首を捻る。まさかどこかの国が進入してきたのか!? ﹁何が起こったのか説明しろ!﹂ ﹁は、はい!﹂ 慌ただしく行なわれた説明では、いくつもの船が海上に出て何か の作業をやっている様子である、との事だった。 ﹁船の数が一隻二隻というのであれば、こんな大騒ぎはいたしませ ん。ですがその数が⋮⋮確認できただけでも二百を超えています﹂ その船は何所にいるのだ? そう光が聞くと、フィリピン周辺海 域、台湾沖、坊の岬沖、ビギニ環礁などなど、世界各地に散ってい る。 何かを引き上げるつもりなのでしょうか? 展開している船 は全てサルベージが可能な船のように見えますが⋮⋮大臣の誰かが 情報を見ながらそう呟いた⋮⋮その瞬間、光は彼らの狙いがなんで あるかを理解した。理解できてしまったが故に思い切り机に自分の 右拳を叩きつけてしまった。 ﹁そ、総理!?﹂ 238 ﹁いかがいたしました、総理!?﹂ ﹁何か分かったのですか!?﹂ ガン! という大きい音を立てながら右手の拳を机に叩きつけた、 大臣たちは驚きつつもそんな行動を取った光の様子を伺う。 その 時光の口から出てきたのはこの一言だった。 ﹁おのれ! 戦って散った誇り高き海の勇士達が静かに眠る墓標を 辱めるか!!﹂ この”墓標”で数人の大臣がハッとした。 そう、多くの船が居 る場所は第二次世界大戦前後にて大型戦艦などが戦いを繰り広げ⋮ ⋮そして海に散っていった場所ばかりだったからだ。戦艦大和、長 門などといえば分かるだろうか? ﹁鉄が足りないのなら過去の墓標をほじくり返して量を集めようと いうのだろう! ふざけるな! 多くの者と共に沈んだ船も多い。 そんな勇士たちの眠りを自らの欲のために妨げるつもりかっ⋮⋮! ! そこまで堕ちたか! 眠っている勇士の中には、自分達の祖先 もいるだろうに!﹂ 机に叩きつけた光の右手から血が僅かに流れだした。しかし憤怒 の色に染まっている光は、全く痛みを感じていなかった⋮⋮。そし て光は決心する。 ﹁││今から出撃する! 散っていった勇士達の魂を汚されてたま るか!!﹂ 239 ﹁総理、出撃と言いましても一体⋮⋮!?﹂ ﹁私の専用機﹃鉄﹄を出す! こんな行為、見過ごすわけにはいか ない!!﹂ 言うが早いか、光は端末を操作し光陵重化学司令室の如月に連絡 を取る。 ﹁はい、如月です⋮⋮総理!?﹂ ﹁鉄はいつでも出せるか?﹂ 如月司令も今の光が放つ怒気に一瞬気圧される。 その時、鉄専 用AI﹃ノワール﹄が通信を入れてきた。 ﹃此方ノワールです、既に起動を段階的に行なっております。それ から、光様も既にご存知かと思われるかの船団達は、間違いなく過 去に沈んだ戦艦などの破片などをサルベージし、自分達の兵器を作 る際の材料にするのでしょう。まだ辛うじて製鉄技術を残していた 日本以外の国に、サルベージした鉄を持ち込んで鉄鋼にするつもり だろう、と予想いたします﹄ ノワールの予想を聞いて、ギリ⋮⋮と光の歯が音を立てた。自分 の予想と寸分違わない内容だったからだ。 ﹃鉄の方ですが、後は光様が到着し乗り込めばすぐに出撃可能な状 態にしておきます。こちらへのお早いお着きをお待ちしております﹄ そういい残してノワールの通信が切れた。 240 ﹁司令、そういう事だ﹂ ﹁事情は理解しました、お早く﹂ 通信を切り、光は立ち上がる。 ﹁では、行って来る。 墓荒らしは罰せられなければなるまい﹂ 官邸を出る光。鉄の初陣はもうすぐそこである。 241 8月2日︵後書き︶ 鉄、いよいよ出撃です。 242 8月2日後半︵前書き︶ お待たせしております。ようやく書ける時間が取れました。 243 8月2日後半 ﹁光様が大慌てて出て行ってしまいましたが⋮⋮﹂ 残されたフルーレは困惑していた。話の内容から理由は分からな くもないが。 ﹁そうですな、では少々私が話をさせていただきますか﹂ そう前置きをしたのは池田法務大臣。 ﹁今から2000年以上昔の話です。世界中を戦場とする第二次世 界大戦という歴史がございましてな⋮⋮。その時にこの国も戦争を 行ないました。正確には戦争を行なわざるをえない様に追い込まれ ていった、が正しいのですがな。ともかくそうして戦争が始まり、 多くの軍艦と呼ばれる船が海に出て、戦い、散って行きました。今 世界中でサルベージを行なっているのは、その軍艦達が戦って散っ ていった場所なのですよ。もちろん搭乗員ごと沈んだ船も多数あり ましてな⋮⋮そこをサルベージ、海から当時の船の残骸をを引き上 げると言う事は﹂ 話を聞いていたフルーレが納得した様に声を出す。 ﹁墓荒らし、と言って間違いではありませんね。私達で言えば国の ために散った英雄達の墓をほじくり返す様な物⋮⋮﹂ 池田法務大臣はそこで一言。 ﹁我々にとってもそうです。正しかった間違っているではない、国 244 のために戦って死んだ人々、沈んだ船はまさしく英雄の墓です﹂ フルーレはため息をつく。 ﹁光様は墓荒らしたちをどうするつもりでしょうか⋮⋮皆殺しにし てしまうのでしょうか⋮⋮﹂ 池田法務大臣は、そのフルーレの質問に何も返す事が出来なかっ た。 ││││││││││││││││││││││││ 光陵重化学の機体整備ドッグからついに鉄が出陣する。 ﹁システム、チェックOK﹂ ﹃システム、全て異常なし。マスター、いつでもどうぞ﹄ ﹁司令、状況の変化は逐一報告して欲しい。それでは、鉄出撃する ぞ!﹂ カタパルト射出により、鉄は勢い良く出陣した。まず最初の目的 地は坊の岬沖である。 ﹃マスター、どうするおつもりですか?﹄ ﹁最初は退去するように促す。だがそれを無視する場合は⋮⋮﹂ ﹃場合は?﹄ 245 ﹁サルベージに関係する部分だけを破壊する。今回はあくまで墓荒 らしの蛮行を止める事が目的だ。それに日本に直接攻撃を受けたわ けではない以上、それ以上の攻撃をするわけにはいかない﹂ ﹃││ですがそれでは、終わりの無いただのいたちごっこになりま せんか?﹄ ﹁分かっている、分かっているが、それでもやらねばならない。今 のように絶望的な状態で、ハル・ノートなどと言う︿戦争をするか ? それとも奴隷になるか?﹀の二択を突きつけられて、勝てない 事を承知で戦って戦って戦い抜いて散っていった祖先、その祖先を 乗せて戦った船の後を我々が此方の世界にいるまででもいいから護 らなくてはならない。もし祖先がそこで戦っていなかった場合、日 本という国は文字通り消えていたかもしれないのだからな﹂ やがて目的地上空に着いた光は如月司令に対し、現時点サルベー ジ行為をしている船全部に対して強制通信を入れる準備をして欲し いと頼み、それを予想していた如月司令は素早く対応した。 ﹁現時点において、サルベージをしている全ての船に告ぐ。今すぐ サルベージを中止し、引き上げなさい。 汝らが引き上げようとし ているものは遠い昔に戦って散っていった勇士達の墓標である。勇 士達を起こすな、勇士達を静かに寝かせておいてやるわけには行か ないのか! なお、この通達を無視してサルベージを続行するので あれば、汝らに対して攻撃を加えさせてもらう﹂ 通信終了後、しばらく様子を見る光とAIノワール。サルベージ を中断した船もあったが、大半がサルベージをやめる様子が無い。 昔はかなりの時間が掛かったとされるサルベージだが、今の技術な らば遅くても一月で終わってしまう。躊躇は許されなかった。 246 ﹁少し前に自分達で造ったものを、今こうやって自分達の手で破壊 する事になるとは滑稽すぎて笑うしかないな。ノワール、万が一が 無いようにアシストを頼む。サルベージ関連の装置だけ破壊すれば いい﹂ ﹃了解、任務開始します﹄ そうして鉄はその巨体をついに世界に堂々と晒した。この鉄を見 たときにとある国の大統領が﹁サイクロプスでも作り上げたのか! ?﹂と叫んだのは蛇足ながら記載させてもらう。また堂々と姿を晒 したのは、これが日本の切り札だと思わせることも目的であった。 これ一機しかないのだと。 だが実際の日本守りの切り札は神威・ 弐式と零式のほうである。どんな兵器も一定以上の数が揃わなけれ ば防衛には適さない、まさに戦いは数である。 鉄は一気にサルベージ船に接近し、クロー攻撃によりサルベージ 船のサルベージ機構部分だけをばっさりと切り裂いた。銃火器を使 わないのは爆発や熱による死者を出さない為だ。鉄の前にはろくな 武装が無いサルベージ船など障害になるはずも無く、実際サルベー ジ船、および乗務員からの反撃などを完全に無視して、次から次へ とクローの一撃でサルベージ船の能力をおしゃかにしていく。 ﹃敵より反撃行為、ですが敵の攻撃は全て無意味です、無視して構 いません﹄ ﹁あんな小さなビームガンやガトリングガンでは、この鉄の装甲は 抜けんな﹂ ﹃その通りです、この海域のサルベージ船は全てその能力を失いま 247 した。航行能力だけは健在、敵に軽症者数名、重傷者、死者は共に ゼロです﹄ ﹁上出来だろう、次の海域に行くぞ﹂ ﹃了解﹄ このような流れで、次々とサルベージを止めない船を無力化して いく鉄であった。 ││││││││││││││││││││││││ ﹁それが、光様の下した決断ですか﹂ 光が鉄に乗り込んで行動している状況内容を、如月司令を通じて 聞いているフルーレと大臣たち。死者を出さずにサルベージ能力だ けを奪っていると聞いて、一同は一安心のため息を吐き出した。少 なくとも、光が怒りに我を忘れて殺意をみなぎらせて、殺戮を実行 してしまうほど短絡的ではないと分かったからだ。 ﹁ええ、もう少しで現在サルベージ行為をしている船は全て沈黙す るでしょうな﹂ 如月司令も報告をしながら、血なまぐさいことにならずに済んで よかったと内心思っていた。確かに墓荒らしは許せないが、だから とて必要以上の血を流させると言うのも頂けない。我々は殺人鬼で はないのだから。 ﹁それでも、今回では終わりにならないでしょうね。また再び墓を 荒らすものが出てきそうな気がします﹂ 248 フルーレの意見に、そこにいる皆は同意した。今の世界ならお構 いなしにやるだろう⋮⋮祖先への敬意と言う言葉が聞かれなくなっ て久しい。そして日本に対してこれでもかというほどに攻撃を加え てきたのだから、今回のことで日本から釣れる存在がいると味を占 め、しつこく繰り返してくる可能性も十分にあった。 ﹁腹立たしいですが、二度、三度と仕掛けてくるでしょうな﹂ 池田法務大臣もそう漏らした。他の大臣も表情が優れない。その 時、如月司令の元に新しい情報が入ってきた。その情報を聞いて映 像を見た如月司令は、まるで幻を見たかのような声をつい出してし まっていた。 ﹁これは⋮⋮!? 戦艦長門が⋮⋮浮いている⋮⋮!? 一体何が !﹂ ││││││││││││││││││││││││ やや時を戻して⋮⋮ビギニ環礁にてサルベージを行なっている船 を全て沈黙させた光。ようやく今回サルベージ行為を行なっていた 船を全て無力化し終えたのだ。 ﹁ようやく終わったな﹂ ﹃はい、ミッションコンプリートです。お疲れ様でした﹄ ノワールもそう答えた。ひとまず今回はこれで終わりらしい。 ﹁しかし、今後をどうするか、だな﹂ 249 ﹃そうですね、具体的な案を出せないのが心苦しい所ですが﹄ ノワールの言うとおり、具体的な案が無い。またサルベージにき たらこうやって妨害するぐらいしか方法が無いだろう。 ﹁嘆いても仕方が無い、日本へ帰還しようか﹂ ﹃待って下さい、海中より正体不明者より通信! 繋ぎます!﹄ つながれた回線はザー、ザザーというノイズの音がしばらくした 後にようやく声が聞こえてきた。 ︽あなた方は⋮⋮大日本帝国の子孫たちか⋮⋮?︾ ﹁││大日本帝国は、もう、ない。戦争に敗れて⋮⋮﹂ ︽戦争に負けたのは⋮⋮わかっています⋮⋮私はあの光に焼かれた のだから︾ ﹁日本人、として血を受け継いでいると言う意味ならば、子孫と言 えますな﹂ これは一体誰なのだろうか? 海の中からというのも引っかかる。 ︽おお⋮⋮長き時を経ても、日本帝国人の血はまだ残っていた⋮⋮︾ ﹁して、何様でしょうか?﹂ ︽日本の様子を⋮⋮今の日本の様子を知りたい⋮⋮眠り続けていた 250 私だが、ある日⋮⋮我が故郷の日本の方から、ほんの僅かだかあっ たかい何かがあふれ出したのを感じた。⋮⋮その暖かさを貴方から も感じる⋮⋮私の目を覚ましたこの不思議な暖かさは⋮⋮︾ 考え込む光。まさかな、と思いつつノワールに話しかける。 ﹁ノワール、もしかして⋮⋮﹂ ﹃99.9%の確率で、それは”魔力”であると私は予想します﹄ ノワールの意見は、光の考えとと一致していた。逆に言えばそれ 以外思い当たるものが何も無い。 ﹁分かった、とりあえず今の日本は⋮⋮﹂ 1000年ほど前に奴隷になったことから始まり、歴史をかいつ まんで教えていく。海底からの通信は泣き声が聞こえてきていた。 ﹁そして恐らくここからが肝心なのだが⋮⋮﹂ 異世界よりやってきた人がいること。その人達が魔法と言う力を 持っていたこと。そしてその魔法を訓練を受けた自分も今は使える ようになったことを含めて、今年2月からの話を海底からの通信者 に光は聞かせていた。 ︽魔法、なんとも不思議な力⋮⋮それを今見せてもらうわけにはい きませんか⋮⋮?︾ ﹁ノワール、魔法を外に出すことは可能か? それともコックピッ トを開く必要があるか?﹂ 251 ﹃問題ありません、魔法の使用は想定されております﹄ やたらと手回しがよすぎる気もするが⋮⋮とりあえずその部分の 追求を後回しにする事にして、物は試しとばかりに光は海に向かい、 治癒魔法を小さな玉に形作って、海へと沈めてみた。 ︽ああ、なんと言う暖かな光⋮⋮この朽ち果てた体にかつての命が ⋮⋮そう、多くの者を乗せて戦場を駆けた活力がもどってきます⋮ ⋮︾ ﹁それはどういうことだ? 何を言っている?﹂ ︽行けます。この体、もう一度お国のために⋮⋮あの光を受けた後 に⋮⋮私の体にまとわり付いた気持ち悪い物も⋮⋮完全に今消せま した⋮⋮時を経て、もう一度戦いの舞台へ上がります!!︾ ﹃マスター、鉄を上昇させてください! 海底より巨大な反応が上 昇してきています!!﹄ AIのノワールの指示に従い、鉄を急上昇させた光。海面が揺れ ている。ごぼごぼっと気泡も大量に浮かんできている。まさか、ま さか⋮⋮。 ッドボオオオオオンン!! と非常に大きな音を立てて浮かび上 がってきたのは⋮⋮あちこちがつぎはぎだらけな船。まるでCGの ように船の本来の姿が浮かび上がっていて、そのCGの部分部分に 腐食しきった鉄が、小さくいくつもかさぶたの様にくっついている と言う異様な姿を晒す一隻の軍艦がそこに浮かび上がっていた。 252 ﹃検索⋮⋮該当する存在あり。その最後を原爆実験の標的とされ、 二発耐えた後にこの海域に沈んだ日本帝国軍艦”長門”と判明﹄ ﹁長門だと!? 2000年以上前に海に沈んで、もうその船を形 成していた鉄の部分は完全に腐食しきっていてもおかしくは⋮⋮﹂ ︽でも、まだ残っています⋮⋮本当に少しだけど、魔力と言う物の お陰で少しだけ回復しています! もう一度、もう一度私も国のた めに戦います! かつての仲間へと今、通信を呼びかけています。 私のように⋮⋮もう一度立ち上がろうとする仲間たちが浮上してい ます!!︾ ”長門”の言うとおり、世界各地の2000年以上前に沈んだ軍 艦を始めとした船たちが、海上に次々と浮かび上がっていた。そし てそれぞれが日本へと帰還するルートを取っていたのだ。 ︽やっと祖国に帰れる︾︽祖国へ帰るんだ︾︽そして、私の残った 力を︾︽ほんの少しだけれど、みんなの残った力を合わせればきっ と!︾︽全艦通信を、﹃我、帰還スル﹄と祖国に伝えなさい!︾ 浮上した多くの船から、日本だけではなく鉄にも通信が入ってい た。 ﹁ノワール。世界にはまだまだ予想できないことが溢れているな⋮ ⋮﹂ ﹃││全くです、これを予想しろなんて事は不可能です﹄ こうして⋮⋮かつて第二次世界大戦に戦って沈んだ船は、200 0年以上の時を経て祖国へと帰還。腐食しながらも最後まで残って 253 いたり、魔法によって蘇ったお互いの船のパーツを全て日本に譲り 渡し、後をお願いしますと言い残してから次々と天に昇って消えて ゆく。この最後にそれぞれの船が祖国、日本に残していったこの鉄 が、新しい機体を生み出すことへと繋がっていく。そして⋮⋮。 ︽これからもよろしくお願いします︾ ︽今度こそ、国を守り抜いてみせる!︾ 仲間と共に天に昇らずに、現世で戦う方法を模索する事を決めた 船の形をした魂が、二隻ほど今の日本に残っている。