平成15年度

2.6 テーマ【2-6】中高層ビルの地震応答制御に関する研究
2.6.1 はじめに
本研究テーマ担当者が提案した、都市部に並立する超高層ビルの風や中小地震による揺れを制御
する
「連結ビル制御方式」
が晴海再開発地区のトリトンタワーの制御に世界で初めて実用化された。
これはアクティブ制御法を用いているので大地震には供給できるパワーに限界がある。また、同一
振動特性を有するビルでは、相互作用力が得られないので、制御できない。
本研究テーマでは、この連結ビル制御方式を大地震にも適用できるように中高層ビルの地震応答
制御に拡張することを目標としている。この方式はビル間の相互反力を利用するので、本来大地震
の制御に適しているが、アクティブ制御では大地震に対応するために膨大な供給エネルギーを要す
るので、本研究ではそれに代わる2通りの方法を検討の対象にしている。その1つは、MRダンパ
を用いたセミアクティブ制御法、他はハイブリッド制御法である。MRダンパはMR流体に与える
磁場の強さを変えるだけで大幅に減衰力を変えることができる。最近では大容量のMRダンパの開
発可能になっているので、大地震にも適用可能になりつつある。ハイブリッド制御では、大地震に
は供給エネルギーの不要なパッシブ制御で対応し、エネルギーをそれほど必要としない高次モード
やパッシブ制御の不足分をアクティブ制御で応じる。本研究ではこれらの制御実現のための制御方
法について検討する。
また、並立する中高層ビルには同一高さのものが多いが、同一高さのビルはほぼ同じ固有振動数
を有しているので、今までの連結ビル制御方式では制御が困難である。そこで、本研究ではこの問
題にも適用可能な連結ビル制御方式を提案し、この方法の実現可能性を検討する。
2.6.2 MRダンパを用いた遺伝的アルゴリズムによるセミアクティブ制御
本研究では2つのビル模型構造物をMRダンパにより連結してセミアクティブ制御を行う。基本
的にはパッシブ制御の性質を持ち,減衰係数を変えることで行うセミアクティブ制御では、決して
システムが不安定になることはなく、アクティブ制御に近い制振性能が期待されている。しかし、
セミアクティブ制御の有効な設計方法は確立されていないため、遺伝的アルゴリズムを用いたセミ
アクティブ制御系設計法を適用する。今回、制御系では、状態フィードバック系を基に、場合分け
を行うことでセミアクティブ系へと拡張する。このとき、フィードバックゲイン K の決定に遺伝的
アルゴリズム(Genetic Algorithm)により決定する。このときLQ制御理論を用いたものと比較す
ることで本研究で提案する設計方法の有効性を検討する。構造物の応答を数値解析と実験により行
い比較した。発表論文[2-6-1]
図 2.6.1 が本研究で用いた2棟のビル構造物模型,図 2.6.2 はその構造物の振動モード形と固有
振動数を示す。構造物1,2共に振動モード形は同じなので,1次と2次モードの固有振動数のみ
示してある。この振動モード形と固有振動数から2自由度系で現される制御モデルが作成された。
これらの構造物の制御モデルの状態方程式とパラメータの詳細は発表論文
[2-6-2]
に示されている。
図 2.6.3 が制御系のブロック線図表示であり,行列 A, B および C は構造物の制御モデルを現す。
K が遺伝的アルゴリズムとLQ制御理論によって設計されるフィードバックゲインである。2通り
の方法で設計された各 K の値による制御比較が発表論文[2-6-2]に示されている。それによると,
遺伝的アルゴリズムの方が良い結果を示している。
振
動
モ
|
ド
形
5.551Hz
7.965Hz
16.697Hz
23.901Hz
1次モード
2次モード
構造物1
構造物2
図 2.6.1 並立するビル構造物模型
図 2.6.2 振動モード形と固有振動数
図 2.6.3 制御系のブロック線図と場合分けの条件
2.6.3 ハイブリッド制御方式による連結ビル構造物の地震応答制御
中高層ビルが大地震によって最も大きく揺れるのは1次モードであり、その揺れを制御するため
には大きな制震力が必要となる。これを外部からエネルギー補給によって制御することは現実的で
ないので、パッシブ制御で対応する。また、2次モード以上の高次モードも当然制御対象となるが、
その揺れの振幅は1次モードに比較して小さく補給すべきエネルギーも少なくて済むと考えられる
ので、これにはアクティブ制御で対応する。このようにパッシブとアクティブ制御を振動モードに
よって棲み分け使用するのが、本研究で提案するハイブリッド制御である。発表論文[2-6-3]
,
[2-6-4]
