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特集
最新デジタル印刷ソリューション
Cutting-edge Digital Printing Solutions
要
旨
【キーワード】
デジタル印刷とは、アナログ的な手段、たとえば凸
テジタル印刷、プロダクションプリンター、ト
版のような有形の版に落とすことなく、デジタルデー
ランザクション、プリントオンデマンド、バリ
タを直接印刷する方式や印刷物のことである。このう
アブル、ワークフロー
ち、大量に印刷されるものをプロダクションプリント
と呼んできた。しかしながら、近年大量印刷だけでは
ない、デジタルという利点を活かしたプロダクション
の新たな印刷物や市場が拡大してきている。このよう
な市場の動きの中で事業展開されているお客様のご
要望に応えるために富士ゼロックスは、超高速の連帳
プリンターから高精細なカラープリンターまで、フル
ラインアップでプロダクションプリンターを提供し
ている。本稿では、最新のデジタル印刷ソリューショ
ンとして、これらのプロダクションプリンターを使っ
て生み出される特徴的なデジタル印刷の具体的事例
やそのようなデジタル印刷を支える富士ゼロックス
のサービスを紹介する。
Abstract
【Keywords】
digital printing, production printer, transaction,
print on demand, variable data, workflow
執筆者
増田 博英(Hirohide Masuda)*1
吉岡 東吾(Togo Yoshioka)*2
藤田 伸郎(Nobuo Fujita)*2
*1
*2
総合事業計画部
(Corporate Market & Business Strategy)
プロダクションサービス営業本部 営業計画部
(Sales Planning Administration & Planning Production
Service Sales & Marketing Group)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
The term “digital printing” refers to printing methods
that do not use relief printing plates or other physical
plates but instead transfer digital data directly into
print, as well as the product of such printing methods.
In particular, high-volume digital printing is known as
"production printing." Recently, there has been
expansion into new markets and an increasing
number of new applications that take advantage of the
merits of digital printing, which include but are not
limited to high volume. To meet customers’
expectations in this shifting market, Fuji Xerox offers a
full lineup of production printers, ranging from
high-speed continuous feed printers to high-definition
color printers. This paper first takes a look back at the
history of our production print products and then
introduces our cutting-edge digital printing solutions,
giving specific examples of the distinctive digital
printing produced by our production printers as well as
introducing our services that support digital printing.
1
特集
最新デジタル印刷ソリューション
1. はじめに
とする簡易PODとカンププルーフ(仕上がり見
本)市場に分けることができる。また、印刷市
本稿が対象とする「デジタル印刷」は、印刷
場においても、冊子や書籍などのモノクロを主
者が自分自身で使用し消費してしまうための印
体とした印刷では、モノクロ専用のプリンター
刷物ではなく、それ自体に価値があるもしくは、
が利用されている。
コミュニケーションを取るための手段として価
なお、オフィス市場においてもオフィスで印
値を持つ印刷物である。この「デジタル印刷物」
刷したものを事業活動に利用する、つまり、印
がプロダクションプリントであり、それを印刷
刷物に価値を求めるという点で印刷市場とオー
