中 川 正 明 - 日本学生支援機構

京都産業大学
理事・学長特命補佐
中
川
正
明
ただ今ご紹介をいただきました、京都産業大学の中川と申します。これから 30 分ほど
で本学の取り組み事例を説明させていただきます。よろしくお願いいたします。
まず本学は昭和 40 年に経済学部と理学部の 2 学部で開学いたしました。現在は 8 学部
で、経済・経営・法・外国語・文化・理・コンピュータ理工・総合生命科学部で構成され
ています。学部在学生は 1 万 2843 名で、人文社会系が 88%理工系は 12%の比率です。京
都市北区上賀茂の 1 拠点で、キャリア教育を全学的に取り組むには良い環境にあります。
創設者は京都産業大学の「産業」を「むすびわざ」と読み取っております。モノ、コト、
そしてヒト、それらを結び付けて、新たな社会への人材として輩出していくという思いが、
この大学名に込められております。
今日のお話のポイントは、本学では教育力をいかに上げていくのか、という点です。教
養教育、各学部の専門教育、キャリア形成支援教育(なかでも実践的なコーオプ教育)こ
れらをスパイラル的に、学生生活全般・クラブ活動を通して、学びの深層化を図り、学士
力、あるいは生きる力を身に付けた人材を世に輩出していきたいというコンセプトです。
2013 年度のキャリア系科目は全 19 科目、単年度で 4415 名の学生たちが受講しています。
すべてが選択科目で、必須科目ではありません。新入生は、
「自己発見と大学生活」という
授業(ポータル科目)を主に受講します。そして、コーオプ教育と称される本格的な実践
教育、座学としてのキャリアデザイン系の科目、実践志向型のインターンシップであると
か、O/OCF-PBL、またキャリア・Re-デザインという再チャレンジ科目というような
各授業が、体系的に、あるいは時系列的に組み込まれたものが本学のキャリア科目の特色
です。
次のパワーポイント 4 は学
生の意欲の層をイメージして
います。全体の傾向としては、
意欲の高い学生が 2 割、中間
層 6 割、低い 2 割と、結果的
にはなるわけですが、海外イ
ンターンシップや、後ほどご
説明する O/OCF-PBL 科
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目などでは、意欲的に取り組まなければ結果が出て参りません。全体を引き上げながら卒
業時期の就職支援に持って行く考え方です。
キャリア Re-デザインをご紹介し
たいと思います。この科目は意欲の
低い層向けにプログラム化したもの
です。ここに対象が出ておりますが、
主にキャリア成熟度の低い学生、低
単位の学生たちは内面的に強く求め
るものが低いということが感じられ
ます。この科目は 10 年前に設けま
した。主にファシリテーションを活
用しながら授業展開がなされ、今日一定の効果が出ているプログラムです。就職支援の体
系では 3 年生を中心に組み込まれていて、6 回のガイダンスを実施しています。就活に立
ち向う時、学生たちの考え方の中に働き方まで出てこないと勤務地等も出てこないので、
ガイダンスの中心は自己理解、そして情報収集力をアップし、筆記試験対策をしていくよ
うなことを時宜的に組み込みながら 6 回実施します。そこで筆記試験に強くなるとか、就
活に自信を持つとか、知らない企業を知る。または求人情報等々の解説を含めながら、先
輩との出会いの場をつくる。また、就職が決まらない学生たちにはアナログ的・斡旋的な
支援を実施しています。体系的に時宜的に取り組んでいるのが、この就職支援の体系図で
す。ここでキャリア教育の成果、効果の一考察を見ていただきたいと思います。
数値として就職率を最初に出しております。5 年間の数字でございますけれども、実践系
と言われるインターンシップ、PBL、コーオプ教育等を受講した学生 1580 名の就職率が
97.7%でした。一方、キャリアの科目を受講していない学生は 6001 名で、その就職率が
93.8%で、その差は 3.9%です。
実践系の科目を受講した学生は GPA(Grade
Point
Average 国際的な成績評価の指標)
が高いという結果が出ています。それにフリーターになる率が低いということもこの結果
から出てきています。こういったデータは 1 つの参考で、私が 1 番強く感じている可視的
な成果・効果は、
『学生が自信を持ち、自己表現力がアップし、自己実現に向けてのエネル
ギーが出てくる』ということだとみています。このようなキャリア科目、あるいは実践的
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なことで色々な人と接することによって、様々な知識が入ってきます。それを集約し自分
のものとして、『発散的な思考』が出てきて、『自己実現のエネルギーが出てくる』と思っ
ています。
