タンデム質量分析法による水環境試料中の テトラサイクリン系抗生

液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法による水環境試料中の
テトラサイクリン系抗生物質の定量
○内藤宏孝
1
はじめに
テ ト ラ サ イ ク リ ン 系 抗 生 物 質 ( TCs) は , 人 や 動 物 に 使 用 さ れ て い る が , 特 に 動 物 用 と
しての使用が多く,医薬品だけでなく飼料添加物としても用いられ ており,最も多く使用
さ れ て い る 抗 生 物 質 の 1 つ で あ る .TCs は ,畜 産 施 設 周 辺 の 土 壌 や 水 域 で 検 出 さ れ て お り ,
また,その耐性菌が環境中に存在することが確認されている.このため,生態系への直接
的 な 影 響 だ け で な く , 耐 性 菌 の 拡 散 に よ る 二 次 的 な リ ス ク も 懸 念 さ れ る こ と か ら , TCs の
詳細な残留状況の把握が求められている.
現 在 ,TCs の 分 析 は ,主 に 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー / タ ン デ ム 質 量 分 析 法( LC/MS/MS)
が適用されており,その前処理法は,固相抽出法が一般的に用いられている.しかし,固
相 抽 出 に お い て TCs は , そ の 性 質 上 , 疎 水 性 相 互 作 用 の ほ か , 水 素 結 合 や キ レ ー ト 結 合 ,
イオン交換等の様々な作用が働くため,十分な回収が得られず,分析上の課題となってい
る . そ こ で , 今 回 , 試 料 へ の EDTA-2Na の 添 加 と 固 相 カ ー ト リ ッ ジ か ら の 溶 出 方 法 を 検 討
し た 結 果 , 簡 便 な 前 処 理 方 法 で , TCs の 効 率 的 で し か も 再 現 性 の あ る 回 収 が 実 現 さ れ , 環
境 水 中 に 存 在 す る 10 ng/L レ ベ ル の TCs を , 精 度 よ く 定 量 す る こ と が 可 能 と な っ た の で 報
告する.
2
分析方法
表 1
今 回 対 象 と し た TCs は ,ク ロ ル テ ト ラ サ
測定条件
LC: SHIMADZU LC-20 Series
カラム:Ascentis Express C18 (2.1mmφ×150mm, 2.7μm)
移動相: A: 0.2%ギ酸/水, B: CH3CN
B: 10→60 % (0→9 min, gradient) - 60→90%(9→10min,gradient) 90 %(10→14 min)
流量: 0.2 mL/min カラム温度: 40 ℃ 注入量: 10 μL
MS: AB Sciex API3200
イオン化法
: ESI-Positive
ターボガス温度
: 700 ℃
イオンスプレー電圧
: 5.5 kV
CTC
TC
OTC
DC
iso-CTC
モニターイオン (m/z ) 479>444 445>410 461>426 445>428 479>462
DP (V)
31
36
31
41
41
CE (V)
27
23
25
23
25
イ ク リ ン (CTC) , テ ト ラ サ イ ク リ ン (TC) ,
オ キ シ テ ト ラ サ イ ク リ ン (OTC) , ド キ シ サ
イ ク リ ン (DC) 及 び イ ソ ク ロ ル テ ト ラ サ イ
ク リ ン (iso-CTC)の 5 物 質 で あ る .
水質試料にエチレンジアミン四酢酸二
ナ ト リ ウ ム 塩 (EDTA-2Na) を 添 加 し , 固 相
カ ー ト リ ッ ジ (Oasis HLB)に 通 水 し た 後 ,メ
タ ノ ー ル / 0.1%ギ 酸 水 溶 液 (1:1, v/v)で 通 水 方 向 と 逆 向 き か ら 溶 出 し , LC/MS/MS に よ り 表
1 に示す測定条件で定量した.