このハイブリッド制御法の実現可能性を調べるために図 2.6.4 のような模型実験装置を構成した。
2つのビル構造物の上部に設置されているのがハイブリッド制御装置であり、パッシブ部は並列配
置されたバネとダンパよりなっている。ダンパは永久磁石で作られた磁場内を駆動コイルが動くと
きに発生する磁気減衰によって得られる磁気ダンパである。このコイルに電流を流せばアクティブ
制御力が得られるので、ハイブリッド制御装置となる。
図 2.6.5 は制御系設計のために作成された制御モデルである。このモデルに基づいて、まずパッ
シブ部の最適設計を行う。これには定点理論を用いる。定点理論とは、構造物の周波数応答上で減
衰に依存しない特定な点に注目して、その点を最大値にする減衰値を定める方法であり、その特定
の点を定点と呼んでパッシブ要素の最適設計に広く用いられている。本研究でも、図 2.6.6 に示す
ようにその定点の存在が確認できたので、パッシブ部の最適減衰と最適バネ定数を設定する。
x11
c0
x21
m11
m21
40
k0
k22
k12
2
3
c11
520
1000
40
x12
x22
m12
m22 k21
c21
k11
c12
k23
c22
40
k13
50
250
250
図 2.6.4 ハイブリッド制御の模型実験装置
図 2.6.5 制御モデル
図 2.6.6 定点理論を用いたパッシブ系の設計 図 2.6.7 周波数重みの伝達関数
次いで、アクティブ部の最適設計をおこなう。アクティブ制御では、2次モード以上で制御力が
働くようにするために、周波数整形 LQG 制御理論を用いる。その時の周波数重み関数 Q、周波数重み
関数 R は図 2.6.7 のように決定した
本研究で用いた地震波は、阪神淡路大震災時の気象庁神戸観測所で測定された地震波を整形して、
各構造物の 1 次モードの固有振動数付近に地震波の卓越周波数を一致させて用いた。Fig7 に本東西
方向の神戸地震波の加速度の時刻暦応答を示す。
図 2.6.8 使用した地震波加速度波形(神戸 NW)
ここで、構造物に地震波が入力された時のシミュレーションによる応答を示す。使用する地震は
神戸 NW 波を用いた。パッシブ制御のみとハイブリッド制御の比較を周波数応答によって図 2.6.9
に示す。また地震波応答の比較によって図 2.6.10 に示す。周波数応答で見れば,パッシブ制御によ
って一次モード付近の制振が十分になされているので,ハイブリッド制御との差は殆ど見いだせな
い。2次モード付近はハイブリッド制御の効果が現れており,パッシブ制御との差が現れている。
地震波応答では,非制御時に比較してパッシブ制御によって応答制御が効果的である。これが本研
究の狙いでもある。つまり,パッシブ制御によって大地震に対応できており,アクティブ制御は補
助的である。
また、周波数整形 LQG 制御とフィルタ包含 LQ 制御との制御エネルギの比較を Fig12 に示す
周波数整形 LQG 制御を用いることはハイブリッド制御には有効的である。これは、低次モードはパ
ッシブ要素で制御して、高次モードをアクティブ要素で制御することにより、ハイブリッド制御を
効率的に活用することができ有効性であることが確認できた。
図 2.6.11 にはアクティブ制御と比較した本ハイブリッド制御時の制御エネルギーの比較を行っ
た結果を示す。アクティブ制御だけでは1次モードの制御に大きなエネルギー消費があるが,ハイ
ブリッド制御によって大いに省エネルギー化が図られていることが分かる。
図 2.6.9 周波数応答の比較
図 2.6.10 地震は応答の比較
図 2.6.11 消費エネルギーの比較
2.6.4 同一特性を有する連結ビル構造物の振動
同一特性を有する複数の高層ビル構造物が振動制御できない理由は、各ビルが同一挙動で振動
するので、同一高さで制御装置を連結するのでは相対運動が得られず、したがって相互に反力が得
られないことによる。この問題は制振装置の取り付け位置を変えることで解決できそうである。そ
こで、アクティブ制御ブリッジは水平に配置しながら段差を支持構造物で確保する新しい連結制振
法を提案する。
図 2.6.12 には幅の広い2棟の高層ビルの場合について基本構想を図示する。ビルが幅の広い構造
なので曲げとねじれを制御する必要があり,2機のアクティブ制御ブリッジを両サイドに配置する
構造である。アクティブ制御ブリッヂはスライドできる2重のセル構造物をリニア駆動機構によっ
てアクティブに伸縮できる構造物である。これがビル間に制御力を与えるアクチュエータの役割を
する。このアクティブ制御ブリッヂはビル間を繋ぐ通路の役割もする。セルの外筒の一端はビル A