もう 1 つの考察は卒業生への追跡調査からのものです。キャリア形成支援科目の役立ち
度を 4 年間で追っています。規模的には 1 万名を超えた調査ですが、実質の回答率は 1300
名ほどでした。ここで申し上げたいのは、実践系の科目は、就活、あるいは学習意欲向上、
社会に出た後のいずれにも役立つということです。現在の仕事への取組みや現状という点
の追跡調査ですが、本学の卒業生がやりがいを持って現在の仕事に就いている、あるいは
長く勤めたいと考えているという結果が得られました。実践系科目の受講生に関しては、
職場内で良好な人間関係をつくっていこうという意識が高く、将来のキャリアアップを十
分に考えながら現在の仕事に取り組んでいる。一方、受講していなかった学生に関しては、
これも能力・適正・正当な評価・適度な労働日数という点を評価していますが、満足度が
表層的と捉えられ、実践系科目の受講生の深層的な考え方との違いが出ていると見てとれ
ます。このような面でキャリア教育の有用性というのがこの数字からも読み取れるのでは
ないでしょうか。また本年度も新たな調査をしていく時期になっており、本学のキャリア
教育を年々充実させるつもりですので、また数値が変わってこようかと思います。
行政側から就職の話でご説明がありました。この点をまとめたパワーポイントです。本
学の学生を見ても半数以上が、就職活動が自己成長のスタートだと感じており、向上心旺
盛に取り組む学生は円滑な就職ができるということです。ただ残念ながら半数以下の学生
は就職で迷走する。この原因として 3 点挙げています。まず『社会の要求』が分からない
(①)。先ほど経済産業省から社会人基礎力のご説明もあり、1 つの指標としてこれが読み
取れると思います。それから、
『何ができるか、何が足りないか』という、自己理解の問題
(②)、さらに、
『自分は何がやりたいのか』という自分探し(③)、あるいはキャリア観を
非常に持っているが、需要と供給の就職状況が分からずに青い鳥現象で追いかけていると
いう学生がいます。これらを解決するのに①②③をクロスさせるのが大学の課題であり、
『支援』であると思います。クロスさせないと、3 年以内に 31.0%が全国的には離職して
いるという問題は解決できない。潜在的には仕事観が希薄なのだろうと認識しています。
それから応募者の現状ですが、多数の企業採用担当者からヒアリングさせていただきます
と、今の学生は真面目できちんと取り組むが、一歩前に踏み出す力が欠如している、安定
3
志向の高まりで大企業に応募するけれども、本気度であるとか熱意が不足している、ある
いはマニュアル化・標準化で個性が感じ取れないといった声がよく聞かれます。一方、企
業の求める人材という点では、一番に、幅広くコミュニケーションが取れる人、あるいは
戦略的に発想ができるビジネス志向の方、それから国内外を問わず、広いフィールドで活
躍できるグローバル人材、等々が挙げられます。残念ながら応募の現状と求める人材との
差異が広がっているのが現状で、そこを埋めるのが大学の重要な役割と支援であると感じ
ています。
そこのところをキャリア教育の担うところが大きく、今申し上げた企業の求める人材、
あるいは学生の意欲の問題は、いわゆるソフトスキル(他者に触れる際に影響を与える一
連の能力-コミュニケーション能力・リーダーシップ等)をどのように醸成するかという
問題で、本来の大学教育としてはなかなか成り立っていない教育スタイル(あえていうな
らゼミナール、演習等)で非定形型の教育として身につけさせるものだろうと考えます。
大学の本来の教育というのは知識や技量というハードスキルを身につけさせるというスタ
イルであり、そこで今のキャリア教育ではインターンシップ・コーオプ教育でソフトスキ
ルを醸成している。これらは海外でも評価が出ておるというところでございます。このよ
うな経緯から本学では 2001 年にキャリア教育に本格的に取組み始めました。
当時、生徒から学生、学生から
社 会 人 へ の 移 行 に 関 す る
School to Work というような問
題がありました。
学生たちに身に付けさせたい力
として、根幹的な実力・見せか
けではない本当の実力・どんな
時代になっても適応する能力な
どがあります。
第一にヒューマンスキルです。
第二にコンセプチャルスキル、これは特に演習、ゼミナール等で養成していく。第三にテ
クニカルスキルというのは学部の基礎的な専門、加えて IT であるとか、語学力もこれに
あたるかもしれません。これらを大学時代の 4 年間の学部教育とキャリア教育で養成する。
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そして就職活動があり、その後の「キャリアの時代」といわれる四十数年間、あるいはそ
の後の人生を含めた時間を力強く生き抜く、人生の場面場面で幸せだと感じる「ライフプ