水質試料
固相抽出
水 洗
脱 水
0.100 L
EDTA-2Na 0.1 g
Oasis HLB (225 mg)
10~20 mL/min
精製水
20 mL
3 min吸引
溶 出
バックフラッシュ
CH3OH/0.1%ギ酸水溶液
(1:1,v/v) 4 mL
定 容
LC/MS/MS-SRM
0.1%ギ酸水溶液
10 mL
ESI-Positive
図 1
分析フロー
12
結果
3
3.1
検量線及び装置検出下限
表 2
CTC, DC に つ い て は 0.20 ng/mL ~ 100
装 置 検 出 下 限 (IDL)
IDL
最終液量 試料量 IDL試料換算値
(mL)
(L)
(ng/mL)
(ng/L)
物質名
ng/mL, TC, OTC 及 び iso-CTC に つ い て は
0.10 ng/mL~ 100 ng/mL の 標 準 溶 液 の 各 10
CTC
0.052
10
0.100
5.2
μ L を LC/MS/MS に 注 入 し ,注 入 濃 度 と 得
TC
0.023
10
0.100
2.3
られたクロマトグラムのピーク面積から
OTC
0.020
10
0.100
2.0
DC
0.035
10
0.100
3.5
iso-CTC
0.026
10
0.100
2.6
検 量 線 を 作 成 し た .そ の 結 果 ,ど の 検 量 線
も こ の 濃 度 範 囲 で は 良 好 な 直 線 性 (r 2 >
0.999)が 確 認 さ れ た .ま た , 検 量 線 の 最 低 濃 度 の 標 準 溶 液 (CTC, DC 0.2 ng/mL,TC, OTC,
iso-CTC 0.1 ng/mL)を 繰 り 返 し 測 定 し (n=7), 得 ら れ た 測 定 値 の 標 準 偏 差 を 用 い て 装 置 検
出 下 限 値 ( IDL) を 算 出 し た と こ ろ , 表 2 の と お り と な り , ど の TCs も 良 好 な 再 現 性 で
高感度に定量することが可能であった.
3.2
添加回収試験結果及び検出下限値
河 川 水( 朝 鮮 川 ),海 水( 名 古 屋 港 )に TCs を 添 加 し ,添 加 回 収 試 験 を 行 っ た と こ ろ ,
表 3 に 示 し た と お り ,添 加 回 収 率 は 85~ 105%で ,変 動 係 数 も 2.3~ 4.5%と な り ,再 現 性
は良好であり,実試料に対して十分に適用可能であることが確認された.
ま た ,海 水 試 料 を 用 い ,
「 化 学 物 質 環 境 実 態 調 査 実 施 の 手 引 き( 平 成 20 年 度 版 )」に 定
められた方法に従って検出下限値を算出したところ,表 3 に示したとおり,どの物質も
10 ng/L レ ベ ル の 微 量 分 析 が 可 能 で あ っ た .
表 3
添加回収試験結果及び検出下限値
添加回収試験(n=5)
試料量
(L)
MDL1)
(ng/L)
CTC
0.100
6.2
16
< 6.2
20
99
4.5
< 6.2
20
94
3.6
TC
0.100
3.0
7.7
< 3.0
20
98
2.5
< 3.0
20
95
4.2
OTC
0.100
2.9
7.4
< 2.9
20
99
3.7
< 2.9
20
97
2.7
DC
0.100
4.2
11
< 4.2
20
87
2.3
< 4.2
20
85
3.1
iso-CTC
0.100
2.8
7.1
< 2.8
20
105
2.8
7.7
20
100
4.4
物質名
MQL2)
(ng/L)
海水
河川水
無添加
添加量(ng) 回収率(%) C.V.(%)
(ng/L)
無添加
添加量(ng) 回収率(%) C.V.(%)
(ng/L)
1) MDL:測定方法の検出下限値
2) MQL:測定方法の定量下限値
4
まとめ
LC/MS/MS に よ る 環 境 水 中 の テ ト ラ サ イ ク リ ン 系 抗 生 物 質 の 分 析 法 を 開 発 し た .試 料 は ,
固 相 抽 出 を 前 処 理 と し LC/MS/MS に よ り 定 量 し た .本 法 は 簡 便 な 前 処 理 操 作 で 環 境 水 中 に
残 留 す る テ ト ラ サ イ ク リ ン 系 抗 生 物 質 を 10 ng/L レ ベ ル で 定 量 す る こ と が 可 能 で あ り , 環
境モニタリング法として有用であると考えられた.
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