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CAE計算環境研究会
第2回オープンワークショップ
2015年3月5日(木) 13:30-16:50
東京大学本郷キャンパス 工学部3号館2階31会議室
希薄気力学シミュレーション
と
プロセスプラズマシミュレーション
ペガサスソフトウェア株式会社
田中正明
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希薄気体力学シミュレーション
気体流れの希薄度を表わす重要な無次元パラメータとして
クヌッセン数(Kn : Knudsen number)があります。
平均自由行程λと流れ場の代表長さL を用いてKn =λ/Lで定義されます。
[ここで、λ~1/(σ・n)、σ:衝突断面積、n:衝突相手の密度]
一般にKn>0.01のとき、気体流れは連続体として近似できず、原子・分子の流れとして
扱わなくてはなりません。
高真空下での半導体薄膜製造などの平均自由行程が大きい場での製品開発での流れ場、
大気圧下でも代表長さが数十nm程度になるMEMSやNEMS に代表されるナノ・マイクロ
デバイス近傍の流れ場も高クヌッセン数流れとなります。
高クヌッセン数流れにおいては、平均自由行程が大きい場合には分子間衝突数が
極端に減少して流れ場に強い非平衡現象が生じ、代表長さが極端に小さい場合には
気体分子は他の気体分子よりも固体表面と数多く衝突するため、流れ場が固体表面の
影響を強く受けることになります。
このような流れ場は、ボルツマン方程式により原子・分子の運動を取り扱う必要があります。
2
希薄気体力学シミュレーション
例)
<大気圧下>
ナノスケールの表面微細構造を持つ摺動面における気体潤滑現象:
部分研磨されたダイヤモンド膜は、摺動速度が大きくなると摩擦係数が著しく小さくなります。
これは両面間を流れる気体に高い圧力が発生し、スライダーを浮上させるためです。
マイクロ・ナノスケールの流路内の輸送現象:
触媒式排気ガス浄化装置や燃料電池の電極など、空孔をもつ多孔質体内の流れ場
<高真空下>
真空蒸着装置内での蒸発物およびキャリアガスの流れ場
プラズマ装置内での供給ガス、反応生成種の流れ場
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プラズマとは
・電離反応によって生成された多数の電子とイオンを含む状態
(普通は気体)
自然界 : 炎、雷、オーロラ、太陽、電離層
身の回り : 蛍光灯、アーク溶接
・一般にプラズマ中には電子、正・負イオン、中性粒子が混在する。
電気的には準中性。 電子、イオン、分子の数密度を ne、 ni、
nmとすると ne ≒ Σ niであり、プラズマ密度とは電子密度のこと。
・電離度 : β= ne /(ne + nm)
β= 1
完全電離プラズマ (太陽コロナなど)
β> 0.01 強電離プラズマ
β< 10-3 弱電離プラズマ (プロセスプラズマ)
4
・プラズマ温度(電子温度)とプラズマ密度がプラズマの性質
を特徴づける。
密度 106 [/m3] 星間プラズマ~1025 [/m3] アーク放電プラズマ
温度 100 [K] ~ 108 [K] 核融合プラズマ
・電子、イオン、中性粒子の温度 Te、 Ti、 Tm
熱プラズマ: Te≒ Ti≒ Tm
低温プラズマ(非平衡プラズマ) Te≫ Ti≧ Tm
・薄膜の生成(デポジション)やエッチングなどのプラズマプロセ
シングでは殆どが低温プラズマ
ne = 1014 ~1018 [/m3]
Te = 104 [K] ~ 105 [K] (1 [eV] ~ 10 [eV])
プラズマ分野では温度単位としてeV (電子ボルト)を用いる
ことが多い。 1[eV] = 11600 [K]
5
・プラズマの特徴
粒子の運動エネルギーが大きい(高温度)
導電性がある(荷電粒子)
化学的に活性で反応性が高い(励起分子)
光る(脱励起)
これらの性質を利用してさまざまな応用ができる。
・人工的にプラズマを作る方法
ガスを熱する :熱電離
放電させる : 衝突電離、2次電子、電界放出(F-N)、熱電子(R-D)
光(レーザー光・紫外線)を当てる :光電離
レーザアブレーション
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プラズマ内で起こっていること
電子
イオン
分子
ne ≒ ni ≪ nm
Tm ≦ Ti ≪ Te
プロセスプラズマでは
ne =1015 ~1018 [/m3]
nm ≧ 3.2E19 [/m3]
Tm ~ 0.025 [eV] Ti = Tm ~Tmの数倍
Te = 1~10 [eV]
弾性衝突:M + e  M + e
励起
:M + e  M* + e
脱励起 :M*  M + hν
解離
:M + e  X + Y + e
電離
:M + e  M+ + e + e
電子付着:M + e  M再結合 :M+ + e  M
M+ + X-  M + X
電荷交換:M+ + M  M + M+
電場による電子・イオンの加速
固体壁との衝突 2次電子放出
固体表面での反応
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プラズマの応用
エネルギー分野
<電気的応用>
熱電子発電
MHD発電
核融合
サイラトロン
<光学的応用>
照明用放電管
ネオンサイン
気体レーザ
プラズマディスプレイ
紫外線源・X線源
<力学的応用>
電子/イオンビーム源
粒子加速
物質・材料分野 環境・宇宙分野 プラズマ医療分野