その二隻は、 戦艦大和、そして戦艦長門の魂。2000年前からやってきた盟友 ? を迎え入れ、光は今日も日本の明日を模索する。 それから、この日の事は世界の歴史にはこう一文だけ記述が残さ れている。 ”日本亡霊船の本国帰還”と。 254 8月2日後半︵後書き︶ 艦これとは関係なく、この話は書くつもりでした。 そして戦艦達の残していった鉄が⋮⋮乗り換え機へと。 因みに大和↓勝気 長門↓お姉さんっぽい 255 8月9日︵前書き︶ 久々の投稿です。 256 8月9日 ﹃こちら長門、異常ありません﹄ ﹃こちらは大和だ! 敵さんは今のところ居ないぞ!﹄ ﹁了解した、何かしら問題が発生した時はこちらに通信を送ってほ しい﹂ ﹃了解しましたわ﹄ ﹃ああ、分かってるぜ!﹄ 復活した長門と大和は、あっという間に日本のシンボルとしての 立場を取り戻したどころか、アイドルのような扱いを受けていた。 祖国の危機に過去の英霊が蘇り再び立ち上がるという話は好まれる ことが多いが、それを自分達が直接目で見ることになったためか、 日本国内の盛り上がり具合がものすごいことになっていた。一部で は﹃擬人化はまだか!?﹄などと叫ばれているらしい⋮⋮。基本的 に船は女性的イメージを持たれることが多く、そういうった部分も 入っているのかもしれないが⋮⋮。 そもそも突然の英霊の復活、そして長門と大和が今こうして現実 に存在している理由は、神威を作り上げるのに協力してくれた異世 界の技術者が仮説を立ててくれていた。その話は今から数日前に遡 る。 ││││││││││││││││││││││││ 257 8月3日 午後 光陵重化学内 ﹁うーん、総理、おそらくという言葉がつきますが⋮⋮私達の世界 で言う︻ソウル・ガーディアン︼という存在に限りなく近いと進言 させていただきます﹂ ゴーレム研究者を兼ねている彼は、かつて冒険者としてあちらの 世界の遺跡に出入りしていた経験もある、と前置きをしてから話を 始めた。 ﹁ソウル・ガーディアンとは、死亡した人や動物、モンスターなど が死に切れないほどの無念を残していたりするとまれに魔力と結び つき発生することがある現象です。ガーディアンと言われるのは、 発生してから特定のものを守ることが多いからです。わかり易い例 なら、財宝や子供等が挙げられます﹂ アクセスペンを右手に持って絵を加えながら、アクセス・ボード に色々と情報を書いていくゴーレム研究者。アクセスペンはチョー ク、アクセス・ボードは黒板みたいなものと言えばご理解いただけ るだろうか? ﹁そして、ソウル・ガーディアンはその守るものが消滅するまで基 本的に消えることがありません。財宝なら持ち去られるとか、長い 時間をかけて風化するか。子供なら、成長して巣立つ、もしくは⋮ ⋮死ぬか﹂ 拝聴している光を始めとした地球側の人間は、一つ一つ記録を取 りながら話を聞く。今回はどうしてこうなったのかの判断がさっぱ りできないために、こうして仮説だけでも出来る人物の意見は非常 にありがたかった。 258 ﹁先程も申し上げましたが、ソウル・ガーディアンに必要なのは死 ぬ前に残したものすごく強烈な想い、無念がという想いが一番ソウ ル・ガーディアンを発生させやすい想いですね。それに魔力がうま く噛み合うことです。ですのであの長門、そして大和と皆様が呼ぶ 船の復活をなした原因が⋮⋮永い時を経ても消えなかった強い想い と、総理が直接魔力を流しこんだことが偶然かつ完全に噛みあった 結果、突然と言ってもいい状況で復活したのだと思われます﹂ そう、ゴーレム研究者は締めくくった。ここで光が手を挙げる。 ﹁はい、総理。何が質問がございますか?﹂ ﹁基本的に消えない、と貴方はおっしゃられたが、力ずくで排除を されたという記録はないのですか?﹂ ﹁質問にお応えいたします。答えは﹃有ります﹄。ですが⋮⋮ソウ ル・ガーディアンとなった想いは凄まじく強いのです﹂ 再びアクセスペンを振るって、ゴーレム研究者は色々と絵を加え つつ説明に入る。 ﹁物理攻撃を95%、魔法攻撃ですら75%を無力化します。完全 に無力化出来ないのは、﹃そこに存在しているという事実までは曲 げることが出来ない﹄からではないだろうか? と研究者の間では 言われております。また体が大ききければ大きいほどに頑丈かつタ フです。具体的に倒された記録では⋮⋮ありました、2Mの大男の 姿をしたソウル・ガーディアンを一流の戦士と魔法使いが半々づつ 合計500人で、半日戦い続けてやっと倒したという記録がありま す﹂ 259 言うまでもないが長門は当然、超弩級戦艦の中でも殊更でかい体 を持つ大和は2Mなんて可愛いサイズではない。あの子たちはどう でしょう? と大臣の一人が質問をしたが、研究者は考えるのも馬 鹿馬鹿しいですと言い切った。 ﹁そして、会話ができないのが普通なのですが。総理、鉄を通じて なら、長門さんと大和さんの声をちゃんと聞くことができるのです ね?﹂ ﹁間違いなく、普通に会話することが出来た。日本の現状も二隻に 細かく説明済みだ﹂ ﹁我々の世界で生まれた個体とはどうやっても会話することは出来 ませんでしたが、そういった部分でのソウル・ガーディアンの研究 に、新しい説がこちらの世界で生まれることになりました﹂ 長門と大和が会話できるのは、何故か光が鉄に乗った状態で話し かける状況に限定されるが。いちいち鉄を起動しなくても⋮⋮と、 鉄と全く同じシステムを構築して試したが、そちらの結果は失敗に 終わっている。逆に光が鉄に搭乗していれば、鉄の通信を中継する ことで他の人とも長門と大和との直接会話は成立することが確認さ れているので、光の妄想や想像ではないことも証明されている。 ﹁ともかく、我々でも予想できる範囲ではこれが限界です。今の所 はものすごい味方が仲間になってくれたと単純に考えて問題はない と考えてよろしいかと。なにしろ長門さんと大和さんの護衛目標は、 この国なのですから﹂ ││││││││││││││││││││││││ 260 と、そんなやりとりが以前にあった。それ以来長門と大和は日本 の周りを積極的に巡回している。なにせ人ではない上に疲労という 物も一切ないらしく、24時間不眠不休で日本の護衛を進んで受け 持っている。その巨体の影響は凄まじく、他の国からはやれ侵略を するのか、世界の平和に挑戦するのかなどとがなりたてる国がいく つかあった。それに対する光の答えはたった一つ。 ﹁それがどうかしたのか? お前たちが平和という言葉を使う資格 があるとでも?﹂ で一蹴していた。今のところそんな対応をしていても、世界は日 本に対して攻めてくる様子はない。半透明といえど、超大型の砲門 を兼ね備えた長門、大和の姿は圧倒的である。過去大和が沈んだ理 由は制空権を一切得ることが出来ず、味方も非常に少ない状況で袋 叩きにされたからなのだが⋮⋮今はそんな方法は通じない。 長門、大和の二隻はともに復活した時、対空ミサイルランチャー などの新しい武装が追加されている上に、神威シリーズが脇を固め る事が出来る今の日本の戦力ならば、空中の敵は神威達が順次なぎ 払うことで対応し、空母などの大型の敵に対しては大和自慢の46 サンチ砲が火を吹けば一撃必殺となりうる。それだけにとどまらず、 ソウル・ガーディアンとしての防御能力で、物理攻撃の95%をカ ット出来てしまうのだ。当然魔法という選択肢を世界が取ることは 出来ないので、もう日本に対して攻撃を仕掛けるだけ無駄という長 門、大和の二隻は頼もしすぎる日本の守護者になっていたのだ。 当然ながら世界はそんな事実を一切知らない。知らないからこそ 未だに日本に対して喧嘩腰の文句と要請をガンガン送ってくるのだ が。一応光は全てのメールなどを確認しているのだが⋮⋮内容が似 261 通ったものばかりなので、半ば流れ作業のように開いて、流し読み して、ポイと処分するというパターンに固定されつつある。日本の 戦力はもう整いつつある。予備の戦力も確実に追加されてきている。 後は神威達のパイロット育成がVRで毎日行われているので、それ が済めば日本側の準備は完了である。そして予定外の援軍として、 長門と大和まで参加してくれたのだ⋮⋮これでもう、日本に今張ら れているバリアが無くなってしまったとしても、世界に手を出させ ない下地はほぼ完成した。 ︵世界は実に幸運だな。日本人以外が今までの歴史の屈辱を受けた 上でこんな力を持ったら、今までの復讐として今頃は各国の殲滅を 始めているぞ⋮⋮︶ そんなことを光は執務室で考える。特におとなりのプライトが非 常に高い国などは間違いなくやっただろうな⋮⋮と。 ︵後4ヶ月少々か。早く時間が経って欲しいと願うのは本当に久し ぶりだ。できる限り血で地球を汚していく最後は迎えたくない。だ が今までが今までだ。そう言ってはいられない事が嫌でも分かって しまう今までの歴史は本当に腐っている︶ 今までの日本を奴隷にすることで発展と平和を成してきたしてき た世界。だがその日本人がすべての国から消えて数ヶ月。あちこち で混乱が発生し、社会情勢はぼろぼろに崩れ落ちる寸前だ。そして 社会情勢を辛うじて崩れることを防いでいる事柄が、日本侵攻再奴 隷化計画らしい。今は耐えて軍備を整え、世界が連携して反逆行為 に及んだ日本を叩き潰し、奴隷にすれば全てが戻るという妄想に限 りなく近い話が、社会情勢崩壊を水際で阻止していると忍から報告 が入っている。 262 ︵今まで甘い汁を吸ってきたことで、自らの成長を無意識に止めて きた報いだな。密かに日本に協力してくれた数カ国以外、後がどう なろうと知ったことか。︶ 日本に協力してくれた数カ国のために、バリアシステムの製作も 進められている。日本が消えた後に真っ先に狙われる可能性は十分 にあるからだ。日本が苦しい時に偽の報告書を世界に提出し、日本 の負担を軽減すると言った行動をしてくれた国だけは守りの技術を 残していくつもりなのである。きな臭い臭いが充満していく世界、 対照的に平和な空気が流れる日本、その反比例は今後ますます進む ことになる。 263 8月15日 ﹁総理、お願いします﹂ ﹁うむ⋮⋮今日は何が何でも行かねばならぬ﹂ 光は席を立って外出の準備をする。今日は8月15日⋮⋮。日本 人にとっては重い一日だ。 ﹁光様? どこかへお出かけになるのですか?﹂ 定期連絡のために総理官邸に来ていたフルーレが、疑問の表情を 浮かべつつ光に声を掛ける。 ﹁うむ、これから私はとある場所に行かねばならぬのでな⋮⋮﹂ 光はそう静かにフルーレに返答を返す。 ﹁そこへ、私がついていってもよろしいでしょうか?﹂ フルーレの質問に光はしばし考え⋮⋮そして静かに頷いた。 ﹁そうだな、車の中に待機してもらい、そこから外を見るに留めて くれるのならば⋮⋮それに、一度目にしておいて欲しくもある場所 でもあるな⋮⋮﹂ フルーレはこの光の条件を受け入れて、光とは別の車に乗り込む。 目指す場所は当然あそこである⋮⋮。 264 ││││││││││││││││││││││││ ﹁ここでいい、ここからは歩いて移動する。フルーレ、聞こえてい るか?﹂ ﹃はい、聞こえております﹄ ﹁済まないが、ここでしばらく車の中にて待っていてほしい。詳し い事は帰るときに話をしよう﹂ ﹃はい、お待ちしております﹄ ﹁では行くぞ、静かにな⋮⋮﹂ 光は周りの人にそう伝え、人ごみの中にまぎれていく⋮⋮。その 姿を見送った光とは別の車両にてこの場に来ていたフルーレの目に 入る一つの文字があった。 ︵靖国⋮⋮神社跡地? 神社とはたしか、小さな神殿のようなもの だったはず⋮⋮ここはどういう神殿で、さらになぜ跡地に?︶ フルーレはその土地を見るが、そこには草が多少生えているだけ の更地。だが多くの日本人がその更地の前に頭を下げ、手を合わせ、 そして泣く者も居ることが確認できる。 ︵││大事な場所である事は間違いないですね。しかしなぜ再建し ないのでしょうか? この国の技術をもってすれば、完全な復興は 望めなくても、ほぼ変わらぬレベルで再建は十分可能でしょうに⋮ ⋮?︶ 265 車の中で首をかしげるフルーレの事など当然外にいる人たちは気 にも掛けず、次々と参拝をしていく。何もない更地に頭を下げてを 合わせていくその姿は、何もない更地に厳かな神殿が見えるようだ、 とフルーレは最終的な感想としてそう思った。 ﹁さて、フルーレ。あの場所についての質問を受け付けよう、何を 知りたい?﹂ ﹃そうですね⋮⋮まずなぜあの更地に多くの人が頭を下げているの でしょうか? あそこには何があったのでしょうか?﹄ フルーレの問いかけにやはりそこを聞くのは当然か、と思う光。 ﹁それは私からお話いたしましょう、総理、よろしいでしょうか?﹂ そこに、光の乗っている車両を動かしている運転手が割り込んだ。 光は﹁分かった、任せよう﹂と許可を下す。 ﹁あそこには昔、靖国神社と呼ばれる⋮⋮この日本のために戦い、 散って行った多くの神霊を祭っていたのです。もちろんそこにあら ゆる差別は当然なく、この国のために戦った人ならば国籍も性別も 関係なく平等に祭られておりました﹂ 運転手の言葉に、フルーレから﹃そういう事でしたか⋮⋮私達の 死者を静かに祭る神殿に似ていますね﹄との声が聞こえてくる。 ﹁ですが今から1000年近く前⋮⋮それは我々の暦では西暦31 89年の事でした⋮⋮﹂ 266 ││3189年。日本人を奴隷のように使い始めてから約200 年。各国は日本を外してとある事を話し合っていた。その議題は” 日本人の心を程々に折るにはどうすれば良いか?”である。ある国 の代表はこう言い出した。 ﹁テンノウを殺せばいいだろう、あの国の象徴とも言うべき存在が あの国を照らすから日本人は心を奥底では折らないのだ﹂ だがすぐさま他の国の代表が反論する。 ﹁それはだめだ。もしそれを実行した場合、日本人全員が一気に暴 徒と化す可能性が高い! 暴徒となっても鎮圧は可能だ、可能では あるが⋮⋮鎮圧にはこちらにも相応の被害が出るぞ! 具体的には 生産プラントの破壊、カミカゼ特攻による自爆、そもそもそうなっ たらもう奴隷として日本人を運用できなくなる!﹂ ああでもないこうでもないと、様々な方法が提案されては、真っ 当な理由つきで提案が却下されていく。その話し合いの結果⋮⋮。 ﹁戦犯を排除せずに神霊として祭るヤスクニを排除する事に決定す る﹂ という方法が国際会議にて可決されてしまったのだ。それから二 ヵ月後に⋮⋮靖国神社は炎に焼かれて、この世界から完全に消失し た⋮⋮。その跡地に様々な物を立てて、より日本人の心を折ろうと 画策した国は多くあったが、その責任者がことごとく変死した。突 然ビルの窓が前触れもなく外れて、その近くにいた責任者が落下死 したことを皮切りに、急病、事故、犯罪⋮⋮ことごとく建設や計画 の責任者や設計、発案者が例外なく死んでいく姿を見せられた各国 267 は、靖国神社の跡地に関するあらゆる建設計画をすべて凍結。その ために靖国神社の跡地は更地のまま残ることになった。蛇足ではあ るが、靖国神社を排除することに賛成した者達も、5年以内に全員 が死亡していることを付け加えておく。 ﹃そんな事が⋮⋮﹄ ﹁はい、残念ですがそれが事実です。そのため靖国神社は、祭られ ていた多くの神霊の記憶と共に⋮⋮消えてしまいました。今では資 料に残る写真にて、その姿を知ることが精一杯という有様です﹂ 何も知らない愚か者の暴力ですな⋮⋮と運転手は話を締め、口を つぐんだ。 ﹁││だが来年、この星を離れた後ならばもう何の問題もない。そ のときには残った資料をかき集め、再び靖国神社を再建するつもり だ。靖国神社はこの国のために戦い、眠りについた神霊の皆様が安 らぐ場所⋮⋮いつまでも更地で良い訳がない。﹂ 光の言葉にこれといった声の反応はなかったが、光の車を運転す る運転手がほんの少しだけ指先に力を入れた事には、誰も気がつか なかった。そう、運転手本人でさえ。 ││││││││││││││││││││││││ さて、その日の夜。光は一人で地下に作られた道を歩いていた。 この道の存在は極秘であり、歴代の総理大臣のみが入れる道となっ ている。極秘なのは、消えてしまったハズの物が保管してあるから である。やがて横に動くエスカレーター式の機械に到着した光は、 268 その起動のための電源を入れる。一年に一回だけ密かに使われるそ れは、光を乗せてゆっくりと動き出す。因みにこの機械の手入れを 行っているのは﹃忍﹄の技術班である。 