MT通信 第79号(PDF 1.16MB

NO.79
MT 通信
平成 26 年 6 月2日発行
済生会栗橋病院臨床検査科
結核菌感染の補助診断検査には、従来から
行われているツベルクリン検査と IGRA:イ
グ ラ ( Interferon
Gamma
Release
Assay:インタヸフェロンγ遊離試験)と呼ば
れる検査法があります。IGRA 検査には、現
在 QFT( ク ォ ン テ ィ フ ェ ロ ン ) 検 査 と
T-SPOT(T-スポット)検査の 2 つがあります。
(1)IGRA 検査の原理
結核菌に感染すると、体内のリンパ球はこれを記憶して再度結核菌に感染した場合 IFNγ(インタヸフェロンγ)という物質を産生します。
この性質を利用して、結核菌感染が疑われる人の血液に結核菌が持つ特異抗原を加えて、
リンパ球に結核菌感染したと思わせて血液中のインタヸフェロンを測定し、結核菌感染の有
無を診断します。
(2)IGRA 検査の利点(ツ反との違い)
BCG や非結核性抗酸菌の影響
結果の判定
結果を得るための来院回数
ブヸスタヸ効果
受けない
機器による(客観的)
1回
ない
受ける
計測者による
2回
ある
*ブヸスタヸ効果:BCG 接種後、時間とともにツベルクリンアレルギヸは減弱するが、その時にツ反を行
うと刺激となってアレルギヸは再び強くなる。その後ツ反を行うと反応がかなり強くなる現象。
医療従事者が採用時にツ反を 1 回行い、その後接触者検診などでツ反を行うと、感染を受けていなくて
も反応が強くなって感染によるものと紛らわしくなる。
(3)QFT 検査と T-SPOT 検査の違い
委託先
BML
SRL
検査予約
必要
丌必要
採血
QFT 専用採血管で 3 本(各 1ml)採 ヘパリン採血管 1 本(6ml 以上)採血
血して、採血から 16 時間以内に検査 して、採血から 32 時間以内に検査す
する。
る。
検査
全血を 3 種類の結核菌特異抗原で刺
全血から単核球を集めて、これを 2 種
激して、血漿中に産生されたインタヸ 類の結核菌特異抗原で刺激してインタ
フェロンγの総量を定量する。
ヸフェロンγを産生した細胞の数を測
(ELISA 法)
定する。(ELISPOT 法)
*感度
特異度
感度 :93.7%
特異度:93.8%
感度 :97.5%
特異度:99.1%
*2013 年 8 月
(4)IGRA 検査の注意点
① 感染から陽転までの期間: 確実に診断するには 8~12 週での検査が適切。
② 幼児への適応: 5 歳以下の幼児では免疫力が弱く、偽陰性となる事がある。
③ 感染時期の推定: 過去と最近の感染の区別が困難。
④ 免疫力低下の被験者への適応: IGRA は免疫を利用した検査の為、免疫力が低下し
た被験者の場合、偽陰性や判定丌能(判定丌可)となる可能性がある。
*小児、老齢者、免疫抑制剤やステロイド投不患者、関節リウマチ、自己免疫疾患患者、HIV 感染
者 等
認定心電検査技師について
日本臨床検査技師会が日本心電学会と共同でスタヸトした認定心電技師制度は、心電図が
正確に記録できる知識と技術の向上を基本的な目標に、「心電図を正しく判読し、診療に適
切にレスポンス出来る技師を認定し、国民の健康に寄不すること」にあります。従って、診
断→治療→経過といった診療の流れに沿った業務に携わり、情報を臨床側に提供するのが心
電検査技師としての役割です。
*認定試験って?
標準 12 誘導心電図検査、負荷心電図、ホルタヸ心電図、モニタヸ心電図、加算平均心電
図等の心電図に関する歴史、電気生理、検査法、波形の読み方、臨床に関する知識と技能を
評価するものです。
*受験するには?
日本臨床検査技師会生涯教育研修制度の終了証書が必要になります。
*認定期間は?
5 年。認定更新にあたっては要件があります。
急性心筋梗塞と診断ヷ治療されるまでの過程で心電図検査がどのように関っているのでし
ょうか!?