に連結され,セルの内筒の一端はビル B の上端で支持された片持ち梁状構造物の下端と連結されて
いる。このように、2つのアクチュエータの作用点を異なる階高とすることで見かけ上異なる動特性
の構造物を連結した場合と等価となり、連結ビル制御の効果をもたらすことが可能となる。
本研究で提案する方法の有効性を検証するために構成した2棟の高層ビル模型構造物を図 2.6.13
に示す。制御対象構造物は 1000×250×250mm のアルミニウム製の同一特性を有する平板構造物か
らなり構造物1,2共に平板状支柱部分の板厚を2mm とし,構造物の相互作用が得られるように
している.このアクティブ制振装置はボイスコイルモータによるアクチュエータを使用し、その先
図 2.6.12 同一振動特性を有するビルの制御構想 図 2.6.13 検証のための実験装置
端に片持ち梁状支持構造物を取り付ける。この装置を2セット用い各ビル構造物の中間部の両側に
各アクチュエータを配慮する。
このような方法で両構造物が振動制御可能かどうか,実験によって確認することにした。制御系
設計とそのシミュレーション結果の詳細は発表論文[2-6-5]
,
[2-6-6]に報告したが,それを実験
によって確認したのが図 2.6.14,2.6.15 である。これらは,質点 m11 をインパルス加振して同箇所
を観測した制御時の周波数応答、時間応答である。図より 1 次、2 次モード共にシミュレーション
結果を実証する実験結果が得られた。特に、1次モードはよく制振されていることが分かる。また、
時間応答も収束していることが分かる。
2.5
Mass Point 11
-20
Uncontrolled
Controlled
-30
x 10
Mass Point 11
-3
Uncontrolled
Controlled
2
1.5
displacement [m]
-40
gain [dB]
-50
-60
-70
-80
-90
1
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
-100
-110
-2
-120
-2.5
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
frequency [Hz]
図 2.6.14 周波数応答の制御結果
0
2
4
6
8
10
12
14
16
time [sec]
図 2.6.15 時間応答に見る制御結果
発表論文リスト
*[2-6-1]田中,岩崎,渡辺,背戸,MRダンパを用いた遺伝的アルゴリズムによるセミアクティ
ブ制御,日本機械学会,第8回「運動と振動の制御」シンポジウム講演論文集,No.03-8,
pp.308-311,(2003.10).
*[2-6-2]T. Tanaka, Y. Iwasaki and K. Seto, Semi Active Vibration Control for Buildings Connected with MR
Damper, 7th International Conf. On Mechatronics Technology,pp.615-620, (2003.12).
*[2-6-3]M. Kato, T. Watanabe and K. Seto, Hybrid Vibration Control for Flexible Structures Connected by
Control Device, Proceedings of Asian-Pacific Vibration Control, pp.248-252, (2003.10) .
*[2-6-4]加藤,渡辺,背戸,構造物の連結ハイブリッド振動制御,日本機械学会,第8回「運動
と振動の制御」シンポジウム講演論文集,No.03-8,pp.589-591,(2003.10).
*[2-6-5]佐野,渡辺,背戸,同一特性を有する連結ビルの振動制御,日本機械学会,第8回「運
動と振動の制御」シンポジウム講演論文集,No.03-8,pp.592-596,(2003.10).
*[2-6-6]M. Sano, T. Watanabe and K. Seto, Hybrid Vibration Control using Contolled Brides for Flexible
Building Structures with the Same Dynamic Characteristics, Proceedings of Asian-Pacific Vibration
Control, pp.610-615, (2003.10) .