住宅設備の最新事情

特集
豊かで安心な暮らしを支える最新の住宅設備事情
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住宅設備の最新事情
さくら い
住宅評論家
ゆき お
櫻 井 幸雄
1954 年生まれ。
年間 200 物件以上の物件取材を行い、首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、福岡、札幌など全国の住宅事情に精
通する。現場取材に裏打ちされた正確な市況分析、わかりやすい解説、そして文章のおもしろさで定評のある、
住宅評論の第一人者。日本テレビ「ヒルナンデス」やテレビ朝日「モーニングバード」などテレビ出演も多い。
■主な著書
「妻と夫のマンション学」
(週刊住宅新聞社)
「かるリフォーム」
(小学館)
「知らなきゃ損する! 21 世紀マンションの新常識」
(講談社刊)
。
はじめに
キッチンはオープン型に合わせて進化
住宅設備の進化は、想像される以上に早い。実は、家
キッチン設備では、まず、システムキッチンのカウン
電製品と同じくらいの頻度で新製品が発表され、機能が
ター(作業台)の材質に注目したい。人工大理石と呼ば
改善されている。キッチン、浴室、トイレ、洗面所とい
れる強化プラスチックもしくはステンレス製は以前から
った水まわり設備だけでなく、セキュリティ関連や快適
あるもの。これに対し、最新設備では、
「石粉入り」人工
関連の設備も進化が速いのは同様。そのため、家電製品
大理石がある。自然の石に近い風合いにあるが、自然石
と同じように「10 年ひと昔」といわれるような状況が生
のように欠けたり、
ヒビが入ったりしにくいのが特徴だ。
まれている。
流し(シンク)では、水はね音を軽減させる「静音シ
例えば、昭和の時代まで、床暖房の入っている住宅は
ンク」が当たり前の設備になっている。これは、ステン
ほとんどなかった。そして、20 世紀まで、オートロック
レス製シンクの裏側に断熱材や吸音材を貼り付け、水洗
は一部のマンションにだけ採用される先端設備だった。
いするときなどに発生する音を小さくするもの。ステン
それが、現在はいずれも「当たり前」の設備となってい
レス板自体も分厚くなっているため、最新キッチンでは
る。
水音が大幅に軽減されている。
もう一つ、意外な進化を紹介すると、
「都市ガスを使っ
マンションのキッチンでは、ディスポーザー(生ゴミ
たガス自殺は不可能になった」というものがある。都市
粉砕処理機)付きが急速に増加。ディスポーザーがなく
ガスはマイコン制御されているため、不自然な使用を行
ても、
365 日 24 時間いつでもゴミ出しができるマンショ
おうとすると、元栓が閉じられる。そういえば、最近の
ンであれば、
キッチンに生ゴミが溜まることがなくなり、
ニュースで「ガス自殺」の言葉を聞かなくなったなあ、
ディスポーザー付きと同じ効果が得られる。この「ディ
と思い当たる人が多いのではないだろうか。
スポーザー」と「24 時間ゴミ出し OK」は、マンション
知らないところで、住宅設備は日々進化を続けている
のである。
その進化を日々見続けている立場から、最新の住宅設
備、それも、将来のリフォームや買い替えのために覚え
ておきたい有効設備を紹介してゆきたい。
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でないと実現しにくい。一戸建てにはない、マンション
ならではの最新設備・最新サービスということになる
【図
表1】
。
さらに、キッチン設備では食器洗い乾燥機が標準設置
されるケースが増えている。いわゆる“皿洗い機”であ
住宅設備の最新事情
図表1
ディスポーザー
どを自由に設置し、使いやすい引き出しにできるわけだ。
さらに、底面を黒っぽい色にすることで、静電気による
埃などの汚れが目立たなくなるといった工夫もある。そ
れら、プラスαの工夫が次々に登場しているのである。
このように、キッチン設備が充実する背景には「オー
プン型キッチン」が主流になったという背景があるだろ
う。
昭和の時代まで、住宅のキッチンはリビングから見え
にくい場所に設置するケースが多かった。
「丸見えにな
ると、いつもきれいにしておく必要がある。それは大変
なので、隠したほうが安心」と考えられ、閉ざされた形
状=クローズドキッチンが支持されたのである【図表
2】
。