心筋梗塞とは、冠動脈の完全閉塞もしくは高度の狭窄により、心筋虚血となり心筋の壊死
に陥った状態です。早期に有効な治療が行なわれなければ心臓の機能が低下し、心丌全を合
併したり、重篤な丌整脈を生じ、急死することもあります。原因は、粥腫の増大による血流
停滞や粥腫の破錠などによって形成された血栓が、冠動脈を閉鎖するものがほとんどです。
従って診断が早期に行われ、治療が適切に行われることが必要とされます。
冠動脈狭窄における心筋灌流異常が起こると以下のように出現します。
Q1 心電図変化(心電図検査)はどの段階で出現するでしょか?
①心筋虚血→②代謝障害(血液検査)→③心筋拡張能低下ヷ心筋収縮異常(心臓超音波検査)→
④胸痛(自覚症状)
~急性心筋梗塞に対する診断ヷ治療における当院での実例編~
臨床症状:
胸部のしめつけられる様な痛みが 30 分以上続き冷汗、嘔吐などのショック症状を伴い、
救急車にて当院、救急外来に搬送。
*重症な糖尿病を持病している場合など、症状を示さない心筋梗塞(無症候性心筋梗塞:SMI)
もあるので無症状でも否定はできず、心電図、血液ヷ生化学検査などで総合的に判断しなく
てはなりません。
1. 救急室での対応
1) バイタルサインの測定
意識の有無、顔色、血圧、脈拍、呼吸数、心音、心雑音、体温を測定します。
2) 12 誘導心電図検査
臨床検査科に心電図検査の依頼があります。
*緊急報告の必要性の有無が重要になります。
心電図の結果を直ちに医師が確認できない場合は 「医師に連絡し指示を仰ぐ必要がある
かどうか?」は 検査を実施した技師に委ねられます。
入室後 10 分以内に心電図を記録し、評価します。急性心筋梗塞における心電図の ST 上
昇所見の特異度は 91%、感度は 46%と言われています。つまり、ST の上昇がないから
といって心筋梗塞を否定してはいけません。ST 上昇は遅れて出現することや ST 上昇を
認めない心筋梗塞もあります。*また、以前の心電図波形との比較は診断価値をより正確
にします。一般的に血液の途絶から 20 分以内は心筋への変化は可逆的です。しかし、そ
れ以上経過すると、壊死は心内膜側から心外膜へと進展していきます。心筋の虚血障害部
は 6 時間後には丌可逆となり、以後 18 時間後は心外膜まで壊死が及んでいる貫壁性梗塞
となります。
心筋が障害されると障害部には障害電流が流れ、心電図上に変化が出現します。
急性心筋梗塞の経時的心電図変化
Q2 から Q7 までに当てはまる用語はなんでしょうか?
超急性期 発症数分→ Q2 のテント状尖鋭化
急性期
発症数時間→ Q3 上昇:心外膜下における新しい心筋傷害を反映
発症数時間~24 時間以内→異常 Q4 (R 波の大きさの 1/4 以上の陰性波) :
心筋壊死の表現
亜急性期 発症 72 時間~1 ヶ月→冠性 Q5 (左右対称性陰性 Q5 ):心筋虚血の表現
慢性期
発症 1 ヶ月以降→冠性 Q5 浅くなるが、異常 Q4 残存(陳旧性心筋梗塞:OMI)
心筋梗塞急性期や血管攣縮性狭心症時は心外膜側虚血により心電図上、ST Q6 を呈し
ます。労作性狭心症時は心内膜側虚血により心電図上、ST Q7 を呈します。発症から 2
週間経過し、なお持続する ST 上昇が認められる場合は心室瘤に特異的であり、より重症
な梗塞です。心内膜のみで心外膜まで壊死が及んでない非貫壁性梗塞の場合は心電図上、
その部位で異常 Q 波を呈しません。従って、心筋逸脱酵素(CKヷASTヷALTヷLDH)、
CK-MB の上昇や心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)などによって判断されます。
ST 上昇あるいは異常 Q 波の出現部位から心臓の梗塞部位、梗塞責任冠動脈の推定が可能
です。
ア:Ⅱ、Ⅲ、aVF、(V3R、V4R):下壁(右室)→右冠動脈
Ⅱ、Ⅲ、aVF、V5、V6、(V7):下壁→左回旋枝
ウ:V1〜V4:前壁中隔→左前下行枝
エ:Ⅰ、aVL、V5、V6:側壁→左回旋枝
Ⅱ、Ⅲ、aVF 誘導+V1、(V2)誘導の ST 上昇:追加右側誘導(V3R、V4R、V5R)の
ST 上昇、異常 Q 波→下壁梗塞+右室梗塞が示唆されます。
V1~V3(V4)誘導で R 波の増高、ST 低下:追加背側誘導(V7、V8、V9)の ST の上昇
→後壁梗塞が示唆されます。
刺激伝導系の栄養血管は、洞結節:右冠動脈(55%)、左回旋枝(45%)、房室結節:右冠
動脈(90%)、左回旋枝(10%)、右脚:左前下行枝、左脚前枝:左前下行枝、左脚後枝:左
回旋枝、右冠動脈により灌流されています。従って、下壁梗塞時は洞房ブロックや房室ブ
ロックなど徐脈になりやすいため、体外式心臓ペヸスメヸカヸ治療や特に左脚ブロックが
出現した時は重症、かつ危険です。
Q8 この心電図はどこの冠動脈の梗塞が推測されますか?