する機械をプロダクションプリンターと定義す
バーラップする領域が存在する。
る。多くの場合、プロダクションプリンターの
使用者とプロダクションプリントの利用者は異
なる。したがってプロダクションプリント自体
は商品であり、印刷者にとってプロダクション
3. プロダクションプリンターの歴史
当社は、1962年にドライトナーを使用した
プリンターおよびそのシステムは生産財である。
電子写真技術応用商品である事務用複写機を国
富士ゼロックスは、これまでプロダクション
内市場に提供し、そのビジネスをスタートして
プリンターや関連ソリューションを数多く提供
いる。そして、1978年にはトランザクション
しプロダクションビジネスを発展させてきた。
市場向けのモノクロプリンターXerox 9700
EPSを市場導入。この商品が当社として最初の
2. プロダクションプリント市場と商
品カテゴリー
プロダクションプリンターである。その後の後
継機を含め、多くの場合、コンピューターセン
ターなどの基幹システム用大型コンピューター
プロダクションプリンターが提供される市場
が置かれている場所と同じ場所に設置され、月
は、大きくは2つの領域がある。1つめの領域は、
度の業務結果や給与明細など必要データを一括
企業の商取引等の事業活動に関わる基幹システ
して出力する業務が行われていた。1980年代
ムのデータを加工し印刷するトランザクション
の終わりには、通信網の発達とともに、分散処
プリント市場である。この市場ではデータ出力
理による業務の効率化の要求に応える形で、セ
(トランザクション業務ではコンピューターか
ンター以外の場所での出力を可能とした
らのアウトプットという意味から印刷すること
6790LPS(1987年)の提供を開始する。
を“出力”するという)が主な業務内容である
1995年にはコンパクトでさらにオフィス環境
ためモノクロ(黒色印字)のプリンターが利用
に適したDocuStation DP300も導入してい
される。一度に印刷処理される量が多いため、
る。また、トランザクション市場は分散化の一
高い生産性が求められるが、生産性の要求レベ
方で、基幹システム出力業務をアウトソースす
ルや印刷対象物により、単票カット紙系プリン
ることで効率化を図る動きが2000年ごろから
ターと連続帳票系プリンターの2種類が存在す
大きくなりつつあった。このような出力業務を
る。最近では、カラーのインクジェットプリン
請け負うサービスビュウロー(SB企業)からの
ターもこの市場に提供されている。この市場の
大量出力業務を行いたいという要求に対して市
代表的な印刷物は、企業間取引の各種帳票、カー
場導入したのが2003年の高速モノクロ連帳機
ドの利用明細書や内容通知のはがきなどである。
DocuPrint1100CFである。その後、カラー情
2つめの領域は、印刷業界を主たるお客様と
報を入れることで、出力物により訴求力を持た
した印刷(プリントオンデマンド/POD)市場
せ る こ と を 目 的 に 490/980
である。この市場では、さまざまな印刷物が対
Continuous
象となるため、カラー印刷物が主体となる。カ
2007年に導入している。そして、さらに高速
ラー印刷市場は、印刷物に求められる品質によ
な処理、さらにきれいなカラー印刷を目指して、
り、高品質カラーPOD市場、軽印刷などを対象
2011 年 に は 、 2800
2
Feed
Printing
Color
Systems を
Inkjet
Color
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
最新デジタル印刷ソリューション
Continuous Feed Printing System(2800
を拡大する活動も行ってきた。プロダクション
IJCCFPS)、2013年には1400 Inkjet Color
プリンターの黎明期は、お客様へプロダクショ
Continuous Feed Printing System(1400
ンプリントのご紹介、事例紹介など富士ゼロッ
IJCCFPS)と2機種のインクジェット連帳機を
クスからの働きかけが市場拡大の主な活動で
市場導入している。
あ っ た が 、 DocuTech135 や DocuColor
2つめの市場領域である、POD市場は、1993
4040を市場導入したあと、1997年にはお客
年にDocuTech135を市場導入したときから
様が主体となったPOD市場の活性化活動を行
その歴史が始まる。その当時、官公庁の例規集
うDocument Service Forum(DSF)が設立
や機械のマニュアルなど、内容はモノクロ印刷
されている。当社は設立から現在にいたるまで
で済むものの小ロットであったり、頻繁な改版
事務局としてDSFの活動をサポートしている。
があったりする印刷物にとって印刷コストや在
また、2004年には、ゼロックスコーポレーショ
庫管理は課題となっていた。このようなお客様
ン が 欧 米 で 展 開 し て い た Premier Partner
に対して、DocuTech135は、電子化された原
Program(PPP)を、日本を含むアジア地域で
稿を必要なときに必要な部数だけ印刷できる、
開始する。PPPは、当社商品を使ってビジネス
