「防災行財政の政策学的研究」 専任研究員 永松 伸吾 研究テーマは『防災行財政の政策学的研究』であり、人口減少、少子高齢化、低成長 時代における持続可能な防災政策のあり方を探求している。 今回は各論1「地域経済の早期復興に向けた行政の初動対応のあり方」 について、新潟県 中越地震の被災地である小千谷市の商工業調査を題材として報告した。 小千谷市商工業者に対する質問紙調査(有効回答数 582 件)およびヒアリング調査よ り、次のような事実が判明した。 1.震災関連の売上があった事業所は以下の4パターン存在した。 ① 被災者の需要が増加するケース ② 被災地外からの来訪者(ボランティア、作業員、マスコミ等)の需要が増加す るケース ③ 被災地支援の目的で県外からの受注が増えるケース ④ 行政からの受注が増加するケース 災害関連の売上の有無は業種によってほぼ規定されるが、上記のうち、②および ③については、同業者でも偏りが生じており、その理由として営業再開状況等に関 する情報の偏在などが指摘される。 2.ボランティア・義援物資により営業機会を喪失したと考える事業所が全体の2割近 くに及んだ 特に小売業では約4割の事業所が義援物資等により営業機会が奪われたと感じて いることが判明した。その中には、什器店が「瀬戸物が大量に配られたために売れ ない」、履物店が「積雪期のための長靴などが配られたために大量に在庫を抱えるこ ととなった」、化粧品店が「化粧水等基礎化粧品が無償で配られたために売れない」 など様々な分野に及んだ。 3.被災2週間後から小千谷市は被災者向け弁当を地元の業者に発注し、それが被災事 業所の営業再開を促進した。 小千谷市内の仕出し組合などが協力し、ライフラインの再開も完全ではない中、 大量の弁当を供給する体制を震災から2週間程度で確立した。その後は配送業務も 市内業者によって行われた。このことは市の災害対応業務を軽減しただけでなく、 地元経済にとっても営業再開に向けた励みとなった。
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