深海 ATP 計測に向けた caged ATP による現場較正機能の開発 ○花谷耕平(東京大学),福場辰洋(海洋研究開発機構),藤井輝夫(東京大学) 我々はこれまでに海中における微生物存在量の連続的な測定として、マイクロ流体デバイスを応用 した現場較正 ATP 測定システム Integrated in situ analyzer for ATP(IISA-ATP)の開発を行ってき た [1]。しかし、従来のシステムでは複数の ATP 標準液を用意して現場較正を行っていたため、ポン プやバルブの切り替えの動作不良や送液が安定するまで待機時間がかかること、複数の標準液用の容 器が必要であるという問題があった.そこで、本研究は光分解化合物である caged ATP を用いた現場 較正システムの開発を目的とする。Caged ATP を内部標準液として利用することで複数の ATP 標準液が 不要となり、IISA-ATP のさらなる小型化と高効率化が期待できる[2]。 Caged ATP を内部標準とした ATP 濃度定量手法(以下、内部標準法)を概説する。サンプルとルシフ ェリン-ルシフェラーゼ(L-L)反応試薬・細胞溶解試薬および caged ATP を混合し、紫外線照射した ものと照射していないものを用意して PMT で発光量を測定する。紫外線照射によって光分解される caged ATP の濃度を事前に求めておき、紫外線照射による発光上昇量を基準とすれば海水サンプルの ATP 濃度を定量することができる。Caged ATP の内部標準液としての応用可能性を確認するために、卓 上装置を用いた試験管による海水サンプルの ATP 濃度定量を行った。2014 年 8 月に伊豆・小笠原弧で 行われた調査船「なつしま」による NT14-16 調査航海に参加し、ROV「ハイパードルフィン」に取り付 けたシリンジ採水器を用いて採取した海水サンプルを、ROV 引上げ後速やかに船上で分析した。 図 1 に各海水サンプルの従来手法と内部標準法での定量結果を示す。海水サンプルの ATP 濃度が 100pmol/L 以下の場合、従来手法と同程度の定量結果が得られた。海水サンプルの ATP 濃度が大きいと き、内部標準法での定量誤差が大きくなった。これは、紫外線照射による caged ATP の光分解量が小 さく(17±2pmol/L)、海水サンプル測定におけるばらつきによって、UV 照射による発光上昇量が区別 できなくなったためと考えられる。すなわち、測定する ATP 濃度に合わせて適切な濃度の ATP を紫外 線照射によって生成することが必要と考えられる。 調査航海での実験結果に基づき、マイクロ流体デバイス上で caged ATP の紫外線分解を行う実験シ ステムの開発を進めている。幅・高さ 0.1mm の PDMS による直線流路を作成し、L-L 反応試薬と caged ATP の混合試薬を流して UV-LED を用いて紫外線照射を行った。UV-LED を PWM 制御し、デューティ比 1,10,100%と変化させた時の光分解量の測定、繰り返し実験による再現性の評価、および ATP 標準液を 測定サンプルとした内部標準法による濃度定量をマイクロ流体デバイス上で行った。 UV-LED の各デューティ比における caged ATP の光分解結果を図 2 に示す。LED の出力と比例する ATP 濃度が得られ、デューティ比を変えることにより複数の ATP 濃度を生成できることが確認できた。 UV-LED の ON/OFF を繰り返した時の測定結果を図 3 に示す。UV 照射の 3 回繰り返しにおける発光量測 定値の 3σは指示値の 3~20%となり、実用的な範囲であることが確認できた。内部標準法により 1,10% の LED デューティ比で 20pmol/L の ATP 標準液を定量することができた(図 4a)。200pmol/L の標準液 の定量ではデューティ比 10%のほうがより正確にサンプルを定量できることが分かり(図 4b)、これは 上記の試験管での実験結果と同様の原因と考えられる。したがって、本システムの実用化向けて caged ATP の適切な光分解が必要であるこ とが確認できた。 今後の課題としては、低温・高圧 等の環境で UV 照射による caged ATP の光分解結果がどのような影響を 受けるのかを調べることが挙げら れる。今回開発した caged ATP によ る較正システムを IISA-ATP に統合 することで、深海でより効率的に ATP 計測を行っていくことが期待で きる。 図 1 従来手法と caged ATP を用いた内部標準手法による海水サンプルの ATP 濃度定量結果。エラーバーは測定値の 3σを示す。サンプル No.10 では測定 のばらつきのため、UV 照射による発光上昇が測定されなかった。 図2 様々な紫外線照射条件における caged ATP の光分解結果。 図3 デューティ比 10%の UV-LED による caged ATP 分 エラーバーは生物発光強度が安定した後 100 秒間の測定データ 解の繰り返し実験での生物発光量(RLU:相対発光量) の 3σを示す。ATP 濃度は ATP 標準液をサンプルとして流すこと 測定結果。 で検量線を作成して求めた。 参考文献 [1]T. Fukuba, et al. “A microfluidic in situ analyzer quantification for in ATP ocean environments” Lab Chip, vol. 11, pp. 3508-3515, 2011. [2] R. M. Calvert, et al. “Caged ATP – an internal calibration method for 図 4 内部標準手法による LED デューティ比 1,10%駆動時の (a)20 およ ATP bioluminescence assays” Lett. び(b)200pmol/L の ATP 標準液サンプルの定量結果。エラーバーは 3 回繰 Appl. り返した測定値安定後 40 秒間の平均値から求めた 3σを示す。 223-227, 2000. Microbiol., vol. 30, pp.
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