まさに課題を解決できるオンデマンドプリン
で成功を収めているお客様(Premier Partner)
ターであった。1995年には、オフィス市場で
を主体としたユーザー会であり、主に、印刷市
培ってきたカラー印刷技術を取り入れた
場のお客様をメンバーとし、グローバルなネッ
DocuColor 4040を印刷市場に向けて導入を
トワークをベースに、プロダクションプリント
開始した。しかしながら、印刷物に対する厳し
に関連したビジネスチャンスの創出を目的に企
い品質要求のある印刷市場からは、印刷位置精
画運営しているプログラムである。同2004年
度、画質、対応用紙の点でまだ十分受け入れて
には新たなプロダクションプリントのビジネス
もらえるレベルのプリンターではなかったよう
モデルを構築するために、課題を抽出して解決
である。これらの要求に応えるため、中間転写
策を実証し、新しいアイデアを実現する場とし
体、顔料トナー、コート紙対応など、新たな技
て「epicenter」を品川、シドニー、シンガポー
術を採用したColor DocuTech 60を2000年
ル、上海の4拠点に開設している。その後、品
に市場導入する。この商品は印刷市場で受け入
川epicenter は 、も っ と お 客様 ご 自 身 に“ 共
れられ、お客様からの評判も高いプリンターと
感”“体感”“実証”頂き、新たなビジネスを共
なった。このColor DocuTech 60の登場によ
に開拓するために「お客様価値創造センター」と
り、印刷原稿はコピーからデジタルデータから
して横浜みなとみらい地区に拠点を移している。
の直接出力に主体が移っていくことになる。
2008年には、鮮やかな発色と省エネを両立さ
せたEA-Ecoトナーやさらなる付加価値を訴求
できるクリアトナーなど、色々な革新的技術を
搭載したColor 1000 Pressを市場に導入する。
4. プロダクションプリンターの最新
ラインアップ
2014年11月時点のプロダクションプリン
一方、さらなる生産性や長尺用紙への印刷を求
ターのラインアップは、次のとおりである。ト
めるお客様に対して、2005年にiGen3、2013
ランザクション分野では、より高速で大量の処
年 に は iGen150 を 提 供 し て い る 。 そ し て 、
理が求められるタイムクリティカルな業務用に、
2014年にはColor 1000 Pressの開発で培っ
前述の2800 IJCCFPS/1400 IJCCFPS、既
たさまざまな技術を、コンパクトな形で実現し
存 の 大 量 印 刷 業 務 用 に 650J Continuous
た 最 新 機 種 Versant
TM
2100 Press/80
Pressを導入している。
Feed Printing System / 495J Continuous
Feed、カット紙の大量処理業務にDocuTech
以上、ハードウェアを軸にプロダクションプ
180/155/128 HighLight Color、分散系処
リンターの歴史を説明したが、富士ゼロックス
理にD136/125/110 Printerがラインアップ
は、お客様と共にプロダクションプリント市場
されている。また、印刷分野向けとしては、カ
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
3
特集
最新デジタル印刷ソリューション
ラーカットシートでは、前章のプロダクション
プリンターの歴史で触れた、iGen150 Press、
TM
1400 Inkjet Color Continuous Feed
Printing Systemは、2013年9月発売の100m
2100/ 80
/分(1,312ページ/分相当)の高速フルカラー
Press以外に、100V電源を搭載し、さらにオ
インクジェット機である。100m/分機におい
フ ィ ス で の 利 便 性 を 上 げ た DocuColor
て世界最小幅の省スペース設計がなされている
5656Pをラインアップしている。また、カン
ほか、新設計のコントローラーにより生産性を
ププルーフ向けには、DocuColor 1450 GA
損なわない高速イメージ変換処理を実現してい
を提供している。ただし、他のカラー機もカン
る。なお、この新設計のコントローラーは前述
ププルーフに使用は可能であり、また、
の2機種においても標準コントローラーとして
DcouColor 1450GAもその用途を限るもの
採用している。
Color 1000 Press、Versant
ではない。印刷分野向けのモノクロプリンター
現在も、当社は、ドライトナーおよびインク
としてはDocuTech 135系の最新後継機種と
ジェットの技術を発展させているが、それぞれ
なるNuveraシリーズ(お客様の用途により
の技術の特長を活かす方向、つまり、ドライト
314ページ/分~144ページ/分の4機種が
ナーは、「画質・操作者の熟練不要(スキルレ
選べる)と生産性をそこまで求めないお客様用
ス)
・さまざまな用紙への対応(メディア汎用性)」
としてD136/125/110 Light Publisherを
を発展させる方向、インクジェットは「大量/
ラインアップしている。
高生産性・ランコスト・対応用紙サイズ」を発
