脳神経外科講座が長崎大学にできて40年を 迎えた

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脳神経外科講座が長崎大学にできて如年を
迎えた。この40年間、疾患もその時代と共に
変化してきた。脳神経外科領域では、脳卒中が
この40年の時代の変遷をよく現している。
"40年前"脳神経外科講座が出来た昭和四
年頃は、ラクナ梗塞と高血圧性脳内血腫が治療
の主であった。治療対象となる患者の年齢は
如歳から60歳であった。両疾患とも、脳血管
の皮質動脈から分岐する細動脈である穿通枝の
動脈硬化によるもので、この血管の閉塞、破裂
により、ラクナ梗塞、脳内血腫をおこす。当時
は、細動脈硬化症を起こす主因である高血圧症
の治療が最も重要であった。高血圧症の食事療
法には、塩分量を減らした和食が栄養バランス
に優れ、理想、的な食事であると推奨されていた。
世界遺産になる40年も前から和食のすばら
さが認められていた。
"20年前"平成に入ると、脳卒中治療の対象
が大動脈硬化によるアテローム血キ全性脳梗塞に
なった。脳梗塞は、全身の動脈硬イヒ性血管病変
に合併する冠動脈疾患や、下肢動脈閉塞症と同
じ範疇で治療されるようになった。治療対象年
齢も60歳から80歳と高齢にシフトしてきた。
和食雜れや、食生活の欧米化による生活習慣病
である、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症など
により、大動脈に動脈硬化が起こり、アテロー
ム血栓性脳梗塞は発症する。国による特定健診
が始められた背景の 1つである。
"現在"平成20年をすぎる頃には、日本人女
性の平均寿命は90歳近くになり、超高齢化社
会になった。ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳
梗塞に加えて、心房細動による脳塞栓症が増加
してきてぃる。脳卒中は、主因であった脳血管
病変によるものから、心臓から起こる心原性に
変わってきた。高齢者で動脈硬化を発症するり
スクがない患者は、まず心房細動による脳塞栓
症を疑う時代になった。 40年前、脳卒中は、
塩分の多いものしか食べない貧乏人におこり、
高カロリーの贅沢な食事をする金持ちは循環器
疾患になると、澗吋兪されていだが、現在の高齢
化社会では、アテローム血栓性脳梗塞や心房細
動による脳塞栓症は、格差なく平等におこる よ
うになった。脳梗塞の発症を予防するには、 川
神経外科、脳神経内科だけでなく、循環器科と
長崎県医師会報
の緊密な連携が必要な時代となった。
それぞれの脳卒中治療も時代ごとに進歩し変
化をし続けている。脳内血腫、ラクナ梗塞の時
代は脳内血腫の手術法が進歩した。アテローム
血栓性脳梗塞の時代には、浅側頭動脈中大脳動
脈吻合術、頸部内径動脈内膜剥離術、血管内ス
テント術、などの治療法が開発され応用されて
いる。この数年、心房細動による脳塞栓症予防
の重要性が周知され、ワルファリンより使いや
すぃNOACが発売、使用されるようになり、
脳塞栓症の予防力誹各段にやりゃすくなった。
本川達雄著の生物学的文明論によると、ネズ
とゾウの寿命は異なるが、一生にうつ心拍数
は平均}5億回と同じである。一回打つ心周期
は、ハッカネズミが0.1チ少、ふつうのネズミは
2秒、ネコが0.3チ少、ウマでは 2秒、ゾウで
は3秒になる。体重の大きさに比例して心周期
が異なっているため寿命が異なる。おおむね、
D拍数が15億回で寿命になるとのことである。
人間の心周期はおよそ1秒で、心拍数15億回
になるのは40歳程度なり、これが人問の生物
学的寿命であると述べている。還暦をすぎた人
間は、医療技術の進歩や生活環境の改善によっ
てもたらされた、人類の英知の結晶である人工
生命体であるとも述べている。この説によると、
脳血管障害は人工生命体の日本人におこる疾患
であると言えそうである。この40年での脳卒
中の発症様式の変化は、日本が超長寿社会に
なったことによる血管の老化の歴史である。
ず使用期限が来た細い血管から変化がおこり、
本流である大血管へ動脈硬化という錆が進展、
結果、脳ではラクナ梗塞からアテローム血栓性
脳梗塞と、高齢化に伴いその発症様式が変化し
た。心臓も寿命をこえて働きすぎ機能不全、心
房細動による脳塞栓症を発症するようになった。
脳血管障害から日本が超長寿社会なった一面を
ミ
見て取れる。
脳血管障害を予防する方法はある程度確立さ
れてぃる。今後は、ipS細胞に代表される傷つ
いた脳を再生させる医療へと進んでいく。医療
費も増大するに違いない。色々な問題を含んだ
まま今後も日本人の寿命は延びていくに違いな
い。
(安永暁生)
[平成27年2月15日発行・第829号]、毎月1 回発行、定価 1音関50円
発行所/長崎県医師会・編集兼発行人/牟田幹久
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長崎県医師会報第829号平成27年2月
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