015

匡習
急性前立腺炎より生じたと思われる肝膿蕩の 1例
笠井
利則
守山和道
上問健造
小松島赤十字病院
桜井紀嗣
泌尿器科
要旨
急性前立腺炎より生じたと思われる多発性肝膿壌の l例を経験したので報告する 。症例は 、4
7
歳男性。高熱が 3週間
8.
2Cの発熱、血液検査での
持続し 、頻尿等の排尿障害もあるため精査加療目的で当科紹介された 。初診時所見では、 3
0
著明な炎症所見、軽度の膿尿が認められた 。直腸内指診では前立腺に著明な圧痛があり、 KUB、尿道造影で前立腺部
7X1
2
0
1
0
1の結石陰影を認めた 。尿道結石症および急性前立腺炎と診断した 。また腹部エコ ー、腹部 CTで多発性
尿道に 1
肝腫痛を認めたため 、肝生検を施行し肝!
雌;虜と診断された 。その後、化学療法 にて炎症所見も改善し 、砕石術 を施行し
た。化学療法を 開始して約 1
0
週間後の腹部エコーでは肝膿傷は認めなかった 。
キーワード :尿道結石症、急性前立腺炎、肝膿蕩
初診時検査成績
はじめに
急性前立腺炎より生じたと思われる多発性肝膿蕩の
二 杯 分 尿 所 見 第 l尿] pH6.
5,蛋 白 (2+),
l例 を経験したので若干の文献的考察を 加 えて報告す
.
1/hpf
,
WBC35.
7/h
p
fo [
第 2尿] ;
尿糖(一 ),RBC7
る。
pH6.5,蛋白(1+),尿糖(一),RBC1
.8/hp
f
,
WBC
。
1
0
.7/hpf
症 例
尿細菌培養 :陰性。
r
m
r
l,Hb11
.8g/de,
4
Ht3
5.
9%,WBC1
7
9
0
0/m
n
1,PLT5
5.
3X1
0
/r
m
r
l。
4
末梢血液所見 :RBC3
6
5X1
0
/
患者 :4
7
歳、男性。
主訴 :発熱、頻尿等の排尿障害。
9
7
0年(19歳時)、虫 垂 炎。 1
9
8
6年 (
3
5歳
既 往 歴 :1
血液生化学所見 :Na1
3
4mEq/,1 K4
.5mEq/,1 C1
94mEq/,1 Ca1
O.1mg/ c
,
e
L BUN7mg/c
L
e,Cr
.O.
6mg/
d
e
,UA2.
8
n
沼/ d
e,P3.1
m
g/ d
e, GOT36IU/l
,GPT
時)、右尿管結石症。
家族例 :特記すべきことなし 。
4
1IU/,l LDH485IU/,l CRP26.8
6
4IU/,l y-GTP1
9
9
7
年秋頃に 肉眼的血尿を認めた ことがあ
現病歴 :1
m
g/d
e
。
りその後 、頻尿気味で あった 。 1
998年 1月末頃から高
熱
(
3
9t) が出現し、市販の風邪薬を内服していたが
画像診断
0日、近 医を受診した 。既往歴
解熱しないため 、 2月 1
などから尿路感染症に よる発熱が疑われ、 2月 1
2日
、
精査加療 目的に 当科紹介された 。
0
8
.
2C、血圧 1
2
6/7
3
0
1
m
H
g、脈拍
初診時現症 :体 温3
8
4回/分、整。
KUB (
初診時):左腎結石と腸脱 頚 部
前立腺部尿
道に 1
7X1
2
m
mの石灰化 陰影を認めた (
F
i
g
.1)。
UCG (
初診時) :前立腺部尿道の石灰化 陰影に一致
F
i
g.2。
)
して陰影欠損を認め、尿道結石症と診断した (
右腰背 部 側腹部に圧痛があり、直腸内診では 、前
立腺は、超栗実大 、弾性軟、圧痛が著明であ った。
治療 経 過
検査所見より尿道結石症に伴う急性前立腺炎と考え
VOL
.4 NO.
1 MARCH 1
9
9
9
急性前立腺炎より生じたと思われる肝臓蕩の 1例
69
メロペネム (
MEPM)1
.0g/日の点滴治療を行い、
4日目より解熱した 。 また肝機能異常を認めたため内
科に紹介し腹部 CT、エコー等を施行した。2月17日
、
腹部 CTで多発性肝腫癌を認めた (
Fi
g
.3)。画像上、
転移性肝腫蕩も否定できず、 2月19日、経皮的肝生検
を施行した 。病理組織結果は、多数の好中球を認める
のみであり多発性肝膿虜と診断された 。メロ ペ ネムの
点滴治療で炎症所見は軽快したため、 2月2
5日、経尿
道的腸脱砕石術を施行し た。結石分析結果はシュウ酸
カルシウム 88%、リン画変カルシウム 1
2%であった 。
(
F
i
g
. 1) 1
9
9
8年 2月1
2目、KUB
(
F
i
g
.3) 1
9
9
8年 2月1
7日、腹部造影 CT
多発性肝腫癌を認めた 。
(
内部 lowdensityで周囲淡く enhanceされた 。
)
術後経過 :炎症所見は改善 したが、腹部 CT、エコー
で依然として多発性肝!