<熱的応用>
アーク溶接
放電加工
プラズマ溶射
焼結
微粒子製造
<化学的応用>
表面改質
プラズマCVD
ドライエッチング
<力学的応用>
PVD
スパッタリング
アーク蒸着
イオン注入
粒子ビーム加工
<熱的応用>
プラズマ精錬
ごみ処理
<電気的応用>
電気集塵装置
空気清浄器
車の静電塗装
<熱・紫外線・活性種>
プラズマ滅菌
皮膚病治療
プラズマ凝固
がん治療
<化学的応用>
オゾン発生器
燃焼排ガス処理
有機溶媒処理
車の排ガス処理
<力学的応用>
ロケット推進
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プロセス開発の現状
ブラックボックス
装置の運転条件
幾何形状、ガス種、
ガス圧、パワー等
装置内
基板
プラズマやラジカ
ルの状態
薄膜や微細構
造の状態
最終的な製品の状態を評価して、運転条件にフィードバッ
クする。装置内の状態を測定するのは困難で、ブラック
ボックスとして扱われる。
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プラズマ装置
n
ガス供給
4)微細構造における
プラズマ-表面相互作用
表面反応、反射、再放出
表面チャージング
CF4/CHF3/Ar/O2
SiO2+4F → SiF4+O2
Si3N4+12F → 3SiF4+2N2
Si+4F → SiF4
+
2)プラズマ-壁相互作用
吸着/堆積、中性化
壁の侵食
ポンプ
1)気相反応
電子衝突反応
イオン/中性粒子反応
3)プラズマ-表面相互作用
堆積、脱離、純化学反応
物理スパッタ、イオンアシスト
n
内壁
(SiO2,Al2O3)
p
+
イオンシース
電極(ウェファ、基板台)
RF電源(102~104[KHz])
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ドライエッチング
+
n
n
s
Sputtering
(Physical)
エッチングのタイプ
v
+
n
v
Chemical
Ion-assist
(Chemical) (Physical & Chemical)
Deposition
(Chemical)
方法
形状
選択性
Gas/Vapor
Chemical
等方性
高い
高い(1~760Torr)
Plasma
Chemical
等方性
高い
中間(>100mTorr)
Reactive ion
Chemical
&Physical
Physical
異方性
中位
低い(10~100mTorr)
異方性
低い
低い(<10mTorr)
Sputter
圧力
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スパッタ装置
基板
Ar, Ar/O2,Ar/N2
膜厚一様性
膜質(屈折率…)
ガス圧<数[Pa]
×
EXB ドリフト
プラズマ
正イオン
スパッタ粒子
ターゲット
N
S
N
DC (負電圧)
RF (13.56[MHz])
HIPIMS (DCパルス)
低エネルギー、AR膜
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DLC膜生成
1)SWP(表面波プラズマ)
2)DCバイポーラパルス
3)CCP
任意形状
Micro Gear
+
0 [V]
TMS[(CH3)3SiH]
C2H2、CxHy
電子
+
-
2次電子
正イオン
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シミュレーションの有効利用
数値シミュレーションにより
装置内の状態を評価する。
装置の運転条件
幾何形状、ガス種、
ガス圧、パワー等
基板に到達するイオン、ラ
ジカル、スパッタ粒子の
•フラックス
•エネルギー分布
•入射角度分布 など
装置内
基板
プラズマやラジカ
ルの状態
薄膜や微細構
造の状態
装置内の状態を可視化することで、プロセ
ス開発の効率を向上させることを目指す。
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シミュレーション
INPUT
・装置の形状(寸法・材質)
・ガスの種類
・反応の種類
・運転条件
印加電圧
(直流/交流/パルス)
コイルパワー
印加磁場
原料ガス流量
ガス圧力
SIMULATOR
運動法則
(物理・数学)
数値モデル
衝突断面積
(レート係数)
OUTPUT
・各成分(電子・イオン・分子)の
密度
温度(エネルギー)
速度
フラックス
生成/消滅レート
・電位/電界分布
・分布関数
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ボルツマン方程式
マクスウェル方程式
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方程式の非線形性
ポアソン方程式
荷電粒子の運動方程式
荷電粒子の生成
Ra = (電子エネルギー分布関数に依存)
•荷電粒子の運動は電位分布(電界)の影響を受ける
•荷電粒子が運動すれば空間電荷分布が変化し、電位分布も変化する
•荷電粒子の生成率は電子エネルギー分布関数に依存し、電子エネル
ギー分布関数はまた電界に依存する
非線形性が非常に強い。短いタイムステップ
で時間を追跡していくしかない。
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反応の多様性(CF4の場合)
もっと大きい分子(例えばC4F8)で
あれば考慮すべき反応式の数は
さらに増大する!
