解禁時間 テレビ・ラジオ・WEB :平成 27 年 2 月 4 日(水)午後 7 時(日本時間) 新聞 :平成 27 年 2 月 5 日(木)付朝刊 平成 27 年 2 月 4 日 国立大学法人山形大学 プレスリリース 科学技術関連 天然油脂由来の殺菌性パウダー -身体洗浄料・化粧品への応用の可能性― 国立大学法人山形大学(小山清人学長)の野々村美宗准教授らは、花王株式会社と共同で、 マカデミアナッツ油から得られる脂肪酸「パルミトレイン酸」のカルシウム塩が、黄色ブド ウ球菌やアクネ菌をより効率よく死滅させる選択殺菌性を示すことを発見しました。これら の菌は肌荒れやニキビの原因となることから、新しい天然由来の殺菌性パウダーとして、身 体洗浄料やスキンケア化粧料への応用が期待されます。 【背景】 浴室で石けんを使うと水が白っぽく濁ったり、 洗面器のまわりに石けんカスができたりし ます。これは水に溶けた石けんが水の中のカルシウムなどと結合し、新たに脂肪酸のカルシ ウム塩になるためで、このような石けんを「金属石けん」と呼びます。この「金属石けん」 は、固体表面の滑りを滑らかにする潤滑剤などに利用される一方で、浴室の汚れの原因とな ることから、身体洗浄料や化粧品の開発の現場ではあまり好まれていませんでした。 【本研究の成果】 今回、野々村美宗准教授らはさまざまな脂肪酸のカルシウム塩を調製、その殺菌性を評価 し、パルミトレイン酸カルシウム塩が、肌荒れやニキビの原因となる黄色ブドウ球菌やアク ネ菌を短時間で効率よく死滅させることを発見しました。 パルミトレイン酸カルシウム塩は、 分子内に不飽和部位を一つ持つ脂肪酸とカルシウムが 2:1 の割合で結合した結晶性のさらさらした粉末で、電子顕微鏡で観察すると数μm の板 状粉末であることが分かります(図1)。また、この粉末は水をはじく撥水性や摩擦抵抗を 小さくする潤滑性を示しました。これより、この粉末は、化粧効果として、保持される時間 が長いこと、および皮膚に塗布する時の感触を高めることが予想されます。 1 外観 分子構造 電子顕微鏡写真 1/2Ca2+ 10 μm 図 1 パルミトレイン酸カルシウム塩の外観、電子顕微鏡写真および分子構造. 【研究内容の詳細】 パルミトレイン酸カルシウムの粉末を水に分散し、黄色ブドウ球菌、アクネ菌、表皮ブド ウ球菌とともに寒天ゲル表面で培養したところ、菌数は急激に減少し、黄色ブドウ球菌は 3 時間後、アクネ菌は 24 時間後には検出限界以下となりました。一方で、表皮ブドウ球菌は 減少するものの、24 時間後にも多数残っていました。黄色ブドウ球菌は肌荒れの、アクネ 菌はニキビの原因となることが報告されていることから、 パルミトレイン酸カルシウム塩は これらの原因菌をより効率よく死滅させる選択殺菌性を示すことが明らかになりました。ま た、表皮ブドウ球菌は非病原性で、皮膚に常在し、外部からの病原体の侵入を防ぐバリヤー の役割の一端を担っていると言われており、この菌に対する殺菌性が低いことは、皮膚の状 態を健康に保つ上で望ましいことと考えられます。 コロニー数 (Log10) 8 添加!!! ↓ 表皮ブドウ球菌 弱 殺 菌 力 4 強 アクネ菌 黄色ブドウ球菌 0 0 1 3 24 時 間 [方法] 加。 (1)菌を 3×105 個/mL 分散した 50mM リン酸緩衝溶液 10mL に、パルミトレイン酸カルシウム粉末を 100ppm 添 (2)これを寒天ゲル表面に広げ、37℃で指定の時間培養し、菌のコロニー数をカウント。 図 2 パルミトレイン酸カルシウム塩の殺菌効果. 2 黄色ブドウ球菌 アクネ菌 パルミトレイン酸 カルシウム塩 殺菌力 大 吸着 溶解 にきび予防 肌荒れ改善 表皮ブドウ球菌 パルミトレイン酸 殺菌力 小 生き残った菌が 防御機能発揮! 図 3 パルミトレイン酸カルシウム塩による殺菌効果のメカニズムと期待されるスキン ケア効果. なお、身体洗浄料に広く使われているラウリン酸のカルシウム塩も同じような選択殺菌性 を示すことを認めましたが、パルミトレイン酸カルシウム塩の方が短時間で殺菌効果が現れ るため、より有用であると考えられました。また、パルミトレイン酸カルシウム塩の原料で あるパルミトレイン酸にも同様の効果が報告されていますが、室温で液体でした。 本研究によってさらさらの粉末であるカルシウム塩が開発されたことによって液状化粧 料から粉末化粧料に至るまで様々な化粧品製剤に使用することが可能になりました。 本共同研究によって、パルミトレイン酸カルシウム塩は、肌荒れやニキビの原因となる黄 色ブドウ球菌やアクネ菌に対して特に効果的な殺菌性を示すことが明らかになりました。ま た、撥水性や潤滑性などの化粧品粉体原料に求められる基本的な特性を満たしていることか ら、実際の商品に配合した場合にも同様の効果が認められ、天然由来の殺菌性パウダーとし て、身体洗浄料やスキンケア化粧料への応用が期待されます。 本研究の成果は、2014 年 9 月 13 日に香港で開催された第 10 回中国化粧品学術検討会で、 化粧品業界の進歩に貢献するものと認められ、三等賞を受賞しました。また、日本油化学会 発行の Journal of Oleo Science 3 月号に掲載される予定です。 お問い合わせ先 国立大学法人山形大学大学院理工学研究科バイオ化学工学専攻 野々村美宗 住所: 山形県米沢市城南 4-3-16 電話: 0238-26-3164 Fax: 0238-26-3414 Email : [email protected] 3
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