水素エネルギーシステム Vo 1 .3 6,N o . 3( 2 0 1 1 ) 特集 水素安全の基礎:水素の燃焼・爆 発の化学反応機構 越光男 東京大学工学系研究科総合研究機構 干1 13・8656 東京都文京区本郷 7 3 1 Fundamentalso fHydrogenS a f e t y ChemicalKi n e t i c so fCombustionandE x p l o s i o no fH2 MitsuoKoshi I n s t i t u t eo fEngineeringInnovation,S c h o o lo fEngineering, TheU n i v e r s i t yo fTokyo 7 3・1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8656 S e l f i g n i t i o nande x p l o s i o no fhydrogeni nac l o s e dv e s s e lcanbee x p l a i n e dont h eb a s i so f d e t a i l e dchemicalk i n e t i c s .F i r s t l y,achainbranchingchemicalk i n e t i c sofhydrogencombustion i so u t l i n e d .E x p l o s i o nl i m i t so fhydrogen a r ed e r i v e d from t h e chain branching k i n e t i c mechanism. Next,anupdatedd e t a i l e dchemicalmechanismi sp r e s e n t e d .R e s u l t so fflame speedandi g n i t i o nd e l a ytimec a l c u l a t i o n sa r ecomparedwithexperimentalr e s u l t s .I thasbeen shown t h a tt h e r ei s some d i s c r e p a n c y between simulated and measured mass burning v e l o c i t i e sofhydrogenflamesa th i g h p r e s s u r e( p > 1 0 a t m ) .P o s s i b l ereasono f t h i sd i s c r e p a n c yi s d i s c u s s e db r i e f l y .L a s t l y,d e t o n a t i o nc h a r a c t e r i s t i c so fhydrogeni sd e s c r i b e dandr e c e n ts t u d i e s ont h ed e t o n a t i o nl i m i ta r er e v i e w e d . Keywords:D e t a i l e dchemicalk i n e t i c s,E x p l o s i o nl i m i t,Burningv e l o c i t y, Detonation 1 . はじめに 10000 水素はもっとも単純な燃料であるが、その燃焼特性 は複雑である。断熱容器にH 2 J U 2= 2 1 1 (=当量比)の混 合気を封入して一定温度に保った時、ある条件で、は水素 は自着火して爆発する。爆発するかしなし、かの境界を初 期温度と初期圧力の関数として示すと図 1 .のようになる。 たとえば密閉容器の温度を必OO Cに保った場合、図中の A~ (圧力 1T o r r( =1 3 3 .3P a )近傍)では着火しないが 51000 、 h、 @ r . . . 3 ω 3100 弘 圧力を少し高くして図のB点以上の圧力にすると着火す る。この低圧における着火の圧力限界を爆発第一限界と 10 いう 。この第一限界の圧力は反応容器の大きさや容器壁 の表面状態によって異なることが知られている。さらに 初期圧力を上げていき C点以上の圧力になると再び着火 しなくなる。この境界を爆発第二限界としづ 。第二限界 は容器の状態によらず一定である。より高圧にすると再 -5- 400 450 A 500 550 γemperature/ o C 図1 . H2 I 02= 2 I 1 の混合気体の断熱容器中での爆発限界 水素エネルギーシステム Vo 1 .36,No.3( 2 0 1 1 ) 特集 ( D 点)。