マーケットの底 流 を読 む 株式会社ジャパンエコノミックパルス Japan Economic Pulse Co., Ltd. 日本株、「空売り」踏み上げの余地 [email protected] ヘッジ F などの先物売り残存、期末に向け貸株返却も 日替わりメニューでの不安定さが続く日本株だが、 空売り買い戻しによる「踏み上げ」余地が残されて いる。先行き不透明感を受けて、ヘッジファンドな どの先物売りが残存しているほか、3 月期末に向け ては国内勢の貸株回収と借り手側の空売り手仕舞い の可能性がある。現在の個別決算発表でも収益拡大 が確認される一方、設備投資や正社員雇用を含めた 人件費は抑制されていることで、既存の設備や固定 費の効率性や収益率が高まってきた。さらに未曽有 の余剰資金が、配当などの株主還元策に向けられる 期待感も根強い。 ソニー株急騰が示す空売り反転エネルギー 「5 日にソニー株が日中+12%も急騰したことは、 改めて日本株の空売り買い戻しエネルギーが示され ている」――。 国内証券の中堅幹部はこのような指摘を行う。ソ ニー株を高騰させた決算発表については、あくまで 為替差益やリストラによる構造改革を受けたもので、 今後の持続的な収益拡大には不透明感が強い。それ でもソニー株は企業再生や新製品開発への不信感な どから空売りやヘッジ売りが膨らんできた銘柄であ り、その買い戻しがもたらす短期的な株高エネルギ ーの大きさを再確認させるものとなった。 日本株全体としても、海外情勢の不透明感や円安 一服見通しの高まりを受けて、海外短期筋が先物売 りを持続させている。1 月末にかけて買い戻しが進 む場面もあったが、 「ヘッジファンドなどの注文が多 い欧州系証券の 1 社だけで、現在も日経平均先物と TOPIX 先物の総計で 4 万枚程度のショート・ポジシ ョンが積み残されている」 (前出の中堅幹部)という 指摘もある。あくまで短期的ながらも、先行き買い 戻しによる日本株の上昇余地は消えていない。 しかも日本株では、季節的に 3 月期末に向けて「早 い者勝ち」的な空売りの手仕舞いが意識される。例 年、株券の貸借取引は 4 月や 10 月の半期明けから活 発化し、9 月と 3 月の決算期末にかけていったん整 理される傾向にあるためだ。ヘッジファンドなどの 海外勢も、内外証券会社や本邦機関投資家などから 貸株を調達し、ヘッジ売りや空売りなどの短期売買 を行ったあと、日本勢の決算対策による貸株回収に 伴って返却するパターンが繰り返されてきた。今年 も貸株ショートには巻き戻しの余地がある。 ちなみに東証の空売り比率では、2 月 4 日時点で 「価格規制あり」ベースが 25.3%、総計で 30.8%と なっている。規制ありのベースでは1月 15 日の 27.2%を直近ピークとして拡大が一服となっている 2015/2/6 が、直近最低である昨年 12 月 25 日の 19.5%に比べ ると、依然として空売りが残されたままだ。 最近では昨年 12 月 17 日に現在と同水準の 25.6% に拡大したあと、株価反発によって買い戻しが進展。 空売り比率が 12 月 25 日の 19.5%に縮小する前後で、 日経平均は 12 月 17 日の安値 1 万 6672 円から年末 29 日の高値 1 万 7914 円まで、+1241 円前後の上昇 が観測されている。また、昨年 9 月の中間決算の局 面でも、貸株返済による空売り買い戻しなどもあり、 日経平均は 8 月 29 日の安値から期末 9 月 29 日の高 値まで、+1018 円程度の上昇ラリーが見られている。 なお、業種別で空売り比率(価格規制あり+なし) が大きいのは、2 月 4 日時点で鉱業 51.9%、水産・ 農林+43.8%、海運+40.0%、石油・石炭製品+ 38.5%、非鉄金属+36.8%――などとなっている。 また、昨年 12 月 30 日との比較で空売り比率の拡大 幅が大きい業種は、水産・農林(12 月末比+14.5%)、 鉱業(+11.7%) 、医薬品(+9.6%) 、石油・石炭(+ 7.1%)――といったセクターだ。ソニー株と同様、 3 月期末にかけては空売りによる短期的な踏み上げ が注目されやすい。 CME 日経平均は 2 年ぶりショート、買い戻し余地 海外短期筋である CTA(商品取引業者)などのポ ジション行動で、参考になるシカゴ・マーカンタイ ル取引所(CME)の投機的な日経平均先物ポジション (非商業部門)でも、ショート傾斜が目立ち始めた。 12 月以降は日銀追加緩和や衆院総選挙での与党勝 利といった「好材料の出尽くし」のほか、円安によ るドルベース日経平均の頭打ちなどとあいまって、 ロング・ポジションが急減。12 月 16 日週の+5225 枚のネット・ロングをピークとして手仕舞いが続き、 今年 1 月 20 日週には-1235 枚、1 月 27 日週には- 421 枚とネット・ショートに転換してきた。 シカゴ日経平均先物のショート転換は、実にアベ ノミクス相場が始まった初期段階の 2013 年 1 月 8 日週以来、2 年ぶりの現象だ。海外短期筋による日 本株への関心低下が示される反面、現状からはロン グ整理に伴う株安余地が狭まっていく。