やがて横に移動するエスカレーターでの移動も終わり、再び光は 徒歩で奥を目指す。そうして地中にある地下室としてはかなり異様 に大きな空間の中に足を踏み入れた⋮⋮。そのとたん、静かに多く の明かりに火が灯る。ここは靖国神社の真下に建設された”靖国神 社・月影”。ここには当時の靖国神社の制作方法や技術が収められ ていたり、多くの神霊が心無い焼き討ちを逃れてここに眠っている のだ。 靖国神社を焼こうという動きがあると当時の﹃忍﹄の原型となっ た組織が当時の総理大臣に報告。当時の総理大臣はすかさずこれを 靖国神社側にリーク。総理大臣と靖国神社側の協力によって、ぎり ぎりながら靖国神社に収められていた物を全て運び出し、保護する ことに成功した。その後の総理大臣により国民には当然秘密で地下 の靖国神社・月影が作られた。一度月の裏に隠れ、再び日の当たる 場所に戻れることを願って。 ﹁ようやく⋮⋮念願が果たせそうです﹂ 多くの神霊の前で光は報告する。 ﹁後もうしばらくのご辛抱でございます。皆様はこの国のために命 を捧げられた神霊であることを再び誇る事ができる日も、もうすぐ そこまで来ておりますゆえ⋮⋮今しばらく、この暗き闇の中でしか 祭れぬ無力な我々をお許しください﹂ ただ深く深く神霊の御前にて土下座をする光。その光を見ている 269 二つの影があった⋮⋮。 ﹃││負けられませんね、絶対に﹄ ﹃ああ、こんな状態を終わらせるためにあたし達は蘇ったんだよ、 きっとな﹄ その影は、そのままふっと暗い闇の中へと消えていった⋮⋮。 270 8月15日︵後書き︶ 実際こんな事になったら、とんでもないでしょうね⋮⋮。 断交とかそんな生ぬるい事じゃ済まないと思います。 271 8月20日︵前書き︶ やっと時間がとれたんだよ! 272 8月20日 ﹁この書類はこれで完了だな﹂ 今日も政務に励む光。大臣より直接の確認を、と出された書類の 確認をして、認可を下す物と今は保留して大臣の会議に回さなけれ ばいけない物⋮⋮と選り分けて行く。 ﹁はい、ありがとうございます。ではこちらとこちらは早急に、こ ちらは次回という事で﹂ 池田法務大臣による二重のチェックで漏れや間違いが無い事を確 認する。 ﹁2番隊隊長も、そちら側に対する食料の補充支援数量は問題ない な?﹂ なんだかんだで一緒に食事をする事が多く、自然と仲良くなって しまった2番部隊長に光はそう確認する。プライベートタイムでは ないので2番部隊長の名前は言わない。ちなみに二番部隊長からは ﹃ガレムと呼んでくだせえ。仲間からもそう呼ばれてるんで﹄との ことなので、仕事中でない時はガレムと光は呼んでいる。 ﹁へい、問題ないどころか十分な量でさ! 部下達もこっちの世界 に来てから毎日美味い飯が食えるってんで、大はしゃぎしてやすよ。 士気は上がるし、やる気は出る、まさにいい事ずくめでさぁ。皆こ の国が戦争になった時には体を張って戦うと誓い合っておりやす﹂ 2番部隊長⋮⋮今後はガレム隊長と表記するが、ガレム隊長の話 273 を聞いた光はゆっくりと頷いた。こういう普段からのつながりは非 常に大切だ。穏やかな時にこそ、いざという有事に備えた準備をし ておかなければならない。もちろん戦争にならずに済めばそれにこ した事はないのだが、全く備えないというのは愚かである。まして や今の世界情勢ならなおさらしっかりと備えておかねばならない。 ﹁それと2番部隊長、新規の魔法バリアシステムの構築は進んでい るか?﹂ 日本に張られているバリア⋮⋮魔法的に言えば結界のシステムだ が、その効力をさらに強化して500年ほど出入りが完全にできな くなる新しいバリアシステムを作って欲しいとの依頼を光は魔法部 隊のメンバーに出していた。そんな物を何に使うのですか? との 質問を受けた光はこう答えた。 ﹁見えにくい形で、世界を欺き密かに日本を支援してくれた国が5 カ国ほどある。我々が居なくなった後、その5カ国は間違いなく次 の標的にされてしまうだろう。それを防ぎたいのだ﹂ 台湾を初めとして、密かな支援をしてくれた5カ国にだけは日本 が消えた後のアフターケアを出来る限りしておきたかった。その方 法のひとつが、このバリアシステムの製作である。他にも自国の技 術者に新規生産プラントの設計と構築を指示しており、日本が消え る前に5カ国へと設置し、運用方法を伝えてエネルギー問題や食糧 問題を解決しておく事で、5カ国の最悪500年にわたる篭城戦に も耐えられるようにしておくつもりだ。悪意に悪意を返すのであれ ば、善意には最大の善意を返さねばなるまい。 光の質問に、ガレム隊長は﹃問題ありやせん﹄と返答を返す。 274 ﹁大体完成の時期は、この国の暦で言うと11月の20日前後あた りになりそうでさ。12月までは掛かりやせん﹂ 12月前に何とかならないか? というのが光の希望だったので、 ガレム隊長の返答に光は内心ほっとする。 ﹁分かった、そのペースで頼むぞ﹂ 光はそうガレム隊長に頼みながら、書類に印を押して今日の仕事 は終了となった。 ﹁それにしても珍しい物だ。午後の4時に仕事が終わるときがある とはな﹂ 光の呟きに、池田法務大臣は﹃そういう日があってもよろしいで しょう、休める時に休んでおく事も大事です﹄と光に言う。池田法 務大臣は総理なんかやりたくないという本音があるので、光に倒れ られるととてつもなく困るのだ。その為に、光のサポートを必死に やるという人物である。 ﹁だったら光の大将、今日は居酒屋に行って一杯やりやせんか? 焼き鳥を食ってビールっていう酒をきゅっとやるのもたまにはいい モンでしょう?﹂ 完全に日本の飯と文化に染まったガレム隊長の申し出に光は苦笑 するが、確かにたまにならそういうのも悪くないなと考える。 ﹁そうだな、じゃあ今日は一緒に飲みに行くとするか!﹂ 光の言葉にガレムも﹃さっすが大将だ、そうと決まればちっと速 275 いですが行きやしょう! 最近行きつけの居酒屋があるんでさあ﹄ と楽しそうだ。池田法務大臣も程よいガス抜きになるだろうと考え て、あえて何も言わない。﹃忍﹄のボディガードは常に付き添って いるし、ガレム隊長という武人もいるので特に問題はないと判断し たのだ。 さて、そんな和やかな雰囲気の中で皆が総理政務室から出ようと した瞬間、ドアからコンコンコンと切羽詰まったようなノックの音 が聞こえてきた。誰だろう? と首をひねりながらも光は﹃誰だ?﹄ とノックの主に呼びかけた。 ﹁光様、申し訳ありません! フルーレです﹂ 首をひねりつつ、今日は何かあったか? と確認するような視線 でガレム隊長を見る光。その光の視線で何を言いたいのか察したガ レム隊長は、何も聞いておりやせんとの意思を示すべく首を左右に 振ってから両肩をすくめるジェスチャーをとった。 ﹁入っていいぞ﹂ となれば、フルーレから直接話を聞くしかない。光はフルーレに 入室許可を出し、フルーレがあわてて現れた理由を聞くことにした のだ。出来れば厄介ごとではないことを祈りつつ。 ﹁食糧支援?﹂ フルーレの話をまとめると、何とか大量の食料をこちらへと支援 してもらえないだろうか? という話であった。 276 ﹁将軍、そりゃおかしいでしょう。先ほども確認しやしたが、日本 のみなさんはきちんと我々に十分すぎるほどの食料を提供してくれ てやすぜ? これ以上の食料を支援してもらったとして、どこへ送 るんですかい?﹂ ガレム隊長の意見を聞いて、フルーレの表情が困り果てた表情へ と変わる。一体何があったのだろうか? ﹁フルーレ、例え貴女の頼みといえど、理由もなく食料を支援する 事はできないぞ? なぜ支援が必要なのかを教えてもらえない限り はこの国を預かる総理大臣として、要求を聞き入れることは出来な い﹂ 光がそうフルーレへと告げた直後、フルーレの胸元から呼び出し の音が聞こえてきた。フルーレが光の事をちらりと見る。これは﹃ 呼び出しに出てもよろしいでしょうか?﹄の意思表示だと受け取っ た光は、﹁早く出なさい﹂と一言。フルーレは﹁失礼いたします﹂ と断りを入れてから呼び出し音を上げている器具を操作した。 ﹁はい、こちらフルーレ﹂ 一時期スマホなどと呼ばれていた物と同じぐらいの大きさの器具 を操作して、フルーレが呼び出しに出たとたんスクリーンが展開さ れ、こんな怒鳴り声が総理政務室の中に響き渡った。 サヤ ﹁フルーレ、貴殿の父親はなんてことをしてくれたのじゃ! お陰 でとんでもない事になりおったわ!!﹂ ロン その怒鳴り声の主は、かつて日本に異世界からやってきた沙耶・ 龍・フリージスティであった。 277 ﹁つまり話をまとめると⋮⋮酒の勢いで日本に来ていた事だけでな く、美味しいご飯を食っていたという事実を自国民の大勢の目と耳 がある場所でフルーレの父親であるガリウス陛下が口をうっかり滑 らした、と言う事で間違いないのか?﹂ 光のこの一言に、フルーレは頷きつつもさめざめと泣いている。 ﹁切っ掛けは確かにそれなんじゃが⋮⋮そこから色々と話が大きく 発展してのう﹂ 弱々しい声で事の顛末を話す沙耶。なんでも国家の顔である存在 はあまり贅沢をしてはいけないと決められているにも拘らず、行っ た先の国で美味しい食べ物を食し、楽しんできてしまった事がフル ーレの父親のガリウス陛下から芋づる式に漏れ出したらしい。そう して国民に突き上げられる事になってしまったガリウス、フェルミ ア、沙耶の三名は国民からこう言い渡された。 ﹃全ての国民に食べさせる事は無理だと理解している。だが、せめ てある程度国民にも”日本皇国”の誇る料理の味とはどういうもの かを実際に食べさせなければ許さない!﹄ と。 ﹁││失礼ながら貴方達の世界に、”食い物の恨みは恐ろしい”と いう言葉は通用しますかね⋮⋮?﹂ 半ば呆れながら光がぼやいた言葉にガレム隊長が反応を見せる。 278 ﹁光の大将、通用するかどころじゃねえですよ。基本的にあっしら の世界に生きている連中は、食い物関係に思いっきりこだわってや すから。というよりいやにしっくり来る言葉ですなぁ﹂ ちなみに、ガリウス達が持ち帰った日本のお土産を、直接食べた 国を動かしている重鎮達へは﹃あの人たちは国政という大変な仕事 に携わっているのだから、ある程度の贅沢はしても当然である﹄と いう事で、国民からの突き上げはなかったらしくそちらは一安心で あるが。 ﹁つまり、フルーレ様が要請した食糧支援とは、そちらの世界にい る国民の皆様に食べさせるためですか⋮⋮﹂ 池田法務大臣も軽く頭を押さえている。おそらくは軽い頭痛が起 きているのだろう。 ﹁のう、迷惑なのは重々承知しておるのじゃが、何とかならぬかの う⋮⋮?﹂ 空中に展開されているスクリーンに映っている沙耶も、気のせい か泣きそうになっている。なんとも情けない話ではあるが、光は口 を開いた。 ﹁池田大臣、レトルト物に限定してどれぐらい用意できる?﹂ レトルト物なら、お湯を沸かしてその中で暖めればいい。そして カレーなら、パンにつけて食べても問題はない。とりあえず味わう という目的を果たすなら比較的手軽にできる方法だろう。 ﹁3日くだされば⋮⋮ざっと100万食といった所でしょうか﹂ 279 池田大臣の言葉を聞いて、沙耶がすぐさま食いついた。 ﹁そんなに短時間でそこまでの量を用意できるのかえ!? それな らば各国で3等分しても33万食以上が行き渡るではないか! 頼 む、何とかして欲しいのじゃ!﹂ そこで光は、とっさに沙耶に対して交渉を持ちかけた。 ﹁その代わりお願いがあります。我々がそちらへ転移した後、色々 とご助力を頂きたい。お互いのためになると思いますがいかがでし ょうか?﹂ 用は貸し1ね、という事の宣言である。知らない場所に転移をす るのだから色々と苦労する事も多いだろう。そういうときの為に、 貸しを前もって作っておくのも悪くないと思いついたのだ。 ﹁それは言われんでも最大限の便宜を図るつもりじゃったが⋮⋮う む、国民にもこの料理を作れる国が来るという触れ込みも出来る事 になるのじゃな⋮⋮確かに互いのためになるのう﹂ 沙耶の方も納得した様子を見せた。そしてこう続ける。 ﹁では、ガリウスの大バカとフェルミア殿には、わらわから今回の 話を伝えておこう。もちろん便宜を嫌と言うのであれば、カレーは 届かんぞと言っておけば良いかのう?﹂ そんな脅しをしなくても良いのだが⋮⋮と光は一瞬思ったが、あ えてその方向でいきましょうと沙耶に伝える。 280 ﹁では、わらわからそのようにしておこう。そ、それとじゃな⋮⋮ 光殿に一つ個人的な頼みがあるのじゃが﹂ もじもじとスクリーンに移る沙耶が動きながら、言葉を続ける。 ﹁こちらから機材を送るからの、わらわとたまにでよいからたわい のない話をして欲しいのじゃ⋮⋮﹂ その姿をつい可愛らしいなと光は感じてしまった。ぴこぴこっと 動くうさ耳も庇護欲を刺激してくる。 ﹁こんな男で良いのであれば、お話にお付き合いいたしましょう﹂ なので、その申し出を光は受けた。そのとたん、沙耶は満面の笑 みを浮かべる。 ﹁では、3日後にそちらへと機材を送るのでな、受け取って欲しい のじゃ﹂ その後は各種確認を取って、沙耶との通信が切れる。やれやれと いった心境の光と池田法務大臣。申し訳ありませんと何度も頭を下 げるフルーレ。頭をぼりぼりとかいているガレム。なんともしまら ない空気になってしまったが、折角集まったのだからと部屋に居る 4人でガレムお勧めの居酒屋に繰り出し、行った先の居酒屋で非常 に盛り上がる事になったのはいい鬱憤晴らしになったであろう。特 にフルーレ嬢が。 281 8月20日︵後書き︶ 重い話が続いたので、軽めのを。 ついでに沙耶さんに再登場してもらいました。 282 8月25日︵前書き︶ 今年最後のそんなに∼更新です。 283 8月25日 ﹁さて、そろそろこちらが提出した食料によりどうなったのか、そ の結果を伺いましょうか⋮⋮と申し上げたかったのですが。ガリウ ス陛下、その酷くボロボロになっているお顔は一体なにがあったの でしょうか? なぜ治療なさらないのですか?﹂ 日本が異世界の3ヶ国に対して食料を提供してから2日が経過し た。ちなみに提供した物はレトルトのカレーと、カップラーメン。 カップラーメンもお湯を注げばいいだけの一番シンプルな物を送っ た。その結果を聞こうと、ガリウス、フェルミア、沙耶の3人と同 時に魔法の回線を開き会談を行う事にしたのだが⋮⋮ガリウス陛下 の顔がボッコボコ&多数の引っかき傷という何ともまぁ、痛々しい 顔を晒していた。 ﹁トウドウ殿。女は、怖いな⋮⋮﹂ そのガリウスの発言にどういうことだ? と首をひねる光だった が、ふんっ! と声を出しながら不機嫌な顔を隠そうとしない沙耶 と、苦笑いをしながらもニコニコと微笑んでいるフェルミアの様子 で大体の状況を察した。 ﹁これだけの迷惑を日本皇国におかけしてしまったんじゃ! おぬ しの顔ぐらい派手に引っかかねばこちらの気が済まぬわ!﹂ ここで、光の思考が一瞬止まった。引っかいたのが沙耶と言うこ とは⋮⋮? もしかしてガリウスをぼこぼこにしたのは。 ﹁久々に私の拳を直接振るってしまいました。ガリウス様には申し 284 訳ございませんが、しっかりと反省をしてくださらないと﹂ と、満面の笑みを浮かべながらフェルミアがなんでもない事のよ うにさらっと言ってきた。そのフェルミアの笑顔とは対照的に、光 の背中には冷たい汗が流れた。どう見てもガリウスは筋骨隆々の武 人。その一方でフェルミアは仮想の世界に居るエルフのように細身 の体。そのフェルミアが、ガリウスをぼこぼこにしたと言うのだ。 あの細腕のどこに、それだけの力を眠らせているのか⋮⋮。 そんな風にフェルミアに対してかなりの恐怖を覚えた光だが、ポ ーカーフェイスは政治に身をおく者としての基本的な技として習得 しており、それを表情に出す事をはなかった。そう、今はそんな事 を聞くことが目的ではない⋮⋮。 ﹁とりあえずガリウス殿の顔の事は理解しました。それでは、改め てこちらが送った食料に対しての反応を伺いましょう﹂ そう仕切り直した光。魔法があるのにガリウスの顔がぼこぼこに されたままなのは、おそらく魔法治療がフェルミアと沙耶によって 禁止されているのだろう。そういう罰ゲームみたいな物だと光は考 えた。あまり深く突っ込む必要もないだろう。 ﹁ではわらわから報告させてもらう事にするかの﹂ そう言い出したのは沙耶。幾つかの資料と思われる紙を沙耶は見 ながら報告を始めた。 ﹁現時点で、日本皇国より提供していただいた食糧の配布率は全体 の50%を超えておる。