この高圧側の爆発限界は第三限界 とOH の二つのラジカルが生成する。反応促4)で生成し と呼ばれている。このような複雑な挙動は水素燃焼の詳 たH原子は反応低3 )で再びO原子と OHの二つのラジカ 細化学即識構を用いて説明することができる。本稿で ノレを生成する。これらの連鎖分岐反応により連鎖担体で は、最初にこうした水素の燃焼・爆発現象を理解し制御 ある O、H、OHラジカル濃度は指数関数的に増加する。 するための基礎として、水素燃焼の化学反応機構の概略 このラジカル濃度の指数関数的増加により「爆発」がお を述べる。ついで反応機構の最新の研究成果を紹介して こる。反応が開始してから、ラジカルが指数関数的に増 その未解決の問題点についても触れる。最後に水素爆轟 濃度がある値になるまでの期間、あ 加して、例えばOH の特性と爆轟の限界について解説する。 るいは急激な温度上昇が起こるまでの期間を着火誘導 び着火する 期と定義する。この着火誘導期間内での主要な反応は反 2 . 水素の反応機構の概略 応側)一鰯)であるが、反応鰯)の発熱と側、制)の吸 熱が打ち消しあうので誘導期間内では系の温度変化は 水素の燃焼反応は連鎖反応樹蕎で進行する。まず、開 小さい。爆発により系の温度が上昇するのは、ラジカル 始即芯により H、O、OHなどのラジカルが生成する。こ 濃度が充分に高くなって次のようなラジカノレ再結合反 の開始反応は上述した例のような密閉容器内の反応で 応が起こるからである。 H+02+M=H02+M ( R 6 ) は純粋に気相の反応でラジカルを生成する場合もある。 H+H+M =H2+M (R 7 ) 気相の開始反応としては H+OH+M=H20+M 側) 0+0+M=02+五 在 ( R 9 ) OH+OH+M =fu02+M ( R1 0 ) 的出 は反応容器の器壁での不均一反応もありうるし、あるい fu+02=H+H02 あるいは これらの反応でMはすべての衝突分子を表し、第三体 ( R 2 ) H2+02=OH+OH が考えられる。これらの反応はいずれも吸熱反応でその (官世dBod y )と呼ばれる。ラジカル再結合反応の発熱 活性化エネルギーは大きく高温においても遅い反応で 量は大きく、系の温度は急激に上昇する。また三分子反 )がより支配的であると考え ある。開始反応としては低1 応なので、その速度は第三体Mの濃度に、従って系の圧 られている。反応の吸熱量は反応(R1 )のほうが(R 2 )より 力に比例する。ただし非常に高圧になればその反応速度 R 1: 228kJ / m o l 、R2: 7 7 . 8kJ /mo l)、(R 2 )の反 大きいが ( ∞ 定数は圧力に依存せず二次反応となる(高圧極限)。反 応は軌道対称性保存則 ( W I dword-Ho 血l a n n 員Ij、反応に 応(R 6)-( R 9 )のような原子数の少ない分子の再結合反応 関与する電子の分子軌道の対称性は保存されなければ では漸下圧は1 0 ∞気圧程度である。従って水素燃焼系で、 ならないとする法則)を満たさない対称禁制反応なので、 の再結合反応については常圧の燃焼条件ではすべて三 活性化エネルギーは(R 2 )のほうが(R 1 )よりも大きい。 0 )は 分子反応(低圧極限)として扱ってよい。反応(R1 燃焼反応のような連鎖反応系では一般に開始反応の速 的頁域になることが知られている。し 数十気圧でFall-O 度は後続反応の速度に比して遅いので、開始反応の感度 たがって爆轟などの高圧燃焼においてはその速度定数 係数は極めて小さい。開始反応によって生成したラジカ の圧力依存を考慮する必要がある。 ルは匹、 02と次のように反応する。 H+02 =OH+0 0+H2=OH+H これらの再結合反応は連鎖担体ラジカルの数を減少 J1正ら8=70込J /mol 侃3 ) 6 )は重要であ させる連鎖停止反応であるが、特に反応(R J1島田 = 9.2kJ/mol 侭4 ) る。この反応の反応物は連鎖分岐反応低3 )と同じである 侭5 ) )ではラジカルが 2 1 固で、きるのに対し、反応 が、反応低3 OH+H2=H20+HJ1昂田 =-63kJ/mol / j .HT は温度 Tにおける反応熱である。反応低3 )および (R6)ではO、 OH~ こ比して反応性の低いH02 ラジカルが一 侭4)は一つのラジカルから二つのラジカルが生成する 個生成される。従って反応(R 6 )の速度が反応側)の速度 反応で、このような反応は連鎖分岐反応と呼ばれる。反 より速くなれば連鎖分岐反応が抑制されて爆発が起こ 応促5 )は消費されるラジカルの数と生成するラジカル らなくなる。反応(R 6 )の速度は圧力に比例するから、圧 の数が等しく、連鎖成長反応である。