新春特別鼎談 水道事業の活性化と 給水サービスの持続を目指して ∼管工事業とエンジニアリングの連携が 生み出す新たな事業展開(その2) ∼ 出席者 眞柄泰基氏(トキワ松学園理事長、水道運営管理協会顧問) 粕谷明博氏(全国管工事業協同組合連合会専務理事) 福島一郎氏(メタウォーター株式会社常務取締役営業本部長) 地域の水道を支える管工事業とエンジニアリングのコラボレーションが、具体的に成果を上げ ている事例がある。高山市の水道がそれだ。高山市でどんなチャレンジがあり、どう発展させつ つあるのか、その事例を語りつつ、今後の水道の維持継続の方策を探った。 (司会 水道ネットワーク通信 有村源介) なりました。そうした中で、砂田さんという方と 水道継続へ「地産地消」の仕組みで 巡り合うことができ、大変お世話になりました。 砂田さんは惜しくも亡くなられましたが、最初の ――メタウォーターは高山市で、管工事業の 出会いで「高山の水は俺たちが守る」とはっきり 方々と連携し、水道事業の包括委託を実施されて 言われました。背筋がすっと伸びているという印 います。新しいモデルとして注目されているとこ 象が強く、「俺たちが守る」という強い言葉に感 ろですが、その経緯について福島さんからご紹介 動し、一緒にやってみたいという思いにかられま 願います。 した。 福島 私が当社の担当者と共に高山市の方々に、 いくつかのやり取りがあって、最終的には高山 これからの高山の水道を維持していくためにはど 管設備工業協同組合、東洋設計、月島テクノメン のような方策が必要かということを最初に提案さ テ、メタウォーターの出資によるSPC「㈱高山管 せていただいたのは、2006年のことでした。ご承 設備グループ」を設立し、高山の水道と簡易水道 知かと思いますが、高山市は2005年(平成17年)の の運転・維持管理を担うことになりました。 大合併で、周辺9市町と合併し、これまでの140 当時は、2002年の水道法改正による第三者委託 ㎢の市域から2,000㎢という広大な市域を有する が話題になっており、地方自治法の指定管理者と に至りました。これは東京都に匹敵する広さであ どう違っていて、どちらを選ぶんだ、という話が り、市の行政を再スタートするにあたり、山間部 盛んにされました。今でもそうした話題が出てい の広大な市域に水道施設が散在するという状況に るようですが、当時から私は、制度としてどちら −8− にお邪魔して、色々意見交換をさせていただいて います。特に印象深かったのは、次のステップを もう考えておられる点で、配水管の維持管理につ いても、携わる組織を決めて、市と相談を始めて いるのは素晴らしいことだと思いましたし、組合 にとっては、管路の管理業務にどんどん広がって いけば、自分達の出来る事がまた広がってくると いうことで、いいことだな、と思いました。何か 課題が出た場合、それが水道法に関係するような 話であれば、色々相談してくれれば私自身、動く よ、ということは言ってきたところです。 福島 この鼎談の最初に話題になった、蛇口側、 給水側から、関係する方々が水源のことまで本当 によく見ているモデルだと思います。だからこそ、 地元の管工事業の方々が、自主的自発的に住民の 立場に立つというアプローチがあると私は思って います。そのような中で、2000年当初に私どもが 「法制度の選択より内容こそ」と強調する福島氏 高山市にお邪魔したきっかけは、浄水場のセンシ を選ぶかということが大きな問題では無く、水道 ングとかテレコン・テレメで何か役に立てればと というものは、「地産地消」でやるべきで、水道 いうことでした。 の運営に対する評価についても、その地域にとっ 粕谷 これから全国的に、簡水や小規模施設の て必要か否かがすべてだと思っています。その地 統合を始めとする広域化の話になると、どうして 域で認められる存在として、水道界全体がその地 も山奥にぽつんぽつんとある簡水などをどうやっ 域の水道のあり方を許容するというか、認めると て統合していくかという話になると思いますし、 いうことで良いのではないか、と高山市の水道に 一つの簡水だけを対象に官民連携と言っても出来 携わりながらそう思いました。