カレーに、カップラーメンはどちらも好評 じゃ。それに運ぶための運搬のし易さに、食べる時の手間の少なさ 285 も受けておる。お陰で民の不満はかなり下がってくれたと言ってい いじゃろう﹂ ちなみに最終的に用意された食料は、カレー120万食分、醤油 味のカップラーメンを90万食分。3国に対して綺麗に分けきれる ように数を多少増やし、その上でガリウス、フェルミア、沙耶が以 前日本に来た時に口にしていないカップラーメンも追加した。その カップラーメンを追加した事による効果がはっきりとでたことが、 次のフェルミアからの発表にて明らかになった。 ﹁さらに、日本皇国から追加で頂いたカップラーメンなるものは、 私達は一切口にしていない食べ物であると言う事が伝わり、より国 民の皆様の不満を和らげる事になりました。光様のすばらしい判断 に感謝いたします﹂ 食い物の恨みが大きいと言うのであれば、食べさせていない食べ 物を食させればいいと光は考えたのだ。その読みが今回は無事に当 たったことになる。 ﹁ともかく、光殿のお陰で暴動が起きる可能性はほぼ無くなりまし たぞ。今回の食糧支援に心から感謝しますぞ⋮⋮いったたたた⋮⋮﹂ どうやらガリウスは口を開くだけでもそれなりに痛みが走る様子 である。フェルミアと沙耶にこちらから見えないところも手ひどく やられたのかもしれない。それはとりあえず横に置いておくにして も、とりあえず何とか無事に事態は収束したと言う事で間違いがな いようだ。 ﹁収まったと言うのであれば何よりです。ですが、これは今回限り と考えていただきたい。こちらの情勢は日々きな臭くなる一方です 286 からな⋮⋮次回は無事にそちらの世界へと我々が到着してから⋮⋮ になるとお考え下さい﹂ 光はそう釘を指す。少し前にもいざこざがあったし、そろそろ日 本人が皆居なくなってからも動いていたであろう食糧生産プラント の幾つかがそろそろ動きを止める頃だろう。止まる理由は単純で、 生産するための資源を使い果たすからである。種がなければ芽が出 ないように、保存しておいた食糧生産用の種などがそろそろ尽きる 頃ですと報告を受けている。 もちろんその種を補充していたのであればその限りではないが、 そんな簡単なことすらも日本人任せにしてきた連中が気が付くとは 思えない。もちろんそのことに気が付いて種をあわてて補充しても、 芽吹いて大きくなり食用として使えるまでには当然時間が掛かる。 その上プラントの運用には燃料も当然ながら必要になる。その燃料 も残りは少なくなって来ているはずだ。食料争奪戦が世界中で始ま るのはそう遠いことではない⋮⋮本格化するのは日本が異世界に消 えてからになるだろうが。 ﹁判っておる⋮⋮今回は本当にすまなんだな。日本皇国がこちらに 来た時には、わが国総力を挙げて協力をすることを国の名に誓わせ てもらうぞ﹂ 沙耶の言葉に、ガリウス、フェルミアも同意する。食べ物に釣ら れた面が強いのは否めないが、これだけの手配をしてくれた国に不 義理な真似は出来ないと思ったのも3カ国の心情である。 ﹁それで、そちらの様子はどうなっておりますか? 一応こちらか ら派遣した部隊からも報告を受けておりますが、全体的に怒ってい ることをうかがわせる報告ばかりでして⋮⋮﹂ 287 フェルミアの申し出に、今の日本の状況を話せる部分だけかいつ まんで説明する光。特に3名が怒るのも当然であると同意していた のは、先日のサルベージから始まった英霊の墓を騒がす世界の行為 である。 ﹁実に許しがたい。光殿がお怒りになるのももっともだ。武人とし ても許せぬ﹂ 腫れ上がった顔から来る痛みすら忘れたようで、ガリウスは怒り の表情を見せる。異世界の3ヶ国にも、靖国神社のような神殿が存 在する。そこでは国籍など関係なく死した人の鎮魂を祈る神聖な場 所であり、その神殿における教義の1つに﹃死した者を汚すなかれ、 騒がすなかれ﹄とあり、特に武人としての礼節を重視するガリウス の国マルファーレンス帝国では、ことさら死者に対しての冒涜は恥 であるとみなされている。 ﹁そのような状況下で、このような頼み事をしてしまい真に申し訳 ありませんでした﹂ フェルミアが光に対してゆっくりと頭を下げる。 ﹁のう、ガリウス殿、フェルミア殿。お互い日本皇国にもっと協力 をせぬか? ひとまず日本皇国救援作戦をするための部隊を各国2 部隊ずつ追加し、資源も提供しようではないか。日本皇国が置かれ ている環境はかなり厳しい。わらわたちはより手厚い支援をすべき だと思うのだが、どうじゃ?﹂ この沙耶の呼びかけに、ガリウス、フェルミア両者はすぐさま賛 成した。 288 ﹁それはいい! 即座に行おうではないか! 日本皇国を失ってし まうわけには行かぬ! いざと言う時にはこちらから討って出て敵 をなぎ倒せるだけのわが国の誇る猛者を送ろうではないか!﹂ ガリウスが戦士を中心に送ろうと言い出す。 ﹁では私の国からは強力な魔法使いを出しましょう。日本皇国の料 理を食べられる事を報酬としてあげれば、すぐに集まりましょう﹂ こちらはフェルミア。 ﹁ならばわらわの国は弓術、銃術に優れた者を出そう。そうすれば バランスもよいじゃろう。鋼鉄を軽々と穿つ弓術、雨のように弾を をばら撒く銃術の使い手が恥知らず達の進行から日本皇国を防ぐ様 に手配せねば﹂ 沙耶がそう締める。日本の食糧支援によって、各国の中でも超一 流の武人達が数日後に集うことになった。その彼らもまた、日本の 食事にはまり、自分の好みの味の追求に明け暮れることになる⋮⋮。 289 8月25日︵後書き︶ 来年は更新を多く出来るといいなぁ。 290 9月2日 ガリウスの酒の席でぽろっとこぼれた話から始まった騒動から数 日後。とりあえず異世界の食料関連のいざこざも完全に収まったと の報告が入り、しばらく落ち着いた日を過ごす日本政府の要人達⋮ ⋮だが、その静かな日常はあっけなく破られた。 ﹁そ、総理、総理ー!!﹂ あわただしく政務室に飛び込んで来た田中外務大臣。日常の政務 をこなしていた光は、そのあわて振りに一瞬引くが⋮⋮。 ﹁何事だ田中外務大臣! 世界に何か大きな動きがあったのか!?﹂ 田中外務大臣⋮⋮つまり日本の外交を担当する大臣だが、2月に 総理が世界との交流を完全に断絶したために、仕事の内容は海外の 情勢を探るという事がメインになっていた。 ﹁国民には一切流していませんが⋮⋮世界でとんでもない映像が流 されております! 大臣や異世界からの支援部隊上層部を集めた上 で一度見ていただきたく⋮⋮﹂ 光が田中外務大臣の手元を見ると、そこには小さなチップが。そ のチップの中に映像が納められているのだろう。一体ナニを世界は 仕掛けてきたのだ⋮⋮? ﹁わかった、幸い近頃は急務もないから、本日の午後に緊急召集を かける。それで良いか?﹂ 291 神威の弐式と零式は順調に数を増やしている。オプションパーツ も幾つか完成し、量産に入ったとの報告も受けている。国民生活の ほうも現時点では不安要素は無く、異世界から来た部隊との大きな 衝突も無い。最近はせっかく色々な事が上手く行っていたというの に、いつも邪魔が入るな⋮⋮そう光は内心腹立たしく思ったが、そ れを表には出さなかった。 ﹁正直、個人的意見になりますが胸糞悪いとしか言いようの無い映 像です。それを先に申し上げておきます﹂ というわけで、午後の5時に日本の大臣全員、異世界の支援部隊 の格隊長が総理官邸内のある一室に集まっていた。 ﹁お集まり下さり、ありがとうございます。長い挨拶など邪魔なだ けですので、さっそく本題に入らせていただきます。まずはこちら の映像をご覧下さい、数時間前に日本以外の国家全てに放送されて いる様子です﹂ 一体何を流したのか⋮⋮映像が映し出される。 ﹁これは⋮⋮﹂ フルーレや女性大臣が一気に顔をしかめる。 ﹁今度はこうきたか⋮⋮﹂ 男性大臣達が歯軋りをたてる。 ﹁││勝手な事を言っていますね﹂ 292 支援部隊の女性部隊長は苛立ちをあらわにする。 ﹁クズだな、むかつくったらありゃしねえ!﹂ 支援部隊の男性部隊長は拳を握り締める。さて、その映像の内容 とは何か⋮⋮それはこういうものだった。 ﹁お腹がすいたよー!!!﹂﹁家が無いよー!!!﹂﹁薬が欲しい よー!!!﹂などなど、苦しんで叫び声を上げる子供達の映像だっ たのだ。これは間違いなくプロパガンダであり、映像は最終的に物 資の提供をやめた日本の影響で世界の子供は無用の苦しみを味わう 事になったから、日本は謝罪をして世界全ての国に対してより従順 に従わねばならないと締めくくられている。 ﹁この映像が、今世界中のあらゆる場所で流されております⋮⋮﹂ 田中外務大臣が、映像が終了したところを見計らって、映像が世 界で流されている現状を集まった人たち全員に告げる。 ﹁日本人の情に付け込むつもりか?﹂ 光の言葉に、田中外務大臣は﹁我々もそのような狙いがあると分 析しております﹂と返事をした。 ﹁国民の目が届く所にこの映像は流れ込んでいるか? もちろんコ ンピューターウィルスやハッキングという意味でだ﹂ 光の質問に、弓塚通信担当大臣がすぐに現在の状況を報告する。 ﹁田中外務大臣のすばやいリークのお陰で、幸い今のところ全てを 293 シャットアウトしております。技術大国の意地にかけて、つまらぬ ウィルス攻撃やハッキング行為などは完全に粉砕して見せます﹂ そうか、良くやってくれたと光は田中大臣、弓塚大臣に感謝を述 べる。日本人は情が深い⋮⋮それは長所だが、この映像を見てのこ のこ日本から出て行ってしまい、海外の子供達に食事を与えような んて考えをもたれては困るのだ。もちろん大半の日本人はこの映像 を見てもそういう行動を起こさないだろうが、全ての日本人が情に ほだされないとは思えない。日本から出て行って、現地で人質にな んてなられたら非常に困るのである。 ﹁これらの行動に対してのこちらが取る反応はたった一つだな、完 全に無視しろ﹂ 光の言葉に室内がシィンと静まり返る。子供の苦しむ姿を見せら れた上で無視しろというのはなかなかきつい物がある。その静まり 返った室内に、光の言葉が続く。 ﹁冷静に思い出せ、今までの我々の扱いはどうだった? 両親が怪 我をしても病気にかかっても働け働けと世界は強要し、過労でどれ だけの日本人が殺されてきた? そしてその結果、親なしの子供を 山ほど作り出してきたんだろうに! そんな日本人の命を散々今の 今まで吸っておいて、ちょいと半年ほど生産施設が止まったらこれ か? だいたいな、さっきの映像をもう一回思い出してみろ﹂ そこで一呼吸置いてから、更に光は話を続ける。 ﹁子供達は確かに飢えていたかもしれない。だが、その途中で出て きた大人はどうだった? 肥え太っていただろう﹂ 294 此処でもう一度先ほどの映像が流される。確かに子供達は飢えた 姿だが、ちょこちょこ出てくる大人は皆明らかに飢えた様子は無い。 その様子を皆が確認した所で、光は強い語気でこの様に断言する。 ﹁子供を使ってこういうことを恥とも思わずに平然とやる奴らだ、 救う理由も価値も一切ない!﹂ ダン! と光が机を叩く音が室内に響く。この光の意見に﹁確か に総理のおっしゃるとおりですな﹂﹁こんな映像を流す事自体が人 道的とは言えないでしょう﹂といった意見が大臣達から出てくる。 異世界組からも﹁腹立たしい﹂とか﹁子供をだしに使うとは、ゴブ リンよりも劣る﹂などといった侮蔑の言葉が並ぶ。そして光は最後 に⋮⋮。 ﹁もしこの映像が流出して、国民から責められた時はこう言え! ﹃見捨てる事を指示したのは、今の総理大臣である藤堂 光による 直接の指示であります﹄と。今回のことに関しての責任は全て私が 持つ! だからここに集まった君達全員が助けない事を選んだ選択 を恥じる必要は無い! 全てを救う事などできないし、今までわれ らが祖先の命と魂を吸ってのうのうと楽をしていた奴らに対して相 応の鉄槌が下るのは、むしろ当然の事だろう?﹂ 光のこの一言で、この映像を始めとしたプロパガンダ映像攻撃に は完全無視&徹底排除を決め込んだ日本政府。 その一方で世界ではこの映像は大いに受け入れられた。日本を悪 者にする事で、国民の不満や怒りの矛先を自国政府から日本の方へ とそらす事ができるからだ。世界にしてみれば、日本をもう一度奴 隷に落とすまでの一時しのぎが出来れば構わないという面もあった。 295 ││だが、その一方では。 ﹁││実におろかな事をしたものだ、この映像を作った国は﹂ 日本を影で支援していたある国の大統領はそう呟いた。日本を支 援していたからこそかの国での日本人とはどういう人種なのかをよ く理解していた。 あの国の国民は限界まで我慢をする。そして我慢の限界を超えて 爆発したときには、相手がどんなに大きい存在でも立ち向かうのが 日本人だ。そしてあの国は今回千年以上の長い時間を耐えた。これ が何を意味するのか。それだけのとてつもないエネルギーが日本人 の心の中に世代を超えて積もり積もっている事を、世界はまだ分か っていないのか? 日本人を酷使した結果、日本に食料生産を始めとした国家的なラ イフラインの大半を握られていた事を理解できぬほどにバカなのか? ﹁フン、バカなんだろうな。だからこんな映像を作る。こんな物を 作れば、ますます日本人を怒らせる﹂ そしてバカだから、日本人が生産現場から消えたとたんに子供が 飢える。我々の国のように影ながら支援をして共存すれば、日本人 は心強い味方になるというのに。実際食料自給率が上がらず苦しん でいた我々の国を、日本人は救ってくれた。日本人の情けと技術の お陰でわが国の国民の飢えは解消された⋮⋮他の国にそれだけの協 力をしてくれる人種がいるはずもない。 296 わが国の国民は日本人に深く感謝しているし、奴隷だと考える者 も居ない。日本人には大きな恩がある⋮⋮それだけの恩を受けたの にもかかわらず、影から支援するのが精一杯だったのが此方として は心苦しいのに、そんな我々に対して日本人は﹃ありがとう﹄と頭 を下げてくるのだ。 ﹁負けるなよ⋮⋮日本人、我が友よ﹂ 297 9月2日︵後書き︶ やっと一話更新。ほのぼの話は、今後転移するまでおそらく無いで す。 298 9月4日︵前書き︶ 更新が遅くて本当にごめんなさい。 なんか毎回謝ってばっかりですがごめんなさいとしか言いようが無 いです。 299 9月4日 ﹃それにしても、今の世界の中でも特に愚かな者がここまで見事に 出揃ったものですね、マスター﹄ ここはVR上に展開している訓練所。題目上は﹃鉄﹄のパイロッ トである光の訓練となっているが⋮⋮その内容はただのストレス解 消である。一応世界中で現在までに確認できたあらゆる兵器を研究 し、その上で半分空想も含めて数倍ほどに強化されたものが現時点 で戦っている仮想敵なのだが、﹃鉄﹄のシールドシステムや装甲を 抜くことができない。そうなれば起こることは一方的な蹂躙である。 ﹃ミッション・コンプリート。これではあまり訓練になりませんね、 マスター﹄ ノワールの言うとおりである。ひどい言い方をすれば、ただ前に 向かってブーストを吹かしてタックルを仕掛けるように突っ込むだ けで勝ててしまうような相手だ。 実際、先ほどの戦闘訓練では鉄に備え付けてある装備の大半は使 われぬままであり⋮⋮胸部に仕込まれている胸部ガトリングガンを 四方八方にばら撒いただけで仮想敵として設定された存在を全て殲 滅してしまった。ノワールの言うとおり、この内容ではお世辞にも 戦闘訓練とは呼べないだろう。 ﹁これだけ次々と出てくる相手を薙ぎ倒せば一時的な鬱憤晴らしに はなってくれるが、それだけでは訓練にならないから困るな⋮⋮。 ノワール、お前が言うあの愚か者達のせいで苛立ちがあまり隠せん よ。こんなところでもない限り、表に出すわけにもいかないのだが 300 な﹂ この愚か者達とは、例の飢えた子供達を使ったプロパガンダ映像 を作った連中をさしている。もちろんどこの誰が作ったなどは調べ ても今の日本にとってはあまり意味がないので調べていない。光と ノワールが言っている愚か者達の範疇には、製作にかかわったと予 想がつく奴等全員が含まれる。 ﹃私はAIですが、あの映像を見て私が感じたことは嫌悪感だけで した。逆に言えば、人間ですらない私にすら嫌悪感と言う感情を抱 かせた点だけは評価できるかもしれません。もちろんマイナス方面 での評価ですが﹄ ノワールの口調にも、とげとげしい部分が顔を出す。