反応側)で生成し 力を高くしていくと反応鰯)の速度が側)の速度よりも たO原子は反応侭4)で消費されるが、反応侭4)ではH原子 速くなって爆発が起こらなくなる(着火しなくなる)領 - 6ー 水素エネルギーシステム Vo 1 .36,No.3( 2 0 1 1 ) 特集 域が存在する。とれが爆発第二限界である(図 1 .の点C)。 て 爆 発 し な い 条 件 は f(O)ミOで 与 え ら れ る すなわち爆発の第二限界は反応邸)と(R 6 )の速度のバラ f(O)=( d-2a)bcであるから爆発しない条件は d"?2a ンスで、決まっている。 固有値角勃庁による方法凶により、爆発第二限界におけ D であり、爆発限界は d=2αすなわち 2 k 3=九[M]である。 る温度-圧力の関係をより定量的に導くことができる。 理想気体の状態方程式から [M]=p/RTであるから、爆 反応初期の着火誘導期内での反応を考える。着火誘導期 発第二限界の方程式は においてはH、O、OH などのラジカルが生成するが、そ 、02 の濃度は一 の量は極めて少ないので、反応物で、ある H2 p =( 2k 3/k6)RT 定と近似してよい。また、開始即芯速度は遅いので無視 ( 4 ) して、反応低3 ト般.6)のみを考慮する。反応促D の速度定 数をhとして、 となる。 α=k3 [ ( ) 2 ], b=k4[1 l よ c=k5[llJ, d=k6[ ( ) 2 ] [ M ] 高圧での爆発第三限界も連鎖分岐反応と停止反応の とおくと、着火誘導期内で、はa 、b、c 、dは正の定数とみ バランスで決まる。圧力が爆発第二限界よりも増加する 、Hに関する微分方程式は なせ、 O、OH と、反応(R 6 )の速度も圧力の増加にしたがって増加する。 0 2 : 濃度 その結果、 H02ラジカルの生成速度が増加し、 H 侃 F ' 1i ・1 ‘ 、/ H 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1, ノ A H /Illailll1¥ ・ ¥ 0 仰 ¥1Illi-lite-ノ / ' t 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 t t ¥ 0 ト C ¥1IIIlli--ノ , a 寸 aα 0 /IllIll11111¥ 、 、 H Jbb 仰 ¥Illi--ιii ノ 0 d一 d /IllIll11111 が上昇してH02とH202を含む以下の反応が重要になる。 H+H02 →H2+02 ( R 1 1a ) H+H02 →OH+OH ( R 1 1 b ) H02+H02 と書ける。この式は線形常微分方程式 dx/d t= A xと書 けるが、その解は係新子初出の固有値を λ iとすると次式 →H202+02 ( R 1 2 ) H02+H2→H202+H ( R1 3 ) H202+M→OH+OH+M (R 1 0 ) H02から l l i 0 2が生成され、 H202 濃度が充分高くなると 反応(R 1 0 :( R 10の逆反応》によって OHラジカルが生成 で与えられる。 する。この反応は連鎖分岐反応であり、これにより連鎖 x=X(O)L;i叫 λ (J ) 反応が開始されて着火に至る。 ( 2 ) 0 図1 で5 5 0C以上の高温領域において、第二限界の延長 線よりも高い圧力領域の着火は連鎖分岐反応側)より 従って行ヂl 出の固有値が求められればO、OH 、Hラジカ 6 )のほうが速いため比較的穏やかな燃焼で、 反応(R ルの時間変化がわかる口行初出の固有方程式は 慢反応領域 ( s l o wr e a c t i o nr e g i o n ) J と呼ばれる。この 「 緩 等のラジカ 緩慢反応領域の着火誘導期内では、 H、OH ルの指数関数的な増加はみられず、 H02 、H202 の濃度が f(λ)=λ~+(α +b+c+d)λ?- +(bc+bd+cd) λ +(d-2α) b c=0 ( 3 ) 増大するのが特長である。一方、延長線よりも下の領域 は第二限界内なので激しい爆発が起こる。 の反 第二限界の延長線上付近での圧力領域では、 H02 b, c, dはすべて正なので、 λ>0においては となる o G, 応が爆発限界(綾慢反応領域と激しい爆発領域の境界) を決めるうえで重要になる。特に反応(R 1 1 a)と(R 1 1 b )は f( λ )は単調増加関数である。従って、 f ( O )<0であれ 連鎖担体である H原子を消費するが、反応(R 11 a)は連鎖 ばf(λ)は正の固有値を持つ。行列Aが正の固有値を持つ 停止反応であるのに対して反応(R 1 1 b )は連鎖分岐反応 場合、(沙式の解の形からわかるように、 O、OH 、Oラジ であり、この反応分岐比は爆発限界を決めるうえで大き カル濃度は時間とともに指数関数的に増加して爆発に ト敏.6)と反応 な影響を持つことが予想される。