議論の中で、制度 としてこれから選ぶべき方向はどっちなんだ、と よく問われました。地域の水道を一緒に守ってい く中で、管工事の方々と共に技術を伝承できる人 材を育成していきましょうと、提案させていただ きました。守るべき町があって守るべき人がいる、 ということです。素敵だな、と一緒にやりながら 思いました。それを持続できる仕掛けを一緒に育 んでいきたいと凄く思いますね。 きっかけは浄水場のセンシングやテレコン 粕谷 全管連の本部でも、高山市の事例は凄く 良いモデルだと思っており、機関誌で何回も取り 上げています。つい先日も……。 福島 取りあげていただきまして、ありがとう ございます。 粕谷 全管連の経営委員会という組織で高山市 −9− 分担して持ち合うメリットを説明する粕谷氏 ないし、どうやってまとめてやるかということが に、投資した資金が生きるような水道のビジネス 課題になると思います。そうした時に、高山市の モデルに持っていかないといけないと思いますね。 事例というのは大変参考になるし、関係する団体 粕谷 27年度予算に関して財務省のガードは固 や組織が互いの利害を越えて、広域的に官民連携 いということは聞いていました。元々、特別枠で により受託していく、というモデルにもなると思 の予算要求なので、ゼロベースでしたが、金額的 うんですよ。だから水道事業体側にもどんどん勉 には残念な結果です。全管連としても、当初予算 強してもらいたい手法だという気はしています。 がしっかり確保されて、年間を通じて安定的に工 事が発注されることを期待していました。それで 国の「補助金」から「出資金」へ も新しい予算項目が設けられ、予算額についても 減少から増加に転じたことは高く評価できると思 眞柄 そういう意味では、新年度予算で別枠と います。全管連でも自民党水道事業促進議員連盟 して要求していた耐震・広域化の500億円に注目 の先生方に熱心に要望活動を行ってきました。そ していたのですが、交付金として性格を変えて50 の成果もあったのではないかと自負しています。 億円が措置されることになりました。その前に補 いずれにせよ、増加傾向に転じた予算を更に伸ば 正予算が措置されているわけですが、どうやって すためにも引き続き要望活動をしていかなければ それらを水道全体で活用するか、という発想が必 ならないと思っています。 要だと思います。これまでのように、水道事業体 出資する以上は参画を が主体的にやる広域化では無理だということが明 らかになっています。だから、新しい水道事業の モデルを作らないといけないし、その時にコンセッ 福島 よく、「金を出すけれども、事業には口 ションも含めて、国の補助金や交付金があるにし を出さない」という方々がけっこうおられますが、 ても、他の所からの融資というか資金とあわせて お金を出していただける以上は、口も出していた 新しい水道事業を展開する、という風に考えない だきたい、と思っています。金を出していただく と、資金を効果的に使えないと思います。10年先 以上は、きちんとその事業に関わり合いをもって 新しい水道事業のモデルを語り合う3氏。左から福島氏、眞柄氏、粕谷氏 −10− いただきたい、と常に思いますね。ファンド的な 立ち位置ではなく、その地域での水道を構築する ために資金を注入するということを決断した以上、 オーディット(監査審査)的なものではなく、プラン ニングの段階でも参画していただいて、かけた費 用に対してはっきりとした立ち位置からご意見を いただきたい。そういう仕掛けをしないと、私ど もが事業執行を担おうとした時、全体像や関係者 の考えていることが、ある意味で見えなくなる時 が多いのです。そこをきちっと評価していただい て、時には「進む方向が5度ぐらい違っていると か、いやいや全然90度違う」といったことも含め て、参画意識を持っていただきたいと思いますね。 眞柄 つまり、そういう会社法人に出資してい る者のコンプライアンスとガバメンスが重要だと いうことですよ。それが無いまま、どこかのファ ンドのような関わり方をされたら、不安が大きく 「制御系は設計し直して再整備を」と提言する眞柄氏 て一緒に取り組める仲間として仕事できないです からね。 