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試料作製の基礎
試料を SEM のステージに装着する前に、観察面が露出していること、試料台にしっかり固定されていること、原
則的には導電性を持っていること、などの条件が満たされていなければなりません。
観察面の露出とコントラスト付け
観察に適した大きさに試料を切り出した後、目的とした観察面を露出させます。試料表面そのものを観察する場合
は、特に前処理は必要ありませんが、必要に応じて観察の障害となる汚れなどの皮膜を取り除きます。
内部構造を観察する場合は適当な方法で断面を出さなければいけません。実際には次のような方法が使われます。
● 割る
試料が固い場合は割って断面を作ります。半導体デバイスのように Si や GaAs の単結晶の上に作られた構造物の場
合は、結晶の特定の方向に劈開性がありますからそれを利用するときれいな断面が得られます。常温では柔らくても
低温で固くなる材料の場合は液体窒素中で割るという方法も使われます。
● 切る
ポリマーのように柔らかい材料は、超ミクロトームを使って切ることが可能です。超ミクロトームは透過電子顕微
鏡の試料を作るための装置で、かんなのように試料を削って薄膜状の試料を作るものですが、削って残った試料の切
削面は非常にきれいな断面です。倍率も低く、少々傷があっても構わないような試料ではカミソリの刃で断面を作る
こともあります。
● 磨く
多くの金属試料や鉱物試料などでは、樹脂の中に埋め込んで研磨する方法が用いられます。粗い砥粒→細かい砥粒
と段階を追って研磨を進め、最終的に断面を鏡面状態に仕上げます。
● イオンビームで削る
最近多く使われているのが、イオンビームを使って試料を削る方法です。例えば、集束イオンビーム(FIB)装置
を使うと、数百 nm の位置精度で断面を削り出すことが可能です。また、ブロードな Ar イオンビームを使って断面を
作る方法もあり、この方法は FIB 法に比べて断面位置精度は劣りますが、はるかに広い断面が得られます。
● コントラスト付け
平滑な断面がうまく出来ている場合、多くの試料は二次電子像では何も見えません。このような場合、特定の組織
を化学的あるいは物理的にエッチングすることで凹凸を付けた上で二次電子像を観察したり、一部の高分子材料など
では特定の部位に Os、Ru などの重金属を選択的に付着させて(染色という)反射電子の組成像を観察します。こう
いった試料処理を行わなくても、元の試料に組成の違いや結晶性の違いがあれば、反射電子の組成像あるいは ECC
像を観察できます。
試料の固定
試料は試料台の上に安定に固定されていなければなりません。同時に試料台との間で電気的に繋がっている必要が
あります。
● 塊状(バルク)試料
導電性のペーストや導電性の両面粘着テープを使って試料を固定します。比較的形が一定したものであれば機械的
に挟んで固定する場合もあります。非導電性試料の場合は、観察部位を残して出来る限り導電性ペーストで覆うこと
が望まれます。
● 粉体・微粒子
試料台に塗った導電性ペーストや両面粘着テープの上に振り掛けますが、なるべくバラバラになるように振り掛け
る工夫が必要です。試料によっては、有機溶媒や水等の分散媒に懸濁してアルミフォイルや Si ウェハの上に滴下して
乾燥する方法もあります。
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コーティング
非導電性試料の場合、導電性を持たせるため
に試料表面を薄い金属膜で覆う必要があります。
ターゲット
これをコーティングと言い、イオンスパッタや
真空蒸着を使います。
イオンスパッタには、10Pa 程度の真空中で
マグネット
スパッタ粒子
−
+
残留ガス分子
直流
数百V
イオン衝撃
の放電を利用してターゲット金属をスパッタす
る 2 極スパッタとイオンビームでターゲット金
試料
属をスパッタするイオンビームスパッタがあり
ます。通常使われるのは 2 極スパッタで、図
46 にこれを利用したコーティング装置の概念
図を示します。低真空なのでスパッタされた金
ロータリーポンプ
属が残留ガス分子と衝突することで散乱され、
四方八方から試料表面に付着し、比較的均一な
図 46
厚さの膜ができます。イオンビームスパッタ装
イオンスパッタ装置の原理
置では、ターゲットと試料が高真空中に置かれているため、質の良いコーティングを行うことが可能です。
真空蒸着は真空中で材料を加熱蒸発させて試料表面に薄い金属膜を作るものです。10-3Pa 程度の高真空での蒸発
を利用するので、均一な膜厚のコーティングをするためには試料の回転傾斜を行います。
コーティング材料としては、二次電子放出率が高く安定なことから、Au、Au-Pd、Pt、Pt-Pd などの貴金属が使
われます。高倍率の観察には Au-Pd、Pt、Pt-Pd が使われますが、元素分析など、目的によっては C、Al などが使
われることもあります。Pt、Pt-Pd は真空蒸着するのが難しく、C、Alはスパッタするのが困難です。
コーティングが厚くなると、試料表面の微細構造を覆い隠してしまうので、できるだけ薄いコーティングが良いわ
けですが、薄すぎると膜が連続せず帯電を引き起こします。通常は数 nm ∼ 10nm 程度の厚さにコーティングします。
生物試料の扱い
生物の組織や細胞のような含水試料は、そのまま SEM の試料室に持ち込むと変形してしまいます。したがって、
一般的には次のような工程で乾燥した後、コーティングを行って観察します。食品もこの手順に準じて行われるのが
普通です。
● 組織の摘出と洗浄
乾燥までの工程を行うのに適したようなサイズに切り出す作業で、できるだけ変形しないような方法で行う必要が
あります。表面の洗浄が必要な場合もあります。
● 固定
摘出した組織は死後変化が始まりますから、グルタ−ルアルデヒド、ホルムアルデヒド、四酸化オスミウムなどの
薬品で化学的に固定します。この段階でオスミウムを多量に組織に付着させることで導電性を持たせることも可能で
す(導電染色)。試料によっては、急速に凍結することで変化を抑える物理固定も使われます。
● 脱水
組織の中の水を脱水するには、変形を防ぐために濃度を段階的に変えたエタノール系列あるいはアセトン系列中に
試料を一定時間浸漬します。
● 乾燥
組織中のエタノールあるいはアセトンなどを除去して乾燥する操作です。自然乾燥をすると表面張力のため試料が
変形するので、臨界点乾燥あるいは凍結乾燥といった特殊な乾燥法を用いて乾燥します。
● 試料の固定とコーティング
他の非導電性試料の扱いと同じです。
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