これに対し、現在は「暗く、閉ざされたキッチンで家
事をするのは嫌。リビングと一体化したほうが明るい
し、子供の様子も分かる。それに、リビングが広く感じ
る」と開放的なキッチン=オープン型キッチンが主流に
なった【図表3】
。
図表2
クローズド型キッチン
図表3
オープン型キッチン
る。標準設置される食器洗い乾燥機は、ビルトイン型に
なるのが普通だ。ビルトインとは、システムキッチンに
食器洗い乾燥機を内蔵してしまうタイプのこと。カウン
ターの上ではなく、引き出しの一部が食器洗い乾燥機に
なっている形式だ。
キッチンの収納部分にも最新の工夫がある。
代表例が、引き出し、観音開きの扉に設置されるソフ
トクロージング機構というもの。これは、ブルモーショ
ンとも呼ばれ、力をいれて引き出し等を閉めても、バタ
ンと言わず、静かに収まってくれる仕様。それらによっ
て、キッチンの使い勝手がさらに向上する。
上部吊り戸棚に耐震ラッチ(大きな地震でも、扉が開
かないように押さえる装置)が付き、ソフトクロージン
グ機構が備えられるのが、最新の収納だ。
引き出し内の工夫もある。
例えば、引き出しの底面をホーロー引きとする。ホー
ロー引きは磁石が付くので、磁石を活用した仕切り板な
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キッチンをオープン型にすると、今度は「キッチン内
を簡単にきれいに保つ方法」が求められる。その結果、
「流しに生ゴミを溜めないで済む」ディスポーザーが増
【図表4】
。
すべての人にやさしいユニバーサルデザインが採用さ
れているわけだ。
え、
「汚れたお皿を流しに放置しないで済む」食器洗い乾
浴室内を乾燥させる「浴室換気乾燥機」は、昭和の終
燥機が人気上昇。静音シンクやソフトクロージング機構
わりくらいから広まり、今では最も基本的な設備の一つ
も、リビングのくつろぎを邪魔しないために普及したと
になっている。
考えられる。
オープン型キッチンの増加が、キッチン設備を飛躍的
に進化させたのである。
外国製の水栓金具や外国製レンジフード(換気扇が中
に収まる装置)が増えたのも、オープン型キッチンが増
え始めてから。ガスコンロや IH クッキングヒーターに
この換気乾燥機にミストサウナ機能が付いているもの
も増加。さらに、ミストサウナの機能が高まり、
「水ミス
ト(柔らかな涼しさで夏に快適な機能)
」や「カビパンチ
(カビの発生を抑える機能)
」が加えられている。
もうひとつ、浴室で広まっている最新設備がある。そ
れは、
「お湯が冷めにくい浴槽」だ。
コンロ面が幅広でガラス素材になった上級機種が登場し
湯冷めが起きにくい浴槽は、浴槽のまわりを断熱材で
たのも、オープン型で「見せる」ことを意識した結果と
囲んだり、その断熱材を真空構造にするなどの工夫を凝
考えられる。
らしたもの。浴槽の蓋にも断熱性の高いものを採用し、
浴室は大型で、省エネ
次は浴室について。
まず、現代の浴室は、ほぼ全てシステムバスとなって
いる。システムバスは、ユニットバスとも呼ばれ、浴槽
や洗い場、水栓金具などがセットになったもの。工場で
一体成形され、住宅内で組み立てられる方式だ。
このシステムバスはきっちり密閉されて、湿気を逃さ
ない。そのため、
住宅内のカビを抑制する効果が大きい。
高温多湿でカビが発生しやすい日本では、必須の住宅設
備である。
そのシステムバスでは大型化と快適化が進んでいる。
浴室全体(浴槽ではなくバスルーム全体)のサイズは、
3LDK タイプで「1418(イチヨンイチハチと読む)サイ
ズ= 1.4m × 1.8m」以上が現代の標準。昭和時代には、
「1317(イチサンイチナナ)サイズやそれ以下のものが
あったが、一回り以上大きくなっているわけだ。
浴室全体が大型化するだけでなく、浴槽(バスタブ)
も大型化。大人がゆったり足を伸ばせる長さになってい
る。ただし、浴槽に入るためのまたぎは低い。洗い場の
床面から計った高さが 45cm 程度に抑える低床型が現
代の主流だ。縁の高さは 45cm でも浴槽内は深くなり、
肩まで湯につかることがしやすい。併せて、浴槽から出
るときのために手すりを設置するのも標準化している
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湯船に張ったお湯の温度が逃げにくい。つまり、魔法瓶
のようにお湯を冷めにくくした浴槽である。
図表4