反応低3 至る。逆に行列Aが正の固有値を持たなければ、 O、OH 、 ( R 1 1a)、(R 1 1 b )のみを考慮して、 O、OH および¥H 02に対 Hは減表するかまたはある値以上には増加しない。従っ して定常状態法を適用して爆発限界を求めると [ 2 ] - 7ー 水素エネルギーシステム Vo 1 .36, No.3( 2 0 1 1 ) 特集 おらず、実験もしくは理論計算により得られているもっ p _2 k 3k 1 0 a+k1 0 b μ1]=一一=一一 RT k 6 2k lOa とも信頼性の高いと考えられる速度定数を選択した。特 ( 5 ) の反応機構と速度定数は高圧における燃焼特 にH+H02 性に対する感度が大きいので、量子化学計算による結果 となる。この爆発限界は「拡張第二限界J と呼ばれ、 実験的にも観測されている [ 2 ]。 [ 1 0 ]を用いて詳細な検討を行った。この反応は反応中間 体として H202を経由する一重項のポテンシャル曲面上 次に爆発の第一限界がなぜ現れるかl こついて考える。 分子拡散の速度は系の圧力に反比例するから反応系の で進行する経路(R 1 1 a)と、三重項曲面上で進行する 1 1 b )の経路のほかに、 ( R H+H02 →fuO+O 圧力が低下するとそれに応じて拡散速度は増加する。こ ( R1 1 c ) の結果、連鎖担体の壁への拡散が速くなり連鎖担体は表 の経路も存在する。従来、(R 1 1 c )で生成する酸素原子は 面反応によって消失する。この反応容器壁での表面反応 三重項状態 ( 3 p )と考えられていたが、三重項曲面上の経 が連鎖停止反応となり、低圧では爆発(着火)が抑制さ 1 0 ]。一方一 路は大きな活性化エネルギーを必要とする [ れる。爆発の第一限界が反応器壁のコーティングの状態 重項酸素原子O ( l D )が生成する経路は活性化障壁がなく、 などによって変化するのは、表面反応の速度が異なるた 1 1 c )の反応ではO ( l D )が生成する経路が支配的である ( R めである。 ( l D )の0 ( 3 p ) への 可能性が高い。系の圧力が高い時にはO 失活が速いのでO ( l D )の生成は系の燃焼特性に大きな影 3 . 詳細反応機構による燃焼特性値(層流燃焼速度と着 ( l D )とfuは極 響を及ぼさないことが確かめられたが、 O 火遅れ時間)の計算 めて速く反応するので低圧では大きな影響を及ぼす可 能 性がある。 d 前節に述べたように、複雑な水素の爆発限界の挙動は 水素の燃焼・爆発特性に大きな影響を与える他の要因 素反応の集合としての詳細反応機構で説明できる。また、 として、再結合反応の第三体効果があげられる。再結合 爆発限界の定性的な瑚卒のみならず、層流燃焼速度や着 反応の速度定数は、第三体Mの種類により異なる。たと 火誘導時間などの定量的な予測も詳細反応機構に基づ 6 )のM=H20の速 えば爆発第二限界を決めている反応(R wらは熱損失、 いて計算することが可能である。また、La のそれよりも一桁程度大きい。このM = 度定数はM=N2 運動量損失、あるいは火炎伸長といった外部からの影響 fuOの第三体効果はH20が主要反応生成物で、あること を受けない燃料固有の火炎伝播限界(爆発限界)を、 から系の特性を決めるうえで特に重要であるが、また系 CHJ Airの燃焼について詳細反応機構に基づし、て予測で に水蒸気が多量に含まれている場合の爆発限界を決め 3 ]。燃料固有の火炎伝播限界は、 きることを示している [ る上でも重要である。我々はM=H20 、H2 、02の第三 化学反応による熱発生と轄射損失との競合により起こ 体効果を詳細に検討し、新たな速度定数を提案した [ 9 ]。 る。また、自由伝播火炎の火炎帯厚さの理論計算に基づ 文献[ 5 ] [ 9 ]の反応機構の主要部分 (H、0、OHを連 臨住とし、った安全工学 いて、最小着火エネルギーや消炎E 鎖担体とする反応機構)の素反応とその速度定数はいず 上重要な特性値を定性的に予測することも可能と思わ れもほとんど同じであるが、特にH02 の関与する反応の 4 ]が、本節では詳細反応機構に基づいて着火遅れ時 れる [ 反応機構と速度定数の一部が異なっている。また、再結 間および層流火炎速度を計算した例を紹介する。 合反応における第三体効率の評価も各々異なっている。 水素の燃焼反応に関してはこれまでに膨大な量の研 これらの反応機構はし、ずれも広範な実験データに対し 究があり、詳細反応機構も数多く発表されている。