いプラットホーム的なものを、管工事業の皆さん 粕谷 管工事組合の立場としては、単なる下請 が良い意味での「いいとこ取り」で使う形を先に けとして働いていたうえ、途中で事業から撤退さ 固めた方が、日本的な民間活力の導入なり、いず れたのではどうしようもありません。 れ議論することになりますが、コンセッションに 福島 高山でも、地元の方々は最初、声をかけ は合うのではないかと思っています。 られて、おっかなびっくりという印象だったです 眞柄 ご指摘の通りだと思います。特に地方の ね。「東京から来て偉そうに分かっているような 首長さんとか議会では、選挙の度に方針が変わる 事を言うてから……」、という感じで言われたん という事はままあるわけですから、その地域の政 です。 治と経済に左右されるような水道サービスは、確 固たる水道サービスでは無いということです。 政治に左右されない仕組みづくり 粕谷 ある意味、水道局に守られて育てられて きた管工事組合が、ある日突然、競争入札にさら 福島 当初は、「いやいや違います。」と。逆 されるという事態もあるわけです。現にいっぱい に、言われて目が覚めた部分も当然ありますが、 そうしたことが起きています。それの打開策とし 今ではもう、どうやって今の仕組みを継続してい て、引き続き政治力を使ってひっくり返そうとす けるかということが、お互い重要な課題になって るのか、そういうことではなくて、「平場」で競 おり、多少は他の事例も持ち合わせている会社と 争できるような形に姿を変えていくのか、という して、次のステップに進むための材料を提供でき ことですね。 ると思っています。ある部分までは積極的に関与 目指すべきはコンセッション するけれども、後は地域で担っていってもらいま す、という形を先に作ることが必要です。正直に 言いますが、行政側では、行政と管工事業だけで、 眞柄 だから、やはり、今後の方向はコンセッ 水道を継続して運営していける仕組みを続けられ ションだと思います。事業権を買って自分達で20 るとは思っていません。それは法律以外の色々な 年あるいは50年事業をまわして、適正な利益を得 別の要素が加わりすぎるからです。もう少し平た て、場合によれば出資者にリターンをして継続さ −11− せていく。そういう形でないと、これからの日本 多分、そうしたことが出来るきっかけですよね。 の水道は成り立たないと僕は思っています。 眞柄 必要最低限のものでいいんですから。そ 「人・物・金」と言いますが、兎に角、金しか無 れで余った分は配水池を大きくすればいいんです。 い。人材はもとより、物も無いんだから。よく、 安定給水には配水池は大きくした方がいいけれど、 金がない、資金が不足して…と言いますが、少な 今度は浄水場を動かす時間が大幅に減少します。 くとも、金は今の形で回っています。表現が悪い そういう水道が全国的にどんどん出てきています。 かもしれないけれど、ノウハウを持った中枢は、 余裕があるものを作るのもいいけれど、皆がそう 東京なり大都市にあって良いわけです。 いうものを作ってから、そろそろ30年40年経つわ つまり、全国の色々な地域で水道を経営してお けだから、福島さんが言われたコントロール系と り、従って、色々なところに事業所があるという センサーを実態に合わせて設計をし直すというこ ことですから、現在はそれぞれの事業所に危機対 とをしないと、この先大変なことになると思いま 応の人間を置いてある。しかし、そんな必要はな す。構造物はなかなか壊せないですが、神経系と、 いわけです。日本中、全ての所で同時危機という 機能をコントロールする部門、制御系は、機能を 事態は、戦争でもない限り起きないのですから、 現実に求められているニーズに合わせて設計し直 どこかで災害が起きたら他の事業所から行けばい して、再整備しないと施設全体が円滑に動かない いのです。 ですね。 現在は、自分の所で災害が発生した時のために、 人員で言うなら、水道の事業体は事業体で必要 常時、人を置いておかなければなりません。場合 な人員を雇えばいいので、不要な人員を雇用する によれば、薬品の備蓄までやらないといけない。 