研究所の人 と話すことも多いノワールなので、そういった心といってもいいか もしれない部分も成長しているのである。 ﹁だが、世界の馬鹿どもにはちょうどいいんだろうよ。あの映像を 支持する国が大半らしいからな⋮⋮後は中立が少々か。特にわれわ れ日本人が消えてから、ライフラインが厳しい国には受けがいい。 まあ、矛先を我々に向けれるから、というだけのつまらない理由し かないのだろうがな﹂ そう斬って捨てた光の様子に、ノワールは話を変えることで光の 気分転換を図った。 ﹃その話はこれぐらいに。ところでマスター、マスターは長門と大 和のお二人には会いましたか?﹄ 急に話が変わったので、ん? と光は少し考える。 301 ﹁その長門と大和というのは、今日本を守ってくれているあの戦艦 の事ではないのか?﹂ そもそも長門や大和と話すときには鉄に乗ることが必須であり、 当然ノワールもそれを知っている。だからここでノワールが言って いるのは戦艦の方を言っているにしては妙な言い回しだと光は考え た。 ﹃もちろん違います。マスター、実はそちらの戦艦の姿をした本体 とは別に、人の姿をしている分体を存在させているのです。そして、 その人型をした分体二人は私に﹃鉄﹄の操作方法をよく聞きに来て いるのです﹄ 長門と大和、二人の分体の存在をここで初めて知った光は、ノワ ールに向かってつい再確認をしてしまう。 ﹁すまん、もう一度言ってくれないか? 分体だと?﹂ ノワールは﹃混乱なさるのは無理もありません﹄と前置きをして からもう一度発言を繰り返す。 ﹃正直に申し上げて、ありえないにもほどがあります。私の思考プ ログラムにおきましても、彼女達の存在を考えるとエラーのような 存在としか考えられません。しかし、彼女達の体を今海で活動して いる戦艦長門や大和と比べた所、魔力の波長が完全に一致すること。 そして何より、映像と音声の両方も私の記録メモリーの中にはっき りと残っていることから、私が発生させたバグであるとも思えませ ん。念には念を入れて技術班の人達による徹底的なメンテナンスも 受けましたが、異常は全く無いとの事です﹄ 302 次のVRによる訓練に移る前に、光は腕を組んで目をとじ、思考 を始める。 ︵││ありうる、ありえないという考え方は排除だ。そもそも魔法 という1年前なら馬鹿げた話を切って捨てたであろう物事は、今の 日本の中に間違いなく存在している。実際に魔法の力というのであ れば、今の私にでも使える。だからノワールの話に嘘は無いだろう。 そうなると、なぜ長門と大和は分体? なる物を生み出したのだ ? 本体は海上での監視⋮⋮監視船というにはでかすぎる存在だが、 ともかく監視をしてくれている、そこにわざわざ分体を生み出す理 由が見つからない︶ ほほを少しぽりぽりとかいた後、光は思考を続ける。 ︵第一、なぜ﹃鉄﹄の操作方法を学ぼうとする? いざというとき は神威弐式を実戦装備で配備するという話は長門にも大和にもきち んとしてある。それとも純粋な興味をもったからそんな姿で歩くよ うになったのか? それとも彼女達には彼女達の考えが⋮⋮どう転 んでも日本を裏切るという線は絶対に無い、そうなると俺が何かを 見落としているのか?︶ あれこれ考えをめぐらす光だが。答えは結局出ないままだった。 ﹃マスター、そろそろ次の訓練を﹄ ノワールの声で、光の思考は中断される。腕組みを止めて操縦フ ィールドに手を突っ込む。鉄のバージョンアップに伴い、操縦桿な どではなく、もっと細かい作業をダイレクトに反映できるようにと、 303 左右の両手を特定の場所に突っ込んで動かす形に変更されていた。 これに脳波を感知するヘルメットを装着することで﹃鉄﹄のコント ロールを行う。 ﹃次の訓練は、仮想敵のレベルを神威の領域にまで引き上げました。 これならば鉄といえども、先ほどのような突っ込んで殲滅するだけ といったことにはならないと予想されます﹄ ノワールの発言どおり、次のトレーニングの仮想敵は神威弐式が メインになっていた。バリエーションも豊富で、より大型の剣を装 備していたり、ミサイルランチャーやバズーカで火力を重視してい たり、光には伝えられていないが狙撃班もいる。 ﹁なるほど、ついでに新規に完成した神威弐式のオプションパーツ 仮想テストも兼ねていると見ていいのだな?﹂ 今まで光の記憶には無い神威用の武器がここまで次々と出てくれ ば、そんな予測を光が立てるのは当然の事だ。 ﹃はい、申し訳ありませんが神威のチェックをするために最適な仮 想敵はこの鉄なのです。データの収集も兼ねさせていただいていま す⋮⋮ご不満でしょうか?﹄ ノワールの申し訳なさそうな声に、光はいやいや、と首を振りな がら答える。 ﹁不満など無いから安心しなさい。時間は限られているのだから、 データを取れるときには取ることが当たり前だ。││そうだな、今 後神威パイロットに選抜された自衛隊員と一緒にトレーニングした り、お互いがコントロールしている機体同士で闘ってみるのも良い 304 訓練になりそうだな﹂ ノワールは、機嫌を悪くした様子を見せない光に内心? でほっ とする。訓練のため、VR世界といえど真っ先にやられ役になりか ねないテスト役を総理に押し付けるのはあまりに無礼ではないのか とノワールはノワールで悩んでいた。 だが、光の言ったとおり時間が限られているのもまた事実であり、 一刻も早いテストが必要だった。もちろんオートパイロットによる VR模擬線はそれこそ百回以上行われているが⋮⋮それを擬似的な 世界といえど実戦に近いテストと評することはできなかった。 自衛隊員のVR訓練はまだ基本的な動作から一歩踏み込んだ辺り であり、戦闘できるレベルには到達していない。初代神威パイロッ トである西村君の方は現状初代パイロットとして追加武器の研究に 関わっており、そっちの方向で忙しい。結局一番テストを受けるの に適切な人材が光であるという、とんでもない状況になってしまっ ているのだ。この状況は当然ながら、故意に引き起こされたことで はないのだが⋮⋮。 そしてそんな状況で行われるテスト。仮想敵が現時点の最強機体 ﹃鉄﹄のために、単なるデータ取りでは収まらず改善案が次々とは じき出されてゆく。その結果、神威弐式、零式に追加装着されるオ プションパーツの性能は凶悪度を増していく事になる。実践でこれ をぶつけられる相手にとっては悪魔が育っているような物であるが ⋮⋮その悪魔の登場はもうしばらく先の話となる。 305 9月4日︵後書き︶ 防衛兵器? すでに相手側を虐殺可能なオーバーパワーな形に。 数がどうしても少なくなるというのならば質をとことん上げるのが 日本人。 そしてそんな物を持っても虐殺行為をしないのが日本人。 306 9月7日︵前書き︶ こっそりと。 307 9月7日 その日、政務を始めようとして部屋に入った光は机の上に存在し ている珍妙な者を見た瞬間、一度目を閉じて首を振った。 ︵なんだか、妙なものが見えたような気がしたが。いかんな、疲れ ているのか?︶ そうしてゆっくりと目を開けるが、その違和感のある物体は消え てくれなかった。光が違和感を感じて二度見した物とは、2つのフ ィギュアのような物であった。 そんな存在がなぜか自分の政務用として使っている机の上にちょ こんと載っているのだ。大きさは12cmぐらいだろうか? 古典 的な方法である頬をつねるという夢かどうかを確かめる方法もとっ てみるが、頬はちゃんと痛かった。 ﹁だれかが、勝手に持ち込んだのか? それとも⋮⋮まさか、爆弾 か!?﹂ もしかしたら、まだ不穏分子が日本に潜んでいて暗殺をするため に││そんな考えに光の思考が固まりかかった瞬間、2つのフィギ ュアみたいな物は恐ろしくスムーズに動き出した。 ﹁大丈夫ですよ、総理。私達は爆弾ではございません﹂ 灰色の着物を着たフィギュアが扇子を取り出し、口元を隠しなが ら光に向かってウィンクする。 308 ﹁ほらみろ、長門。こんな風にいきなり出てきたら総理が警戒する のは当たり前だろ。総理、ごめんなー。長門がどうしてもって言い 出して⋮⋮あたしは大和の分体だよ、こっちの腹黒着物が長門の分 体﹂ 青をメインとしたスポーティな半そでにズボンを装った服装の大 和の分体? の出した声に、光はふうむと顎をなでる。﹃鉄﹄を通 じて聞いた長門と大和の声と、目の前の2人? が発した声色が全 く同じだったからだ。 だが、声なんてものは細工をすればどうにでもなるので、それだ けで信用するわけにも行かない。が、とりあえず話を聞いてみない と始まらないだろうなと光は考えた。今のところは極端な忙しさは 無いとはいえ、政務がないわけではないのだから。 ﹁ふむ、じゃあ単刀直入に聞こうか。君達がわざわざここに来た理 由は何なのかね?﹂ 光の質問に答えたのは長門の分体を名乗る着物姿のフィギュアだ った。 やおよろず ﹁﹃鉄﹄の次世代機である﹃八百万﹄のサポートAIになりたいの です、私と大和で﹂ この申し出に、流石の光も表情が険しくなる事を止める事はでき なかった。﹃八百万﹄とは、神威や鉄、そして神威弐式などで培っ た技術と経験を元に、異世界からの魔法技術や後を託して天に昇っ た戦艦達が残していった装甲を用いて作るという、大幅な次世代機 であり、実験機でもある。 309 武装は神威弐式のようにオプションパーツをくっつけるタイプだ が、基本的なフレームに強力な武装が装着されている。この武装も 草薙の剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉という日本でも有名な三種の神器を 模した武装に加え、背面に可動式マギカノンの4つを標準装備して いる。 草薙の剣はフルーレ達からの魔法技術の大幅な提供により、日本 神話に出てくる通りに広範囲をなぎ払うと言う化け物両手剣になっ ている。風の魔法の付与がなせる再現といえるだろう。無茶苦茶な 武器ではあるが、それもまた実験機ゆえである。 八咫鏡は、﹃八百万﹄の周辺を飛び回るシールドの役割を持つ。 全体を満遍なく覆うフィールドを展開できるほか、鏡の部分限定で 実弾ではない攻撃を反射できるシステムを備えており、文字通り悪 意を跳ね返す鏡である。 八尺瓊勾玉は、敵の周辺に張り付き攻撃を行うビットシステムと して搭載されている。コレにより、草薙の剣を両手持ちしていても 射撃戦が行えるというわけだ。八咫鏡が機体の周辺を飛び回るのも、 両手が塞がるという部分を鑑みているためで。ちなみに同時展開で きる数は6基である。 そして可動式マギカノンは2パターンの動きがある。肩の上から 砲門を出して長射程・高火力の一撃を放つタイプと、逆に腰の左右 から砲門を下ろして、中火力で短射程の連射を行うというタイプだ。 目的に応じて砲門を構える位置を変えることで、むやみに余計な追 加武装を積まなくても対応できるし、機体に装着した追加パーツを パージしても戦闘力を落とさないようになっている。 そんな次世代機&実験機のサポートAIになりたいと言ってきた 310 のだ。光が顔を険しくしないわけが無い。それに││ ﹁いや、百歩譲って貴方達二人があの長門と大和の分体だったとし よう。しかし、AIというものはなりたくてなるものではないのだ ぞ? そもそもAIというものは││﹂ 光がさらに話を続けようとした所で、長門の分体? が扇子をぴ しゃりと畳み、光の声を遮った。 ﹁分かっております、実際に﹃鉄﹄のAIであるノワール様とも何 度もお話をしておりますし、私たちはAIそのものになることは出 来ません。ですので、﹃サポート﹄なのです﹂ いったい目の前に居るこの存在は何をしたいのか? 光は頭をか しげる。 ﹁だから長門、そんな言い方じゃ分かってもらえねえっていってる だろー? そうじゃなくってな、総理、つまりは﹃八百万﹄のコッ クピットの中に、あたし達も乗せて欲しいんだよ。その理由なんだ が、1つはやっぱり新しい物は外から見るだけじゃなく、中からも 見たいってのが本音なんだよ﹂ そういう物なのだろうか? まあ、軍艦ゆえに新兵器と言う者に は非常に興味を持つのかもしれないが⋮⋮。 ﹁見たいといわれても、﹃八百万﹄は量産する予定は全く無いワン オフ機体だ。見せたとしても、長門や大和に配備する事はないぞ? 長門や大和には、すでに神威弐式の配備も決まっているからな﹂ 光がそう念を押すが、大和の分体はパタパタと手を振る。 311 ﹁いやいや、それは分かっているよ総理。そうじゃなくって、一緒 に乗せてもらって共に戦いたいって事がもう1つの理由さ。それに 分体のあたしらが居れば、本体の長門と大和とのつながりが太くな るから、長門と大和本体との連携行動がとりやすくなるぜ? ﹃鉄﹄ のAIであるノワールさんと話をしたんだが、﹃八百万﹄のAIに は一切喋る機能がないらしいじゃないか﹂ 確かに、﹃鉄﹄よりも武装の制御が難しくなっている﹃八百万﹄ の方には、ノワールのようにパイロットへ話しかける機能は無いと、 光の下に機体開発班からの報告は上がってきている。機体や武器の 制御がかなり大変なため、其処までのスペックを盛り込めなかった とのこと。 ﹁そこで、私達が乗り込むのです。それにより話し相手を務める事 ができますし、私達を通じて本体である長門と大和の連携攻撃も可 能になりますわ。コックピットは孤独になりやすい場所ですし、決 して悪い話ではないと思いますが、いかがでしょうか?﹂ 長門の分体? からの話に、光はふうむと考える。実際にコック ピットに乗り込めば通信などが入るとはいえ、確かに孤独である。 だが、﹃鉄﹄にはAIのノワールが話しかけてくるのでそれなりの やり取りがあり、孤独感を感じることはなかったな、と光も自分の 経験から長門の意見はあながち的外れではない⋮⋮と考えた。 ﹁話は分かった。開発班、技術班などと話を交わし、君達2人を乗 せるべきかどうかを判断する。その決定の報告は何処に送れば良い のかね?﹂ この光の質問に、長門の分体? はこのように返答を返した。 312 ﹁はい、それは﹃鉄﹄の中にいらっしゃるノワールさんを通じて教 えていただきます。ですので、結果が出ましたらノワールさんに誰 かが教えてくだされば大丈夫ですわ﹂ との事であった。光は了解の意思を示すために一度頷く。 ﹁じゃあ総理、あたし達は失礼するぜー。今日はいきなり押しかけ てごめんなー。いつまでもここに居たら、総理の仕事を邪魔しちま うもんな。ほら長門、もう行くぞー?﹂ 大和の分体? が、長門の分体? の着物を掴んで引っ張ってい く。 ﹁大和さん、引っ張らないでくださいまし! 着物が台無しになっ てしまいますわ!﹂ そんなやり取りを残し、二人はふっと消え去った。一応念のため にもう一度頬をつねる光だったが、しっかりと頬は痛かった。 ︵まあいい、確かに長門や大和の高火力とダイレクトで連携攻撃が 出来ると言う利点は確かに大きい。今日のお昼辺りにでも、如月指 令と検討をしてみる価値はありそうだな︶ 如月指令にアポの予約を飛ばした後に、光は政務に取り掛かる。 そして如月指令と話し合い、更に開発班と技術班を交えた会議で、 2人の戦艦分体を﹃八百万﹄に乗せる事が決定する。なお、分体の 方はフルーレ自らがチェックを行い、間違いなく長門と大和と同一 の存在であると認定した。 313 ﹃八百万﹄のコックピットには2人の分体専用の小さな椅子が設 置される事になり、彼女達がパイロットとわいわい騒ぎながらもサ ポートを行うようになる。 314 9月7日︵後書き︶ そういうわけで、うちの戦艦の魂はマスコットです。 ハ○見たいな感じで。 315 9月17日︵前書き︶ そっと上げてみる。 316 9月17日 日本が着々と神威弐式を量産している間、諸外国の軍部は大騒ぎ だった。兵器を作るための鉄を何度もリサイクルしてきた訳だが、 それも日本技術者がいなくなったことも影響してもはや限界を迎え ていた。 だからこそサルベージして過去の純度が高い鉄を少しでも得よう と言う手段まで行ったのだが⋮⋮その結果は日本からやってきた鉄 の巨人に船を壊されるわ、肝心の鉄はオカルトめいた現象が発生し て根こそぎ持っていかれるわと散々だった。 ﹁あの国は一体どうなっている!! あの国には何が住んでいると 言うのだ!﹂ そんな事を、多くの外国首脳が叫んだのも無理はないかもしれな い。自分達がやられれば、間違いなく屈するであろう状況下で千年 の時を耐え続け、一転して攻勢に出た途端に奇妙すぎる方法で次か ら次へと引っ掻き回してくる。その上で今回の日本の総理も全く読 めない。 