ここ 関連の沿反 てテストされているが、用いられている H02 5 8 ]と、我々が特 で、は最近発表された四つの反応機構 [ 応や速度定数の違い、あるいは第三体効果の値の違いに に高圧の水素燃焼をターゲ、ットとして開発した反応機 もかかわらず、いずれの反応磯構でも実勝吉果をよく説 構[ 9 ]とを用いて燃焼特性値の計算を行し、実験値と比較 明できるとしづ結論が得られている。 する。 図2 .に衝撃波管を用いて測定された高圧 (33atm) で 我々の反応機構では、検証のためのデータに計算結果 を合わせるための速度定数のフィッティングは行って の着火誘導時間の実験値と計算値の比較を示す。図中の c t o n)、同 ( LLNυ、問(Ko n n o v ) 線は各々文献闘(Prin -8- 水素エネルギーシステム Vo 1 .36,No.3( 2 0 1 1) 特 集 及び [ 9 ] ( U T l 1 2 )の反応機構に より 得られた値であるが、 の範囲で測定し、10 気圧以上では圧力の増加 と共に質量 ほ とんど同 一 の結果となって い る 。 また図 3. ~ こ大気圧の 燃焼速度が低下することを見出 している。彼らはこれま H z l A i r の当量比の関数としての層流燃焼速度の測定値と でに提案されているさまざまな反応機構を用いて質量 計算値との比較を示す。図2 .同様に 4つの反応機構によ 燃焼速度の圧力依存性を検討しているが、高圧において る計算値も示してあるが、し、ずれの計算値も 一致した値 は反応機構の違いにより予測される燃焼速度が大幅に を示しており 、ほとんど区別できない。またこれらの計 違うこと、および幅広い当量比の範囲で実験で観測され 算値は測定値とも極めてよく 一致している。 これらの4 た圧力依存性を再現できる反応機構は存在しないこと つの反応機構はこのほかにも広範な実験結果に対して を指摘している。 この Burkeらの圧力依存性を我々の反 検証が行われていて、いずれもよく合っているという結 応機構で再現できるかどうかを検討した。結果を当量比 果になっている。したが って 、 実験値との比較か らはど 0 . 7の場合について図 4 . ( a )に、また 当量比2 . 5の場合につ の反応機構が正しいのかの判断はできなかった。 いて図 4 . ( b )に示す。 Burkeらが指摘しているように、 10 気圧以下ではいずれの反応機構による計算値も互いに 一致していて 、かっ実験値ともよく合っているが、 1 0 t O P=33唖t m 気圧以上では反応機構による違いが顕著に表れている。 予 fti - ‘ t p "' ln op 晋ロむ i n :l e : 0 .5% H2 : .1 持 母dcirc l傘 、 ~h 料2 応機構と Konnov~ こよる反応機構であるが、 Konnovの機 8F ~{ a ) 。 . 1 4 - 品目帽副担割問容認嗣渓ぷ品目一角一芯 HP 附. 当量比2 . 5の場合、実験値に比較的近いのは、我々の反 z ese - e e as a Za -z Nt 嗣?九対抗 0. 6 b、 亀 (U l Jg ︽ 0‘s n帆 , 時 L L ! ' I L Kむnl 10 v i 象 U ; M 10 00 f T fhz AU 撃波管による着火誘導時間の測定値と計算値の 図2 . 律I 比較。図中の線は文献 [ 5, 6, 7, 9 ]の反応機構による計算値 であるがほとんど同一の結果である。 0. 02 。 ‘ QQ g 10 20 30 4 0 5 0 60 70 s o 嘗 昏 1 0 0 Pla fm ~5(1 3 。 由 1 , 2 ~50 1 . 0 a圃 崎 、 担世 s ・・例 2 2 0 8 ω 必鰭 ~iangt四: K.:J\t'i‘ n et 副知的} ︽ HM 。 。 。 園田 ∞ 印 刷 綿、す鵠寄t at( 2 Q ) 50 enwoU 税込 ト i 2 J a l , t laim 四一即 100 nwAU guuh ‘ 吻 " が S 1 5 S iamond 輩、Do ザ< ; d y e t調 t .( 1 0 9 5 i 畠q uare5: , . Junge taL( 1 9 , ! . 18 ) 告, 2 . 2 φ 3 4 事 事 3九t冷 A l..t~} 弓Xf . I (i.れト; 0. 0 図3 . 大気圧における水素一空気の層流燃焼速度の測定 6 1 0 20 30 40 5 0 6 也 10 80 9荘 1 0 0 pJ減問 値と実測値の比較。図中の線は図2と同様の4つの反応機 図4 . 水素の質量燃焼速度の圧力依存'也 ( a ) He 希釈、 構による計算イ 底 当量比0 . 7 、 ( b ) A r 希釈、当量比2 . 5: 断熱次炎温度は(砂川 ともに 1600K 。