食育論 評価方法 香川雅春 [email protected] この講義から学ぶこと 1. 2. 3. 4. 5. 評価の意義を理解する 発育・発達の指標を理解する 肥満ややせに対する評価手法を学ぶ 日本における診断基準を理解する 評価の際の考慮点について理解する なぜ評価が必要? 実施 計画 見直し 確認 http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7a/PDCA_Cycle.svg/400px-PDCA_Cycle.svg.png 全ては現状把握から • 現在の状況について調べる事から始まる – 国内・国際比較 • 年次・性差・関連する条件(生活水準、疾 病など)で比較 • 平均値の把握と基準値の策定 • 対策や方針・健康教育の参考となる 評価の対象 • • • • • 発育 発達 身体能力 栄養状態 生活習慣 発育・発達の指標は ライフステージで異なる 新生児 (子宮内胎児発育遅延の指標) 1. 出生時体重 – – – – 低出生体重: <2,500g 極低出生体重: <1,500g 超低出生体重: <1,000g 出生時体格基準曲線と比べた評価 2. ポンデラル指数 – 体重 (g)/[身長 (cm)]3もしくは身長/体重1/3 3. 頭囲-腹囲比 4. 大腿囲-頭囲比 体重のみでみるか体格としてみるか • 体重を基準にした指標 – 10~90パーセンタイル ⇒Appropriate for Date (AFD) – 10パーセンタイル未満 ⇒Light for Date (LFD) – 90パーセンタイル以上 ⇒Heavy for Date (HFD) 板橋ら.日本小児科学会雑誌.2010 • 体重の基準に身長の基準 を考慮⇒体重では無く体 格⇒「大きい」や「小さい」 の表現を用いる 出産前に胎児の発育を把握 • 超音波測定から胎児の体 重を推定(推定胎児体重: Estimated Fetal Weight) • 式は2種類 1)EFW=1.07 x BPD3+3.42 x APTD x TTD x FL (オリジナル) 2)EFW=1.07 x BPD3+0.3 x AC2 x FL (日本超音波医学会の推奨式) • APTD =腹部前後径 • AC=腹部周囲長(エリプス法) • 約10%の誤差 篠塚.日産婦誌、2007 http://rinpun-ash.img.jugem.jp/20101219_1591667.jpg 発育・発達の指標は ライフステージで異なる 乳幼児・学童 1.年齢に対する身長 (発育不良の経験の有無) 2.身長に対する体重 (衰弱度) 3.年齢に対する体重 (発育不良の経験&衰弱度) 4.上腕周囲(MUAC) (たんぱく質・エネルギー低栄養 状態:PEM) 5.ローレル指数([kg/cm3] x 107) 6.カウプ指数([g/cm2]x10) ・BMI (kg/m2) 7.肥満度 8.皮脂厚総和 9.腹囲・身長比 国境なき医師団の「命のうでわ」 • 5歳未満の子供の急性栄養失調を概算で迅速 に判断する方法(MUAC) • 区分 – >135 mm 緑 (正常) – 125~134 mm 黄色 (栄養失調の危険あり) – 110~124 mm 橙 (中程度の栄養失調) – <110 mm 赤 (重度の栄養失調および死亡の危険あり) 国境なき医師団「栄養失調ガイド」 学校保健統計 • 統計法(昭和二十二年法律第十八号)第三条第二項の 規定に基き実施される学校衛生統計調査 – 明治33年の生徒児童身体検査統計が始まり – 昭和23年に学校衛生統計として再開 – 昭和33年の学校保健安全法の制定に伴い35年から 学校保健統計調査として実施 • 学校における幼児、児童、生徒、学生(満5歳から17歳) 及び職員の発育及び健康の状態+健康診断の実施状 況+保健設備の状況を明らかにすることが目的 • 幼稚園、小・中・高校&中等教育学校は毎年 • 特別支援学校、大学&高等専門学校は文部科学大臣が 指定する年 • 4月から6月の間に実施(学校保健安全法に基づく) 測定項目 • 発育状態 – 身長、体重、座高 • 健康状態 – 栄養状態 – 脊柱・胸郭の疾病・異常の有無 – 視力、聴力、眼の疾病・異常の有無、耳鼻咽頭疾患・ 皮膚疾患の有無 – 歯・口腔の疾病・異常の有無 – 結核の有無、心臓の疾病・異常の有無、尿、寄生虫 卵の有無、その他の疾病・異常の有無及び結核に関 する検診の結果 身長は遺伝子の影響を受けている • 遺伝子の効果を十分に発現できるか⇒生活習慣 • 両親の身長から子の身長の推定が可能 TH(目標身長) 男子 (cm)=44.5+0.376×父親の身長 (cm)+0.411×母 親の身長 (cm) TH(目標身長) 女子 (cm)=47.1+0.334×父親の身長 (cm)+0.364×母 親の身長 (cm) もし父親の身長が不明の場合: TH(目標身長) 男子 (cm)=99.9+0.492×母親の身長 (cm) TH(目標身長) 女子 (cm)=96.3+0.436×母親の身長 (cm) (Dommelen et al. Arch Dis Child, 2012) 日本人による研究結果: TH:男児(cm)=父親の身長(cm)+(母親の身長(cm)+13)/2+2 (±9 cm) TH:女児(cm)=(父親の身長(cm)-13)+母親の身長(cm)/2+2 (±8 cm) (緒方ら、日本小児科学会雑誌、1990) 骨の発達 • 骨の成熟度の評価 – 内分泌系疾患の診断 • 手のX線写真を用いる • 一般的に臨床で使用されて いる手法 – アトラス法:Greulich-Pyle法 (GP) – スコア法:Tanner-Whitehouse 法(TW2) • アトラス法⇒視察的方法 • スコア法⇒骨評点法 Bogan, 1988 第二次性徴の評価方法 • Tanner尺度:James Tannerによって発表 • 男女の第二次性徴の度合いを5段階で 評価 • 通常は医師によって評価されるが、個人 及びその保護者によって確認・申告され る場合もある 日本では標準体重を採用 • Percentage of Overweight (POW :肥満度)を使用 (体重 – 身長別標準体重) x 100 身長別標準体重 加藤ら. 小児保健研究. 2004 身長別標準体重は性別、年齢別 – (1) below -20% (痩せ過ぎ) – (2) -19.99% – 19.99% (平均) – (3) above 20% (肥満) • up to 30% (軽度) • up to 50% (中度) • 50%+ (重度) Adolph Quatelet(1842)によ るBody Mass Index (BMI) 徳永ら. 第9回日本肥満学会記録, 1988 Jackson et al. IJO, 2002 The Examination Committee of Criteria for Obesity Disease in Japan, Circulation, 2002 BMI基準値(子供用) これまでのカットオフポイント 1)85th & 95thパーセンタイル 2)85th & 97thパーセンタイル 3)Z-スコア(大体84th& 98thパ ーセンタイルに相当) 6カ国のデータから 作成された子供のための 国際的な肥満判定表(IOTF基 準) (Cole et al. 2000 BMJ) 2007年にはやせの判定基準も 発表されている(Cole et al. BMJ) 腹囲(ウェスト囲)および関連する指数 Ashwell and Hsieh. Int J Food Sci Nutr 2005 皮脂厚計測 • 全身の脂肪の40-60%が 皮下脂肪として蓄積 (Wang et al. Ann N Y Acad Sci 2000) • 頻繁に計測される部位 – 三頭筋皮脂厚 – 肩甲骨下皮脂厚 • WHO 2006データベースで も基準値を提供している • 国内ではアボット製のア ディポメーターが普及して いる 日本人から発表されている皮脂厚からの 肥満判定表(2部位)(1972) 軽度の肥満 肥満 極度の肥満 男性 女性 男性 女性 男性 女性 %BF (%) 20 25/30* 25 30/35* 30 35/40* 6-8歳 20 25 30 35 40 45 9-11歳 23 30 32 37 40 45 12-14歳 25 35 35 40 45 50 15-18歳 30 40 40 50 50 55 成人 35 45 45 55 55 60 *6-14歳までの女性における体脂肪率のカットポイントは25%、30%、35%と 決まっている JARD(日本人の身体計測基準値)にも計測項目は採用されている 現代の日本人に適用できる保証は無い 小児肥満の診断基準 • 18歳未満の小児で肥満度が20%以上、 かつ有意に体脂肪率が増加した状態 • 体脂肪率の基準値は以下のとおりであ る(測定法を問わない) – 男児(小児期全般):25% – 女児(11歳未満):30%、11歳以上:35% (朝山ら 肥満研究、2002) 小児肥満症の診断基準 • 肥満症の定義:肥満に起因ないし関連する健康 障害(医学的異常)を合併する場合で、医学的に 肥満を軽減する治療を必要とする病態(疾患単位 として取り扱う) • 5歳0ヶ月以降の肥満児で下記のいずれかを条件 を満たすもの – A項目(高血圧・肺換気障害・Ⅱ型糖尿病・腹囲増加な ど)を1つ以上有するもの – 肥満度が50%以上でB項目(肝機能障害・高インスリン 血症・高コレステロール血症・低HDL血症・高尿酸血症 など)の1つ以上有するもの – 肥満度が50%未満でB項目の2つ以上有するもの 小児(6歳以上15歳未満) メタボリックシンドロームの判定基準 A.