このうち、3種類の新商品を紹介する。
TM
展させる方法で技術は進んでいる。これらの技
2100 Press(図1)は、2014
術の成熟に伴い両技術をベースにした商品のす
年5月に発売した、100ページ/分の生産性を
み分けは、そのプリンターで生み出される印刷
持つ商品である。印刷画質の安定性だけでなく、
物と共にさらに進むと捉えている。
Versant
用紙の走行安定性や用紙対応性、660mmの長
尺用や封筒対応など、ご利用になるお客様の業務
拡大を可能にする数々の技術を取り入れている
(詳細は、本号特集論文「多様化するデジタル印
刷ビジネスに新しい価値を届ける「VersantTM
2100 Press」を参照のこと)
。
Versant
TM
5. プロダクションプリンターによる
印刷物
プロダクションプリンターによって生み出さ
れるデジタル印刷物とはどのようなものであろ
80 Pressは、2014年10月に発
うか。初期のプロダクションプリンターではモ
売した新商品である。80ページ/分の生産性を
ノクロのマニュアルやそのカバー、企業活動で
TM
2100 Pressと同じ
利用されるお客様への提案資料、名刺、簡易な
技術を採用しつつさらにコンパクトなサイズと
販促物や店頭ポップ(商品傍に表示する広告)
なっている。大きな設置場所を取らないため、
などが代表的な印刷物であったが、技術の発展
印刷市場のプロユースからオフィスでの利用も
により、生産性と印刷画質が大きく向上した結
可能にした商品である。
果、プロダクションプリンターが活用できる印
持ちながら、Versant
刷物の種類や市場が拡大してきている。まず、
高画質を求められる印刷物としてはフォト(写
真)市場がある。近年のプロダクションプリン
ターはかつての銀塩写真と肩を並べる程画質が
向上しており、この市場からの要求に十分応え
ることができるようになっている。この市場の
デジタル印刷物は、家族写真などをとじた個人
フォトブック、プロのかたが発行される写真
集・画集である。特に個人フォトブックは、多
図1
4
Versant TM 2100 Press
人数がまったく別のものをオーダーする多品種
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
最新デジタル印刷ソリューション
少部数印刷の典型であり、デジタル印刷の得意
とするところである。一方で生産性が求められ
るのは、トランザクション市場である。トラン
ザクション市場では、初期のころの印刷物は、
前述の給与明細、金融業や官公庁から送られる
内容通知はがき、利用明細などのダイレクト
メールなどであったが、カラー化や画質の向上
により、内容を通知するための文字情報だけで
なく、商品やサービスの宣伝も兼ねてお客様へ
図2
国内の印刷市場の予測
A forecast of Japan’s domestic printing market
情報をお送りする広告の付いた利用明細書など
習慣の変化に伴う印刷物需要の変化、経済状況
に活用が広がっている。このような印刷物は、
などを勘案すると、印刷市場全体としては
トランザクションとプロモーションを合わせた
2012年から2017年にかけてはマイナス成長
ものとして「トランスプロモ」という呼称が付
し、2017年時点では約8兆円の規模になると
いている。同様に教材などのテキスト市場にお
予測している(図2左)。しかしながら、デジタ
いても、モノクロ印刷から、学習者の理解をよ
ル印刷市場だけに着目した場合、プロダクショ
り進めるためにカラー化やデジタルの特長を活
ンプリンターの活用範囲の拡大に応じるように、
かし、学習者それぞれの進度に合わせた、個別
2012年から2017年にかけて年率約5%で成
教材の印刷も行われている。
長し、2017年には約1.2兆円の市場になると
そして、高画質と生産性両方が向上したこと
予測している(図2右)。
により、ビジネスツールであるマーケティング
デジタル印刷市場を印刷物別に見た場合も、
コラテラルの市場や商品梱包用のパッケージ市
2012年から2017年までの成長率は、いずれ
場でも活用が広がっている。マーケティングコ
の印刷物もブラス成長をするものと予測してい
ラテラルとは、商品カタログ、商品/サービス
る。特にカタログ/マーケティングコラテラル
の関連情報を案内するような小冊子、マニュア
とダイレクトメール/トラザクション/トラン
ルやチラシなどである。商品カタログなどの
スプロモの2つの市場は、現状でも大きな割合
マーケティングコラテラルは、以前はオフセッ
を占めているが、印刷内容に対してお客様志向
ト印刷で必要最大量を印刷のうえ、在庫し、改
やカスタマイズ志向がより高まることが予測さ
版があった場合には、古いものは廃棄して新た
れるため、デジタル印刷においては大きな成長
に在庫するという運用であり、印刷コストや在
領域ということができる。また、書籍/雑誌/
庫管理コストの面で課題があった。これをデジ
新聞市場においては、電子化がさらに進むこと
タル印刷で対応することにより、必要な部数を
が予測され、デジタル印刷との相性はさらに高
必要なときに出庫できるようになる。パッケー
まることや、ラベル/パッケージ市場において
ジ市場においても、画一的な商品パッケージか
