事例に学ぶ! 処方箋監査 vol.6 下 平 秀夫 先生 帝京大学薬学部実務薬学教室 / 富士見台調剤薬局 このシリーズでは、新人薬剤師ハツミさんの失敗談を例に処方箋監査を学びます。 おやおや? ハツミさん、なにか困っていますね。どうしたのでしょうか? 事例 処方箋 氏 名 椿 アヤメ 生年月日 昭和40年3月4日(49才) 交付年月日 平成 ○ 年 △ 月× 日 医 療 機 関 アルシス病院 渋谷区******* 電 話 番 号 03-6861-**** 保 険 医 桜 菖蒲 処方箋の使用期間 1) ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用) 1回2.5g (1日7.5g) 1日3回 毎食前 14日分 処 解 方 説 2) ツムラ柴朴湯エキス顆粒(医療用) 1回2.5g (1日7.5g) 1日3回 毎食前 14日分 新人薬剤師ハツミさんは、漢方製剤の処方箋を受 付ました。患者の椿さんに、「すぐご用意しますの でお待ちください。」と言って調剤を始めたところ、 先輩薬剤師から、「ちょっと待って、疑義照会が必 要だよ !!」といわれてしまいました。 えっ?!疑義照会 ・・・ ? ? 漢方製剤が同時に2種類処方されているときは、構成生薬を確認しましょう。 漢方処方の加減方、合方についても調べておこう! 漢方製剤が2種類処方されているときの注意点 2 種類の漢方製剤が同時に処方されたら、構成生薬の重複を確認しなければなりません。構成生薬の同じものが重複す ると、副作用出現の可能性が高くなります。ハツミさんはこの 2 つの漢方製剤の構成生薬を調べてみました。 ●半夏厚朴湯の構成生薬:半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜 ●柴朴湯の構成生薬:柴胡、半夏、茯苓、黄 、厚朴、大棗、人参、甘草、蘇葉、生姜 半夏厚朴湯の構成生薬すべてが、柴朴湯の構成生薬に含まれているのがわかります。実は、柴朴湯は別名を「小柴胡湯 合半夏厚朴湯」といい、小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方(ごうほう)だったのです。 漢方の処方の加方、減方、合方 漢方には、その 1 つの処方を中心として、ある生薬を加えたり(加方)、あるいはある生薬を減らしたり(減方)、また は2つ以上の処方を組み合わせて処方する(合方)場合があります。下記に例を示しました。 加方 ・「桂枝湯」に 根を加えると「桂枝加 をともなうときなどに用います。 ある生薬を加えた処方 (桂枝加 根湯」となります。風邪のひき始めで、肩こりや頭痛 根湯から麻黄を抜いた処方ともいえます。 根湯の構成生薬:桂皮・芍薬・大棗・甘草・生姜・ ・「桂枝湯」の芍薬を増量すると「桂枝加芍薬湯」となります。 減方 ある生薬を除いた処方 合方 2種以上の処方を 合わせて用いる 根の6種類) ・「桂枝湯」の生薬から芍薬を除くと「桂枝去芍薬湯」となります。 (桂枝去芍薬湯の構成生薬:桂皮・大棗・甘草・生姜の4種類) = 小柴胡湯 + 半夏厚朴湯 ・柴朴湯 = 小柴胡湯 + 五苓散 ・柴苓湯 ・柴胡桂枝湯 = 小柴胡湯 + 桂枝湯 ・温清飲 = ・胃苓湯 = 黄連解毒湯 + 四物湯 + 五苓散 平胃散 ※ 通例、構成する処方内で重複する生薬は、多い分量の処方に順じます。 ハツミさんの対応と疑義照会の結果 先生に疑義照会をしたところ、処方ミスだったようです。前回まで、椿さんには喉に異物感があり呼吸するのがつらく、 咳も出ていたため、「柴朴湯」を処方していました。しかし、この頃では咳の症状は治まり、喉の異物感だけが残って いるということだったので、今回は「半夏厚朴湯」に切り替えたつもりだったとのことです。どうやら処方入力時に前 回の「柴朴湯」を削除し忘れてしまったようです。 2014年8月作成
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