腹囲 80cm以上 (注:小学生:75cm+またはWHtRが0.5+) B.バイオマーカー値 血中脂質(血液1デシリットルあたり) 中性脂肪120mg以上もしくは HDLコレステロール40mg未満 血圧 収縮期125Hg以上もしくは拡張期70Hg以上 空腹時血糖(血液1デシリットルあたり) 100mg以上 AおよびBのどれか2項目に該当=メタボリックシンドローム 香川靖雄「やさしい栄養学」 体力の評価 • 体力・運動能力調査が文部科学省によって行 われている • 統計法に基づいて昭和39年(1964年から)実施 • 全国の6歳から79歳の男女を対象としている • 年齢・学校段階別で測定項目が異なる • 実施時期: – 小~高校は5~7月 – 高校以上は5月~10月 • 平成11年度から「新体力テスト」を導入 体力・運動能力調査の測定項目 • 運動能力テスト – – – – – – – 50m走 走り幅跳び ハンドボール投げ 懸垂腕屈伸 ジグザグドリブル 連続逆上がり 持久走 • 体力診断テスト – – – – – – – 反復横跳び 垂直跳び 背筋力 握力 伏臥上体反らし 立位体前屈 踏み台昇降運動 • 新体力テスト(H11~) – 50m走 – ソフトボール投げ – 持久走 – 20mシャトルラン – 反復横跳び – 立ち幅跳び – 握力 – 上体起こし – 長座体前屈 H23年度体力・運動能力調査結果から • 新体力テスト施行後直近の2年間で向上が見られる • 昭和60年を基準とするとまだ平均を下回っている • 運動をしていない子供ほど体力・運動能力が無い(特 に女子で顕著) 文部科学省.H23年度体力・運動能力調査結果の概要および報告書 精神・運動・行動発達 • 乳幼児 - 精神心理発達(認識力・言語・社会性・問題解決 力・知覚・記憶) - 心理運動発達(粗大運動・微細運動・協調運動) - 行動発達(協調性・適合性・集中力・意欲・情動 など) • 早産・低出生体重児では精神運動発達に遅れ • 早産・低出生体重児でみられる学童期以降の精 神発達 - 注意欠陥多動性障害(ADHD) - 学習障害・学習困難症(LD) - 広汎性発達障害(PDD) 愛着(Attachment) • 特定の人物間における情緒的親和感 • 世代間で伝達される 1)乳幼児:母親・父親 2)幼児期~学童期:親族 3)青年期:特定の異性間 4)成人期:愛着機能の成熟 ⇒パートナー・子への愛着 • 愛着形成障害は発達障害を引き起こす可能性 - 反応性愛着障害 - 行動障害 - 摂食障害など • 母乳育児(オキシトシン・五感)が愛着を高める • スクリーニング方 - デンバーⅡ発達判定法 - 遠城寺式発達評価法など 乳幼児の 行動・発達評価法 • 発達検査法 - Bayley Scale of Infant Developmentなど • 行動評価法 - ブラゼルトン新生児行動評価法 - Dubowitz神経行動評価 • 知能検査(精神発達を定量評価) - 田中ビネー知能検査 - ウェクスラーシリーズ - K-ABC心理教育アセスメントバッテリー(認知行動評価) • 特異的発達検査法 - フロスティグ視知覚機能検査 - Visual Evoked Potential (Eye tracking) 知能検査 • 知能指数(IQ)・精神(知能)年齢・知能偏差値(ISS) などで示される • 本来は特別な教育プログラムが必要な学童を特 定するための手法として開発された ⇒人種の優位性や順位付などで誤用された • A型(言語性検査)・B型(非言語性検査)・C型(混合 型) • ビネー式とウェクスラー式 – ウェクスラー式では言語性や動作性などに区別可能 – 児童を対象にしたWISCと青年以上を対象にしたWAIS 知能検査 • 使用される検査の種類によって 異なる区分が提示されている 知能段階 非常に優れている 優れている 平均の上 平均 平均の下 境界線 知的障害(認知症) ウェクスラー式IQ 知的段階 130以上 120-129 110-119 90-109 81-89 70-80 69以下 最上(最優) 上(優) 中の上 中 中の下 下(劣) 最下(最劣) https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/0f/RavenMatrix.svg/220px-RavenMatrix.svg.png ビネー式IQ 141以上 125-140 109-124 93-108 77-92 61-76 60以下 栄養摂取に対する基準 • 日本人の食事摂取基準(2010年度) • 学校給食実施基準(H21施行⇒H25一部改正) 評価が適切に行なわれているか? 