「みらい」新ドップラーレーダーの概要 ○吉田 一穂・末吉 惣一郎・奥村 慎也・稲垣 孝一(㈱グローバルオーシャンディベロップメント)、 川間 格・太田 晴美・勝俣 昌己(海洋研究開発機構) 「みらい」ドップラーレーダーの換装 ドップラーレーダーは、アンテナからパルス状の電波を空間に送信し、降水粒子に反射された電波 の強度を計測することにより、広範囲に存在する雨や雪の強さを観測する装置である。また、受信電 波の周波数のずれ(ドップラー効果)からドップラー速度を計測し、大気の流れ(降水粒子の動き) を推定することが可能である。 「みらい」は 1998 年の就航以来、降雨観測用ドップラーレーダーを常設する世界唯一の研究船とし て、熱帯赤道域から極域に至るまで様々なミッションに従事してきた。近年、各部の老朽化、陳腐化 が懸念されていたが、2014 年 4 月~5 月の年次点検工事において、最先端の研究プラットフォームへ アップグレードするためにシステム全体を換装し、世界初の舶用二重偏波ドップラーレーダーに生ま れ変わった(写真 1, 2)。本発表では向上した機能、性能などの概要について紹介する。 主な改良点 今回の全面換装により、以下の 3 点について機能の追加、性能の向上が図られた。新・旧レーダー の主要目を表 1 に示す。 ① 世界初の船舶用二重偏波方式の採用 送・受信系に二重偏波機能が付加され、旧ドップラーレーダーが水平偏波による反射強度・ドッ プラー速度のみであったのに比べて多様なパラメータを取得可能となった。二重偏波機能は、近年の 陸上設置型には普及しつつあるが、船舶常設型としては世界初である。また、引き続き高精度慣性航 法装置を装備し、姿勢データをアンテナ指示方向の動揺補正に使用するだけでなく、信号処理におけ る偏波成分の動揺補正計算にも使用している。二重偏波機能の導入により、高精度の降水量推定や降 みぞれ あられ 水粒子の種類判別(雨、雪、霙 、霰 など)等への応用が可能となり、これまでデータが乏しかった 洋上の降水システムに対する新しい知見を得られることが期待される。 ② 送信機の固体素子化およびパルス圧縮技術の採用 送信機の固体素子化およびパルス圧縮技術の採用により、旧世代の送信管(マグネトロン、クラ イストロン等)と比べて長期間、安定した出力による高品質データが取得可能となった。新ドップラ ーレーダーの固体素子送信機は 8 台×2 系統(水平偏波、垂直偏波)のモジュールで構成されており、 仮に 1 台のモジュールが故障しても、観測を停止することなく交換可能である。また旧ドップラーレ ーダーで使用していたマグネトロンは 1 個あたりの耐用時間が約 4000 時間と短く、時間面から観測 実施可能な航海に制約を受けていたが、新ドップラーレーダーのモジュールの寿命は数年単位である ことから年間を通じて運用可能であり、ランニングコストも低く押さえられる。 ③ 時間・空間分解能の向上および観測可能域の拡大 パラボラアンテナが直径 3m から 4m へ大型化されたため、より狭ビーム幅の電波を送信可能とな り、角度分解能が 1.5 度から 1.0 度まで向上した。アンテナの水平回転速度も高速化され、より短時 間でのボリュームスキャン(三次元走査)が可能となった。またアンテナは従来よりも約 3m 嵩上げ され、航海用レーダーマストや後部マストを除く船体構造物の殆どを越えての送受信が可能となった。 これらの変更により、旧ドップラーレーダーに比べて時間・空間分解能が高く、遮蔽による観測不能 域(シャドー)の少ないデータを取得可能となった。 観測実績および今後の予定 「みらい」新ドップラーレーダーは、2014 年 6 月の性能確認試験航海において初めて電波を発射し て試験データを取得した。さらに 7 月の MR14-04Leg1 航海から本格的にデータ取得を開始し、日本周 辺海域の他、北太平洋中緯度域、北極海、および熱帯太平洋にて観測を実施した。今年度中の通算運 用日数は 180 日を超える予定であり、来年度には北極観測航海の他、熱帯インド洋における定点観測 も計画されている。発表当日は、換装工事以降に行われた機能向上や運用面における今後の課題につ いても報告する予定である。 写真 1 「みらい」に搭載された新レーダー(黒円内) 表1 写真 2 パラボラアンテナの設置の様子 新・旧ドップラーレーダーの主要目 項目 新ドップラーレーダー 旧ドップラーレーダー 周波数 5370 MHz 5290 MHz 送信管 固体素子 マグネトロン 偏波面 直交二重偏波(同時) 水平偏波 送信尖頭出力 12kW (6kW+6kW) 250kW パルス形式・パルス幅 パルス圧縮 非圧縮パルス パルス幅 1 ~200 μsec. パルス幅 0.5 μsec. / 2μsec. 最大探知距離 300 km 300 km 分解能(動径方向) 150 m 250 m ビーム幅 1.0 度以下 1.5 度以下 アンテナ径 4m 3m アンテナ中心高度(海面からの高度) 24m 21m
© Copyright 2024