日本海溝陸側斜面のタービダイトとして記録された巨大地震発生履歴 ○宇佐見和子・池原 研(産業技術総合研究所) ,金松敏也(海洋研究開発機構), Cecilia McHugh(Queens College, C.U.N.Y.) 海底堆積物中のタービダイトから過去の地震履歴を推定する「タービダイト古地震学」は世界の各 地で行われており,成果を上げてきているが,日本海溝域での適用例はこれまで非常に限られていた. 我々は,過去の日本海溝周辺海域を震源とする地震の履歴を海底堆積物中のタービダイトの堆積間隔 から解明する目的で,NT13-19 次航海(調査範囲:北緯 37.5~40°,東経 143.5~144.16°,水深 4000 ~6000 m)において,海溝陸側斜面下部の midslope terrace(MST)と呼ばれる平坦面上の小海盆から, 24 本のピストンコアを採取した.採取されたコア試料はすべて,珪藻質細粒堆積物中にタービダイト と考えられるイベント堆積物(粗粒層)を挟在する.これら粗粒層は,堆積構造・構成粒子・地理的 条件からみて,地震に関連して発生した混濁流から形成されたタービダイトであると考えられる.こ の調査範囲においては, 一般に 39°10′N 以南のコアにおいて比較的タービダイトの挟在頻度が高く, 北部でやや挟在頻度が低い.これら調査海域北部から採取された 8 本のコアには,6 世紀の榛名−伊香 保テフラ(Hr-FP)の挟在が確認された.この挟在深度から計算すると,調査海域北部の堆積速度は平 均 153 cm/kyr であり,この堆積速度はこの付近の水深 2000 m 付近に比較して数倍程度速い.堆積速 度が速いことは,この海域におけるイベント堆積物の保存ポテンシャルを高めていると考えられる(池 原ほか参照).そこで,さらに詳細なタービダイト堆積年代を決定するため,最初に放射性炭素年代測 定を試みた.調査海域は CCD 以深で,浮遊性有孔虫遺骸を用いての測定は困難であったため,バルク 有機物を用いて測定を行った.得られた年代値のプロットはコア深度にほぼ比例して直線的な増加を 示したものの, Hr-FP テフラの前後において測定した年代は,テフラの噴出年代に比較して 2000 年程 度古い年代値を示した.次に,これらのコアにおける残留磁化測定結果を検討したところ,偏角に表 れる地磁気永年変化(paleomagnetic secular variation)がコア間対比や堆積年代推定に使える可能 性が示された.特に PC08(39°16.4'N,143°56.7'E)および PC10(39°07.2'N,143°54.2'E)の 2 本のコアでは,コア下限でそれぞれ BC 3000,BC 4000 付近までの比較的明瞭な記録が得られ,この記 録を基準にして推定したタービダイトの堆積年代は2本のコア間で一致した.さらに,これらのター ビダイト堆積年代は,三陸海岸―南相馬地域から報告されている陸上津波堆積物の年代とほぼ整合的 な結果が得られた.しかし,北部5地点のコアで確認できているにも関わらず,対応すると考えられ る津波堆積物の報告がないタービダイト(BC 700 付近)が存在する.これは津波を伴わない地震であ ったか,何らかの理由で津波堆積物が保存されなかった/未だ発見されていないのか,その他の可能性 も含めて検討が必要である. 本研究によって,日本海溝域の MST はタービダイト古地震学の適用に極めて適したエリアであるこ とが明らかとなった.今後さらに海域におけるタービダイトと,津波堆積物記録との対比を進めるこ とにより,過去の日本海溝における巨大地震の震源域および発生年代の履歴をより正確に復元してい くことが可能であると考えられる.我々はこの NT13-19 の結果を踏まえ,YK14-E01 航海でさらに MST において 10 本のピストンコアを採取している(金松ほか参照) .これら最新の追加データとの関連も 含めて報告を行う.
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