株高に追い風となる「銀行版」成長戦略

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株式会社ジャパンエコノミックパルス
Japan Economic Pulse Co., Ltd.
株高に追い風となる「銀行版」成長戦略
IT(情報技術)融合化の銀行持ち株会社の規制緩和
安倍政権が唱える成長戦略の実現には内需の中核
産業としての銀行の収益向上なくして「画餅」にな
りかねない。そこで浮上しているのが、銀行のネッ
トモール事業への進出や決済業務等 IT(情報技術)
融合化であり、銀行の新ビジネス具現化は日本株の
背骨である銀行株の上昇を介して株高メガトレンド
の追い風となろう。
ネットモール事業など銀行版の成長戦略
「金融グループの業務多様化や国際化を踏まえ、
制度のあり方を検討する」-。3 日の金融審総会で
赤沢金融副大臣が高らかに銀行の規制改革を宣言し
た。
銀行の経営環境の激しい変化を踏まえて浮上して
きたのが、銀行によるネットモール事業進出など新
たな金融サービスの提供論議である。
福田慎一東大大学院教授はこの日の審議会で「金
融環境が大きく変わり、これまでのビジネスモデル
は成り立たない」と傘下の子会社の業務範囲を広げ、
銀行が IT 企業等を傘下に持てるよう金融と IT 融合
化へ論議の狼煙を上げた。
審議会では、銀行が IT 企業と共同出資の子会社を
置けるような規制改革と共に口座を使わず電話番号
で送金する等、新たな金融サービスの提供等いわば
銀行の成長戦略へ向けた環境整備だ。もっとも、子
会社化は電子商取引やスマートフォンによる決済サ
ービスなど、銀行の本来業務に近い分野に限る。
近年、楽天などのようにインターネットを駆使し
たネットショッピングモールを運営する企業が、モ
ールに加盟している事業者に事業融資を提供するな
どの金融事業への進出を本格化させている。
海外でも中国のアリババ集団が、資金決済など金
融事業の競争力を高めつつあり、非銀行業と銀行業
の垣根が急速に曖昧化されつつある。
さらに、我が国ではソニー銀行、イオン銀行、セ
ブン銀行など電気メーカーや小売業が新たに銀行業
を開始、中でもイオン銀行などは本職である流通小
売業と銀行業の相乗効果を狙うような動きが顕在化
している。
すでに世界の 2014 年電子決済額は 1 兆 7924 億ド
ル(約 215 兆円)に急増、決済件数は 348 億件と前
年比+16%も増加している。
そうした中、
「他行兼業を厳格に制限されている伝
統的な銀行業との間で、規制上のバランスが保ちに
くくなっている」
(ある政府筋)
。つまり、近年の決
済代行会社やインターネット業者によるネットモー
ル事業に関わる決済業務、貸出業務拡大がすでに銀
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2015/3/6
行業の領域を脅かしつつあるのだ。
金融庁の金融審議会は年内をメドに金融持ち株会
社の規制緩和の有り方を報告、2016 年に新法成立を
目指す。こうした議論は、従来の国債偏重の運用ビ
ジネス重視から脱デフレの実体経済と直結した新た
な金融サービス提供への銀行の経営戦略の転換をい
う。
もちろん、顧客の利便性向上に資する共に、何よ
りアベノミクスの成長戦略に沿った企業変革に他な
らない。
すでに、金融審議会は年明け 1 月 29 日に第 9 回、
2 月 5 日に第 10 回金融審議会で「決済業務等の高度
化に関するスタディ・グループ」を開催、ネットモ
ール事業など金融業以外への銀行進出を論議してき
た。
例えば、一部の電子商取引事業者、モール事業者
は傘下に銀行を持ってサービスを展開、消費者の購
買プロセス効率化や利便性の向上に繋がっているが、
現行銀行法で厳格に制限され、銀行の電子商取引事
業やネットモール事業への進出が遅々としている。
電子商取引と親和性の高いネット決済ビジネスは
有望な成長分野であり、事業会社の参入によって決
済中心に銀行業務の「アンバンドリング化」ともい