も限定品パッケージや名前入れのパッケージな
ら、多品種少量のデジタルならではの印刷が増
どでデジタル印刷の需要は高まるものと見てお
えてきている。
り、これら2つの市場も現在のテジタル印刷市
場では占める割合は低いものの、その成長率は
6. 国内のデジタル印刷市場
高いと予測している。
なお、2017年の約1.2兆円は国内デジタル
それでは、プロダクションプリンターの活用
印刷物の市場規模であったが、2017年に国内
範囲の広がりに対し、デジタル印刷は市場とし
デジタル印刷市場に投入されるプロダクション
てどのような動きとなるのかを見てみる。デジ
プリンターやその消耗品等のプロダクション商
タル印刷やオフセット印刷など含めた国内印刷
品の市場、いわゆる機器市場は、約1,000億円
産業全体の市場は、ここ数年の印刷市場自体の
以上の規模になると推定している。
トレンド、デジタル情報端末などの発達や生活
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
ところで、2017年のWorld Wideの印刷市
5
特集
最新デジタル印刷ソリューション
場と比べた場合、国内市場の特徴はあるのだろ
うか。World Wideの印刷市場全体の規模は国
内印刷市場全体の10倍前後の規模と見ている。
7. デジタル印刷最新事例
7.1
フォトブック
デジタル印刷市場についても、ほぼ同様の比率
大切な記憶としてとどめておきたいものの代
であり、World Wideのデジタル印刷市場は国
表は写真であろう。以前の銀塩写真のように写
内市場の約10倍の規模と見ている。また、デジ
真店に現像・焼き増しに出すという人はあまり
タル印刷市場の成長率という点で見ても国内の
なく、パソコンやフォトフレームなどで観賞す
デジタル印刷市場同様、いずれの印刷物の市場
るか必要なものは自宅でプリントするという人
においてもプラス成長すると予測している。し
が増えているのではないかと思う。ところが、
かしながら、規模感としては同じような傾向は
撮り溜めたデジタル写真をきれいにレイアウト
あるものの、印刷物に占めるデシタル印刷物の
された本にして手にしてみると、また新たな感
割合(デジタル化率)を詳細に見てみると、印
動が湧き上がってくる。フォトブックはそんな
刷物全体ではWorld Wide市場が25%であるの
価値を提供するビジネスである。このビジネス
に対して国内市場では15%と低い状態である
を成功に導くためには、きれいな写真を印刷す
と予測している。したがって国内のデジタル印
るためのデジタル印刷のノウハウを持つことは
刷市場はさらに伸びるポテンシャルを秘めてい
もちろんだが、受注からお客様の手元に届ける
るといえる。
配送までの工程、ワークフローを正しく構築す
以上、デジタル印刷の未来は明るいというこ
ることもビジネス成功の鍵となる。自社の工程
とを示してきたが、必ずしもデジタル印刷を行
能力を再検証し、写真データを含めたデジタル
うすべての会社の業績が伸びるかというとそれ
データが滞りなく流れるワークフローを構築す
ほど単純な話ではない。プロダクションプリン
ることで、無駄な作業や手間の省力化やそれに
ターを導入したにもかかわらず、印刷業務が思
伴う短納期化が可能となり、お客様に満足頂け
うように拡大していかないという会社も存在す
るフォトブックを提供できるようになる。
る。こういった状況の1番の要因は、デジタル
一般的にプロダクションプリンターは、オフ
One to One コミュニケーション明
細書
セット印刷機に比べて、面倒な操作や高度な習
印刷物による印象づけの事例としては、One
熟が必要なく、比較的簡単に使用を開始するこ
to Oneコミュニケーション明細書(図3)があ
とができる。しかしながら、印刷を行う機械を
る。明細書は、カード利用明細、通信販売の納
オフセット印刷機からデジタルプリンターに単
入明細、電話の利用明細など多種多様なものが
純に置き換えただけでは、印刷物を受け取るお
存在するが、これまでの明細書は、利用内容や
客様にはこれまでと同じものとしてしか扱って
金額がただ印刷されただけであった。また、こ
もらえない。これでは印刷市場全体と同じよう
れら明細書に同封されるお知らせやチラシは、
印刷の価値がどこにあるかの理解不足であろう。
7.2
にマイナス成長が待ち受けているだけである。
可変(バリアブル)印刷などデジタル印刷の特
One to Oneコミュニケーション事例を動画でご覧いただけます。
長を理解、活用し、受け取った人にこれまでに
ない価値を感じてもらえるような印刷物、つま
り喜びや感動を与えて印象や記憶に残るような
印刷物を提供していくことができる会社のみが
成長することができるのである。
図3
6
One to One コミュニケーション明細書
A One to One Communication bill
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
最新デジタル印刷ソリューション
万人向けに作られたものか、良くてもいくつか
和歌山県の田辺観光協会様と株式会社紀伊民
のパターンで作られたものであり、残念ながら、
報様は地域イベントと連動した地域情報サービ
そのお知らせやチラシに興味を喚起され次の行