手すりのついた浴槽
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どんな断熱材を使うかはメーカーによって異なる。ま
た、断熱材を使わなくても浴槽の素材自体の断熱性が高
いため、お湯が冷めにくいという製品もある。浴槽は、
あり、トイレットペーパーなどをしまいやすくなってい
ることが三つめだ。
手すりは、
当初バリアフリー設備の一つと考えられた。
大きさやデザインだけでなく、保温力も問題にされる時
しかし、実際に設置してみると、多くの人に役立つ。誰
代なのだ。
でも腰掛けるとき、立ち上がるときに利用してしまう。
保温力を高めた浴槽の効果は、6時間経っても湯温は
そして、膝をついて便器の裏側を掃除するときなど、手
2度くらいしか下がらないとされる。つまり、沸かして
すりにつかまっていると具合がよいという声もある。誰
から、6時間くらいは適温を保つわけだ。
にでもやさしい──ユニバーサルデザインの面からみて
従来の浴槽の場合、適温を保つのは春や秋で2時間程
度とされた。それが、3倍も長くなるわけだ。
この「保温浴槽」に加え、お湯を供給するためのガス
もすぐれた設備として、初めから設置するのが当たり前
の設備となったのである【図表5】
。
さらに、水洗式便器のデザイン性も向上している。
ボイラーや電気式温水器の機能が高まり、省エネ効果が
水を溜めるタンクがない水道直結型(タンクレストイ
高い機器、具体的には都市ガスのエコジョーズや電気の
レなどの商品名で知られる)やタンクが目立たないロー
エコキュートに代表されるシステムを備えているのが当
シルエット型で温水洗浄便座も一体化しているものが登
たり前になっている。
場。さらに、トイレのドアを開けると便ふたが開き、便
この省エネ機器に加え、太陽光発電装置やガスで電気
をつくり、その際に発生する熱でお湯をつくるエネファ
器から離れると、自動的に洗浄水が流れるといったオー
ト機能でトイレ空間の快適性を向上させている。
ームといった最新機器も一戸建てを中心に広まってい
る。
図表5
手すりカウンターのあるトイレ
浴室の床にも最新設備がある。それは、
水はけがよく、
乾きやすい床だ。乾きやすい床であれば、床を水浸しに
してもみるみる水気がなくなる。その結果、滑りにくい
し、カビの発生も圧倒的に少なくなる。カビがなければ
掃除の手間が大幅に軽減されるという仕組みである。さ
らに、床が柔らかく、断熱性が高いために、冬の寒い日
でもヒヤッとした感触が少ない。これも乾きやすい床の
長所といえる。
このほか、浴室設備では手元スイッチを付け、こまめ
にシャワーを止めることで、節水効果を生む設備も広ま
っている。
機能と快適性を向上させるトイレ設備
現在、住宅に設置されるトイレは当然ながら洋式。そ
して、換気扇付き。これは 30 年以上前から変わってい
ない。
大きく変わったところは、3つある。一つは便器の横
に手すりが付いていること。二つめは、ウォシュレット
やシャワートイレなどの商品名でおなじみの温水洗浄便
座が最初から付いていること。そして、大型の収納棚が
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トイレ設備で近年増えているのは、便器とは別の場所
に手洗い器を設け、使い勝手をよくする工夫。さらに、
水まわり以外でも、数多い進化
小さなカウンターを付けたり、収納庫の扉や手すりを木
調にして、くつろぎを演出する工夫も目立つ。
住宅の設備機器は、水まわり以外でも進化を続けてい
もうひとつ、トイレで注目したいのは、流すときの水
る。具体的には、玄関ドアや窓、そして居住者の安全と
使用量を抑えた節水型トイレが増加していること。ちな
財産を守るためのセキュリティ関連設備において、だ。
みに、東日本大震災の直後、東北地方では「節水型トイ
例えば、玄関ドアにドアスコープ(のぞき穴)が付き、
レ」の人気が高まった。というのも、断水が長く続き、
来訪者の顔を確認できるのは、昭和の時代から当たり前
川の水をんできて、水洗トイレを流す人が多かったか
の設備。そのドアスコープを上下二つ設けたり、カバー
ら。その際、従来型トイレだと1回流すのにだいたい8
付きにするのが新しい工夫。上下二つののぞき穴があれ
リットルくらいの水が必要となる。ところが、節水型ト
ば、小さな子供も利用しやすい。また、大人が使う場合
イレでは4〜5リットルで済む。川の水をんでくる労