うべき構造変化が進行しているにも拘わらず、であ
る。
そこで近年の環境変化を踏まえ、業務範囲規制が
時代環境に則したものか、点検、見直し論議と共に
伝統的な銀行業務領域を超えたサービス検討の必要
性が叫ばれつつある。特筆すべきは、同審議会で 00
年代初頭にネット決済ビジネス強化で「 Virtual
Mall」運営に参入、新たな収益源を獲得した米銀の
例が論議されていることだ。
実際、米国では 2000 年代前半にネット決済ビジネ
ス等を巡る環境変化を踏まえ、銀行業務の一部であ
る 「 Finder Activity 」 の一 環 と し て 銀 行 に よる
「Virtual Mall」運営が解釈上認められた。
合併・再編に進む体力勝負の貸出競争
確かに、IT(情報技術)普及と発展による電子決
済など新事業領域が格段に増えたにも拘わらず、銀
行業には様々な規制が残り、金融業以外の分野への
進出が厳格に規制されている。
一つには、一般企業に対し優越的な地位に立ちや
すいという競争政策上の理由がある。さらに、進出
分野で事業失敗すれば元本保証の預金者の安全性が
損なわれるという問題もある。実際、銀行は証券会
社に限り 100%小会社方式の進出に限られ、ベンチ
ャー出資などの事業会社の株式保有は原則 5%に制
限されている。
そもそも、銀行持ち株会社は 1998 年の金融ビッグ
バンで解禁されたが、膨大な不良債権を抱えて、金
融システム不安のスピルオーバー阻止が重視された。
結果、持ち株会社が解禁されたが、再編を後押すの
みで銀行は異業種への進出が制限された。
何より、不良債権処理が最優先され、傘下の子会
社は、銀行や証券など原則本業に携わる金融分野に
限られ、新たなリスクテイクが規制された。だが、
小泉政権時代にすでに銀行は膨大な不良債権を処理
し、リーマンショックを軽傷で乗り切り、健全性を
取戻した。
それにも拘わらず、銀行業界は、体力勝負の貸出
競争に精を出す。ある大手調査会社幹部は「地方の
信用金庫などは赤字覚悟の 0.7%の超低利ローンで
営業攻勢をかけている」と打ち明ける。
こうした地方の信金や地銀の困窮にダメを押した
のが、昨秋の 10.31「ハロウィン緩和」だった。黒
田バズーカ砲 2 弾により 10 年債利回りが 0.4%前後
まで低下、貸出難を穴埋めしてきた国債運用利ザヤ
が極端に縮小し、総資金利ザヤのマイナスに転じる
懸念が拡大した。
すでに 14 年 3 月期決算において、地銀 4 行が国内
総資金利ザヤのマイナスに陥落したが、QQE2(量的
質的緩和 2 弾)の「ハロウィン緩和」を受けて同利
ザヤのマイナス転落を懸念する地銀が一挙に拡大し
た。
そこで、人口減少時代の到来で地方経済が冷え込
み、資金需要が落ち込んで否応なく資金需要の旺盛
な首都圏への過去と異なるビジネス展開が不可欠と
なった。実際、地銀は財務内容の良好さをテコに低
利ローンを実行し、首都圏で実績を積み上げつつあ
る。
あるメガバンク幹部が「地銀はまさにメガバンク
の背後から襲いかかるように低利ローン攻勢をかけ
つつある」と打ち明ける。メガバンクがメイン市場
と位置付ける中堅企業にも地銀が低利融資の案件を
持ち込んでおり、
「仁義なき戦い」が繰り広げられて
いる。
あるメガバンク法人担当は、
「企業が実質する資金
借入れ入札において、地銀は驚くほどの低利レート
を提示、メガバンクが地銀に融資案件を奪われた」
と悲鳴を上げる。
戦後金融史になかったような地銀、メガバンク、
信金による「三つ巴」の首都圏金融戦争が激化しつ
つある。むろん、こうした薄利多売の超低利ローン
の競争激化は、
「結局、体力勝負であり信金など中小
金融機関の統合・再編へ繋がるだけ」
(同幹部)
。
いずれにせよ、ネットモール事業や決済業務と IT
企業との融合化は、人口減少で規模縮小が進む地方
経済にあって地銀や信金のビジネスモデルの劇的転
換に繋がる可能性を秘める。
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