なにせ国連にてあんな演説というか宣戦布告のような事を述べた 上に、銃を構えた相手に向かって威圧だけでトリガーを引かせなか っただけでなく、暗殺するために向かわせた部隊もことごとく無力 化された。 それならばとコンピューターウィルスを用いて全世界に子供達を 飢えさせているイメージ映像を流し、日本の人情と言う部分に訴え、 内部から崩そうと考えたが⋮⋮これを完全にシャットアウトされて 317 しまった事は完全に誤算であった。 多少なりとも日本の内部にもぐりこませることが出来るようにと、 新しいウィルスまで作成して臨んだというのに! と映像を製作し た国の重鎮は悔しさのあまり歯軋りする事になった。 そして、その映像を作った国では⋮⋮ ﹁やはり、現時点でも通信環境はブロックされているのか?﹂ ﹁残念ながら、相手の通信ブロックは完璧のようです。他の国から はこんな卑劣なことを行い、反省しない日本を共に討とうと言う連 絡が入っていますので、あの映像を流した事自体は全くの無駄と言 うわけではありませんが⋮⋮狙った効果が出たとは言い難いでしょ う﹂ 部下である重鎮の1人からの報告に、うーむとうなる国のトップ。 あの映像がほぼ日本に対して不発に終わってしまったのは痛い。ク リスマスに備えて、削れる部分は削っておくのが戦いの基本だ。物 資しかり、兵士の数しかり、そして戦う意思もだ。 たとえどんな道具、どんな技術を生み出しても、扱うのは人間で あると言う部分は変わらない。その兵士の士気を少しでもくじいて おこうと言う作戦だったのだが⋮⋮メインの目的は空振りに終わっ たようだ、とトップは苦い顔をする。 ﹁兵器の製作状態はどうなっている?﹂ 318 ﹁12月頭には製作が完了し、テストを行った後に実戦へと投入で きます。そちらの方は順調です﹂ そうでなくては困る、と状況を報告した重鎮の1人に告げる。異 世界に行くなんてのは狂言にもほどがある話ではあるが、妙な力を 手にした日本が今後世界に対して仕掛けてくる内容が、異世界に行 くと言う表現をするほどに大きい事をやってくる事は間違い無いだ ろう。 千年という長い間、国が奴隷状態になったにもかかわらず潰れな かったあの国を侮るわけには行かないのである。 ﹁とりあえずあの映像で士気を維持し、暴動を抑え込んで12月の クリスマスプレゼント作戦発動まで耐えるのだ。あと数ヶ月を辛抱 し、日本を今度こそ完全に潰して奴隷とすれば⋮⋮全てが良い状況 になるはずだ!﹂ もはやそれだけが、この国の国民を纏め、暴動を抑制する方法だ った。流石に全てを日本人任せにしてきたわけではないとはいえ、 日本人が消えたために生まれた穴は特大で、その穴を埋める方法は 日本人を再び連行して働かせると言う方法以外はなかったのである。 そしてその穴が開いてから既に数ヶ月が経過した。影響は目に見 えるどころか、国民生活を直撃しているのである。安全な水が残り 少ない、食料が足りない、衣服の補充が利かない。衣食住の三大要 素のうち、衣食にぽっかりと大穴が開いた状態なのだから。 ﹁言うまでもありませんが、この作戦が失敗した時は⋮⋮我々も破 滅ですな⋮⋮﹂ 319 部下の言葉に、国のトップは渋い顔をする。あくまでその作戦が あるからこそ国民の大多数はクーデターを思いとどまっているので ある。もっとも、クーデターを起こした所であまり意味がないとい うことを分かっているから、と言う側面があるのもまた事実なのだ が。 ともかく、どうにかして食料の補充や衣類の供給をおこなう為に は、日本人を運用しなければならないという事実がある。日本人が 聞いたらふざけるな! と怒り狂うだろうが、世界の認識としては そんな物である。 ﹁そうならぬ為にも、国を立て直すためにも負けられんぞ。ここで 負けた場合は日本だけが栄え、我々が泥水をすする事になる。日本 は金と労働力を提供するだけの奴隷でいいのだ。我々に楯突く様な ことをせずに居ればいいものを⋮⋮奴隷の癖に人間と言う誇りをま だ捨てていないとはな﹂ 神も日本人のようなモンキーなど、奴隷として生きられるだけで 幸運だと言っておられるのだ。と国のトップは日本人全体を口汚く ののしる。そのトップの言葉に、周りの重鎮も全くですなと同意す る。 ちなみに、この重鎮達の同意はよいしょをしたと言うわけではな く、本心からそう思っているのだ⋮⋮千年という時は、日本人は奴 隷として生きるべくして生まれた存在であると言う考えが世界の主 流である。ただ猿よりは賢いから、色々と使い道がある⋮⋮といっ た感じで。 ﹁とにかく、12月が全ての勝負です。世界の選択を日本に思い知 らせ、二度と立ち上がれぬようにしてやりましょう﹂ 320 重鎮の行った発言に、その場に居た男達全員が頷いた。 ﹁││などと、ふざけた話をあの国ではしておりました﹂ そして、それらの会話は日本の総理直属の秘密部隊である﹃忍﹄ につつ抜けであった。﹃忍﹄に筒抜けであると言う事は、当然なが ら総理である光にも筒抜けであると言う事になる。 ﹁12月24日か。やはり大人しく我々の旅立ちを送ってはくれそ うにないな。我々をののしった挙句、再び奴隷に戻そうなどと考え ているのか。││止むを得んな。血まみれのクリスマスになること は避けられんか﹂ 光はため息をつきながら、椅子から立ち上がり空を仰ぎ見る。 ﹁沢渡大佐﹂ ﹁はっ﹂ ﹃忍﹄の首領である沢渡大佐は、光から名前を呼ばれてすぐに返 答を返す。 ﹁空はこんなに青いのにな。窓から見える木々はこんなに美しいの にな。なのに、今だ人類は同族同士で必要以上の血を流す事ばかり 続けている。あの国のトップは我々を猿などと形容しているようだ が、果たして我々は猿よりも本当に賢いのだろうか⋮⋮なんて事を 考えてしまうね﹂ 光の言葉を、沢渡大佐は黙って聞いている。沢渡大佐にも思うと 321 ころがないわけではない。だが、影働きが多い彼は、あまり意見を 言う事はない。影は上から言われた事をただ守り、実行するだけ。 例外は自国に対して総理が不誠実な行為をとったときだけに行う暗 殺だけだ。 ﹁引き続き、警戒と情報収集を頼む。地球を離れるまでの間はろく に休ませてやることが出来ないが⋮⋮頼むぞ﹂ 光の言葉に、沢渡大佐は深く頷く。 ﹁お気になさらず。今こそが国家の明日を左右する時であると﹃忍﹄ の皆は理解しております。敵の兵器などについての新しい情報が入 りましたら、また報告に参ります﹂ そう沢渡大佐は述べると、その姿を消す。沢渡大佐の姿が消えた 事を確認してから、再び椅子に座る光。 ︵││戦いはやはり避けられんか。話合いも既に無意味。残るは力 と力をぶつけ合い、主張を通すと言った最も原始的な形だけだ。戦 いに使う武器やら道具やらは確かに昔から比べれば進歩した。 しかし、その道具を使って行う行為その物は全く進歩していない と言えるだろう。そして、奴らが仕掛ける気満々の12月の戦争で は⋮⋮たとえ世界が幼子を人の壁として使ってこようと、容赦なく それを殺さなければならない、か︶ カチャッと音を立てて、沙耶から少し前に受け取った通信機材を 光は起動させつつ思考を続ける。 ︵だがそれもいまさらか。平和的な旅立ちなど、始めから望むべく 322 もなかった。この手を真紅に染めてなお、前に進まなければならな い時なのだから⋮⋮迷う余地など無い。 たとえ悪鬼羅刹と蔑まれようと、未来の日本の子供達のために、 明るい未来を残す。それが総理、いや、一人の大人としての義務だ な︶ 沙耶との通信が繋がり、沙耶の声が通信機材から流れ始め、沙耶 の姿がスクリーン状のものに映し出される。 ﹁光殿、そちらから呼びかけてくれるとはうれしいのう。今日はど うしたのじゃ?﹂ 沙耶の問いかけに、光は変に格好を付けるような真似はせずに話 せる範囲で心境を吐露した。そして、幼子を最悪手にかけねばなら ないかもしれない事も沙耶に話す。 ﹁必要な事なのはわかっているのだが、幼子を手にかけるというの はやはりな⋮⋮心が重いと言うのが正直な所だ﹂ そんな光を見た沙耶は、そうじゃのう⋮⋮と前置きをした後に話 を始める。 ﹁その気持ちは痛いほど分かるぞえ。じゃが、やはり国を護るため には非情にならざるをえぬ時もある⋮⋮のは心得て居るのじゃろう ? 安心せい⋮⋮光殿のことを、わらわはそんなことをしても嫌い になったりはせぬよ⋮⋮それに、訳もなく他者を傷つける男ではな いと、わらわは信じておる。 しかし、光殿の周りを取り巻く敵国の話はわらわも聞いておるが 323 の、そのような幼子を盾にしかねぬ外道ということかのう⋮⋮﹂ 光の表情から、沙耶の方も大体の状況を察したようだ。 ﹁色々と話せぬこともあるじゃろうが、話を聞くことはわらわにも 出来るぞえ。お互い立場がある故に周りに心境を吐露できぬのは苦 しい所じゃが、わらわならばそれなりの立場ゆえ話を聞いても問題 は少ないじゃろ。 もちろん国の機密を話されるのは困るがの、愚痴を聞くぐらいの 甲斐性はわらわも持っておる。そして話をするだけでも人の心と言 う物は楽になるものじゃ。いつでも話しかけてきて構わぬぞ﹂ 光はふうーっ吐息を吐き出し、沙耶にすまん、感謝すると告げ、 沙耶はそんな堅苦しくせずともよいぞ? と微笑を向ける。 この日、光は沙耶と会話をした事で、自分が自覚できていなかっ た部分のストレスがかなり解消し、翌日の政務を活力的にこなせる ようになった。そして沙耶の方も、光の声を聞いたことにより翌日 は終始機嫌がよかったそうである。 324 9月17日︵後書き︶ 牛歩状態が続いております︵苦笑︶ 325 9月26日︵前半︶︵前書き︶ 体調が戻ってきてるので、こっちも一回更新更新。 326 9月26日︵前半︶ ﹁では皆様、現時点における神威二式の生産状況、およびパイロッ トの育成状況についての報告を行います﹂ 本日の日本&異世界組合同会議では日本側の主力となる神威二式 の生産状況、およびパイロットの育成状況が発表される。日本側は もちろんだが、異世界側も非常に注目している話の一つである。 自分たちが提供したあまり使えない技術とされていたゴーレム技 術や重力系魔法の技術が、この日本と言う国によって大きな変化を 起こした戦闘用機体の存在には注目が集まっている。それだけなく、 日本側にまだ伝えていない事の一つである異世界側の危機に対抗で きる手段となりうるのではないか? と本国からも密かに期待を集 めている存在となっている。 ﹁生産状況ですが、神威二式は予定配備数の3割程度、神威零式は 4割程度となっております。神威二式は最前線で戦う事が前提とな っておりますので、生産されたパーツの品質がトリプルSランクで ない限り組み込まれないようにしております。 そのトリプルSランクに満たないパーツで作っている神威零式の 方が、どうしても数が先行して増えやすくなっている状況になって しまっているのはご了承ください﹂ これはやむを得ない事である。いくら技術者が努力しても、常に 最高品質を叩き出し続けるのは不可能である。後方支援メインとは いえ戦場に出る零式の方に回せる品質なのだから、決して質そのも のが悪いわけではない⋮⋮それぐらい厳しくパーツのチェックが行 327 われているという証拠でもある。 ﹁そのペースなら12月までには間に合いそうだな⋮⋮その調子で 頼む。残念ながら、無血による綺麗な旅立ちという訳には行きそう もないのでな﹂ 光の発言に、発表を行っている神威生産責任者は﹁心得ておりま す﹂と返答を返し、次の話を始める。 ﹁そしてパイロットの育成状況ですが、自衛隊のメンバーでも特に シミュレーションで好成績を上げたメインパイロット候補メンバー が出そろいつつあります。神威二式がもう少し数をそろえた所で、 実機に乗せて順次訓練を行わせていく予定です。 また、この訓練の際には神威二式の元であるKAMUIの乗り手 である西村パイロットに教官として動いてもらうつもりです。彼は 若いとはいえはるかに長い訓練を受け、さらに実戦も行っておりま すからな﹂ 7月の頭に日本に向けてやってきた艦隊を、一人と一機で戦って 生存者ゼロの戦果を挙げた西村少年なら適切か、と光は考える。 それでもその若さから侮る者が出ないとも限らないが⋮⋮その時 は総理である自分が西村少年の戦果を発表し、実戦経験があるから こそ教官に据えたと発表すればいいだろう。もっとも、実力がある かどうかは一度直接戦えばわかることだ。それを証明することがで きる実力を西村少年は持っている。 ﹁また、一般公募による神威零式パイロットの募集状況ですが、す でに国民の4割以上が男女の差なく応じており、募集を打ち切りま 328 した。人数を絞るためにあえてゲーム大会の様なトーナメント方式 にして、ふるいにかけます。トーナメント中の神威零式が戦闘する 姿も公開し、選ばれたメンバーに納得がいくようにします﹂ 神威零式は二式よりも数がそろう事になるとはいえ、無数に提供 できるわけではない。国民の4割以上が今回の公募に応じてくれた ことはうれしいが、物資の量と時間ばかりはどうしようもない。 ﹁ちょいといいですかい? 神威二式と零式の能力差はどれぐらい になるんですかい?﹂ ここで異世界側の部隊長である男性から質問が上がる。 ﹁質問にお答えします。神威二式を100と仮定しますと、神威零 式は75∼85ぐらいの力になります。これはパーツの品質にばら つきが出るため、特定箇所に負荷がかかりすぎて自壊しないように 全体の能力を抑える設定にするためです。 それでも後方からの射撃支援、いざと言う時の格闘武器に持ち替 えての近接戦闘などは十分にこなせます。さすがに最前線に出すに は少し不安が残りますが、異世界の皆様からもたらされた魔法技術 による新しい防御フィールドも積むことができますので、最悪の場 合はある程度の前線に出すことも可能ではあります﹂ この責任者からの発表に、なるほど、とか、それぐらいの力はあ るのかといった声があちこちから上がる。 ﹁また、二式限定ですが宇宙空間でも戦闘可能となっています。宇 宙空間における戦闘の発展はまず無いと思われますが、こんなこと もあろうかとと言う言葉は、不思議といい展開を呼ぶことが不思議 329 と多いのでそのように二式は生産されております。 宇宙空間ですら行動可能であれば、戦場で過酷な展開を迎えても 耐える事が出来る可能性が高まるという一面もあります。当然です が、二式が展開できる防御フィールドは零式の物よりはるかに強力 です。極端な話になりますが、フィールドを張ってタックルする戦 闘方法を取れるほどです﹂ ゲン担ぎと、現実面のすり合わせによりそうなったのなら良いか ⋮⋮と光は一人で納得する。それにそれだけ頑丈であるなら、パイ ロットの生存率はかなり高まるだろう。 戦場に送り出すという面から考えると甘いのかも知れないが、一 人でも多くの人が生き残ってほしいと考える光には、こういうゲン 担ぎを兼ねた機体の能力向上は喜ばしい。 ﹁宇宙と言うと⋮⋮月や星があるこの星の外の世界ですよね? そ んな場所ですら戦闘行為が可能であるというのですか!?﹂ ここで突如、異世界側の部隊長の一人である女性が心底驚いたよ うな声を出す。どうやら、異世界側の人達にとっては完全に予想範 囲外の話だったようである。 ﹁はい、その宇宙と言う認識で間違いありません。異世界の皆様か らによる多量の物資提供により、それだけの性能を二式限定ではあ りますが備えさせることに成功いたしました﹂ その一方で責任者は苦労しましたがと言う雰囲気は漂わせつつも、 事実ですと言う態度を崩さなかった。 330 ﹁す、すみません! 今の話を本国に報告してもよろしいでしょう か!﹂ ここでこの会議一番の大きな声を上げたのはフルーレだった。日 本側のメンバーは一体何事だ? と訝しげな顔をフルーレに一斉に 向けてしまう。 ﹁理由を教えてはもらえないだろうか? 宇宙空間での戦闘が可能 であると、そちら側としては何かしら都合が悪いのだろうか?﹂ フルーレの大声で会議が一瞬硬直してしまったので、再度動かす ために光がフルーレにそう問いかける。フルーレはしばし困惑して いたが、観念したように口を開く。 ﹁││実は、私達の世界にも問題があるのです。事前に申しあげて きた人口減少問題もそうですが、もう一つの問題として⋮⋮神から の試練と私達が言っている現象⋮⋮こちらの皆様が分かりやすいよ うに言えば無数の小さなメテオが30年から50年の周期で降り注 いでくるのです⋮⋮﹂ この話を聞いたとたんに、ガタッ!! と椅子を跳ね飛ばして立 ち上がる日本側の大臣が数名いた。 ﹁そんな大事なことをなぜ今まで黙っていたのですか!!﹂ そして大声でフルーレを非難する大臣までいるが⋮⋮すかさず光 は手をスッとだして、大臣を諌める。そしてフルーレに視線を向け、 話の続きを行いなさいと目で指示を飛ばす。 ﹁││もちろん皆様の転移先は、我々の歴史と記録が残っている限 331 りになりますが⋮⋮一度もメテオが落ちたことがない海上のある場 所に設定されております。私達の世界に転移が成功した後には、メ テオの被害が出る区域にいる人達を避難させておける場所として日 本皇国の皆様には協力をお願いするつもりでした﹂ フルーレが状況の説明を行っていく。とりあえず転移先はきちん と考えられていたことを受けて、激高した日本側の大臣達もひとま ず椅子に座りなおしている。 ﹁私達も何にもしてこなかった訳ではありません。魔法による迎撃 やバリアによる防衛を何度も行ってきました。ですが⋮⋮メテオの 威力はすさまじく、被害を完全に食い止める事は残念ながら一度も できませんでした。 もちろん毎回メテオは街などに落ちるわけではなく、大半は海に 落ちます。ですが、次回のメテオ落下予測は⋮⋮約2年後の我が国 マルファーレンス帝国の首都⋮⋮なのです。何度も予測などをやり 直しましたが、ほぼ間違いないという結果が出ております﹂ フルーレの告白に、会議場⋮⋮特に日本側がしんと静まり返る。 異世界側も悔しそうに唇を噛んだりしている者がいる。 ﹁言うまでもありませんが、首都ですから当然大勢の人が住み、多 くの人々が商いや生産を営んでおります。逃げて生き延び、祖国の 首都が崩れ落ちるのを見る位なら、首都と運命を共にするとまでい う人も多数おりまして⋮⋮ 実は我が父も運命を共にしようと考えている一人です。俺がいな くなっても、お前がいれば国の象徴になれるから問題はないだろう と言って聞かないのです⋮⋮﹂ 332 ここまでのフルーレの話を聞いて、なるほどと頷いたものが数名。 光や神威の生産責任者などである。 ﹁つまり、だ。フルーレ達はその2年後に来るメテオの新しい対処 法として、今こちらで作っている神威シリーズに期待を寄せている 訳だな? そして宇宙空間にまで出撃できれば、勢いがつく前のメ テオを攻撃して粉砕し、地面に落ちる前までに燃え尽きるようにで きるのではないか? と考えてもおかしくはない。 だからこそ、首都が助かる可能性がある事を本国に伝え、諦める なと励ましたい⋮⋮と言った所かね?﹂ 光の言葉を聞いたフルーレは、その通りですと静かに頷いた。 333 9月26日︵前半︶︵後書き︶ 異世界側のもう一つの問題がここで明らかに。最初の予定では人 口減少問題とメテオに対する安置を得る事が目的だったのですが、 日本人が神威を製作し始めたことを受けて、あの鋼鉄の巨人ならも しかしたら⋮⋮の期待がひそかに異世界メンバーの中で高まってい ました。 そして今回の宇宙戦闘が可能と言う話でとうとう我慢できなくな ってしまったという感じですね。異世界に転移した後は、このメテ オとの戦いに向けての準備や、国同士を知ることなどがメインにな るため、結局光はまだまだ休めないですね。 334 9月26日︵後半︶︵前書き︶ 後半部分です。 335 9月26日︵後半︶ いったん静かになる会議場。そんな中、光は再び口を開く。 ﹁ふむ、もう少し突っ込んだ話を聞きたい所だな。君、神威に関す る話でさらに報告するところはあるかな?﹂ 光がそう神威生産責任者に問いかけると、責任者は﹁あとは細か いパーツやオプション武器も生産が進んでいるといった程度ですね﹂ と返答する。その言葉にうなずいた光は再びフルーレに視線を向け る。 ﹁メテオ⋮⋮まあ隕石だな。そんなものが地表に降り注げば被害が 大きいという事はこちら側でも理解できる。だからこそ落ちてくる 隕石の大きさや規模、そして落ちてきた回数やその歴史などを教え てはもらえないだろうか? 話はやや先になるとはいえ、やってく ることが確定している事なら対策を話し合うことは無駄にはなるま い﹂ 光の言葉に、ざわめく異世界側の部隊隊長達。 ﹁ひ、光の大将。本気で⋮⋮本気であっしらを苦しめてきたあのく そったれなメテオと、本気でやりあうおつもりなんですかい!? 恥ずかしい話ですがね、あのメテオはあっしらが数千年にわたって 対策を考え、そして生み出した防御魔法でやっとある程度軽減する のが精一杯だったんですがね⋮⋮因みに、落ちてきた回数は記録が ある約3000年間で68回ほどで、一回ごとに数十個ほどがやっ て来やすぜ⋮⋮不運な時は数百個だったと言う記録もありやす。後、 なぜか地表に落ちた隕石は人を殺し物を壊すことはしても、大地や 336 自然を大きく壊すことは何故かしやせん﹂ 異世界側の意見を代表して、2番部隊隊長のガレムが光に疑い半 分、期待半分の視線を向けながら言う。 ﹁成程、それは厄介だな。しかし、どうにかできる可能性があるの なら、戦うべきだろう。だからこそ話を詳しく聞きたいのだ﹂ そんなガレムの視線を、光はあっさりと受け流しつつ答える。こ の光の発言に再び異世界側からざわめきが起こるが、ここでフルー レが再び口を開いた。 ﹁分かりました、お話し致します。私達は定期的にやってくるメテ オの群を?神々からの試練?と、半ば恐れを込めて言っております ⋮⋮﹂ フルーレからの話を大まかに纏めると、こうなる。 ││かつて、フルーレ達の世界は血で血を洗う戦国時代があった。 すべての大地を我が物にし、統一しようとたくらむ国家が戦争を引 き起こし、倒した国家の領土を吸収し⋮⋮他の国家も負けじと戦争 を引き起こして国土を広げ、対抗できるようにしていった。そして 最終的に残ったのが、マルファーレンス帝国とフォースハイム連合 国、フリージスティ王国の3つだった。 ここからはさらに面倒な巴戦に突入する。どこかを攻めればどこ かに攻められる。戦闘方法も得意とする技術も全く違うこの3国に 共通していたのは、当時の各国がもうこの辺でいい加減に手打ちに して、戦争の日々を終わらせようという思考を一切持っていなかっ 337 た事だろう。隙あらば他の国を潰し、我らががこの世界の覇者にな ると言う夢を捨てる事がなかった。 同盟、そして裏切りが幾度となく繰り返され、どこかの国が滅び ることなく睨みあいと戦争は続いた。そんな状況が数百年続けてな お戦いをやめぬ3つの国に突如、天より隕石が降り注ぐ。その隕石 は当時戦争が行われていた場所に直撃するように落ち、その場にい た兵士や指揮官を一人残らず殲滅した。変な偶然もあるものだ、と その時は考えられていたのだが││。 その後、幾度となく隕石は大体30年から50年の周期で降り注 いだ。それは戦場だけでなく、3つの国のあらゆる箇所に。当然ど の国も大きな被害を被ることになり、戦争によって減った国力を回 復することができなくなっていった。 これにより、3国は初めてとなる停戦協定を結ぶことになる。当 初は国力が回復次第すぐにでも協定を捨てて戦争を再開しようとど の国も目論んでいたらしいが、その後も定期的にやってくる隕石に よりそれどころではなくなる。 結局この停戦協定が、そのまま終戦協定になり、そして和平協定 になっていった。それでめでたしめでたし、となればよかったのだ が⋮⋮隕石が一定周期で降る現象は終わらなかった。 戦争が終わったのに、なぜ天は、神は我々を許さないのだ? そ の疑問はやがて、今まで戦争を繰り返して来た事による罪であり、 この隕石をすべての国家が協力して乗り越えよということではない だろうか? と言う意見に変わっていったらしい。 和平を結んだとは言え、長い戦いによる疑いや恨みの感情はどの 338 国にもあったが、だからと言って手を取り合って協力せねば隕石で 滅びてもおかしくはない。最初はいやいやながらも生き延びるため に手を取り合った。 それが永い時間の流れにより、素直に協力できる間柄へと変わっ てゆき、隕石に対してある程度の対策も取れるようになっていった ⋮⋮が、あくまである程度止まりであり、メテオが落ちる場所が地 表だった場合は大きな被害が出る事を食い止める事があまり出来な かった。 それでも諦めることなく新しい方法を模索していたが⋮⋮いよい よ手詰まりになり始め、この神々からの試練にはどうしようもない のかと言う空気が漂い始める。そんな状況下で更なる問題が発生し ていることが確認される。その問題と言うのが⋮⋮3国すべてに出 生率の低下が起き始めていた事だった。 解決策を探った結果、新しい血︵この場合は遺伝子︶を取り入れ なくてはならないという結論が出たために、異世界に救いの可能性 があると信じて探し始め、そして時間がかなりかかったがようやく 発見した。そこが⋮⋮ ﹁そうして見つかったのが地球であり、日本皇国であったという訳 です⋮⋮﹂ 永い話を終えたフルーレが、お茶を口にして一息ついた後に続け る。 ﹁そしてメテオの大きさですが、一つ一つの大きさは直径が15メ ートル程なのですが⋮⋮妙なコーティングがされているらしく、星 を覆う空気の層に突っ込んでも燃えず、朽ちず、そのままの大きさ 339 で落ちて来るのです。また、そのコーティングの影響で魔法の効き がかなり悪くなっています﹂ 15メートル程度の大きさなら、普通は大気圏内で燃え尽きそう だが⋮⋮そうならないように変な事がされているという事か。厄介 だな⋮⋮と日本側の代表者たちは考える。 ﹁すみません、質問です。その隕石⋮⋮メテオに対して、直接攻撃 を仕掛けたことはあるのですか?﹂ そんな質問が日本側から飛ぶ。その質問に対し、男性の部隊長が すぐさま返答する。 ﹁はい、幾度となく挑戦したという記録が残っています。そして⋮ ⋮ほぼすべてが失敗に終わったと。数少ない成功例⋮⋮とは言えな いのですが、ある時代における稀代の天才魔法使いが、自分の魔力 だけでなく命まですべてを振り絞ってある街に落ちてくるメテオの 迎撃を試み、多少ではあるが迎撃に成功したという事実自体はござ います﹂ 異世界側の人達にとっては有名な話らしく、誰もが頷いたりして いる。 ﹁その結果ですが、落ちてきたメテオをある程度消し飛ばし、住民 が避難していた都市部中央だけは守り抜いた様です。これは事実な のですが半ば伝説として、その都市では命を振り絞って住民の命を 救った魔法使いは英雄扱いをされています。魔法使い本人は、その 魔法を撃った数分後に息を引き取っており⋮⋮その魔法は”ガーデ ィアン・オブ・ライフ”と言う名の自己犠牲魔法として名が残され ています﹂ 340 そこで一度話を区切った男性部隊長は、一呼吸おいてから話をさ らにつづけた。 ﹁その魔法使いの最後の言葉ですが﹃あの、あの星と同じ場所で戦 えれば⋮⋮落ちる勢いがつく前の星に攻撃できれば⋮⋮きっとこん な悲劇は防げるのにのう⋮⋮神は我々にどこまで試練を課すのじゃ﹄ と言い残したとされています。その方法はそれからずっと実現に向 けて長い間研究されてきましたが⋮⋮我々の力では今まで実現する ことが出来ませんでした﹂ だからこそ、貴方がたが言う宇宙⋮⋮この星の外にある星々の世 界でも戦えるといった日本皇国の発言に驚き、希望を持ったのです と男性は話を締めくくった。 ﹁成程、貴方達もそんな背景があったわけか⋮⋮念のために確認す るが、宇宙空間での戦闘も神威二式限定とはいえ可能という事は間 違いないんだな?﹂ 念を入れて光は神威生産の責任者に確認を取る。 くろがね ﹁はい、もう一度申し上げます。神威二式に限ってですが宇宙戦闘 は可能です。また、西村大尉が駆る初代神威や総理が乗る黒も宇宙 戦闘が可能です。私の命にかけて、それは事実であると宣言させて いただきます﹂ この発言に沸く異世界組。彼らにとっては?神々からの試練?に 打ち勝てる可能性が出てきたのだからこそ無理もない話だろう。ま た、西村少年は大尉として扱われるようになっていた。ある程度の 箔付けもないと、いろいろと面倒事が起こるからそうなったのだが。 341 こうして、異世界側に?神々からの試練?に立ち向かえる可能性 がある力がこちら側で生まれたという事が報告され、日本皇国に対 する期待と、転移してくる日を楽しみにする人がさらに増える事に なった。あの試練に立ち向かう事が出来る力とはどんなものなのか を話し合う人が急増し、日本人が全く知らないところで、日本皇国 の地位がより高まった瞬間であった。 342 9月26日︵後半︶︵後書き︶ 軽い異世界側の歴史説明回でした。 343 9月27日 ︵こちらは長きにわたる奴隷化による苦しみを、あちらは神々によ る試練に加えて出生率低下と言う命のつながりに危機を。双方とも にその苦境を切り開き未来を見る事が出来るための協力者を欲して いた、と言う事になるのか︶ 異世界にはメテオによる脅威があるという新しい情報が告白され た翌日。光は異世界の3か国の象徴と国家元首を交えた緊急会談を 行っていた。言うまでもないが、これは国家の象徴とされているガ リウス、フェルミナ、沙耶だけではなく、実際に政治のかじ取りを 行っている最高責任者である国家元首との初会談でもある。 ﹁││という事で、昨日の事ではありますがそちらの状況を伺いま した。詳しい話や対策を話し合うのは、こうして話し合いができる 以上一刻も早く行うべきと考えまして、本日はお願いをさせていた だきました﹂ 光はそう言葉を発し、頭を下げる。その光の言葉にいち早く反応 したのがフリージスティ王国国家元首の男性。 ﹁いえ、本来であればもっと早くお伝えすべき事を話がまとまらず にお伝えしなかったことはこちら側の落ち度であります。誠に申し 訳ない。また、フルーレ将軍からお話を聞いたという事は、日本皇 国の転移予定地は神々の試練にて降り注ぐメテオが一度も落ちた記 録が無く、いざと言う時は避難所として各国の避難民を一時預ける 場所として頼らせてほしいと言う話も伝わっておりますか?﹂ この言葉に、今度は光が頷く。とりあえず危険な場所に転移させ 344 るような真似をする訳ではないという事が変に曲解されず無事に伝 わっていることを確認した異世界側の各国の国家元首はホッとした 表情を一瞬浮かべていた。そして次に口を開いたのはマルファーレ ンス帝国の国家元首だ。 ﹁そしてさらに、日本皇国は神々の試練と戦う事が出来る可能性を 持つと報告を受けています。本当に、あの星々の世界に飛び立てる のでしょうか? ある程度の情報はこちらも入手しているのですが ⋮⋮﹂ この質問が出て来ることを予想していた光は、突貫工事で神威、 ならびに神威二式の性能を実際に動画で説明することが出来るよう にしていた。技術者たちには少々無理をさせてしまったが、言葉よ りも実際に行った戦闘風景や起動時の動画を交えて話をした方が早 いからだ。 ﹁それについては、まずはこちらをご覧ください﹂ そして、最初に西村大尉が乗った神威一機が多数の軍船を相手ど って一方的に薙ぎ払うあの動画を元に説明をする光。 ﹁この鉄の巨人⋮⋮神威と我々は名づけていますが、この機体を駆 り、神々の試練に立ち向かうために星々の世界へ直接出向くことを 考えています﹂ 戦闘風景の合間合間で動画にストップをかけ、細かい説明に移る 光。 ﹁このように、手は人間と変わらぬ5本指です。故に物をつかむ、 道具を扱うと言った行動が可能となっています。そしてこの巨体な 345 らば││﹂ 次々と神威が銃を乱射し、薙ぎ払っていく光景を見せた後に光は 言葉を続ける。 ﹁このように、体躯に合わせた巨大な武器も軽々と扱えます。つま り、人のみでは扱う事が不可能な武器を用い、星々の世界にてメテ オに直接魔法に頼らない大火力の銃撃を浴びせる事により、特殊な コーティングがされているという隕石を砕き切ることが可能である と考えています。フルーレ将軍からも直接伺っておりますが、この コーティングのせいで、魔法の効果は大幅に落ちるそうですね。逆 にいえば、魔法と摩擦熱﹃以外﹄であればほぼ無防備なのではない か? と我々は考えました﹂ 燃えずに落ちるという事は、摩擦熱に対する抵抗は高いとみるべ き。それは当然日本の技術者から上がってきた意見だ。破壊するた めには熱以外の方法で行う必要がある。そういったことを踏まえて 行われた光の説明であったが、各国の国家元首は神威の姿に圧倒さ れたらしく⋮⋮ ﹁も、申し訳ない。もう一度始めから通しで先程の画像を見せてほ しい!