日本株の下 値では公的年金や日銀などのリアルマネー系による 押し目買い需要が根強く、2013-2014 年時のリスク 回避局面で観測された「大幅な日本株ロングと円シ ョートの逆流回転」による株価急落と円急騰のショ ック度合いは軽減される。さらに今後の材料次第で は、ショート手仕舞いによる日本株の買い戻しや、 新たなロング構築による日本株投資再開の余力が残 されている。 日本株は現在、決算発表が相次いでいるが、玉石 混交となっていることで、全体株を押し上げるには 至っていない。これまで日本株は期待先行で大きく 買われてきただけに、海外勢からは「失望」や「好 材料の出尽くし」といったネガティブな辛口反応も 目立つ。それでも全体としては収益が拡大している ことで、来年度以降には未曽有の余剰マネーを自社 株買いや配当に振り向ける株主還元策の増強期待が 維持されたままだ。 しかも日本企業は過去最高益が相次ぐ一方、新規 の設備投資や正規社員の拡充などには慎重姿勢が根 強い。その分だけ、既存の設備や一人当たり正社員 を含めた固定費に関して、効率性や収益率が大きく 改善されてきた。内閣府の景気動向指数によると、 全産業ベースで単純に「営業利益」を「実質法人企 業の設備投資額」で割った採算比率は昨年 9 月段階 で 1.26 となり、実に 1985 年以来の高水準となって いる。 昨年 3 月の 1.34 からは伸び率が鈍化しているが、 足元の利益拡大に対しての設備投資の後ズレにより、 さらに改善が進んでいる可能性が高い。直近最低で ある 2009 年 3 月の 0.23 からは、大きく効率性や収 益性が改善されてきた。既存設備が生み出す収益の 規模が急増しており、先行き 1 株当たりの収益拡大 空売り(左軸) 14 16 18 20 22 24 26 28 30 買い戻し↑ ↓ 空売り 残存 ↑株高 Jan-15 Dec-14 Dec-14 Nov-14 Oct-14 Sep-14 Sep-14 Aug-14 Jul-14 Jul-14 Jun-14 May-14 Apr-14 Apr-14 Mar-14 Feb-14 Jan-14 Jan-14 Dec-13 Nov-13 シカゴ・マーカンタイル取引所;日経平均の投機的ポジション(非商業、ネット) 日経平均 ロング↑ ショート↓ 14,000 10,000 6,000 2,000 -2,000 -6,000 -10,000 ポジション(左軸) 日経平均(右軸) ショート転換↓ Jan-15 Nov-14 Sep-14 Jul-14 May-14 Apr-14 Feb-14 Dec-13 Oct-13 Aug-13 Jun-13 Apr-13 Mar-13 Jan-13 Nov-12 Sep-12 Jul-12 May-12 Apr-12 枚 東証;空売り比率(価格規制あり、軸を上下反転)、日経平均 日経平均(右軸) Oct-13 % につながる余地を秘めている。 しかも今年の年度末相場の場合、内外で過剰な悲 観論が高まっているだけ、3 月にかけて揺り戻し的 な悲観修正余地が残されている。先行き紆余曲折は 想定されながらも、ギリシャ債務減免交渉の進展や、 春以降の資源需要に向けた原油相場の下げ止まり、 米国経済の抵抗力の確認、各国で相次ぐ金融緩和の 効果表出といったポジティブ・サプライズの可能性 が注目されよう。 日本でも 3 月にかけては、TPP(環太平洋連携協定) 交渉の進展や春闘での賃上げ現実化、訪日外国人の 一段の増加、3 月決算を前にした大型再編、雇用回 復などを受けた出生率の改善、実質賃金の持ち直し による内需の回復機運――といったプラス材料の余 地が残されている。日本株の需給面でも、2012-2014 年までの株高局面で、国内の機関投資家や個人など の戻り売り処分は大きく進展してきた。反対に 3 月 期末にかけては、GPIF(年金積立金管理運用独立行 政法人)や付随した年金共済、郵政マネーなどによ る「期末ポートフォリオ調整」の日本株買い増しが 注目されやすい。同時に国内では国債や預貯金金利 の大幅低下と、その中での物価上昇を受けて、3 月 期末にかけては「高配当株」の配当権利取りが後押 しされよう。 18,000 17,500 17,000 16,500 16,000 15,500 15,000 14,500 14,000 円 17,000 16,000 15,000 14,000 13,000 12,000 11,000 10,000 9,000 8,000 円 お客様は、本レポートに表示されている情報をお客様自身のためにのみご利用するものとし、第三者への提 供、再配信を行うこと、独自に加工すること、複写もしくは加工したものを第三者に譲渡または使用させる ことは出来ません。情報の内容については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありませ ん。また、これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社および本情報提供者は一切の責任を 負いません。本レポートの内容は、投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的とし たものではありません。投資にあたっての最終判断はお客様ご自身でお願いします。
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