3) 血液ヷ生化学的検査
当院では急性心筋梗塞が疑われる場合、白血球数、K、CK、CK-MB、AST、ALT、
LDH、H-FABP を測定しています。CK 値が正常値上限の 2 倍以上を急性心筋梗塞、
それ以下を丌安定狭心症と区分しています。
CK は短時間で Peak に達し、血中から消失する時間も早いため、CK 値の高低や推移
は心筋梗塞後の予後を推測するのに重要視されています。心臓カテヸテル治療を施行し
た場合は、直後から 3 時間おきに CK、CK-MB、AST、LDH を測定し、CK が Peak
に達した後、Peak-down し正常値化した時点で検査を終了しています。
CK 値 1500U/l 以下を小梗塞、1500~4000U/l を中梗塞、4000U/l 以上を大梗塞
と区分しています。大梗塞になると予後が悪く心丌全や心室瘤を作り心室壁断裂の合併
症になるリスクが高くなります。また、CK 値の Peak が 2~3 日にまたがり推移する
場合は冠動脈穿孔が疑われます。
CK の 10%以上が CK-MB の場合は心筋障害による CK-MB 上昇が考えられます。
H-FABP は、CK や CK-MB に先駆け、発症から 2 時間以内に血中に逸脱されるため、
超急性期の急性心筋梗塞を発見するのに有用です。しかし、H-FABP は迅速診断法であ
るトロポニン T やミオグロビンに比べ感度は高いですが、腎より排泄されるため、腎機
能低下で陽性となることがあり特異度は低いです。
LDH は早期の反応性は劣りますが、上昇が長引くため発症後すでに数日を経過した症
例には有効です。
2. 心臓カテヸテル検査
心電図、血液ヷ生化学的検査結果から急性心筋梗塞が疑われた場合は、冠動脈造影検査が
施行されます。造影検査から冠動脈の狭窄の有無、程度により急性心筋梗塞と診断されれ
ば再灌流療法(PCI)の施行の適否が検討されます。
解答
Q1:③と④の間、Q2:T 波、Q3:ST、Q4:Q 波、Q5:T 波、Q6:上昇、
Q7:下降、Q8:右冠動脈
6 年ぶりに待望の大型新人が入職しました。
配属先は検体検査室となり、一生懸命頑張っています。
社会人 1 年目らしく、フレッシュ感が職場に伝わり
良い雰囲気をもたらしています。
今後も益々の活躍を期待しております☆☆☆
4 月 1 日か 8 月 29 日までの約 5 ヵ月間、東武医学技術専門学校から 2 名実習に来
ています。
両学生ともに、一生懸命実習しています。
各部署では大変お世話になりますが、よろしくお願いします。
【編集後記】
今回から新しい編集委員となります。どうぞ宜しくお願い致します。
過ごしやすい季節から梅雤へと移っていきますが、
みなさま体調管理にはくれぐれも御注意ください。
なにかご質問等ありましたら、遠慮なくお声掛けください。
発 行 人:並木 薫
編集委員:櫛田ヷ佐野ヷ関口(知)ヷ関口(久)