丸印:実験値[ 1 1 ]、計算値:民主1白 白n[ , 司 最近、Burkeら[ 1 1 ]は水素の質量燃焼速度を 1-25 気圧 -9 LLNL[6],Ko n n o v [ 7 ], Da 吋8 [ 8 ], U T l 1 2 [ 9 ] . 水素エネルギーシステム Vo 1 .36,No.3( 2 0 1 1 ) 特集 什 D =h十D吋 構は当量比0 . 7 では実験値とのずれは大きい。 2 2 2 10 気圧以上での質量燃焼速度の減少は、圧力の増加に ( 8 ) 伴う反応速度の低下を意味しているがこれは高圧での r u ,ρ2 H02 生成の増加とそれに伴う反応(R 1 1 a ) (停止反応とし と書ける。爆轟特性値を求めるためにはD, P 2 , 山 , て作用する)の速度の増加によってもたらされることが の5 つの変数の値を決める必要がある。爆轟波前方の状 感度解析の結果からわかった。また 50 気圧以上では緩や 態量が既知であるとして、 ( 6 ) ( 8 ) 式に状態方程式を加え かに燃焼速度が増加するが、この増加は(R 1 2 )による ても式は4つなので、 5つの未知数を決めるためにはもう H 2 0 2 の生成と(R・ 1 0 )による OH 生成(縮通車鎖分岐反応) 一つ条件が必要で、ある。 CJ 理論では に起因する。 「実現可能な爆轟速度のうち、最小の爆轟が定常爆轟の 図4 .から明らかなように、すべての当量比にわたって 速度である J (CJ 仮説1 ) 10 気圧以上の質量燃焼速度を説明できる反応機構は今 と仮定する。この仮定には等価ないくつかの表現があり、 のところ宿生しない。この原因については現在も検討が 「定常爆轟は衝撃波背後で、局所マッハ数 M =U2/ぬが 1 続けられているが旬, 1 2 ]、検証のためには高圧 ( 2 0 気圧 になったときに実現される J (CJ 仮説2 ) 以上)の燃焼速度の実験値が必要である。 とも表現できる [ 1 3 ] 。この仮定のもとで導き出された爆 轟速度は数パーセントの誤差で実測値と一致すること 4 . 水素の爆轟と爆轟限界 が知られている [ 1 4 ]。例として表 Hこ当量比の也1 0 2 混合 気体の爆轟速度、圧力、温度、およびCJ 状態での主要な 前節で層流火炎速度の計算例を示したが、このような 化学種の濃度の計算値を示す。爆轟圧力は初期圧力のほ 音速以下の燃焼伝播は「爆燃J と呼ばれる。爆燃では火 ぼ20 倍程度になっていて、爆燃とは異なり圧力上昇が大 炎面前後の圧力変化は小さく無視できることが多い。一 きいことが分かる。ここで「α状態」とは爆轟波背後で 方、火炎伝播速度が音速以上の火炎伝播は「爆轟J と呼 化学平衡が成り立っている状態のことを指す。 ばれる。爆轟 (De 句n a t i o n ) とは、燃焼波が反応性媒体 中を超音速で伝播する現象、すなわち律津波を伴う燃焼 現象である。通常の律違波は非常に長い管中を伝播する と、管壁へのエネルギー及び運動量損失により減衰する。 一方、爆轟の場合は律津波背後の化学反応による熱放出 により損失が補われて減表しない。したがって、爆轟波 とは化学反応により自己維持(Se l f s u s 句泊)されている 衝撃波である。爆轟は律津波を伴うため、波面後方の圧 力は前方の圧力よりはるかに高くなり、爆轟が起こって しまうと被害は甚大になるため、爆轟速度、圧力などの 特性値を評価することは安全工学上、重要である。 表1 . 当量比H2 I 0 2 混合気の爆轟特性値 P l 。 +1 漁 1 .0 民Q 1 0 ‘G 立8 2 0 39 1 8 . 8 事 . p u 仁 ?t /医 D / ' 徽 L7 9 3 私1 H 0 . 1 0 7 0 . 0 8 9 0 . 0 8 1 0 . 0 6 3 な0 5 6 な0 2 容 4 8 合.台4 2 00 3 9 0 . 0 3 1 弘Q 鉱 5 5 4 3 3 2 7 7 3 0 0 3 6 8 3 4 2 7 1 5 2 8 0 3 2 9 3 合 8 4 1 2 をq u i l i b r i u mm o l ofracdαns 。 4 1百4 3 設6 8 唄 O .1 2 7 弘1 : 3 3 札1 3 5 札1 3 7 0 . 1 6 7 な1 6 5 弘1 5 7 0 . 0 5 6 0 4 . 9 0 0 5 1 札0 . 0 4 4 立4 9 2 0 . 5 1 7 弘5 3 ( } 弘5 6 7 O H 。 .170 ヴ む 爆轟特性値はChapman-Jouget の理論 (CJ 理論)によ 札5 , H) O 0 . 1 3 6 立1 5 3 0 . 0 4 2 0 ,5 8 5 り評価できる。一次元で伝播する爆轟波の速度をD、密 度 ρ、圧力p、エンタルビーh、流速をU として爆轟波前 爆轟波背後の構造はZe l ' d o v i c h 、vonNeumann 、D o r i n g 方の状態量を添え字1 で、後方を添え字2であらわすと、 等により研究され、割Dモデルと称される。