ラン」を組立てるために、大学時代に根幹的な実力を身につけさせようというのがコンセ
プトです。
本学ではインターンシップにつきましては、1~7 の科目があります。1 番右端はスター
トアップ・インターンシップといって、1・2 年生を対象に進めるインターンシップです。
2001 年にこの取組みを、コーオプ教育としてはじめました。本学のインターンシップには
たくさんの科目がありますが、そのなかで本学独自で企業を開拓しながら開講している国
内インターンシップ 3 は 2002 年に 107 名、海外インターンシップ 4 は 10 名が受講しま
した。そこでインターンシップの満足度を取りますと、非常に高い数値が出ました。93.4%
は事前学習、あるいは本番のインターンシップ、事後学習、すべてを通じての満足度です。
海外のインターンシップは 100%の満足度です。それから「あなたはインターンシップを
通じて大学の勉学の重要性を感じましたか」というアンケートの項目は、初年度 72.2%、
以降ずっと 70%を下回っているところはありません。海外に至りましては、80%、あるい
は 90%と非常に大きな数字で効果は大きいことが分かります。ところが 3 年生でインター
ンシップに取り組みますので、そこでもう少し気付きを早めさせることができないかとい
うことで、このオン/オフキャンパスフュージョン(O/OCF)という科目を立ち上げました。
この科目は、インターンシップを自己開拓することが原則でありましたが、その後商業的
なインターンシップが非常に増えてきて、手数料を取ってインターンシップに行くと、大
学の狙いと違うものが見えてきたので、この科目を変更し PBL を組込んだ科目に切り替
えました。オン/オフキャンパスフュージョンのプロジェクトベースドラーニング
(O/OCF-PBL)は、企業から課題をいただき、それに学生たちが取組むという形式で、
現在 10 社程度から課題をいただき、学生たちが取組んでいます。受講生は 364 名です。
それから今一つ、本年からスタートさせました本格的なコーオプ教育は、学生の自発性
を喚起しつつ、学部の専門教育を土台とした長期のインターンシップを中核に捉えている。
特徴は有償の長期インターンシップを 5 セメで行うということです。プログラムの狙いと
しては、能力アップを図りながらそれを使い、経験値を上げ、言語化をしていく。そして
自分の成長を語る根拠のストーリーを持てるというふうに育て上げたいということです。
本年度、この 3 セメのところからスタートしていますが、この 5 セメが長期のインターン
シップで、2 年生で言語化した能力をインターンシップの期間中に業務に融合させるとい
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うのがこの 5 セメの狙いです。最終的には根幹的な実力を養成し、世に輩出していきたい
と考えております。現在、中長期のインターンシップ(3 ヶ月から半年)を組み込むこと
で、企業・大学双方で人財を育てるという概念が、共有・醸成出来るスキームとして、既
にいくつかの企業に協力・賛同を得てスタートしています。
本学キャリア教育のスタートは 2001 年に教務部(現在は教学センター)でインターン
シッププロジェクトを立ち上げました。そして PDCA を行い、進化させ、現在はコーオプ
教育研究開発センターという名称で研究開発部門・教育実践部門・運営管理部門で進めて
います。
コーオプ教育というのは、従来の必須選択の単位を取得しながら大学を卒業し、社会に
出てから勉強をもっとしておけばよかったと「事後的で不可逆的な気付き」をなくすため
にオフキャンパスに出て、次の局面(気づきと勉学)
・局面を融合させながら教育を展開し
ていくというスタイルです。
コーオプ教育とインターンシ
ップはどう違うのかというご
質問をよく受けます。簡単に
申し上げますと、現在の日本
で行われているインターンシ
ップというのは、企業がプロ
グラムを作って、それを学生
たちが受講していく、インタ
ーンシップを就業体験する、
企業主導型ですが、コーオプ
教育は大学主導型です。そういう意味では PBL というのはコーオプに近いもので
す。全米でのコーオプ教育の定義ですが、学生の学問上・職業上の目標に関係する
分野で有益な職業体験を統合する、組織化された教育戦略により理論と実践を結び
つけ、漸進的な経験を提供する、学生、教育機関、雇用主の連携活動であり、当事
者それぞれが固有の責任を負うというのが定義でした。基本的には有償のインター
ンシップです。イギリスではワークプレイスメントという言い方で、原則は有償で
すが、現実には無償のものが多いようです。アメリカ、特に北米では 100 年以上の
歴史があり、日本でいうキャリア形成教育だと思います。ただ、導入での課題とし