﹂ と頼まれていた。そして動画が再生されると、食い入るように見 つめている様子が簡単に伺えるほどに見入っている。 ﹁これは⋮⋮ゴーレムの一種⋮⋮と表現するべきなのでしょうか?﹂ 数回にわたって神威の戦闘シーンを見ていたフォースハイム連合 国の国家元首が口を開く。確かに異世界から見れば一番近いのは製 346 作して動かす点でゴーレムという事になるだろう。 ﹁実は⋮⋮この機体にはあまりゴーレムの技術は使用されておりま せん﹂ 光の発言に、どよめく異世界の国家元首。 ﹁この機体に使用されているのは主に重力制御系統の魔法ぐらいで すね。そちらの皆様からゴーレム技術を提供していただき、量産が 行われているのはこちらの神威二式、そして零式となります﹂ 更なる動画を、光は異世界側の国家元首達に提供する。そこに映 っている神威二式と零式は間違いなく異世界の技術と日本の技術の 組み合わさった結晶である。 ﹁二式は最高のパーツのみを用い、零式はそれに見合わなかったと はいえ、十分実戦使用に耐えうるパーツを組み合わせて作った機体 です﹂ 光の補足を聞いた沙耶が、ここで次の質問を投げかけてきた。 ﹁光殿。先ほど量産とおっしゃっていたが、どのぐらいの数ができ るのかのう? 大体30体位かの? これだけの巨体じゃ、こちら か提供した資材を用いても数を作るのは大変ではないかのう?﹂ この質問に、光は沙耶を始めとした異世界がの人々にとっては予 想以上の答えを返すことになった。 ﹁いえ、当初は30機ぐらいの予定でしたが、皆様から資材の支援 が大幅にあったおかげで今は神威二式を100機近く、零式はそれ 347 以上作られる予定になっております﹂ 当初は30機が限界だったのは間違いない事実だ。しかし、異世 界からの資材提供により作れる数が跳ね上がった。何せゴーレム1 体を生み出す資材で、神威が数機ぐらい作れるほどの量だったのだ。 言い方は悪くなるので異世界側に光が言う事は絶対にないが、ゴ ーレムはその質量がそのまま耐久力になっていた一面があったので ぶっちゃけると非常に無駄な部分が多かったのだ。そんな無駄を削 り、有効活用するのはが少なく苦しめられてきた歴史を持つ日本人 ならば真っ先にメスを入れ、改善を図る部分である。そのため、神 威の生産できる数が最初の予定から一気に跳ね上がることになった のだ。 ﹁100機だと!? この鉄の騎士が100機以上生まれ、そして 神々の試練に真っ向から立ち向かうのか! フッ、フフッ⋮⋮ガー ッハッハッハッハッ! こんな騎士が生まれることなど神でも読め まい! 読めるはずもない! まさかこれだけの強大な騎士が我々 とは全く違う世界で生まれ、神の試練に立ち向う事になるなどとは ! 実に、実に愉快だ!﹂ そんな豪快な笑い声を上げるガリウス。そのガリウスの笑い声に つられるかのように、異世界側の国家元首たちの表情にも変化が現 れる。その表情にタイトルをつけるとするならば﹃希望﹄だろうか。 特に国家の象徴であるガリウスがメテオが降ってきてもその場にと どまると宣言しているマルファーレンス帝国の国家元首は、より明 確にその表情を変化させていた。 ﹁光様、これらの機体は私達が自然災害などで困った時にも手助け して頂けるのですよね?﹂ 348 ひとしきりガリウスが笑い終えた後、静かな声でフォースハイム 連合国の象徴であるフェルミアがそう光に質問を投げかけた。 ﹁もちろんです。あくまで神威は日本皇国や皆様の国にやってきた 困難に立ち向かう力であり、自ら望んで殺戮を行うような愚かしい ことに使うつもりはありません。そして土砂崩れや地震などの災害 が発生した時には現場に急行し、物資の運搬、人命救助などを行う 事は視野に当然入れております。手先が器用であるが故に、災害救 助の一つとしてできる事も多いですからね﹂ そうフェルミアに返す光。戦闘にしか使えない物では悲劇しか呼 ばない可能性が高い。だが、人助けにも使えるのであれば⋮⋮それ は人の笑顔を生み出せる。悲劇を回避できる。ここで再び口を開い たのは沙耶である。 ﹁光殿、今だからこそ正直に言ってしまうがのう⋮⋮これ作ると聞 いた当初は、これほどまでの物が出来るとは夢にも思えんかった。 比べるための材料が鈍重なゴーレムという事もあったがの、あくま で予定は予定で、完成すれば性能はかなり落ちる、あくまで乗り込 む事で即死せずに戦える程度と考えておった。ところがじゃ、蓋を 開ければとてつもない鋼鉄の騎士が生まれおった。そして最初の予 定通りにあらゆる場所での戦闘を可能にしてくるとはの⋮⋮﹂ 沙耶を始めとした異世界組から考えればは当然の意見だろう。異 世界側で人型の動く存在と言えばゴーレムであり、そのゴーレムを 基準として考えるのは自然な事。だが、実際に日本側から正式に戦 闘する姿を見せられ、その上で当初の予定通りの性能を発揮できる となれば驚くのは当然だ。 349 あくまで設計図や話の上でこういう予定になっていますと言われ ても、それはあくまで﹃予定﹄でしかなく、期待をするには説得力 がない。その後から色々と事情が入った結果、スペックダウンさせ ることはよくある話だ。 だが、日本が作った神威二式は、予定されていたのスペック通り に設計された上に宇宙空間での戦闘も可能とした。それがはっきり と国のトップから宣言されたことは非常に大きい。異世界側の淡い 期待が、本日の光の発言によって大きな期待に変化したのも無理は ないだろう。 ﹁そちらに伺えば、私達もその世界の住人となります。だからこそ、 我々の力で協力できる部分は最大限に努めさせて頂く。その覚悟を 言葉ではなく、行動を持って証明するための神威二式と零式です﹂ 光の言葉に拍手が沸き起こる。守られるだけでは居られないとし た光の決断、下地を作り上げていた光陵重化学の努力。この二つが 異世界側に大きな希望をもたらすことになったのである。 350 9月27日︵後書き︶ かなり一話一話を作るのに時間がかかるようになってきました。仕 方ないんですけどね・・・。 351 10月4日︵前書き︶ 久方ぶりの更新です。 352 10月4日 ﹁これが世界の出した最終結論か。予想はできていたしやっぱりな という気持ちでもあるが⋮⋮やはり苛立ちは隠せんな﹂ ﹁はい、残念ながら。こちらの資料にある通りです。どうやっても 我々を諦めきれない様ですな。全くもって腹立たしい限りですが﹂ 異世界側との会議が終わって数日、暦は十月に入っていた。日本 が異世界転移をするまで二か月を切った訳であるが⋮⋮日本の転移 時期が迫ってくるとともに、世界情勢には世界規模の戦争が始まる 嫌な匂いの様な物が強まっていた。 ﹁備えあれば憂いなしと考えてもいたし、お前達﹃忍﹄から入った 今までの情報も吟味していたが⋮⋮やはり、戦場に多くの者を送ら ねばならん。この運命はどうあがいても変えられんか﹂ 光はそうつぶやき、ため息をつく。なぜならこの日沢渡大佐によ って持ち込まれたのは、世界側のいわば日本侵攻計画書、その完成 版だったからだ。もう戦争が起きず、静かに異世界に移住すること ができるという可能性はこの時点で完全になくなったのである。も ともとゼロに近い可能性ではあったが、それでも可能性があるのと 完全に消えたとの違いはかなり大きい。 ﹁仕方がありません。世界のわがままを何時までも聞き続けるよう な訳には行かないのです。それに、今回は時間を稼げば国ごときれ いさっぱり逃げきる事が出来と言う一面があるのですからずっと良 いでしょう。我々のご先祖様は﹃奴隷になるか戦って負けるか﹄し か選べなかった戦いに向かわれたのですから﹂ 353 ﹃忍﹄の沢渡大佐は、そう光に言葉をかける。念を押しておくと、 このご先祖様の戦いとは第二次世界大戦の事である。 ﹁そうだな、そう考えれば今回の状況ははるかに良いと言える。幸 い今なら世界を相手取っても十分にやり合える戦力は整いつつある 状況にもなっている。この計画書からしても、十二月にならなけれ ば大がかりな侵攻は無いとみていいだろう。もし小規模で何処かが こちらにちょっかいを出してきた場合は、西村君に活躍してもらお う。もう神威を隠しておく必要もないからな﹂ 幾らバリアがあるとはいえ、全く反撃しないと言うのはいろいろ と問題がある。もっとも世界の資源状況や弾薬などの量から予測す れば、そんなちょっかいを日本に掛ける余裕はないだろうが。 ﹁では沢渡大佐、十二月までは世界のあらゆる情報を﹃忍﹄に継続 して集めさせるように動いてほしい。もっとも、こんなクリスマス に引っ掛けた分かりやすい計画が持ち上がっている以上大きく動く ことは無いだろうが、念には念を入れてな﹂ 光の言葉に、﹁はっ﹂とだけ声を発した沢渡大佐は姿を消す。そ うして執務室に一人になった光は溜息を吐く。 ︵分かってはいた。世界情勢から考えれば戦争は避けようがない事 は重々理解していた。だが、それでも血を出来る限り流したくはな かった。他の者に知られれば﹃甘い!﹄と怒られるだろうが。しか し今日、こんなものを見てしまった以上は相応の結果を出す事にし よう。向かってきた敵はすべて殲滅するという結果をな︶ 目を覆いたくなる光景が繰り広げられることになるだろう。多く 354 の命が消える事になるだろう。それも、世界にあると思われる現行 兵器では神威二式や零式の装甲をまず抜くことができない以上、一 方的な虐殺になるだろうとも。だが、未来は常に変化するものであ り、最終結果が出るまではどうなるかは誰にも分からない。 ︵フルーレ達が展開してくれたバリアのお蔭で、暗殺がないと保証 されているだけでも気はかなり楽だがな。期待はあってもパイロッ トを暗殺されてしまってはどうしようもなくなってしまう可能性が 否定されるというのはありがたい︶ 敵国の兵器を動かさないようにするには、起動前に破壊、パイロ ットを始末、燃料を消失させると言った手段がある。だがどの方法 も敵国に忍び込む事が出来なければ不可能であり、その忍び込むと いう手段は異世界側が日本に展開したバリアにて完全に封じられて いる。念のために異世界組にも日本の周囲を見回ってもらっている が、新しく侵入された形跡は無しとの事だ。 ︵それに、前回の会議で判明した異世界側の問題に対して、転移後 は日本皇国となる我々がより貢献していけるように土台を整えねば ならない。国民への発表、そして襲い掛かってくる隕石への対応。 こんな所で躓いている時間はない。何せ転移した二年後には容赦な くメテオが降ってくると確定しているようだからな︶ そう、こんな所で止まっている時間は全くない。異世界に転移し た後も外交問題やら隕石への対応やら、その他にも予測できない色 々な面倒事が舞い降りてくるのは間違いないだろう。何せ今まで生 きてきた、歴史を作ってきた場所とは全く違い世界に降り立つのだ から問題や面倒事がドカッと増えると考える方が自然である。 ︵もういっそのことこちらから世界に打って出て⋮⋮という事を考 355 えるのももう何回目か分からんな。でもそれをやってしまえば、我 々も海外に居る破壊者や略奪者と同じところにまで堕ちてしまう。 そんな愚か者になるのはお断りだ︶ そして結局のところ、専守防衛という形に落ち着いてしまう。こ れもまた日本人ならではという所なのだろうか⋮⋮武器は持っても 積極的に攻める事はしないという結論が出るのは。そんな事を光が 考え、思考することを中断した時に通信の呼び出し音が鳴る。 ﹁もしもし、総理ですか?﹂ 通信の要請をしてきたのは、光陵重化学の如月司令だった。 ﹁ああ、そうだ。如月司令、何か問題が起きたかね?﹂ 光の言葉に、如月司令は﹁総理に相談したい事がございます﹂と 告げてきた。その相談内容とは、神威二式の一部にも光専用機﹃鉄﹄ と同じく魔法発動の機構を組み込ませてほしいとの申し出だった。 ﹁ふむ、しかし今の自衛隊、ならびに日本国民はまだ魔法が使えん ぞ? 魔法の習得などに関する情報は転移後に行う腹積もりだった からな。そうすると、異世界側で乗りたいという申し出があったの か?﹂ 光の言葉に、如月司令は﹁はい、そうなのです。先日総理が仰っ た言葉を受けて、実際に動かしたいという意見が出てきまして﹂と 返答。光は﹁ふむ⋮⋮﹂と顎をさすりながら考える。 ︵今は無理でも、向こうに転移した後は各国にいくつか調整した物 を配備するつもりではあったが⋮⋮良く考えれば、今から取り掛か 356 っておく方がデータが取れるか。後はいくつかの確認を行わねばな らんが︶ ﹁要望は理解した。が、肝心の生産速度はどうなのだ? 肝心かな めの冬に数が足りぬと言った事態になったら非常に困るのだが⋮⋮﹂ この光の質問に、如月司令は﹁それは問題ありません﹂と自信を もって答える。 ﹁生産速度は上昇しております。また、品質も高い状態で維持でき るようになってきており、神威零式に回すパーツは目に見えて減っ てきております。12月には当初の予定よりもさらに多くの神威弐 式を配備することが可能です。そういった余裕が出てきたからこそ、 総理に今回のお願いを打診することになった訳でして﹂ 生産速度が上昇し、余裕が出てきたというのであれば問題はない か。一つ目の心配事が消えたので、光はさらに質問を投げかける。 ﹁では、その魔法発動体を仕込み、搭乗状態で魔法を発動できるよ うになった弐式の扱いはどうするのだ? あくまで実験機としてデ ータを取るのか、それとも冬の戦いに実戦投入するのかを確認した い﹂ 光の更なる質問に、如月司令はよどみなく返答を返す。 ﹁実戦投入を考えております。異世界側の魔法攻撃、ならびに補助 を得意とする皆様の協力をえまして、機会である弐式や零式にも補 助魔法が効果を及ぼすかどうかなどのデータも取りつつ、有用性を 上げるための試行錯誤を行いたいのです。時間はあまり残されてお りませんが、できる事を一つでも増やしておきたい⋮⋮と考えまし 357 て﹂ ││そうか、機械だからといって、魔法の効果が全く及ばないと いう考え方をしていてはダメか。西村君の乗る機体はほぼ科学の力 だけで作られているが、神威二式や零式、そして私の鉄などは魔法 の技術も多く含まれている。何らかの効果が及ぶ可能性は十分にあ るな。 ﹁解った、現場の考えを尊重しよう。何の結果や成果が出なくても 構わないからやってみてくれ。責は私が持つ。できる事が一つでも 増えれば、それだけこちらの戦士たちを生かす事ができる﹂ 光の了承を得た如月司令は﹁采配に感謝します、総理。では早速 部下達に命じて神威二式の更なる改良、オプションパーツの製作に 入ります﹂と返答をして通信が途切れる。 ︵未来は見えん。だが、新しいものはこうして生まれてきている。 絶望ではなく希望があると信じて進もう。避けられぬ戦いもあるが、 それを乗り越えよう。いかに遅い来る困難をうまく乗り越えるかど うかは、総理である私の腕にかかっている⋮⋮か。だからこそ、人 前で不安にならずどっしりと構えなければな。上が乱れれば全体が 揺らぐ︶ 日本転移まで⋮⋮そして戦争開始までのカウントダウンは確実に 刻まれている。 358 10月4日︵後書き︶ 今日を逃すといつ更新できるか分からなかったので、頑張ってみま した。 359 PDF小説ネット発足にあたって http://ncode.syosetu.com/n4791bp/ そんなに日本が嫌いなら、国ごと地球から出て行ってやる! 2014年12月29日11時51分発行 ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。 たんのう 公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、 など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ 行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版 小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流 ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、 PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。 360
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