震災後の岩手県沿岸の砂泥底マクロベントス相 ○武田元気・木村航・田中克彦・荒川拓也・横山由香・坂本泉・根元謙次(東海大・海洋),藤巻三樹 雄(沿岸海洋調査(株)),笠谷貴史・藤原義弘(海洋研究開発機構) 2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波は,陸域に甚大な被害を及ぼした のみならず,海底の底質の攪乱や津波による流出物の堆積などによって沿岸環境に大きな影響を与え たものと推察される.津波の影響を受けた東北沿岸部は活発な漁業生産の場であり,震災後の海底の 生物環境を明らかにし,その変化をモニタリングすることは,大規模な攪乱に対する底生生物(ベン トス)の応答を理解するとともに,漁場環境の把握・維持管理に資するものと考えられる. 東海大学においては,東北マリンサイエンス拠点形成事業(TEAMS: Tohoku Ecosystem-Associated Marine Sciences)の一環として,2012 年度より岩手県沿岸の海底地形・地質調査を実施してきたが, 2013 年度より砂泥底マクロベントス分析用の試料採集を合わせて行ってきたのでその分析結果を報 告する. 調査は 2013 年 6 月 1-6 日,2014 年 5 月 29-30 日および 2014 年 11 月 26 日-12 月 3 日に行 った.2013 年は岩手県の広田湾,大船渡湾,唐丹湾,越喜来湾で,2014 年は広田湾および大船渡湾 で調査を実施し,各調査時に各湾の 5-10 地点においてスミス・マッキンタイヤ型採泥器(採泥面積 0.1 m2)による底泥の採集を行った.採泥は各地点において 2 回行い,船上で海水を掛け流しながら 目合い 1 mm のふるいにかけ,ふるい上に残ったマクロベントスを 10 % ヘキサミン中和フォルマリ ンで固定して持ち帰った.持ち帰ったマクロベントス試料は実体顕微鏡下で可能な限り同定した後, 計数および湿重量の計測を行った. 2013 年の調査の結果,14 の動物門に属する 298 種(魚類を除く)のマクロベントスが得られた. うち,軟体動物門は 66 種,環形動物門は 116 種,節足動物門には 80 種が認められ,全体の 88 % を 占めた.個体数においては,多くの測点で環形動物の多毛類,節足動物門のヨコエビ亜目が卓越する 傾向にあったが,二枚貝類が優占する測点もみられた.各測点の多様度指数(ShannonWiener の H') は広田湾で 2.28–3.54(平均:3.03),大船渡湾で 0.54–2.43(平均:1.53),越喜来湾で 2.46–3.55 (平均:3.07),唐丹湾で 2.87–3.38(平均:3.14)であり,大船渡湾で顕著に低い傾向があった.大 船渡湾の各測点から得られたマクロベントスは個体数の 90.3 ± 6.2(平均 ± 標準偏差)が小型の 埋在性多毛類によって占められる一方で,他の湾で頻出したヨコエビ類等の移動性ベントスはきわめ て乏しかった.また測点によっては汚染指標種として知られるシズクガイも豊富にみられた.これら より大船渡湾の海底は有機物負荷が高いことが推察され,それが多毛類に偏った多様性の低いマクロ ベントス相に反映していると考えられた. 各測点のデータに基づいて類似度指数(Bray Curtis 類似度)を算出し,クラスター解析(群平均 法)を実施したところ,大船渡湾の測点とそれ以外の測点に大別された.また,広田湾,越喜来湾, 唐丹湾の各測点は概ね湾毎のクラスターとしてまとまりを見せたが,広田湾奥部の 3 測点および越喜 来湾奥部の 1 測点は独立したクラスターを形成した.本発表においては,さらに 2014 年度分のデー タを加え,各湾のマクロベントス相の特徴とそれに関わる要因について考察する.
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