スを展開している。スマホアプリと連携し「電
動に移るお客様は少なかったのではないか、そ
子スタンプラリー」を開催。現地を訪れた観光
もそも見てもらえてすらいなかったのではない
客はチラシや街中に設置した看板を撮影し、ス
かと推定される。これらの明細書のウィークポ
タンプを集めることでプレゼントに応募ができ
イントを解決するのが、One to Oneコミュニ
る。このような活動を通して、地域のデータベー
ケーション明細書である。
スを構築し、地域の事業者がそれを活用してい
本来、利用内容に応じて利用者が求めている
くことが最終目標とのことである。
情報は異なるし、それまでの利用履歴は、利用
株式会社神奈川新聞社様は、神奈川県内の商
者の嗜好が表れる。これらの情報を分析して必
店を紹介する新聞の連載記事を再活用すること
要と思われる情報やお勧め商品情報を抽出、明
で、地元の商店を活性化する活動を行っている。
細を受け取る一人ひとりにカスタマイズされた
地方新聞社は、その地域に関する情報を過去か
情報を明細と一緒に印刷する。この明細を受け
ら現在まで大量に保有しており、地域住民に
取った人は、まさに自分に合った情報を手にす
とって価値あるものも多く含まれている。その
ることができ、
「こんな情報をもらえるのであれ
ような新聞記事を、小冊子化して提供すること
ば次回も利用したい。」「こんな商品を探してい
で地域社会の振興を図っている。
た。」など、次の購買行動につながる価値を持っ
た明細書となる。
富士ゼロックス京都では、伝統文化を体感し、
後世に継承させていきたいという地域の人々の
思いを形にする手伝いを行っている。京都には
7.3
健康診断書
先人の技や教えを今に伝える古文書が数多く存
健康診断書にも変化が起きている。健康診断
在するが、それをデジタル技術により復元再製
書もこれまで、結果数値や判定結果が無機的に
することで、誰でもが手に取って伝統を体感す
印刷されたものであった。しかし、プロダクショ
ることができるようにしている(詳細は、本号
ンプリンターとデジタル印刷技術を活用するこ
特集論文「京都伝統文書復元プロジェクトとそ
とにより、自分の健康状態で一体何が問題なの
れらを支えるデジタル印刷技術」を参照のこと)
。
かわかりやすくグラフィカルに表示を行い、ス
マートフォンをかざすことでウェブにアクセス
する(印刷物からインターネットの情報へ/
Print to Web)機能を印刷物内に埋め込むこと
8. 富士ゼロックスの提供するサービス
前章でデシダル印刷の最新事例を紹介したが、
もできる。Print to Web機能により診断書に記
いずれにおいてもプロダクションプリンターだ
載できない情報や動画など、紙の診断書だけで
けがあれば成立する事例ではない。当社は、こ
は表現できない情報を提供できる。現代の健康
れらの事例に必要な、デジタル印刷の価値を向
診断書は、結果の通知だけでは終わらない、活
上させるさまざまなサービスや仕組みも提供し
用される診断書へと変化している。
ている。
本論文の冒頭で述べたように、
「印刷者にとっ
7.4
地域コミュニティーの活性化
てプロダクションプリンターおよびそのシステ
最近注目を集めている事例は、地域コミュニ
ムは生産財である」ため、プロダクションプリ
ティーの活性化で、デジタル情報とプロダク
ンターにとってトラブルによって生じる停止時
ションプリンターを活用するものである。地域
間は生産をしない時間となるため大きな問題と
に密着し、地域で必要とされているものを提供
なる。この問題を解決するサービスとして提供
することで、単なる印刷物提供者から地域活性
しているのがプロダクションリモートサポート
化の推進者として地域に貢献している、そんな
サービスである。本サービスは、インターネッ
事例がいま日本各地で起きている。
トを介してリモートサポートセンターに接続さ
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
7
特集
最新デジタル印刷ソリューション
れた世界中のプロダクションプリンターの稼働
築が重要であることを述べたが、当社ではデジ
データにより、各種の障害パターンを分析・蓄
タルプリントの処理業務全体の見える化や工程
積し、一台一台のプリンターの挙動に対して予
の効率的な運用を支援するためのデジタル印刷
兆診断、障害予測を行うことで、適切な予防保
ワークフローソフトウェア群、FreeFlow® デ
守を提供するサービスである。プロダクション
ジタル・ワークフロー・コレクションを提供し
リモートサポートサービスは、
「止めないサービ
ている。紙文書と電子文書を一元化し、プリプ
ス」としてご好評を頂いている(詳細は、本号
レス作業を簡単かつスピーディーに実現するド
特集論文「お客さまへの新たな価値提供「プロ
キュメント管理ソフトウェア、お客様の業務プ
ダクションリモートサービス」を参照のこと)。
ロセスをワークフローで自動化し、プリプレス
会社や印刷を担当する部門の規模が大きくな
作業を効率化するPDFワークフロー・オート
ると、プリンターの数だけでなくコンピュー
メーションソフトウェア、バリアブル(可変)
ターのモニターやプロジェクターなど連携する
データを活用した付加価値の高いドキュメント
