演算子の二次形式で表現されたハミルトニアンの物理量について 永井佑紀 平成 27 年 2 月 6 日 ハミルトニアンがフェルミオンの生成演算子と消滅演算子の組で書かれている場合、そのハミルトニアンを行 列で考えるといろいろと見通しがよい。 ハミルトニアン 1 ハミルトニアンが L 種類のフェルミオンの演算子の二次形式: ∑ H= hij c†i cj (1) ij で書けているとする。このとき、c†i はある状態 i の電子を生成する演算子である。このとき、固有値方程式は H|n⟩ = En |n⟩ (2) である。もしハミルトニアンが H= L ∑ ϵα a†α aα (3) α と対角化できるとすれば 1 、N 個粒子が存在しているときの基底状態 |g⟩ は、a†α をエネルギー ϵα が小さい順に真 空に作用させたもの: N ∏ |g⟩ = a†α |0⟩ (4) α=1 となる。ここで、|0⟩ は aα |0⟩ = 0 となる真空である。また、N 番目の一番大きなエネルギーを ϵF と定義する。実 際、ハミルトニアンをこの基底状態に作用させると、 H|g⟩ = L ∏ N ∑ α = ϵα a†α aα a†α′ |0⟩ L ∑ = α ϵα N ∏ ϵα a†α′ |0⟩ (6) α′ =1 α,ϵα ≤ϵF N ∑ (5) α′ =1 N ∏ a†α′ |0⟩ (7) α′ =1 となり、確かに固有状態となっている。 この a†α で生成されるフェルミ粒子を準粒子と呼べば、この準粒子のハミルトニアンは式 (3) で表されるので、 自由粒子である。したがって、この自由粒子の粒子数期待値は ∑ ⟨a†α aα ⟩ = f (ϵα ) α と書ける。f (x) = 1/(1 + ex/T ) はフェルミ分布関数である。 1L は固有値の数。 1 (8) 2 行列による表示 式 (1) を行列の形で表示する事を考えよう。L 次元ベクトルとして c1 . . c= . cL (9) ˆ H = c† hc (10) を導入すると、ハミルトニアンは ˆ はエルミート行列であり、 と書ける。ここで、行列 h [ ] ˆ h = hij ij (11) である。 ˆ を対角化することを考える。エルミート行列はユニタリー行列で対角化できるので、 次に、h ˆU ˆ †h ˆ =D ˆ U (12) ˆ と対角行列 D ˆ が存在する。よって、 というユニタリー行列 U ˆ=U ˆD ˆU ˆ† h (13) である。これをハミルトニアンの表式に代入すると、 ˆD ˆU ˆ †c H = c† U (14) ˆ = a† Da (15) ˆ †c a=U (16) となる。ここで、 を導入した。式 (15) を成分表示すると H= ∑ a†i Dij aj (17) a†i Dii aj (18) ij = ∑ i となり、結局、 Dii = ϵi (19) ˆ を対角化すると、もとのハミルトニアンの対角化を行う事ができる。 となっており、行列 h 3 期待値 次に、生成演算子と消滅演算子が一つずつ現れる物理量の期待値を計算してみよう。このような物理量を nij = ⟨c†i cj ⟩ 2 (20) とする。この nij を成分とする行列 n ˆ は、 n ˆ = ⟨c∗ cT ⟩ (21) と書く事ができる。この行列をベクトル a を使って書き直すと、 ˆ a)∗ (U ˆ a)T ⟩ n ˆ = ⟨(U ˆ∗ ∗ T = U ⟨a a ⟩U ˆT (22) (23) これを成分表示すると、 nij = ∑ ˆil∗ ⟨a† am ⟩U ˆjm U l (24) lm となるが、生成演算子 a†i で生成される準粒子は自由粒子なので、 ⟨a†l am ⟩ = δlm f (El ) (25) である。よって、 nij = ∑ ˆil∗ δlm f (El )U ˆjm U (26) ˆjl f (El ) ˆil∗ U U (27) lm = ∑ l となる。もし、i = j であれば、 ni = ∑ |Uil |2 f (El ) (28) l であり、これはまさに局所粒子数密度に他ならない。 つまり、数値計算等で二次形式のハミルトニアンの粒子数密度を計算する場合には、ただ行列を対角化してや ればよい。 超伝導と南部形式 4 4.1 正常および異常粒子密度 次に、上述の話を超伝導に応用する。超伝導を記述する平均場理論は BCS 理論であるが、そのハミルトニアン (BdG ハミルトニアン) は、電子とホールの空間を用意した 2L 次元の南部空間を用いて、 ˇ sψ H s = ψ† h ) ( ˆ ˆ H ∆ ˇ hs ≡ ˆ † −H ˆ∗ ∆ (29) (30) と書く事ができる。ここで、2L 次元のベクトル ψ は ( ψ= c ) c∗ (31) である。 ˆ を求める場合には、異常粒子密度 ギャップ方程式を解いて自己無撞着に ∆ nA ij ≡ ⟨ci cj ⟩ 3 (32) が必要となる。この量は、2L × 2L の行列 ( ) ⟨c∗ cT ⟩ ⟨c∗ c† ⟩ ˇ = N (33) ⟨c∗ c† ⟩ ⟨ccT ⟩ = ⟨ψ ∗ ψ T ⟩ (34) ˇ s を対角化するユニタリー行列 と、ハミルトニアン行列 h ˇ s Pˇ = D ˇs Pˆ † h (35) と用いると、先ほどと同様に計算する事ができ、 ˇij = N ∑ Pˇil∗ Pˇjl f (Els ) (36) l となる。 4.2 電子ホール対称性 次に、超伝導の BdG ハミルトニアンには電子ホール対称性があることを示し、これを用いるとより整理される ˇ s の固有ベクトルを ことを示す。まず、2L × 2L のハミルトニアン行列 h ( u ϕ= ) (37) v とすると、BdG ハミルトニアンは ˆ + ∆v = Eu Hu † (38) ˆ∗ ∆ u − H v = Ev (39) という固有値問題となる。ここで、両辺の複素共役をとって整理すると ˆ ∗ u∗ + ∆∗ v ∗ = Eu∗ H (40) ˆ ∗ = Ev ∗ ∆ u − Hv T ∗ (41) ˆ ∗ + ∆u∗ = −Ev ∗ Hv † ∗ ˆ ∗ u∗ = −Eu∗ ∆ v −H (42) (43) となり、ベクトル ( v∗ u∗ ) (44) はエネルギー −E の固有ベクトルであることがわかる。従って、ユニタリー行列 Pˇ は ) ( ˆ Vˆ ∗ U Pˇ = ˆ∗ Vˆ U (45) と書く事ができ、 ( ˆ†ˇ P hs Pˇ = ˆs E 0 4 0 ˆs −E ) (46) となることがわかる。ここで、 ˆ= U Vˆ = ( ( ) u1 ··· uL v1 ··· vL (47) ) (48) とした。 以上より、 nA = ⟨ccT ⟩ ˆ∗ (49) ˆs )U + U ˆ f (−E ˆs )V = V f (E T † (50) ˆs ) は対角成分が Esl の対角行列である。結局、成分表示すると、 となる。ここで、f (E nA ij = ∑[ ] Vil∗ Ujl f (Esl ) + Uil f (−Esl )Vjl∗ (51) l = ∑[ ] [vl ]∗i [ul ]j f (Esl ) + [ul ]i [vl ]∗j f (−Esl ) l となり、よく見かける ⟨ci cj ⟩ の表式になる。 ˇ s を対角化すればよい。 つまり、数値計算では、ただ h 5 (52)
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