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ては教育制度の違いがあります。日本では長期インターンシップを導入すると休学
等々しなくてはいけない、また雇用の問題が 1 番大きいと私は認識しています。北
米では職務を介した市場ベースと、職務の幅が非常に狭いのに対して、日本の場合
は人的資源としての総合職、究極は成長可能性や職業能力の高い学生が採用される
という違いがあります。また大学の職域においては、コーオプ教員、コーオプ・フ
ァカルティやコーオプスタッフといった専門人材が日本では存在しません。そして
非常に大きな仕事を担っていただくことになるコーオプ教員も日本には存在してい
ません。本学では今少しずつこの人材作りに取り組んでおります。
⑤日本の企業には学生
を育てようという意識は
まだまだ希薄であると非
常に失礼なことを書いて
いるわけですが、どちら
かというと日本の採用は
やはり狩猟型で、まだま
だ人材育成の域には入っ
ていないのではないかと
私は思っています。それ
から⑥のボリュームゾーンが人文社会系ということで、コーオプ教育の体験がどう
なのか(長期の職務レベル等)という疑問も感じています。⑩はカナダからコーオ
プ学生を受け入れている企業の声で、解決しなければならないテーマですが、近頃
は産官学の動きが出てきたことで私は追い風が吹いていると思っています。これを
機として産官学における Win-Win の関係を早期に構築できるかです。そのために
は協働で関係を作っていく、共生関係で好関係を構築するということです。具体的
には大学において学生の未熟さをどこまで補えるのか、企業にとってのメリットや
企業の魅力発信(就業体験等を通して)に繋がっていくか、若手の育成と就業現場
に刺激を与えることの発信と実践を構築できるのか、それから大学の問題としては
インターンシップの成果をどう評価し、教育として全学的に繋げられるのかです。
企業と大学との協働関係のポイントは 3 つあると認識しています。1 つ目は「目
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的の共有」つまり優良な人材を獲得したい、あるいは大学として優良な人材を輩出
したい。2 つ目は「一方だけでは達成できない」という、心的エネルギーの強化、
例えば今、金融機関等で求める人材とは、打たれ強いと言うかストレス耐性のある
人材ということをいわれますが、これは大学が最後の砦だろうと私は認識します。
それから 3 つ目は「協働すれば達成できる」という点、例えば大学は立派なそれぞ
れの教室を持っているわけですが、大学以外に教室を持ちたい。そして企業の方に
立派な先生としてロールモデルになっていただければということです。
そのためには大学
は人と組織、まず 1
番目に産学連携によ
る人材育成の基盤。
①に人材育成の目標
設定。そして⑤に教
育理論の正確な理解。
そして上のほうの組
織ですが、⑥に教育
に携わる教職員の評
価をきちんとしなく
てはいけない。大学はいかに研究論文を仕上げていくのかと、先生方はそれに注力
しますが、就業力ある学生づくりの最前線で頑張る先生をも大学が評価をしなくて
はいけない。さらに学長あるいは企業経営者の理解の促進というものも重要です。
それから教育プログラム、⑧座学・就業での実践融合カリキュラムを構築。⑫教育
効果を定量的に計る研究の実践。最後に教育人材、これが私は一番重要な部分だろ
うと思っています。⑬教育推進のための専門人材・組織と学内地位の確保。そして
⑮専門人材育成の実践をしていかなくてはいけない。本学では現在、共振的にスタ
ッフを育成することとして、事務職員、そしてアカデミック教員(教育に熱心な先
生方)を配し、大学でいう第 3 の職域、CO-OP スタッフを FD・SD 活動を通じて
養成し、コーオプ教育の効果をあげたいとしています。
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こ の 専 門 人 材 は 27
番の PPT にあります。
本学では今までの
取り組みに加えて、第
19 回 WACE 世界大会
in KYOTO JAPAN を
来年の 8 月に開催しま
す。これは、産学官連
携教育に携わる個人・
学校・企業・政府・自
治体等を支援し、その
普及、発展を目的とする唯一の国際機関である WACE(世界約 50 か国、900 以上
の教育機関等が加盟)が主催する最も大規模な世界大会です。また、来月 8 月 30
日には専門人材の養成あるいは事例状況、事例報告などさせていただく WACE プレ
大会を実施いたします。非常に雑駁で意を尽くせていない事例報告でしたが、これ
で終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。
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