機器の数も増えてくる。そのような状況で問題
をプロダクションスピードで効率的に出力する
となるのが色の統一である。たとえばプリン
ハイエンド・バリアブル印刷環境ソフトウェア
ターの印刷は光を反射して認識できる色シアン、
な ど で 構 成 さ れ て い る 。 FreeFlow® デ ジ タ
マゼンダ、イエロー、黒の各色掛け合わせによ
ル・ワークフロー・コレクションを利用するこ
り、またモニターは発光するレッド、グリーン、
とで、デジタル印刷のメリットを最大限に活か
ブルーの各色の掛け合わせによりさまざまな色
すことができるワークフローを構築することが
が表現されている。このようにそれぞれの機器
できる。
が基本としている色が異なるため、モニターで
販促用印刷物の運用に関して、必要なときに、
見たときの色とプリンターで印刷したときの色
必要な形で現場のニーズをタイムリーに反映し、
が違ってしまうという問題が起きる。また、同
販促活動のスピードアップを図りたいというお
系列のプリンターを使用していたとしても、使
客様に、物販促用印刷物の企画・制作・管理・
用場所が別々であれば、機械が使用場所の環境
活用のプロセスフローをワンストップで提供で
の影響を受け、またそもそも機械としての個体
きるSmart Promotionという販促物制作支援
差を持っているなど、同じ色味の印刷物が得ら
クラウドサービスも提供している。当社が独自
れないという問題が生じる場合がある。使用場
にデザインしたテンプレートにより簡単にオリ
所が遠く離れている場合、印刷物を突き合わせ
ジナルの販促物が制作でき、いつでもどこでも
て調整することも簡単ではない。このような色
販促物の参照・印刷が可能で、商機を逃さない
の違いが生じてしまう問題に対して、どこでも
販促物の活用ができる。また、いつ・誰が・ど
同じ色味が得られるようにできる、色の最適化
のように使用したかなどの利用状況を把握する
を行うカラーマネジメントのサービスを提供し
ことも可能で、次の販促施策に活かすことがで
ている(詳細は、本号特集論文「 RGBワーク
きる、といった特長がある(詳細は「富士ゼロッ
フローカラーマネジメントサービス」を参照の
クステクニカルレポートNo.23 2014特集」を
こと)
。
参照のこと)
。
前述のOne to Oneコミュニケーション明細
印刷物からインターネットのWebや動画な
書に活用されているような、ドキュメントを受
どのデジタルコンテンツに誘導する方法は、こ
け取る人がどのようなものを好んでいるのかを
れまでは、印刷物内に記述されているホーム
分析し、受け取る人に合わせた印刷物を生成す
ページアドレスを情報端末に手入力してもらう
るための「嗜好モデル」を活用したドキュメン
か、印刷物の内容とは無関係な幾何学的なバー
トイメージ分析も提供している(詳細について
コードを撮影してもらうことがほとんどであっ
は、富士ゼロックステクニカルレポートNo.23
た。これでは印刷物のデザイン性を損なうこと
2014特集を参照)
。
や次に何が起こるかといったわくわく感を引き
フォトブックの事例では、ワークフローの構
8
出せず誘導自体に失敗してしまうことが考えら
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
最新デジタル印刷ソリューション
行しつつある現在の環境下で、競争力を引き出
す切り札としてお客様に活用頂いている。
9. おわりに
本稿では、これまでのプロダクションプリン
図4
SkyDesk Media Switchの概念
The concept of SkyDesk Media Switch
ターの軌跡と現在のプロダクションプリンター
そしてそのプロダクションプリンターが生み出
れる。このような課題を解決するサービスとし
すデジタル印刷物を説明し、最新事例の紹介も
て 画 像 認識技 術 を 駆使し た SkyDesk Media
行った。市場の動向でも述べたように、デジタ
Switch(図4)を提供している。
ル印刷は今後も成長が期待される領域である。
これは、印刷物中の対象の画像を撮影するこ
とで、デジタルコンテンツに誘導することがで
今後も我々はプロダクションプリントビジネス
全体の発展に取り組んでいく。
きる技術であり、紙からクロスメディアの発信
を可能としている。バーコードのような無機的
なものを使用する必要がないため、利用者の興
味を大いに喚起できる新たなマーケティング支
援サービスとなっている。
以上述べたような色々なサービスや仕組みの
利用を検討されるお客様にとっては、最適なも
10. 商標について
z FreeFlow、Versantは、米国ゼロックス社
の登録商標または商標です。
z その他の商品名、会社名は、一般に各社の商
号、登録商標または商標です。
のを選択するのはときとして困難な場合もある。
自分の会社にとって本当に必要なサービスは何
か、何をすべきなのか、お客様からご相談を頂
くこともある。そこで、当社では、デジタル印
11. 参考文献
1) 吉岡東吾, 藤田伸郎, “プロダクションプリ
刷を経営の武器に高めるためのお手伝いとして、
ントビジネスの動向について”, 2014年度
バリュー・イノベーション・プログラム(VIP)
日本画像学会講演集, (2014).