比較が適切に行われているか • 適切な対象者と比較しているか – 性別・人種・年齢・活動レベル • 時代の比較は適切か – 生活水準 • 同じ手法からの結果と比較しているか – EFWを出生体重標準基準値で比較 – 計測手法・使用した道具(法改正で起こりうる) 日本の学童は過去50年で増加してきた (学校保健統計) 身長 (cm) 6 7 8 9 10 11 12 男子 1950 108.6 113.6 118.4 122.9 127.1 131.1 136.0 2000 116.7 122.5 128.1 133.6 139.1 145.3 152.9 10.7 12.0 14.2 16.9 1950 107.8 112.8 117.6 122.1 126.6 131.7 137.3 2000 115.8 121.7 127.5 133.5 140.3 147.1 152.1 13.7 15.4 14.8 年代による差 (1950-2000) (cm) 8.1 8.9 9.7 女子 年代による差 (1950-2000) (cm) 8.0 8.9 9.9 11.4 Kagawa and Hills. Open Obesity J, 2011 • 体重も3㎏から14㎏(性別・年齢で異なる)増加 複数の項目の最大発育年齢が低下 15 14 Height-Boys Height-Girls Weight-Boys Weight-Girls Sitting height-Boys Sitting height-Girls Sub ischial-Boys Sub ischial-Girls 13 12 11 10 9 8 1950 1960 1970 1980 1990 2000 Kagawa and Hills. Open Obesity J, 2011 • 1950-1960年代にPVの発現年齢が急激に低くなっている • まずPV年齢は下肢長で最も低く、次に身長が低い • 1950-2000年までに全てのPV年齢が約2年低くなっている 女子の初潮時期が早まっている • 国際的な傾向として1~2 年早まっている • 日本:12.2ヶ月(2008) – 1997年以降横ばい http://www.coverbrowser.com/image/time/4057-1.jpg 第12回全国初潮調査結果 大阪大学大学院 人間科学研究科 児童生徒健康状態サーベイランス • 学校保健統計調査:戦後 の学童の健康状態の把握 を目的とした計測項目 現代の子供たちの健康状 態を反映しているか疑問 • 平成4年から文部科学省と 日本学校保健会によって 実施されている http://www.gakkohoken.jp/uploads/books/middles/d00135d4f8662c769c67.jpg 「ウェスト」の定義 日本で「腹囲」として使用されている定義 松村康弘 体脂肪計(事故防止マニュアル)より 2008年に報告されたReport of WHO Expert Consultationでは、上記の②をWHOが推奨する ウェスト計測部位としている 子供に対する「ウェスト」 • 複数の定義でウェストを計測 – 第12肋骨と腸骨の中間(手法M ) – 片側に傾いた際に目視できる折り 目(手法C) – 臍から4㎝上部(手法4) • 英国の1990年基準値と全てで 高い相関を示したが、手法4が 最もバイアスが少なく計測しや すかった Rudolf, et al. Int J Pediatr Obese. 2007 測定誤差を考慮できているか time 1 time 2 time 3 体組成・脂肪分布の計測手法 • 身体密度、体積、体水 分、骨密度などを計測 • CT・MRIで脂肪面積や異 所性脂肪を計測 • 組み合わせることでより 高い精度で体組成を推 定できる MRI写真:Prof. Goranの講義スライドより転用
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