これらを全て考慮する必要がある
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空気 (N2, O2)
中性粒子、荷電粒子:19、19
反応式 約360
e(-), N2(+), N4(+), N3(+), N(+), O2 (+), O4 (+), O(+)
O(-), O2 (-), O3 (-), O4 (-)
NO(+), NO2 (+), N2O(+), NO2 (-), NO3 (-), NO(-), N2O(-)
N, N(2D), N(2P), N2, N2 (A), N2 (B), N2 (a'), N2 (C)
O, O(1D), O(1S), O2, O2 (a), O2 (b), O3
NO, N2O, NO2, NO3
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衝突断面積の例(Ar)
弾性衝突
励起
電離
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計算手法の種類
低温非平衡プラズマ
電磁場の基礎方程式(マクスウェル方程式)と気体運動
論の基礎式(ボルツマン方程式)をどう解くか?
・粒子モデル
・連続体モデル
・ハイブリッドモデル(粒子モデルと連続体モデルの混合型)
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数学モデル
大気圧高温プラズマ (アーク放電) 1流体2温度モデル
(重粒子:エンタルピー方程式、
電子エネルギー方程式)
大電流による磁場効果(運動方程式)
大気圧低温非平衡プラズマ
連続体モデル
低圧低温非平衡プラズマ
<荷電粒子>
1)粒子モデル(PIC/MC法)
2)ハイブリッドモデル(A) (EEDF用電子MC、ドリフト拡散)
(B) (電子PIC/MC法、イオン連続体)
3)連続体モデル
(ドリフト拡散、運動量保存則、電子エネルギー方程式)
<中性粒子>
1)粒子モデル(DSMC法)
2)連続体モデル(N-S方程式)
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真空装置/プラズマ装置別数学モデル
PVD
数学モデル
真空蒸着
イオンプレーティング、アークイオンプレーティング
マグネトロンスパッタリング(HIPIMS)
粒子モデル
ハイブリッドモデル(B)
CVD
熱CVD、MOCVD
プラズマCVD
エッチング
連続体モデル(N-S方程式)
[
[
[
[
[
[
[
粒子モデル/連続体モデル/ハイブリッド(B)
CCP
電極長>1/4波長、定在波
(容量結合型)
荷電粒子:連続体モデル/ハイブリッド(B)
ICP
中性粒子:粒子モデル/連続体モデル
(誘導結合型)
SWP
連続体モデル
(表面波)
マクスウェル方程式
ECR
荷電粒子:連続体モデル
(電子サイクロトロン共鳴) 中性粒子:粒子モデル
マクスウェル方程式
23
[
終わりに
・DSMC法による希薄気体シミュレーションは、現状の環境で
研究開発、生産技術において、成果をあげている。
・プロセスプラズマシミュレーションにおいては、
1)105~106回程度解くべきポアソン方程式解の計算
2)生成/消滅反応を伴う、数十程度の粒子種の挙動計算
3)現状の環境で、長いとき2次元で1~2週間計算
並列環境(ハード/ソフト)
ベクトルプロセッサ
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関連する国内学会/研究会/国際会議
・応用物理学会/プラズマエレクトロニクス分科会
・電気学会/放電研究会
・プラズマ・核融合学会
・真空学会
・放電学会
・機械学会/量子・分子熱流体工学
原子衝突学会
原子分子データ応用フォーラム
Int’l Symposium on Rarefied Gas Dynamics(RGD29,2014)
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