にもメリットがある。上ののぞき穴で顔を確認し、下の
力を考えると、1回で約4リットル=ペットボトル2本
のぞき穴では手元や持ち物を確認できる。
「宅配便です」
分=約4kg の差は大きいというわけだ。
と来訪者が来たとき、上半身・下半身のいずれにも荷物
洗面設備は
「2人一緒に使えるように進化」
が見えない。これは怪しいと判定できるわけだ。
図表6
ベッセル型洗面台写真
図表7
2人並んで身支度できる洗面台
洗面所にも、新しい工夫が豊富だ。
最新の洗面台は、カウンターを豪華にする傾向が出て
いる。カウンターに、システムキッチンと同じ人工大理
石や本物の石板を使用。併せて、洗面ボウルを2つ設置
し、二人並んで朝の支度ができるようにする工夫が生ま
れている。いわゆるダブルボウルという工夫だ。
ただし、ダブルボウルは「掃除の手間が2倍になるか
ら、嫌」という主婦の意見もあり、
「洗面ボウルは1つで、
カウンターを広げ、2人同時に身支度できる」という形
式が広まりつつあるのが最新の傾向だ。
ちなみに、高級仕様の住宅では、ダブルボウル(洗面
器)をベッセル型にするケースが多い。ベッセルを直訳
すると「すり鉢状の器」
。台に置いた器のような形状を
指す。ベッセル型の特徴はなんといっても、見た目がお
洒落であること。高級感もある。ベッセル型洗面台にデ
ザインの凝った蛇口を付けると、
いかにも高級住宅だが、
これは夢の住まいか。
強化プラスチックでつくられた洗面ボウル・カウンタ
ー一体型も進化しており、水垢を生じにくくするため排
水溝の金属リングをなくしたり、濡れた石けんの置き場
を確保するため、洗面ボウル内に段差を付けるなど工夫
が凝らされている【図表6、7】
。
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また、ドアスコープにカバーが付いていると、室内の
一戸建て住宅地では、各住戸に警備会社の防犯センサー
明かりがもれない。つまり、夜間に在宅か留守かがわか
が標準設置され、1日数回、警備会社のパトロールが行
りにくくなるため泥棒などに狙われにくい、という効果
われるところも現れている。
が生まれる。
ドアスコープと共に、インターホンにカメラを付ける
工夫も広まっている。室内のインターホン親機に来客の
防犯に関する備えは、マンションでも一戸建てでも充
実する方向になっており、この動きはますます強まるも
のと考えられる。
顔が映される仕組みだ。このドアカメラが高性能化し、
録画機能やカメラを動かすことができたりする。
このほか、玄関ドアが大型化し、鋼板入りで頑丈にな
ったり、ドア枠が地震で歪まないといった機能の進化も
ある。
窓では、断熱性を高めるペアガラス(複層ガラスとも
いい、2枚のガラス間に乾燥した空気やガスを封入した
もの)が主流となり、複層ガラスに赤外線をカットする
フィルムが加えられた Low-E ガラス(エコガラスとも
いう)の採用例も増えている。
LowE ガラスは、太陽光の熱をはじく効果があるた
め、
夏の熱い日差しや西日の熱が室内に入ることを防ぐ。
その結果、室内が快適になり、省エネ効果も高まるとい
う設備機器である。
一戸建ての場合、窓ガラスを割れにくくする防犯フィ
ルム入りのガラスを採用し、泥棒の侵入を防ぐ工夫もあ
る。最新の窓ガラスは、用途に応じたフィルムが複数あ
り、それらを組み合わせることで「夏の日差しを和らげ
(赤外線カット)
、家具や絨毯の日焼けを防止(紫外線カ
ット)
、防犯性も高める」といった多機能を実現する時代
になっているわけだ。
セキュリティ面での進化も多い。
マンションでは居住者以外の建物内進入を制限するオ
ートロック方式が当たり前で、オートロックのチェック
ポイントを2カ所、3カ所に設置するようになった。一
方で、チェックポイントを増やすと、今度は居住者の出
入りが面倒になるという弊害が生じる。そこで、居住者
のためにハンズフリー方式のが採用されるようになっ
た。ハンズフリー方式のとは、住戸の玄関キーをポケ
ットに入れたり、バッグに入れておけば、オートロック
の装置が自動感知し、車の ETC のようにゲートが自動
的に開いてゆく仕組みだ。
さらに、マンションでは、24 時間 365 日管理・防犯の
スタッフが必ず常駐する「24 時間有人管理」方式が誕生。
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