「みらい」北極航海(MR13-06・MR14-05)における定点観測

「みらい」北極航海(MR13-06・MR14-05)における定点観測:
極域予測プロジェクトへの貢献
○猪上淳・山崎哲・小野純(海洋研究開発機構),
山口一(東京大学), Klaus Dethloff・Marion Maturilli・Roland Neuber (AWI),
Patti Edwards (Environment Canada), MR13-06・MR14-05 気象観測チーム
世界気象機関(WMO)は、数時間から季節スケールの気象予測精度向上を目指した極域予測プロジェ
クト(PPP)を推進している。特に、北極の気候変化を起源とする中緯度の異常気象(厳冬等)や北極
海航路上の気象・海氷予測など、予測精度向上の社会的ニーズは高まってきている。データ空白域で
ある北極海での観測活動の費用対効果を評価することは、温暖化適応策の一環としても重要である。
そのような背景のもと、2013 年および 2014 年の「みらい」北極航海(MR13-06、MR14-05)では、北
極海上で2〜3週間の定点観測を実施した。その目的の一つは、高頻度のラジオゾンデ観測で大気循
環の再現性・予測可能性を評価することである。複数の観測点があると効果的であるため、ドイツや
カナダなどの協力を得てラジオゾンデ観測網の強化(ARCROSE2013, 2014)も行った。協力観測点はニ
ーオルスン(2013 年:6 回/日、2014 年:4 回/日)、アラート・ユーリカ(両年:4 回/日)、ドイツ砕
氷船 Polarstern 号(2014 年:1〜2 回/日)である。観測データは全て全球気象通信網(GTS)に通報
され、天気予報等で利用されるとともに、大気再解析データにも反映されている。
この観測データの有無の影響を評価するため、地球シミュレータで作成している再解析データ
(ALERA2)を用いた観測システム実験、およびそれを初期値とした予報実験を実施した。本発表では、
2013 年 9 月 20 日前後に強風をもたらした高気圧の予測可能性に関して注目する。このイベントは風応
力を介して海洋にも大きな影響を与えたとされている。9 月 15 日 12 時を初期時刻として ARCROSE2013
のデータを含めた初期場(CTL)、含めない初期場(OSE)でそれぞれ予報実験を行った結果、数日後か
ら高気圧の位置に違いが出始め、4.5 日後にはロシア沿
岸域での風速差が 4 m/s 以上に達した(図1)。これに
は初期場に含まれる上空の極渦の不確定性が大きく関
ニーオルスン
与していた(図省略)。各観測点のデータを部分的に取
アラート
ユーリカ
り除く感度実験も実施した結果、この事例では「みらい」
とニーオルスンのデータが、高気圧とそれに伴う強風の
予測に感度が高いことが分かった。
風速差は海氷-海洋結合モデルにおける風応力に直接
反映されるため、北極海航路上の海氷予測にも影響が及
ぶ。そこで、上記の大気の予報場を海氷—海洋結合モデ
ルに与えた実験も行った。5 日程度の予報期間で海氷の
水平分布差が 25km 以上に達し、北極海航路の一部が閉
みらい定点
ロシア
アラスカ
じる傾向の事例でもあったことから(図省略)、ラジオ
ゾンデの特別観測は、気象予測だけではなく、海氷予測
にとっても有効であることが示された。2017−2019 年に
図1:4.5 日後の予報実験結果。陰影:高度 10m での風
は極域予測年(YOPP)が予定されており、
「みらい」等を
速差(CTL-OSE)
。等値線:CTL の海面気圧。観測を含ん
活用したこのような活動は PPP でも注目されている。
だ初期場(CTL)の予報で風速が大きくなる。