〈解説〉手軽に使えるプレス成形シミュレーションとクラウド活用

解説
滷
手軽に使える
プレス成形シミュレーションと
クラウド活用
㈱先端力学シミュレーション研究所
プレス成形シミュレーションは大手自動車メー
カーをはじめ、多くのプレス金型メーカーを中心
堤
真人*
待できる、複雑形状の絞り製品での成形性、主に
割れ・しわの検討事例を紹介する。
に普及しており、部品設計や金型設計にはなくて
はならないツールとなっている。しかし、その一
金型製作前の仮想試作
方で導入に踏み切れない中小金型メーカーも少な
くない。部品形状の複雑化や軟材から高張力鋼板
写真 1 は自動車インナーパネル部品のファー
へのシフトなどによる高度な技術を要する加工で
ストトライ結果の一部である。割れやひけが発生
は、技術者の勘と経験値だけでは対応できず、ト
しているため、形状の修正が必要となり、金型調
ライ&エラーを繰り返していることが多い。また
整現場では凸部の形状を割れが発生しないところ
人材不足の問題から、担当者を確保できず、シミ
まで落とす作業が発生する。
ュレーションの効果を理解しつつも導入に踏み切
金型を削り、R を整え調整しながらのトライに
れない企業もある。高張力鋼板の解析では、適切
なるため、非常に工数がかかる。また手作業での
な材料パラメータの取得が困難であるため、手軽
修正となるため、CAD データには反映されてお
に精度良く実施するにはハードルが高い。ここで
らず、部品のスペアなどの作成が必要になった場
は、手軽にシミュレーションを実施し、効果の期
合などは、同じ形状で作成することがほぼ困難で
*
ある。こういった不具合が金型製作前に検証でき
(つつみ まさと):営業企画部 担当部長
〒351−0104 埼玉県和光市 2−3−13 和光理研インキュベ
ーションプラザ
TEL : 048−450−1351 FAX : 048−450−1350
れば、金型調整工数が削減でき、形状再現性も可
能になる。そこで、この不具合がシミュレーショ
A
B
写真 1 正規形状でのトライ結果
第 53 巻 第 3 号
(2015 年 3 月号)
23
−19.14%
−27.8%
B
A
図 1 シミュレーション結果
0.59
料の特性データおよびプレス加工条件になる。材
実線:成形限界線図
点線:安全線(安全率 25% 設定)
料特性データについては、シミュレーションソフ
トウェアにデフォルトで登録されているデータを
0.48
使用すれば、特別準備する必要はないが、特殊な
ひずみ 1
材料になると、材料引張試験を実施しデータを取
0.36
得する必要がある。
シミュレーション設定はプリプロセッサーで行
い、デフォルトで登録されている金型レイアウト
0.24
を使用することで誰でも簡単に短時間でセットア
ップすることができる。設定した金型プレスモー
0.12
ションの確認は、プリプロセッサーにて行い、金
型の動作確認も PC 画面にて視覚的に確認するこ
−0.01
−0.29
−0.12
0.00
0.12
0.24 0.31
ひずみ 2
図 2 成形限界線図(FLD)
とができるため、初心者にもわかりやすく簡単な
操作で実行することができる。シミュレーション
準備が整ったら、計算ソルバーにて実行処理を行
う。
ンすることで対策可能であったのか、シミュレー
図 1 はシミュレーション結果を板厚ひずみの
カラーコンター図にて表示している。A 部の板
ションを実施して検証した。
シミュレーションを実施するにあたり準備する
厚ひずみが−19.
1%、B 部の板厚ひずみは−27.
8
データは、ブランク材の輪郭図 CAD データ・成
%と使用材料である SPCC の材料特性伸び率 40
形に必要なパンチ・ダイ・ブランクホルダー(し
%を考えると割れの発生は低いと考える。
わ押さえ)の金型形状 CAD データ、使用する材
しかし、材料特性での伸び率は一軸引張での伸
B
A
図 3 成形限界線図 節点取得
24
プ レ ス 技 術