の充実に取り組んでいる。VIPは、
「変革の共創」
「人材の育成」
「システムの構築」の3つの領域
におけるさまざまなサービスにより、お客様が
デジタル印刷を活用したビジネスモデルを確立
する支援を行うトータルサービスである。
「変革
の共創」の領域は、経営者の育成や事業課題に
対するワークショップなどを通じて、お客様の
事業戦略・営業戦略のシナリオを共に作り上げ、
変革の道筋を明らかにするお手伝いをするプロ
グラムである。
「人材の育成」の領域は、事業推
進者および営業担当者の教育やデジタル印刷を
筆者紹介
行うために必要な技術教育により、事業モデル
増田
博英
の強化を側面から支援するプログラムである。
総合事業計画部に所属
専門分野:事業および商品戦略
「システムの構築」の領域は、お客様の要求に
吉岡
合わせた個別システムの開発やカラーマネジメ
プロダクションサービス営業本部 営業計画部に所属
専門分野:事業戦略
ントサービスなどにより、無駄のない安定した
システム稼働を支援するプログラムである。
VIPは、印刷メディアがデジタルへと大きく移
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
藤田
東吾
伸郎
プロダクションサービス営業本部 営業計画部に所属
専門分野:機械工学
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SkyDesk Media Switchは画像認識技術を使ったクロスメディアサービスです。
スマートフォン/タブレットで紙から簡単に動画
などのマルチメディアコンテンツを再生できます。
(日本語のみ対応しています。Available only in Japanese)
画像認識
1.撮影する
画像検索サーバー
コンテンツサーバー
2.送信
画像認識アプリの
ダウンロード
画像、動画、音声、Web、
ソーシャルメディア、
マップ等
3.コンテンツ表示
企画→制作→活用→分析、
そしてまた企画というサイクルを効率的に実践し、改善していくために必要なツールをオールインワンで
ご提供します。
管理ツール
企画
ログ分析のフィードバック結果をもとに、
クロ
スメディアの活用アイデア検討に
お役立てください。
企画
制作
ウェブブラウザ上で動作し、
紙面にマー
クを付け、
印刷データを出力するツールで簡単
にコンテンツと紐づいた紙面を作成できます。
◀印刷物を配布
検索サーバー、
スマートフォンアプリ
ログ分析
コンテンツへのアクセス履歴をリポートでき、
分析結果のフィードバックが可能。
分析
活用
コンテンツ閲覧に必要なスマートフォンアプリ
(iOS、Android)
と画像検索サーバーも
合わせて提供。
検索
詳しくはSkyDesk Media Switchのサイトをご覧ください!
専用アプリで関連情報にアクセス!
「富士ゼロックス テクニカルレポート」は、App Store・Google Play から SkyDesk Media Switch のアプリ
(ダウンロード無料)をイ
ンストールし、
アプリを起動したスマートフォンで紙面の特定画像を撮影すると、各関連情報にアクセスいただけます。
*対象 OS(iOS):iOS 7.1, 8.0, 8.1 (15 年 2 月現在)
*対象 OS(Android):Android™ 2.3.x, 4.0.x, 4.2.x (15 年 2 月現在)
*アクセスできる動画のリンク先は、予告なく閉鎖される場合がありますので、予めご了承ください。
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