衝撃波面か 質量、運動量、エネルギーの保存則は ら後方にz軸をとり、爆轟波の構造を調べるために保存 則( 6 ) ( 8 )を微分形で書き直すと以下のようになる。 P lD = P2(D-u2) P l+P ID2=P 2+P2(D-U ) 2 2 ( 6 ) 笠pu)=0 d z ( 7 ) -10- ( 9 ) 水素エネルギーシステム Vo 1 .36, No.3( 2 0 1 1 ) 特集 手 (p +仰 2 )=0 αz する(濃度限界)などの操作により爆轟が伝播しえなく ( 1 0 ) なる限界が観測される。このような限界は化学反応によ るエネルギー放出速度よりも熱伝導や摩擦によるエネ m t ( h + 4 ) = O ルギーおよび運動量損失の速度が大きくなるために起 ( 1 1 ) こると考えられる。 我々は爆轟限界を実験的に決めるために、損失項が大 ( 9 ) -( 11 ) 式から Uを消去すると M を局所マッハ数として 1 5 ]。 きくなる条件で、爆轟速度を測定する実験を行った [ 直径3、6、10mm のガラス管中を伝播する爆轟速度を圧 φ p M /__ ndQ . -=-: : ? 一( y 1 )~.~ 2 d z M -1" L . 5の場合につい 力の関数として測定した結果を当量比0 /d z ( 1 2 ) .に示す。圧力を下げていくと爆轟速度はGJ 爆轟速 て図6 度より低下していくが、その低下の度合いは管径が小さ を得る。 γ は比熱比、 Qは化学反応による発熱項である。 いほうがより大きい。 GJ 仮 説2より(1 2 ) 式の分母はGJ 点で零となり、有限の圧 速度からの低下は、 実験的に観測された爆轟速度の GJ 力を持つためには d Q / d z = O でなければならないが、こ 爆轟管壁への熱伝導による熱損失と摩擦による運動量 れは化学平衡を表している。したがって、先に述べたよ 損失の結果であると予測される。熱損失と摩擦損失を考 状態では化学平衡が成立していることになる。 うに GJ 慮した場合、 ( 1 0 ) およひ受u ) 式は次のように書きなおされる。 Jこ当量比、 1 気圧のHz / 02 混合気について、副Dモ 図5 fIu mp + p 付 一d z = O の点 ゐ d一 デルにより計算した爆轟波の構造の例を示す。 はまだ、化学反応が起こっていない衝撃波で、化学反応が ( 13 ) d g M仰一 D ¥Ilil--IJノ 知 一d 2 u 一2 + z = O の高い圧力の衝撃波はNeuman スノミイク L n に近づく。 /Ii11111¥ 川門 a t m)に漸近してし、く。同時に局所マッハ数は増加して 1 d 一位 圧力(表 1より 1 8 . 8 進行するにつれ圧力は低下して GJ ( 1 4 ) と呼ばれている。 ここでdは爆轟管の管径、 σは摩擦損失、 0は熱損失を l 部,1U Sの抵抗係数とを用し 1 表しているが、これらの項はB V4h ト て近似的に評価した [ 1 6 ]。 σ=;p(D-U)2/2 ( 15 ) u必2 0 . 0 3 な04 0 . 0 5 Zfcm 0 . 0 6 0. 0 7 O J l 8 、 ‘ , ノ 一 U一 t L O t s ﹁i l l i - 一一うん /aE D一 、、+ m h T /,‘、、 /E ﹄d cp ﹁Ill111L 、 ‘ , ノ u D ρ 、 、 ・ F 一 一 ρ U 11 一司ム O25 . ~ =O .316Re- ( 16 ) ( 17 ) ReはRe戸1 0 1 d s 数で、ある。損失項を含めた剖Dモデ、ノレl こよ .剖 Dモデルによる当量比のHz / 02 混合気体(p=l a t 叫 図5 る圧力の時間変化はこれらの式から次のようになる。 の爆轟計算の例 理論ではし、かなる条件でも これまでに述べてきた GJ ま= ( t F 2 ( ヲ 寸 ) ( 18 fIJ ¥Illi--Iノ 一 M 一γ ' ' + u -11- σb さくする(管径限界)、燃料または酸化剤濃度を小さく r円 実には初期圧を下げる(圧力限界)、爆轟管の直径を小 /Illi--¥ 発熱反応であれば爆轟波は伝播しうることになるが、現 9 ) ( 1 水素エネルギー システム Vo 1 .3 6,No.3( 2 0 1 1) 特集 ( 18 ) 式から 、損失がある場合の定常爆轟は化学反応によ 細かな煤模様が多数観測 されている。中段は当量比0 . 5 る発熱速度と熱お よび運動量損失の速度がつりあった で圧力がより低く ( 15 7To 町 ) 、 爆轟速度はGJ 速度の鈎% ときに実現さ れる ことが分かる。図6 .