必要はありません。資産管理をやるメンバーと、 こんな不経済なことはないですよ。そんなことや 水道使用者へのサービスは、SPC的な組織がや っていたら、日本の経済活動はストックばかり置 ればよいので、サービスに必要な人材は同じ高山 いておいて、しかも、使わないストックだらけに の人がそこで勤めればいいのですから。それは職 なっている。在庫率が上がったとか下がったとい 能のグループと組織のグループと違うということ った、短期の在庫の話など、どうでも良いことで です。職能は職能で担当しなければ合理的ではあ す。そういうことをやっていたら、ますます日本 りません。 のインフラは全部ダメになってしまう。だからこ 地域の水道を一緒に守る れからの社会構造の中で、サービスを提供し続け るためのビジネスモデルというものを作らないと いけない。それが新しい広域なり何なりのイメー 福島 高山市そのものは行政として、SPCを核 ジだなと思っています。 とする新しい水道の仕組みを理解いただいており ます。それはアウトソーシングしているという発 供給予備力から分担・効率化へ 想ではなく、高山という街の中で、水道に関わっ ている高山の人間が、たまたま市役所に勤めてい 粕谷 かつて日水協設計指針で、浄水予備力な るか、管工事の会社に勤めているかという違いだ どと言った時代がありましたよね。右肩上がりで けで、そういう意味での「地産地消」の典型なん どんどん成長していた時代なので、安定給水をど ですね。ですから、規模の大小を始め、関係者の う確保するか、ということがテーマでした。今、 中でも色々な違いがありますが、亡き砂田さんや 先生がご指摘の通り、それぞれが自分のところで 当時の市長は「(事業の中身は)高山のことだよ 持とうとして、予備力どころか危機管理力を下げ な、官も民もない、高山の水道事業だよな」とい てしまったということが言えると思います。広域で う認識がまずあって、そのことについて、行政も 連携して共有して、あるいは分担して持ち合う事 管工事会社とも両方が、最初のとっかかりの時期 によって、小さい規模でもやれるということになる に、堂々と議会に説明をし、「あなたも高山の市 のかな、という風に思いました。広域というのは、 民ですよね」ということを主張していましたね。 −12− そこが素晴らしいところでした。だから一緒に仕 れど、人口移動が起きている中で、全国的にお互 事ができると思いました。 いに知恵を出して、水道サービスをどうするべき か、という取り組みが始まっていると思います。 企業は最後まで行動を共に 福島 お尻に火がついているということがある にしても、やっていかなきゃいけないんだ、とい 眞柄 フランスにおいては、かつてのリヨネー う思いで本当に皆さんすごいモチベーションとい ゼ・デゾーにしてもジェネラル・デゾーンにしても うかモラルが高いですよ。 リヨン水道公社や、パリの中央水道公社で、それ 眞柄 それは、これからの水道の流れですね。 らが株式会社になっただけの話です。リヨンの水 その中で今一番期待しているのは、地域の中核で 道公社がリヨン水道会社になって、フランスの国 ある大中水道がどういう形でコミットされるかと 内の中小水道のコンセッションを得て仕事を拡大 いうことです。同時に、もっぱら大中水道とタイ して行っただけの話です。だから、今福島さんが アップして仕事をしてきた民間企業の方達が、現 言われたように、高山でやっていたSPCが、高山の 状をビジネス・チャンスとしてどうコミットされ 近隣の水道をやるということもありうるという話 るようになるか、です。逃げられたら水道は経営 です。それが岐阜の高山の一帯を担う水道会社だ していけませんからね。だから民間の方達も、事 という話になることは、何の不思議もありません。 業から撤退しないで一緒に付き合ってくれること 粕谷 既に、飛騨市をはじめとして、連携は始 を、強くお願いしたいと思います。 まっていますよね。 眞柄 過疎化と称する人口移動が起きているけ ――ありがとうございました。 −13−
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