陸揚を認め、肝機能障害もあ っ
たため、メロベネムの点滴治療を継続した 。その後、
腹部エコーで肝膿蕩のサイズ縮小を 認め、 3月17日退
院とな った。化学療法を開始して約 1
0
週間後の 4月27
日の腹部エコーでは肝膿壌 は認めなかった 。
考 察
肝!陸揚は、肝内に膿が限局性に集積した状態であ
2目、UCG
(
F
i
g
.2) 1
9
9
8年 2月1
初診日入院の上、内視鏡的に尿道結石を I
J
刺光内に押し
り、病原菌が脈管 を介する場合と、近接臓器の炎症か
ら直接侵入する場合がある 。発生原因により化膿性肝
膿蕩とアメーパ性肝膿療に大別される 1)-3)。本邦にお
戻し尿道バルーンカテーテル留置の緊急処置を行っ
ける肝!陸揚の 90%以上は、胆道系の細菌感染から生じ
た。結石は、約 1
.
5
c
m大で、黄色、表面不整であ った 。
てくる化膿性肝膿蕩である 2)
。感染経路として、経胆
70 急性前立腺炎より 生 じたと 思われる肝)j農場の l仔
J
I
KomatushimaRe
dCros
sHospit
a
lMedical
J
ou
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nal
道性 、血 行│
生、直達性、外傷性、特発性に大別できる 。
ルパペネム系抗生物質の点滴治療単独で治癒が可能で
.
iKleb
s
ielaお よび Pseudomona
sなど
起炎菌は E
.c
ol
あったと思われる 。若年者で 、体力があったことも治
のグラム陰性菌や嫌気性菌 な どの化膿性細菌である 。
療に よ く反応 した要 因であったと 思 われるが、逆 にそ
従来 、若年者にみら れていた急性化膿性虫垂炎後の二
陸揚を 引 き起こ した こ とを考慮す
のような患者でも肝l
次性肝膿傷は 、早期診断 と治療法の進歩により減少傾
ると 、今後とも稀だが日常診療を行うにあたり注意を
向にある 。一方 、免 疫不 全状態、 糖 尿 病 患 者 な ど の
する 必要があると思われる 。
c
ompromis
edhos
tに続発する肝膿壌の頻度が増加傾
。 また肝jJ農場は画像上特異的な所見が乏し
向にある 3)
文 献
く
、 他 の肝占拠性病変との鑑別 が困難なことがあ
る4)
。そのような場合、積極的にエコーガイド下穿刺
1)田中直英,荒川泰行 :肝膿療の起 こ り方と治療方
術を施行すべきである 。臨床 上 、起炎菌を推定して
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p
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ct
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apyを開始 しなけ れ ばならないことも多
法
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na 1 :6
8
-70, 1
997
2)柴田実, 三 田 村 圭 二 :肝 膿 蕩、med
i
c
i
na 3
く、起炎菌を考慮し た うえ で胆汁への移行 の良好 な抗
。小さい膿傷、
生物質を選択することが重要である 5)
5
12
-5
14, 1
997
3)越田容子,久米 光,岡 安 勲 :肝膿蕩一病理形態、
軽症例では抗生物質のみで治癒が可能である 。 また大
きい膿療に対してはエコ ーガイド下経皮経肝ド レナー
学一、臨床消化器内科
1
3:1
92
3
-1
927、1
996
4)鈴木滋 ,古井滋,森耕一 :肝膿蕩一画像診断一 ,
ジ、内視鏡的胆道ドレナ ー ジなどを施行することに
臨床消化器内科
1
3:1
9291
9
37, 1
996
よって、最近ではほとんどの症例が開腹術を施行する
5)青木ますみ,園井乙彦 :肝膿場
。 自験例 は、尿道結石症に伴う
ことなく治療できる 6)
その変遷一, I
臨床消化器内科 1
3:1
9
3
9
-1
947,1
996
6)吉田博,坂田研二,谷川久一 :肝膿蕩一 内科治療
急性前立腺炎より生じた 二次性多発性肝膿虜 (
血行性
感染)であると考えられ 、調べ得た限りでは症例報告
とその限界
を認めない 。 また血行性感染で あ るため、 胆汁への移
1
996
,臨床消化器内科
原因菌の特徴と
1
3:1
995-2003,
行より 血行性に 十分に 肝膿蕩への移行が可能であるカ
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1