に損失項を考慮し 程度の場合であるが、ちょうど一つのみの煤模様が観測 たと きの ZNDモデルによる爆轟速度の計算値をフ。 ロッ されている。 これより少し圧力を低 くすると ( 155T O I T ) トしであるが実験値との一致はよい。この計算では化学 爆轟波が管内をらせん状に伝播するシングルスピンが 反応による発熱速度は前節で述べた詳細化学反応機構 観測 される(下段)。シングルスピンは安定な爆轟では に基づいて計算 している。図6 .からもわかるように、 なく 、長距離伝播すると減衰して爆轟波は消滅するとの ZND モデ、ノレの解はある圧力以下では存在しなくなり、こ 見解もあるが、我々の実験では爆轟管を 6 mにしても伝 の圧力を爆轟の圧力限界 と定義できる。このような限界 播速度は一定で、速度の減衰は観測 されていない。した 値は管径および濃度に対しても同様に定義でき、損失項 がって、シングルスピンも を考慮、 したZNDモテ、 ノ レは爆轟限界の簡便な評価法とし 持された超音速で伝播する燃焼波」であり、この意味で て用いることができると思われる。同様な実験と計算を 定常爆轟としてよい。 r(化学反応により)自己維 当量比1 および1 .5 の場合についても行なったが、いずれ の場合も実験値と計算値の一致はよかった。これらにつ 区. . ぶ 非 V1 γ J ト下 いて決定した爆轟の圧力限界を表2 .に示す。 匁 同 華 - 寸-川 ー ¥ 示 : 三 ヤγ -ぺ :ρ ゃバ -主主. ? マー . ,薄 Iず -寸唆予!認定 ベゾ 罪 a 圃 2300 2200 nunu nunU 4 ・ pEEh 図7 . d=6mmの爆轟管中のH2 f ' 02 混合気体で、得られたす す模様。上段:当量比 1、p=4 C 腕、D I T ,、中段:当量比 nu 0. 5、 P=1 57r o I T 、下段 :当量比0 . 5、p=155To 町。 1900 爆轟の三次元構造は数値計算により詳しく調べられ てしも。Ts u b o iら[ 1 7, 1 8 ]は詳細反応機構を組み込んだ、 三 1800 0 100 200 300 5 0 0 400 p( T o r r ) 次元流体力学計算を行い、シング、 ルスピン状態をシミュ レーション上で再現することに成功した。ただし爆轟限 図6 . 当量比0 . 5のH必 2混合気中の爆轟速度の測定値と 界を三次元シミュレーションで求めるためには粘性と 計算値の比較( 文献1 5より転記) 。曲線は計算イ 底 熱伝導を考慮し、詳 細化学反応を考慮、して N a v i e r- s ω k e s 方程式を解く必要がある。そのような試みは現在 表2 . H2J 02 混合気の爆轟の圧力限界 ( To 町) 中 ~ d= 3mm l村 m も継続している。 ~ d=lOmm 本節で、は一次元の ZNDモデ、 ノレに基づ、 いて水素の爆轟 0 . 5 1 4 9 7 8 5 5 限界を論じた。三次元構造を持つ爆轟波をこのような一 1 . 0 1 4 1 8 3 5 6 次元ZNDモデルで議論することは理論的には正しくな 1 .5 1 6 5 9 5 6 5 いであろう 。S 回 h l o w [ 1 4 ]はすべての一次元爆轟波は横 方向の膨張波あるいは無限小振幅横音響波の伝播に対 現実の爆轟波は一次元ではなく複雑な三次元構造をも して本質的に不安定であることを示し、 一次元GJ 流れは つことはよく知られている。爆轟管の管壁に煤をぬった 実験的にも理論的にも存在しないと結論している。この 薄膜をはりつけておくと、図 7 .に示すようなうろこ状の 場合、定常爆轟波の速度の実測値がなぜ理論GJ 速度に近 煤1 莫模様が観測 される。これは三重点と呼ばれる三重衝 くなるのか、としづ疑問が出てくる。この問題に対して 撃波干渉点 (Ma ch 軸構造)の軌跡 である [ 1 4 ]。図7 .の上 はいまだ十分な答えは得られていないようである。一方 段は当量比1で爆轟速度が GJ 速度に比較的近い場合で、 で、柘植 [ 1 3 ]はGJ 爆轟とはRankin-H o u g o n i o t関係を満 -1 2一一 水素エネルギーシステム Vo1 .36, No.3(2011) 特集 たす可能な解のうちでエントロピ一生成率を最小にす る爆轟であり、非平衡熱力学的にCJ 仮説は妥当であるこ と、また爆轟速度の決定には三次元構造はほとんど影響 を持たないことを示唆している。さらなる検討が必要で ある。 参考文献 1 . 三好明、燃焼研究 50 , 325,包∞8 ) 2 . M.A M u e l l e r , R .A Yet旬~r and F .L .勘 yer,I n tJ .Ch e m . 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